どこの社会を取り上げてみても驚かされることがある。社会を構成する個人には素晴らしい見識を持った人たちや頭が下がるような行動をする人がたくさん居るにもかかわらず、そういった個人の集合体である社会あるいは国家は果たしてどうかと言うと、まるでなってはいないことがある。この落差はいったい何処から生じるのだろうか?
今の国際情勢、特に、シリア情勢とかウクライナでの内戦を見ながらそのようなとりとめのない思いに浸っている時、ひとつの記事
[注1]
が目についた。米国の大統領選に絡んだ記事である。
上記の疑問に対して直接の答えになるわけではないとしても、同じ感慨をもっている人がこの世の中に少なからず存在することを知って、何だか意を強くした。この記事をご紹介することによって読者の皆さんにも物の考え方や何らかの行動を起こす上でのヒントになれば幸いである。
本日はその記事を仮訳して、読者の皆さんと共有してみたい。
<引用開始>
本日の夕方のことだ。米民主党の全国大会 [訳注:全国大会は7月25日から28日までであったから、この記事は最終日の様子に関するものであろう] を見てから、私はここに何らかの説明をしてみたい気持ちに駆られている。あの党大会は私の友達の多くに冷笑をもたらしたに違いない。さまざまな言葉が私の喉を詰まらせ、胃袋を捩り、ひどくムカムカしている。これはもう吐き出してしまうしかない。私の心の中にある反米感情は今にも爆発しそうで、私の憤怒は理性を超えて何処かとんでもない場所に落下しそうな気配だ。私は半分がアメリカ人として生まれた。このことが、本当のアメリカ人である先住民を除けば、この国の誰と比べてみても私を「より以上に」米国人らしくさせていたのではあるが、今宵こそは、私はあなた方と同じアメリカ人であることを全面的に拒否したい。
私は半分がカナダ人だ。私は彼の地で育ち、アメリカ人の皆さんとはまったく違う価値観を持っている。そして、今晩、米国の軍国主義の偉大さを際限なく吐露し、自慢し、大袈裟に喋り、米国の軍事力を賞賛し、ISISを一掃することや米国は地球上で軍事的に最強の国家であることについて得意気に話す様子を目にし、オバマの戦争で息子を亡くした女性がオバマ大統領の肩で泣かせて貰ったことに感謝していると言った・・・というひどく無意味な物語を聞かされもした。こうして、今晩、私は心底からカナダ人であると感じている。国境越しにもたらされるガキ大将振りや彼らの傲岸さからは、その都度、些細ながらも有用な教訓を無意識的に学びとって来た。そして、彼らの教育の無さや他国の人たちが自国内に有している物でさえも何でも手に入れようとし、それ以外には何の理由もなしに他国を爆撃する権利を自分に与えてしまうことについても然りだ。さらには、彼らの金銭欲だ。これらすべてのことが、今、私の意識の表面に顔を現して来ている。
遠くに連なる山々の景観が私を自分の魂のどこかにある筈の良識と再び結びつけてくれるかも知れないという期待を抱いて、私は当地モンタナ州を流れるイエローストーン川の流域をやたらと歩き回って、今帰って来たばかりだ。しかし、何も見つからなかった。目に入る景色は何時ものように実に見事で、素晴らしいものであった。しかし、私の心の奥深くに横たわっている憤怒にはとても届きそうにはなかった。シリアで殺害された子供たちの光景。ヒラリー・クリントンはこれらの子供たちの殺害に手を貸したのだ。アフガニスタンやパキスタンではオバマのドローン作戦によって子供たちが爆撃の巻き添えとなって、バラバラになっている。リビアにおける身の毛もよだつような無秩序振り。イラクは荒廃の地と化した。米軍の介入によって至る所で死と破壊がもたらされた。ウクライナ、エルサルバドル、グアテマラ、チリ・・・と、枚挙にいとまがない。あなた方の国、米国はこれらの国々を爆撃し、必要最低限のやり方で市民生活を破壊した。
アメリカ人のすべてがウェルズ・ファーゴー・センターで軍隊に声援を送り、話し手が武力を表明する度に皆が喝采しているのを聞いた時、私はあなた方に嫌悪感を覚えた。あなた方の一人一人を憎んだ。私が子供の頃に教えられたことは本当なんだ。「あなた方」は敵なんだと直感した。「あなた方」の国こそ敵として警戒しなければならないんだ。「あなた方」は無知だ。そして、「あなた方」の金銭欲や自己満足ならびに労せずして得た自尊心にはまったく際限がない。
今宵、私はもうアメリカ人ではない。私は1648年にこの地に上陸した私の清教徒の先祖を棄却する。私は市民権を得た時にお祝いの式典で私が口にした文言を棄却する。私にはこの国でゾクゾクするような発見をした瞬間が幾度もあったが、私はそのすべてを棄却する。
あなた方は自分たちの銃や爆弾、兵士たち、数知れない軍部の指導者、戦争犯罪者、そして人を殺し、良心のかけらもないあなた方の最高指揮官について自慢しているのを聞いて、他国の市民はいったいどんな思いを抱くのだろうかなんてこれっぽっちも考えることはない。それらの高邁な言葉はすべてが残りの我々によって、我々のような非アメリカ人によって、さらには、我々の体の中のすべての細胞によって、完全に不快なものとして、常識からまったく逸脱したものとして受けとめられる。
あなた方は、今宵、テレビやコンピュータの前で釘付けとなっている。地球上で最強の国に属しているという思いから、あるいは、人殺しを続ける大統領に声援を送って、あなた方の気持ちは自尊心によって大きく膨れ上がっている。しかし、全世界からの反発にはまったくと言っていいほどに無知だ。あちらでも人を殺し、こちらでも人を殺していながら、あなた方は依然として誇りに思っているのだ。
私たちアメリカ人はどうしようもない馬鹿者だ!
<引用終了>
これで仮訳は終了した。
著者はカナダと米国の国籍を持っている。モンタナ州に住む女優であり、活動家でもある。映画「スーパーマン」ではスーパーマンの恋人役を演じていることから、彼女の知名度は高い。彼女は自分でも言っているように普通のアメリカ人以上にアメリカ人であると自負していた。その本人が「米国嫌い」を公に宣言したのである。彼女の言葉を辿ってみると、本人はもう居ても立ってもいられないほどアメリカ人を嫌悪していることが感じ取れる。
この著者が日頃から感じていたアメリカ人に対する違和感は民主党党大会の最終日に最高潮に達した。カナダ人の価値観をもって育てられた著者の目には、アメリカ国籍をも取得しているとは言え、アメリカ人が見せる行動は本質的にまったく受け入れられない。それはまったく異質のものであることが民主党の党大会の様子を観察することによって明白に浮き彫りされたのだ。
彼女はその理由として、下記のように述べている:
シリアで殺害された子供たちの光景。ヒラリー・クリントンはこれらの子供たちの殺害に手を貸したのだ。アフガニスタンやパキスタンではオバマのドローン作戦によって子供たちが爆撃の巻き添えとなって、バラバラになっている。リビアにおける身の毛もよだつような無秩序。イラクは荒廃の地と化した。米軍の介入によって至る所で死と破壊がもたらされた。ウクライナ、エルサルバドル、グアテマラ、チリ・・・と、枚挙にいとまがない。あなた方の国、米国がこれらの国々を爆撃し、必要最小限の手法で市民生活を破壊したのだ。
大統領選というお祭り騒ぎは国を挙げての政治的欺瞞のショウである。このショウには大勢の観客がいる。全米から集まった有権者のすべてを興奮の渦に巻き込み、テレビやコンピュータの前で党大会を観ている庶民を洗脳し、世界各国に対してさらなる軍事的覇権を確実にするためのひとつの演出の場として大統領選が用いられている、とこの著者は言いたいようだ。
特に、9・11同時多発テロ以降の米国の対外政策は失敗の連続であることを考えると、この著者が訴えたいことは私にもよく分かる。米国の有権者を深い眠りから呼び覚ましてやりたいのだ。
ところで、「米国の近年の対外政策は失敗の連続である」という指摘についてはもっと厳密に述べておく必要がありそうだ。
これは最大級の皮肉ではあるが、米国の軍産複合体にとっては9・11同時多発テロ以降の米政府の対外政策は大成功であったに違いない。東西の冷戦が終結してからというもの、軍需が低迷し、軍需関連企業の売り上げは大きく減退したと言う。しかし、これらの軍需企業は9・11同時多発テロを境にして盛況を極めるようになった。例えば、ジョージ・ブッシュ政権で副大統領を務めたディック・チェイニーが元CEOであったハリバートン社はイラク戦争を通じて大儲けをした。
しかし、中東での一連の軍事作戦、つまり、軍事的な大浪費のサイクルが一巡したかに見える今、次は何か?ロシアや中国を相手にする新冷戦が始った。中東諸国よりもはるかに大きな相手だ。多分、もっと長持ちがするだろう。
8億ドルを投じたミサイル防衛システムがルーマニアに設置され、今年の5月以降稼働している。これと同一のミサイル防衛システムが2018年にはポーランドにも設置される予定だ。これらの施設の設置・稼働後は改善に次ぐ改善が待っていることだろう。こうして、米国の軍需関連企業はほくそ笑んでいるに違いない。しかしながら、これらは巨大な氷山のほんの一角でしかない。核兵器の近代化では3桁も大きい1兆ドルの予算化が待っている。
しかし、これらの政策を人間中心に見ると、様変わりとなる。米国が採用した対外政策は明らかに大失敗である。しかも、最悪である。米国はあちらでも人を殺し、こちらでも人を殺している。世界にとっての最大の不幸は、上記に引用したカナダ人の女優が述べているように、米国人は自分たちのこの現状に気付いてはいない、あるいは、気付こうとしてはいないことであると言えよう。
米国社会の内部からの発言は今さまざまな形で行われている。もっとも大きな受け皿は独立心が旺盛な代替メディアだ。誤解を恐れずに言えば、残念なことには、大手の商業メディアはジャーナリズムの基本的な機能においては何の役にもたってはいない。何故ならば、大手メディアは自分たちの筋書き(ネオコン的、ネオリベラリズム的、あるいは、アングロ・ザイオ二スト的な思考)に逆らう情報は報道しようとはしないからだ。こうして、全米規模での情報コントロールが行われている。一般市民はそれに気付かない。あるいは、毎日の生活に追われていて、代替メディアから入手可能な情報を検索する暇なんてないのだ。
この前の投稿では米国内に住み、米国で仕事をしている4人のロシア人の発言をご紹介した。今回はカナダと米国の両方の国籍を持ち、カナダ育ちの女性が民主党の全国大会で感じた率直な印象をご紹介した。これらふたつの声の共通項は軍産複合体の利益のためにあまりにも偏っている今の米国の政策に対する批判であり、大多数の米国人の行動に対する失望であり、また、武力を背景に世界中で覇権を維持しようとするあまり、人間の尊厳をすっかり忘れてしまっている米国の対外政策に対する憤怒である。
私は米国社会がまったく駄目だと言っているわけではない。米国で17年間生活をしてみて、米国には日本社会にはないいい点がたくさんあることをその間に肌で感じた。しかしながら、ここでご紹介したカナダ人の意見のように、悪い点について例を挙げようとすると限りが無いのだ。残念ながら、今や、悪い点が目立ちすぎる。それが米国の今日の姿だ。
その最たるものはネオコン派政治家や多国籍企業ならびに巨大銀行が推進し、大手メディアが支援し喧伝している米国至上主義であり、ネオリベラリズムであり、米国の覇権を維持するための米軍やNATOの専横振りである。外交交渉をないがしろにして、武力に訴えようとする行動は余りにも傲慢である。その結果、最近の1年から2年の間に急速に拡大している究極的な懸念は米ロ間の核戦争である。
参照:
注1: My Fellow Americans: We Are Fools:
By Margot Kidder, Counterpunch, Jul/29/2016, www.counterpunch.org/.../my-fellow-americans-we-are-fools/