2022年8月31日水曜日

嫌らしい噂が聞こえて来た。これでお終いだ!

 

ロシア・ウクライナ戦争においてはロシア軍がウクライナへ侵攻した当初から、30数年前に廃墟となったチェルノブイリ原発とウクライナで最大の規模を誇り、現在稼働中のザポロジエ原発は両者ともロシア軍の監督下に置かれた。これらふたつの原発は様々な意味からそれぞれが軍事的な重要性を持っていることは明白である。最近、ザポロジエ原発の周辺はウクライナ軍による砲撃に曝され、原発施設の一部が破壊された模様だ。ウクライナ政府のプロパガンダマシーンは、もちろん、ロシア軍がミサイル攻撃を行ったのだと主張。ロシアがザポロジエ原発にミサイルを撃ち込んだとウクライナはなぜ喧伝するのか?それは、ウクライナはNATOのメンバーではないけれども、軍事的に重要なザポロジエ原発を攻撃されたとの大嘘を主張することによってNATO憲章の第5条に基づいてNATO軍をウクライナへ呼び込みたいからであると専門家は言う。

また、ウクライナにはソ連邦時代に築き上げられた核兵器技術が蓄積されており、その気になりさえすれば、戦術核や劣化ウラン弾を製造し、それを運ぶミサイルを準備することは決して難しいことではない。

223日の報道によると、ゼレンスキーはウクライナが核兵器を持ちたいとの意向を公言した。どうやって核兵器を装備するのかの詳細は分からない。外部から、つまり、NATO経由で某国が配備するのか、それとも、核兵器をウクライナ国内で製造するのかは不明だ。

これを受けて、プーチンはゼレンスキーが言った内容は単なる脅しではないとして、「ウクライナには、ソ連時代に構築された核技術、航空機を含む核兵器の運搬手段、ならびに、ソ連が設計した100キロメートル以上の射程を持つ精密戦術ミサイルであるトーチカUがある。しかし、彼らはもっと多くの成果をもたらすことも可能だ。時間の問題である。彼らは、ソ連時代以降、このための基礎を築いてきた」とプーチン大統領が述べている。「言い換えれば、戦術核の入手は、特にキエフが外国の技術支援を受けた場合、そのような研究を行っている他のいくつかの国に比べるとウクライナにとってはるかに容易になるだろう。この種の可能性は排除できない。」(原典:President Zelensky Suggests Ukraine May Pursue Nuclear Weapons To Counter Russia, Putin Responds: By  Ryan Saavedra, DailyWire.com, Feb/23/2022

読者の皆さんはすでにお気付きのように、ゼレンスキーとプーチンによるこれらの発言はプーチンがウクライナに対して特別軍事作戦を開始すると宣言した224日の一日前のことであった。

ここに、「嫌らしい噂が聞こえて来た。これでお終いだ!」と題された最近の記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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私たちが気付いているように、文明の終焉が間近に迫っている。より多くの専門家たちはわれわれが直面している現実をどうして正しく把握し得なかったのかという素朴な疑問を考えると、私は多いに困惑を覚える。それは稲妻のように私に襲いかかってきた。その理由は現在の世界秩序そのものが核の対決を推し進めているという点にある。そして、それがもたらす状況は眼前に迫っている。核の冬だ!

私は過去数年間に起こってきた狂気と悪魔的な陰謀をここで再度詳しく並べる積りはない。パンデミックやそれが社会の脳中枢に引き起こした諸々の害悪、露払いとしての代理戦争、ISIS、狂気じみた大統領、小児性愛、未成年者に対する性行為に関する告発、ロリータ・エクスプレス、ハンター・バイデン、ウクライナ、等々。そして、気候変動の本当の問題については平均的なジョーやジュディを洗脳装置に掛けて、下から上を覗き見することができないようにする。この章ではビル・ゲイツが人口抑制や米国の農地の大部分を所有し、エプスタインの親友の一人であったとして最後のページを飾るに違いない。

そう、われわれは今どうしようもない状況にある。奴らはトランプ前大統領の自宅を襲撃したばかりであり、タルシー・ギャバードやタッカー・カールソン、その他の著名な保守派は米国では「裏切り者」のレッテルを貼られている始末だ。あなたがソーシャルメディアを正当に扱えば、次には自分たちが血祭りにあげられることになるかも知れない。そして、米ロ間の核対立の現実についての無知さ加減から判断すると、われわれの社会はディストピア的なリセットをするのに十分な程に愚かである。最近の一連の記事がそのことをよく説明している。

USAトゥデイ」紙の記事や最近の他の多くの記事は私が今指摘したふたつの問題について私に手がかりを与えてくれた。第一に、この地球温暖化に関してわれわれを導いてきた、気が狂ったかのようなリベラル派の連中が唱える秩序は恒久的な寒冷前線に置き換えて、それを修正することにすでに決意したかのように見える。そうすることは実現可能なのかも知れない。第二には、われわれの脳はボロボロにされ、プロパガンダに翻弄され、すっかり愚か者と化してしまった。われわれはもはや取り返しがつかない。私が何故そう思うのかについて理由を述べてみよう。

USAトゥデイの記事が引用した「新しい」研究によると、米ロ間の核戦争は50億人の餓死者をもたらすであろうと言う。この研究の著者、ラトガース大学の気候科学者リリー・シャは何千発もの核兵器が爆発し、成層圏に何メガトンもの灰や塵を送り込み、太陽光を遮断する状況を(改めて)われわれに語っている。これは必ずしもまったく新しい科学的知見であるというわけではない。そして、科学者が用いている言語は8歳児やおバカさんたちでも分かるように実に平易だ。ここに抜粋を示す。

「国民の大部分が飢えるだろう・・・状況は酷いものとなる・・・核戦争後には太陽光が遮断され、世界規模で寒冷化する。そして、おそらくは貿易規制が発動される。これは食料安全保障上で世界的大惨事をもたらすことであろう。」

確かに、12,000発もの近代的な核兵器が爆発すれば、太陽光を遮り、飢饉をもたらし、そして、病気が蔓延することであろう。おそらくは、新しい氷河期さえもが引き起こされるかも。この研究でラトガース大学が示した海図は海洋と地上の温度が大幅に低下すると指摘している。こうして、これは地球温暖化を見事に覆すことになる。良いことだ。だが、世界的な熱核戦争の後には「貿易規制が発動される」かも知れない。このような事態は21世紀の科学においては最大級の関心事と捉えるべきではないのか?これらの人々はいったいどんなヤクを吸っているのだろうか?ハルマゲドンについては後ほど触れるので、まずは、この気候問題の解決策の立案者をご紹介しよう。

ビル・ゲイツはワクチンによって人口コントロールを行うべきだとは言っていないが、避けられない事態に備えるために大きな一歩を踏み出している。この世界経済フォーラムの記事は彼の「警告」を明確にしており、マイクロソフトの億万長者は約25万エーカーもの農地を所有し、米国最大の民間土地所有者なのである。

それでは、実際のハルマゲドンがどのように見えるのかを考えてみよう。私はここであなたの時間を浪費したくはない。冷戦時代の最盛期から2003年までを扱った、詳細な本報告書は私たちが知る必要があるすべての事柄を教えてくれている。そして、もしもラトガース大学の天才研究者たちが自分たちの研究は悲惨な絵を描いていると思うならば、Wm・ロバート・ジョンストン博士が提供する奥深い参考文献にたどり着く頃には、この地球上で生き残る人や動物の数はいかに少ないかをすでにご理解していただけるだろう。

これらの新しい研究者はひどい誤算を仕出かした。たとえば、こんな具合だ!最初の核弾頭ミサイルの応酬で世界人口の半分が焼き殺され、破片となって吹き飛ばされる。さらに、1/4は数週間以内に放射能やその他の障害で死亡する。何も機能せず、衛星は作動しない。経済活動は消滅し、国連やわれわれの政府機関のほとんどが停止する。米国では5,800発もの核弾頭が爆発し、合計では3,900メガトンにもなる(訳注:広島と長崎に投下された原爆の威力はTNT火薬換算でそれぞれが18キロトンと21キロトンであったと言われている。3,900メガトンとは広島型原爆の21万倍に相当する!)。ロシアではモスクワから200マイル(320キロ)以内の地域では何も生存せず、虫けらさえも生き残らない。

ジョンストン博士の研究・シナリオによると、200発以上の核弾頭だけで何万キロもの範囲にわたって命を奪い、破壊し、完全破壊をもたらす。ヨーロッパは全土が開放集団墓地と化す。この大虐殺は現在損傷を受けてはいないキエフから始まってピレネー山脈に至るまで広がる。スペインとポルトガルは生き残った魂にとっての最後の砦となるかも知れない。リチャード・ウォルフソンとフェレンツ・ダルノキ=ヴェレスによる2021年の著作「21世紀のための核の選択:市民ガイド」からのMITによる抜粋はジョンソンの以前の研究成果を確証している。

60年後になっても、まだ使えない広大な土地が広がっていることであろう。生き残った数億人の大部分には遺伝的欠陥が発現する。ニュージーランドとアルゼンチンはこの新しいディストピア世界における大国となる。私たちは勇敢な新世界を得て、シュワブやグローバリストたちがかき回した素晴らしいリセット後の世界を手にすることであろう。グレタ・トゥーンベリと彼女の仲間の気候変動警告者たちは(何らかの形で)ついに沈黙する。

そして、今、私はラトガース大学の天才であるアラン・ロボック教授の最後の言葉をここに残しておこうと思う。彼はリリー・シャと共同執筆し、世界中のゾンビー化した人々を対象とした研究を執筆した。実に画期的なことである:

「これらのデータは私たちにひとつのことを教えてくれている:核戦争を決して起こさないようにしなければならない。」

核戦争が起ころうとしている。何故か?それはエリートたちにとっては何の意味もなさないが、唯一残された戦略であるからだ。

著者のプロフィール:フィル・バトラーは政策を調査し、分析する専門家であって、政治学者。東ヨーロッパについても詳しい。最近のベストセラー:「プーチンのプラエトリアニ」、他。オンラインマガジンの「New Eastern Outlook」にて独占的な執筆をしている。

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これで全文の仮訳を終了した。

この記事には皮肉を交えた表現が他出する。また、反語的な言い回しも現れる。

著者は「核戦争が起ころうとしている。何故か?それはエリートたちにとっては何の意味もなさないが、唯一残された戦略であるからだ」と結論付けている。こういったことが、今、街の通りで囁かれているとすれば、確かにこれ程恐ろしい噂はない。

エリートたちは地下の核シェルターに食品や日用品、飲料水、燃料、等を大量に蓄えて、彼らに残された唯一の戦略であるボタンを押すことだけが残される。そんな状況に追い込まれたエリート政治家はいったいどのような決断を下すのであろうか?西側世界では多くの人たちが伝統的な宗教心とおさらばして、すでに久しい。それに代わって、重箱の隅を突っつくようなポリティカル・コレクトネスに明け暮れている。彼らには倫理的な制約はないようだ。とすると、エリートたちは理性や人間性よりも敵を出し抜くといった感情的な競争心だけに駆られることになるのかも。「ロシアとの対話を止めてしまった彼らには核による先制攻撃だけがすべての論理の最後のステップとなる。核弾頭は山ほどある。潜水艦もある・・・」と、著者はエリートたちの思考論理を推測しようとしているのではないか。

ところで、核戦争や放射能の脅威に関しては本ブログでもさまざまな記事を掲載してきた。それらを纏めて下記に収録しておこう。ご参考になれば幸いである。

2021710日:メディアが両首脳の挙動に焦点を当てる中、プーチンとバイデンは核戦争を回避するために新たな外交努力を開始

20201029日:核戦争の悪夢へと踏み込みつつある

2020101日:ドイツ - 国を挙げての議論で米国による核の傘に恥ずかしい思い

2020915日:核戦争 - 思考実験

2019210日:米国はもっと使い勝手のいい低出力核兵器を本格的に展開する。これは核戦争を起こしにくくすると彼らは言う - あたかも皆の知性を侮辱しているかのようだ

2018103日:米国は決して戦争には勝てない。その本当の理由は・・・

2018822日:米国が現実を受け入れないならば、それはわれわれのすべてにとって生存の脅威となる

2018124日:弾道ミサイルがハワイに住むわれわれに向かって高速で飛来しつつあると認識することはいったいどんな感じであったのか

20171024日:もしも北朝鮮が核攻撃を行ったとしたら、日本の被害の大きさはどれ程になるか?

2017819日:渚にて、2017年 - 核戦争を招きよせる

2017517日:先制核攻撃という米国の神話

2017221日:米国の指導層は核戦争を選択したのだろうか?

20161010日:ロシアに対する「からかい」が核戦争を誘発する危険性

2016912日:チェルノブイリ原発事故の影響 - ロシア側でもっとも放射線量が高い地域(原発から200キロ)における住民の苦闘

2016810日:恐怖症に陥った超エリートのために豪華な核シェルターを作る男

2016519日:広島・長崎への原爆投下はどうして戦争犯罪ではないのか?

201633日:米国の核兵器製造計画によって犠牲となった夥しい数の労働者や一般市民たち

201475日:核戦争による人類の絶滅

2014621日:「米国の核戦力の優位性」は単なる誤謬に過ぎない

2013514日:放射能の脅威 ― 先天異常

20121110日:日本に対する米国の原発支援は「原爆の製造」に好都合だったから

201298日:日本へ原爆を落とす必要はあったのか?

興味深いことには、あるいは、不幸な事にはと言うべきかも知れないが、2017221日の「米国の指導層は核戦争を選択したのだろうか?」と題された投稿に対して、その5年後の今、本日掲載の記事「嫌らしい噂が聞こえて来た。これでお終いだ!」においてその著者は「核戦争が起ころうとしている。何故か?それはエリートたちにとっては何の意味もなさないが、唯一残された戦略であるからだ」と結論付けて、政治エリートの思考過程を解明している。これらの記事にはふたりの著者が関与しているが、核の使用はこの5年間に米国の戦略の一部となっていることをわれわれ読者にはっきりと伝えている。

その一方、ロシア側も核の使用を認めている。最近、メドベージェフ元ロシア大統領がフランスのテレビ局とのインタビューで、核兵器を使用する際のロシアの軍事ドクトリン(“Basics of state policy in the field of nuclear weapons”)を説明した。それによると、「第19項の下に、私が間違っていなければ、核兵器を使用する4つの理由がリストアップされている。フランスの視聴者の皆さんのために私はそれらについて述べてみたいと思う。つまり、核ミサイルの発射、核兵器の使用、核兵器を管理する重要なインフラに対する攻撃の実行、ならびに、国家自体の存在を脅かす行動の4点だ。今のところ、(ウクライナにおいては)そのような動きはない。」と述べている。(原典:Four reasons for Russia to use nuclear weapons: by Tecdeeps.com, August 27, 2022

核の使用に関しては米ロ間に概念上の違いがある。最大の違いは次の点にあると私は理解している。米国は専制核攻撃も辞さないと言っている。タカ派の議員からは、たとえこの種の主張は選挙区の人たちに対して用意された強気の発言であると思える節があるが、決まったように先制核攻撃論が飛び出して来る。その一方で、ロシア側による核攻撃はあくまでもロシアが核攻撃を受けた場合に反撃のために使用するものであって、先制核攻撃は彼らのドクトリンには含まれていない。ただし、通常兵器による攻撃を受けた場合であっても、それがロシア国家の存亡を脅かす場合には核による反撃もあり得るとしている。

どうしようもない状況に陥ってしまった西側世界は手遅れになる前に目を覚まさなければならない。果たして先制核攻撃を起こさない実質的な努力を開始することができるのであろうか?

核兵器禁止条約(NPT)の国際的な交渉は不成功に終わっている。830日の天木直人メールマガジンの配信によると、「NPTが決裂した事を、まるでロシアひとりが悪者であるかのように報じた日本のメディアも、さすがに一夜明けて、まともな報道をせざるを得なくなった。きょうの各紙が報じた。核兵器をなくそうと願う団体らが、核保有国の傲慢さとやる気の無さに、批判と怒りの声を上げたと。いまこそ核保有国は核兵器禁止条約に加盟すべきだと要求したと。その通りだ。そして、彼らはその怒りと失望の矛先を日本政府に向けたと。核兵器禁止条約をより広げていくため、日本政府を動かさないといけないと。これもまたその通りだ。唯一の被爆国でありながら、米国の核の傘を優先し、核軍縮の義務に真剣に向かおうとしない日本政府こそ、今度の会議の決裂の、本当の意味での責任者なのだ・・・」と述べている。

毎年のように8月になると核兵器廃絶の話が高まる。今年も例外ではない。むしろ、さらに掘り下げた議論をし、先へ進まなければならない!

ここで、いいニュースが入って来た。国連はIAEAの検査官をウクライナに派遣し、ザポロジエ原発の安全性を速やかに調査したい意向を持っていたが、現地調査団が今週の後半には原発サイトに到着するとの具体的な予定をついに発表した。(原典:UN agency to inspect Ukraine nuclear plant amid safety fears: By msn.com, Aug/29/2022

参照:

1I Heard a Silly Rumor - This Is the End: By Phil Butler, NEO, Aug/18/2022

 

 


2022年8月28日日曜日

6カ月後、地政学的な地殻変動が起こっている

 

ロシアがウクライナに対する特別軍事作戦を開始すると宣言したのは今年の224日。6カ月前のことであった。

この軍事作戦は、実際には「ロシアが悪い」と喧伝する西側のプロパガンダマシーンの一方的な主張とは違って、2014年のマイダン革命以降某国が行って来たウクライナの軍国化とロシアに対する嫌悪感の醸成を基盤としたロシア潰しであることは明白であった。それはウクライナ政府軍がドンバス地域で執拗に行って来た民間人に対する無差別砲撃を見ると誰の目からも隠しようがなかった。その現実を理解するのは容易であって、高等教育を受ける必要なんてまったくなかった!当時から現在に至るまで国際政治のあらゆる背景の中でそう判断する以外の視点はいささかもあり得なかった。

ペペ・エスコバーは国際問題に関して深層を少しでも正確に、そして、少しでも幅広く理解しようとする際に私が最も信頼するジャーナリストのひとりである。ここに「6カ月後、地政学的な地殻変動が起こっている」と題された彼の最新の記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。

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ウクライナでロシアによる特別軍事作戦(SMO)が開始されてから6カ月経った今、21世紀の地政学的構造の諸々のプレートは驚くべきスピードと深さでそれらの位置を変え、計り知れない程の歴史的影響がすでに身近に感じ取れる。T.S.エリオットの文言を借用するまでもなく、これこそが(新しい)世界の始まり方であり、ブツブツと言っているのではなく、まさに断固とした形で始まっているのである。

ダリヤ・ドゥギナの悲惨な暗殺 ― モスクワの入り口で引き起こされた事実上のテロ行為 - はこの6カ月目の交差点と運命的に重なっているのかも知れないが、それは現在進行している歴史的衝撃における動的な影響を大きく変えることはないであろう。

ロシア連邦保安庁(FSB)は、犯人をウクライナ保安庁(SBU)の手先であるネオナチ・アゾフ工作員として断定し、CIA/MI6のコンビによって事実上支配されているキエフ政府はこれらの諜報機関の単なる道具に過ぎないと見て、24時間強でこの事件の真相を解明した。

アゾフ工作員はただの手先に過ぎない。いったい誰が命令を出したのかについての蓄積された情報やそれらがどのように扱われるのかに関してはFSBは決して公表することはないだろう。

ウクライナ市民権を与えられている小者の反クレムリン活動家、イリヤ・ポノマリョフはドゥーギン家への攻撃を準備した一団と接触していたと自慢した。だが、誰も彼を真剣に受け止めようとはしなかった。

明らかに深刻な点は、新興財閥と結びついた組織犯罪グループが、彼らによれば、クレムリン政府がその軸足をアジアへ移行することに影響を与えることになったとして知られているキリスト教正統派の民族主義哲学者ドゥーギン(訳注:ダリアの父親。この事件の際にダリアが運転していた車両は父親の所有であった)を排除するという動機をいったいどのようにして抱くに至ったかということにある(彼自身は排除されなかった)。

しかし、何よりも、これらの組織犯罪グループはユダヤ人新興財閥がロシアにおいて築いた不釣り合いな程の権力に対してクレムリン政府と協調してドゥーギンが行っていた攻撃について非難していた。だから、これらの連中はこの種のクーデターを仕掛ける動機を抱き、地元に基盤を築き上げ、関連情報を所有していたに違いない。

もしもここでモサドの作戦を詳しく説明することが妥当であるとするならば、それは多くの面でCIA/MI6よりも確固とした命題であろう。確かなことは、FSBは自分たちのカードを彼らの胸の内に保ちながら、彼らの報復が迅速、かつ、正確であって、傍目には決して見えないように努めるであろうという点だ。

ラクダの背を折ったわら:

SMOの動的な特性に関してロシア政府に対して深刻な打撃をお見舞いする代わりに、ダリヤ・ドゥギナの暗殺は加害者を愚かな殺人グループの巧妙な工作員として暴露しただけであった。

簡易爆発物は哲学者やその娘を殺すことはできない。本格的なエッセイの中でドゥーギン自身は戦争の本質 ― 米国が率いる集団的西側諸国に対するロシアの戦い ― がいかに思想上の戦争であるのかを説明している。そして、これは国家の存亡を掛けた戦争でもある。

正確に言うと、ドゥーギンはアメリカを「制海権を有する国家」、つまり、「海洋を支配する大英帝国」の後継者であると定義している。しかし、今や、地政学的な地殻構造プレートは新しい秩序を綴ろうとしている。「ハートランドの復活」である。

プーチン自身は2007年のミュンヘン安全保障会議で初めてこれを説明した。習近平は2013年に新シルクロードを立ち上げ、それを実現させ始めた。帝国は2014年にマイダン革命を推進し、ロシアに反撃した。ロシアは、2015年、シリアを支援することで帝国に報復した。

帝国はウクライナに対する賭け金を積み上げ、NATOはウクライナをマイダン革命後8年間にもわたって武装化に励んだ。2021年末、モスクワは、ヨーロッパにおける「安全保障の不可分性」に関する真剣な対話にワシントンを招待した。だが、ワシントンからは無応答という応答が返って来ただけであった。

三重奏が進行中であることを確認するに当たってモスクワ政府は時間を浪費することはなかった。つまり、ドンバス地域に対するキエフ政府軍による電撃戦が差し迫っていること、ウクライナは核兵器の取得を目論んでいること、そして、米国の生物兵器研究所の存在。これらはまさに新シルクロードのラクダの背を折るわらそのものであった。

ここ数ヶ月にわたるプーチンの公的介入に関する言動について行った分析によれば、クレムリン政府は、安全保障理事会のヨーダ・ニコライ・パトルシェフと同様に、集団的な西側諸国の政治・メディアの悪党やショック部隊がマイケル・ハドソン教授が定義している支配者、すなわち、実質的には銀行マフィア集団であるFIRE(金融化、保険、不動産)システムからどのように指示を受けているのかを十分に理解していたことが明白である。

また、直接的な結果として、集団的な西側諸国の世論は無知そのものであって、プラトンの洞窟の寓話が示すようにFIREの支配者によって完全な囚われの身となっており、代替的な物語についてはまったく容認することができないということを彼らは完全に理解していた。

だから、プーチンやパトルシェフ、メドベージェフにとってはホワイト・ハウスの老人で、テレプロンプターを読み上げるだけの人物やキエフのコカイン中毒者でコメディアンでもある人物が何かを「支配」しているなんて決して思ってはいない。ボンドの悪役を演じ、不吉な「グレート・リセット」を吹聴するクラウス・「ダボス」・シュワブと彼の相棒であって精神病に罹っている歴史家ユヴァル・ハラリの両者は少なくとも彼らの「計画」を詳しく説明しようとしている。つまり、世界規模での人口低減だ。すなわち、薬に溺れて忘却の彼方へ旅立った者たちを相手に。

米国が世界のポップカルチャーを支配している今、彼の内なる「暗黒街の顔役」を導こうとしている平均的な米国人であるウォルター・ホワイト/ハイゼンバーグは犯罪ドラマ「ブレイキング・バッド」で喋っている「私は帝国のビジネスに従事している」という文言を拝借するのが相応しいようだ。そして、帝国のビジネスとはまさに生々しい力を行使することであり、その後はあらゆる手段によって冷酷さを堅持することである。

ロシアは呪文を破った。しかし、モスクワの戦略は極超音速のビジネス用の名刺を使ってキエフを平坦にしてしまう戦略よりも遥かに洗練されており、たとえそれが何時であっても半年前からはあっという間に実行できていた筈だ。

モスクワ政府が今やっていることは事実上グローバル・サウス全体に対して、二国間、あるいは、組織化された国家集団との対話を保ち、世界システムが今我々の目の前でどのように変化しているのかを詳しく説明し、未来の主役はBRISCOEAEUBRICS+、大ユーラシア・パートナーシップであるとして構想を伝えることだ。

そして、私たちが今目にしているのはグローバル・サウスの広大な地域が、つまり、世界人口の85%がゆっくりとではあるもののFIREマフィア集団を彼らの国家の地平線から確実に追放し、最終的に彼らを倒す準備を整えているという点だ。

地上の現実:

間もなく塵埃と化すウクライナの地上に対してはTu-22M3爆撃機またはMig-31迎撃機から発射されるキンザール極超音速ミサイルが引き続き配備される。

HIMARS(高機動性ロケット砲システム)から成るがらくたの山が引き続き捕獲されることであろう。ロシアのTOS 1A重火炎放射器は地獄の門への招待状を送り続ける。クリミアの防空部隊は簡易爆発物が装着されたあらゆる種類の小型無人機を傍受し続けることだろう。こうして、地元におけるウクライナ保安庁の細胞組織によるテロ行為は最終的に粉砕される。

本質的に驚異的な大砲弾幕 ― 安価で大量生産される砲弾 ― を駆使して、ロシアは土地や天然資源、工業力、等の面では完全に整っている、極めて貴重なドンバス地域を併合することになろう。そして、このプロセスはニコラエフ、オデッサ、ハリコフへと続く。

地理経済学的には、ロシアは、戦略的パートナーである中国とインドは言うまでもなく、グローバル・サウスの顧客に対して大割引で原油を販売する余裕さえも持っている。採掘コストは1バレルあたり最大で15ドル、国家予算ではウラル産原油1バレル当たり4045ドルとしている。

ロシアの新ベンチマークが差し迫っている。ルーブル払いの天然ガス輸出が大成功を収めた後、ルーブル払いの石油輸出も今や目の前だ。

ダリヤ・ドゥギナの暗殺はついにクレムリンと国防省の両者が彼ら自身の規律を破ったという果てしない憶測を招くかに見えた。だが、そんなことは起らない。1,800マイルもの長大な前線に沿って軍事的侵攻を進めることは容赦がなく、非常に体系的なものを要求することになるから、それはより大きな戦略的な全体像の一部に挿入するしかない。

もっとも重要な方向性はロシアが集団的西側諸国との情報戦において勝つチャンスがあるのかどうかだ。それはNATO圏では決して起こらないだろう。たとえグローバルサウス全域で数多くの成功を果たし、その動きが拡大していったとしてもだ。

グレン・ディーセンが彼の最新の著書「ロシア嫌悪」で詳細にわたって巧みに実証しているように、集団的西側諸国はロシアが社会的、文化的、歴史的な面でいかに優れているかということについて何らかの物事さえも認めることは本能的に、そして、ほとんど遺伝的にも感覚を持ち合わせてはいないのである。

そして、ウクライナにおいて帝国の代理軍が粉砕され、非軍事化が事実上進行していることが帝国のハンドラーやその傀儡を文字通り発狂させているので、彼らの非合理性は今や成層圏にまでも達していると容易に推測される。

グローバル・サウス諸国は「帝国のビジネス」を見失ってはならない。嘘の帝国は、常に、恐喝、エリートへの賄賂、暗殺、そして、巨大なFIREの財政力によって監督されているすべての事柄によって巧妙に支えられた混乱や略奪をあれこれと生み出すことに極めて優れている。「分割統治」の本に出て来るあらゆるトリックを、特に、その本には記載されていない外部についてさえも予期しておくべきであろう。苦々しく、傷を負った、深く屈辱を受けた、衰退する一方の帝国を決して過小評価してはならない。

ご自分のシートベルトをしっかりと締めて欲しい。2030年代まではずっと緊張した動きが続くことであろう。しかしながら、その前に、望楼に沿って彼の軍団が急速に近づいて来ているので、冬将軍の到来には十分に備えて欲しい。風が吠え始め、FIREマフィアらが葉巻をくゆらす中、ヨーロッパは暗い夜の死の中で凍りつくであろう。

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これで全文の仮訳が終了した。

ぺぺ・エスコバーの歴史的な洞察は秀逸で、実に興味深い。たとえば、「プーチン自身は2007年のミュンヘン安全保障会議で初めてこれを説明した。習近平は2013年に新シルクロードを立ち上げ、それを実現させ始めた。帝国は2014年にマイダン革命を推進し、ロシアに反撃した。ロシアは、2015年、シリアを支援することで帝国に報復した」と述べている部分は、断片的な知識を持っているに過ぎないわれわれ読者に対して、個々の国際政治上の出来事を有機的に結び付けて、全体像を俯瞰し、世界観を構築していく手法を雄弁に披露している。

国連総会で反ロ決議案について投票が行われた。ロシア連邦委員会がこの投票結果について論評をしているのだが(原典:The Federation Council assessed the results of the vote for the anti-Russian resolution in the UN: By Izvestia, Aug/25/2022)、その要点を抜粋すると次のような具合だ。「国連での反ロシア決議案の投票結果は世界で反ロ派が増えているわけではないことを示している。・・・国連加盟国の193カ国の中で54カ国が決議案を支持した。これは世界中の国々の3分の2は親米派諸国による反ロ政策を支持してはいないという事実を示している。賛成票は西側諸国、南米やアジア太平洋地域の一部の国々によって投じられた。・・・これらの国々はウクライナにおけるロシアの特別軍事作戦を非難する決議案に賛成し、戦闘の即時休止を求めた。・・・ブルームバーグの報道によると、G20諸国の約半数はロシアを国際社会から締め出そうとする米国の意向に賛成ではない。」

この国連での投票結果もペペ・エスコバーが伝えようとしている世界規模での地殻構造の変化を物語っているのではないか。

参照:

1Geopolitical tectonic plates shifting, six months on: by Pepe Escobar, The Saker, Aug/24/2022 

 

 


2022年8月23日火曜日

トラファルガー広場よ、さようなら ― 欧州の自由を祝福

 

某国のなりふり構わない金儲け主義や植民地主義、白人至上主義によって辟易とさせられている国際政治環境の中で人々はいったいどんな未来を待ち望んでいるのであろうか。

日本では安倍晋三元首相の暗殺事件が起こってからというもの、日本社会の右傾化が指摘されている。状況によっては一気に右傾化するのかも知れない。それは雲の上のボスからの命令が余りにも極端な形で、しかも、ボロを出さない極めて周到なやりかたで日本へ届けられたからではないか。この出来事は欧州の指導者たちにも相当な影響力を及ぼすのではないかと思う。表面には決して出ては来ないだろうけれども、この話はどこか深層で欧州の政治的趨勢にも影響力を持っているように見える。自分自身が暗殺の対象になるような言動や行動は如何なる政治家も避けようとするに違いないからだ。この種のテロ行為が公然と起こる可能性が決してゼロではないことが明白となった今、西側の指導者らは多くがこのメッセージを受け入れるしかないのではないか。

だが、一般庶民の世界はそういった政治家の世界とは異なる。少なくとも私はそう思う。なぜならば、一般庶民には雲の上のボスの意向に忠実に、かつ、直接的に従う必然性はないからである。

ここに、「トラファルガー広場よ、さようなら ― 欧州の自由を祝福」と題された記事がある(注1)。

13年後の英国を舞台にした近未来を描いたエッセイである。言うまでもなく、この著者が描く近未来の英国は現在の混沌とした現実を色濃く反映し、現状とは完全に対極に位置した国家を英国の将来像としている。ひとつの夢物語である。しかしながら、単なる夢物語として切り捨てることは躊躇したくなるような魅力も持っていることをここで強調しておきたい。このエッセイは将来像を描くと同時に、英国は過去の200年間植民地主義に邁進して来たという歴史的事実を余すことなく伝えてくれている。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。

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副題:期待を込めて2035年を待つ

英国:

2034年の英国の崩壊と、20年近くの政治的混乱の後、大衆がミレニアル世代の権力層を打倒した後、英国は前進の一途にある。先週、ブレア(セルビア、アフガニスタン。イラク)、キャメロン(リビア、シリア、イエメン)、ジョンソン(ウクライナ)といった高齢になった戦争犯罪人を拘留するとして、新人民政府によって国際逮捕状が発行された。

英国の首都の内部についての変更に関しては、ちょうど今日、首都ロンドンの人民政府によって、「英国の再イングランド化」計画の一環として「脱英国化」としても知られている構想が公表された。

イングランド広場:

ロンドンの「トラファルガー広場」はスペインの岬であるアラビア語の名称「トラファルガー」の名前を与えられてからちょうど200年となったが、この広場は、今日、「イングランド広場」と改名される。そこに立つネルソン提督記念塔のネルソンの像は、「イングランドの最愛の人」、「真実の語り手」、あるいは、「立法者」として知られているイングランドの実質的な創始者であるアルフレッド大王の像に置き換えられることになった。こうして、この塔は「アルフレッド記念塔」として知られるようになる。人民政府の広報官は戦術的天才や個人的な勇敢さについては疑う余地のないネルソン提督を侮辱することを決して望んではいないが、非軍事化は「脱大英帝国化」の中核的な部分であると述べた。この像はかっては「大英博物館」と呼ばれていた「英国博物館」に収納される。18世紀以来、主に大英帝国主義者によって世界中から略奪されて来た工芸品の多くが、それらの出身国へ返還されたので、この博物館は、今や、十分な空きスペースを持っている。

それと同時に、ネルソン提督記念塔の基礎の周囲にあった4頭のライオンも、非軍事化の政策の一環として、すなわち、帝国主義・軍国主義の攻撃的なシンボルを取り除く政策の一環として英国博物館に収納される。これらは4人の女性像に置き換えられ、母性、平和、正義、自由を象徴するものとなる。イングランド広場の彫像のための4つの台座は、現在、ドイツ王ジョージ4世と帝国主義・軍国主義者であるネーピアとハブロックの3人の彫像(4番目の台座は空)によって占められているが、これらも英国博物館に運び込まれる。彼らは「4人のウィリアム」として知られる英国史における文学的および社会的天才たちの彫像に置き換えられる。つまり、ウィリアム・ラングランド(1332-1386)、ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)、ウィリアム・ブレイク(1757-1827)、ウィリアム・コベット(1763-1835)の4人だ。

読者の方々はご存じかと思うが、ラングランは「ピアーズ・プラウマン」と呼ばれる先見の明のある英語の詩と寓話を書いて、中世のカトリック教会の腐敗を非難し、一般庶民の単純な信仰を称賛した。シェイクスピアに関しては、彼は英語の最も優れた詩人であり、非常に知覚的な心理学者でもあり、人間の本質とその動機の善悪を詳細に説明した。ブレイクは彼の時代の恐ろしい搾取に反対し、いわゆる「産業革命」の「暗くて悪魔的な工場」、すなわち産業労働者からの大量搾取を非難する新英国国歌「エルサレム」を書いた先見の明のある詩人であり、芸術家でもあった。コベットは社会正義のために奮闘し、婉曲的に「囲い込み」と呼ばれるイングランドの共有地の集団化、すなわち民営化、すなわち単なる窃盗に対して反対を唱える政治家であった。彼は常に腐敗と貧困に反対し、農村部の繁栄と自由を支援する運動を繰り広げた。

イングランド広場のジェリコー、ビーティ、カニンガムの帝国主義者である3人の提督の胸像は英国博物館に送られ、兵士(ウィルフレッド・オーウェン)、商人の水兵(ジョン・メイズフィールド)、飛行士(ジョン・ガレスピー・マギー、つまり、「ハイ・フライト」の著者)の3人の有名な詩人の胸像に置き換えられる。彼らは過去の英国の帝国主義戦争における普通の人々、すなわち、「ロバに率いられたライオン」の犠牲を記憶している(訳注:「ロバに率いられたライオン」とは第一次世界大戦における英国の歩兵を描写し、彼らを率いた愚かな将軍を非難する際にもっとも一般的に使用された表現である)。イングランド広場の南側にあるチャールズ1世の像は何でも掴み取ろうとする商人らの派閥によって奪い去られ、首を切り落とされたが、そのまま保持される。しかし、ナショナルギャラリーの前にあるスコットランド王ジェームズ2世と奴隷を所有した入植者ジョージ・ワシントンの彫像は英国博物館に送られ、イングランドの2人の守護聖人である聖ジョージと聖エドマンドの彫像に置き換えられる。

人民の広場:

一方、貴族院の廃止以来、「人民の家」と改名された「議会」の外にある彫像、ギルドホールの彫像、そして現在「人民の広場」と改名された国会議事堂広場にある12の彫像にも変更が加えられる。人民の家の外では、クロムウェルの像は残忍な暴漢クロムウェルが虐殺した少なくとも20万人(人口の10%)ものアイルランドの農民の像に置き換えられる。ギルドホールでは、サッチャーの像はヨークシャーの炭鉱労働者の像に置き換えられる。両者の古い彫像は破壊行為から保護するために英国博物館へ持ち込まれる。

人民広場では現在ある12の彫像のうち9個が撤去される予定だ。これらは、反時計回りの順序で言うと、まずはチャーチルの像であり、これは第二次世界大戦で爆撃によって孤児となった英国の子供の像に置き換えられ、デビッド・ロイド・ジョージの像は負傷した第一次世界大戦のウェールズ兵に置き換えられる。南アフリカのスマット首相の像はボーア戦争中に英国の強制収容所に収容されていたボーア人女性に置き換えられる。英帝国主義者であったパーマストン首相の像は英国によるロシアの侵略(いわゆる「クリミア戦争」)時のロシア農民兵士の像に置き換えられ、英帝国主義者のスミス=スタンレー首相(ダービー伯爵)の像は英国が引き起こしたいわゆる「アヘン戦争」(中国での大量虐殺)で苦しめられた中国人女性の像に置き換えられる。英帝国主義者のディズレーリ首相の像はディズレーリが不道徳にも支持したオスマン帝国によって抑圧されたブルガリアの農民女性の像に置き換えられ、英帝国主義者のピール首相の像はアイルランドにおけるジャガイモ飢饉で飢えに苦しんだアイルランド人女性の像に置き換えられる。英帝国主義者のカニング首相の像はいわゆる「ハイランド・クリアランス」政策で自分の土地から力ずくで追い出され、自分の土地を盗まれたスコットランドのクロフターの像に置き換えられる。リンカーンの像はタスマニアの原住民の像に置き換えられ、これは北米、中米、南米の原住民やオーストラリアの原住民、大量虐殺されたタスマニア人やマオリ人の取り扱いを表すものであって、すべてが英国の「植民地化」政策(土地の収奪)の結果として起こったものだ。ネルソン・マンデラやマハトマ・ガンジー、ミリセント・フォーセットの彫像はビクトリア朝による抑圧と権利の剥奪から解放されたアフリカ人やインド人、女性の自由のための努力の象徴としてそのまま残される。

欧州:

新しい比例代表制民主主義の下で有権者の85%以上によって選出された新たな英国人民政府は古い暴君を退陣させ、専制政治の犠牲者たちを祝うことに熱心である。新たに再統一されたアイルランドや新たに独立したスコットランドやウェールズだけではなく、旧EUの新しく解放された国々においても並行してさまざまな出来事が起ころうとしていることを我々は知ることになった。これは先月、ブリュッセルのベルレモン・ビルにあるEU本部が解散されたことに続くものだ。西欧の至る所で自由の旗が反抗的にはためき始めている。

パリでは凱旋門が「L'Arc du Peuple」(「人民の凱旋門」)と改名され、ナポレオンの血なまぐさい戦いを示すレリーフは凱旋門から取り除かれる予定だ。ローマやブリュッセル、ウィーン、ベルリン、マドリード、リスボンでは通りや彫像、記念碑の名称をすべて見直している。英国政府に関しては、すでに新たに設けられた自由欧州諸国連合(CFEN)に加盟しており、この緩やかな連合体は持ち周りで各国の首都で会合を開催する予定である。もともとこれは父方のロシア政府によって提案されたものであって、古い中央集権化されたEUと選挙では選ばれていない官僚や暴君を排除するために結成されたものである。

2035815日の臨時ニュース:

アントニー・ブレアはマイアミ郊外のある農家の近くで地中の穴に隠れているのが発見され、その後、自由アメリカ警察によって逮捕されたことが発表されたばかりだ。ブレアはおなじみの外見よりも長い顎鬚や髪を伸び放題にして写真に写っていた。彼は82歳であるにもかかわらず健康であると警察当局は説明している。ベオグラード、そして、バグダッドで行われる彼に対する二重裁判の詳細はまだ決まってはいない。地元警察は彼らの囚人を「ヴィック」と呼んでおり、これは「超重要犯罪者」の略。当局者はブレアが逮捕された後、彼らに泣き言を言ったと伝えている。「私は無実だ。私は何もしなかった。私はホワイトハウスからの命令に従っていただけだった」と。

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これで全文の仮訳が終了した。

英国が13年後にこのような新国家に変身したとすれば、それ以前に米国はすでに崩壊し、彼らの政治・経済・軍事上の優位性は地上から完全に消え去ってしまった後の出来事であることを意味する。その段階を経ずに英国がこのエッセイのごとく脱帝国主義、脱植民地主義に大変身することはあり得ないだろうと思う。

米国が単独覇権を失い、ごく普通の国家のひとつになったとすれば、それは現行のロシア・ウクライナ戦争においてNATO軍が壊滅し、米英の軍事専門家がウクライナに対する支援を完全に放棄したということだ。ウクライナは成り行き任せとなり、米英のトップの政治家は何の代案も持ち合わせてはおらず、彼らは国内政治に翻弄させられているといった状況であろう。それと同時に、米中戦争においても米国は中国からの攻撃を受けて、空母攻撃軍団のすべてが戦闘能力を失った場合だ。これは西側の軍産複合体が軍事作戦能力を完全に喪失し、国際的な影響力を全面的に失った場合である。つまり、そのような段階を経て、ヨーロッパ各国の首脳はようやく現実に目覚め、一般大衆の関心事に初めて歩調を合わせるという地殻変動的な政策転換を行なわざるを得なくなったということだ。

この引用記事に描かれた英国の13年後の未来像はそんな時にしか、あるいは、そんな経過を辿ってしか起こり得ないのではないか。

なお、同一の著者のもうひとつのエッセイを83日に「キャッスル・ヨーロッパの終焉と自由の始まり」と題してこのブログに掲載している。その投稿も併せて読んでいただければ、著者の思考プロセスや概念をより鮮明に理解できるのではないかと思う。

ところで、この夢物語とは別に、あるいは、少なからず関連しているのかも知れないが、現実の英国を取り巻く政治環境は実に複雑である。昨年の5月に英国は正式にEUから離脱したばかりではあるが、英国ではこれからも英国自身の国内分裂がさらに深化するのではないかと懸念されている。最大級の動きのひとつは北アイルランドがアイルランドに併合され、スコットランドが独立するという動きだ。そうなると、最後にはウェールズも独立することになるだろう。英国としてはイングランドだけが残る。EUに残りたかったスコットランドや他の英国から離脱した国々は待ってましたとばかりにEUに加盟することになるのだろう。対ロ強硬路線では常に米国の覇権を維持する政策の後押しをしてきた英国ではあるが、これらの内部分裂が起こった暁には英国はイングランドだけとなって、国際政治における英国の影響力は衰え、国際舞台からは某国と共に姿を消すことになるのかも知れない。少なくとも、主役を演じ続けることはないであろう。

その一方で、13年後に高笑いしているのはプーチン大統領であり、ラブロフ外相であろうか。そして、中国の習近平主席と毅外相といった面々だ。ヨーロッパでの核戦争を無事に回避することができたとすれば、いよいよ多極化世界の到来である。誰よりも喝采するのは世界人口の85%を占める非G7国家、あるいは、非アングロサクソン国家の一般大衆であろう。

邪悪の帝国が2035年を越しても覇権を維持し続け、このエッセイが単なる夢物語で終わるのか、それとも、現実となるのかについては誰にも確信はない。

とは言え、「トラファルガー広場よ、さようなら」と皆が言える日を待ちたいと思う。

参照:

1Goodbye, Trafalgar Square: Celebrating Freedom in Europe: by Batiushka for The Saker blog, Aug/16/2022