2019年1月28日月曜日

EUを対ロ紛争に巻き込んだのはバルト諸国だ


新冷戦は米国の軍産複合体がNATO体制を維持することを正当化するために巨大な仮想敵国を必要とすることからロシアや中国を大っぴらに敵国扱いしていることから始まったとする見方が支配的である。そうすることによって、ペンタゴンは膨大な軍事予算を毎年獲得している。

しかしながら、EUの対ロ紛争に関しては、ここに、「EUを対ロ紛争に巻き込んだのはバルト諸国だ」と題された記事がある(注1)。

米国の軍産複合体が推進する米ロ間の対決の構造とは別個に、EUの対ロ紛争に焦点を当てると、そこにはさまざまな要素が観察される。例えば、ウクライナ紛争、MH 17便撃墜事件、ノルドストリーム2、スクリッパル父娘毒殺未遂事件、ロシア国境におけるNATO軍の軍事演習、NATO組織の東方への拡大、等。ヨーロッパでは一般的には小国と見なされるバルト諸国がEUを、さらには、米国を対ロ紛争に巻き込んだとする見方は実に新鮮に響く。そう言われてみると、そのような動力学を感じ取ることは容易だ。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>

バルト諸国は従属国が大国を相手にして、如何にして自分たちの主張に考慮を払わせることができるかを示した好例である。と同時に、彼らは不適格な対外政策がこれらバルト三国を大失敗に導いている好例でもある、と社会学者のロスティスラフ・イシチェンコが述べている。

エストニア、ラトビアおよびリトアニアの三カ国が協調した政策がNATOEUの場において数多くの点でヨーロッパと米国とを対ロ紛争に巻き込んだ。

米国では何人かの政治家が強力な反ロ政策を支持した。しかし、この反ロ政策に加わるEUにとってはこれは全面的にバルト諸国やポーランド、ルーマニア、スウェーデンの良心に関わるものであり、ハンガリーやチェコについても部分的にそうであった。さらには、バルト諸国はこの問題に関する彼らの国の大きさや政治的な重みには不釣り合いなほどの役割を演じたのである。

しかし、それはまあいいだろう。結局、これはEUを反ロ紛争に巻き込んだ東欧の境界線上にある国々や米国ならびに英国の集団的な取り組みである。バルト諸国はこの取り組みに関与した。彼らは積極的ではあったが、彼らの参画は彼らの能力レベルに相応しいものであった。EUからは抵抗があり、米国はこの意味のないPR行動に金を注ぎ込みたくはないとして率直に反対をしたにもかかわらず、バルト三国は自分たちの領内へNATO軍を配備することにまんまと成功した。

ここでは、「手なずけた相手には責任がある」という良く知られた行動原理がバルト諸国にとっては好意的に働いたのである。

政治においては大きな国家や強国は、多くの場合、新参者の調べに合わせて踊らなければならないし、計画には無かったような、不必要なジェスチャーをしなければならないこともある。自分たちが作った機構の有効性や安全保障の信頼性について問い質すことなんて不可能なのである。

バルト三国はロシアが占領計画を抱いているとしてロシアを非難するキャンペーンを立ち上げて、NATO内における相談の手順を踏んだだけであった。しかし、米国とEUはロシアはそのような計画を持ってはいないと理解していた。モスクワ政府はすでにこれら三国においては寄港する価値がないものとし、これら三国ではEUの取り組みを通じて自国経済が失われ、人けがなくなり、すっかりさびれてしまった。そして、この変化は今も続いている。

と同時に、ワシントン政府自身も反ロ・プロパガンダを行っていた。ロシアは侵略的であり、クリミアを併合した、ドンバス地方をウクライナから引き離そうとしているとして非難をした。米国はNATO内のバルト三国が間違っている、モスクワ政府はバルト三国に対しては極めて平和的であると宣言することはできなかった。これは何を意味するかと言うと、米国は(NATOのメンバーでもなく、EUの加盟国でもない)ウクライナを防護するけれども、米国の同盟国の運命については運を天に任せるということである。

米国はバルト三国の領土内へ一旅団(三大隊)を派遣することになった。しかしながら、この旅団は混成部隊であって、NATO参加国の国々から派遣された。とは言え、基礎は築かれたのである。


軍事的・政治的な成功の代価: 

バルト諸国は今自分たちのグループが拡大するよう注力している。その論理は明快だ。つまり、より多くの同盟軍(米軍だったらもっといい)がバルト諸国の「前線」に送り込まれたら、これら三国の政治的発言力が高まるだろうという魂胆だ。米国、NATOならびに英国はこれらの国々が将来口にするであろう軍事的なヒステリーのすべてを注意深く聞き届けなければならないであろう。

もしも彼らが何らかの挑発を引き起こした場合、被害を被るのは米国、ドイツ、カナダ、英国およびスウェーデンの将兵たちだ。(その時点でどこの軍隊がその場所に居合わせたか次第である。) 

以上がバルト三国が自分たちを対ロ戦争に引きずり込むことができる状況を示すものであるが、彼らはどのようにして戦争が起こるのかさえも分かってはいない。

われわれにも分かるように、先輩のパートナーがその代価を支払うことによってバルト諸国は自分たちが作り出した問題を解決するのだ。しかしながら、経済分野における主要問題は別である。彼らがソ連邦から離脱した当時、彼らは自分たちが行っていたミニバスやラジオ受信機の製造を維持しようとはしなかった。農業や港湾業務が経済発展のための主要な牽引役とならなければならなかった。

EUは彼らの農業を壊すよう強要した。エストニアやラトビアおよびリトアニアの消費者にミルクやバターを届ける役割はオランダとドイツが喜んで引き受けた。EUの先輩メンバーは競争相手を必要とはしなかったのである。新メンバーを受け入れるに当たって、先輩メンバーらはバルト諸国の経済の中でも特に競争力のある分野が生き残ることがないようにした。

しばらくして、バルト諸国での寄港も失われた。それぞれの地方政府によって推進されていたロシア恐怖症キャンペーンを背景として、単純に言って、ロシアの船舶がバルト諸国での寄港に依存するメリットはもはや見当たらなかった。港湾施設は何時でも閉鎖される可能性があり、関税で弄ばされた暁にはロシア企業にとっては輸出契約が大打撃を被ることになろう。


目標設定に間違いがあったとしたら: 

われわれにも分かるように、軍事・政治面における成功と経済における大失敗はまったく同一の要因によってもたらされたのである。それはロシア恐怖症を政策として採用したことだ。

ここで、われわれ自身に対しても問い質してみたい。もしもバルト諸国がもっと現実的であったとしたらいったいこれら三国はどのように展開していただろうか? 

エストニア、ラトビアおよびリトアニアの領土内にはNATO軍はいないであろう。本物の大戦争においてはNATO軍は防衛軍ではなく、攻撃目標となる。バルト諸国領内に存在する合法的な軍事目標となろう。

ロシア恐怖症政策は何も失うこともなしに破棄することが可能であった筈だ。さらには、正常な対ロ関係の下ではバルト諸国での寄港は今日うまく行われていたであろうし、これら三国の市民生活の糧となっていたに違いない。もしも彼らがNATO軍を領土内へ呼びこむために費やした取り組みと同じくらいに自分たちの農業を維持しようとして懸命に努めていたならば、バルト三国は今日繁栄を極め、人口を維持し続けることができたであろう。

つまり、国際関係を適正に、しかも、効率的に適用していたとしても、その目標設定が最初から間違っており、その目標のために採用された政策が適切ではなかった場合には、単に損害に続く損害に見舞われることなってしまう。


<引用終了>


これで全文の仮訳は終了した。

2016年の米大統領選に絡んで西側でロシア恐怖症が喧伝され始めた頃、ある記事によれば、バルト三国の政治家は国内経済の不調から市民の関心を逸らせるためにロシア恐怖症的な政策を導入しているとの非難の声があった。そのような事例は何処の国でもよく観察されることではあるが、問題は、何時も上手く行くとは限らないことだ。

この引用記事はバルト三国が今日抱えている経済的疲弊の根本的理由を掘り下げることに成功している。結果論として、EUへの加盟交渉ではバルト三国は大きな失敗をしたことがわれわれのような素人にもよく理解することが可能だ。「もしも彼らがNATO軍を領土内へ呼びこむために費やした取り組みと同じくらいに自分たちの農業を維持しようとして懸命に努めていたならば、バルト三国は今日繁栄を極め、人口を維持し続けることができたであろう」という著者の指摘は秀逸である。適切な目標設定が如何に大切であるかを知らしめようとしている。

市民の幸福を維持し、安心・安全を推進することが政治の究極目標である筈だが、バルト諸国はEUへの加盟と引き換えに国内経済の疲弊をもたらし、これらの国々からの人口の流出は今も続いている。

ところで、EUの対ロ紛争の裏にはEUの対米紛争も新たに加わった。その状況をもっとも端的に伝えてくれているのはドイツが推進するロシア産天然ガスを輸送するパイプライン「ノルドストリーム2」である。米国は対ロ政策上の理由からヨーロッパがロシア産天然ガスをこれ以上輸入することは止めて、米国産のLPGを輸入しなさいと要求している。このパイプラインの建設に関与している企業(ヨーロッパのエネルギー大手5社)には経済制裁を課すと米国は脅しをかけているが、ドイツの外相は「ヨーロッパのエネルギー政策を決めるのはヨーロッパだ。米国ではない」と反論している。ドイツにとっては米国産のLPGに比べ、ロシア産の天然ガスの方がかなり経済的であり、それが最大の魅力である。ロシア産天然ガスを諦めることは経済的自殺に等しい。計画では2019年中には天然ガスの輸送を開始することになっている。

この「ノルドストリーム2」問題では、皮肉なことに、市場経済をもっとも推進している筈の米国が経済性を無視して、ヨーロッパ諸国をがむしゃらに説得しようとしている。

本日の引用記事からも理解することができるように、ヨーロッパが米国の圧力に負けて、間違った政策目標を採用した暁にはヨーロッパにとっては将来苦難の連続となるのではないか。それは誰の目にも明らかである。

そういった新たな視点をわれわれに与えてくれたこの引用記事には拍手を送りたい程である。




参照:

1The Baltics Are Responsible for Dragging the EU into a Conflict with Russia: By Rostislav Ishchenko, The Saker, translated by Ollie Richardson and Angelina Siard, Dec/28/2018






2019年1月20日日曜日

対ロ秘密戦争を続けるデイープステーツ


2018年105日、ペンタゴンが146ページの文書を発行した。この文書の名称は「Assessing and Strengthening the Manufacturing and Defense Industrial Base and Supply Chain Resiliency of the United States」。狙いは何か?これはロシアと中国を相手にした戦争のための準備に関して述べたものである。
この文書についてはある著者(Andre Damon)が詳しく内容を説明している(注1)。それによると、米国が核大国の2番目および3番目の国家と全面的な対決を目指し、「今晩にでも戦争を始める」という軍事的目標を達成するためには、米国の経済を戦争経済に改編する必要があるというのがその趣旨である。米国の製造業ならびに防衛産業基盤はこの報告書を遵守し、我が国の兵士らが頼ることができるような「プラットフォームとシステム」を構築しなければならない。この複合体制には政府だけではなく民間部門も参画する。これには「研究開発組織」や「学究分野」も含まれる。換言すると、経済の全域が網羅され、社会全体が戦争準備の対象となる。
しかしながら、Andre Damonに言わせると、ペンタゴンが発刊した上述の文書については大手メディアは何故かほとんど報道しなかった。
もうひとつの記事(注2)によると、対ロ戦争はすでに秘密裡に遂行されているという。視点を少し変えて世界を観るだけで、われわれを取り巻く世界はガラリと変わってしまう。驚くほどだ。個々の出来事を独立した事象として観るのではなく、より大きな対ロ戦争という枠組みで改めて見直してみると、個々の事象が巨大なジグソーパズルの全体像を構成する重要な要素として浮かび上がって来るのだ。
本日はこの記事(注2)を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。

<引用開始>

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ロシアは1000年もの昔から存在する陰謀論に今でも狙われているのであろうか?この陰謀論は非常に古く、中央銀行を築き、君主に対してはもう一人の君主を擁立し、何世紀にもわたって継続されて来た。まさにこれはトランプが唱えるディープステーツのことではないか?ディープステーツは大金持ちや中央銀行および産業界の徒党が織り成すネットワークである。

今日、彼らはテロ攻撃を仕掛け、旅客機を撃墜し、世界中のメディアさえをも所有している。

2018年のクリスマスの日、イスラエルの軍用機は二機の民間航空機の背後に隠れてシリアを攻撃した。その内の一機の民間航空機はダマスカスに着陸した。レバノン政府はイスラエルによる自国の空域に対する侵犯と軍事行動は狂気の沙汰であると述べて、激しく非難した。イスラエルのこの行動はイスラエル首相のベンジャミン・ネタニヤフに関する「不信任」の投票から23日後のことであった。汚職の容疑によって彼は首相の任を解かれる可能性がある。

これと同様の攻撃が2018919日にシリア・ロシア軍に対して行われた。イスラエル機は着陸態勢に入っていたロシアのイリューシン20型偵察機の後方へ位置し、イスラエル機はロシア機を「人間の盾」として用いたのである。この行為によって、15人のロシア兵が犠牲となった。

キエフからの消息筋からの証拠によると、2014年に起こったMH17便の撃墜にはキエフで活動していたイスラエルのチームが関与していたことが今や判明している。ウクライナとアゼルバイジャンから発進したイスラエルのパイロットらはMH17便を「人間の盾として用いようとした。

しかしながら、この時は攻撃を行うべき地上の目標は無く、この出来事そのものはホワイトヘルメットによる偽物の化学兵器攻撃とよく酷似している。化学兵器攻撃をでっち上げ、世論を操作するために用い、NATOや米軍をその紛争に引きずり込むための仕掛けであった。

そのシナリオは次のような具合だ:

ウクライナの航空機を操縦するイスラエルのパイロットはSU27型機にイスラエル製の「レーダー・スプーフィング」を装着して地上攻撃を専門とするSU25型機になりすまし、マレーシア航空機を追尾した。モサドはキエフの管制塔に航空管制官を張り付け、過去に航空機による戦闘の歴史があることから「飛行禁止空域」とされている領域に向けてマレーシア航空の旅客機を誘導した。

この出来事を可能にしたひとつの要因は強力なレーダーを備え、二人乗りのイスラエルのF15戦闘機である。このF15機はアゼルバイジャンから発進した。イスラエルは2010年以降アゼルバイジャンにこういった軍事能力を備えて来た。この証言は投降したアゼルバイジャンの将校がアゼルバイジャンにおけるイスラエルの存在に関してイランの官憲に喋った内容である。アゼルバイジャンからイランを攻撃するという魂胆だ。

この非難の重要さから察するに、何らかの記録をこの時点で提供しておく必要がありそうだ。ロイター通信からの情報を下記に示しておこう:

トーマス・グラブ記者(ロイター) - イランの各施設を攻撃するというイスラエル独自の選択肢は中東全域をイライラさせ、米大統領選では主要な同盟国である米国を動揺させた。

ベンジャミン・ネタニヤフ首相はテヘランが核兵器能力のレッドラインに至るには1年を残すだけとなったと述べて、イライラ振りを示した。しかし、イスラエルの同胞の多くは米軍の支援も無しに行う一方的な攻撃はイランのように大きく、しかも遠距離にある敵国を攻撃することは失敗に終わるのではないかとの恐れを抱いている。

しかしながら、たとえワシントン政府の支援が無くてもイスラエルが単独ではないとしたらどうであろうか?

アゼルバイジャンは産油国であり、イランの北側に接し、旧ソ連の一員であったが、アゼルバイジャンの軍事政策に詳しい消息筋によると、イスラエルは、アゼルバイジャン側と共に、アゼルバイジャン国内の空軍基地とスパイ・ドローンを活用することによってイスラエルのジェット戦闘機が如何にして長距離攻撃を成功させることができるかを詳しく研究していたという。

それはネタニヤフがワシントン政府に期待する最強の軍事力や外交分野における援護からは程遠い。しかしながら、イスラエルの戦争計画では必ず表面化するイスラエルが持つ主要な弱点、つまり、給油、偵察、救助要員、等の課題に着目すると、アゼルバイジャンとの同盟関係はイスラエルが米国の支援なしでも軍事行動を起こす可能性に傾倒させる何らかのメリットがあるようだ。

これは広範な地域に暴力的な副作用をもたらすかも知れないし、アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領はエネルギー産業に損害を与える可能性があるとして、多くの人たちが懸念している。彼の富はこのエネルギー産業次第である。あるいは、イスラエルからの好意を勝ち取ろうとする彼の政権を覆そうとするイスラム派をさらに挑発することになるかも知れない。

このストーリーの背後にはまだたくさんの事柄がある。たとえば、ジョージア政府との共犯行為である。2010年の7月、黒海に面するジョージアのポティ港で米国の艦艇「グラップル」から爆弾が陸揚げされた。この陸揚げを行った職員は直ちに「べテランズ・トウディ」の責任者であるジェフリー・シルバーマンにこの積み荷と目的地に関して報告をした。

話を元の筋書きへ戻そう。われわれのキエフの消息筋によると、計画としてはこうだった。イスラエルの諜報組織と一緒に作業をしているキエフ政府によって変更された飛行経路へMH17便を誘導し、ミサイルによって撃墜する。もしもこの計画が奏功しなかった場合は、同旅客機を追尾している戦闘機が撃墜するというものであった。 

2018321日、「低高度」で飛行するSU25機を操縦していたとして間違って非難されていたウクライナのパイロット、ヴラディスラフ・ヴォロシンが「自殺」した。しかし、実際には、イスラエル空軍のパイロットがSU27機を操縦していた。われわれの消息筋は彼は殺害されたのだと言う。ところが、英国のインデペンデント紙は下記のように報じた: 

マレーシア航空のMH17便を撃墜したとしてロシアが避難していたウクライナのパイロットは既報のごとく自殺した。

低空を飛ぶSU-25攻撃機を操縦したヴラディスラフ・ヴォロシン大尉は南ウクライナの故郷の町、ムィコラーイウの自宅で自殺したと地方紙が報じた。

ロシアの高官やメディアはヴォロシンがボーイング777型機を撃墜し、298人の乗客と乗員のすべてを殺害したとして非難していた。

しかしながら、2年間に及んだオランダの調査はロシア製のブク・ミサイルによって撃墜されたとの結論を下した。


本件に関してはワシントン所在の法律事務所とマレーシア首相との間で法的な対処に関して内密のやり取りがあった。その内容は下記の通りである:

モハマド・ナジブ・ビン・トゥン・ハジ・アブドゥル・ラザク首相閣下
マレーシア首相官邸
Main Block, Perdana Putra Building Federal Government Administrative Centre 62502 Putrajaya, Malaysia

201499

用件: マレーシア、カザナおよびマレーシア航空 

親愛なるトゥン・ハジ首相閣下:

マレーシアの代理人となり、マレーシア航空に関わる法的課題やその他の問題について国内ならびに国際的な協調体制を確立するに当たってわれわれが支援を提供するという当方からの申し出に対する閣下のご高配に感謝致します。

われわれは小国の指導者にとっては大きな挑戦となる国際的な課題を解決する閣下の卓越した外交を十分に理解し、感謝するものであります。私どもは閣下にさらに大きな成功をもたらすことが出来るものと自負しております。

われわれは次のような分野においてマレーシアの代理人を務めたいと考えます。そうすることによって、われわれはマレーシアや貴国のカザナ・ナショナル、航空会社ならびに閣下ご自身にとって大きな価値となることでありましょう:

MH17便事件、MH370便事件、等に関してマレーシア航空のための顧問弁護士の役割を提供いたします。例えば、リストラ、ブランド名の変更、労組問題、刑事裁判、民事裁判、等。

MH17便事件に関して閣下が国際刑事裁判所の判断を得たいとお望みでしたら、われわれはそのような裁判権を獲得するために閣下のために法律顧問を務め、ご支援を提供し、国連やウクライナ、ロシア、中国、フランス、英国、米国において閣下のために必要な役割を務めたいと考えます。

私どもの弁護士はMH17便の撃墜によるマレーシアや他の国の被害者のご家族ならびに貴国の航空会社に正義をもたらす上で指導的な役割を演じる用意があります。また、そうすることが可能でもあります。われわれはウクライナや反政府攻撃者、ロシア、米国、保険会社、もしくは、その他の団体・組織に対抗し、犠牲者のご家族や貴国の航空会社へ正義をもたらすために必要となる極めて複雑な多国籍訴訟を完遂する所存であります。

私自身が関与した個人的なコンサルタント業務の後、マレーシア首相はすでに脅かしを受けており、正義を目にすることはもう「許されない」だろうと私に告げた。この脅迫は「ディープステーツ」というわれわれの定義に相当する筋からもたらされたものであった。この事実はこの時点以前に報じられたことはない。

2014年717日、ウクライナ東部の親ロシア派地域の上空でマレーシア航空のMH17便が撃墜された。この事件に関して新たな情報源が名乗り出て来た。その主張が正しいとすれば、さらには、情報源を評価付けする手続きによって本情報が「起訴をすることができる」、あるいは、「高い信ぴょう性がある」と評価されれば、この情報は過去数カ月間の出来事にまったく新しい光を投じることになるであろう。

現在メディアによって描写されているように、情報は斑模様を呈している。共謀論を主張するブログによく見られる「点と点をつなぐ」ような推論、あるいは、トランプ大統領が大手メディアに関して暴露したような論理はめったには見られない。

端的に言って、ロシアは狙われている。ロシアの広大な領土、尽きることがない天然資源が何百年にもわたってモスクワ政府に「事故多発地域」という異名を与えて来た。ヒットラーやナポレオンが失敗に終わった試みが今でもなお実際には終ってはいないのである。また、他の者たちはロシアを相手に政治戦争、プロパガンダ戦争、経済戦争を遂行している。

「ロシアゲート」はそのような戦争のひとつの部分である。スクリッパル父娘毒殺未遂事件も然りだ。また、シリアで化学兵器攻撃をでっち上げ、それに関してロシアを非難することもまったく同列にある。

これらとは別に、ロシアはジョージアのトビリシで米国が関与している生物兵器作戦の目標にされているのではないかと推測できるような強力な証拠が存在する。一例を挙げると、多分、事故であったかも知れないが、致死性の高い、兵器化されたインフルエンザの毒素がジョージア国内で放出された。こういった「事故」は以前にも起こったことがあり、不思議な、説明の施しようがない豚インフルエンザの流行を引き起こしている。考え得る運び屋が存在しないにもかかわらず、この流行は何千マイルも離れた飛び地で発生したのである。

今日、われわれは指を差し始めた。そうするためには、われわれはディープステーツとはいったい何か、いったい誰なのかについて定義をしておく必要があろう。この言葉はトランプが初めて使ったものであるが、超政府的な采配の背後に「隠れた役者」を表現するのにはさまざまな言い方がある。歴史家は個人的な脅威を感じながらこのことを論じることになるのであろうが、その歴史は連綿と続き、実在の人物が登場し、本当の氏名が絡んでくる。歴史を通して観察される限りでは、この系譜は単に何世代という比較的短い期間ではなく、何世紀にもわたっているのである。

「国際的銀行家」あるいは「悪徳資本家」といった用語を使用することは余りにも過小評価した表現であって、妥当ではない。銀行家が国外へ追放された歴史は明確そのものである。英国からは1289年にエドワード一世によってある銀行家が追放された。スペインでは1492年にある銀行家が追放され、それ以降にも豊富な歴史がある。

連邦準備「銀行」の手によって米国で最近引き起こされた経済崩壊を調べると、まったく同様の特性を持ったディープステーツの姿がはっきりと見えて来る。ここで、われわれは1492年以前のスペインからスタートしてみよう。当時、スペインではパレンスエラ家が貸した金の高金利によって国家を搾り取っていた。新世界におけるスペインの黄金帝国はその時点よりも1世紀も後のことだ。

敵、即ち、パレンスエラ銀行カルテルは1942年にベニスへ逃亡し、「デル・バンコ」あるいは「オブ・ザ・バンク」と名前を変えて、今までの名前と犯罪歴とを捨てた。そして、彼らはベニスからドイツのウォーブルグという町へ引っ越して、姓を「ウォーブルグ」に変更した。この姓に聞き覚えがあるとすれば、それは1913年に「連邦準備法」を起草したポール・ウォーブルグのことだ。彼は連邦準備銀行の初代頭取となった。

先ず、米国は憲法で否定されている中央銀行を持つことになった。そして、何年か後には、米国はヨーロッパで戦争をしていた。これは単なる偶然であろうか?

他にも名前がある。たとえば、アストールズ、あるいは、アストールガスはスペインから追い出されていた。さらには、カボッツ。むしろ、カボタスと言った方がいいだろうか。彼らもスペインから追放された。これらの銀行家は奴隷制度とアヘンの売買によって米国に莫大な富を築きあげた。当時、アヘンの売買は中国で行われ、今はCIAによってアフガニスタンで行われているが、相変わらず昔と同じ家族が取り仕切っているのである。

これがディープステーツだ。他にも呼び方がある。それらの幾つかはあなた方もご存知だろう。また、たとえば、闇に隠れ、背後から糸を引く「新興財閥」とか「中心人物」といったあなた方が知らないようなまったく新しい呼び方も存在する。

これらの雑多な組み合わせにさらに加わった一団がある。グーグルとかフェースブック、あるいは、まったく目には留まることがない「シリコンバレー・ウオリアー」は政治、経済、通商、文化の分野で橋頭保を築き、彼らの存在は世界中の人々によって認識されている。彼らはディープステーツの諜報役、すなわち、「世界の知覚」の役割を持っている。
しかし、その知覚は病理学的には狂気じみており、その性格は犯罪者的でさえある。

千年以上もの歴史を持ってはいるが、彼らは変化し、適応する。しかしながら、彼らの行動パターンは丸見えだ。彼らはISISであり、アルカエダであり、彼らはCIAMI6であり、彼らは政府を買収し、戦争を行い、混乱は彼らの貴重な道具であり、人間性は彼らの餌である。

彼らにとっては自分たちの完全なコントロール下に収まらないものは何でもが脅威であるのだ。


著者のプロフィール: ゴードン・ダフはベトナム戦争時代には海兵隊の戦闘員であった。元兵士や戦争捕虜に関わる諸々の問題に何十年にもわたって関与して来た。また、安全保障問題を抱える政府に対して顧問役を務めた。「ベテランズ・トデイ」の上級編集者ならびに重役会の会長を務め、オンライン情報誌である「ニュー・イースタン・ルック」に寄稿している。


<引用終了>




これで、全文の仮訳が終了した。

ディープステーツについての具体的な解説をしてくれた著者に感謝したいと思う。この引用記事を読んだことによって、現在の世界を動かしているメカニズムを鮮明に理解することができるようになった。少なくとも、私にはそう思える。

米国が仕掛けている対ロ戦争のさまざまな局面の中でもっとも興味をそそられる出来事は、私の個人的な観点から言えば、MH17便撃墜事件だ。2014年の撃墜事件以降、オランダ政府を中心とした国際調査団が結成された時、私はこの調査団の構成内容では真実は究明されないだろうと感じていた。まったくその通りに終わった。この引用記事の著者であるゴードン・ダフも間違いなくそう信じている。マレーシア首相が脅迫を受けて、この事件を国際刑事裁判所へ告訴する道が閉ざされてしまったという事実はこのMH17便撃墜事件の本質を雄弁に伝えていると言えよう。この事件を操った黒幕にとってはマレーシア政府が配慮していた国際刑事裁判所への提訴は何としてでも潰さなければならないと必死だったに相違ない。

また、この撃墜事件にはイスラエルが大きく関与していたとする報告は「ああ、そうだったのか。やっぱりな~」という感じがする。イスラエルの関与に関する情報については、私は今までまったく気が付かなかったのだが、今後さらにわれわれの関心をひくことだろうと容易に想像される。




参照:

1Pentagon Report Points To US Preparations For Total War: By Andre Damon, Information Clearing House, Oct/11/2018

2The Deep State’s Secret War on Russia: By Gordon Duff, NEO, Dec/31/2018




2019年1月12日土曜日

シリアから米軍を撤退させるためにトランプはこの1年間将軍らとの戦いを続けてきた

トランプ米大統領は気まぐれで、外交についてはまったくの素人だと批判する声がたくさんある。それだけではなく、トランプは軍・安全保障複合体によって懐柔されてしまったと見る向きが最近多い。このブログでも、12月22日に「トランプは軍・安全保障複合体によって潰された」と題する投稿を掲載したばかりである。

しかしながら、話はそれ程単純ではないようだ。

最近の報道で「シリアから米軍を撤退させるためにトランプはこの1年間将軍らとの戦いを続けてきた」との表題を持つ記事が出回っている [注1]。私は「オヤッ」と思った。トランプのまったく違った側面を伝えているからだ。少なくとも、私は完全に意表を突かれたような印象を覚えた。一般的に言われているトランプの気まぐれな言動からは1年間も政府内の反対派と戦うトランプの姿を想像することは難しい。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>

副題: 他の大統領たちに対して行ったのとまったく同様に、トランプの国家安全保障チームは彼を封じ込めようとした。しかし、彼は連中のはったりにしっぺ返しをしたのである。

この50年間で彼は好戦派による封じ込めを許さない初の大統領となった。

大手メディアは、シリアから米軍を撤退させるというトランプ大統領の決断は衝動的で、彼の国家安全保障チームに不意打ちを食らわすものだと述べて、大統領を攻撃した。しかしながら、この1年間の政策提案の過程を振り返って、それらの詳細や公開されている説明を検証してみると、まったく違ったトランプ像が浮かび上がって来る。国家安全保障部門の高官らや利己心の旺盛なこれらの組織は、シリアに米軍を恒久的に駐留させるという決断においてトランプが迷うことがないように、何か月間にもわたって極めて複雑な政治ゲームを進めて来たことが分かる。

つまり、全体のエピソードを見ると、ベトナム戦争の頃にまで遡るもので、良く知られたパターンではあるのだが、新たな類型が浮かび上がって来る。当時、国家安全保障担当補佐官らは気が進まない大統領に圧力をかけて、戦闘地域ですでに実施されている軍事展開に了解を与えるよう、もしくは、その種の計画に賛同してくれるよう求めたものだ。違いがあるとすれば、それはトランプが違った政策を公に採用し、連中の見え透いた計画を吹き飛ばし、米国に新たな進路を与えようとしたことだ。この動きは恒久的な戦争状態を維持しようとするものではない。



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トランプ政権の発足以降、トランプと国家安全保障チームとの関係は緊張状態にあった。2017年夏の中頃までには、ジェームズ・マチス国防長官や統合参謀本部議長のジョセフ・ダンフォード将軍は米軍の世界的な配備を正当化しようとする自分たちの報告に対してトランプが否定的な反応を示したことから、トランプをひどく警戒するようになっていた。彼らはペンタゴンで統合参謀本部が使用する「タンク」にて公式の報告会を開くことにした (訳注: ペンタゴンの会議室は窓がなく、あたかも戦車の中に居るような印象を受けることから「タンク」と呼ばれている)。

マチスとダンフォードとが「過去70年間にわたって平和を維持」して来た「ルールに基づく国際的な民主主義秩序」を讃える賛歌を唄いあげていた時、トランプは信じられないとでもいうように頭を横に振っていた。

しかしながら、その年の終わりまでには、マチスとダンフォードおよびマイク・ポンぺオ国務長官らは米軍はイスラム国の武装兵力を駆逐するだけではなく、シリアの北東部を安定化させ、ロシアやイランの支援勢力と均衡を保つ任に当たらせることにトランプの賛同を得ようと努め、これに成功したと信じるようになっていた。しかしながら、米軍をシリアに恒久的に駐留させるという構想をトランプが引き続き嫌っている兆候については彼らは無視した。

3月のオハイオでの遊説でトランプは表面上は保険制度改革を喋っていた。しかし、突然、うっかりと「われわれはシリアから撤退する。直ぐにだ。シリアは他国に任せておけばいい。直ぐにでも撤退する」と口走った。

その後、2018年4月の始めには、シリアに関しては担当補佐官に対するトランプの忍耐心が尽きて、国家安全保障会議での大きな対立へと発展して行った。同会議でトランプは基本的にまったく異なる政策を彼らが明確に受け入れるよう命じたのである。

トランプは米国はシリアへの介入を終わらせ、もっと広義には、中東に対する介入を収束させなければならないとする彼自身の公の持論を引っ提げて、会議を開催した。すでに報じられているAP電の説明によると、米国はその努力の割には「何の利益」も得ていないと彼は繰り返して議論を展開している。これはその会議に出席していた政府幹部とのインタビューで入手した説明である。ダンフォードがトランプに大統領が望んでいることを明確に言って欲しいと迫ると、トランプは米軍を直ちに撤退させ、シリアの「安定化」プログラムには終止符を打ちたいと述べたのである。

マチスはシリアからの即時撤退を責任のある状態で実施することは不可能だ、イスラム国が舞い戻って来る危険性があり、米国の国益に反する目標を持ったロシアやイラン、トルコの手中に陥るようなものだと述べて、反論した。

トランプは、既報の如く、折れて、こう言った。「イスラム国を撲滅するには5~6カ月の時間をやろう」と。しかし、10月に彼の元へやって来て、ISISを壊滅することは出来なかったので、シリアに居残るとは言わせないと念を押して、キッパリと指示をした。彼の担当補佐官らが米国が責任のある形で撤退することは不可能だと改めて言うと、トランプは「任務を遂行するだけだ」と彼らに告げた。

トランプの国家安全保障チームは会議のために注意深く準備をし、彼の関心を明確な撤退予定の議論からは遠ざけようとした。彼らは撤退予定に関する具体的な選択肢を省いた書類を持参した。その代わりに、AP電の詳しい報告が伝えているように、彼らは即時撤退か、あるいは、イスラム国を完全に、しかも、恒久的に排除するために必要な恒久的な駐留をとるかという二者択一の案を示した。撤退案はISISが舞い戻って来る危険性があり、勢力の真空地帯を生ぜしめ、そこへロシアやイランが居座るだろうとの予測を示した。

このような二者択一の戦略は、政府関係者によると、かってはうまく行ったものだ。このことは2018年の前半にトランプが何か月にもわたってシリアに関しては沈黙を保っていた事実を説明している。その頃、当時の国務長官であったレックス・ティラーソンやマチスは長期間にわたる駐留を実現するための詳細な議論を進めていた。

このアプローチが上手く行ったもうひとつの理由はトランプがバラク・オバマがアフガニスタンからの撤退に関してペンタゴンに予定を示していたことを大問題として扱ったことにある。その結果、彼はシリアからの撤退予定に関して公に同様な要求をすることには消極的になっていた。CNNが報じているように、この会議において簡潔な説明を受けた国防省の高官は「何らかの予定が議論されたという事実はきっぱりと否定した。」 さらに、同高官は「マチスは撤退の選択肢を練り上げる指示は受けなかった・・・」と断言している。米統合参謀本部のケネス・マッケンジー中将は記者たちに次のように述べた。「大統領はわれわれに具体的な予定を求めなかった。実際問題として、これは実に好ましいことだ。」 

それでもなお、予定を言及することもなく、ホワイトハウスが出した短い声明文はシリアにおける米国の役割は「急速に終わりに近づいている」と述べている。

マチスとダンフォードは大統領が自衛の側に回っていることにつけ込んで、意識的に自分たちの戦略を押し通そうとしたが、それは大統領がそのことに関して公に彼らを招集するまでのことでしかなかった。トランプが言っていた6カ月の期限が来る数週間前に起こったのはまさにそのことだった。トランプの補佐官らは不意を食らったと言っていたが、実に不誠実な言動である。先週起こったことはトランプが4月に述べていた明確な政策をおさらいしただけに過ぎないからだ。

シリアからの撤退という仕事は前政権がもたらした永遠の戦争状態に終止符を打つことに関してトランプ政権が基本的な苦境に見舞われていることを物語っている。米国市民の大多数が中東やアフリカに対する米軍の配備は抑制するべきだと希望しているにもかかわらず、トランプの国家安全保障チームは丸っきり逆のことに専念しているのである。

トランプは自分と同じ目標を抱く補佐官なしでは外交政策を実施することは事実上不可能であることを今や十分にわきまえている。これは永遠の戦争状態が続いていた間にはこの政治システムの外部に位置し、そのイデオロギーや文化には批判的であったような人物を迎え入れる必要があることを示している。もしもトランプが真の意味で反体制的な人物を重要な地位に抜擢することができるならば、トランプ政権のこれからの2年間に今日われわれがどっぷりと浸かっている永遠の戦争状態を招いた官僚や将軍らを首にすることが可能となるであろう。

原典: The American Conservative

<引用終了>


これで、全文の仮訳が終了した。

この記事の仮訳作業を通じてひしひしと感じさせられたことがひとつある。トランプ大統領は今までの2年間さまざまな妨害に遭遇し、サボタージュに見舞われ、自分が思い描いていた政策を思うように実施することはできなかったにもかかわらず、その水面下ではトランプ派と反トランプ派との間の暗闘が継続され、トランプ大統領の側が今や優勢になって来た、あるいは、そうなることを期待する見解が現れ始めた。実に大きな変化である。

もちろん、過去の事例を参考にすれば、シリアからの米軍の撤退はそう一筋縄では行かないであろう。

米軍が撤退した後には真空地帯が生じ、イスラム国が盛り返すかもしれないといった議論がある。シリアにとって幸いなことには、ロシアやイラン、トルコといった隣国が「アスターナ・プロセス」の枠組みを活用して、治安維持のために力を貸してくれるようだ。ロシアやトルコ、イランはシリアにおける停戦の保証人であって、シリア国内ですでに何ヵ所かについて停戦を成功裏に実現してきた実績がある。モスクワ政府は、テロと戦うシリア政府を支援し、一般市民に対しては人道支援物資を供給し、戦争当事者たちを交渉の席に着かせることによって、何年にも及ぶ紛争を決着させようと積極的な努力をして来た。(”Turkey calls for joint control with Russia and Iran over US troop pullout from Syria”: By RT, Jan/09/2019, https://on.rt.com/9ly7

トランプ政権の今後の展開を占う場合、もっとも悲観的に見ると、彼は軍・安全保障複合体に懐柔されてしまい、選挙運動中に彼が約束したロシアとの和解は実現しない。一方、その対極にあるのは、この投稿でご紹介しているように、ディープステーツとの暗闘の結果、トランプが軍・安全保障複合体を出し抜いて、ロシアとの和解に漕ぎつけるかも知れないと言う期待感が高まっている。果たしてどちらのケースになるのか?今は何とも言えない。

最後に一般庶民の感慨を私なりに一言付け加えておこう。

常識的な判断から言えば、シリアにおける米国の役割は終わったことは確かであり、米軍の撤退を速やかに実行することが長い目で見ると政治的にはもっとも妥当であると思う。もっとも重要なことは、非難先から祖国に帰還して来るシリア人たちを含めて、シリアの将来はシリアの市民が決断し、彼らが自分たちの決断を実行し、祖国を再建することだ。



参照:

注1:Trump Fought the Generals for His Syria Withdrawal for a Year: By Gareth Porter, The American Conservative, Jan/03/2019