2018年8月29日水曜日

モンサントの有罪判決は始まったばかり


モンサント社が販売する除草剤「ラウンドアップ」の主成分であるグリフォサートは健康に関する権威筋によって癌との関連性が指摘されている。最近発表された報告書によると、子供用として販売されて数多くの朝食用食品やシリアルにはグリフォサートが含有されている。非営利団体のEnvironmental Working Group (EWG)によって実施された調査によると、オーツやグラノーラバー、スナックバーにはもっとも広範に使用されている除草剤の残留物質が含まれている。分析に供された45種類の食品のうちで31種の食品が科学者らが子供たちのために推奨する安全基準を超していた[注1]。

米国の裁判所におけるこのモンサント社の除草剤を巡る損害賠償訴訟については、最近、サンフランシスコ高裁がモンサントに原告の被害者に対して巨額の損害賠償を支払うよう命じた。モンサントは、もちろん、最高裁へ上訴すると表明している。

8月11日の報道によると、モンサントは発癌性を争うサンフランシスコの法廷で破れ(これは画期的な出来事だ)、学校の校庭管理者であった原告のディウェイン・ジョンソンに対して2億8千9百万ドルを支払うよう言い渡された。原告はカリフォルニアに在住する父親で、非ホジキンリンパ腫を患っている。これはグリフォサートを主成分とする除草剤のラウンドアップによって引き起こされたものだ。ジョンソンは3児の父親で、校庭を管理する職についていた。医師の話によると彼の余命は数ヶ月と言われ、ラウンドアップという商標で販売されている除草剤の化学成分が癌を引き起こしたと主張し、モンサントを法廷の場に送り込む最初の原告となった。この訴訟以外にも約4,000人が同様の訴訟で列を成している [注2]。

子供用の朝食用シリアルとか世界規模で使用されている除草剤による影響を考えると、この除草剤が人々に与える衝撃には計り知れないものがある。ラウンドアップの訴訟では原告の数は8,000人に急増したという報告もある(8月23日のフランクフルトからの報道)。サンフランシスコの法廷で損害賠償を支払うよう命じられたことから、モンサントの株価は一気に値を崩して、総額で125億ドル(12パーセント)を失った。

さまざまな出来事が立て続けに起こっている中、今後モンサントはいったいどうするのか、損害賠償に対応できるのか、といった疑問が頭を掠める。それらの疑問の一部に答える記事がここにある [注3]。

本日はこの記事[注3]を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。表題は「モンサントの有罪判決は始まったばかり」となっている。


<引用開始>


 














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カリフォルニア州での陪審裁判は農薬や遺伝子組み換え作物の大手であるモンサント(バイエルに買収され、今は「バイエル/モンサント」と称する)に有罪の判決を下した。裁判官はモンサントに元校庭管理者で非ホジキンリンパ腫を患う原告のディウェイン・ジョンソンに対して2億8千9百万ドルを支払うよう命じた。彼の弁護士は彼の疾患はモンサントが販売しているグリフォサートを主成分とするラウンドアップによって引き起こされたものだと主張した。疑いもなく、モンサントはこの判決を不服として、上訴する考えだ。上訴の結果の如何を問わず、この判決の衝撃は世界中に影響をもたらし、遺伝子組み換え作物や農薬に関するビジネスモデルにとっては大問題となることであろう。

サンフランシスコのカリフォルニア高等裁判所におけるディウェイン・ジョンソン対モンサントの訴訟(CGC-16-550128)は この種の訴訟においては全米で5000件を超す中で初めての事例である。これらの訴訟はラウンドアップが癌を引き起こしたと主張している。

46歳のジョンソンはカリフォルニアのある郡の元校庭管理者であって、彼は郡内の学校の校庭でモンサント製のラウンドアップやレンジャープロを年間30回近く散布し、この仕事を2年半以上も続けていた。

「インシュアランス・ジャーナル」誌によると、陪審員による有罪の判決はモンサント製のグリフォサートを主成分とするラウンドアップに関する何千件もの同類の訴訟に大きな影響を与えることになる。カリフォルニア州に本拠を置く「Baum, Hedlund, Aristei & Goldman法律事務所」がこの訴訟を担当しているが、同法律事務所はこの訴訟以外にも数多くの訴訟に関して弁護団の一部として関与する予定である。


訴訟にさらされるモンサント:

モンサントを訴えたこの訴訟で共同弁護士を務めているロバート・ケネディ・ジュニアーは法廷での原告の弁護士ならびにモンサントの弁護士による反対尋問の要約を記している。それによると、モンサントは自社にとっては不都合となる発癌性試験の結果を抑圧し、嘘をつき、モンサントのラウンドアップ除草剤には発癌性がないとする安全性に関する自社の主張を支えて貰うために「専門家」の学者に巨額の支払いを行っていたことが暴露された。


のっぴきならない告白の事例を挙げると、モンサントの毒性学の専門家であるドンナ・ファーマーは追い詰められた挙句、社内の電子メールを証拠として提示され、自分自身の優先事項は公衆の安全ではなく、関連法規を遵守することにあったことを認めた。また、ファーマーはグリフォサートを防護することに同意してくれた社外の学者の名前を借り、論文を代筆するよう画策したことをしぶしぶと認めた。彼女は「そのことは全然悪いことではない・・・」とも答えている。

もう一人の巨額の支払いを受け、モンサントの証言者であるウオレン・フォスター博士はモンサントがWHOの下部機関である国際癌研究機関(IARC)の動物試験結果を否定する証言をするよう支払いを受ける以前はグリフォサートについて、あるいは、その発癌性に関して研究をしたことはなかったという事実をしぶしぶと認めた。2015年、IARCはグリフォサートには「恐らく発癌性がある」と断定した。このIARCの裁定はグリフォサートを31パーセントも含有するモンサントのラウンドアップが人畜に有害ではないとする同社の主張に甚大な衝撃を与えた。

もう一人の毒性学の専門家、マーク・マーテンス博士は「社外の毒性学の専門家であるジェームズ・パリー博士による研究結果をどうして棄却したのか?しかも、同博士をその分野ではトップクラスであるとして賞賛したばかりであったではないか?」との尋問を受けた。パリーの研究結果はこの化学物質ならびに機密にされたままのラウンドアップの製剤手法が遺伝子レベルでの変異を引き起こし、潜在的に癌の前駆体となり得ると結論付けていた。このことから、モンサントは彼の役割を反故にし、社外の学者がパリーの研究結果を吟味する機会さえをも奪ってしまった。また、そればかりではなく、モンサントはパリーの論文を環境庁(EPA)へ送付することさえもしなかった。モンサントのもう一人の「専門家としての証言者」であり、癌疫学を専門とし、ハーヴァード公衆衛生大学院(HSPH)で助教授を務めるローレライ・ムッチ博士はモンサントが彼女の証言を得るために10万ドルを支払ってくれた事実を認めている。

モンサントの弁護士らは、IARCの見解とは違って、EPAがグリフォサートは人に癌を引き起こすことは「ありそうにない」と結論付けたことを述べて、毒物学の専門家であるクリストファー・ポルティエ博士の信用を落とそうとした。この時、ポルティエは宣誓をした上でEPAならびにEUの欧州食品安全機関(EFSA)は、両者共、15もの論文に収められているグリフォサートに関してネズミ類を使った様々な動物試験で得られた腫瘍についてのデータを採用しなかったが、これは間違った手法を使ったことから生じたものであると力説した。また、彼はこうも述べている。「私は意思決定を行う際には科学的な証拠を用いることに私の職歴のすべてを捧げてきた。まず第一に、それは化学物質の発癌性に関するものであって、私は適切な研究を行うために何年も、何年も費やしてきた。彼らが用いた手法は驚異的とも言える程の間違いだ。」 

チャールズ・ベンブルック博士は、グリフォサートについてだけを論じようとして、EPAがグリフォサートに加えてラウンドアップを構成している補助剤または界面活性剤についてはそれを除外して論じることは詐欺行為であり、これは「ラウンドアップ製剤は単一物質ではなく、製剤としての毒性があり、発癌性を持っているのではないかというより差し迫った疑惑を覆い隠そうとするものだ」と証言した。 

要約すると、サンフランシスコでの裁判で明白になったことは文書化された嘘や隠蔽がひとつのパターンとなっていることである。また、社外の毒物学の専門家らによって報告された研究結果がラウンドアップの安全性に関してモンサントが主張してきた内容と矛盾する場合、モンサントは彼らの信用を落とそうと画策した。これももうひとつのパターンである。


セラリーニのラットによる研究:

2016年2月26日、論文審査が行われる「International Journal of Environmental Research and Public Health」誌にひとつの論文が掲載された。フランスのカーン大学生物学研究所のギレス・エリック・セラリーニ、ならびに、ハンガリーの国立農学研究イノベーション・センターの農学環境研究所のアンドラス・シェカチ所長によって率いられた毒物学の研究チームは、モンサント製のラウンドアップも含めて、もっとも広範に使用されているグリフォサートを主成分とする除草剤について実施された試験の結果を報告した。


彼らの試験によって、グリフォサートを主成分とする除草剤製剤には公表されてはいない成分、つまり、界面活性剤が配合されており、多くの場合、グリフォサートを単独で試験した場合よりも強い毒性を示し、細胞に対する毒性の度合いは2000倍近くも高まることが報告されている。機密にしている製剤成分については、法律で公開することが求められているにもかかわらず、モンサントは米政府に対しても、一般に対しても公開をしてはいない。

最近サンフランシスコ高裁が下したモンサントに不利となる裁定の内容は実に明白であり、毒性を持ち、発癌性を示す農薬に反対する世論が高まり始めることであろう。この農薬はほとんどがモンサントによって販売されているが、同社は買収され、今や、バイエルの傘下になっている。世界中の不安を抱く市民らは証拠を集め、全容を明らかにし、愚か者として扱われて来ただけではなく、結果的には死に至るような危険性さえをも演じていることに気付き始めたとも言えよう。

アルゼンチンでは、つい最近出版された研究報告によると、「妊娠中に環境に起因するグリフォサートを主成分とする除草剤に暴露されると、雌のラットの受胎率は低下し、胎児の成長が損なわれ、四肢の発達障害が起こり、二世代目の子孫を含めて、先天的な異常をもたらす」と学者らが報告した。この研究は遺伝子組み換えの大豆やトウモロコシを生産する地域のど真ん中にあるアルゼンチンの町に住む人々を調査したものであって、この地域では大量の除草剤が散布され、先天的な異常は全国平均の2倍にも達していることが記録されている。

著者のプロフィール: F・ウィリアム・エングダールは戦略リスクに関するコンサルタントであって、講演を行う。彼はプリンストン大学で政治学の学位を取得し、原油や地政学に関する著書はベストセラーとなった。オンラインマガジンである「New Eastern Outlook」に独占的に寄稿をしている。https://journal-neo.org/2018/08/15/monsanto-guilty-verdict-is-only-beginning/

<引用終了>


これで、全文の仮訳が終了した。


企業利益を追うあまりに私企業が倫理観を見失ってしまう事例は、洋の東西を問わず、無数に存在する。そして、世界規模で商売を行う大企業の場合は、その影響たるや世界規模となる。

この引用記事の著者は倫理観を失った企業の行動パターンを描写している。「サンフランシスコでの裁判で明白になったことは文書化された嘘や隠蔽がひとつのパターンとなっていることである。また、社外の毒物学の専門家らによって報告された研究結果がラウンドアップの安全性に関してモンサントが主張してきた内容と矛盾する場合は、モンサントは彼らの信用を落とそうと画策した。これももうひとつのパターンである」と述べている。

さらにもうひとつのパターンを付け加えるとれば、それは官庁がこの種の不祥事に大きな役割を担っていたという事実だ。米国のEPAや欧州のEFSAはモンサントとグルになっていたことが判明している。10万ドルで一人の学者や官吏の行動を左右することができるとすれば、官庁の場合はいったい何人を買収したのであろうか?モンサントはいったいどれ程の金をつぎ込んだのだろうか?と勘ぐってしまう。しかしながら、潤沢な資金を動かすことが容易な大企業にとっては学者や官吏を買収する総額さえもが大した金額ではなかったのだと推測される。総じて、モンサントの企業行動ならびに官庁の倫理観や機能は完全に地に堕ちたという感じである。

このサンフランシスコ高裁が下したモンサントに不利となる裁定はすでに食品業界に余波を巻き起こしている。たとえば、8月27日のある記事では『食品大手のジェネラルミルズ社はグラノーラバーの表示から「100パーセントナチュラル」という文言を削除』との表題が見られる [注4]。明らかに、虚偽の表示は大きな損失につながり得ると企業の経営者が判断した結果であると言える。これは消費者にとっては歓迎すべき傾向だ。このような動きが世界中に、かつ、急速に広がって欲しいものである。


参照:

注1: Weed-killing chemical linked to cancer found in some children's breakfast foods: By CBS News, Aug/15/2018


注2: Monsanto Loses Landmark Roundup Cancer Trial, Set to Pay USD 289 Million in Damages: By Sustainable Pulse, Aug/11/2018

注3: Monsanto Guilty Verdict Is Only Beginning: By F. William Engdahl, NEO, Aug/15/2018

注4:General Mills Removes ‘100 percent Natural’ Label from Nature Valley Granola Bars after Glyphosate Lawsuit: By Sustainable Pulse, Aug/27/2018



 




2018年8月22日水曜日

米国が現実を受け入れないならば、それはわれわれのすべてにとって生存の脅威となる

米国の政治は「軍産・ウールストリート・大手メディア複合体」によってすっかりハイジャックされてしまった。少なくとも私にはそう思える。

そして、そのような現実を矯正し、在るべき姿へ戻そうとする議論の場さえもが無くなりつつある。大学の教授や研究者らは、将来の研究費の枯渇を恐れて、言いたいこともまともに言えないと言う。隠然たる圧力がかかっているのだ。こんな状況が、私らが子供の頃から聞かされて来た「民主主義」や「言論の自由」の国、自由世界のチャンピオンであるとされていた米国の現在の姿である。

もちろん、米国にはいい面もたくさんある。私は仕事のために17年間をカリフォルニアで過ごした。直接および間接的にさまざまな面でお世話になった。米国のことは日常の生活感覚としてある程度は理解している。今になってからはっきりと認識したことではあるが、その最たるものはポップカルチャーではないだろうか?当時のポップカルチャーと言えば、たとえば、マイケル・ジャクソンだ。あれから30年も経った今、ニューヨークのマジソン・スクエアーで「ビリー・ジーン」を歌うマイケル・ジャクソンの動画を観ていると、彼はひとつの新しい文化を作り上げたのだという圧倒的な実感に襲われる。歓声を上げ、リズムに乗って体を動かし続ける観衆の反応はまさに圧巻だ。

しかしながら、2016年の米大統領選挙を境にして、米国の国内政治は二極化し、対立をさらに激しくしている。最近は大手メディアの一部や民主党系の評論家の中には軌道修正をした者がいるとも伝えられてはいるが、このままで進むと米国では内戦が始まってしまうと懸念する声が聞こえ始めた。さらには、国内政治だけではなく、米国の対外政策も大きく変化しようとしている。

こうした現状を見て、多くの識者が意見を述べている。そして、その声は高まっている。それらの中に「米国が現実を受け入れないならば、それはわれわれのすべてにとって生存の脅威となる」と題された記事がある [1]。切羽詰った危機意識が感じられるのだ。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。

<引用開始>

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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最近、ロシアのドミトリー・メドベージェフ首相は米国がロシアに課した最近の経済制裁は「経済戦争」そのものだと述べた。さらには、「必要とあらば、経済的、政治的、あるいは、その他の如何なる手段を用いてでも」ロシアは報復すると述べた。しかしながら、どうしてこんなに長い時間がかかったのかと誰もが不振に思うのではないだろうか。
ロシアは何十年にもわたってアンドリュー・コリブコが言うところの「ハイブリッド戦争」に晒され続けてきた。第二次世界大戦後の期間で言えば、ロシアに対する攻撃が緩和したのは1990年代のイルツィン政権時代のみである。あの頃、ロシア経済は略奪され、それ以降にロシアに課された経済制裁や容赦のない否定的なプロパガンダに比べてさえも、ロシアにとっては最悪で破壊的なものであった。
経済制裁そのものはハイブリッド戦争の一部分でしかない。ハイブリッド戦争は実際に弾丸が飛び交う熱い戦争と取って代わるものである。実際の戦争は代々の米政権におけるネオコン分子によって政策の一部として温存されて来た。
「オペレーション・アンシンカブル」は1945年にロシアの侵攻によってドイツが敗退した後にも戦争を継続するために長期にわたって反ロ政策を唱導してきたウィンストン・チャーチルが抱いていた計画であった。この計画は敗退したドイツ軍さえをも含めるものとしていた。
現在チャーチルに匹敵するのはテレサ・メイである。彼女のロシアに対する反感振りはロシアのエージェントであったセルゲイ・スクリパルと彼の娘ユリアに対する化学兵器攻撃が起こった際に彼女がロシア政府に対して主張した異様な申し立てや要求の中にもっとも明確に見て取れる 
政府の説明は論理や科学的根拠においてひどく奇妙であるばかりではなく、さまざまな点でその義務をある特定の方向へ押しやろうとしている。たとえば、化学兵器条約や領事条約についてだ。また、「ルールに基づいた法秩序」の基本原則として、それぞれの主張には立証責任が伴う。さらには、ユリア・スクリパル自身が公喋っているロシアへの帰国の権利についてだ。
2016年の米大統領選に「干渉した」とするロシアに対する申し立て(非常に皮肉な主張)や「ウクライナへの侵攻」、あるいは、バルト諸国に対して「攻撃的である」といった主張、ならびに、証拠がまったく示されないその他の主張は何れにも一目瞭然の虚偽が含まれている。また、それだけではなく、共通の脈絡も感じ取れる。
これらはすべてがハイブリッド戦争の形を示唆しているのだ。何故かと言うと、(1)ロシア(や中国)との実際の戦争は、最近のランド研究所の報告によれば、もはや「考えられない」ことであるからだ。さらには、(2)以前は英国によって、その後は米国によって演じられて来た地政学的優位性は、今や、ロシアや中国を二つの中核的な要素とする多極的世界によって急速に取って代わられようとしているからだ。
直接行われる「熱い戦争」はどうして「考えられない」のかに関しては詳しく考察をしてみる価値がある。まず、中国の最先端ミサイル技術はそれ程報告されてはいないものの、実際には急速、かつ、広範に及ぶ進歩が観察される。この事実を巡る無知振りはオーストラリア国防省の高官によって体現されている。つまり、北オーストラリアのダーウィン基地の米軍による使用に関して米海軍のハリー・ハリス提督が高く評価した際、この高官は「ダーウィン基地は中国のミサイルの射程には入らないという利点がある」と言ったのだ。
現実には、彼の返事は実際の状況からは程遠い。中国のミサイルの中では二種類のミサイルが特に注意を要する。両者ともドング・フェング(東風)級のミサイルである。即ち、DF41DF21D だ。DF41 の射程距離は14,000キロ(北京からキャンベラまでの距離は9,000キロ)で、10個の核弾頭を搭載することが可能だ。そして、個々の核弾頭は個別の目標に向かう。核弾頭の最大速度はマッハ25にも達する。したがって、中国の何処からでもオーストラリアの全域に到達することが可能となる。
S500対空防衛システムを擁するロシアを除いては、如何なる国もこのミサイル攻撃を回避する術を持ってはいない。ひとつだけ残されている「防衛」は報復攻撃だけが残されるが、オーストラリアは、たとえば、その種の目標に関して言えば米国に依存するしかない。これは西側の防衛を支える妄想的な支柱のひとつに過ぎない。
この文脈で論じる価値が多いにあるドング・フェング級のもう一種のミサイルはDF21Dだ。これは対艦ミサイルであって、マッハ10の速度と1,500キロの射程距離を持っている。このミサイルの技術的な性能を見ると、相手がどのような対空防衛策を持っていようとも、それには関係なく攻撃を実行することが可能だ。これは「空母キラー」である。つまり、空母とそれに搭載された航空機に代表される米国の戦力展開は中国本土からの射程距離内では作戦を実行することが出来ない。
201831日、ロシアのプーチン大統領はロシア連邦議会で演説を行い、ロシアには何種類かの最新鋭ミサイルがあることを開示した。これらは上記に述べた中国のミサイルよりもさらに大きな破壊力を持っている。プーチンが公表したこれらのミサイルには原子力駆動のクルーズミサイルや大陸間の射程距離を持つ無人型潜水式ミサイル、2,000キロの射程距離を持つマッハ10の極超音速ミサイル(キンザールと称する)、マッハ20の戦略ミサイル(アヴァンギャルド)、等が含まれている。
これらの兵器(中国の兵器も含め)は東西間の軍事的態勢を一変させるものであり、それは明白そのものだ。米国が有する戦略的軍事態勢のすべてを古めかしいものに変えてしまったのだ。米戦略軍のジョン・ハイテン将軍は「われわれに向かってくるそのような兵器(キンザール)を迎撃することができる防衛力は米国は所有していない」ことを認めている。
研究部門を統括する米国防次官のマイク・グリフィンは上院の軍事委員会で同様な認識を述べている。彼の場合は中国の極超音速ミサイルに関する認識である。
プーチンの演説は米国のエリートの意識を新たな地政学的現実に向けようとするものであった。ところが、米国のエリートらの発言から判断すると、彼らは新たに現出しようとしている多極的な世界秩序における軍事的および地政学的な現実からは依然として遊離したままである。
これらの新たな現実の意味合いを正しく把握することに失敗したからこそ、彼らがこれらの潮流に逆らう政策に走ることを押し留めることはできなかったのである。間断なく発せられるロシアを悪魔視するプロパガンダ、ロシアやイランに対して最近課された経済制裁、第三者に対する経済制裁による同盟国に対する言語道断な脅し、拡大するばかりの対中関税戦争、等はロシアや中国の「自己主張」や「攻撃性」に関して彼らが表向き主張していることとは何の関連もない。
しかしながら、避けることができない中国の台頭に対して何らかの邪魔をすることには多いに関係があるのだ。米国の軍事的な弱点が暴露されてしまった今、これは同盟国に脅しを与え、敵国と同様に扱う形を取る。ウィリアム・エングダールが指摘しているように、もうひとつの目標は中国の「2025計画」を台無しにすることにある。この中国の計画が目指すひとつの側面は米国が技術面で優位性を保っている残りの部分について米国を凌駕することにある。
中国とロシアの指導者は両者とも自国の発展に対する脅威を認識しているが、そればかりではなく、世界平和に対する脅威さえをも認識している。この点こそが両国の関係を戦略的連携へと発展させた根本的な理由である。
アンドレイ・マルティヤノフが適切に述べている。つまり、「自分がやっていることさえも理解せず、世界の安定と平和を脅かす、うぬぼれた、自らを美化し、中身のない餓鬼大将なんて、世界はもはや許容しない。」 
ロシアや中国のこれらの新世代兵器技術は米国人の地政学的な心構えを変えさせる機会をもたらした。しかしながら、最近の経済制裁や脅し、継続して採用されているハイブリッド戦争を見る限りでは、米国は何らの教訓をも吸収してはいないことを示している。われわれ全員のために、取り返しがつかない結末をもたらす前にこの教訓を是非とも学び取ることを心から切望する次第だ。
注: ジェームズ・オニールはオーストラリアに本拠を置く法廷弁護士であって、New Eastern Outlookのオンラインマガジンのために独占的に執筆している。
https://journal-neo.org/2018/08/14/us-failure-to-accept-reality-an-existential-threat-to-us-all/

<引用終了>

これで全文の仮訳が終了した。
著者は米国の現状に悲鳴をあげている。核大国間同士が核戦争に入る前に米国は是非とも現実を理解して欲しいと言っている。
しかし、この悲鳴並びに切望は米国のエリートらに聞き入れられるのであろうか?私には分からない。
全世界にとって不幸なことには、米国のエリートは思考停止の状態にあるみたいだ。自国の専門家や識者が述べる意見を聞こうとさえもしない。ましてや、ロシアや中国の言うことなんて糞食らえだ。もしも国家にも人格みたいなものが僅かでもあるとするならば、国家はこのような態度を取ることを恥としなければならない。なぜならば、そのような倫理観こそが何万年、何十万年もかけて、人種、言語、宗教、文化、歴史には関係無く、人類が育んできた非常に根源的な価値観であるからに他ならない。
この引用記事の著者が言うように、米国のエリートが現実を理解することを私も切望するばかりだ。もしも今年11月の米中間選挙で与党が地滑り的勝利を収めるならば、米国以外に住むわれわれの命もさらに2年あるいは6年は生き長らえることができるだろう。

 
参照:

1US Failure to Accept Reality an Existential Threat to Us All: By James O’Neill, NEO, Aug/14/2018

 

 

2018年8月16日木曜日

ベネズエラが不安定化し、カリブ海には新手の海賊が出没


一国の行政が機能しなくなると、治安は乱れる。官憲の手が届かないと察するや、悪事を働く者が横行する。それは陸上でも、海上でもまったく同じことだ。

そのような典型的な状況を伝える記事に出遭った [注1]。カリブ海における「海賊」の出没を報じている。

海賊と言えば、アフリカのソマリア沖やフィリピンの南部での事例を近年よく耳にしてきたが、それ以外は映画の世界での話しであることから、「オヤ!」という感じがした。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>

【トリニダードトバゴ、セルドス発】 カリブ海のコバルトブルーの海面からチカチカと反射する太陽の光の中でその船は水平線を切り裂くようにして現れた。近くまでやって来た。しかし、「アシーナ」の乗組員でそれに関心を払う者は誰もなかった。

「俺たちは何時ものようにお目当ての赤い魚を漁っているところで、奴らも多分そうだろうと思っていた」と、乗組員の一人である36才のジミー・ラーラが言った。彼らは、4月の終わり頃、無法地帯と化したベネズエラの沖数マイルのトリニダードの海域で釣り糸を下ろしていた。

もう一方の船が近寄ってきた。「助けを求めているのかな」と、28フィートの丸木舟が舷側にやって来た時やや不審に思ったことをラーラは思い起こす。背は小さいが筋骨のたくましい男がピストルを振り回してスペイン語で叫んだ。

「これで合点がいった。奴らは海賊だ。」 

「黒髭」の大砲が鳴りを潜め、ジョリー・ロジャーがカリブ海のラム酒の輸出港でその地位を失ってからというもの、何世紀間もこの地域はロマンに欠ける新手の海賊に直面して来た。

ベネズエラからニカラグアやハイチにかけて政治的ならびに経済的な危機が急速に広がって、無政府状態や犯罪が起こっている。法秩序が崩壊し、カリブ海のある地域ではすでに何年間もそうであったよりもさらに酷い状況に陥っていると、専門家は伝えている。

腐敗した政治家の関与があるようだ。特に、汚職が著しいベネズエラの海域ではなおさらのことだ。

「ベネズエラ沿岸は犯罪が蔓延して、誰でもが自由に参加できる程の無法状態だ」と、南米やカリブ海における組織犯罪を調査している非営利団体の「インサイト・クライム」の共同ディレクターであるジェレミー・マクダーモットは言う。

南米やカリブ海地域では海賊行為に関する総括的なデータはほとんどない。しかし、非営利団体の「オーシャンズ・ビヨンド・パイラシー」によって実施された2年間の調査の結果、2017年については71件の大きな事件が記録されている。これらのデータには商船の略奪やヨットに対する襲撃が含まれている。前年に比較すると163パーセントの増加を示した。圧倒的に多くの事件がカリブ海の海域で起こっている。

これらの事件には栄光視されるような海上での強盗から17世紀の海賊に匹敵するような野蛮な襲撃までが含まれ、その範囲は実に広い。




Photo-1: 船に乗る漁師たち。何人かはベネズエラの海賊による略奪に遭ったり、殺害された。

たとえば、この4月、覆面をした男たちがガイアナ沖30マイルの海域に居た4艘のガイアナの漁船に乗り込んできた。生き残った乗組員によると、乗組員たちは熱い油をかけられ、ナタで切り付けられ、船外へ投げ出された。さらには、彼らの漁船が盗まれた。20人の犠牲者の中で生き残ったのは4人だけであった。残りは死亡したか、生死が不明のままである。

ガイアナのダビッド・グランジャー大統領はこの殺害を「大量虐殺」だとして非難した。ガイアナの官憲はこの事件は隣国スリナムのギャング暴力と何らかの関連があったのではないかと仄めかしている。

「奴らは船を取り上げると言い、皆海へ飛び込めと言った」と、生き残った47歳のデオナリン・ゴバードハンがロイターに向けて喋ってくれた。殴られ、海へ投げ込まれてからは、「俺は必死に頭を水面から突き出し、何とか息をしようとしていた。海水を大量に飲んでしまった。星や月を見ていた。希望をつなぎ、祈りをするだけだった。」 

ホンジュラスやニカラグア、ハイチ、セントルシアの近辺では過去18ヶ月間海賊行為が報告されている。しかしながら、何処でもベネズエラ沖よりも酷い状況は報じられてはいない、と調査専門家が述べている。

南米諸国の経済危機はインフレ率を100万パーセント近くに押し上げ、食物や医薬品の不足を招いている。栄養失調が蔓延し、疾病がはびこっている。訓練された職員や交換部品の不足から飲料水や電力の供給はしょっちゅう中断する。警察や軍隊は自分たちが受け取る給料が何の価値も無くなってしまったことから、職場を放り出した。ニコラス・マドウーロ大統領の社会主義政権の下で、経済停滞と政治の腐敗が進行している。

この状況はベネズエラ人にやけくそとも言えるような策に走らせている。

政府職員の腐敗振りに関してベネズエラのある港湾職員は、無名で取材を受けることを条件に、ベネズエラの海岸警備職員らは停泊している船舶へ乗り込んできて、金品を巻き上げたり、食料を要求していると話してくれた。この状況に対応する策として、商業船はずーと沖に停泊し、夜になるとその存在が確認できないようにエンジンを停止し、照明を切ってしまうとのことだ。

しかし、常に首尾よく行くとは限らない。




Photo-2: 最近密輸と海賊行為が広まって、極めて多くの暴力沙汰が起こっている、と地元民は言う。

この7月、近海のベネズエラの島々への物資の輸送を行っていた地元の企業であるコンフェリーの船がグアンタ港の近くでナイフや銃を振り回す3人組に襲われた。4人の乗組員は何時間にもわたって縛られたまま放置され、食料品やエレクトロ二クス製品を盗まれた。

この1月、これも北東部の海岸にあるのだが、プエルト・ラ・クルスにおいて、停泊中のタンカーに7人の武装した強盗が乗り込んできた。Advertisement

連中はその船の警備を担当する職員を縛り上げ、倉庫を物色した。ロンドンに本拠を置く国際商工会議所の商業犯罪サービス部門によると、これ以降何ヶ月にもわたって同様の事件が報告されている。

ベネズエラからは目視できる距離にあって、140万人の人口を擁するトリニダード・トバゴは隣国発の犯罪に長いこと悩まされ続けている。1990年代以降、麻薬の密売者がマリファナやコロンビアのコカインをベネズエラの港からトリニダードへ運び、そこからさらにカリブ海諸国へ、あるいは、その先へと密輸を行ってきた。

密輸と海賊行為は最近さらに広がって、暴力が酷くなってきている。南部のセルドス港に住む5人のトリニダード人漁師らは、匿名を条件に、自分たちが経験した身の危険を引用して、インタビューでこう言った。彼らの目撃談によると、ベネズエラ船籍の船が軍用の小銃や麻薬、女、珍獣、等を運び込むのが急増している。

「時には、これらのベネズエラ人は小銃や珍しい動物を好んで食料品と交換する」と41歳の漁師が言った。 

もう一人の漁師は、この1月、スペイン語を喋る海賊に何時間も拘束され、その間、彼の兄弟は500ドルの身代金を要求されたと言った。

何件もの強盗や海賊行為が報道された後、今年になってから、トリニダード沿岸警備隊はこの海域をパトロールするために警備艇を派遣した。しかし、これらの犯罪者たちはパトロールの警備艇をやり過ごしてから自分たちの行動を開始する、と地元の住民らは言う。

トリニダードの官憲にこのことに関するコメントを何回か求めたが、回答はなかった。

しかしながら、野党の政治家は海賊行為の急増に悲鳴を上げている。ベネズエラからの自動小銃の流れを見ると、その一部は軍事品の専門店から流されている模様で、トリニダードにおける殺人事件の急増に一役買っている。
















Photo-3: 漁船は陸に引き上げられ、レインコートを着た漁師がトリニダードの海岸で霧の中を歩いている。

数年前に無法状態と化したソマリアの沖で始まった船舶のハイジャック事件を引用しながら、「これを見ると、アフリカ東部の海岸地帯で始まった問題を思い起さざるを得ない」と、野党のユナイテッド・ナショナル・コングレス党の議員であるルーダル・ムーニラルは言う。「われわれが今目にしている海賊行為や密輸はベネズエラの政治や経済が崩壊したことによって引き起こされたんだ。」

カリブ海の暖かい海域で仕事に精を出して、生計を立てている者たちにとっては、海賊行為は新しい脅威だ。この頃は、襲撃を避けるために地元の漁師たちは近海で漁をし、時には夜中に漁をする。

アシーナ号が海賊に乗り込まれた4月のある日の午後、彼は恐怖を感じた、とラーラは言う。

「スペイン語を喋る男が俺にピストルを向けてきて、その次にピストルを海面に向けた。俺には直ぐに分かった。彼は俺に海へ飛び込めと言っているんだと。」 

彼は海へ飛び込んだ。彼の一番の仲良しで、22歳のナレンドラ・サンカーも彼の後を追って、海へ飛び込んだ。二人は沖合いの石油掘削リグに向かって泳いでいたが、サンカーがこむら返りを起こした。

「俺はもうリグに辿りついいていたんだが、彼を助けるためにもう一度海へ飛び込んだ」と彼は言う。「サンカーは溺れるところだった。」 

 


Photo-4: 58歳のデオラジ・バルシング。彼はベネズエラとトリニダードとの間の海域でベネズエラの海賊によって誘拐された漁船の船長の父親である。

彼らは海賊が自分たちの漁船を拿捕する様子を見ていた。この漁船には高価な船外機が2機も装備されていた。船長のアンドレル・プラマーは依然として船上にいた。二人は近くを通りかかった漁船に助け上げられた。この襲撃について官憲に報告したところ、彼らはこう言われた。「海賊の後を追いかける船がないんだ。何も出来ない。」 

あれ以降、プラマーについての情報は全然ない、と男たちは言う。トリニダードの国家安全保障省にこの件に関するコメントを求めたが、回答はなかった。

「奴らが俺の息子を拉致したんだ!」と、何艘もの船に囲まれた、濁った水をたたえているトリニダードのドックの傍に佇む船長の父親が言った。 

「俺たちには何も分からないんだ」と、バルシングは言う。「息子がまだ生きているのか、死んでしまったのか、全然分からない。」 

 (注; 表題を除き、この記事には何の編集も施してはいません。これは新聞雑誌連盟の配信です。) 

<引用終了>

これで全文の仮訳が終了した。


ベネズエラ経済は原油の輸出で成り立っている。輸出の95パーセントを原油が占めるという。その結果、政府の政策は原油輸出が稼ぎ出す利益が源泉となる。しかし、エネルギー市場は起伏が大きい。原油輸出に過剰に依存する経済は必然的に大きく翻弄される。ベネズエラを襲ったハイパーインフレはそのいい例だ。

これらのことを十分に知っている米国は、シャベス前政権を踏襲して米国の政策に異論を唱えるベネズエラのマドウーロ政権に対しては経済制裁を課し、国内の分裂を煽って、政権交代を引き起こそうとしている。インターネット上ではこのことを伝える情報が数多く入手できる。最近起こったドローンを用いたマドウーロ大統領の暗殺未遂事件も米国の息がかかっていると言われている。

ところで、政治や経済の混乱が起こった場合、最大の被害者は常に弱者である一般大衆であることを忘れてはならない。

この引用記事が伝えてくれているように、零細漁民である一般庶民が一番大きな影響を受けている。時に、一個人としては完全に過剰な影響となる。最悪の場合、殺害に見舞われる。

国家としての秩序が失われ、無法化に陥り、暴力が蔓延する状態はメディアは「リビア化」という言葉を用いている。リビアのかってのリーダーであったカダフィは「アラブの春」の運動をきっかけにして、国内政治の混乱を強いられ、米国が支持する反政府派によって殺害された。リビアの国家機構は麻痺状態となって、今も無政府状態が続いている。この一連の動きの背景には米国の思惑が流れている。米国がカダフィを嫌った最大の理由は原油輸出の清算には米ドルを止めて、金本位制のディナールにするというカダフィの構想であった。カダフィ政権の打倒には当時のヒラリー・クリントン国務長官の影が色濃く登場してくることは、今や、周知の事実だ。

トリニダード・トバゴの一般庶民にとっては非常にはた迷惑なことではあるが、隣国のベネズエラの不安定化が大きな黒い影を落としている。今後、恐らくは、さらに悪化することであろう。このベネズエラの不安定化のシナリオを書いたのはドル覇権を維持しようとする米国である。米国は世界中で紛争や戦争を引き起こし、今や、世界平和の敵として世界中から嫌われる身になってしまった。



参照:

注1:New Breed Of Pirates Sail In The Caribbean, As Venezuela Disintegrates: By Anthony Friola, The Washington Post, Aug/13/2018


2018年8月11日土曜日

イスラエルの米選挙に対する干渉はロシアのそれを遥かに圧倒する - チョムスキー

2016年の米大統領選では勝利を自他共に確実視していた民主党のヒラリー・クリントンが共和党のトランプに敗北した。その結果が判明してからというもの、ヒラリー・クリントンや民主党は自分たちの失敗を認めず、トランプがロシアと結託して選挙に干渉したからだとして大失敗の矛先を相手側の候補に向けた。こうして、ロシアが米国の大統領選を干渉したとする筋書きが過去2年近くにわたって米国の大手メディアを賑わし続けている。率直に言って、すべてが作り話だ。

この「でっち上げ」を証拠付ける最も有力な理由はCNNの或るディレクターが「これはでっち上げだよ。売れるようにするためさ!」と、録画されているとは知らずに喋ったことだ。少なくとも、大手メディア側の当事者の間には「でっち上げ」をしているという明確な自覚があったことを物語っている。これはもう何をかいわんやだ。

しかしながら、その後の大手メディアの筋書きはしたたかにも何も変わってはいない。「嘘でもいいから、言い続けてさえいれば、一般大衆はそう思い込むようになるさ」と言わんばかりの態度だ。

米国の最高の思索家と目され、言論界の超大物であるノーム・チョムスキーが自分の意見を述べている。「イスラエルの米国の選挙に対する干渉はロシアがやったことを遥かに圧倒する」と言っている [注1]。彼は失うものが何もないことから、彼の指摘は実に単刀直入である。

今の米国ではイスラエルの政策に関して率直に喋ることが非常に難しいと言われている。たとえば、書き物を残すことを生業とする大学教授や研究者らは将来の研究費の枯渇を懸念して、言いたいことさえも言えないのが現実であると伝えられている。米国社会はそれほど迄に歪んでしまった。

本日はこのチョムスキーの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。


<引用開始>

やれやれ、これは米国における週末の政治論議をさらに厄介なものにしそうだ。

大手メディア(や左翼の政治家たちさえも)が「共謀」の筋書きから退去し始めたことから、彼らは米選挙へ介入し、「われわれの民主主義に干渉」するといった「悪意に満ちた」ロシアの努力を喧伝するとか、そういった類の非常に感情的な文言に今まで以上に焦点を合わせようとしている。

それが故に、世界でも良く知られている反体制派で、リベラルな思考の持ち主である大物、ノーム・チョムスキーが「デモクラシー・ナウ」とのインタビューで喋った言葉はトランプを嫌う連中にとっては厄介なものになりそうだ。

・・・そー、それでは、われわれの選挙に対して行われたと言われている外部からの干渉を取り上げてみよう。ロシア人はわれわれの選挙を干渉したのだろうか?メディアは非常に大きな懸念を抱いている。でも、世界中の人たちはほとんどがこれは冗談だとして受け止めている。

まずは、われわれの選挙に対する外国からの干渉について興味があるならば、ロシアが行ったかも知れない行為はほとんど問題にはならない。他の国が大っぴらに、厚かましく、しかも、非常に大きな支援を受けながら行っている行為と比べてみることが重要だ。

米国の選挙に対するイスラエルの干渉の程度はロシア人がやったかも知れない行為を遥かに圧倒している・・・

私が言いたいのはイスラエル首相のネタニヤフが米大統領への連絡もせずに、直接米議会へ出向き、大統領の政策を駄目にするために議会で演説を行い、拍手喝采を受けていることだ。2015年にオバマとネタニヤフとの間で何が起こったかはご存知だと思うが。 

プーチンは米議会の両院合同の議場へやって来て、米国の政策を覆すよう議員たちに呼びかける演説を行っただろうか?しかも、米大統領には何の連絡もせずにだ。しかし、これはイスラエルが及ぼす圧倒的に大きな影響力の中ではほんの一部分でしかない。

もしもあなたが米選挙に対する外国からの干渉に興味をお持ちならば、検証すべき場所は他にある。しかしながら、それさえもが冗談みたいなものではあるが。

つまり、機能する民主主義のもっとも基本的な要素のひとつは選挙で選ばれた代議士たちは自分たちを選出してくれた有権者に対して責任を負うという点だ。それよりももっと基本的な事柄なんて何もない。しかし、米国では、単純に言って、実際にはそうではないことをわれわれは十分に知っている。

学術的な政治学の本流においては有権者の意向と選出された代議士が模索する政策との間の比較を行った論文が豊富にあり、それらが示すところによれば、有権者の大部分は基本的に選挙権を奪われたも同然だ。彼らが選出した代議士らは有権者の声には何の関心も示そうとはしない。彼らは有名な1パーセント、即ち、裕福で、強力な大企業の声に耳を傾けるだけだ。

トム・ファーガソンの非常に素晴らしい研究によると、何年も前に遡るが、米国の選挙は長い間多くが買収されて来た。単純に選挙運動の費用を見るだけで、大統領選や議会選挙の結果をかなりの精度で予測することが出来る。これは全体のほんの一部分だけだ。ロビー活動家たちは実際に議員会館で法案を起草する。強力なやり方で、個人資本家や大手企業、超裕福な連中が集まって、われわれの選挙にたっぷりと、圧倒的に介入し、それはもう民主主義のもっとも基本的な要素さえもが蹂躙される程のものだ。もちろん、これらはどれを取り上げてみても、純法律的には合法的ではあるのだが、社会がどのように機能しているのかを端的に示している。

もしもあなたが我が国の選挙を少しでも心配し、選挙がどのように運営され、その結果がこの民主主義社会に起こる事とどのように関わって来るのかについて心配するならば、ロシア人の不法侵入についてあれこれと詮索するなんてお門違いも甚だしい。メディアでは時にはこれらに対する関心も見られるが、その関心の程度はロシア人の不法侵入という取るに足りない問題と比べてさえも非常に小さい。

われわれはこれが次から次へと問題視されているのを目撃しており、トランプが言わんとすることについてさえも問題視されている。それがどんな理由からであろうとも、彼の言いたいことがまったく妥当性を欠いているという訳ではない。つまり、彼はロシアとの関係を改善するべきだと言っているが、これは完全に正しいことだ。 

そのことで泥の中を引きずり回されるなんてことは驚くほどに奇妙なことであり、ロシアは米国との交渉を拒否すべきではない。何故かと言えば、当の米国はイラクへの侵攻によって今世紀では最悪の犯罪を犯しているのだから。ロシアがかって犯した悪事と比較するとイラクへの侵攻は遥かに悪辣だ。

しかし、彼らはそのことを理由にしてわれわれとの合意を拒むべきではないし、何らかの法律違反が存在するかも知れないが、彼らがどのような法律違反を犯していようともわれわれも彼らとの合意を拒むべきではない。実にばかばかしいことだ。われわれは一緒になって、改善の方向へ向かわなければならない。ロシアとの国境では緊張が非常に高まっており、その緊張が何時爆発するか分かったものではない。そんなことが起こったら、最終核戦争を招き、地球上の生物や生命の終焉となりかねない。われわれは今そのような状況に非常に近くなっている。

今、われわれは「何故」と問い質すべきだ。まずは、状況を改善するために何かを実行しなければならない。二番目には、われわれは「何故」と問い質さなければならない。さてと、ことの発端はソ連邦の崩壊後にミカイル・ゴルバチョフとの口頭の約束を破って、NATOを拡大したことにある。ほとんどはクリントン政権下での出来事であった。最初は父ブッシュの下で、ほとんどはクリントン政権の下で行われ、NATO圏はロシアとの国境にまで拡大された。その後、オバマ政権下でもさらなる拡大が進められた。

米国はウクライナをNATOへ加入させようとした。ウクライナはロシアにとっては戦略地政学的にも中核的な地域である。

そー、確かに、ロシアの国境付近では緊張が高まっている。メキシコとの国境でこんなことが起こったとしたら米国はいったいどう反応するかを考えて貰いたい。これらの出来事こそすべてがもっとも重要な関心事であるべきだ。

組織化された人間社会の運命、さらには、生命体の存続自体がこの問題に大きく依存しているのだ。トランプが嘘をついたかどうかという問題に比べて、いったいどれだけの関心がこれらの課題に寄せられているというのであろうか?思うに、これらはメディアに対する非常に基本的な批判である。

要約すると、 トランプがロシアとの関係を改善すると言っていることは正しい。世界の運命がそれと大きく関わっており、ロシアは特に注目すべきことなんて何もしてはいない。ロシア人による不正侵入は非常に瑣末な事柄である。イスラエルこそが本物のお節介焼きだ。米国の民主主義はもはや存在しない。米国を支配し、動かしているのは億万長者である大企業だ。

ノーム・チョムスキーは「プーチンの手先」であろうか?反体制派のベテランの闘士は「役に立つ馬鹿」になってしまったのだろうか?いや、彼は反ユダヤ主義者であるに違いない。そうだろう? われわれは左派の「ロシア、ロシア、ロシア」という筋書きに対するこのチョムスキーからの破壊的な攻撃にアダム・シフ [訳注: カリフォルニア選出の民主党下院議員で、外交問題に明るい] がどのように反応するのかを見ることにしよう。楽しみである。

この記事は最初に「
ZeroHedge」によって出版された。

注: この記事に表明された見解は全面的に著者のものであって、必ずしもInformation Clearing Houseの意見を代表するものではありません。

<引用終了>


これで全文の仮訳が終了した。

チョムスキーのもっとも中核的な論点は「われわれは一緒になって、改善の方向へ向かわなければならない。ロシアとの国境では緊張が非常に高まっており、その緊張が何時爆発するか分かったものではない。そんなことが起こったら、最終核戦争を招き、地球上の生物や生命の終焉となりかねない。われわれは今そのような状況に非常に近くなっている・・・」という点にあると私は思う。

また、米国が犯したイラクへの軍事的侵攻は米国が他国のことをあれこれと論じる際のモラルの基盤そのものを台無しにしてしまったというチョムスキーの指摘は決して忘れたくはない。

人類の存続を確実にすることは他のすべての課題よりも優先させなければならない。これは自明の理である。



参照: 

注1: Chomsky Admits “Israeli Intervention In US Elections Overwhelms Anything Russia Has Done": By Tyler Durden, ZeroHedge, Information Clearing House, Aug/05/2018





2018年8月4日土曜日

米諜報機関は米国の崩壊を駆動する役

7月16日、ヘルシンキでトランプ・プーチン会談が開催された。会談後、両大統領は共同記者会見に臨んだ。

記者会見ではさまざまな質問があった。もっとも関心を呼んだのはロシアが2016年の米大統領選に干渉したのかどうかという点である。トランプ大統領は会談の場でプーチン大統領の明確な否定を目撃したことから、ロシアは何の干渉もしなかったと答えた。米国内ではかねてから諜報部門からの代表者が集まり、諜報界全体の意見として、ロシアが大統領選に干渉したとする見解を報告していた。この諜報界からの報告は必ずしも正式に16部門全体を代表する見解ではないとの指摘もあるが、トランプ大統領はこの記者会見で自国の諜報機関からの報告を反故にして、ロシア大統領の言葉が正しいとしたのである。このことが反ロ・反トランプのキャンペーンを行って来た民主党や大手メディアの興奮状態を更に激しいものにした。

一連のロシアゲートを2年近くも観察して来たが、今回のトランプ・プーチン会談後の記者会見を受けて米国内がかくも騒然となったのは9/11同時多発テロ以来初めてのことである。

最大の不幸は、私の個人的な意見では、反トランプ・反ロの議論は作り話ばかりで、非常に理不尽であることだ。その理不尽な状況を先導しているのは米諜報機関だとする記事がここにある [注1]。その表題は「米諜報機関は米国の崩壊を駆動する役」と題され、著者はロシア系米国人で、ロシアに関する論評では定評のあるドミトリー・オルロフ。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。


<引用開始>

今日、米国では「スパイ」という用語は特定の分野以外ではそれ程用いられない。散発的に産業スパイが話題に登場することもあるが、米国人が国境を越えた世界を理解しようとする場合には「諜報」という言葉が多用される。物事をどう見るかによるが、これは知的な選択であるかも知れない。あるいは、そうではないかも知れない。

まず、米国の「諜報」は米国が伝統的に関与してきたスパイ・ゲームとは曖昧に関係するだけである。その一方、ロシアや中国といった国々では依然としてスパイ活動が行われている。スパイ活動では非常に重要な情報が収集され、自国の関連部署の意思決定者に送付される。この間、情報の収集や検証は極秘裏に進められる。

かっては、自分の存在が露見するとスパイは青酸カリを呑んだものだ。拷問は紳士的ではないと考えられている今日、相手に捕まってしまったスパイは「スパイの交換」の機会を辛抱強く待つことになる。スパイの交換に関する常識的な不文律としては、スパイの交換は密かに実施し、将来の交渉作業に支障を来たさないためにも交換された当事者に対しては何の介入もしない。近年、米諜報機関は囚人の拷問は利用価値があると判断しているが、職業的なスパイはその対象ではない。無実の傍観者が対象である。時には強制された挙句に「アルカイダ」のような作り話も登場する。米諜報機関がイスラム系テロリストの間でそれを喧伝する前はそんなものは存在してはいなかった。

米諜報機関の下部組織であり、ドクター・イーブルの小型版として見られる英国の「特殊サービス」は、最近、自分たちのスパイであり、二重スパイでもあるセルゲイ・スクリパルに干渉した。セルゲイ・スクリパルはスパイの交換によってロシアの刑務所から解放されていた。連中はスクリパルに毒を盛り、何の証拠も示さずにロシアにその罪を着せようとした。これで、英国のスパイはロシアとの間でスパイの交換が行われることはなくなるだろう。(英国がポートン・ダウンの「秘密」の研究所で所有しており、実に強力であるとされていたノビチョクが正常に機能せず、致死的な効果を示すのは20パーセントのみであることから)ロシアで活動する英国のスパイには、多分、伝統的な青酸カリが配布されるだろう。

一般的にスパイ活動については他にも常識的な不文律がある。何事が起こっても、すべてを法廷外に留めることだ。どんな訴訟であっても、事実の探索の過程は検察側に情報源や手法を暴露するよう強要し、これらの情報は公知の事実となってしまう。これに代わるものは秘密法廷でしかないが、この手法は正当な過程を踏んでいるかどうか、あるいは、証拠の原則を踏襲しているかどうかを独立に検証することが出来ないので、大きな利用価値があるとは言えない。

反逆者に対しては違った基準が適用される。つまり、この件においてはことの発端は公判中の人物であり、その方途は国家に対する反逆であって、これは暴露することが可能であることから、彼らを裁判所へ送り込むことは受け入れられ、倫理的にも高い目標に仕える。しかし、たとえ二重スパイであることが判明したとしても、この論理はただ単に自分の仕事をこなしている由緒正しい、職業的なスパイの場合には適用されない。事実、対防諜活動によって一人のスパイが発見された場合、プロフェッショナルな策は彼を二重スパイに仕立て上げるか、それが不可能な場合には偽情報を注入する経路として彼を活用することだ。

このルールを破るために米国人は最善を尽くして来た。最近、ロバート・ミュラー特別検察官はロシア国内からDNC(民主党全国委員会)のメール用サーバーに不正侵入し、電子メールをウィキリークスに送ったとして12人のロシア人の工作員を起訴した。ところで、このサーバーは今行方不明である(間違ってどこかへ置き去りにされてしまった)が、ウィキリークスによって公開されたファイルの更新日時を辿ってみると、これらのファイルはインターネット経由で送付されたのではなく、USB メモリーにコピーされたものであることを示している。したがって、これはリークであって、不正侵入ではない。ロシアの遠隔地から操作するなんて誰にもできない相談だ。

さらには、米国の高官にとってはロシア国内のロシア人市民を公判に付すという考えは無益となる。ロシアの憲法には次のような条文があることから、彼らが米国の裁判所へ出頭することはない。「61.1条 ロシア連邦の市民は国外へ退去させられたり、外国へ送還されることはない。」ミュラー特別検察官は憲法学者らをパネルに招致し、この条文を解釈して貰うべきだ。あるいは、その条文を読んで、くやし涙を流すことも可能だ。確かに、米国人らはスパイを裁判所に送り込むことに関する不文律を破るために最善の努力を尽くしてはいるのだが、彼らの最善の努力は決して十分だとは言えない。

とは言うものの、ロシア人スパイはDNCのメールサーバーへ不正侵入することは出来なかったと信じる理由はない。あのサーバーは、多分、マイクロソフト・ウィンドウズを使用しており、この基本ソフトは穴だらけであったに違いない。まさに、米国人が多くの市民が住んでいたシリアのラッカの街をガラクタに化した後のように穴だらけなのだ。フォックス・ニュースがこの不正侵入について質問をした時、プーチン大統領(現職の前はスパイとして仕事をしていた)は真面目な顔付きを保つことに苦労しているようでさえあったが、明らかにこの瞬間を楽しんでいた。不正侵入を受けた、あるいは、リークされた電子メールは不正行為のパターンを明確に示していると彼は指摘した。つまり、DNCの職員らは民主党の予備選挙でバーニー・サンダースから勝利を掠め取ろうと共謀し、このことがバレてしまった後に彼らは辞職を強いられた。もしもロシア人による不正侵入が本当に起こっていたとしたら、米国の民主主義を救うために働いていたのはロシア人であったということになる。とすると、感謝の念はいったい何処に向けるべきなのか?愛着の念は何処に向けたらいいのか?そうそう、DNCの犯罪者らはどうして刑務所に放り込まれていないのか?

米国とロシアとの間には刑事事件の捜査において協力するという合意があることから、プーチンはミュラーによって告訴されたスパイを尋問することを提言した。さらにプーチンはミュラーがこの訴訟に同席するよう提言した。しかし、そのお返しとして、ウィリアム・ブラウダーという有罪判決を受けている犯罪者に手を貸し、悪事を働いたかも知れない米国の政府職員を尋問することをプーチンは希望したのである。当のウィリアム・ブラウダーはロシアで9年の服役を何時でも開始するばかりとなっている。ところで、彼は不正に得た金の中から莫大な金額をヒラリー・クリントンの選挙運動に寄付をしていた。これに応えて、米上院は米国の政府職員に対してロシアが尋問をすることを禁じる決議を採択した。12人のロシア人のスパイに対する尋問について有効な要求書を発行する代わりに、少なくとも米国のある政府職員は彼らが米国へやって来るようにとの馬鹿げた要求をした。重ねて言うが、いったい彼らは61.1条のどの部分が理解できなかったのであろうか?

もしもわれわれが諜報活動や反諜報活動の伝統的な定義、つまり、国家を防護する上で最善の意思決定をすることを目的として詳細な情報に基づいて決断をするためにも十分に検証された情報を提供するという米国の専門用語における「諜報」の意味に厳密に従うならば、米国政府職員の論理は理解することが困難であろう。しかし、もしもわれわれがそのような奇妙な考えから自分自身を解放し、われわれが実際に目にする現実を受け入れるとするならば、すべてが完全に意味を成すのである。即ち、米国の「諜報」の目的は事実に基づくものではなく、単に「ナンセンスをもたらす」だけである。

米諜報機関が提供する「諜報」は何についてでもあり得るが、実際には、それが馬鹿げていればいるほどいいのだ。何故ならば、その目的は馬鹿げた連中が馬鹿げた意思決定をすることにあるからだ。事実、彼らは事実は有害であるとさえ考える。例えば、それがシリアの化学兵器であったり、バーニー・サンダースから予備選挙を勝ち取ろうとする陰謀、イラクの大量破壊兵器、あるいは、オサマ・ビン・ラーデンの居場所であったりする。何故ならば、事実は正確さや厳密さを要求する。その一方、彼らは純粋な幻想や奇行の世界に棲むことを好む。この意味においては、彼らの実際の目的は容易に認識可能である。

米国の諜報の目的は存在しない(即ち、借り物の)財政源を非効率的で、過大な値札が付けられた軍事作戦や兵器システムのために浪費することによって在りもしない攻撃的な敵国から米国を防護すると見せかけながら、米国やその同盟国に残されている富のすべてを吸い取り、出来るだけ多くをポケットに収めることにある。もしも攻撃的な敵国が想像上の存在ではなく現実のものである場合、彼らに代わって誰かが戦いを遂行するようお膳立てをする。例えば、「穏健な」テロリスト、等を使う。彼らの最先端技術でもっとも目覚ましい進歩の一例は、9/11 同時多発テロという実際に行われた偽旗作戦からシリアの東グータで観察された偽物の化学兵器攻撃に見られる作り物による偽旗作戦への移行に見ることができる。ロシアが米大統領選に干渉したとする物語はこの進化の過程の最終段階であろう。つまり、このでっち上げの過程でニューヨークの摩天楼は破壊されることもなかったし、シリアの子供たちは何の傷も受けなかった。一見したところ、この物語は数多くの人たちによって語り継がれ、永久に生きながらえることが可能であろう。これは、今や、純粋な信用詐欺である。もしもあなたが彼らが発明した筋書きにそれ程の感銘を受けないとするならば、あなたは共謀論者であると見なされ、最新の言葉を使うとすれば、あなたは反逆者である。

トランプ大統領は、最近、米国の諜報機関を信用するかとの質問を受けた。彼は言葉を濁した。気軽に表現すれば、彼の答えは下記のような具合だ:

「そんな馬鹿げた質問をするなんてあんたは何というお馬鹿さんであろうか。もちろん、彼らは嘘をついている!彼らは嘘をついているところを何度も捕まっているので、彼らを信用することなんて出来ない。彼らは今回は嘘をついてはいないと主張するならば、彼らが嘘をつくことを止めたのは何時だったのかを特定しなければならない。そして、それ以降彼らは嘘をついたことがないことを実証しなければならない。入手可能な情報に基づいて実証するのはまさに不可能だ。」

もっと真面目で事実に即した答えは次のようなものとなるだろう: 

「米国の諜報機関は2016年の大統領選の結果を覆すために私がロシアと共謀したとの言語道断な主張をした。これの証拠を示す責務は彼らにある。彼らは裁判所で彼らが述べたことを証明しなければならない。もしも決着することが出来ると言うならば、裁判所こそが物事を合法的に活着することが可能な場所だ。決着されるまでは、われわれは彼らの主張は事実としてではなく、陰謀論として取り扱わなければならない。」

そして、本格的で、かつ、無表情な答えは次のようなものとなろう: 

「米国の諜報サービスは米国の憲法を守るとする宣誓をしている。この宣誓によれば、私は彼らの最高司令官である。彼らが私に報告をするのであって、私が彼らに報告するのではない。彼らは私に対して忠実でなければならないのであって、私が彼らに対して忠実でなければならないのではない。もしも彼らが私に対して忠実ではないならば、その事実は彼らを解雇するのに十分な理由となる。」

しかし、そのような現実に即した、堅実な対話をすることは不可能であるようだ。われわれが耳にするのはすべてが作り話の質問に対する作り話の答であって、その結末は一連の間違いだらけの意思決定である。作り話の諜報に基づいて、米国はこの国のほとんどすべてを浪費し、この国は非常に高価で、最終的にはまったく無益な紛争に巻き込まれている。彼らの努力によってイランやイラク、シリアは今や宗教的にも地政学的にも同盟関係を維持し、ロシアに対して友好的になった。アフガニスタンではタリバンが再興し、イラクやシリアにおいて米国によってひとつの勢力として組織化されたイスラム国と戦っている。

今世紀になってから米国がこれらの戦争で費やした戦費の合計は4,575,610,429,593ドルに達したと報告されている。これを138,313,155人の米国の納税者数で割ると(実際に税金を支払っているのかという指摘は余りにも些末な質問だ)、納税者一人当たりで33,000ドルとなる。もしもあなたが米国で税金を払っているならば、それは米国のさまざまな諜報機関が発した「しまった!」という言葉に関してあなたに向けて発行された当面の請求書である。

16部門もある米国の諜報機関の予算の合計は668憶ドルにも達し、彼らが如何に効率的であるかを自覚するまでは、この額は著しく大きいと感じることであろう。彼らの「しまった!」の費用の総額は我が国にとっては彼らの予算の70倍にも相当する。20万人もの職員を抱え、米国の納税者にとっては個々の職員は平均で2千3百万ドルの負担となる。この数値はまったく途方もなく大きな金額だ!エネルギー業界は従業員当たりの稼ぎが一番高く、一人当たりで180万ドルとなる。ヴァレロエネルギーは飛びぬけて稼ぎが大きく、一人当たりで760万ドルだ。米諜報界は一人当たり2千3百万ドルで、ヴァレロの3倍となる。脱帽だ!当面、これは米諜報界を最高の地位に据えてくれた。考え得る限りでは最高に効率が高く、米国の崩壊に向けて駆動役を担っている。

なぜそうなのかに関してはふたつの仮説が想定される。

まずは、これらの20万人の職員はべらぼうに無能で、彼らがもたらす失敗は偶発的なものであると想定することができる。しかし、ひどく無能な連中がそれでもなお平均で一人当たり2千3百万ドルもの金額を彼らが選択した多種多様な無益な仕事に向けて何とか注ぎ込む姿を想像することは実に難しい。そのような無能な連中が自分たちが犯した失敗を咎められることもなく何十年間にもわたってヘマをし続けることが許されていることを想像するのはさらに難しい。

もうひとつの仮説はもっと妥当なものだ。米諜報界は終わることのない、高価で、無益な一連の紛争にこの国を追い込むことによってこの国を倒産させ、財政的にも、経済的にも、政治的にもこの国を崩壊させるという素晴らしい仕事をして来た。世界が認識している限りでは、これは単一の連続した行為としては最大級の窃盗である。「知的な存在」がどうして自分の国家に対してこのようなことを仕出かすことができるのであろうか。「諜報」に関して考え得る定義については、あなた方ご自身が見出して貰いたいと思う。その難題に取り組んでいる最中に、「国家に対する反逆」に関しても新たに改定された定義を見出して貰いたい。永久的な嘘つきとして知られている連中によってもたらされた馬鹿げた、根も葉もない主張に向けられる懐疑的な態度よりも遥かにましな定義を見つけて欲しいのだ。

<引用終了>


これで全文の仮訳が終了した。

ところどころにユーモアを交えることによってこの記事を読みやすくしている。

下記に示す段落は実に秀逸だ:

米諜報機関が提供する「諜報」は何についてでもあり得るが、実際には、それが馬鹿げていればいるほどいいのだ。何故ならば、その目的は馬鹿げた連中が馬鹿げた意思決定をすることにあるからだ。事実、彼らは事実は有害であるとさえ考える。例えば、それがシリアの化学兵器であったり、バーニー・サンダースから予備選挙を勝ち取ろうとする陰謀、イラクの大量破壊兵器、あるいは、オサマ・ビン・ラーデンの居場所であったりする。何故ならば、事実は正確さや厳密さを要求する。その一方、彼らは純粋な幻想や奇行の世界に棲むことを好む。この意味においては、彼らの実際の目的は容易に認識可能である。

米諜報機関の存在は米国の社会に巣食う癌細胞であると言えようか。自己増殖によって今や余りにも大きくなってしまった。癌細胞を摘出しようとすると、周辺の正常な臓器を著しく傷つけてしまう危険性がある。それ程にも危険な状態となっているのだと感じられる。トランプ政権が発足してから1年半余りが過ぎたにもかかわらず、米国の政治は「軍産・ウオールストリート・大手メディア複合体」によってハイジャックされており、反ロ・反トランプのキャンペーンのせいで空回りをしている。そして、その中心に諜報部門が存在すると著者は言う。非常に興味深い指摘である。さまざまな事象を観察すると、著者の指摘が当を得ていることを思い知らされる。


参照:

注1: US Intelligence Community as a Collapse Driver: By Dmitry Orlov, cluborlov.blogspot.com, Jul/24/2018  






2018年8月1日水曜日

ドイツ議会はシリアにおける米国の駐留を非合法と判断

7月10日のある記事 [注1] によると、ドイツ議会にある「議会科学サービス」がシリアにおける米軍の駐留を非合法であると判断し、そのことを報告した。

興味深いことには今欧州では米国離れが着実に進んでいるようだ。今までは米国との同盟関係を重視するあまりに、言いたいことを言わなかった欧州がそうした受け身の態度を改めて、自分たちの本当の気持ちをはっきりと言い始めたのだ。果たしてこれがどこまで進行するのかは分からない。NATOが瓦解するのか、EUが内部崩壊を起こすのか・・・

また、欧州勢はシリアから完全に撤退するのか?イラン核合意は米国を抜きにして継続されるのか?ドイツが推進しているロシアからの天然ガスのパイプライン、ノルドストリーム2は完成するのか?ウクライナの行方は?と、大きな問題が山積している。そのどれもが欧州の政治的自立を試すことになるだろう。

欧州における米国離れの傾向は中国やロシアが米ドルによる貿易の決済を自国通貨に切り替え始めたことと相俟って今日の国際政治や国際経済においては非常に重要な要素であると思う。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。

ドイツ議会の議会科学サービスがどのような論理でシリアにおける米軍の駐留を非合法であると判断したのか、その論理的背景を学んでおきたい。


<引用開始>

ドイツ議会の「科学サービス」は米議会の「議会調査サービス」に匹敵する組織である。議員は専門家の中立的な意見を求めて、この組織に法的な質問やその他の件について意見を求めることができる。科学サービスが提出する見解は何よりも高く評価される。

ドイツの左派の党「リンクス」の党員、アレクサンデル・ノイはシリア国内におけるロシア、米国ならびにイスラエルの軍事的作戦の合法性に関して意見を求めた。

その結果(pdf, ドイツ語) は極めて明白なものである: 

- ロシアは(国際的に)認知されているシリア政府からの要請を受けた。シリアにおけるロシア軍の駐屯は国際法の下では何の疑いもなく、合法的である。

- シリアにおける米国の軍事行動はふたつの局面として観察することができる: 

政権変更:

シリア国内の反乱者に対して行われた米国(ならびに、他の国)からの武器の供与は非合法である。これは国際法で定められている武力の行使の禁止、特に、国連憲章の第2条の4項に違反する。

すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。

ISISに対する戦い:

シリアにおけるイスラム国は米国に対して攻撃の脅威を与えることから、米国はシリアにおける米軍の存在は国連憲章の第51条に定められた(集団的)自衛権に相当するものだと主張している。その主張自体は、シリアが主権国家であることから、不十分なものとなろう。そのような状況から、イスラム国に対する戦いについてはシリアには「その気もなく、能力もない」と米国は主張している。

科学サービスは「その気もなく、能力もない」という主張は米国の作戦が開始された時点ですでに曖昧であったと述べている。これはふたつの理由からである: 

これは法律ではなく、国際的に認知された法的原理でもない。(非同盟諸国の120か国、ならびに、他の国々がこれに反対。) 

シリア政府自体はイスラム国と戦って来たが、イスラム国が支配していた地域はシリアの大部分を占めるものではなく、全土に及ぶ作戦ではなかった。人によってはこれは「能力もない」という主張を正当化すると言う。しかしながら、イスラム国はほとんどが敗退し、もはや意味のある領土的支配を保ってはいない。

米軍や他の同盟国のシリアにおける存在はすでに法的に曖昧になっており、この主張はもはや維持することはできない。シリアにおける米軍の存在は非合法である。

- シリアにおけるヒズボラやイラン軍の部隊あるいは施設に対するイスラエル軍の攻撃は、シリア軍そのものに対する攻撃と同様に、国連憲章の51条の下で「予期される自衛の行動」であるとイスラエル側は主張する。しかし、「予期される自衛の行動」はイスラエルに対する攻撃が真近に迫った時にのみ主張することが可能なものである。ところが、そのような事態は生じてはいなかった。したがって、イスラエルの攻撃は「先制攻撃」であって、これは国際法の原理として認知されたものではない。

このようにイスラエルによる攻撃は「専制的な自衛の行動」であって、これは国際法で認知された原理ではない。

科学サービスはシリアに対するトルコの侵攻に関しては意見を求められてはいないが、シリア国内でクルド人勢力に対してトルコが行っている侵攻はあくまでも「自衛」のためであると主張しているが、これは、多くの場合、地政学的戦略の目的のために乱用されている。


限定的な科学サービスの意見:

ここに提供された議論はまったく新しいという訳ではない。他の論者も同様な経路を辿って、同様な結末に至っている。

しかし、ドイツ軍はイスラム国に対抗する米国の同盟国の一員であり、米国が主張するこの議論の下で米国を支援するためにトルコやヨルダンから偵察機を発進させて来た。ドイツ議会は、目下、イスラム国に対抗する委任状を更新する積りはなさそうだ。他の国々もこれにならって、米国との同盟軍としての参画は中断する模様である。

これはシリアの地上の状況を変えるものにはならないけれども、国際政治の雰囲気を変えるものとなる。また、これはヨーロッパの一般大衆の目に映るシリア政府の「リハビリ」に功を奏するであろう。シリア政府はもはや「敵国」とは見なされないからだ。

この記事は最初に「Moon Of Alabama」によって出版された。

注:この記事の見解は全面的に著者のものであって、必ずしも Information Clearing Houseの意見を反映するものではありません。

<引用終了>


これで全文の仮訳は終了した。

ドイツ議会の科学サービスが行ったこの検証結果は「シリアの地上の状況を変えるものにはならないけれども、国際政治の雰囲気を変えるものとなる。また、これはヨーロッパの一般大衆の目に映るシリア政府のリハビリに功を奏するであろう。シリア政府はもはや敵国とは見なされないからだ」と述べている。

昨年の夏、カタールとサウジアラビアとの間の関係は非常に険悪なものとなった。両国の間には天然ガスを巡って20年間にも及ぶ争いが続いていたと言われている。結果として、カタールはサウジの影響圏から脱して、天然ガス源を巡ってはかねてから仇敵であったイランと天然ガスの共同開発を行うといった話題さえもが出て来る昨今である。また、イランはサウジのライバルである。カタールはかってはサウジと並んでシリアの反政府派を支援する強力なメンバーでもあった。大量の資金が供給されていた。また、カタールから大量の資本を導入していたフランスもカタールの外交上の変化によって対シリア政策に大なり小なりの影響を被っていることだろうと推測する。

数年前にシリアを取り巻いていた状況と比べると、ドイツ議会の科学サービスが提示した結論は国際政治の上では画期的なものであると言えるのではないか。この趨勢が逆戻りすることもなく前進し、故郷を追われ、難民生活を余儀なくされて来た何百万人ものシリア市民が故郷へ再び戻れる日が来ることを願うばかりである。




参照:

注1: German Parliament Report U.S. Presence in Syria Is Illegal: By Moon Of Alabama, Information Clearing House, Jul/10/2018