2022年1月25日火曜日

ロシアとの戦争はどのようなものとなるか?

 

ウクライナとロシアとの間には険悪な状況が現れ、その程度は時間がたつにつれてさらに悪化している。ロシアにとってはウクライナの戦闘能力を無力化することは軍事的には容易いことだと言われている。しかし、たとえ軍事的にウクライナを惨敗させたとしても、国際政治上ではロシアは大きな非難を浴びて、孤立することが目に見えている。それでは、結局のところ、政治的にはロシアの負けである。ロシアは国際的な地位を今以上に劣化させてはならないからだ。

そして、ウクライナの背後にはNATOが居る。ウクライナに比べてロシアが感じるより大きな懸念はNATO軍との戦争であると専門家は言う。ロシアとNATOとの間に全面的な戦争が起こると、最終的にはNATO軍が壊滅の憂き目にあい、ロシア軍が勝利するだろう。これも、軍事専門家の見方だ。

ここに「ロシアとの戦争はどのようなものとなるか?」と題された最新の記事がある(注1)。巷にはこのテーマに関してはさまざまな見方があるが、この問いかけに対する答えは、もちろん、あなたが拝聴しようとする相手によって大きく相違する。まずは、お互いに異なるさまざまな見解を理解し、整理してみることが肝要であろう。

ジュネーブで111日に米ロ高官による会談が始まった。ロシア側はロシアの安全保障を保証するための米国との枠組みに関して自分たちが前もって練り上げた具体案を事前に米国側に示していた。これはロシア側からの最後通牒であると見なされている。その核心はNATOがさらに東への拡張はしないという点にある。つまり、ウクライナをNATOのメンバーには加えないという約束を米国から取り付けることだ。米国側は何らかの返答をしなければならないのであるが、ジュネーブでの米ロ高官の会談は何の成果も見ずに終った。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。

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ウェンディ・シャーマンは月曜日(111日)にジュネーブで始まるロシア高官との会談における彼女の目的は過度な自信を抱くことがもたらす対価について彼らに講義をすることにあると考えているようだ。ところが、スコット・リッターは彼女は米国やNATOおよびEUを破滅の道に招きかねないと警鐘を鳴らしている。

Photo-1:公式の会談が開始となる前に米国の国務副長官のウェンディ・シャーマンはロシアの外務副大臣のセルゲイ・リアブコフと日曜日にジュネーブで会い、ワシントン政府は「外交による純粋な進展を歓迎するであろう」と彼に伝えた。(ジュネーブでロシア側代表団)

もしもある根本的な外交交渉が最初から失敗する運命にあったとすれば、それはまさにウクライナとロシアの安全保障に関する米ロ間の話し合いのことを指している。

両者は会談の議題についてさえも同意することができない。

ロシア側の観点からは、状況は実に明白だ。つまり、「ロシア側は明白な立ち位置を携えてここ(ジュネーブ)へやって来たのである。その立ち位置にはいくつかの要素が含まれているが、それらは、私の考えでは、理解可能であり、(高い水準も含めて)明白に組み立てられている。われわれの提案から逸脱することは単純に言ってあり得ない」とロシアの外務副大臣を務めるセルゲイ・リアブコフが米国の代表団を指揮するウェンディ・シャーマン国務副長官によって開催された日曜日の夕食会の後で記者団に向かって述べた。

ロシアのウラジミール・プーチン大統領はロシアの安全保障を西側が保証することに関して12月初めにジョー・バイデン米大統領に向けて要求を示していた。この要求は後にロシア側がその詳細をふたつの条約の形で書き上げた。そのひとつは米ロ間の安全保障条約であり、もうひとつはロシアとNATOとの間の安全保障の合意である。

後者はウクライナのNATOへの参加を禁止し、北大西洋軍事同盟の東方への拡大は如何なるものも排除することを意味する。また、リアブコフは、両陣営が会合を持っている間に何らかの結論を得るために米国はこれらの提案に速やかに着手するべきであると簡潔に述べた。ところが、この会合が月曜日に始まろうとしている今でさえも、米国が何らかの決断をしたようには見えない。

「会談は困難なものとなろう」とリアブコフは夕食会の後で記者たちに向けて言った。「彼らは容易い相手ではない。彼らはビジネスのように取り組むであろう。明日は時間を浪費してはならないと私は思う。」ロシアは妥協する用意があるのかと質問され、リアブコフは簡潔にこう答えた。「米国側こそが妥協する用意をするべきだ。」

米国がどうしてもやりたいと思うことは、もしもロシアがウクライナへ侵攻したら、「深刻な結果」が待ち受けていることをロシアに思い起こさせることにあるようだ。それは米国とNATOが恐れていることが身近に迫り、何万人もの兵力が関与するロシア軍の演習が最近この地域で行われたからであった。この種の脅しは、近く行われる首脳会談の枠組みを話し合うためにプーチンがかけた電話での際も含めて、バイデンはプーチンに対して何度か行っている。

さらには、リアブコフ・シャーマン会談の前夜、トニー・ブリンケン米国務長官はもしもロシアがウクライナへ侵攻したらロシアは「甚大な結果」に直面するだろうと述べ、これらの脅迫をさらにもう一度単純に繰り返した。

プーチンについて言及しながら、「彼にはふたつの道を提供したことが明らかである」と言った。「ひとつは外交と対話を通してだ。もうひとつは抑止力によってだが、もしもロシアがウクライナに対する攻勢を再開したらロシアには甚大な結果が待ち受けているだろう。われわれはプーチンがどちらの道を選ぶかについて今週試すことになる。」

歴史の教訓:

Photo-21941623日、前線へ向かうソ連軍兵士。看板:「われわれの大義は正義にある。敵を蹴散らかせ。われわれの勝利だ!」(Anatoliy Garanin .License: CC BY SA 3.0.)

ロシアの真意を読み取ろうとする時、バイデンとブリンケンは二人ともまさに唖で、愚か者であり、盲同然である。

リアブコフはロシア人にとってはすでに明白となっている事実をそれとなく言った。つまり、正真正銘な国家安全保障に関するロシア側の関心には妥協の余地はまったくない。もしも米国がロシアを個々の加盟国の安全を脅かす唯一の敵であると見なす軍事同盟における戦力の増強はロシアにとって如何に脅威であるかを理解することができないならば、1941622日の出来事が如何にして今日のロシアの心情を形作ったのか、ロシアは何故そのような状況が二度と起こることを許さないのか、どうして今回の話し合いが始まる前にすでに失敗に終わったのかについてはまったく理解できないであろう。

米国の脅威に関してはロシアはすでに回答をしている。ロシアを制裁しようとする試みは如何ななるものであってもそれはロシアと制裁国側との関係に「完全な断絶」をもたらすことになろうと。誰も歴史を専攻する学生である必要はない。ふたつの当事国の間の「完全な断絶」の後にやって来る論理的な段階は一方の国家の、あるいは、両方の国家の安全保障に対する脅威を巡る事柄で対立し、平和的な関係を再開することはできずに、戦争に走るしかない。

モスクワにおける米国務省の見栄っ張り連中には当たり障りのない言い方は見られず、むしろ、彼らは冷たく硬派な態度で事実を表明している。つまり、ロシアの要求を自己責任で無視している。最悪の事態はロシアがウクライナへ侵攻することであると米国は考えているようだ。その場合、ロシアは経済制裁を受け、軍事的脅威の下で疲弊することとなる。

ロシアが考える最悪の事態はNATOとの軍事紛争である。

一般的に言って、軍事的紛争の現状に関してもっともよく準備した側が勝利を手にする。

ロシアはこの種の可能性に関して1年以上をかけて準備して来た。戦争準備が整った10万人以上の兵力を短期間に召集する可能性を繰り返して内外に示して来た。その一方で、NATO69か月間にも及ぶ真剣な準備の結果、やっと3万人を招集することができることを示した。

戦争の形:

Photo-3:ロシア空軍のスホイSu-24(mil.ru/Wikimedia Commons)

ロシア・NATO間の紛争はどのようなものとなるのだろうか?手短に言うと、それはNATOが準備して来たものにはなりそうもない。そのような場合、NATOにとっては時間稼ぎが最強の援軍である。時間を掛けることによってロシア経済を疲弊させ、NATOにとってはロシアの通常兵器に匹敵するだけの兵力を準備することが可能となって来る。

ロシアはこのことを良く知っており、ロシア側の行動はすべてが迅速で、かつ、決定的なものとなるように計画するであろう。

もしもそういった事態になったならば、何よりもまず、ロシアがウクライナへの侵攻を決心する際には、彼らは成功裏に実行するために必要な十分な資源を当てがい、十分に考え抜いた行動計画を実践することであろう。ロシアはウクライナにおいて軍事的な間違いを仕出かすことはないだろう。そんな間違いをしたならば、アフガニスタンやイラクにおいて米軍が経験したように泥沼に引き込まれる可能性があるからだ。ロシアはそれよりも以前の米国の軍事行動(たとえば、砂漠の嵐作戦や第一次湾岸戦争)を研究し、そういった紛争から得た教訓をしっかりと心に刻んでいる。

敵国を破壊するのにはその国の領土を占領する必要はない。敵国の領土を占領する代わりに、その国の国力を壊滅するような戦略的な空爆こそが取り得る最高の作戦だ。つまり、それが経済、政治、軍事上の能力であろうと、あるいは、それらのすべてであろうとも、敵国の軍隊を潰すべく計画された陸上作戦と組み合わせて実施する。

ミサイルによる精密な攻撃に裏打ちされているロシアは圧倒的な軍事的優位性を持っていることからも、ウクライナに対する戦略的な空爆作戦を行えば、米国が1991年にイラクで1か月以上をかけて達成した事柄を数日の内にも達成することができるであろう。

地上では、ウクライナ軍の壊滅は保証付きだ。単純に言って、ウクライナ軍は大規模な地上戦に向けて装備し、訓練して来たわけではない。同軍は順次に壊滅され、ロシア軍はウクライナの守備軍を殺害することよりもウクライナ兵士の捕虜の取扱いにより多くの時間を費やすことになろう。

しかしながら、ウクライナに対するロシア軍の作戦が大規模なNATOとの紛争において成功するには、ふたつの事柄がおこらなければならない。つまり、ウクライナは現代的な国民国家としての存在を失うこと、ならびに、ウクライナ軍の壊滅は一方的で急速に起こることのふたつだ。もしもロシアがこれらのふたつの事柄を達成することができるならば、ロシアはNATOを相手にした総合戦略上の立ち位置を確立する上で次の段階へ移行する。つまり、威嚇へと進むことが可能となる。

米国、NATOEUおよびG7はいずれもが「前代未聞の制裁」を約束したが、制裁は相手がそれを気にする時にだけその効力を発揮する。西側との関係を完全に破棄することによって、ロシアはもはや西側からの制裁を気に掛けることはないであろう。さらには、たとえSWIFTによる国際決済から除外されたとしても、ロシアはヨーロッパがロシアからのエネルギー無しに耐えることができるよりもさらに長く生き残れるという現実は極めて単純な認識である。ロシアと西側との関係の断絶はヨーロッパの顧客に対するロシア産の天然ガスや原油の供給は禁輸となることを意味する。

ヨーロッパには代替案がない。ヨーロッパは苦難に喘ぐが、ヨーロッパはかっての民主主義国家で構成されていることから、政治家が償うことになる。ロシアとの対決に関して盲目的に米国に追従して来た政治家たちは、今や、誰もがナチを崇拝する連中やヨーロッパの他の国々とは共通点を何も持たず、全面的に腐敗している国家(ウクライナ)のためにいったいどうしてわれわれが経済的自殺をすることになったのかに関して有権者に対して説明をしなければならない。会話は極めて短かく終わるであろう。

NATOの解決策:

Photo-3:ドイツにおけるNATO軍の演習。(Spc. Ashley Webster/Wikimedia Commons)

もしもロシアがウクライナへ侵攻した後に米国がロシアの西方の前線に沿ってNATO軍を構築しようと試みるならば、ロシアはヨーロッパにおける既成事実を今や「ウクライナ・モデル」として知られているであろう形で再度提示することであろう。手短かに言えば、バルト諸国やポーランド、フィンランドがNATOへの参加を試みた場合、ロシアはウクライナに対する対応とまったく同じ対応をこれらの国々にも適用することであろう。

また、米国が十分な軍事力を蓄えるのに十分な時間を費やすまでロシアが待ってくれることなんてないだろう。ロシアは攻撃対象となる国家の経済機能を劣化させる空爆との組み合わせによって対抗しようとする国を単純に破壊するであろうし、陸上作戦は戦争遂行能力を削ぐために計画される。ロシアはNATO 圏を長い期間にわたって占領する必要はない。ただロシアとの国境にNATOが集結した軍事力を破壊するだけで事は足りるのだ。

ここには思わぬ展開が待ち受けている。それは核兵器を採用するには至らないという点だ。このような結果を予防することについてNATO は何をすることも出来ない。軍事的には、NATOは以前の自分たちの姿の影でしかない。かっては偉大なヨーロッパの軍隊であったが、彼らはバルト諸国やポーランドにおいて大隊規模の「戦闘グループ」を創立するために彼ら自身の戦闘組織からその一部を充当しなければならなかった。その一方で、ロシアは二つの軍隊サイズの組織を再構成した。つまり、第一防衛タンク軍団と第二十混成兵器軍団であって、これらは冷戦時代から敵地の奥深くにまで軍事行動を展開することを専門とする組織である。

たとえラスベガスであってさえもこのような状況に勝ち目を与えてはくれないであろう。

シャーマンはヨーロッパの運命を手中に握りながら、ジュネーブでリアブコフと対峙する。悲しいことには、彼女はこの機会をそのようには見てはいない。バイデンやブリンケンおよび米国の今日の国家安全保障の状況にたむろすロシア恐怖症の連中のお陰で、シャーマンは単に外交上の失敗の結果をロシア側に伝えるためにそこに居ると考えている。脅かしを与えるために。単なる言葉尻だけで。

シャーマンやバイデン、ブリンケン、ならびに、他の連中が理解しなければならないことはロシアはこういった結末をすでに織り込み済みであって、それらの結末を受け止めようとしていることは明白なのだ。そして、その結末に対応する。行動で。

シャーマンやバイデン、ブリンケン、ならびに、他の連中はいったいこのことをじっくりと考え抜いたのであろうかと誰もが不振に思うであろう。可能性としては、彼らは何も考えもしなかった。ヨーロッパにとってこのような結末は実に悲惨なものとなる。

著者のプロフィール:スコット・リッターは海兵隊の元諜報専門将校であって、軍縮条約を実行する旧ソ連邦において勤務し、砂漠の嵐作戦ではペルシャ湾で仕事をし、イラクでは大量破壊兵器の武装解除を監督した。

注:ここに掲載されている諸々の見解は全面的に著者のものであって、それらはコンソーシアムニュースの見解を反映すものあるかも知れないし、まったく反映したものではないかも知れません。

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これでこの記事の仮訳は終了した。

米英はウクライナ政府に対する武器の供給を強化している模様だ。つまり、武器を供給することによってウクライナ政府に対して対ロ戦争を煽っているのである。しかも、NATO圏全体を見ると、バルト三国を経由した供給ルートもあり、NATO加盟国が米国製の武器をウクライナへ供与することを米国は容認したとも報じられている。今まで何度も見て来た典型的な姿がここに観察されるのである。

ロシアはウクライナへの侵攻はしないとかねてから強調して来た。しかしながら、ウクライナの東部地域ではロシア語を日常語とする同胞が2014年のクーデターによって設立されたネオナチのウクライナ傀儡政権によって弾圧され、死者が多数出ている現実を見ると、ロシア国内の世論は最終的には同胞の救済という正義に駆られるのではないか。そういった世論が強くなると、モスクワ政府は今までの文言を繰り返すことはできなくなるだろう。

ヨーロッパ経済を率いているドイツにとっては安価なエネルギー源であるロシア産天然ガスを確保することは純然たる経済上の論理であって、高価な米国産の天然ガスをはるばると輸入することは論外であると思う。自ら進んで自国の国際競争力を劣化させる必要はないからだ。NATO軍がロシアとの交戦を始めたら、ロシア産天然ガスの供給は当然ストップする。ヨーロッパの冬は厳しいが、寒い冬を過ごさなければならない。経済は停滞する。これはヨーロッパの住民の大多数にとってはあり得ないカードだ。

米国の戦争屋や大手メディアは本当にロシアとの戦争を願っているのであろうか。現実には対ロ戦争を回避する意見も少なくはなく、決して一枚岩ではないことが観察される。ましてや米国の対空防衛システムでは対応ができない極超音速ミサイルを実戦配備しているロシアを相手に戦争を始めることは素人の私には自殺的にさえ見える。今まで米軍にとってはお家芸であった空母軍団は今や水面に浮かぶアヒル同然であるとさえ言われている程だ。武装兵力のバランスが最近均衡を失い、優位性の所在は正反対になったのである。そんな現実を見ると、米軍の将官らはロシアとの交戦を本当に望んでいるのであろうか?

意思決定者らの間にある総合的なバランスはいったいどちらに傾くのか?私にはさっぱり分からない。ひとたび戦争が起こると、最大の犠牲者は一般庶民であることは歴史を見るまでもなく明らかだ。ロシア・NATO戦争が起こらないことを願うばかりである。

ここまでは昨日書いた。

一夜明けて、今日は興味深い展開を目にした。昨日(124日)の報道によると、米英両国の政府はウクライナに駐在する政府職員の家族はウクライナから速やかに出国するようにと推奨した。報道の見出しによると、これは命令である。この推奨内容はウクライナ政府が数日前にロシアによる攻撃が真近に迫っているとして大声を張り上げたことを受けたもののようだ。そして、本日(125日)、それとは打って変わって、EUの外交官トップであるジョセフ・ボレルの言葉として次のような内容が報じられている。「もちろん、何もない。攻撃が迫っているという懸念を強めるような情報が何かあるとは私には思えない。」

やはり、ウクライナを巡ってのロシアとの武力紛争は起こしたくはないということがEU側の本音なのではないだろうか。


参照:

1What War With Russia Would Look Like: By Scott Ritter, Consortium News, Jan/10/2022

 



2022年1月19日水曜日

カザフスタン後、カラー革命の時代は終わる

 

副題:カザフスタンで起こった出来事は米国・トルコ・英国・イスラエルの主導によるクーデターをますます示唆しているが、ユーラシアにおける彼らの敵によって見事に蹴散らされてしまった。


113日の投稿(国家主義者の台頭  カザフスタンの政府批判はいかにして暴動化したのか、ロシアはなぜ静観してはいられないのか)に続いて、カザフスタンに関するその後の情報をおさらいしておこうと思う。

カザフスタンへ送り込まれたCSTOの平和維持軍は与えれた任務を終えて、その一部が、113日、モスクワ郊外の空軍基地へすでに帰還したという。残りの部隊も今後2週間のうちに順次カザフスタンを後にする予定だ。(出典:WATCH: First Russian peacekeepers return from Kazakhstan: By RT, Jan/14/2022

ここに、「カザフスタン後、カラー革命の時代は終わる」と題された最新の記事がある(注1)。著者のペペ・エスコバールは著名なジャーナリストである。地政学的な国際政治に関する解説や洞察は各方面から高い評価を得ており、彼はよく知られている。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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Photo-1:カザフスタンにおける2022年の出来事には外国勢力が残した指紋が至るところに認められ、中央アジアでの戦闘はふたつの敵対する勢力の間で展開して行った。 Photo提供:The Cradle

2022年はカザフスタンの炎上で始まったが、ユーラシア大陸の統合の観点から見ると、これは最重要拠点のひとつである国家に対する本格的な攻撃であった。いったい何がどのようにして起こったのかに関してわれわれは、今、ようやく理解し始めたところである。

月曜日(110日)の朝、集団安全保障条約機構(CSTO)の各国リーダーはカザフスタンでの出来事に関して意見を交換するために臨時会談に臨んだ。

カザフスタン大統領のカシムジョマルト・トカエフはこの出来事を簡潔に説明した。この暴動の真の理由は「計画もなしに始まった反政府デモの背後に隠されていた。」その目標は「政権を奪う」こと、つまり、クーデターを起こすことにあった。「作戦行動はひとつのセンターから発信され」、「外国からの武装勢力がこの騒動に関与していた。」

ロシア大統領のウラジミール・プーチンはさらにその先にまでも言及した。この暴動では「マイダン革命の際に使われたテクノロジーが用いられている」と述べた。これはNATOには友好的な振る舞いを見せなかった当時のウクライナ政権を転覆させるべく2013年から始まっていたマイダン広場における騒動に言及したものだ。

カザフスタンへCSTOから平和維持軍を急遽送り込んだ事実を擁護して、プーチンはさらにこう述べている。「遅れることなく対応することが必須であった。」CSTOは必要に応じて現地での任務を遂行するが、任務が完了した暁には、「もちろん、全兵力が同国から撤退する。」兵員は今週の後半から出国の予定だ。

しかし、決定的に重要な件はこうだ。つまり、「CSTO参加国は同機構の境界内で混乱を引き起こすことやカラー革命を実行することは決して許さない」という点を内外に見事に示したのである。

プーチンの発言はカザフスタンの国務大臣を務めるエルラン・カリンのそれと共鳴し合った。記録によれば、彼は自国で起こった出来事に適切な語彙を用いた最初の高官であった。次のように言ったのである。実際に起こったことは政府の転覆を目標にして内外の勢力によって引き起こされた「ハイブリッド・テロ攻撃」である。

もつれたハイブリッド網:

実質的な面は誰にも分からない。しかし、昨年の12月、キルギスの首都、ビシュケクにおいても別のクーデターがこっそりと阻止されていたのだ。キルギスの諜報部門は裏工作を行って、英国とトルコに結び付く一連のNGO組織を突き止めた。これは今回の大計画に関連して実に重要な側面を示してくれた。つまり、NATO関連の諜報部門や工作員は中央アジア一帯で同時的にカラー革命攻撃を準備しているのかも知れないという点である。

新型コロナウィルスの大流行が始まる前、2019年の後半、私は中央アジアを旅していた。西側のNGOは西側が行うハイブリッド戦争の最前線の部隊であって、キルギスやカザフスタンにおいて大きな影響力を持っていた。でも、彼らは中央アジアや西アジア一帯に配されて、西側のハイブリッド戦争のまさに星雲のような不透明さの中に漂っている単なるひとつの集団でしかないのも事実であった。この地域では、CIAや米国のディープステーツがMI6やトルコの諜報組織と縦横に交錯している姿をわれわれは目にする。

トカエフ大統領はあたかも「ひとつのセンター」を暗号のように言及したが、中央アジアの諜報関係の高官によれば、あれはアルマトイ南部のビジネス地区にある米国・トルコ・イスラエルからの軍部や諜報関係者による「秘密の」作戦室のことを意味していたのだ。この「センター」には22人の米国人、16人のトルコ人、6人のイスラエル人が居て、西アジアでトルコ人によって訓練を受けた妨害工作要員たちを統率し、アルマトイへと送り込んだ。

カザフスタン軍がロシアやCSTOの諜報部門からの支援を受けて、破壊されたアルマトイ空港を奪還した時、彼らの作戦は完全に潰された。同空港は外国からの軍需物資を受け取るためにハブ空港として使用する予定だった。

西側のハイブリッド戦の遂行者たちはCSTOが彼らのカザフスタン作戦を電光石火のようなスピードで妨害したことにすっかり度肝を抜かれ、蒼白になっていたに違いない。重要な要因がある。ロシアの国家安全保障委員会の長であるニコライ・パトルーシェルはとっくの昔にこの「大構想」をすでに見抜いていたのである。

それ故、ロシアの航空宇宙軍や空輸部隊、ならびに、必要となる大掛かりな兵站インフラの準備が着々と進められ、実際に発進するばかりになっていたことは何の不思議でもない。

11月に遡って、パトルーシェルのレーザーはすでにアフガニスタンで安全保障が劣化している状況にその焦点を合わせていた。タジキスタンの政治学者であるパルヴィズ・ムロジャノフは8,000人もの帝国側の武装したセラフィ聖戦士がシリアやイラクから送り込まれ、アフガニスタン北部の荒れ地を当てもなくさ迷い歩いている事実を報告した数少ない専門家の一人であった。

彼らは大多数がホラーサーン系のISISである。あるいは、トルクメニスタンとの国境付近で再構成されたISISである。その一部は正式にキルギスへ搬送された。かの地からはビシュケクから国境を越し、アルマトイへ姿を現すのは非常に容易いことなのだ。

帝国がカブールから撤退した後にジハドで構成された予備兵をいったいどのように使うのだろうかという件についてパトルーシェフと彼のチームがその疑問を解明するのに時間はかからなかった。つまり、目標はロシアと中央アジアの「スタン国家」との間に延々と続く7,500キロもの国境地帯である。

他の事柄も含めて、これについてはタジキスタン内にある第210ロシア軍団の基地で2021年後半に記録的に多くの準備が実施されていたことを示す記録が実にうまく説明してくれる。

ジェームズ・ボンドがロシア語を喋る:

汚らしいカザフスタン作戦の詳細は必然的に通常もっとも怪しまれている連中から話が始まる。つまり、米国務省だ。国務省は2019年のランド研究所の「ロシアを(過度に)拡張させる」と題された報告書に記された戦略を「賛美」していた。「地政学的な策」に関する第4章は「ウクライナに対する軍事的な支援」、「ベラル-シ政権の転覆を推進」、「シリアの反政府派への支援の拡大」から始まり(これらはすべてが失敗に帰したが・・・)、「中央アジアにおけるロシアの影響力を低減する」に至るまで多くを網羅していた。

これが主要概念であった。そして、実行はMI6・トルコの連携集団に任された。

CIAMI6は少なくとも2005年以降中央アジアの 怪しい連中に対して投資を行って来た。当時、彼らは「ウズベキスタン・イスラム運動」(IMU)の後押しを行い、それからタリバンに近寄り、キルギス南部で騒動を起こそうとした。しかし、何も実現しなかった。

20215月になると、状況はまったく異なっていた。その頃、MI6のジョナサン・パウェルはジャブハト・アルヌスラの指導者と会った。この集団はイドリブに近いシリア・トルコ国境地域でたくさんの中央アジア出身のイスラム聖戦士を擁していた。米国の言い方によれば、「中庸な反政府派」はNATOの反ロ政策を順守してくれさえすれば彼らに対する「テロリスト」の烙印は排除されるという。これが彼らの取引の内容であった。

そういった事がイスラム聖戦士をアフガニスタンへ送り込むための重要な準備工作のひとつであったのだ。こうして、中央アジアへの進出のための枝分かれの準備が完結する。

攻撃の種は20206月に観察される。その頃、2014年から2018年にわたってトルコ駐在英国大使を務めたリチャード・ムーアがMI6の長官に任命された。ムーアはキム・フィルビーのような人物の能力にはまったく手が届かなかったが、彼のプロフィールは打ってつけであった。つまり、彼は徹底したロシア恐怖症であって、西アジアから始まってコーカサス、中央アジアに至る住民、ならびに、ボルガ川流域のロシアの共和国さえをも含むトルコ語系の住民の統合を推進しようとする汎トルコ主義を謳う「グレート・ラニア」の中心的な応援者であった。

MI6は 専制政治のトルクメニスタンを除いてすべての「スタン国家」に深く浸透している。ロシアと中国に対抗するために、狡猾にも、汎トルコ攻勢に便乗しているのである。

エルドアン自身は、特に、2009年の「テユルク評議会」の創立以降、本格的な「グレート・トラニア」攻勢への投資を享受して来た。重要な点としては、この3月にカザフスタンにおいて「ルク国家首脳会議」が開催される予定だ。これは「テユルク評議会」の新しい呼び方である。カザフスタン南部にあるトルケスタン市がルク世界の首都として命名されよう。

こうして、「テルク世界」はロシアの統合概念である「ユーラシア経済連合」と正面衝突することとなり、トルコをメンバーにしてはいない上海協力機構(CSO)とも衝突する。

エルドアンの短期的な野望はまずは経済のみであると見える。アゼルバイジャンがカラバフ戦争において勝利を収めてから、彼はカスピ海を通して中央アジアへの進出を実現するためにバクーを利用することであろう。それはトルコの軍産複合体がカザフスタンやウズベキスタンへ軍事技術を売り込むことによって完成されることとなろう。

トルコ企業は固定資産やインフラへの投資をすでにふんだんに行っている。それと並行に、アンカラのソフトパワーは今や過熱状態となっており、大きな圧力を掛けることによって入手可能となる果実を収穫しようとしている。たとえば、カザフスタンにおいてはキリル文字をローマ字に切り替える時期を早めて、2023年には開始の運びだ。

しかしながら、基本的にはNATOの中央アジアへの進出についてトルコが代理役を務めていることについてはロシアと中国は明白に理解している。テルク国家の連合組織は対カザフスタン作戦を曖昧にするために「燃料の高騰にまつわる抗議」であると称した。

すべては曖昧模糊としている。エルドアンのネオ・オットマン主義は「ムスリム同胞団」を基盤にして大々的にその応援役を演じているが、本質的には汎トルコ主義とは関係がない。汎トルコ主義は相対的に「純粋な」トルコ人の優位性に基礎を置こうとするものであって、人種差別的な運動である。

問題は急進的になればなるほど彼らはトルコの右翼である「灰色オオカミ」と合流し、より深く関与するようになることにある。その懸念はアンカラの諜報当局がボスニアから始まって中央アジアを通して新疆に至るまでISIS・ホラーサーンをフランチャイズ展開し、多くの場合トゥーラーンの人種差別主義者を支援し、戦力と化していることからも良く説明できる。

帝国はこの毒を含んだ連合から大きな利益を得る。たとえば、アルメニアにおいてそうだった。そして、この作戦がうまく行けば、カザフスタンでも同じことが起こるであろう。

トロイの木馬を送り込む:

カラー革命はどれを取っても「最強の」トロイの木馬を必要とする。われわれの今回の事例においては、それは国家保安委員会の前委員長であったカリム・マシモフの役割であろう。彼は、今、刑務所に囚われ、国家反逆罪を問われている。

とてつもない野心家ではあるが、ウイグル人とのハーフであるマシモフは、理論的に言えば、前もって定められていた自分の出世の道を塞がれたのである。彼がジョー・バイデンやその息子との間に持っている心地よい関係はすでに詳細に分かっているが、彼のトルコ諜報機関との繋がりは何も分かってはいない。

内務・国家保安省の前大臣であったフェリックス・クーロフ中将はカラー革命中に形成されたクーデター内部の動力学的な諸要素を説明することができる、見事な程にもつれ合う蜘蛛の巣を紡いでいたのである。

クーロフによると、マシモフと最近更迭されたカザフスタン国家保安委員会議長のヌルスルタン・ナザルバエフの甥であるサミール・アビッシはこの騒動の最中「顎髭を蓄えた連中」から成る「秘密」部隊を監督する作業にどっぷりと浸かっていた。国家保安委員会(KNB)はナザルバエフの直接の指揮下にあったが、ナザルバエフは先週までこの委員会の議長の座にあった。

トカエフはこのクーデターの構造を理解した時、彼は早速マシモフとサマト・アビッシの二人を解任した(訳注:アビッシの名前は前出が「サミール」となっているが、ここでは「サマト」となっている。後者が正解のようだ)。そして、ナザルバエフは自発的に保安委員会の議長の座から降りた。そして、アビッシは「顎髭を蓄えた連中」の動きを止めることを約束して、このポストに就いたのだが、後に辞任した。

こうして、事態はナザルバエフとトカエフとの対決を直接示すこととなる。彼の29年におよぶ統治の間、ナザルバエフは多方面外交を演じ、その外交は余りにも西側に傾倒しており、必ずしもカザフスタンに恩恵をもたらすものではなかった。彼は英国の法律を採用し、エルドアンとは汎トルコ主義のカードを捌き、大西洋主義者の目論見を推進するためのNGO組織が津波のようにカザフスタンを襲うこととなった。

トカエフは極めて賢明に政治運営を行った。旧ソ連邦では外交について訓練を受けており、ロシア語と中国語に堪能で、彼はすべてをロシア・中国側に合わせ、これは一帯一路(BRI)やユーラシア経済連合(EAEU)および上海協力機構(CSO)のマスタープランと軌をひとつにするものだ。

トカエフはこのBRI/EAEU/SCOの三本足が帝国にとって如何に悪夢となるか、そして、三本足のために主要な役を担っているカザフスタンの不安定化が如何にユーラシアの統合にとって致命的なクーデターとなるかに関してプーチンや習近平とほとんど同様によく理解している。

結局、カザフスタンは中央アジアのGDP60%を生産し、大量の原油や天然ガス、その他の鉱物資源を産出し、最新のハイテック産業を擁している。つまり、豊かな文化遺産を継承する世俗的で中央集権的な立憲民主国家なのである。

トカエフにとってはCSTOに支援を要請するに当たって長い時間をかける必要はなかった。カザフスタンは1994年にこの条約に署名した。とどのつまり、トカエフは彼の政府に対して攻撃を仕掛けて来た外国勢力が主導するクーデターと戦ったのである。

他にもさまざまなテーマがある中で、プーチンはどうしてカザフスタンの公的な調査だけがこの出来事の核心に迫ることができるのかを強調している。誰が関与したのか、そして、暴徒への資金提供をどの程度行ったのかについては依然として不明のままである。動機としてはいくつかが考えられる。たとえば、親ロシア・中国を標榜する政府に対する妨害工作、ロシアに対する挑発、BRIに対する妨害、鉱物資源の略奪、サウジ王室スタイルによる「イスラム化」の推進、等々。

ジュネーブにおけるロシアに対する「安全保障」に関する米ロ会談の開始に先立つこと23日に迫っていたことから、このカラー革命はNATO高官らにとっては(まさに、切羽詰まった)お返しの最後通牒を伝えるためのものであったのだ。

中央アジア、西アジア、そして、南の発展途上諸国は電光石火のごとく迅速に遂行されたCSTO軍によるユーラシアでの対応を目にした。CSTO軍は任務を完了し、23日の内にカザフスタンを後にする予定だ。そして、誰もがこのカラー革命が惨めな失敗に帰したことを目にしたのである。

これは最後のカラー革命となるのかも知れない。苛立った帝国の憤怒には警戒しよう。

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これで全文の仮訳が終了した。

前回の投稿は年初早々に起こったカザフスタンにおける騒動に関していくつかの暫定的な見解や概略の描写に終わっていたが、今回の引用記事はそれよりも遥かに詳しい内容である。全貌が見えて来た感じがする。

特に興味深いのは、やはり、この出来事はトカエフ現大統領とナザルバエフ前大統領との間の争いであったという点だ。そして、これはトカエフがCSTO軍の支援を得たことから、トカエフの勝利となったという点でもある。大きな構図で見ると、本件も米ロ間の地政学的な綱引きのひとつの場面であったのだ。

もちろん、カザフスタンの多方面外交による西へ、あるいは、東への揺らぎは今回の騒動が収束したことによってすべてが解決するというわけではないだろう。中央アジアにおいては、この記事でその詳細を学んだことではあるのだが、米英、ロシア・中国に続いてトルコが標榜する汎トルコ主義が三つ目の要素として存在しており、これが、新疆ウイグル地域を含めて、カザフスタンを始めとする中央アジア諸国を暗雲のごとく覆っている点である。さて、今後どのように展開して行くのであろうか?

最後に、この引用記事の表題である「カザフスタン後、カラー革命の時代は終わる」という文言は極めて意味深であると思う。その意味することが何かについては著者は何ら説明を加えてはいない。読者のひとりひとりがその答えを見い出してくれと言わんばかりだ。

そして、この記事の内容は西側の軍産複合体のプロパガンダ役を演じる主流メディアによって報じられることは少なくとも当面はなさそうだ。そういった状況こそが著者が奇しくも述べた「苛立った帝国の憤怒には警戒しよう」という結びの言葉に反映されている。こういった洞察にペペ・エスコバールの真価が見出せるのだと私には思える。


参照:

注1:After Kazakhstan, the color revolution era is over: By Pepe Escobar, The Saker, Jan/12/2022