2020年9月24日木曜日

ロシア人はどうしようもない大バカ者だ

 

ロシアの反政府派の活動家であるアレクセイ・ナヴァルニーが毒殺されそうになったとする西側メディアの喧伝について、ここに痛快な記事がある(注1)。皮肉とユーモアをたっぷりと盛り込んでおり、中心課題である新冷戦においてひとつの局面を画することになるかも知れない、ニュース性が高い本件を巡って著者は痛烈な論評を発信することに成功している。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。

著者の狙いは新冷戦の中で繰り広げられる情報戦では、多くの場合、馬鹿馬鹿しい論理や偏見、情報の歪曲、フェークニュース、等によって大きな構図を持ったプロパガンダが構築され、巧妙な情報操作が延々と続けられていることを指摘することにあるような気がする。過去のいくつもの事例から言って、それこそが情報戦の本質であると言ってしまえばそれまでであろうが、情報戦の一局面を詳細に理解することによって今の世界を覆っている新冷戦の本質を一般大衆のために解剖し、病巣を明るみに出すことに役立つであろうと私には思える。

ロシア人は大バカ者だ。どうしようもない程に大バカ者である。連中は最悪の類の素人だ。

ステロイドを使用している無知な連中だ。何故だろうか? 

ひとつには、彼らが所有している、いわゆる超一級品と言われている生物兵器の「ノビチョク」が誰をも殺害することができない代物であるという点にある。このことについてロシア人は適切に認識しなければならない。たとえば、こういうことだ。スクリッパルが刑務所から解放された後に彼らがスクリッパルを殺害しようとした際、彼らはノビチョクをそこいら中にばら撒いた。ソルズベリーではベンチの上に、スクリッパルの自宅のドアーノブに、さらには、その地域のヤクの中毒者がゴミの中に見つけた香水の瓶にも。恐らく、スクリッパルの自宅内ではあらゆる場所にばら撒き、そのことを理由に英国当局は、当初、この非常に危険な建物は解体し、撤去するとさえ言った。(とは言え、スクリッパル家の猫とハムスターは生き長らえ、この事実はこの生物兵器が実に恐ろしい物質であると装い続けることが如何に無意味であったかを示唆している・・・)  

この一連の警告からロシア人たちは重要な教訓を学んだのではないかと誰もが思ったに違いない。

ところが、そうではなかった。連中はそういうことについてもまったくの大バカ者なのだ。

こうして、彼らは著名な「反政府主義者」であるアレクセイ・ナヴァルニーを毒殺することに決めた。

しかし、彼らはそれに失敗した。

またもや!

彼らはスクリッパルのケースとまったく同じ物質である「ノビチョク」を使用した(とドイツのメディアが言っている)だけではなく、ナヴァルニーが搭乗していた旅客機には緊急着陸を許し、FSB(ロシア連邦保安庁)は救急車がナヴァルニーを病院へ急送するのを邪魔するようなことは何もしなかった。

明らかに、FSBは彼らが殺害しようと思っている男が緊急医療措置を受けることを妨げるような権威さえも持ってはいなかったのである。 なんて事だ!彼らはナヴァルニーが病院へ送り込まれるのを妨害するために交通渋滞を引き起こすことだって出来た筈だ。

何と無能なことか!

さらに悪いことには、非難を受けているロシア人医師らはドイツ人の医師がナヴァルニーに対して処方したものとまったく同一のアトロピンを処方したのである。これらの医師はCIA/BNDのエージェントであって、ナヴァルニーの命を救おうとしたのではないかといった疑念さえもが念頭をかすめる程だ・・・

明らかに、FSBも大バカ者である。彼らは旅客機や医師たちに自分たちの言うことに従わせることさえもできなかった・・・

しかし、この話はさらに悪化する。ナヴァルニーが執行猶予判決の条件を破った事実やそのような人物は出国することは出来ないという事実があるにもかかわらず、これらのロシアの間抜け連中は彼がドイツへ飛行することを許してやった。その間、彼の体内にはノビチョクがいっぱいあって、バチャバチャと波打っていた筈だ。

ナヴァルニーを殺害するためにロシア人が行わなければならなかったことは何かと言うと、追跡が不可能ないくつかの物質のひとつ(たとえば、塩化カリウム)を選んで彼に心臓発作を起こさせることであった。

無知なFSBの連中はやぶれかぶれにナヴァルニーに交通事故を引き起こして、殺害することが出来たかも知れない。

しかし、彼らはそんなことさえも出来ないのだ。FSBはまったくの恥さらしだ!

ナヴァルニーは糖尿病を患っていたことから、彼を殺害することは非常に簡単だった筈だ。つまり、彼に処方する薬剤の量を間違えるだけで済んでしまう。それで彼は終りだ。バイバイ、ナヴァルニー!しかし、そうは展開せず、これらの間抜けな連中は今やすっかり悪名高くなっているノビチョクを使うことにしたのだ。

明らかに、ロシア人の連中はまったくの大バカ者で、もっとも無能で、この地球上ではもっとも間が抜けている!ロシア人の特殊部隊や生物兵器研究所は愚鈍な無能振りでよく知られている。決定的な証拠がある。

連中は英国人から新型コロナワクチンを盗み、それを危険なものにした。

間抜け者めが!

ね、そうだろう?!

まさに、(知能指数が著しく低いロシア人のもうひとつの特性であるが)、これは米民主党全国大会コンピューターに忍び込んで、ロシア人の名前に聞こえるような別名を至る所に残すこともなく、2016年の大統領選を掠め取ることさえもできなかったいわゆる「ロシア人ハッカー」の話のようでさえある。何てこった!連中が働くはモスクワの一般ビジネスが開業している時間帯だけであった。

皆さんにはっきりと言っておこう。ロシア人は驚くほどの大バカ者で、この地球上でもっとも間抜けな連中だ。

彼らの中では諜報や安全保障部門の高官や生物兵器の専門家ならびにハッカーたちは特に酷い。

能なしだ。誰もが!

さあ、皆で一緒に繰り返して言おう。ロシア人は大バカ者だ!ロシア人は能なしだ!ロシア人はとんでもない能なしだ! 

以上の状況は「著しくあり得そうなことだ!」

これで全文の仮訳が終了した。

ところで、著者の結びの言葉「著しくあり得そうなことだ!」は原文では「Highly likely!」となっている。201834日、英国のソルズベリー市のど真ん中にある公園のベンチで気を失っているひとりの年配の男性と若い女性が見つかった。英当局は二人はノビチョクによる毒殺が図られたものであると速やかに報じた。当時のテレサ・メイ英首相はこれはロシアの仕業であると言った。ところが、証拠を提示することはできず、彼女は「Highly likely!」と付け加えた。それ以来、この「Highly likely!」という言葉は証拠もなく何らかの事柄を主張する際に多用されることになった。

この引用記事の著者は自分が言いたいこととはまったく反対の事柄を主張することによって、ロシアの反政府活動家のナヴァルニーに関して西側のメディアが喧伝しようとしている内容を覆そうとしている。私の印象ではかなり成功していると思うのだが、読者の皆さんはどう感じておられるだろうか?


参照:

注1: Russians are the dumbest idiots on the planet!: By The Saker, Sep/04/2020






2020年9月21日月曜日

ロシア産ワクチンに対する西側からの攻撃は企業による人類に対する冷戦ではないか

 

917日の報道(注1)によると、アストラセネカ社が開発した新型コロナ用ワクチンの接種を受けたボランティアのひとりで、以前は健康体であった37歳の女性が今月入院となった。この出来事は大手製薬会社が開発した新ワクチンを2回接種した後のことであった。CNNが入手した社内報告書によると、このケースでは彼女は非常に稀な神経系統の疾病に見舞われ、背骨に炎症が起こる横断性髄膜炎を起こしていることが確認された。

同報告書はその女性の氏名を示してはいないが、彼女は6月下旬の第1回目の接種の後には何の副作用も見せてはいなかったが、8月の第2回目の接種後2週間が経過した頃に神経系統の異常に見舞われた。92日のジョギングの最中にこのボランティアは「(転倒はしなかったものの)突然つまずいた」。翌日、彼女は歩行困難、腕の無力感、両手の運動感覚の低下、頭痛、胸部の感覚低下、等を訴えた。彼女は95日に入院し、直ぐに横断性髄膜炎と診断された。

しかしながら、症状が出てから1週間足らずで、この女性は順調に回復し始めた。

「彼女の症状がたった4日前に始まったことを考慮すると、症状の改善は極めて迅速である」と報告書は伝え、「彼女の症状は改善している」と付け加えている。「彼女の強さと彼女が持っている機敏さが回復に寄与している。」 

本日までのところ、この臨床試験の参加者の間で同様の副作用に見舞われた者は他にはいない。

以前発行された「参加者情報シート」において企業側はひとりのボランティアが「予期しなかった神経系の症状に見舞われた」ことを認めていた。しかしながら、この出来事の後に臨床試験が世界中で中断されたにもかかわらず、アストラセネカ社は「この副作用はワクチンと関係している可能性はないと考える、あるいは、これがワクチンと関連しているのかどうかを示す確実な証拠は不十分だ」と述べた。企業側はその後英国とブラジルでの臨床試験を再開したが、米政府の新型コロナ用ワクチンに関する顧問の責任者、モンセフ・スロウイによると、米国においては米保健当局が臨床試験の継続が安全であると認めるまでは中断のままである。

以上がアストラセネカのワクチンで副作用が出たことに関して917日の時点で入手できる情報の概要である。

上記に示したアストラセネカ社の対応については頷けない点がある。たとえば、最近のもので「ロシア産ワクチンに対する西側からの攻撃は企業による人類に対する冷戦ではないか」と題された記事があり(注2)、これはワクチン業界で今起こっている出来事の詳細を告げる内容となっている。そして、これは西側の大手メディアが伝えようとはしない内容でもある。

本日はこの記事(注2)を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

新型コロナ用のワクチンとして開発された「スプートニクV」は西側の大手メディアによる執拗な攻撃に曝されている。潜在的に生命を救うワクチンの背景で皆が再結集するのではなく、いくつかの企業は人類全体を危機に陥れることさえも辞さないかのようだ。

結局のところ、人類の存続をコントロールする基本的な原則としてはふたつの事柄がある。そのひとつは個体発生に関わるものであって、個人の生存と関連し、これは種全体の生存にも関与する。そのことに関する高次弁証法的な議論としては、人類全体にとっては生存することであり、われわれ個々人にとっては自分自身の存在を確保し、然るべき健康を維持するために努力することである。将来世代が生まれ、生存していくための唯一の可能な方法は隔世遺伝によってそれらを継承していくことである。

現有の核兵器を用いた核戦争は人類のほとんどを壊滅することが可能である。さらには、広島原爆の100億倍にも匹敵する3千5百万トンものウランが依然として採掘を待っている。地球上から人類を抹殺するのには十分以上である。

しかし、理論的に言えば、致死性ウィルスはこれとまったく同じことを今成し遂げることが可能なのだ。

新型コロナの大流行は、今世界各国で人命を奪い、経済を破壊し、殺戮が続いており、その衰えは見せていない。疫学者の推算によると、全世界は現時点において100万人近くの死者(94万人)に見舞われている。ヨーロッパおよびアジア全体で人口当たりでもっとも多くの死者を出した国はベルギー、イタリア、スペイン、スウェーデンおよび英国である。スウェーデンにおける新型コロナによる死者数はスカンジナビアの周辺諸国の合計の約5倍となった。

関連記事: パイオニア的な存在であるロシア産の新型コロナ用ワクチンである「スプートニクV」では14%のボランティアが副作用を経験したと保健省が伝えた

ところで、全面的な核戦争による大量殺戮に対して平和的共存の努力において機能した特効薬は人間の英知、ならびに、強力な抑止力に加えて賢明な外交努力であった。ウィルスとの闘いにおいては、これまでのところ、世界で最初に公に登録された、新型コロナに有効なワクチンはロシア産のスプートニクVである。

これにもっとも近くにまで迫っている競争相手はアストラセネカのプロジェクトAZD1222であって、このプロジェクトではひとりの患者が副作用を訴えたが、その後、最近になって英国で臨床試験が再開されたばかりである。しかしながら、米当局は、米国人の患者の臨床試験を含めて、アストラセネカの臨床試験には待ったをかけた。米FDA当局が調査を行い、結論を下すまでは中断となった。

権威のあるランセット誌に掲載された記事では「スプートニクV」ワクチンの結果が報告され、臨床試験の参加者の全員が安定した体液性および細胞性の免疫応答を獲得したことが示されている。

英国とスウェーデンの資本が入っているアストラセネカ社ならびにそのワクチンプロジェクトを巡っては数多くの経済的利害関係者がいる。欧州委員会は、手始めに、3億回分のワクチン接種を行うために3億3千6百万ユーロの前払い金を支払っている。

そして、スウェーデンの利害関係に絡むのは単に件の製薬企業だけであるという訳ではない。ワクチンプロジェクトを進めている米国企業のノヴァヴァックス・インクもスウェーデンのウプサラに製造拠点を有している。

驚くには値しないが、スプートニクVに対するスウェーデンにおけるキャンペーンは人々を騙すばかりではなく、非常に強力であった。一般的に、スウェーデンの国立メディアは(資金の一部を公共予算から補填して貰っている)企業メディアと同様に明確な反ロシア姿勢を保っている。たとえば、新聞社のダーゲンス・ニーヘタル(DN)の医学関連の解説者、アミナ・マンゾールは彼ら(ロシア人)はワクチンを開発してはいないと主張している。これは単なるプロパガンダであって、ワクチンに関しては何の議論さえをもしてはいない有様である。

そして、ロシア駐在のDN特派員であるアンナ・レーナ・ローレンは、私の知る限りでは医学または疫学の分野では何の学術的な背景をも持ってはいないのであるが、スウェーデンのTV4に次のように喋っている。「このワクチンがどれだけ効力を持っているのか、それにも増して、どれだけ安全であるのかは極めて疑わしい。」彼女のインタビューでは彼女は実際のロシア産ワクチンについてよりもプーチン大統領およびソ連について何倍も多く言及している。この放送のニュースキャスターはこう締めくくった。「研究開発の世界ではこのワクチンに関する疑義が出ている。このワクチンは政治的理由、つまり、プロパガンダの道具としてロシアに出現したのかも知れない。」

関連記事: ロシアが開発途上国家に対して妥当な価格でワクチンを提供する中、裕福な国々は新型コロナ用として将来供給されるワクチンの量の半分を買い占めてしまったとオックスファムが述べた。(訳注: オックスファムは、世界90カ国以上で貧困を克服しようとする人々を支援し、 貧困を生み出す状況を変えるために活動する国際協力団体)

しかし、今や何から何までもが政治的な偏向に彩られているとするならば、ロシア産ワクチンに対して西側の政治家や研究開発の利害関係者が執拗に投げかける「疑義」こそがまさにそのような状況に陥っているのである。

最近のランセット誌にて数多くの学者らが連名で公開した「批判」の手紙はワクチンの結果を無効にするようなことは何も議論してはいない。彼らが問題視しているのは何と「データの発表の仕方」についてだ。

この「批判」は西側のメディアでは広く報じられ、米国に本拠を置くイタリア人研究者に率いられたグループが送付したものである。著者は主としてイタリア人医師らと幾人かの教授たちだ。彼らのうちのひとりはアンデルス・ビョルグマンであって、彼は集団免疫の議論で知名度が高い。

スウェーデンからの反応とは別に、スプートニクVに関する西側メディアには好意的な評も存在する。メディカル・ニュース・トウデイは「ロシアのワクチンは期待が持てるし、他にも新たに分かったことがある」と述べている。「このワクチンは深刻な副作用を見せずに抗体反応をもたらす」とCNBCの見出しが要約している。BBCさえもが見出しで「ロシアのワクチンは免疫反応の兆候を見せた」と前向きに報じている。

西側の業界ならびに彼らを代表する政府にとっては、ワクチン問題はひとつの競争であって、「新冷戦」のような敵対関係でさえもある。それは国民すべての健康のためにはどちらの技術がより優れているのかという問題ではなく、結局は自分たちの金儲けのためなのだ。彼らが今やっているのはスプートニクVに関して何の証拠も示さずに、推測の域を出ない疑義を挟んでいるに過ぎない。こうした行動は潜在的には生命を救うことになるかも知れないワクチンに関して自分たちの影響圏に住む人たちがこのワクチンを入手することに対して制約を加えてしまうことになりかねない。しかしながら、そのことに関して彼らは何の考慮も払おうともせず、ただそうしているのである。

それに代わって、関係各国はこの大流行を収束させることに協力し、人種や信仰および社会的地位には関係なくこの地球上の人たちを殺す疫病に対して皆が一緒になって科学的に取り組まなければならない。幾つかの国々の利己的な人たちはそれらの国々に住む人たちに対して自己破滅的な振舞いを強いていると言わざるを得ない。

実際には、ロシアのスプートニクVは新型コロナに対して有効に機能する世界で初めてのワクチンなのである。手元にあるワクチンの接種について政府間の協力体制を敷くことに余りにも多くの時間をかけることは皮肉にもウィルスと協力することになってしまう。それは全体としてはあたかも人間性に対する冷戦を強いるかの如くだ。

著者のプロフィール: マルチェロ・フェラダ・デ・ノリは公衆衛生科学、特に、疫学に関するスウェーデンの名誉教授であって、ハーバード大学医学部の元研究員でもある。

注: この記事に表明された主張や見解および意見は全面的に著者のものであって、必ずしもRTの見解や意見を代表するものではありません。

これで全文の仮訳が終了した。

引用記事には「スウェーデンにおける新型コロナによる死者数はスカンジナビアの周辺諸国の合計の約5倍となった」との記述があるが、スウェーデンでは、ある学者の指摘によれば、集団免疫がほぼ確立された模様である。その一方、スウェーデンの隣国、つまり、都市閉鎖を行ったノルウェーやデンマーク、フィンランドでは今第二波に見舞われている最中だ。つまり、死者数のデータはまだ流動的なのである。したがって、この時点でスウェーデンの人口当たり死亡率を周辺諸国のそれと比べるのは時期尚早ではないかと私は思う。

著者が指摘する「西側の業界ならびに彼らを代表する政府にとっては、ワクチン問題はひとつの競争であって、新冷戦のような敵対関係でさえもある。それは国民すべての健康のためにはどちらの技術がより優れているのかという問題ではなく、結局は自分たちの金儲けのためなのだ。彼らが今やっているのはスプートニクVに関して何の証拠も示さずに、推測の域を出ない疑義を挟んでいるに過ぎない。」という文言は秀逸であり、現状を正確に伝えようとしている。

さて、ここで「パイオニア的な存在であるロシア産の新型コロナ用ワクチンである「スプートニクV」では14%のボランティアが副作用を経験したと保健省が言った」と題された関連記事が報じている情報についても念のために覗いてみよう。

この記事はインドのヒンディスタンタイムズが報じたものだ。インドでは目下新型コロナの大流行(第1波)に見舞われており、感染者や死者数は増えるばかりであって、何時になったらピークに達するのかは分からない。9月21日現在、インドでの感染者数は5百50万人に近く、死者数は約8万8千人。インドはロシア産ワクチンの購入を計画しているが、当面はインド当局のゴーサイン待ちである。

この記事を抜粋すると、下記のような具合だ:

新型コロナウィルスに対してロシアで開発されたスプートニクVの接種を受けた後、7人につきひとりが副作用を訴えたとロシアの保健省が述べた。国営タス通信によると、ロシアのミカイル・ムラシコ保健大臣はすでに報じられている4万人のボランティアの中で300人以上が接種を受けたと言った。「約14%が脱力感や筋肉痛といった軽い症状を24時間にわたって経験し、時には体温上昇があった」と、モスクワタイムズによると、タス通信はムラシコ大臣が水曜日(9月16日)に述べた内容が報じられている。大臣は抗コロナウィルス・ワクチンの接種後に起こったこれらの症状は翌日には消えたと述べている。タス通信によると、「これらの合併症は指示書にも詳述されており、これらが起こることは予測されていることである」と彼は言った。ボランティアらはアデノウィルスをベースにして開発された本ワクチンの二回目の接種を最初の接種の21日後に受けることになっている。スプートニクVワクチンの最終臨床試験は今月の始めにモスクワで開始された。

上記の抜粋によると、スプートニクVの安全性については現時点ではまだ最終結論は出ていない。とは言え、少なくともアストラセネカ社のワクチンとロシア産のスプートニクVのワクチンの両者について当面入手可能な情報が出揃った。これで、どのような情報について今後も追跡をするべきかが分かったと言えよう。アストラセネカのワクチンとは違って、スプートニクVでは厳しい副作用は確認されてはいない。最終的な評価をするには今後実施されるスプートニクVの2回目の接種の後に報告される最終結果を待たなければならない。

最終的には、ワクチンの開発に当たって許容される副作用の程度と範囲に関しては第三者の専門家による客観的な説明が欲しいところである。効能や安全性に関して最大限の透明性を確保しなければならない。本来ならばWHOがその役割を果たさなければならない立場にある筈ではあるが、WHOの専門家の間には製薬業界の利害関係を背負った人たちが多いとも言われている。今や、誰を信じたらいいのかを判断することは極めて難しい。

一言で総括すると、ロシア産ワクチンを敵視する西側の製薬業界が当面見せている動きや批判は多分に自分たちの金儲けが動機となっていると言っても過言ではない。この現状は人類全体の健康を向上させるという観点からは極めて非生産的であり、あまりにも利己的過ぎると言わざるを得ない。偏った情報を巧妙に流すことに長けた西側の大手メディアについては油断は禁物である。少なくとも私はそんな風に思う。


参照:

1:  AstraZeneca vaccine volunteer developed spinal inflammation & ‘rare neurological condition’ after two doses – report: By RT, Sep/17/2020, https://on.rt.com/aqkb

2: Are Western attacks on the Russian Covid-19 vaccine a corporate cold war against humanity?By Marcello Ferrada de Noli, RT, Sep/17/2020, https://on.rt.com/aqk5






2020年9月15日火曜日

核戦争 - 思考実験

 

822日のフェースブックに下記のような拙文を掲載した:

「ハル・ノート」:

私にとっては毎年8月は太平洋戦争に関する歴史を読み漁る時だ。今年も例外ではない。

米国民の多くは1941127日(現地時間)にハワイの真珠湾に停泊していた米艦隊に対して行われた日本軍の攻撃は宣戦を布告せずに行なわれた、破廉恥極まりない奇襲攻撃であったとして理解している。

しかしながら、その後、歴史的な公文書や資料が公開されるにつれて、新たな真実がわれわれ一般人にも理解されるようになってきた。

米国の戦史作家であるJohn Tolandの著書「Infamy: Perl Harbor and its aftermath(1986年刊)は今でも貴重な情報源である。彼は膨大な資料を駆使して、真珠湾の奇襲は「作られた奇襲」であったとはっきりと述べている。その背景を大雑把に言えば、ルーズベルト大統領は日本海軍が真珠湾を攻撃してくることを事前に知っていながらも、ハワイの現地司令官にはそのことを伝えようとはしなかった。ルーズベルト大統領にとっては欧州へ参戦が重要な政治課題であって、米国の参戦について国民の民意を大幅に変え、参戦に向かわせるにはハワイに停泊する艦隊を犠牲にする価値は十分にあったのである。そして、それは図星であった。

今日、私はウィキペディアで米国が日本に示した最後通牒であると言われている「ハル・ノート」に関する記述を覗いてみた。「ハル・ノート」とは真珠湾の攻撃よりも11日も前(1126日)にハル米国務長官から駐米野村大使に手交された交渉文書のことである。日本側はこの文書を受け取って、121日に開催された御前会議で日本政府は米国に対する開戦を決意した。

ウィキペディアには膨大な量の情報が収録されている。その中には上述のジョン・トーランドの言葉もあった。非常に興味深い内容であるので、その部分だけ下記に抜粋しておこうと思う:

ジョン・トーランド

「実はハル・ノートの内容については、日米間に悲劇的な誤解があった。ハルのいう『シナ』には満州は含まれず、だいいち彼は最初から日本による満州国の放棄など考えていなかったのである。ハル・ノートは、この点をもっと明瞭にしておくべきだった。満州国はそのままとさえわかれば、日本側はあれほど絶対に呑めぬと考えはしなかったであろう」[472][473]

「筆者は東郷外相に近かった数人に、ハル・ノートが『シナ』の定義をもっと厳密にしていたらどうだったかと質問してみた。・・・佐藤賢了は、ひたいを叩き『そうでしたか!あなたのほうが満州国を承認するとさえ言ってくれれば、ハル・ノートを受諾するところでしたよ』と言った。・・・賀屋(興宣)は、『ハル・ノートが満州国を除外していれば、開戦決断にはもっと長くかかったはずです。連絡会議では、共産主義の脅威を知りつつ北支から撤兵すべきかどうかで大激論になったでしょう』と答えた」[474]

つまり、これは日本側がハル・ノートをより厳密に理解していたならば、太平洋戦争を始める必要性はなかったかも知れないということだ。しかし、不幸なことには歴史はそのようには展開しなかった。日本は敗戦という悲惨な結末を招いただけではなく、戦後75年が経過した今でさえも負の遺産に苦しめられている。実に大きな皮肉である。

戦争には常に不確実性がついてまわり、時にはそれは一国の将来を大きく左右する決定的な要素ともなり得る。何らかのご参考になれば幸いである・・・


前置きが長くなってしまったが、戦争では誤判断が常に起こる。

戦争には情報の不完全さ、誤解、誤判断、妄想、航空機の故障、等があって、それらの要素が幾重にも重なっていることが多い。戦争のきっかけ自体も同じような状況下に置かれ、その集積が開戦である。また、人間の思考そのものを考えると、相手を出し抜く、相手を騙すことが重要な作戦であると見なされ、そういった考え方が近代戦争においても戦争計画者の間で重要視されていることを思えば、開戦前ならびに開戦後、情報のすべてを大局的に冷静に理解することはもはや不可能ではないか。あるいは、不可能に近い。どこの軍隊も先制攻撃の夢を捨てることはできそうにはない。

これらの事柄に関しては、幸か不幸か、われわれ日本人は集団として歴史的な体験をしている。

ところで、今日的な最大の問題は先制攻撃のために核兵器が使用される可能性があることだ。

米国はより小型で使いやすい核兵器を開発していると言う。今や、核兵器の使用に対する敷居は低くなるばかりである。技術上からもそう言えるし、軍人や好戦的な政治家の思考論理においてもその傾向が見られる。

私は核戦争の回避に関してこのブログで何回か投稿をして来た。核大国間の睨み合いには偶発的な勘違いや設備の誤作動、故障をゼロにすることはできないからだ。

先制核攻撃に関しては、2019223日に掲載した「INF条約 - ロシアの勝ち、米国の負け」と題した投稿に興味深い見解が紹介されている。たとえば、ドミトリー・オルロフは次のように述べている:

「米国は先制核攻撃を仕掛けてソ連を壊滅させようと何度も試みたことでよく知られている。しかし、この先制核攻撃は何度か見送られた。最初の見送りは核兵器の数が足りなかったからだ。あるいは、ソ連側も核兵器を開発した。さらには、ソ連が大陸間弾道弾ミサイル(ICBM)を開発した、等が見送りの理由であった。」

これらの事実は米国の戦争計画者が陥りやすい状況を余すところなく伝えている。そして、彼らに特有な思考構造は今も続いている。


ところで、将来の核戦争の可能性について思考実験をしてみてはどうかと呼び掛けている記事に最近遭遇した(注1)。「核戦争 - 思考実験」と題されている。核戦争の回避に関して個人の認識を高める観点からもこれは貴重なインプットであると思えるので、この記事の詳細に注目してみたい。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。

21世紀の核戦争は最終的に人類の滅亡を意味する。もはや、局地戦によって何十万、何百万の市民が犠牲になるという図式では留まらない。すべての人類が地上から抹殺されてしまうであろう。しかも、地域戦争は限られた戦争計画者の手によって決断されてしまう。イラクに対する米国の軍事進攻がそうであった。シリアに対するミサイル攻撃がそうであった。

最大の問題は、このような局地戦争が引き金となって世界規模の核戦争に発展していく危険性は決してゼロではないという点にある。

ソ連は1961年に北極圏でいわゆる「ツアー爆弾」を炸裂させ、これは最大級の核爆発であった。ロシアはそのビデオ公開した(訳注:これは827日の報道)。

この核爆発は広島と長崎を壊滅したふたつの原爆の和に比べて1,500倍もの破壊力を持ち、第二次世界大戦の全期間に爆発したすべての爆発物の総計の10倍もの威力をもっていた。キノコ雲はエベレスト山の高さに比べてその7倍以上に相当する42マイルの上空に達した。その広さは59マイル。この爆発力は50メガトンであったが、当時技術的にはこの2倍の威力を持つ爆発も可能であった。

この動画は必見である。われわれは何世代にもわたってこれらの恐ろしい状況に曝されながらもこの地球上で生きて来れたというだけではなく、地球上で生き永らえているのは単なる幸運の賜物であるということを思い悟らされるのである。われわれは一回や二回だけではなく、去の冷戦期間中には何回も政府間連絡の不十分、誤判断、誇張、技術的な欠陥、等によって全面戦争の瀬戸際に追い込まれて来た。もしも物事かがほんの僅かでも違った動きをしていたならば、これらの状況はまったく違った展開を辿り、最悪の事態に至っていたことであろう。

動画:https://youtu.be/YtCTzbh4mNQ

今、米国はひとつけではなくふたつもの核大国との新冷戦を繰り広げている。世界最終戦争を弄ぶことは世界の安全性をより高めることには何の役にも立ってはいない。核による対決では核大国の指導者の何れもが「発射ボタン」に手を伸ばす様を多くの人たちが想像するであろうが、現実には、誰からも邪魔されることなく核戦争を開始できる連中は世界中に何千人もいる。こういった連中は誰もが緊張が極度に高まっている中で起こる誤解や誤判断、連絡ミス、あるいは、未知の状況に曝され、いとも簡単に核戦争を開始することが可能なのである。

核兵器の使用も辞さないとする瀬戸際政策には非常に多くの変動要素があって、事がうまく運ばない状況は非常に多く出現する。

Earth’s Future」と題された2014年の報告書は地球の成層圏へ何十年にもわたって煤を舞い上がらせたままにし、太陽光が地表に届くのを阻み、植物の光合成を不可能にさせてしまうのにたった100個の核弾頭の炸裂で十分であると報告している。これは放射能そのものや当初の気候変動を生き抜いた地上の生物をもいとも簡単に死に至らしめてしまう。中国は数百発の核弾頭を所有し、ロシアと米国は何千発も所有している

われわれは今大問題に遭遇している。しかし、そのことに気付かない唯一の理由はアンダーソン・クーパーやクリス・ウオレスが、もしも大手メディアにジャーナリズムが存在していたならば連日のようにそのことに関してわれわれに告げてくれる筈であるのだが、実際にはそうしてはいないことにある。少なくとも、われわれは1961年のような大問題に見舞われている。でも、過去の冷戦においてはえらく幸運であったことから、われわれは今回の新冷戦についても安全であろうと考えてしまう。

事実、われわれはほぼ間違いなくもっと大きな危険に曝されている。どうしてかと言うと、中国が台頭し、非同盟諸国が米ドルや米国の覇権には依存しない世界秩序の構築を進める中で、米国は優位性の時代から過ぎ去りつつあるからである。この現実は米国による単独統治は如何なる代償を払ってでも維持するという現行のワシントンの正統性とは真っ向から衝突する。この不可避的な覇権からの退却は、米国には覇権からの退却は決して起こってはならないとするイデオロギーと正面からぶつかることになる。

隅に追い込まれた獣は危険極まりない。特に、鋭い牙や爪を持った獣はなおさらだ。死に瀕した帝国は危険である。特に、核兵器を持っている帝国はなおさらだ。


ICAN
 (訳注:ICANとは「International Campaign to Abolish Nuclear Weapons」の短縮語であって、 「核兵器廃絶国際キャンペーン」のこと。)

@nuclearban

本日は核実験に反対する国際デーである。核兵器を二度と使わず、核実験を行わないことを保証する唯一の方法は核兵器を排除することである。 (スレッド) #nuclearban #AgainstNuclearTests #IDANT

10:36 AM · Aug 29, 2020


このことを念頭に置いて、ある思考実験を提案したいと思う。

たった今地震動を感じ、窓の外を眺めて、水平線の彼方にキノコ雲を見たと仮定してみよう。

当面は、それがどのようなものであるかを想像することに集中して貰いたい。その状況の中へ自分自身を置き、ご自分のペースで下記の質問に答えていただきたい:

何を感じたか?

自分の思いが最初に及んだ事柄は何か?

最愛の人たちについてはどう思ったか?

最近彼らと一緒に過ごした時間は幸せであったか?

彼らへの対応は幸せであったか?

今まで生きて来た人生に満足しているか?

あなたご自身の優先順位は妥当であったと言えるか?

過去の一カ月間にすべての時間とエネルギーを注ぎ込んだのはあなたが今理想的であると考えるやり方と同じか?

核戦争がいつ起こってもおかしくはないという事実に留意する場合、自分の時間やエネルギーを使いたいと思う物事に対して自分の時間やエネルギーを注いできたか?

これで思考実験の最後となる。何故かと言えば、核戦争はいつでも起こり得るからである。

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これらの事実を考慮に入れることは極めて重要である。世界最終戦争の兵器としての惑星にわれわれが住んでいることや相互確証破壊に関するグローバルな契約に関しては、あなた方にとってはそれらはまったく承知済みの事柄でもあって、生存という基本的なレベルで徹底して取り組んでいる筈である。誰が何と言っても、それは自分の生命を脅かすものであり、自分の身の回りにいる最愛の人たちの生命を何時でも脅かす存在であるからである。

あなたはこのことを知っている筈であるが、この自覚はあなたを変化させるであろう。それはあなたの生き方を変えるに違いない。それはあなたの時間やエネルギーの使い方を変えるに違いない。なぜならば、あなたはこの文章を読んだ時点から一秒先であってさえも何らの保証も与えられてはいないからである。

核兵器による人類の絶滅がわれわれの頭上で常に飛び回っているという現実に取り組むことに失敗すれば、それは人類の生存という現実への取り組みに失敗することに等しい。これはそれ程までにあなたご自身とは非常に個人的なレベルで関係する事柄なのである。そのような失敗を許すことは子供の頃の心的外傷や宇宙におけるあなたの居場所を考慮に入れることに失敗することと同じ位に怠慢であると言わざるをえない。あなたが住んでいる帝国が新冷戦を展開している中で膠着状態に陥っている核問題を理解してはいないならば、あなたはご自分のことに関して現実的な考えは何ら持ってはいないということに等しいのである。

これはあなたご自身のことである。極めて個人的な課題だ。あなたの人生においては何事であってもあなた自身に関わることであるのとまったく同じように。なぜならば、それはあなたの人生を終わらせ得るあらゆるパワーを持ち、すべてのことを何時でも終わらせることができるのである。

この現実を無視することは、あなたの命を狙ってあなたの頭に銃を突きつけて四六時中あなたの後を追っかけ回すよそ者を無視することと同程度に馬鹿げた話である。もっと別の思考実験をやってみたいならば、しばらくはその思考実験に身を置いてみていただきたい。それは今起こっていることとまったく同じことであるからだ。ただひとつの違いがあるとすれば、それは、もしもその銃が放たれたとしたら、あなたを殺してしまうばかりではなく、全人類を滅亡させてしまうのだ。

最高の人生を追求し、これが最後の人生であるとしてそれぞれの瞬間を生きて欲しい。なぜならば、今の瞬間があなたの最後であるかも知れないからだ。

何にも増して、自覚を高めるためには全力を尽くし、われわれの身の回りに観察される狂気の沙汰には反対して欲しい。もしもわれわれが窓の外にキノコ雲を見ることを神様が禁止なさるならば、少なくともわれわれは出来ることはすべてやったし、持てる時間の全てを費やしたと言えるよう願うばかりである。

著者のプロフィール:ケイトリンの記事は全面的に読者からの支援によって成り立っている。もしもこの記事を興味深く読んでいただいたならば、この記事を共有し、フェースブックで「いいね」をクリックし、ツイッターで彼女の活動ぶりを追跡し、彼女の ポッドキャストをチェックし、パトレオンまたはペイパルの彼女の帽子の中へいくらかのお金を投げ込み、あるいは、彼女の書籍Woke: A Field Guide for Utopia Preppers」を買っていただきたい。https://caitlinjohnstone.com

注:この記事に表明されている見解は全面的に著者のものであって、必ずしもインフォメーション・クリアリング・ハウスの見解を反映するものではありません。

これで全文の仮訳は終了した。

著者が核戦争に関して言いたいことは明白である。この記事に挿入されている英国の新聞連載マンガ「カルビンとホッブス」がすべてを代弁しているようだ。6歳の少年であるカルビンは戦争ゲームの後に「何だか馬鹿げたゲームだよね」と言う。

われわれ大人もこの少年のように核戦争が持つ、あるいは、核兵器を所有し続けることがもたらす本質的な馬鹿馬鹿しさに一日でも早く目覚めなければならないと思う。しかしながら、何故かそのプロセスは遅々としたままであって、なかなか進まない。これでは、著者が言うところの「少なくともわれわれは出来ることはすべてやったし、持てる時間の全てを費やしたと言える」ような事態にはなり得ない。この様子を見て、神様は呆れ果てていらっしゃるに違いない。


参照:

1Nuclear War: A Thought Experiment: By Caitlin Johnstone, Information Clearing House, Aug/31/2020









2020年9月6日日曜日

新たに始まったコソボ指導者の訴追はビル・クリントンのセルビアにおける流血沙汰を思い起させる

 セルビア内の自治州であったコソボは2008年にセルビアから独立した。コソボはまだ若い国である。20164月、コソボ解放軍の政治部門の指導者であったㇵシム・サチがコソボ大統領に就任した。コソボ共和国はバルカン半島の内陸部に位置する国家で、総人口は200万人足らず。公用語はセルビア語とアルバニア語。しかしながら、その生い立ちからセルビアとコソボとの間には血なまぐさい事件が多発し、政治的および軍事的緊張を孕んだまま今に至っている。

コソボの独立承認国(ウィキペディアから): 201911月中旬、コソボはアメリカ合衆国、イギリス、ドイツ、フランス、日本など93ヵ国から承認を受けているが、セルビアをはじめ、ロシア、中国、スペイン、キプロス、ギリシャ、ルーマニア、ボスニア・ヘルツエゴビナ、スロバキア、ジョージア、イスラエル、ブラジル、アルゼンチン、チリ、インド、インドネシア、南アフリカなどといった国連加盟国の半数近くに上る85ヵ国が承認を拒否している。そのため、将来的に国際社会から一致した承認を得られるかどうかは未だ不透明な状況である。

最近のもので、「新たに始まったコソボ指導者の訴追はビル・クリントンのセルビアにおける流血沙汰を思い起させる」と題された記事がある(注1)。

何が興味深いかと言うと、それはわれわれに米ロ間の地政学的な背景を理解させてくれるからだ。つまり、コソボを巡る諸々の事象を眺めてみると、事実を隠ぺいし、歪曲する国際政治の醜い側面が具体的に浮かび上がって来るのである。米国の国際政治には常にロシアや中国、さらにはイランや北朝鮮との絡みがついてまわる。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。

ビル・クリントンお気に入りであった「自由の戦士」が大量殺害、拷問、誘拐、ならびに、その他の人間性に対する犯罪行為を理由にして訴追された。1999年、クリントン政権は78日間におよぶ空爆を繰り広げ、セルビアとコソボにおいて15,000人もの一般人を殺害した。この軍事行動については、米メディアは人種偏見に対する十字軍であるとして誇らしげに描写したものである。米国の外交の多くが単なる見せかけであるのと同様に、この戦争も常に偽物のままであった。

コソボ大統領のㇵシム・サチはオランダのハーグに所在する国際法廷によって戦争犯罪と人道に対する犯罪行為にかかわる10個の罪状で訴追された。同法廷はサチと他の9人を「殺害、強制的な失踪、迫害、拷問を含む戦争犯罪」の廉で起訴した。サチと他の容疑者らは「100件近くの殺害事案に関して刑事責任を問われており、何百人もの犠牲者には、政敵も含めて、コソボのアルバニア人、セルビア人、ジプシーが含まれ、その他の人種も含まれている。」

シム・サチの安っぽい業績は反テロがワシントン政府の政策立案者にとって如何に好都合な旗振りであったのかを示している。コソボ大統領に就任する前、サチはコソボ解放軍(KLA)の指導者で、セルビア人をコソボから追い出すために闘っていた。1999年、彼らにはおどろおどろしい過去があったにもかかわらず、クリントン政権はKLAを「自由の戦士」と称して、多額の支援を与えた。その前年、国務省は「KLAによって引き起こされたテロ行為」を非難していたばかりであった。KLAは麻薬の密売に広く関与し、オサマ・ビン・ラーデンとも深い関係を持っていた。

しかしながら、KLAの武装やセルビアの爆撃はクリントンが不正義に対しては確固たる活動家であるとして描くことに効を奏し、彼に対する弾劾裁判の後に世間の関心を別の方向に大きく変えることに役立ったのである。クリントンは米軍による殺害を神聖化することに熱心で、破廉恥極まりない、数多くの議員たちからの支持を受けた。ジョー・リーバーマン上院議員(コネチカット州選出、民主党)は大声を張り上げて、「米国とKLAは同じ価値観と原則に則っている。KLAのために闘うことは人権と米国の価値観のために闘うことに等しい」と言った。クリントン政権の高官らがセルビアの指導者であるスロボダン・ミロセビッチをヒットラーになぞらえたことから、まともな人たちは誰もがセルビアに対する爆撃に拍手を送らざるを得なかった。

セルビア人と少数派のアルバニア人は両者ともコソボにおける苦々しい抗争で流血沙汰を引き起こした。しかし、自分たちが行っている爆撃を神聖化するために、クリントン政権は魔法の杖を振って、KLAによる流血沙汰を隠ぺいした。英国のフィリップ・ハモンド教授は78日間に及んだ爆撃を「軍事作戦としては不必要だった」と指摘した。つまり、「NATOは軍事および民生の両分野に重要な工場や橋、ならびに、ベオグラードのど真ん中にあるテレビ局を破壊した。これは同国に脅威を与え、降伏させることを意図したものだ」と述べた。

NATOはクラスター爆弾を市場や病院、その他の民生用施設へ繰り返して投下した。クラスター爆弾は敵部隊の全域にわたって被害を与えることを目的として設計された対人兵器である。NATOはセルビアとコソボで1300発以上のクラスター爆弾を投下した。個々の爆弾には208個の子爆弾が収納されており、パラシュートを使って空中を漂いながら地上に落下する。爆弾専門家の推算によれば、炸裂しなかった子爆弾は1万個以上にも達し、爆撃の後にはその地域全域に散らばって、停戦後長い月日が経過した後でさえも数多くの子供たちが不具者となった。

爆撃の末期には、ワシントンポストは何人かの大統領補佐官や友人たちがチャーチルのような語調でコソボのことをクリントンの「もっとも輝かしい時」であると描写していたことを報じた。また、ポストはクリントンの友人が「クリントンが信じていたのはNATOの軍事的介入に対する揺るぎのない、道義的な動機であったが、これはクリントン自身の意識に生まれた残念な気持ちをなだめる機会を与えてくれた。その友人はクリントンは時々グチをこぼしていたと言っている。自分よりも前の大統領は高貴な目的で戦争をすることが明らかに可能であったが、自分の番が来たら、道義的理由の一助になる機会さえも与えられはしない。」クリントン自身の基準から言えば、セルビア人市民を殺害することは「道義的理由」に「十分に近い政府の仕事」であったのだ。

1999年の爆撃が終わって間もなく、クリントンは彼の補佐官らが作成した「一国の国境の内側であろうと、外側であろうとにはかかわりなく、国際社会が大量虐殺や民族浄化を中断させる力を持っているならば、われわれはそれを中断させるべきだ」というクリントン・ドクトリンをはっきりと宣言した。現実には、クリントンの方針は米国の大統領は、いかに恥知らずな嘘であったとしてもそれがメディア受けするものでありさえすれば、それに基づいて戦争を開始する権限を有するというものであった。現実には、セルビア爆撃の教訓が示したことは米国の政治家は相手を殺戮するライセンスを得るために単に「大量虐殺」という言葉を繰り返す必要があっただけであった。

爆撃の終了後、「米国とNATOはセルビア人と少数派のアルバニア人を防護するためには平和維持軍として行動し、平和が到来したら撤退する」と述べて、クリントンはセルビアの人々に保証を与えた。その後何ヵ月間も、何年間も、米軍とNATO軍はKLAの側に立って、KLAは民族浄化を行い、サルビア人の民間人を殺害し、セルビア人の教会を爆撃し、非ムスリムを抑圧した。クリントンが彼らを守ると約束した後に、約25万人のセルビア人やジプシー、ユダヤ人、その他の少数民族がコソボから脱出した。2003年までに、1999年にコソボに居住していたセルビア人の70%が逃げ出し、コソボは95%がアルバニア人で占められるようになった。

しかし、サチには米国の政策立案者にとって利用価値があった。コソボの権力を手中に収めてからの抑圧や腐敗に関して彼は広く非難されてはいたのだが、2010年、ジョー・バイデン副大統領は彼を「コソボのジョージ・ワシントン」と称して、サチを礼賛した。23カ月後、欧州委員会の報告書はサチとKLAの活動家らによって行われている人の臓器の密売を非難した。ガーディアン紙の指摘によると、この報告書は「サチの内部サークルが戦争後に捕虜を国境を越してアルバニアへ連行し、そこで何人ものセルビア人が殺害され、彼らの腎臓は闇市場で密売されたと報告した。同報告書は「臓器移植の外科医の手術の準備が整うと、セルビア人捕虜はいわゆる安全な家から個々に連れ出され、KLAの殺し屋によって即座に処刑され、彼らの死骸は手術を行うクリニックへと迅速に移送された」と報告している。

臓器の密売を問われているが、サチは2011年、2012年、2013年にクリントン財団によって開催された年次グローバル・イニシアチブ会議においては出席者の中ではスターのような存在であった。それらの会議では、彼はビル・クリントンと一緒に写真に納まった。恐らく、あれはサチ政権が将来ヒラリー・クリントンの選挙マネジャーとなるジョン・ポデスタとの共同経営の下にあったポデスタ・グループと交わした月額5万ドルのロビー活動契約に由来する特典だったのではないか、とオンラインのデイリー・コーラー紙が報じている。

クリントンはコソボでは英雄である。首都のプリスティナには彼の像が建立された。ガーディアン紙は「クリントンの左手は高々と上げられ、一般大衆に挨拶する指導者の典型的な姿を示していると指摘した。右手にはセルビアに対して爆撃が開始された1999324日の日付けが刻まれた文書を持っている」と述べている。しかしながら、米国の爆撃で殺戮された女性や子供たち、その他の人々の死体の山の中にクリントンが立っていたとしたら、その像は彼をより適切に表現してくれていたことであろう。

2019年、ビル・クリントンと彼の政権で国務長官を務め、異常な程に爆撃に賛成したマデレーン・オルブライトはプリスティナを訪問し、そこでふたりはサチと一緒に写真に納まったりして、「ロックスターのような歓待」を受け、クリントンは「私はこの国が大好きだ。(セルビア軍による)民族浄化に対抗し、自由のためにあなたと一緒に立ち上がって闘ったことは私の人生においては最大級の名誉である」と宣言した。サチはクリントンとオールブライトに自由勲章を授与した。「彼はわれわれにもたらした自由とこの地域全域にもたらした平和に貢献した」からであった。オールブライトはトランプ時代にファッシズムに対して警告を与える先見的な役割を再度見い出した。現実には、オールブライトに与えて然るべき唯一の敬称は「ベオグラードの屠殺者」ではないのか。

セルビアにおけるクリントンの戦争は全世界が今でも苦しむパンドラの箱となった。政治家たちやほとんどのメディアはセルビアに対する戦争を道義的な勝利として描写したことから、ブッシュ政権にとってはイラクへの武力侵攻を正当化することは極めて容易く、オバマ政権にとってのリビアの爆撃やトランプ政権にとってのシリアに対する爆撃の繰り返しは極めて容易いものとなった。しかし、これらの軍事介入のすべては受益者であると噂される当事者に呪いをかけ続ける混乱の種を蒔いたのである。

1999年にビル・クリントンが行ったセルビアに対する爆撃は、ジョージ・W・ブッシュがこの国を指揮してイラクへの侵攻へと邁進した詐欺行為と同じく、非常に大きな詐欺行為であった。事実、クリントンと他の政府高官らは、大量虐殺や拷問に関する非難があったにもかかわらず、ㇵシム・サチを賞賛し続けた。また、臓器の密売への彼らの関与は米国の政治家エリートたちの多くが陥る「金銭づく」を想起させる。次回においても、米国人はまたもや騙され易く、ワシントンの政治家とメディアが結託して大嘘の口実をでっち上げ、どこかの運の悪い国家を吹き飛ばしてしまうのではないだろうか。

著者のプロフィール:ジェームズ・ボヴァ―ドは10冊の本の著者であって、2012年には「Public Policy Hooligan」を発刊し、2006年には「Attention Deficit Democracy」を発刊。彼は、他にも多数の出版元を含めて、ニューヨークタイムズやウオールストリートジャーナル、プレイボーイ、ワシントンポストで健筆を振るってきた。

注: Mises.orgにて表明された見解は必ずしも Mises Instituteの見解ではありません。

これで全文の仮訳が終了した。

コソボを巡る国際政治にはこれほど多くの隠されたエピソードがあったのだ。素人の私にとっては驚くばかりである。関心さえあれば、そして、時間さえあれば、さらに数多くの具体的な情報を掘り起こすことが可能であろうと思う。

ところで、政策立案者とはいったい何者なのだろうか?

それは、多くの場合、議員やシンクタンク、評論家、学者、世論の形成に一役も二役も演じる大手メディア、等の集合体である。米帝国が外国から富を収奪するには、彼らは何でも計画する。彼らは情報戦争、経済戦争、貿易戦争、通貨戦争、あるいは、サイバー戦争を仕掛ける。忘れてはならないのは彼らは特定の国へNGOを送り込み、政権を倒すためにカラー革命を組織し、それを実行する。さらには、フェークニュースを流して敵国の首長を中傷し、信用を失墜させようとする。これらはもうひとつの重要な作戦である。議会は法案を可決して、他国の国内政策についてさえも干渉する。さらには、さまざまな経済制裁を可決する。具体的な武力行使としては、敵国に脅しをかけるためには空母を派遣する。最悪の場合は武力侵攻を実行する。これらの動きの最初の段階を彼らは「政策の立案」と呼んでいる。

参照:

1New Kosovo Indictment Is a Reminder of Bill Clinton’s Serbian War Atrocities: By James Bovard, Jul/28/2020