ウクライナとロシアとの間には険悪な状況が現れ、その程度は時間がたつにつれてさらに悪化している。ロシアにとってはウクライナの戦闘能力を無力化することは軍事的には容易いことだと言われている。しかし、たとえ軍事的にウクライナを惨敗させたとしても、国際政治上ではロシアは大きな非難を浴びて、孤立することが目に見えている。それでは、結局のところ、政治的にはロシアの負けである。ロシアは国際的な地位を今以上に劣化させてはならないからだ。
そして、ウクライナの背後にはNATOが居る。ウクライナに比べてロシアが感じるより大きな懸念はNATO軍との戦争であると専門家は言う。ロシアとNATOとの間に全面的な戦争が起こると、最終的にはNATO軍が壊滅の憂き目にあい、ロシア軍が勝利するだろう。これも、軍事専門家の見方だ。
ここに「ロシアとの戦争はどのようなものとなるか?」と題された最新の記事がある(注1)。巷にはこのテーマに関してはさまざまな見方があるが、この問いかけに対する答えは、もちろん、あなたが拝聴しようとする相手によって大きく相違する。まずは、お互いに異なるさまざまな見解を理解し、整理してみることが肝要であろう。
ジュネーブで1月11日に米ロ高官による会談が始まった。ロシア側はロシアの安全保障を保証するための米国との枠組みに関して自分たちが前もって練り上げた具体案を事前に米国側に示していた。これはロシア側からの最後通牒であると見なされている。その核心はNATOがさらに東への拡張はしないという点にある。つまり、ウクライナをNATOのメンバーには加えないという約束を米国から取り付けることだ。米国側は何らかの返答をしなければならないのであるが、ジュネーブでの米ロ高官の会談は何の成果も見ずに終った。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。
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ウェンディ・シャーマンは月曜日(1月11日)にジュネーブで始まるロシア高官との会談における彼女の目的は過度な自信を抱くことがもたらす対価について彼らに講義をすることにあると考えているようだ。ところが、スコット・リッターは彼女は米国やNATOおよびEUを破滅の道に招きかねないと警鐘を鳴らしている。
もしもある根本的な外交交渉が最初から失敗する運命にあったとすれば、それはまさにウクライナとロシアの安全保障に関する米ロ間の話し合いのことを指している。
両者は会談の議題についてさえも同意することができない。
ロシア側の観点からは、状況は実に明白だ。つまり、「ロシア側は明白な立ち位置を携えてここ(ジュネーブ)へやって来たのである。その立ち位置にはいくつかの要素が含まれているが、それらは、私の考えでは、理解可能であり、(高い水準も含めて)明白に組み立てられている。われわれの提案から逸脱することは単純に言ってあり得ない」とロシアの外務副大臣を務めるセルゲイ・リアブコフが米国の代表団を指揮するウェンディ・シャーマン国務副長官によって開催された日曜日の夕食会の後で記者団に向かって述べた。
ロシアのウラジミール・プーチン大統領はロシアの安全保障を西側が保証することに関して12月初めにジョー・バイデン米大統領に向けて要求を示していた。この要求は後にロシア側がその詳細をふたつの条約の形で書き上げた。そのひとつは米ロ間の安全保障条約であり、もうひとつはロシアとNATOとの間の安全保障の合意である。
後者はウクライナのNATOへの参加を禁止し、北大西洋軍事同盟の東方への拡大は如何なるものも排除することを意味する。また、リアブコフは、両陣営が会合を持っている間に何らかの結論を得るために米国はこれらの提案に速やかに着手するべきであると簡潔に述べた。ところが、この会合が月曜日に始まろうとしている今でさえも、米国が何らかの決断をしたようには見えない。
「会談は困難なものとなろう」とリアブコフは夕食会の後で記者たちに向けて言った。「彼らは容易い相手ではない。彼らはビジネスのように取り組むであろう。明日は時間を浪費してはならないと私は思う。」ロシアは妥協する用意があるのかと質問され、リアブコフは簡潔にこう答えた。「米国側こそが妥協する用意をするべきだ。」
米国がどうしてもやりたいと思うことは、もしもロシアがウクライナへ侵攻したら、「深刻な結果」が待ち受けていることをロシアに思い起こさせることにあるようだ。それは米国とNATOが恐れていることが身近に迫り、何万人もの兵力が関与するロシア軍の演習が最近この地域で行われたからであった。この種の脅しは、近く行われる首脳会談の枠組みを話し合うためにプーチンがかけた電話での際も含めて、バイデンはプーチンに対して何度か行っている。
さらには、リアブコフ・シャーマン会談の前夜、トニー・ブリンケン米国務長官はもしもロシアがウクライナへ侵攻したらロシアは「甚大な結果」に直面するだろうと述べ、これらの脅迫をさらにもう一度単純に繰り返した。
プーチンについて言及しながら、「彼にはふたつの道を提供したことが明らかである」と言った。「ひとつは外交と対話を通してだ。もうひとつは抑止力によってだが、もしもロシアがウクライナに対する攻勢を再開したらロシアには甚大な結果が待ち受けているだろう。われわれはプーチンがどちらの道を選ぶかについて今週試すことになる。」
歴史の教訓:
ロシアの真意を読み取ろうとする時、バイデンとブリンケンは二人ともまさに唖で、愚か者であり、盲同然である。
リアブコフはロシア人にとってはすでに明白となっている事実をそれとなく言った。つまり、正真正銘な国家安全保障に関するロシア側の関心には妥協の余地はまったくない。もしも米国がロシアを個々の加盟国の安全を脅かす唯一の敵であると見なす軍事同盟における戦力の増強はロシアにとって如何に脅威であるかを理解することができないならば、1941年6月22日の出来事が如何にして今日のロシアの心情を形作ったのか、ロシアは何故そのような状況が二度と起こることを許さないのか、どうして今回の話し合いが始まる前にすでに失敗に終わったのかについてはまったく理解できないであろう。
米国の脅威に関してはロシアはすでに回答をしている。ロシアを制裁しようとする試みは如何ななるものであってもそれはロシアと制裁国側との関係に「完全な断絶」をもたらすことになろうと。誰も歴史を専攻する学生である必要はない。ふたつの当事国の間の「完全な断絶」の後にやって来る論理的な段階は一方の国家の、あるいは、両方の国家の安全保障に対する脅威を巡る事柄で対立し、平和的な関係を再開することはできずに、戦争に走るしかない。
モスクワにおける米国務省の見栄っ張り連中には当たり障りのない言い方は見られず、むしろ、彼らは冷たく硬派な態度で事実を表明している。つまり、ロシアの要求を自己責任で無視している。最悪の事態はロシアがウクライナへ侵攻することであると米国は考えているようだ。その場合、ロシアは経済制裁を受け、軍事的脅威の下で疲弊することとなる。
ロシアが考える最悪の事態はNATOとの軍事紛争である。
一般的に言って、軍事的紛争の現状に関してもっともよく準備した側が勝利を手にする。
ロシアはこの種の可能性に関して1年以上をかけて準備して来た。戦争準備が整った10万人以上の兵力を短期間に召集する可能性を繰り返して内外に示して来た。その一方で、NATOは6~9か月間にも及ぶ真剣な準備の結果、やっと3万人を招集することができることを示した。
戦争の形:
ロシア・NATO間の紛争はどのようなものとなるのだろうか?手短に言うと、それはNATOが準備して来たものにはなりそうもない。そのような場合、NATOにとっては時間稼ぎが最強の援軍である。時間を掛けることによってロシア経済を疲弊させ、NATOにとってはロシアの通常兵器に匹敵するだけの兵力を準備することが可能となって来る。
ロシアはこのことを良く知っており、ロシア側の行動はすべてが迅速で、かつ、決定的なものとなるように計画するであろう。
もしもそういった事態になったならば、何よりもまず、ロシアがウクライナへの侵攻を決心する際には、彼らは成功裏に実行するために必要な十分な資源を当てがい、十分に考え抜いた行動計画を実践することであろう。ロシアはウクライナにおいて軍事的な間違いを仕出かすことはないだろう。そんな間違いをしたならば、アフガニスタンやイラクにおいて米軍が経験したように泥沼に引き込まれる可能性があるからだ。ロシアはそれよりも以前の米国の軍事行動(たとえば、砂漠の嵐作戦や第一次湾岸戦争)を研究し、そういった紛争から得た教訓をしっかりと心に刻んでいる。
敵国を破壊するのにはその国の領土を占領する必要はない。敵国の領土を占領する代わりに、その国の国力を壊滅するような戦略的な空爆こそが取り得る最高の作戦だ。つまり、それが経済、政治、軍事上の能力であろうと、あるいは、それらのすべてであろうとも、敵国の軍隊を潰すべく計画された陸上作戦と組み合わせて実施する。
ミサイルによる精密な攻撃に裏打ちされているロシアは圧倒的な軍事的優位性を持っていることからも、ウクライナに対する戦略的な空爆作戦を行えば、米国が1991年にイラクで1か月以上をかけて達成した事柄を数日の内にも達成することができるであろう。
地上では、ウクライナ軍の壊滅は保証付きだ。単純に言って、ウクライナ軍は大規模な地上戦に向けて装備し、訓練して来たわけではない。同軍は順次に壊滅され、ロシア軍はウクライナの守備軍を殺害することよりもウクライナ兵士の捕虜の取扱いにより多くの時間を費やすことになろう。
しかしながら、ウクライナに対するロシア軍の作戦が大規模なNATOとの紛争において成功するには、ふたつの事柄がおこらなければならない。つまり、ウクライナは現代的な国民国家としての存在を失うこと、ならびに、ウクライナ軍の壊滅は一方的で急速に起こることのふたつだ。もしもロシアがこれらのふたつの事柄を達成することができるならば、ロシアはNATOを相手にした総合戦略上の立ち位置を確立する上で次の段階へ移行する。つまり、威嚇へと進むことが可能となる。
米国、NATO、EUおよびG7はいずれもが「前代未聞の制裁」を約束したが、制裁は相手がそれを気にする時にだけその効力を発揮する。西側との関係を完全に破棄することによって、ロシアはもはや西側からの制裁を気に掛けることはないであろう。さらには、たとえSWIFTによる国際決済から除外されたとしても、ロシアはヨーロッパがロシアからのエネルギー無しに耐えることができるよりもさらに長く生き残れるという現実は極めて単純な認識である。ロシアと西側との関係の断絶はヨーロッパの顧客に対するロシア産の天然ガスや原油の供給は禁輸となることを意味する。
ヨーロッパには代替案がない。ヨーロッパは苦難に喘ぐが、ヨーロッパはかっての民主主義国家で構成されていることから、政治家が償うことになる。ロシアとの対決に関して盲目的に米国に追従して来た政治家たちは、今や、誰もがナチを崇拝する連中やヨーロッパの他の国々とは共通点を何も持たず、全面的に腐敗している国家(ウクライナ)のためにいったいどうしてわれわれが経済的自殺をすることになったのかに関して有権者に対して説明をしなければならない。会話は極めて短かく終わるであろう。
NATOの解決策:
Photo-3:ドイツにおけるNATO軍の演習。(Spc. Ashley Webster/Wikimedia
Commons)
もしもロシアがウクライナへ侵攻した後に米国がロシアの西方の前線に沿ってNATO軍を構築しようと試みるならば、ロシアはヨーロッパにおける既成事実を今や「ウクライナ・モデル」として知られているであろう形で再度提示することであろう。手短かに言えば、バルト諸国やポーランド、フィンランドがNATOへの参加を試みた場合、ロシアはウクライナに対する対応とまったく同じ対応をこれらの国々にも適用することであろう。
また、米国が十分な軍事力を蓄えるのに十分な時間を費やすまでロシアが待ってくれることなんてないだろう。ロシアは攻撃対象となる国家の経済機能を劣化させる空爆との組み合わせによって対抗しようとする国を単純に破壊するであろうし、陸上作戦は戦争遂行能力を削ぐために計画される。ロシアはNATO
圏を長い期間にわたって占領する必要はない。ただロシアとの国境にNATOが集結した軍事力を破壊するだけで事は足りるのだ。
ここには思わぬ展開が待ち受けている。それは核兵器を採用するには至らないという点だ。このような結果を予防することについてNATO
は何をすることも出来ない。軍事的には、NATOは以前の自分たちの姿の影でしかない。かっては偉大なヨーロッパの軍隊であったが、彼らはバルト諸国やポーランドにおいて大隊規模の「戦闘グループ」を創立するために彼ら自身の戦闘組織からその一部を充当しなければならなかった。その一方で、ロシアは二つの軍隊サイズの組織を再構成した。つまり、第一防衛タンク軍団と第二十混成兵器軍団であって、これらは冷戦時代から敵地の奥深くにまで軍事行動を展開することを専門とする組織である。
たとえラスベガスであってさえもこのような状況に勝ち目を与えてはくれないであろう。
シャーマンはヨーロッパの運命を手中に握りながら、ジュネーブでリアブコフと対峙する。悲しいことには、彼女はこの機会をそのようには見てはいない。バイデンやブリンケンおよび米国の今日の国家安全保障の状況にたむろすロシア恐怖症の連中のお陰で、シャーマンは単に外交上の失敗の結果をロシア側に伝えるためにそこに居ると考えている。脅かしを与えるために。単なる言葉尻だけで。
シャーマンやバイデン、ブリンケン、ならびに、他の連中が理解しなければならないことはロシアはこういった結末をすでに織り込み済みであって、それらの結末を受け止めようとしていることは明白なのだ。そして、その結末に対応する。行動で。
シャーマンやバイデン、ブリンケン、ならびに、他の連中はいったいこのことをじっくりと考え抜いたのであろうかと誰もが不振に思うであろう。可能性としては、彼らは何も考えもしなかった。ヨーロッパにとってこのような結末は実に悲惨なものとなる。
著者のプロフィール:スコット・リッターは海兵隊の元諜報専門将校であって、軍縮条約を実行する旧ソ連邦において勤務し、砂漠の嵐作戦ではペルシャ湾で仕事をし、イラクでは大量破壊兵器の武装解除を監督した。
注:ここに掲載されている諸々の見解は全面的に著者のものであって、それらはコンソーシアムニュースの見解を反映すものあるかも知れないし、まったく反映したものではないかも知れません。
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これでこの記事の仮訳は終了した。
米英はウクライナ政府に対する武器の供給を強化している模様だ。つまり、武器を供給することによってウクライナ政府に対して対ロ戦争を煽っているのである。しかも、NATO圏全体を見ると、バルト三国を経由した供給ルートもあり、NATO加盟国が米国製の武器をウクライナへ供与することを米国は容認したとも報じられている。今まで何度も見て来た典型的な姿がここに観察されるのである。
ロシアはウクライナへの侵攻はしないとかねてから強調して来た。しかしながら、ウクライナの東部地域ではロシア語を日常語とする同胞が2014年のクーデターによって設立されたネオナチのウクライナ傀儡政権によって弾圧され、死者が多数出ている現実を見ると、ロシア国内の世論は最終的には同胞の救済という正義に駆られるのではないか。そういった世論が強くなると、モスクワ政府は今までの文言を繰り返すことはできなくなるだろう。
ヨーロッパ経済を率いているドイツにとっては安価なエネルギー源であるロシア産天然ガスを確保することは純然たる経済上の論理であって、高価な米国産の天然ガスをはるばると輸入することは論外であると思う。自ら進んで自国の国際競争力を劣化させる必要はないからだ。NATO軍がロシアとの交戦を始めたら、ロシア産天然ガスの供給は当然ストップする。ヨーロッパの冬は厳しいが、寒い冬を過ごさなければならない。経済は停滞する。これはヨーロッパの住民の大多数にとってはあり得ないカードだ。
米国の戦争屋や大手メディアは本当にロシアとの戦争を願っているのであろうか。現実には対ロ戦争を回避する意見も少なくはなく、決して一枚岩ではないことが観察される。ましてや米国の対空防衛システムでは対応ができない極超音速ミサイルを実戦配備しているロシアを相手に戦争を始めることは素人の私には自殺的にさえ見える。今まで米軍にとってはお家芸であった空母軍団は今や水面に浮かぶアヒル同然であるとさえ言われている程だ。武装兵力のバランスが最近均衡を失い、優位性の所在は正反対になったのである。そんな現実を見ると、米軍の将官らはロシアとの交戦を本当に望んでいるのであろうか?
意思決定者らの間にある総合的なバランスはいったいどちらに傾くのか?私にはさっぱり分からない。ひとたび戦争が起こると、最大の犠牲者は一般庶民であることは歴史を見るまでもなく明らかだ。ロシア・NATO戦争が起こらないことを願うばかりである。
ここまでは昨日書いた。
一夜明けて、今日は興味深い展開を目にした。昨日(1月24日)の報道によると、米英両国の政府はウクライナに駐在する政府職員の家族はウクライナから速やかに出国するようにと推奨した。報道の見出しによると、これは命令である。この推奨内容はウクライナ政府が数日前にロシアによる攻撃が真近に迫っているとして大声を張り上げたことを受けたもののようだ。そして、本日(1月25日)、それとは打って変わって、EUの外交官トップであるジョセフ・ボレルの言葉として次のような内容が報じられている。「もちろん、何もない。攻撃が迫っているという懸念を強めるような情報が何かあるとは私には思えない。」
やはり、ウクライナを巡ってのロシアとの武力紛争は起こしたくはないということがEU側の本音なのではないだろうか。
参照:
注1:What War With Russia Would Look Like: By Scott
Ritter, Consortium News, Jan/10/2022