西側の世界においてジャーナリズムは、今、まさに危機的な転換期を迎えようとしている。6月17日、英国政府はジュリアン・アサンジの身柄を米国へ引き渡すことを正式に決定した。これを受けて、被告側は14日以内に異議申し立てを行うと表明している。もしも米国で有罪になれば最長で懲役175年が言い渡されると被告側は推測している。だが、英BBCによれば、米国側は4~6年程度になりそうだと説明しているという。刑期が175年になるのか、それとも、4~6年程度で済むのかは小生にはまったく知る由もないが、今までの論争で観察されているように、米司法当局がジュリアン・アサンジを起訴した背景には民間ジャーナリストが政府を批判する自由を奪い取り、権力側の都合の悪い情報は徹底的に隠ぺいすることができるように調査報道ジャーナリストによる暴露を最大限抑止しようとする姿勢が浮かんでくる。
ここに、「ジュリアン・アサンジ、アリナ・リップおよびアンヌ=ローレ・ボネル ― 真実が犯罪になる時」と題された記事がある(注1)。
著者は「ドンバス・インサイダー」の創立者であって、ドンバス地域における武力紛争についてすでに数年間にわたって現地から報告している。つまり、西側メディアの嘘を非難している。アマゾンではこの著者は次のように紹介されている:1978年生まれ。15歳の頃から書き始めた。最初は詩から始まり、ウェブサイト用の記事へと移行。2008年には歴史の再現を試み、主としてヴィキングについて書いた。最初の小説「ウルファルサガ ― オオカミの時代」を2013年にフランス語で自費出版。3年後には戦場から報告する記者となった。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
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ジュリアン・アサンジ、アリナ・リップ、アンヌ=ローレ・ボネルの三人は欧米で真実を語るのに高い代償を払わされているジャーナリストである。彼らを財政的に窒息させようとし、検閲や投獄の脅しを与え、アサンジの場合には肉体的・心理的拷問さえもが加えられた。これら三人のジャーナリストの事例は欧米における「民主主義」のおぞましい実態を完璧に暴露した。
英国当局によって身柄の引き渡しが承認されたばかりのジュリアン・アサンジの事件はもっとも頻繁に報道されており、あえて真実を語ろうとする欧米ジャーナリストに何が起こり得るかをもっとも端的に示してくれた。
2006年、ジュリアン・アサンジは内部告発者から提供された機密文書をウェブサイト上で公開する非政府系非営利組織のウィキリークスを設立した。それ以来、このサイトは人権侵害、汚職スキャンダル、そして何よりも戦争犯罪に関する何百万もの文書を公開している。
2010年、ウェブサイトがイラク戦争に関する文書を公表しようとしていた丁度その頃、ジュリアン・アサンジの労働許可と居住許可の要求はスウェーデンによって拒否された。彼がスウェーデンを選んだのはジャーナリズムの情報源の保護に関する厳格な法律がスウェーデンには存在していたからであった。しかし、イラクとアフガニスタンにおける米国の戦争犯罪を暴露することはワシントン政府と米軍産複合体の怒りを招いた。ここからジュリアン・アサンジの地獄への下り坂が始まった。
2011年、ウィキリークスのウェブサイトを財政的に窒息させる試みが始まった。マスターカード、ビザ、バンク・オブ・アメリカ、ペイパル、ウェスタンユニオン、等はウィキリークスの財政的封鎖を組織化し、ウィキリークスの収入を95%減少させた。ウィキリークスは、その後、財政的窒息から逃れるために暗号通貨に目を向けた。
2012年以降、このサイトに対するコンピュータ攻撃による大規模な検閲が開始された。その目的は人々がサイト上で公開されている何百万もの文書にアクセスするのを妨害することにあった。因みに、エドワード・スノーデンが香港から出てロシアで政治亡命を得るのを助けたのは当時のウィキリークスであった。
それと並行して、2010年から2012年にかけては、2010年にスウェーデンで性犯罪の告発を受けた後のジュリアン・アサンジは英国で保護観察下に置かれた。アサンジはこれを偽りの容疑として非難した。この告発の唯一の目的は彼をスウェーデンに送り、そこからさらに米国へ引き渡すことであった。英国最高裁判所がスウェーデンへの身柄引き渡し要求を拒否することを拒んだことから、ジュリアン・アサンジは2012年6月19日にロンドンのエクアドル大使館に避難し、それ以降7年間にわたってスコットランドヤードとCIAの監視下で隔離状態に置かれた。
2017年、CIAはエクアドル大使館でジュリアン・アサンジに対して単純明快な暗殺を実行することを企てた。しかしながら、これが引き起こすであろう国際的なスキャンダルのリスクをおもんぱかり、CIAは結局この計画を諦めた。そして、より慎重で倒錯した計画を選ぶことにした。
2019年4月11日、ジュリアン・アサンジは2年前に取得したエクアドル国籍とエクアドル大使館に亡命する権利を奪われ、英国警察官によって強制的にエクアドル大使館から排除された。その後、彼はベルマーシュ刑務所に送られ、「性犯罪」事件は彼の逮捕から数ヶ月後に証拠不十分を理由にスウェーデン政府によって幕が閉じられた。これはこの性犯罪事件が単なる口実であったことを証明するものである。
3年間にわたって、ジュリアン・アサンジと彼の弁護士たちは、彼が最大で175年の懲役刑に直面するであろう米国への引き渡しを阻止するために戦った!だが、何の役にも立たなかった。そして、その間ずっとジュリアン・アサンジは拷問に等しい拘禁状態に置かれた。すなわち、完全な隔離、冬季の不十分な暖房、身の周りの世話の欠如に曝されたのである。ジュリアン・アサンジの健康状態はこれらの状況下で急速に悪化し、何人かの専門家や医師らは憤慨して、彼がベルマーシュ刑務所で見舞われた状況は拷問であると言った。
もし米国に送られるならば、ジュリアン・アサンジはグアンタナモ刑務所、あるいは、他の刑務所に送り込まれ、他の多くの囚人のように拷問される可能性がある。彼の事件は欧米の他のジャーナリストが不都合な真実を暴露することを思いとどまらせるスケープゴートとして位置付けるべきだ。
そして、アサンジ事件は間もなく例外ではなくなるかも知れない。二人の独立系ジャーナリストであるドイツ人のアリナ・リップとフランス人のアンヌ=ローレ・ボネルはドンバスで起こっていることについて率直に報じてきたが、今や欧米の検閲機構による彼女らに対する攻撃が観察される。
2022年にドンバスで半年間を過ごし、マリウポリを含めて、ウクライナ軍の戦争犯罪について真実を報じたアリナ・リップは現在検閲に直面している。
テレグラム上での彼女の2部構成による英語でのインタビューを見てみよう:
2021年に初めて訪問した後、彼女はウクライナ軍がドンバスの民間人に対して犯した戦争犯罪に衝撃を受けた。彼女は2022年の初めにも同国へ戻り、6ヶ月間滞在。たとえば、マリウポリの民間人に対してウクライナ兵が犯した戦争犯罪について彼女は公然と語り、報告している。
ベルリン政府にとっては不都合な真実であった。こうして、アリナ・リップのペイパル・アカウントは停止された。その後、彼女の銀行口座と父親の銀行口座が閉鎖され、ドイツ国家は彼女の口座に残っていた約1,600ユーロを正当な理由もなく差し引いた。アサンジ事件の際と同様に、財政的窒息のテクニックが反体制派の声を沈黙させるために使われている。その後、検閲が行われ、彼女のユーチューブ・アカウントが閉鎖された。彼女はそこで報告を公開していたのだ。
そしてジュリアン・アサンジの場合のように、法律はすぐにアリナ・リップを脅かすようにさえなった。犯罪を助長したとしてジャーナリストに対する刑事訴訟が開始された。なぜならば、ウクライナがドンバスでやっていることは大量虐殺であり、彼女はロシアが介入した理由を理解し、なぜ特別軍事作戦を開始したのかについても理解しており、ドネツクで彼女が知り合った人々はモスクワが介入してくれたことを喜んでいると彼女は敢えて報じたからだった。こうして、自分の意見を述べ、真実を語ったアリナ・リップは最高3年の懲役刑に処せられるのである!
PDF形式のドキュメントはこちらからダウンロードが可能:
さらに狂乱的なのは、起訴状の末尾に「アリナ・リップは(自分を弁護するために)公聴会に招待されることはない」と書かれており、これは捜査プロセスを混乱させる(原文のまま!)。当然のことながら、ジュリアン・アサンジと同じ運命を辿らないように、アリナ・リップはドイツには帰国しないであろう。
もしもアリナ・リップに起きていることはフランスでは起こり得ないと信じている人がいるならば、そういう人たちはアンヌ=ローレ・ボネルの身に何が起こっているのかを知るべきである。このフランスのフリーランス・ジャーナリストは2015年と2022年にドンバスへやって来て、ドンバスにおけるウクライナ軍の戦争犯罪について公然と話をした。
驚くことではないかも知れないが、彼女は今やボロボロになったル・モンド紙の「危険極まりない親ロ的インフルエンサー」に関する記事でアリナ・リップや私と共に自分も引用されていることに気付いた。実際には、この記事はISD(L'Institut
Supérieur du Droit、高等法科大学院)による多くの組織的な攻撃のひとつに過ぎない。ISDはいくつかの西側諸国で偽情報と戦うと主張しているが、実際には、検閲を正当化するのに役立っているもうひとつの組織なのである。ISDによる「親ロ派インフルエンサー」に対する非難は、実際、フランスやドイツおよび米国の、さらには、それが如何なる場所であったとしても、いくつものメディアによって取り上げられている(私には全世界の報道機関をチェックする手段はない)。
彼女を単に侮辱し、中傷さえしてきたいくつかのフランスのメディアによって、アンヌ=ローレ・ボネルも直接的、かつ、個人的に攻撃されている。そして、ジュリアン・アサンジやアリナ・リップの場合のように、当局は彼女を沈黙させるために財政的窒息を活用している。
アリナ・リップの場合と同様に、アンヌ=ローレ・ボネルの銀行口座は彼女の銀行ソシエテ・ジェネラルによって一時的に停止され、ソルボンヌ大学との契約は更新されなかった。
まったく同じ理由から、これはパトレオン・アカウントやティピー・アカウントが(ティピーの支払いプロバイダを介して)停止されたドンバス・インサイダーに対しても使用された方法であって、私たちを沈黙させようとしたのである。
アリナ・リップとアンヌ=ローレ・ボネルはまだジュリアン・アサンジが置かれているような悲惨な状況には至ってはいないが、彼が主張してきたことは欧米諸国は名目上は民主的な姿勢を保っているが、もしも何らかの不都合な真実を語れば、今日このジャーナリストの身に起っていることがいつの日にか彼女らにも起こるかもしれないということを誰にでも気づかせる筈だ。だからこそ、アサンジが米国に引き渡されるのを防ぐためにわれわれは戦わなければならないのだ。真実を語ることが犯罪とみなされるのを防ぐためだ!
かって、マルティン・ニーメラーは極めて適切に下記のように表現した:
「連中はまず社会主義者を捕まえにやって来た。私は何も言わなかった。
なぜならば、私は社会主義者ではなかったからだ。
それから、連中は労働組合の指導者を捕まえにやって来た。私は何も言わなかった。
なぜならば、私は労働組合の指導者ではなかったからだ。
それから、連中はユダヤ人を掴まえにやって来た。私は何も言わなかった。
なぜならば、私はユダヤ人ではなかったからだ。
それから、連中は私を捕まえにやって来た。私を匿ってくれる者は一人もいなかった。」
今日、彼らはジュリアン・アサンジ、アリナ・リップ、アンヌ=ローレ・ボネル、あるいは、私を捕まえにやって来る。しかし、いつの日か彼らはあなたを捕まえるためにもやって来ることであろう。だから、今すぐにでも行動を起こして欲しい!ジュリアン・アサンジの米国への引き渡しを取り消すよう要求しよう!真実が犯罪となるような社会を望んではいないことを知らせてやろう!
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これで全文の仮訳が終了した。
ロシア・ウクライナ戦争に関して調査報道を行ない、ウクライナ軍による戦争犯罪を報じると、当のジャーナリストは職業的生命を脅かされるという切羽詰まった状況に曝される。ジュリアン・アサンジを筆頭に3人ものジャーナリストが槍玉に挙げられている。これら3人の事例はどれも戦争に関わるものである。つまり、戦争遂行者にとっては隠されている真実が世間に広められることは最大級の敵なのである。そのような輩は何としてでも葬り去らねばならない。不幸なことには、それが動かしようもない今日の現実なのである。
2022年の今、われわれも第二次世界大戦前のマルティン・ニーメラーの轍を踏むことになるのであろうか?われわれはすでに、取り返しがつかない程、遥かに先へと進んでしまったのかも知れない。つまり、ここでも歴史は繰り返されているのだ。今日の私には楽観的な気分はまったくない。ゼロだ!
参照:
注1:JULIAN ASSANGE, ALINA LIPP, AND ANNE-LAURE BONNEL - WHEN TRUTH
BECOMES A CRIME IN THE WEST: By Christelle Néant, DONBASS INSIDER, Jun/21/2022