2019年1月12日土曜日

シリアから米軍を撤退させるためにトランプはこの1年間将軍らとの戦いを続けてきた

トランプ米大統領は気まぐれで、外交についてはまったくの素人だと批判する声がたくさんある。それだけではなく、トランプは軍・安全保障複合体によって懐柔されてしまったと見る向きが最近多い。このブログでも、12月22日に「トランプは軍・安全保障複合体によって潰された」と題する投稿を掲載したばかりである。

しかしながら、話はそれ程単純ではないようだ。

最近の報道で「シリアから米軍を撤退させるためにトランプはこの1年間将軍らとの戦いを続けてきた」との表題を持つ記事が出回っている [注1]。私は「オヤッ」と思った。トランプのまったく違った側面を伝えているからだ。少なくとも、私は完全に意表を突かれたような印象を覚えた。一般的に言われているトランプの気まぐれな言動からは1年間も政府内の反対派と戦うトランプの姿を想像することは難しい。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>

副題: 他の大統領たちに対して行ったのとまったく同様に、トランプの国家安全保障チームは彼を封じ込めようとした。しかし、彼は連中のはったりにしっぺ返しをしたのである。

この50年間で彼は好戦派による封じ込めを許さない初の大統領となった。

大手メディアは、シリアから米軍を撤退させるというトランプ大統領の決断は衝動的で、彼の国家安全保障チームに不意打ちを食らわすものだと述べて、大統領を攻撃した。しかしながら、この1年間の政策提案の過程を振り返って、それらの詳細や公開されている説明を検証してみると、まったく違ったトランプ像が浮かび上がって来る。国家安全保障部門の高官らや利己心の旺盛なこれらの組織は、シリアに米軍を恒久的に駐留させるという決断においてトランプが迷うことがないように、何か月間にもわたって極めて複雑な政治ゲームを進めて来たことが分かる。

つまり、全体のエピソードを見ると、ベトナム戦争の頃にまで遡るもので、良く知られたパターンではあるのだが、新たな類型が浮かび上がって来る。当時、国家安全保障担当補佐官らは気が進まない大統領に圧力をかけて、戦闘地域ですでに実施されている軍事展開に了解を与えるよう、もしくは、その種の計画に賛同してくれるよう求めたものだ。違いがあるとすれば、それはトランプが違った政策を公に採用し、連中の見え透いた計画を吹き飛ばし、米国に新たな進路を与えようとしたことだ。この動きは恒久的な戦争状態を維持しようとするものではない。



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トランプ政権の発足以降、トランプと国家安全保障チームとの関係は緊張状態にあった。2017年夏の中頃までには、ジェームズ・マチス国防長官や統合参謀本部議長のジョセフ・ダンフォード将軍は米軍の世界的な配備を正当化しようとする自分たちの報告に対してトランプが否定的な反応を示したことから、トランプをひどく警戒するようになっていた。彼らはペンタゴンで統合参謀本部が使用する「タンク」にて公式の報告会を開くことにした (訳注: ペンタゴンの会議室は窓がなく、あたかも戦車の中に居るような印象を受けることから「タンク」と呼ばれている)。

マチスとダンフォードとが「過去70年間にわたって平和を維持」して来た「ルールに基づく国際的な民主主義秩序」を讃える賛歌を唄いあげていた時、トランプは信じられないとでもいうように頭を横に振っていた。

しかしながら、その年の終わりまでには、マチスとダンフォードおよびマイク・ポンぺオ国務長官らは米軍はイスラム国の武装兵力を駆逐するだけではなく、シリアの北東部を安定化させ、ロシアやイランの支援勢力と均衡を保つ任に当たらせることにトランプの賛同を得ようと努め、これに成功したと信じるようになっていた。しかしながら、米軍をシリアに恒久的に駐留させるという構想をトランプが引き続き嫌っている兆候については彼らは無視した。

3月のオハイオでの遊説でトランプは表面上は保険制度改革を喋っていた。しかし、突然、うっかりと「われわれはシリアから撤退する。直ぐにだ。シリアは他国に任せておけばいい。直ぐにでも撤退する」と口走った。

その後、2018年4月の始めには、シリアに関しては担当補佐官に対するトランプの忍耐心が尽きて、国家安全保障会議での大きな対立へと発展して行った。同会議でトランプは基本的にまったく異なる政策を彼らが明確に受け入れるよう命じたのである。

トランプは米国はシリアへの介入を終わらせ、もっと広義には、中東に対する介入を収束させなければならないとする彼自身の公の持論を引っ提げて、会議を開催した。すでに報じられているAP電の説明によると、米国はその努力の割には「何の利益」も得ていないと彼は繰り返して議論を展開している。これはその会議に出席していた政府幹部とのインタビューで入手した説明である。ダンフォードがトランプに大統領が望んでいることを明確に言って欲しいと迫ると、トランプは米軍を直ちに撤退させ、シリアの「安定化」プログラムには終止符を打ちたいと述べたのである。

マチスはシリアからの即時撤退を責任のある状態で実施することは不可能だ、イスラム国が舞い戻って来る危険性があり、米国の国益に反する目標を持ったロシアやイラン、トルコの手中に陥るようなものだと述べて、反論した。

トランプは、既報の如く、折れて、こう言った。「イスラム国を撲滅するには5~6カ月の時間をやろう」と。しかし、10月に彼の元へやって来て、ISISを壊滅することは出来なかったので、シリアに居残るとは言わせないと念を押して、キッパリと指示をした。彼の担当補佐官らが米国が責任のある形で撤退することは不可能だと改めて言うと、トランプは「任務を遂行するだけだ」と彼らに告げた。

トランプの国家安全保障チームは会議のために注意深く準備をし、彼の関心を明確な撤退予定の議論からは遠ざけようとした。彼らは撤退予定に関する具体的な選択肢を省いた書類を持参した。その代わりに、AP電の詳しい報告が伝えているように、彼らは即時撤退か、あるいは、イスラム国を完全に、しかも、恒久的に排除するために必要な恒久的な駐留をとるかという二者択一の案を示した。撤退案はISISが舞い戻って来る危険性があり、勢力の真空地帯を生ぜしめ、そこへロシアやイランが居座るだろうとの予測を示した。

このような二者択一の戦略は、政府関係者によると、かってはうまく行ったものだ。このことは2018年の前半にトランプが何か月にもわたってシリアに関しては沈黙を保っていた事実を説明している。その頃、当時の国務長官であったレックス・ティラーソンやマチスは長期間にわたる駐留を実現するための詳細な議論を進めていた。

このアプローチが上手く行ったもうひとつの理由はトランプがバラク・オバマがアフガニスタンからの撤退に関してペンタゴンに予定を示していたことを大問題として扱ったことにある。その結果、彼はシリアからの撤退予定に関して公に同様な要求をすることには消極的になっていた。CNNが報じているように、この会議において簡潔な説明を受けた国防省の高官は「何らかの予定が議論されたという事実はきっぱりと否定した。」 さらに、同高官は「マチスは撤退の選択肢を練り上げる指示は受けなかった・・・」と断言している。米統合参謀本部のケネス・マッケンジー中将は記者たちに次のように述べた。「大統領はわれわれに具体的な予定を求めなかった。実際問題として、これは実に好ましいことだ。」 

それでもなお、予定を言及することもなく、ホワイトハウスが出した短い声明文はシリアにおける米国の役割は「急速に終わりに近づいている」と述べている。

マチスとダンフォードは大統領が自衛の側に回っていることにつけ込んで、意識的に自分たちの戦略を押し通そうとしたが、それは大統領がそのことに関して公に彼らを招集するまでのことでしかなかった。トランプが言っていた6カ月の期限が来る数週間前に起こったのはまさにそのことだった。トランプの補佐官らは不意を食らったと言っていたが、実に不誠実な言動である。先週起こったことはトランプが4月に述べていた明確な政策をおさらいしただけに過ぎないからだ。

シリアからの撤退という仕事は前政権がもたらした永遠の戦争状態に終止符を打つことに関してトランプ政権が基本的な苦境に見舞われていることを物語っている。米国市民の大多数が中東やアフリカに対する米軍の配備は抑制するべきだと希望しているにもかかわらず、トランプの国家安全保障チームは丸っきり逆のことに専念しているのである。

トランプは自分と同じ目標を抱く補佐官なしでは外交政策を実施することは事実上不可能であることを今や十分にわきまえている。これは永遠の戦争状態が続いていた間にはこの政治システムの外部に位置し、そのイデオロギーや文化には批判的であったような人物を迎え入れる必要があることを示している。もしもトランプが真の意味で反体制的な人物を重要な地位に抜擢することができるならば、トランプ政権のこれからの2年間に今日われわれがどっぷりと浸かっている永遠の戦争状態を招いた官僚や将軍らを首にすることが可能となるであろう。

原典: The American Conservative

<引用終了>


これで、全文の仮訳が終了した。

この記事の仮訳作業を通じてひしひしと感じさせられたことがひとつある。トランプ大統領は今までの2年間さまざまな妨害に遭遇し、サボタージュに見舞われ、自分が思い描いていた政策を思うように実施することはできなかったにもかかわらず、その水面下ではトランプ派と反トランプ派との間の暗闘が継続され、トランプ大統領の側が今や優勢になって来た、あるいは、そうなることを期待する見解が現れ始めた。実に大きな変化である。

もちろん、過去の事例を参考にすれば、シリアからの米軍の撤退はそう一筋縄では行かないであろう。

米軍が撤退した後には真空地帯が生じ、イスラム国が盛り返すかもしれないといった議論がある。シリアにとって幸いなことには、ロシアやイラン、トルコといった隣国が「アスターナ・プロセス」の枠組みを活用して、治安維持のために力を貸してくれるようだ。ロシアやトルコ、イランはシリアにおける停戦の保証人であって、シリア国内ですでに何ヵ所かについて停戦を成功裏に実現してきた実績がある。モスクワ政府は、テロと戦うシリア政府を支援し、一般市民に対しては人道支援物資を供給し、戦争当事者たちを交渉の席に着かせることによって、何年にも及ぶ紛争を決着させようと積極的な努力をして来た。(”Turkey calls for joint control with Russia and Iran over US troop pullout from Syria”: By RT, Jan/09/2019, https://on.rt.com/9ly7

トランプ政権の今後の展開を占う場合、もっとも悲観的に見ると、彼は軍・安全保障複合体に懐柔されてしまい、選挙運動中に彼が約束したロシアとの和解は実現しない。一方、その対極にあるのは、この投稿でご紹介しているように、ディープステーツとの暗闘の結果、トランプが軍・安全保障複合体を出し抜いて、ロシアとの和解に漕ぎつけるかも知れないと言う期待感が高まっている。果たしてどちらのケースになるのか?今は何とも言えない。

最後に一般庶民の感慨を私なりに一言付け加えておこう。

常識的な判断から言えば、シリアにおける米国の役割は終わったことは確かであり、米軍の撤退を速やかに実行することが長い目で見ると政治的にはもっとも妥当であると思う。もっとも重要なことは、非難先から祖国に帰還して来るシリア人たちを含めて、シリアの将来はシリアの市民が決断し、彼らが自分たちの決断を実行し、祖国を再建することだ。



参照:

注1:Trump Fought the Generals for His Syria Withdrawal for a Year: By Gareth Porter, The American Conservative, Jan/03/2019












2 件のコメント:

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  2. 本年もよろしくお願いいたします。
     シリアからの撤退についても,多くの人は現場にいないので撤退を始めたのかどうか分かりません。したがって流れてくるニューズやブログ記事を参考に判断するしか,事の真相を確かめる方法はないのですが,トランプのやってきたことはほとんど公約に沿った,選挙前に誓ったことだと判断してよいのではないでしょうか。
    ....I am doing exactly what I pledged to do, and what I was elected to do by the citizens of our great Country. Just as I promised, I am fighting for YOU!
     この文章は昨日14日付の,トランプ大統領のツイッタ-からです。13日付では次のようになっております:
    ....Likewise, do not want the Kurds to provoke Turkey. Russia, Iran and Syria have been the biggest beneficiaries of the long term U.S. policy of destroying ISIS in Syria - natural enemies. We also benefit but it is now time to bring our troops back home. Stop the ENDLESS WARS!
     シリアで米政府のやってきたISIS退治は嘘です。しかし嘘と言っても米軍は退治するどころかISISを訓練し,ヒラリーの国務省はハイラックスや武器を提供してきたのですから,反トランプ派への「嫌味」とも解釈できます。
     根本的には際限なく金を食べる軍の軍事介入を終わらせるのが大統領トランプの狙いだと思います(だから戦闘機をたくさん買ってくれる亡国の首相は可愛いポチです)。米国の予算がどのように決まるのか分かりませんが,トランプは21兆億ドルにのぼる国家予算不足さえ批判さえしています。政府内の軍産複合体が造ってきた予算不足(公約にはないので?)です。
     ところでそもそもトランプが大統領に当選することを予想できた人は少なかったと思います。泡沫候補であったようです。しかしオバマ政権末期,彼が「日本が金を出さないなら米軍を日本から引き上げる。日本が核兵器をもってもいい」とか「ISISがシリアに残っていたら核攻撃する」という発言したので何となくトランプ氏に期待したものです。しかし頭がおかしいとか,人種差別主義者とかいろいろ言われたようですが,すべて彼に対する人物評は当たらないと思っています。彼は聡明な人です。本ブログでもお馴染みのP.C.ロバーツ氏は「財産も有り,きれいな奥さんもある人がどうして大統領に立候補するのか」と反トランプ派に対して牽制球を投げていました。つまり,それなりの戦略と政策をもって大統領選に臨んだと思われます。
     その証拠の一つがいわゆる「ラスト・ベルト」の存在です。選挙前は誰もラスト・ベルトの話をしておりませんでした。新聞・テレヴィは何をしていたのでしょうか。みなヒラリーの当選を信じていただけです。
     2年前のダナンで開かれたAPEC会議でトランプとプ-チンは二人きりの会談を持ちました。ドイツでは握手さえしなかったのではないでしょうか。プ-チンとオバマは犬猿の仲でしたが,プ-チンはトランプを「非常に頭のいい人」と褒め称えた(逆も真なり)ようです。
     最近の,日本人のアメリカ通でもトランプへの見方・人物評が変わってきたと思います。中国への鉄鋼・アルミへの高関税を吹っ掛ける政策も公約にあったのかどうかわかりませんが,目標「アメリカ第一」からすれば,それが効果があるとして,まっとうな政策であり,頭のオカシイ人の考えではないと思います。
     話を戻しますと,シリアからの米軍特殊部隊の撤退は1ヶ月遅れで始まったようです。しかし今度はその部隊をイラク北部へ移動させる案などがあり,反トランプ派の抵抗は止みませんが,アフガン駐留米軍14,000人の半分も近いうちに撤退するでしょう。
     基本的には米政府には金がないのだと思います。国家予算の赤字に代表されるように,一部の政府部門は閉鎖されました。役人に給料を払わなければ,その分の予算は余るわけです。2,000名のリシア駐留軍が引き上げれば,その費用も余るわけです。それでメキシコ国境の壁代を賄えるかどうかは分かりませんが,同様にして,各省庁の局長級の人事が滞っていると批判されても,大して「アメリカ第一」に貢献しないとトランプが判断する部局の長は任命されないでしょう。
     トランプの「アメリカ第一」に欠けている(と思われる)のは,内需拡大政策です。周知のように,インフラが整備されていないという批判があります。つまり軍事に金が使われすぎインフラ整備に回す政治的承認が得られないのです。しかし任期3年目は軍の力を抑えてインフラ整備に予算を充てるだろうと思われます(軍の最高司令官はトランプである)。しかしそのことに対する妨害もまた政府内で活発になることが予想されます。ただ民主党ではB.サンダースのような福祉重視の下院議員が増えたのでトランプを支えてくれる事態も出てくるかもしれません。なぜなら,中南米からの難民がやってくるのは,米軍やCIAが経済制裁を加え軍事介入をし,政権転覆をしたからであり,彼ら民衆を貧しくしたからです。スペイン統治時代からの名残もありますが,グアテマラ侵攻を企てたのはヒラリー長官の時代であり,ユーゴ侵攻でも多くの難民が出ました。またべネスエラで革命を2度も起こしたのは米国CIAで,いずれも失敗でしたが,ベネスエラからも難民が押し寄せてくる理由を考えたことがある米国人は何人いるのでしょうか。根本的には歴代のアメリカ軍事政権が中南米の難民を生み出したのです。したがって民主党が反対すれば反対するほど効果は絶大で,トランプの目的は果たされたわけです。裏を返せば,壁は建設できなくてもいいわけです。トランプが賢明であることの証明です。
     長官や補佐官にはネオコンのポンペオやボルトンがまだ残っています。この両人は過去の言動にも関わらずトランプのいいなりです。トランプはそういう人物を探してくると思います。

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