2017年5月23日火曜日

北朝鮮「危機」とは実際には何なのか



北朝鮮の核実験やミサイル実験を巡る米国と北朝鮮との間の緊張関係については、結局のところ、北朝鮮に核装備を認めてやるしか核戦争を回避する方法はないのではないかといった意見さえもが出てきている。核戦争は是が非でも避けなければならないという命題を国際政治の中心に置いた場合、北朝鮮の核武装は認めてやるしかないのかも知れない。その場合、北朝鮮が得意とする瀬戸際外交の勝利となり、残るは米国に到達することができる長距離ミサイルの開発に成功することだけだ。つまり、それは時間の問題だ。北朝鮮との対話を始めて、米国と北朝鮮との間での和平が成立しない限り、現行の緊張関係は続くことになる。すべては米国がどこで折り合いをつけるかによる。事態はさらに悪化する可能性が十分にある。

米国が北朝鮮に対する敵視政策を止めない限り、北朝鮮は核開発やミサイルの開発は止めないと言う。これは以前からの北朝鮮の持論だ。

米国が空母や原潜を送り込んでも、北朝鮮はミサイルの発射実験を継続しており、最近の実験には成功したようだ。当面は、米国の空母や原潜は朝鮮半島の海域に配備されただけであって、この段階では具体的な軍事行動をとるには至っていない。ある識者の解説によると、北朝鮮のミサイルの射程距離がまだ米国に届いてはいないことから、この時点で米国が最後通牒は発することはないという。

両国はいわゆる「我慢比べ」の段階に入ったかの観がある。しかし、我慢比べは政府高官や指導者らの個人的な性格に大きく左右されよう。そのことを考えると、一時的な安定が如何に脆弱なものであるかは容易に想像することができる。

ロシアや中国が国際的な舞台に登場しつつある今、米国は自国の覇権を堅持するためにはあらゆる策を使ってロシアや中国の台頭を妨害しようとする。中ロ両国に対する米国の一方的な行動を拾い上げてみると、貿易戦争、通貨戦争、情報戦争、サイバー戦争、経済制裁、等と切りがない。これらはもうかなり前からさまざまな形で実施されている。

米国の覇権争いに巻き込まれたロシアや中国はディープ・ステイツの宣伝機関である西側の大手メディアによって悪魔視され、あることないことについて世界中で喧伝され、米政府からはさまざまな経済制裁や脅しを受けている。かっては米国経済を支えていた地方の製造業の中心地は疲弊してしまって、今や、かっての繁栄を想像することもできない。それにもかかわらず、米国の巨額の軍事費は決して縮小する気配を見せない。

視点を変えて米国を観察すると、まったく違った米国の姿が浮かび上がって来る。たとえば、中国の電子商取引ビジネスの分野で大成功を収めている巨大企業「アリババ」の創始者、ジャック・マーはこのような米国の現状を「誰もあんた方の仕事場を奪ったわけじゃあない。あんた方は戦争に金を使い過ぎているんだ」と言ってのけた [1] これは重要な側面を的確に押さえているという意味で非常に興味深い発言である。米国の軍産複合体やネオコン政治家にとってはさぞかし耳が痛いことだろう。

北朝鮮危機の現状を読み解く切り口にはさまざまな要素がある。米国や韓国ならびに中国の、時には日本も含めて、政府高官が発する言葉に一喜一憂している昨今ではあるけれども、その中で私がもっとも興味深く感じるのは、米国にとっては北朝鮮危機は中国に対する包囲網を築くためのひとつの道具、あるいは、ひとつの場面でしかないという見方だ。

このことについてはさまざまな論者が述べてはいるが、本日のブログではポール・クレイグ・ロバーツが54日に報告した記事 [2] をご紹介したいと思う。


<引用開始>

北朝鮮「危機」はワシントン政府が組織化し、作り上げたものだ。北朝鮮にとっては1950年から1953年にかけて起こった朝鮮戦争が最後の戦争である。過去の64年間、北朝鮮は如何なる国に対しても侵攻をしたことはない。北朝鮮は米国によって防衛されている韓国や日本に対して攻撃を仕掛けるような戦力を持ってはいない。また、中国は北朝鮮が戦争を引き起こすようなことは絶対に許さないだろう。

そう考えた場合、メディア界のプレスティチュート各社やトランプ政権が進めている北朝鮮の悪魔視はいったい何なんだろうか?

この状況はイランを悪魔視した時の状況とまったく同じだ。「イランの脅威」については、ロシアとの国境沿いに米国が弾道ミサイル仰撃システムを設置するために、イランから発射されるミサイルを仰撃するためのものであるとの偽りの説明を米国が持ち出した。弾道弾仰撃ミサイル(ABM)は核弾頭搭載の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を仰撃、破壊し、目標物への到達を防ぐためのものだと説明したのである。

ワシントン政府はABM基地はロシアに向けて設置するのではなく、ヨーロッパをイランの核ミサイルから防護するために設置するのだと主張した。無頓着な米国人はこの説明を信じたかも知れない。もちろん、ロシア人はこの説明を信じようとはしなかった。イランはICBMも核兵器も所有してはいないからだ。米国の基地はワシントンによる第一撃に対するロシアからの報復攻撃を防ぐために意図されたものであることをわれわれはよく理解している、とロシア側は言明している。

中国政府も決して馬鹿ではない。中国の指導者は北朝鮮「危機」はワシントン政府が中国との国境沿いに弾道弾仰撃ミサイル基地を建設するための目隠しを提供するべく意図されたものであると理解している。

換言すると、ロシアと中国に対する米国からの(先制)核攻撃に対して両国から報復攻撃が起こった場合に備えて、ワシントン政府は自国を防護するための楯を構築しつつあるのだ。

ワシントン政府の取り組みに対する中国の応答はロシアに比べるとより強硬である。中国政府は韓国への米ミサイルの配備を直ちに中止するように要求した。https://www.rt.com/news/386828-china-thaad-south-korea/ 

米国人を煙に巻くために、ワシントン政府は弾道弾仰撃ミサイルを「高高度ミサイル防衛」(THAAD)システムと呼んでいる。中国は、このTHAADシステムが韓国と国境を接する北朝鮮とは何の関係もないことをよく理解している。北朝鮮をICBMで攻撃するなんてまったく無意味だと判断している。

韓国のTHAADは中国が報復攻撃を行う際に用いられる軍事施設に対して向けられる。THAADや弾道弾仰撃システムはロシアの核クルーズミサイルやロシア空軍に対しては無力であることから、ヨーロッパは完全に破壊されるであろうが、韓国に配備されるTHAADはロシアと中国に対して(先制)核攻撃を行う際に米国に対して行われる報復攻撃を最小限に抑えるための準備である。

如何なる帝国もその従属国の運命なんて心配することはない。ワシントン政府もヨーロッパの運命についてはこれっぽちの関心もない。ワシントン政府は世界に対する覇権の維持について興味を抱いているだけである。

最大の疑問点はこうだ。つまり、ワシントン政府が一方的に進めている政策や行動に対して邪魔になる二つの障害物を取り除くために、ワシントン政府がロシアと中国に向けて先制核攻撃を準備していることを両国はよく理解している今、両国はただ座って、(先制)核攻撃を待っているだけであろうか? 


あなたはどうする?

427日に私はこのウェブサイトで「ワシントン政府はロシアと中国に対する核攻撃を計画」と題する記事を掲載した。私の記事はこれこそがロシアや中国の指導者たちが自分で到達した結論であると報告した。私はロシア軍参謀本部作戦総局の副局長を務めるヴィクトル・ポズニクヒル中将の文言を引用したものであって、そのリンクを次に示す: https://www.rt.com/news/386276-us-missile-shield-russia-strike/

私のウェブサイトにやって来る読者は「マトリックス」という映画に現れる主人公とはまったく正反対である。つまり、私の読者は知的で、問題意識を持つ人たちであり、現実はいったいどうなっているのかを知ろうとする自薦の読者であることから、ワシントン政府がロシアや中国に対して核攻撃を計画しているとの私の持論については賛成できないと何人かが書いて来た時には、私はいささか不意を突かれた感じがした。私は明白に書いている。しかしながら、私が報告した内容がロシア軍参謀本部が下した結論ではなくて、私個人の意見であるかのように誤解した読者が何人かいたのだ!また、これらの読者は自分たちが、あるいは、私がどう思うかが重要であると思っているのには驚かされた。何が重要かと言えば、それはロシアや中国の指導者がどう思っているかが一番重要なのである。

私の記事を転載してくれている他のウェブサイトでのコメント欄を調べてみたところ、CIAやモサド、米国民主主義基金、ジョージ・ソロス、NATO、米国務省、等によって雇われて挑発的なメッセ―ジを発する投稿者たちやその他の連中が言うところによれば、彼らは私自身が核戦争を推進しようとしているとして私を非難しているのである。もちろん、核戦争を推進しようとしているのはワシントン政府である。そして、ロシアや中国の両国を待ち受けているのは米国からの先制核攻撃であると信じ込ませたのもワシントン政府である。

自信過剰に陥っているワシントン政府はこれがロシアや中国に恐怖心を引き起こし、両国政府はワシントンに服従するだろうと考えているのだ。

両国はそうするかもしれないが、私はそのような考え方に地球上の全生命を賭けようとは思わない。

米国や西側世界における教育は余りにも劣悪であって、最近教育を受けた読者らは、単純に言って、自分たちが読んだ内容を正確に把握することができないという状況も考えられる。さもなければ、ロシア軍参謀本部のスタッフが得た結論に関する私の報告を読んで、誤解するなんていったいどう説明したらいいのだろうか? 他にあり得る説明は次のようになる。つまり、コメント欄を持っているウェブサイトは真実を告げようとする者に関して中傷し、悪口を叩く者を雇い入れる機会や場を支配者層のエリートのために提供しているという構図だ。

コメント欄を持つウェブサイト上で私自身が知的なコメントに遭遇することはほとんど無い。ほとんどのコメントは自分の本名を名乗ったり、本物の電子メールアドレスを記載することは避けたいと思っている連中からのものだ。すべてのコメントはそのほとんどが偽名や偽電子メールアドレスの背後に隠れようとする無知な自惚れ者からであったり、雇われの中傷者からであったりする。

雇われの中傷者や無知な自惚れ者から中傷を受けるために私は記事を投稿しているわけではない。ウェブサイトが匿名者からの非難や悪口によって投稿者の価値を低下させることに加担しているとは無責任も甚だしいと私は考える。コメントをする者について彼らの本当の氏名や本物の電子メールアドレスについて確実に検証する場合を除いて、コメント欄は設けないようにするべきである。

本要件に満たないサイトは今後私の記事を転載することについては私はもはや許可を与えないことにする。

ワシントン政府は、ロシアや中国の政府が理解しているように、地球上の生命を悲惨な脅威に晒してる。これは非常に深刻な事態である。無知で自惚れ屋の馬鹿者共や雇われの中傷者らがワシントン政府の世界的覇権に向けた欲求によって地球上の全生命が直面するであろう悲惨な脅威について報告する少数の者を攻撃するためにインターネットを使う空間なんて提供してはならないのだ。


著者のプロフィール: ポール・クレイグ・ロバ―ツ博士は財務省の経済政策補佐官を務め、ウオールストリートジャーナルの副編集長を務めた。また、ビジネス・ウィーク、スクリップス・ハワード・ニュース・サービス、クリエーターズ・シンジケートのために記事を書いた。数多くの大学から招聘を受けた。彼のインターネット上での記事は世界中から注目を集めた。ロバ―ツ博士の最近の著書としてはThe Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the WestHow America Was Lost、および、The Neoconservative Threat to World Orderが挙げられる。

注: この記事に表明されている見解は全面的に著者の見解であって、必ずしもInformation Clearing Houseの意見を反映するものではありません。

<引用終了>


これで仮訳は終了した。

中国政府も決して馬鹿ではない。中国の指導者は北朝鮮「危機」はワシントン政府が中国との国境沿いに弾道弾仰撃ミサイル基地を建設するための目隠しを提供するべく意図されたものであると理解しているとの指摘は実に秀逸だ。

北朝鮮危機は米国の軍産複合体が中国に対する包囲網を確立するために活用しているに過ぎないという。とすると、その影響圏には韓国だけではなく、当然、日本も含まれる。しかも、日本は韓国よりも大きな経済力を持っている。今や、韓国へ売り込んだTHAADシステムを日本へも売り込む絶好のチャンスである。韓国に設置されたTHAADシステムのレーダーが今回の北朝鮮のミサイルの打ち上げを探知したと早速報道されている [3]。軍産複合体はこのチャンスを逃す筈がなく、THAADシステムの能力をそれとなく宣伝し始めたようだ。

日本では、自民党の安全保障調査会が敵のミサイル基地を攻撃する「敵基地攻撃能力」保有の検討を急ぐよう政府に求める提言をまとめたとのことだ [4]。米国の軍産複合体にコネを持つ議員らはこの機会を逃すまいと一生懸命である。

韓国や日本に対して次に売り込みたい武器は1ヶ月半ほど前に地中海上の米駆逐艦からシリア国内のシャイラート空軍基地へ撃ち込まれたトマホークミサイルであろうか。トマホークミサイルの1発の価格は約150万ドルだそうだ。

そして、その次は・・・と際限なく続くことであろう。

ところで、著者はTHAADや弾道弾仰撃システムはロシアの核クルーズミサイルやロシア空軍に対しては無力である・・・」と述べている。これはどのような事実を指しているのであろうか?

私が思いつく情報のひとつは、黒海で米イージス駆逐艦「ドナルド・クック」がロシアのスホイ24ジェット機の電子戦攻撃に遭って、最新鋭の兵器システムやデータ処理システムが遮断されてしまったという件だ。それはあたかもテレビのスイッチを切るかのようだったという。これはイージス艦に守られた米空母船団が持つ潜在的な脆弱性のひとつであるのかも知れない。また、ルーマニアにすでに設置され、来年ポーランドにも設置される弾道弾仰撃ミサイル・システムはイージス艦に搭載されている対空防衛システムの陸上版であることを考えると、これらの弾道弾仰撃ミサイル・システムはロシア空軍の電子戦によって機能麻痺に陥るかも知れない。(注: 詳しくは、本ブログで20141121日に投稿した『手も足も出なかった! - 黒海で米ミサイル駆逐艦「ドナルド・クック」を恐怖に陥れたのは何だったのか』を参照願いたい)

ロシアの核クルーズミサイルについては、私は何の情報を持ち合わせてはいない。

しかし、シリア紛争では、カスピ海上のロシアの艦艇から1000キロ以上も離れたシリア国内のイスラム武装兵力の拠点に向けてクルーズミサイルが打ち込まれた。その威力を考えざるを得ない。爆発物による弾頭を核弾頭に置き換えることがどれほど困難かは素人の私には知る由もないが、それほど難しくはないのかも知れない。とすると、地上発射型の中距離ミサイルを禁止した米ロ間の「INF全廃条約」に抵触することもなく、小型の艦艇に搭載できる中距離核ミサイルが現出することになる。その場合、カスピ海や黒海、地中海、あるいは、北海の海上にある艦艇からでもヨーロッパ各国へ向けて核弾頭搭載のクルーズミサイルを撃ち込むことが可能となる。

これらの二件についてはロバーツ博士はまったく別の事を念頭に置いてTHAADや弾道弾仰撃システムはロシアの核クルーズミサイルやロシア空軍に対しては無力である・・・」と述べているのかも知れない。その詳細は今後どこかの時点に判明することだろう。




参照:

1Nobody ‘stealing’ your jobs, you spend too much on wars, Alibaba founder tells US: By RT, Jan/25/2017, https://on.rt.com/80sx

2What the N Korean ‘Crisis’ Is Really About: By Paul Craig Roberts, Information Clearing House, May/04/2017

3在韓米軍のTHAAD 北朝鮮ミサイルを探知 = 韓国国防相:聯合ニュース、May/16/2017

4「敵基地攻撃」早期検討を  ミサイル防衛能力強化も - 自民: 時事通信、Mar/29/2017



 


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