2023年6月29日木曜日

ブリンケンが目をパチパチさせた:米国の外交政策のトップによる北京訪問は成果ゼロ

 

最近、米国のブリンケン国務長官が北京を訪問した。訪問の目的は達することができなかったと言われている。

ここに、「ブリンケンが目をパチパチさせた:米国の外交政策のトップによる北京訪問は成果ゼロ」と題された記事がある(注1)。表題にある「目をパチパチさせた」という表現は「たじろぐ」とか「降参する」といった意味合いで用いられる。要するに、ブリンケン国務長官は目標を達せずに、帰国の途に就いたという意味だ。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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Photo-1: © AP Photo / Leah Millis

アントニー・ブリンケンは、今回の訪中で、太平洋における米国が果たす建設的な役割を再確認することを期待していた。しかし、ブリンケンは低い枝になっている外交的果実しか収穫することができなかったとふたりの専門家が評している。

月曜日(619日)、中国の秦剛外相と習近平国家主席との会談後の記者会見で、ナンシー・ペロシ前米下院議長とケビン・マッカーシー現米下院議長による台湾の中国本土からの正式な独立を促す最近の試みからブリンケンは手を引いた 

「我々は台湾の独立を支持しない。「どちらか一方による一方的な現状の変更には反対することに変わりがない」。

また、彼は中国がウクライナでの軍事作戦のためにロシアに武器や軍需品を供給しているというワシントンの主張を放棄し、中国による度重なる反論を最終的に受け入れたようだ。

マニトバ大学のラディカ・デサイ教授がスプートニク に語ったところによると、バイデン政権は、2月に予定されていた最後の会談が風船事件の後に中断されたとはいえ、「おそらく何らかの訪中をしなければならなかった」のだという。

中国政府はブリンケンを容認してやることで 「道徳的に大きな こと」を実現していると彼女は述べた。

「中国は、そうする必要がないにもかかわらず、そのようなことをしている」とデサイは言う。「本来あるべき外交を行なっているのだ。」

北京の寛大さは世界全体への配慮からきていると彼女は述べた。

「米国と中国は核大国である。米国と中国は核保有国であり、世界の二大超大国である」とデサイは強調する。「彼らが話をしないということは、非常に危険な世界情勢にあるということであって、中国は世界が核災害の淵に立たされることがないことを約束しようとしている。」

この学者は両国間の緊張は世界における米国の影響力が低下していることの兆候に過ぎないと述べた。

「どうして米国は中国に対してこのような葛藤に直面しているのか?」とデサイは問いかける。「米国が権威を失いつつあるからだ。」

ブリンケンは両国の軍部の間にホットラインを設置することには成果を挙げることができなかったと認めざるを得なかった。この「困難」については、外務省の楊涛北米大洋州局長は米国の経済制裁のせいだと述べている。

ジャーナリストであり、アジア太平洋地域の政治・経済や地政学の専門家でもあるKJ・ノーは、スプートニクに対して、これはふたつの核保有国が 「意思疎通を果たすための言葉を持ってはいない」ことを意味すると語った。

「言葉がなければ、相手に伝えることができるのは行動だけであって、行動を解釈するしかない。そして、軍事行動というものは常に誤解されたり、脅威として解釈されたりする可能性がある。」

アジアに関するこの専門家は、ブリンケンの旅は全体的に「その基礎が非常に低く置かれていたことからも、貧弱な結果に終わった」と述べた。冷たい歓迎振りでもあった。

「発言の中で重要な点は話し合いを続けることに合意したということだ」とノーは言う。「われわれは話し合い、話し合いを続けることに合意した。それ自体は悪いことではない。」

北京からワシントンへのメッセージは2022年にインドネシアのバリ島で開催されたG20首脳会議で合意した「五つのNO」を守ることであった

「つまり、米国は中国の体制を尊重し、政権交代を望んではいないということだ」とノーが説明。「新たな冷戦を望まず、対中同盟の活性化を求めず、台湾独立を支持せず、中国と対立する意図はなく、中国の発展を抑制しようとはしない。」

時事問題のより深い分析については、われわれのスプートニク・ラジオの番組をお聞きください。

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これで全文の仮訳が終了した。

『北京からワシントンへのメッセージは2022年にインドネシアのバリ島で開催されたG20首脳会議で合意した「五つのNO」を守ることであった』という専門家の指摘が興味深い。「五つのNO」とは「新たな冷戦を望まず、対中同盟の活性化を求めず、台湾独立を支持せず、中国と対立する意図はなく、中国の発展を抑制しようとはしない」ことを指す。米国がこれらの「五つのNO」を順守すれば、台湾有事は起こらないであろう。

ブリンケンは習近平主席に「我々は台湾の独立を支持しない。どちらか一方による一方的な現状の変更には反対することに変わりがない」と述べたと報じられている。これが名実ともに米国によって実行されれば、日本でも大騒ぎになった台湾有事には繋がらない。核大国同士の武力対決は遠のく。

その基層には米国の軍事的パワーが相対的に弱くなっているという現実が存在するのであろう。ウクライナ戦争が進行する中で、台湾を巡って対中戦争を引き起こすことは自殺的である。とすると、台湾有事というシナリオは米国の軍産複合体による軍事物資の拡販が目的であったということになる。日本の世論やメディアを観察すると、彼らは所期の目標を達成したかのような観がある。

さて、今後の展開はどうなるのであろうか?米国の決意は単なる短期的なものなのか、それとも、長期にわたって堅持されるものなのかが試される。

参照:

1Blinken Blinked: US Foreign Policy Chief’s Fruitless Flight to Beijing: By James Tweedie, THE INTEL DROP, Jun/20/2023

 



2023年6月26日月曜日

中東:米国よ、サヨーナラ!中国よ、コンニチハ!

 

中東においては米国の存在感が、今、急に失われている。それに代わって、中国の影響力が急速に拡大している。

1971年の8月、ニクソン米大統領は建国以来200年近く維持されてきた金本位制を放棄した。これは、米国が見舞われていたインフレに対抗する措置であり、各国が米国に対して米ドルを金と引き換える要求を止めさせるためでもあった。結果として、米国はドル紙幣を乱発する体制に移行した。サウジに対する安全保障との引き換えにして、サウジアラビアが産出する大量の原油を米国のコントロール下に収め、原油だけではなく他の貿易品目も含めて、国際貿易の決済は米ドル建てとなった。ペトロダラーの君臨が始まった。

だが、今、米国による一極支配体制が崩れようとしている。

310日、中国の仲裁によってサウジアラビアとイランが和解した。この新しい動きによって、サウジとイランの間の代理戦争の観を呈していたイエメンにおける内戦も鎮静化した。そして、サウジ自身は長く続いていた米国との親密な関係を破棄し、ロシアや中国に傾いている。これによって、サウジから輸出される原油の決済は米ドルではなく、当事国の通貨でも決済が可能となった。サウジに続いて、他の中東産油国も脱ドル化に加わりつつある。これらの新しい動きはすべてが中東における中国の存在観を疑いようのないものにした。

ここに、「中東:米国よ、サヨーナラ!中国よ、コンニチハ!」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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副題:米国はこの地域で地歩を失いつつあり、その責任は米国自身にある。

Photo-12022128日、サウジアラビアのムハンメド・ビン・サルマン王子がリヤドで中国の習近平主席を歓迎。 [出処:ロイター経由でサウジ・プレス・エージェンシーから]

中東において衰退する自国の影響力を救うために、アントニー・ブリンケン米国務長官は、今週(67日、サウジ到着)、サウジアラビアへの3日間の訪問に乗り出す。しかし、サウジアラビアと湾岸諸国との「戦略的協力」を進めることは困難な戦いを証明することになるかも知れない。

昨年の7月、ジョー・バイデン大統領は同王国で開催された湾岸協力会議サミットに出席し、「米国はこの地域から離れ、中国やロシア、または、イランによって空白が埋められて行くことを野放しにはしない」と誓った。しかし、まさにそれが今起こっていることだ。

米国の反対にもかかわらず、この1年、この地の同盟国はハイブリッド化に走った。つまり、北京とテヘランとの関係を改善し、モスクワとの強い関係を維持。

バイデン政権は外交関係を再構築するために最近中国が仲介したサウジアラビアとイランとの合意の重要性を公には軽視しているが、石油が豊富な湾岸地域と中東において高まるばかりの中国の影響力には殺気立っているようだ。

過去20年間、米国は石油と天然ガスの生産を増やし、事実上エネルギー自給を独立させてきた。もはや湾岸石油をそれほど必要としないのかも知れないが、紛争の際には中国にとって重要なエネルギー供給を遮断し、同盟国のためにそれらを確保できるようにこの地域の面倒を見ると主張している。

ブリンケンが先月警告したように、「中国はわれわれが今日直面している地政学的にもっとも重大な挑戦を象徴している。それは自由で、開かれた、安全で、豊かな国際秩序を目指すわれわれのビジョンに挑戦する意思を持ち、その能力をますます高めている国家のことだ。」

しかしながら、ワシントンの民主主義よりも、むしろ、北京の独裁主義の方がこの地域の独裁者たちにとっては簡単明瞭で、しっくりと来るのかも知れない。

中東やそれ以外の地域におけるロシアの影響力も米国を神経質にさせている。

彼らの曖昧さ、さらには、ロシアとの共謀には辟易としており、バイデン政権は中東の特定の国々への圧力を強めており、米国の忍耐は今や限界に近いことを明瞭に示している。この地域の国々に対してロシアの経済制裁逃れの手助けをしないようにと警告し、どちら側につくかをはっきりとさせることを求めている。さもなければ、米国とG7諸国の怒りに触れることになると。

だが、無駄に終わった。

サウジアラビアは、これまで、市場価格を引き下げるために石油を大幅に増産せよという米国の要求を拒否し、欧米の対ロ経済制裁の影響を相殺するように振る舞ってきた。モスクワとは良好な関係を維持し、ウクライナ支援については足を引っ張っている。サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子の「ワシントンに向かって中指を突き立てる」姿勢は同地域においては絶大な人気をもたらしたと伝えられている。

昨年、バイデンがリヤドを懲罰すると脅したことに対抗して、サウジアラビアは中国の習近平国家主席を招いて、二国間協議を行い、中国・湾岸諸国協力理事会および中国・アラブ首脳会議を開催した。その後、サウジアラビアは西側諸国がテヘランに対する制裁を強化していた矢先に、中国の仲介でイランとの関係を正常化し、米国への明らかなけん制としてシリアとの関係修復に乗り出した。

しかし、対米関係に対するこうした新しい態度はリヤド政府だけに見られるものではなく、地域的な現象である。米国のもうひとつの同盟国であるアラブ首長国連邦も、また、中国との関係を緊密化し、フランスとの戦略的関係を改善し、イラン、ロシア、インドとの関係に取り組んでいる。時として、これは米国との関係を犠牲にしてきた。

この地域は、全体として、世界との関わりを多様化している。これは商業関係を見ても明らかだ。2000年から2021年の間に中東と中国の貿易額は152億ドルから2843億ドルに増加した。同じ期間における米国との貿易額は634億ドルから984億ドルと微増にとどまっている。

サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプトなど中東6カ国は、最近、ロシアやインド、ブラジル、南アフリカを含む中国主導のBRICSグループへの加盟を希望。西側諸国が対ロ経済制裁体制を拡大し続けているにもかかわらずである。

もちろん、米国は過去30年間中東においては支配的な戦略的大国であったし、現在もそうである。しかし、次の30年もそうであろうか?

独裁的な政権と一般市民とはまったくと言っていいほど一致しないこの地域においては、米国は人権と民主主義についてリップサービスしかしない偽善的な帝国主義国家であると大多数が考えている。そのため、米国に対して「ノー」と言うのは非常に人気のある姿勢なのである。

特に、パレスチナに対する米国の外交政策において顕著で、米国の外交政策はパレスチナ人に対して植民地主義を取り、占領者でもあるイスラエルを断固として、無条件で支持している。

ブリンケン長官はリヤドを訪問する際、サウジアラビアに圧力をかけてテルアビブとの関係を正常化させ、核の民生プログラムや安全保障を含むとされるサウジアラビアの要求額を引き下げようと画策するであろう。

UAE、バーレーン、モロッコ、スーダンは、すでにアブダビへの米国製F-35の売却、西サハラに関するモロッコの主張の承認、米国によるハルツームに対する制裁の解除といった米国側の譲歩と引き換えに、パレスチナ人を犠牲にしてイスラエルとの関係を正常化している。これらはすべてがイスラエル政府が自ら「譲歩」し、数十年にわたるパレスチナの占領を終わらせる必要がないようにするためだ。

しかし、米国は距離を置くべき二枚舌の大国だとアラブ国民に確信させたのは一般のアラブ人にとって極めて身近なパレスチナ問題だけではないのだ。

衛星テレビやソーシャルメディア・プラットフォームのおかげで、この地域の人々はイラクにおける米国の犯罪やアフガニスタンでの屈辱を自分たちの目で見て来た。9.11同時多発テロ以来、過去20年間にわたる米国の中東への介入に関する損益計算書は米国にとっては有利なものではなかった。

ドーハを拠点とする「アラブ研究政策センター」が2022年にアラブ14カ国で実施した世論調査によると、回答者の78%がこの地域の脅威と不安定性の最大の原因は米国だと考えているのも決して不思議ではない。それとは対照的に、シリアからイラク、イエメンに至るまで、この地域で独自の汚い仕事をしてきたイランとロシアをこのように考えているのは57%に過ぎなかった。

元米政府高官のスティーブン・サイモンは彼の著書『巨大な幻想』(原題:Grand Delusion)で、中東における米国の野望を描いている。つまり、米国はアラブ人やイスラム教徒を何百万人も死に至らしめ、彼らの地域社会を荒廃させた戦争に約5兆~7兆ドルを浪費したと彼は見積もっている。さらに、これらの紛争は数千人の米兵を戦死させ、数万人もの負傷者を出し、約3万人の米退役軍人の自殺にもつながった。

この地域が米国から切り離されること、そして、少なくとも米国がこの地域から手を引くことは必然的であり、それと同時に、望ましいことであるとより多くの中東の人々(そして、米国人)が同意しているのは決して偶然ではない。

また、このような展開は双方にとって長期にわたる極めて厄介な結果をもたらし、米国が外交政策を変更するかどうか、さらには、どのように変更するのかによって決まるであろう。

しかし、その詳細については別の議論を行わなければならない。

著者のプロフィール:マルワン・ビシャラはアル・ジャジーラ紙の上級政治分析者。マルワン・ビシャラは国際政治に関して多くの著作を出しており、米国の外交政策や中東、国際戦略問題の第一人者として広く知られている。以前はパリ・アメリカン大学で国際関係学の教授を務めていた。

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これで全文の仮訳が終了した。

この記事は中東における国際政治の変化について簡潔に解説している。著者が言いたいことのすべてはこの引用記事の表題に見事に集約されている。

この記事を読んで痛感させられることのひとつは政治が持つ理不尽さではないだろうか?それは、今日、至る所で観察される。この現状を説明する元凶は一極覇権を押し進める米国の対外政策にあると言えよう。政治が持つ理不尽さが現状を支え切れなくなると、今まで維持されてきた均衡が何処かで破れる。中東はその好例であろう。

一般庶民の常識や価値観から言っても、米国政府の対外政策、つまり、人権や民主主義を錦の御旗に押し立て、圧倒的な武力を誇示して、相手国の政府を脅かす手法は子供たちの間のガキ大将や巷のゴロツキやギャングのそれと何ら変わりがない。一時の痛みを避けるためには、それが現実の世界であるとしてそういった脅しを受け入れることは可能だ。しかしながら、次世代のためにはそれでいいのだろうか?

長期的な視点に欠ける時、人間の判断はとんでもない方向に向かってしまうことが多い。

それは一極支配体制にしがみ付こうとする余りにウクライナにおいて対ロ代理戦争を遂行し、台湾を舞台にした対中戦争を画策する米国にもっとも説得力のある事例が見て取れる。そもそも、ロシアを仮想敵国とすることは旧ソ連邦の崩壊によって完全にオサラバした筈であった。だが、米国の軍産複合体の飽くなき金銭欲や自己欺瞞はそうはさせなかった。ネオコンの連中はあの手この手を次々と繰り出し、世間を洗脳し続けた。トランプ政権時代には現職の大統領を相手にロシア疑惑を捏造し、主要メデイアを駆使して、大キャンペーンを繰り広げ、執拗にトランプ大統領を攻撃した。しかしながら、真実の情報がやがて表面化した。911同時多発テロ、イラク戦争、アフガニスタン紛争、シリア紛争、ウクライナにおけるマイダン革命、マレーシア航空MH-17便撃墜事件、英国のソールズベリーにおけるスクリッパル父娘毒殺未遂事件、トランプ米大統領に対するロシア疑惑、米大統領選における選挙不正、イラク空港でのイランのソレイマニ将軍の暗殺、等、数え上げたら切りがない。米国の内政の混乱は、今や、その極に至っている。政治が持つ極めて醜い現実があからさまになってきたが、皮肉なことには、われわれ一般大衆はそのことに慣れっこになってしまったかのようである。

そして、そのような米国に盲目的に従属する日本政府に関してはいったいどのように形容し、どのように説明したらいいのだろうか?

それだけではなく、新型コロナワクチンの集団接種を巡っては、虚偽の報道が繰り返して流され、情報管制が行われ、FDAやCDCといった米国の規制当局は自分たちの責務である国民の生命と安全を守るという本来の使命を忘れ、ビッグファーマの利益を最大限にする策に加担した。こうして、科学は政治にハイジャックされてしまった。その結果、新型コロナワクチンの副作用のせいで世界中で何十万人もの死者を出し、何百万人もが今もなお後遺症に苦しめられている。これらの後遺症は今後どれだけ長く続くのであろうか?一般庶民は大規模な人体実験に曝されている。

新型コロナワクチンが引き起こした悲劇は米国の内政を大混乱に陥れた諸々の出来事と同根であると私は言っておきたい。

 

参照:

注1:The Middle East: Goodbye America, hello China?: By Marwan Bishara, Al Jazeera, Jun/06/2023

 



2023年6月22日木曜日

ロシアとの軍事衝突に関するNATO側の準備計画の詳細 ― Responsible Statecraftが報告

 

「ロシア・ウクライナ戦争」は「ロシア・NATO戦争」であると言われている。そして、NATOを牛耳る米国の存在を考えると、それは、言うまでもなく、「米国による対ロ代理戦争」である。

ところで、新聞やテレビで毎日のように報道されているウクライナにおける戦闘は実質的にはもう終わったも同然だと専門家は言う。それは、かねてから喧伝されていたウクライナ軍による対ロ巻き返し作戦がまったく功を奏さなかったからだ。さらに裏を返して言えば、それはNATOがウクライナに対して軍事支援を継続する(つまり、西側の軍産複合体が金儲けを継続する)にはウクライナ軍が猛反撃を行うという前提がどうしても必要であったのだ。

だが、退役空軍中佐で国防省の元分析専門家であるカレン・クワイアトコースキーによれば、キエフ政府はNATOからの圧力を受け、反撃の準備が不十分なままに、いわゆる大攻勢を開始し、大失敗に終わったというのが実情のようだ。(原典:Kiev 'Politically Pushed' by NATO to Launch Counteroffensive Despite Being Unprepared; By Andrei Dergalin, Sputnik, Jun/19/2023

それでも、西側による支援は続けられ、今もなお新たな支援プログラムが計画され、実施されようとしている。だが、この状況は軍事的な観点からよりも、むしろ、政治的な観点からの動きであると専門家は解説する。

事実、戦車や砲弾の供与に参画した国々では、自国の軍事的備蓄が損なわれており、それを補充するには今後510年も要するであろうと懸念をが表明されている程だ。これ以上武器の供与を続けることはできないという表明である。ウクライナが武器や弾薬を消耗してしまったならば、ウクライナの敗戦でこの戦争は終るしかない。

今月の2123日にはロンドンで「ウクライナ復興会議」が開催され、その会議には国際的な財政機関や民間企業、公共団体が集うそうだ。ウクライナに対する財政支援が議論されるという。

EUは過去16か月間にウクライナに対する財政、軍事、人道支援として500億ユーロ強を注ぎ込んでおり、ドイツのリンドナー蔵相はウクライナに対するこれ以上の財政支援には応じられないと悲鳴を挙げたばかりだ。EU指導者と各国の指導者との間には温度差が感じられる。

ここに、「ロシアとの軍事衝突に関するNATO側の準備計画の詳細 ― Responsible Statecraftが報告」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。

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NATOはロシアとの軍事衝突の際に北大西洋同盟がどのように行動すべきかを記した秘密計画を冷戦以来初めて準備しているとResponsible StatecraftRS)が書いている。これに先立って、この種の計画はロイターによって報告されていた。

RSによると、この「数千ページ」にも及ぶ計画書はブリュッセルのNATO本部の代表や他のブロックからの職員らが密室で作成したものだ。議会のメンバーや独立した専門家らはこの計画についてはこれまでまったく知らなかったと同記事は伝えている。

同出版物によると、これは「一連の」軍事計画についての話しである。これには抑止力や欧州・大西洋地域の防衛についての概念、戦略計画、軍隊構造に関する要件、等を網羅する文書が含まれている。

RSはワシントンDCにある「Quincy Institute for Responsible
Statecraft」の出版物である。その使命は「米国の外交政策に関する前向きで公平なビジョンを推進する 」ことにあり、「米国を非生産的で終わりのない戦争に引きずり込んだ 」思想や利害関係を批判することにある。同センターは2019年に設立され、億万長者のジョージ・ソロスの財団から資金提供を受けている

この計画書は711日から12日にかけてヴィリニュスで開催されるNATO首脳会議で発表されるとロイター通信は先に報じている。その際に、NATOの軍事委員会議長を務めるロブ・バウアー提督はNATOブロックはいつでもロシアとの戦争に備えておくべきだと強調した。
NATO加盟国はロシアとの武力衝突ではウクライナを支持するものの、モスクワとの武力対立を望んでいるわけではないと断言している。それと同時に、ペンタゴンは「NATOのひとつの同盟国への攻撃は他のすべての同盟国への攻撃を意味する 」という原則に従うと警告した。

RBC Proからの関連記事:
Why consumers do not save on luxury in a crisis - The Economist
Germany's economy is in recession. What does this mean for the eurozone and ECB rates?
How the "toad" coin caused a stir in the crypto market – Fortune
How businesses and regions are looking for new models of interaction – research
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これで全文の仮訳が終了した。

NATOの具体的な姿勢を知るには711日~12日にヴィリニュスで開催される首脳会議での議論を待たなければならない。

だが、Quincy Institute for Responsible Statecraftというシンクタンクはジョージ・ソロスの財団から資金提供を受けて設立されたという事実を考慮すると、設立の趣旨をいかに美辞麗句で飾ろうとも、完全に中立の姿勢を維持することはなく、対ロ戦略では強硬派を示すのではないかと私は推測する。ロシアとは冷戦構造を維持し、最悪の場合、武力対決も辞さないとするのではないだろうか。

NATOが、あるいは、米国が目を覚ますのはいったい何時になるのだろうか?

昨日(621日)のニュースによると、北京を訪問し、習近平主席との会談をしたブリンケン米国務長官はそれ程の成果を得ずに帰国したと伝えられている。米国は台湾の独立を認めないという従来の公式路線が維持された。

つまり、昨年の8月、タカ派のナンシー・ペロシが訪台し、世界中に見せつけた対中強硬派の姿勢は今回否定されたことになる。これで台湾を巡る緊張の度合いは多少和らぐのかも知れない。

しかしながら、不測の核戦争を回避するための米中間のホットラインの設置は実現しなかったと伝えられている。ウクライナにおいては「NATO加盟国はロシアとの武力衝突ではウクライナを支持するものの、モスクワとの武力対立を望んでいるわけではないと断言している」とは言え、台湾においては核大国間の危機的な状況は続くということだ。

一夜明けて、今朝(622日)の記事によると、ウクライナの復興のための資金について米ロ間では舌戦が行われている。下記のような具合だ:

ウクライナで起きていることの責任は米国にある。ウクライナを再建しなければならないのは米国だ。これはアナトーリ・アントノフ駐ワシントン・ロシア大使の発言。ウクライナの復興は最終的にロシアが負担することになると述べたアントニー・ブリンケン米国務長官の発言に対するロシア外交団トップの反応である。ウクライナ紛争はロシアの国境近くに緊張の温床を作り、ウクライナを反ロに変えようとするアメリカの長期的、かつ、意図的な努力の結果である」とアントノフが説明している。(原典:The diplomat blamed the United States for prolonging the conflict in Ukraine: By Lenta,ru, Jun/22/2023

そして、西側の代表的な財政支援機関のひとつである世界銀行はワシントンで「ウクライナに175000万ドルの追加支援」を発表した。(原典:The World Bank will allocate $1.75 billion to Ukraine: By RIA Novosti, Jun/22/2023

これらふたつの今朝の記事は独立事象ではない。それらを繋いでみると、ふたつの記事の間にある空間と時間差が埋まって、もっと大きな全体像の中に落ち着く。ウクライナにおける戦争を米国が如何に継続しようとしているかを物語っていると言えよう。

総じて、ウクライナと台湾を巡る米ロ間、米中間の覇権争いは白黒がまだはっきりとはしない。少なくとも私にはそう見える。

参照:

1Responsible Statecraft reported the details of the preparation of the NATO plan for Russia: Jun/01/2023

 


2023年6月19日月曜日

米国人はどのようにしてワシントン政府の「戦争による金儲け」にはまったのか ― スコット・リッターの言

 

以前から「戦争による金儲け」と言う言葉がある。

戦争では多くの一般庶民が犠牲を払うが、ごく少数の者は大儲けをする。そして、通常、大儲けの話は表には出て来ない。美辞麗句で飾りたて、庶民が戦争に賛同するよう巧妙に画策する。メディアのプロパガンダによって集団意識は一色に醸成され、当事国にとってはあたかも戦争をすることだけが正義となる。過去の歴史を見ると、内外を問わずこういった展開が方々で見られた。そして、今も、繰り返されている。

ここに、「米国人はどのようにしてワシントン政府の戦争による金儲けにはまったのか ― スコット・リッターの言」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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米議会から名誉勲章を二度も受賞し、元米海兵隊少将のスメドレー・バトラーは「戦争とは楽に大儲けをする商売である」という有名な言葉を残した。

バトラーは自身が国に仕えた33年間について「私は時間の大半を大企業やウォール街、銀行家のための高級な、筋骨たくましい男として過ごした」と述べている。「要するに、私は資本主義のために働くギャングのようなものだった。」

残念なことには、自身の従軍経験を振り返って1900年代の初頭にバトラーが述懐した言葉は現代にも当てはまるのである。

そうでなければならないという訳ではなかった。ベトナム戦争後の時代、特にロナルド・レーガン大統領の下で、米国は再び軍隊に惚れ込み始めた。従軍する人々の間には誇りがあり、愛国的な義務の意識が感じ取られ、それが徐々に一般の米国民にも受け入れられていったのだ。19905月、私は「軍事記念日」を前にしたワシントンDCの軍事奉仕週間の活動に参加し、キャピタル・モールで米ソ両国の核兵器廃絶に向けた現地査察局の活動について展示した。私たちの活動についてもっと知りたいと思って、立ち寄ってくれた何百人もの人たちは本物の関心を示していた。19915月、湾岸戦争での米国の成功(私も従軍した)を受けて、愛国心は最高潮に達し、軍事記念日の祝典は表面的には国を防護してくれている兵士らによって支えられている人物たちに対する尊敬の念や賞賛といった純粋な気持ちを反映しているかのように思えた。

しかし、これは永遠に続くものではない。映画「グラディエーター」が鋭どく観察しているように、それを引用すると、「暴徒は実に気紛れだ」。グラディエーターがコロセウムの中央に立って、群衆に向かって「あなたは楽しんでいるか?」と叫ぶことができる限り、彼は社会の中で居場所を保ち続けるであろう。だが、グラディエーターが「楽しませている」人たちの精神に何らかの不都合が感じられると、群衆は直ぐにも不快になり、グラディエーターはすぐに忘れられてしまうのである。

1991年の湾岸戦争は単純な娯楽であった。米国の軍事的優位性が大規模に誇示され、敵は決定的に敗北し、敗北は明瞭に特定された。人命のコストは非常に低く、戦闘による死者は154人だけであった。これらの男性や女性が命を捧げた大義、つまり、クウェートの解放は、米国がイラクのサダム・フセイン大統領を権力の座から排除するために数十年にもわたる努力に巻き込まれていたために、すぐにも忘れられた。

米議員らは湾岸戦争やイラク戦争に対する承認を終了させる法案を可決した上院の委員会を称賛: 202338,19:58 GMT

9/11の恐ろしい出来事は米国人が再び軍隊に奉仕する人々の周りに集まることを可能にした。米国へのテロ攻撃の余波の中、国は制服を着た男性と女性に目を向け、ほとんど誰も特定することができはしない敵から、さらに言えば、ほんの少数しか理解してはいなかった敵から自分たちを救おうとした。しかしながら、米国人が特定できる大義のために軍隊を使用するという政府へのこの盲目的な信頼は、対サダム・フセインの得点を解決しようとする愛国的な熱意をもって信頼の復活を乱用しようとした政府によって台無しにされた。そして、あらゆる資源は米国を攻撃した世界的なテロ勢力を駆逐するという主要任務からはかけ離れ、それに代わって、米国の地政学的パワーを促進することと関係があり、米国を防護することとは何の関係もない目標のために米国はでっち上げられた情報に基づいて戦い、違法な侵略戦争に巻き込まれて行った。

結局のところ、戦争は金儲けである。20年以上経った今であっても、米国は米軍の制服を着ている人々との関係を定義するのに酷く苦労している。テロに対する世界的な闘いは消滅し、20218月、アフガニスタンのカブールから米軍が急遽撤退する という不名誉な結末に終わった。今日、米国はロシア(ウクライナで)と中国(台湾で)というふたつの軍事大国と対峙している。ヨーロッパ連合軍最高司令官である米国のクリストファー・カヴォリ将軍を引用すれば、大国間紛争の範囲と規模はほとんどの米国人が理解し得る「想像の域を超えている。」低調な紛争が20年間も続いたことにより、米国人のほとんどはこれらの武力紛争を世界的にヒットしたビデオゲーム「Call of Duty」の実写版として見なすように条件付けられている。

ウクライナにおける代理戦争は、戦争を直接知っている人たちが戦争だと常に認識していた状況とは違って、すべてが嘘であることを示している。数十万人の死者、数千万人の避難民、数兆ドルもの資源が失われ、破壊された。

米国が軍事記念日を祝う中、ロシアまたは中国のいずれかとの紛争に従軍する際、われわれが表向き尊敬する人物たちによって引き起こされる犠牲は米国人の心に重くのしかかることを希望する者も居るであろう。ウクライナのいやらしいネオナチ政権を擁護するのははたして米国の軍人の仕事であろうか?あるいは、台湾の独立の問題で中国を挑発することははたしてどうなのであろうか?米国は世界の警察官になる運命にあるのか?もしそうならば、われわれはどのような法律に則っているのか?国連憲章か?われわれ自身が主張する「ルールに基づく国際秩序」とは、綿密に精査すれば、スメドリー・バトラーが何年も前に鋭く警告したシステムとまったく同じではないか。

米国の戦争のスタイルは金儲けに過ぎず、それを遂行する連中はゆすり屋に過ぎなくなった。

これは、もはや、ハリー・トルーマン大統領が1949年に「軍事記念日」を創設した際に考えていた軍隊と米国の国民との間の関係ではない。この祝日の本来の意図が永遠に失われてしまう前に、われわれ国民は現状を振り返り、是正措置を講じることをお勧めしたいと思う。

***

これで全文の仮訳は終了した。

スコット・リッターはロシア・ウクライナ戦争について極めて客観的な分析を行うこと、つまり、公的な筋書きとは異なる見解を表明することで定評のある専門家である。たとえば、ブチャの虐殺をご記憶だろうか。ブチャにおける虐殺はロシア軍が行ったものではなく、ウクライナ国家警察が行ったものだとして、リッターはバイデン政権を批判した。

リッターはが問いかける「ウクライナのいやらしいネオナチ政権を支援することははたして米国の軍人の仕事であろうか?あるいは、台湾の独立の問題で中国を挑発することははたしてどうだろうか?」という言葉は非常に重い。多くの米国人は共感を覚えるであろう。極めて妥当な問いかけであると思う。

「米国の戦争のスタイルは金儲けに過ぎず、それを遂行する連中はゆすり屋に過ぎなくなった」という見解は100年前にスメドレー・バトラー少将が述べた内容とまったく同じだ。その相似性はまさに圧巻だ。

今も、米軍は大企業やウォール街、銀行家の金儲け計画のために、米国の圧力に屈しない国家に向けて空母を派遣し、武力で威嚇する。それでも屈しない国家については空爆を行い、インフラを破壊する。われわれ素人にとってさえも、この種の事例はすぐに思い浮かぶ。

これらの状況は100年前の米軍の教科書には何の改訂も成されず、今でもそのまま使用されていることを示している。

昨今、中東においては米国の存在感が低下し、それと同時にBRICS+ 勢力の拡大や米ドル離れの動きが顕著になっている。多極化された新しい秩序に移行しようとする国際的な動きが進行している。多極化した世界が自然の成り行きであり、歴史的必然であるとするならば、役者の交代は速やかに完了させ、混乱を最小限に食い止めるべきであろう!

その目標に向かって注力することが政治家に求められる最大級の倫理的規範なのではないか。軍事的混乱の中では一番大きな犠牲を強いられるのは、常に、一般庶民となるからだ。そのことはイラク戦争で見てきた。アフガン戦争でも。シリア紛争でも。そして、今はロシア・ウクライナ戦争だ。これから、台湾でも繰り返されるのだろうか?正気の沙汰ではない!

参照:

1Scott Ritter: How Americans Fell for Washington’s ‘War Racket’: By Scott Ritter,

Sputnik, May/20/2023

 

 


2023年6月16日金曜日

われわれはこの戦争に勝てる

 

ここに「われわれはこの戦争に勝てる」と題された記事がある(注1)。

これは新型コロナ感染症の大流行と闘ってきた医師が過去3年間に意識した考えを整理し、吐露したものだ。著者らが遭遇した戦争は第一義的には感染症との闘いであったが、彼らのエネルギーを浪費させ、神経を削ったもっとも強力な敵は同じ医療関係者たちであった。つまり、製薬業界であり、規制官庁の役人であり、医師会や学会、病院管理者や病院で勤務する医師たちであった。

そして、この戦争は今も続いている。いつ終わるのかも定かではない。著者はこの戦争を「イベルメクチン戦争」と呼んでいる。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。

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副題:それは必ずしも「われわれ」と「彼ら」、あるいは、「支配階級」と「一般大衆」との戦争ではなく、むしろ、それは善と悪との戦争だ。そして、善は勝つことが可能だ(おそらく、勝つことだろう)。

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私は1969年生まれ。麻薬戦争やテロ戦争、ならびに、男女間の戦争を除けば、私が理解し、個人的に経験したことのある唯一の戦争は冷戦であった。男女間の戦争については、ベーコンを家へ持ち帰りフライパンで焼いてくれるあのセクシーなアンジョリのお陰で男性側が勝ったのだと思っていた。

冷戦は私にはあまり関係がなかった。たぶん、私には米国とロシアとの関係はお互いにメールを無視したり、敵を招いてお泊り会をしたりするような、くだらない諍いを起こす思春期の二人の子供のような振る舞いにしか見えなかったからだ。あるいは、ロシアがエキゾチックに響き、遠く離れた場所にあって、たとえ冷戦が戦争に発展したとしても(私の中では明確に爆弾が落とされることを意味する)、明らかにわれわれが爆弾を落とす側であり、明らかに悲劇ではあったけれども、個人的にそれを心配する理由にはならなかったからであった。

申し訳ないが、私は自己中心的な10歳の子供だった。
戦争とは爆弾を落とすことであり、米国が行う戦争は必ず国外で行われるものであって、自分は安全であるという考えを私は中年の頃まで抱き続けていた。

だが、私は間違っていた。

私たちは戦争をしている。

新型コロナ感染症の文脈で戦争に例えたのは私が初めてではない。実は、最近、ピエール・コリー博士と「イベルメクチン戦争」と題した書を共同執筆するという大変光栄な出来事があった。私たちがそれを書き始めたとき、私はいわゆる「覚醒」の時から3年近くを経過しており、新型コロナが敵ではないということを十分に理解していた。また、マスクの着用、ワクチン接種の義務化、等の狂気の沙汰に関して皆がメディアでお互いに対立してきたことに比べると、われわれ(反抗的な自由の戦士)対彼ら(従順な一般大衆)の構図はそれ程酷いものではなかった。彼らが昆虫を食べるといった服従を強要しようとしたのは手下たちに対して、つまり、われわれに対して全体主義的な支配を志向する支配階級でさえもそうはしなかった。だが、それ以上のものであった。結局のところ、メロドラマ的な表現を避けて言えば、それは善と悪との戦いである。

善はコーリー博士やFLCCC内部(および外部)の多くの同僚たちによって代表される。つまり、科学者や医療関係者、時にはならず者に化身するミュージシャン、作家、ジャーナリスト、等、文字通り自分の危険を冒してでも邪悪な意図を暴こうとしている人たちである。さらには、新型コロナワクチンの接種を行うクリニックの前で副作用に関するパンフレットを配り、ワクチン接種によって傷ついた人たちからの投稿をさらにリツイートし、日常生活における英雄的な人たちも含まれる。もちろん、悪は製薬会社や政府機関、ならびに、このショーを運営する目には見えない少数独裁政治家の集団に属する連中たちである。彼らは冷酷に、そして、執拗に人々の幸福よりも自分たちの利益を優先し、広範な苦しみを許すだけに留まらず、故意にそれを助長さえもする。

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この種の善と悪との戦いは今に始まったことではないが、新型コロナ禍はこの戦いに眩いばかりの光を当てた。コリー博士と私は、新著「イベルメクチン戦争」の中で、貪欲な権力者たちはパンデミックを終わらせることができたこと、そして、終わらせるべきであったこと、非常に安価で非常に効力の高い薬を入手することを妨害し、その効力を歪曲し、抑圧するために彼らがどのような活動をしたのかについて詳述している。データは疑う余地はまったくなく、彼らにとっては非常に都合の悪い情報でもある。たとえあなたがこの医薬品の研究をライフワークとしている訳ではないとしても、次に示すような簡単ななぞなぞを解いてみていただきたい。 もしもイベルメクチンが有効ではないとしたならば、どうしてこのような脅威をもたらしたのであろうか? CDCFDAはどうして大規模なPRキャンペーンを展開し(「あなたは馬ではない!」とさえ言った)、世界各地の住民に賄賂を配り、唯一の実験的な代替薬(つまり、ワクチン)を接種しなければならなかったのだろうか?どうして医師たちは自分の医師免許や生活をリスクに曝してまでも患者に処方したのだろうか? 1錠は、通常、小銭で買える程安いのだが、どうして闇市場では50ユーロ以上もの値段がついたのか?イベルメクチンに関する言及はあらゆるプラットフォーム上のソーシャルメディアから即座に削除するよう、どうしてフラグが立てられたのだろうか?当時のトランプ大統領が、消毒剤に抗ウイルス作用があるのかと声を大にして疑問を呈したことを覚えておられるだろうか?小売業の「ターゲット」が手指消毒剤の販売を拒否したり、ユーチューブがクロロックスの動画を禁止したりすることはなかった。あれは「漂白剤を飲ませろ」と言っているも同然であった!

イベルメクチンをめぐる世界的な戦争はふたつの単純な事実に集約される。そのひとつはイベルメクチンが効くことを知っていたこと。そして、もうひとつは、もしも世界中の人々が第一の事実を知れば、彼らが標榜していた利益や権力を得る計画は胡散霧消してしまうであろうということを理解していたことだ。

彼らは事前に知っていたが、多くの人たちを死なせた。極めて多くの人たちが死んだ。そして、もっと重要なことはそれに対して彼らは何もしなかったということだ。このことを決して忘れないでいただきたい。

最悪の敵に対して如何なる戦争さえも私は望みたくはない。(実際には、これは見え透いた嘘だ。クラウス・シュワブ、ビル・ゲイツ、アンソニー・ファウチ、その他何人かの人たちよ、あなた方の残りの日々は紛争と争いが消えることはなく、血塗られたパレードの連続であることを私は祈っている。)そして、私は、以前、これは勝つ見込みのない戦争だと考えていた。しかし、もうそうは思っていない。その理由は善は悪に対して圧倒的に優勢になったからだ。

あなたは、途中で他のチームに乗り換えた人たちをたくさん知っているだろうか?「ちょっと聞いてくれよ!私は間違っていた。あの時、毒を飲んでおけばよかった。自由は過大評価されている。政府は私の背中を押してくる」と言った連中のことを。私は、確かに、そんなことはしない。

「善は常に悪に勝つ」(最終的にはそうなる)という理由だけではなく、われわれはこの戦争に勝てる。われわれは屈することなく、新しいコミュニティを作り、新しいシステムを構築し、われわれの声を結集して、この世界が見たこともないような最強の勢力を編成することによって勝利を収めることができる。簡単なことではないだろうが、そうするだけの価値はある。

親として、そして、端的に言って地球の管理人として、この地球を見つけた時よりも良い場所にして子孫に残すことが私の使命なのである。私は人類という海の中ではちっぽけな存在であって、無力な一粒に過ぎないかも知れないが、死ぬ気で頑張るつもりだ。    

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これで全文の仮訳が終了した。

ところで「私は間違っていた。あの時、毒を飲んでおけばよかった」との言葉の中にある「毒」とは何か?新型コロナワクチンに対する反対を指していると私は思う。当時は、完全に少数派であった。新型コロナ感染症に関する恐怖が終日メディアによって煽られ、集団免疫を確立するための手段として都市閉鎖が実施され、mRNAワクチンの使用開始が世界中で期待されていた。熱病に冒されたような状況であった。こうして、新型ワクチンはFDAの仮承認を取り付けた。この一連の動きに反論を唱えることはまさに毒を喰らうようなものであった。

しかしながら、このような状況を傍観することはできない研究者や医師は連携し、反論を主張し、徐々に賛同する人たちが増えていると言う。著者は「善は悪に対して圧倒的に優勢になった」と述べている。これはイベルメクチン戦争では確かにそう言えるのだろう。何と言っても、著者らの主張を支える科学的データは実に豊富に存在しているのだから。

この局地戦の戦場で勝利を収めることができれば、主戦場である「新型コロナワクチン戦争」の行方もはっきりとして来るのではないだろうか。政治によってハイジャックされた科学が復権することができるのかどうかが掛かっている!

参照:

1We Can Win This War: By JENNA MCCARTHY, The Flccc Alliance Community, Jun/02/2023

 

 


2023年6月13日火曜日

AIによって制御された米国のドローンがオペレータを排除しようと決断

 

人工知能(AI)は果たしてわれわれ一般庶民の日常生活にどのような利便性をもたらしているのだろうか?

まず、何十種類もの外国語の中で読み手が指定した言語に瞬時に翻訳してくれる機械翻訳ソフトの存在がもっとも典型的な事例として私には思い浮かぶ。たとえフランスやロシアの新聞記事であったとしても、英語に機械翻訳された文章を直接読むことが可能であるからだ。

2015年のことだった。ロシア語の技術論文をまず英語に機械翻訳させ、その後、私が手作業で日本語に翻訳したことがあった(ロシア語から日本語へ直接翻訳することも可能であったが、翻訳間違いの可能性が低いのではないかと思い、英語への機械翻訳に留めた)。これは2014年にウクライナ上空でマレーシア航空のMH-17便が撃墜され、乗客・乗員合わせて298人が死亡した悲惨な出来事に関わるものであった。ブクミサイルによる撃墜が報じられた。ウクライナや西側各国は即座にロシア犯人説の大合唱を始めた。ロシア側もさまざまな情報や見解を提供して、反論した。それらの中で、ロシアの軍需産業の一翼を担う企業であるアルマズアンティ社は極めて技術的なアプローチを採用し、ミサイル発射地点の推測を試みた。彼らは模擬実験を行ったのである。撃墜された航空機と形状がほぼ似ている航空機が地上に設置され、その傍で撃墜に用いられたとされるブクM1ミサイルを爆発させて、航空機の破壊の状況を詳細に調査した。地上から発射されたミサイルはMH-17便の飛行経路と空中で出会う必要がある。この条件を満たす地上の発射地点がこの模擬試験によって逆算され、特定された。結果はインターネット上で当時喧伝されていた場所(スネジノエ。注:この地域はロシア軍が占拠していた)ではなく、ザロシェンスコエの南の地区(注:この地域はウクライナ軍が占拠していた)であると結論付けられた。(詳細については201563日に投稿した「MH17便撃墜事件を再訪 - ロシアの軍需産業技術者からの詳細報告書」を参照していただきたい。)

残念ながら、オランダの調査委員会は、彼らが負わされていた目標に鑑みて、アルマズアンティ社の技術報告書は取り挙げなかった。この技術報告書は彼らが思い描いていた筋書きにとって極めて都合の悪い情報であったに違いない。

本日の投稿で私が言いたいことは機械翻訳の質がかなり高まっているという点だ。 かっては、機械翻訳はその質が極めて悪かった。具体的に言うと、英語を日本語に機械翻訳すると、翻訳したままの和文はブログに投稿できるような代物ではなかった。今でも、機械翻訳はブログに直接掲載できるような品質は得られない(ここでは私が使うことができる無料の「グーグル翻訳」の場合であって、他の翻訳ソフトのことは分からない)。そうは言っても、過去の10年間を振り返って見ると、機械翻訳の質はかなり向上していることもまた事実であると感じる。

今は、ニューラルネットワークを用いたAI技術を駆使した機械翻訳ソフトが大きく進化し、企業レベルで使用されている。自然言語処理や学習機能を発揮して、翻訳精度は格段に高まっている。先端的な専門企業があり、彼らの製品を使用するハイテック企業も多い。省力化や作業時間の短縮に役立っている。多言語環境に対応できる機械翻訳ソフトは日常生活において言語障壁を取り払って、われわれ一般庶民にも利便性をもたらしている典型的な事例だ。

AI技術は他にもさまざまな領域で応用されている。たとえば、碁や将棋、チェスのチャンピオンがコンピュータと闘うといった話は大分以前からしばしば耳にする。AIはその学習機能を駆使して、新しい戦法さえをも編み出すそうだ。

ロシア・ウクライナ戦争でもAI技術が組み込まれたドローンや戦車ロボットが偵察や攻撃に投入されている。AI技術が戦場で用いられたのはこのロシア・ウクライナ戦争が初めてだと言われている。

本ブログで私は、510日、「人工知能の名付け親がグーグルから退社し、人工知能は人間性に対して危険だと警告」と題してブログに投稿をしたばかりである。その投稿ではさまざまな方面でもてはやされている人工知能(AI)が、実は、極めて危険な側面を持っていることを指摘する専門家の見解をご紹介した。

極めて危険な側面とは具体的にどのような状況であろうか。私としては具体的な事例が欲しいところであった。

ここに、「AIによって制御された米国のドローンがオペレータを排除しようと決断」と題された記事がある(注1)。

本日は、この記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。

AI研究はかって一世を風靡した宇宙計画に匹敵するかのような熱気をもたらしている折からも、人間社会にとって危険だと思われるAIの側面についてひとつの事例を考察しておこう。

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副題:米国製ドローンのAIはシミュレーションテストでオペレーターを排除することを決断 ― ガーディアン紙

Photo-1Dasha Zaitseva/Gazeta. Ru»

人工知能(AI)によって制御された米空軍のドローンはシミュレーションテスト中にオペレーターを殺し、与えられた仕事を遂行するに当ってオペレーターが干渉しないようにすることを決定した。本件について、ガーディアンが報じている。

米空軍のAIのテストおよび運用部門の責任者であるタッカー・ハミルトン大佐によると、AIシステムは脅威を特定したが、人間のオペレーターがその脅威を破壊しないように命じることがあることについても気付き始めた。ところで、目標に命中すると、AIシステムはポイントを受け取る仕組みになっている。これとの関連から、命令された仕事を完了するのをオペレーターが妨げたので、AIシステムはオペレーターを殺すことを決定した。

また、同大佐は「倫理やAIに関して黙ったままでいると、一般的には人工知能について機械学習や自律性について議論することはできない」と付け加えている。

先に、ニューヨークタイムズは彼らが取り組んでいる人工知能技術がいつの日にか人類に対して実存的な脅威をもたらす可能性があり、感染症の大流行や核戦争と同等のリスクがあると見なすべきであるというIT業界の指導的な人たちが発した警告について報じていた。(訳注:このNYTの記事とは51日に発行された「What Exactly Are the Dangers Posed by A.I.?」と題された記事のことだと思われる。同記事によると、3月下旬、1,000人を超すハイテック業界の指導者やAIの研究者たち、批評家らはAI技術が人間社会に深刻なリスクをもたらすとの警告文に署名)

これに先立って、「ChatGPT」チャットボットの創始者である「OpenAI」の最高経営責任者であるサム・アルトマンは米上院の会議において彼の会社や他の企業によって作り出される人工知能技術がもたらすであろう潜在的な危険性について公に見解を述べている。

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これで全文の仮訳が終了した。

非常に短い記事である。だが、それが伝える内容は潜在的には比類がないほどに深刻だ。現在のところ、AIが下す決断はオペレーターが無効にすることができるが、この引用記事が伝えているように、一部のAIはオペレーターからの介入を嫌がって、オペレーターを殺すことさえも考えるようになったという。

AIが人間を支援するという関係が逆転して、人間がAIに従うといった事態が現れる。これは、驚異的な状況である。人類に対する実存的な脅威と見なされる所以である。

より高度なAIは自分を制御しているコンピュータプログラムを自ら書き換えることさえも出来るらしい。自律的に動くAIは人間のように自ら考え、学習効果によって自分の考えを更新し、プログラムを進化させる。最終的には主人である筈の人間の介入を阻止するよう動くかも知れない。そういった敵対的な行動がさらに深化すると、その結果起こる状況は、最悪の場合、人間社会の存続を左右するものとなり得る。複数のAIネットワークを組み、指導的なAIが現れ、他のAIは自分たちのネットワークのために集団的な行動を取る。一旦暴走を始めたならば、人類はAIを制御することができないかも。人間の思考速度はAIの思考速度には太刀打ちできないからだ。

すべては悪意のある輩がAIを駆使して、全世界を相手に挑戦するかどうかで決まるが、人間社会には常に邪悪な考えを持った連中が存在する。自分の利益、あるいは、自分が所属する集団の利益を最優先し、社会全体の将来については何も考えようとはしないならば・・・ 彼らが権力を行使できる場に座ると、とんでもないことが起こる可能性がある。

今、AIを活用したビジネスモデルが急速に広まっている。1年先どころか、数か月先の現実の社会を予測することさえも決して容易くはないようだ。市場での競争に生き残るべく、最先端のAI技術があらゆる領域で試され、ビジネスの現場へと持ち込まれる。投資家たちにとっては絶好の機会である。

そこには業界としての倫理的な規範や実効性のある法的な規制があるのだろうか?人間社会全体がリスクを回避するためのコンセンサスを得る努力は成されているのだろうか?

参照:

1The artificial intelligence of the American drone decided to eliminate the operator: By Pavel Zubov, Gazeta.ru, Jun/02/2023




2023年6月10日土曜日

米国は日本をロシアや中国との武力紛争へ引きずり込もうとしている

 

米国は敵国とみなす相手は破壊する。これは単独覇権国家にとっては決して譲れない基本的な路線である。戦争を行うという行為は、多くの場合、その国の対外政治の最終的な段階となる。戦争における判断は冷酷にならざるを得ない。戦略的に必要と判断される場合、他国との不可侵条約さえもが簡単に反故にされるし、国際法も無視される。

そして、同盟国であってさえも情け容赦なく切り捨ててしまう。ノルドストリーム・パイプラインが破壊工作を受けて、その結果、ドイツ経済が甚大な被害を受けた出来事は記憶に新しい。ロシア経済を疲弊させ、プーチンを失脚させるという覇権国としての最大級の戦略目標の前においては、米国の最強の同盟国である筈のヨーロッパの国家と言えども、それを犠牲にすることは米国の戦争推進派にとっては当然の選択肢であったようだ。

そういった観点から見るならば、米国の最大級の同盟国である筈のヨーロッパ諸国がたとえロシアとの核戦争に巻き込まれたとしても、戦場から何千キロも離れた米国の国土が核攻撃に見舞われない限り、ヨーロッパ大陸で最強の戦力(核兵器)を使用するのは当然のことだと考えるのではないか。何と言っても、核兵器はNATO加盟国の兵器庫に保管されており、使用を待っている。こうして、ウクライナの戦場に戦術核兵器が登場したとしても不思議ではない。その皮切りは英国がウクライナへ提供した劣化ウラン弾だ。そして、やがては、米国内の好戦派によってしばしば提言されてきた先制核攻撃の命令を米国が決定し、NATOがそれを実行する。

この時、最初の疑問はNATOの最高指揮官ははたして核兵器を使用する対象を相手国の軍事拠点だけに限定するのだろうかという点だ。広島や長崎の悲劇を再現することは避けるのだろうか?ウクライナ領内だけでの使用に限定するのだろうか?歴史的にみると、これらは単なる願望に過ぎないと言えるのではないだろうか。

ウクライナ領内でNATO軍がロシア軍に対して先制核攻撃を行った場合、ロシアはどう対応するのだろうか?戦争の論理は単純だと私には思える。つまり、後手に回れば、それは敗者となることを約束したも同然だと考える。戦後の地上のルールは、常に、勝者だけが決めることになるのだ。自分こそが勝者になりたいと誰もが考える。最後の手持ちのカードだけが残った場合、戦争計画者はいったいどのような決断をするのか?

もうひとつの心理は政治的な側面だ。敵側からの先制攻撃を許し、同盟国が見守る国際政治の舞台で相手の立場を弱体化させようとする試みである。敵が最初に侵攻するように導いて、敵が侵攻してきた暁に大規模なプロパガンダ作戦を繰り広げて、自分たちは敵の侵攻を食い止めるために応戦すると宣言する。こうして、巧妙に国際世論を自国側に引き寄せる。この種のプロパガンダ作戦は2022224日に始まったロシア・ウクライナ戦争の際にそっくりそのまま観察された。だが、このような展開は通常兵器による戦場では通用するのであろうが、核戦争においても通用するのかどうかは極めて疑わしい。

一方、ロシアはウクライナでの核兵器の使用はしないと言った。つまり、ロシアは核による先制攻撃はしないという意味だ。それでは、西側からの先制核攻撃に対してロシアはどのように抗戦するのだろうか?ロシアは自国の安全保障が脅かされた場合は核を使うと戦争ドクトリンで公に述べている。すなわち、ロシアが先制核攻撃を受けた場合は、ロシアも核兵器で応戦すると言う。こうして、核戦争がエスカレートする。この件は、本日、深堀りすることはできないので、別途、カバーしてみたいと思う。

さまざまな不透明な疑問があるのだが、ここに、「米国は日本をロシアや中国との武力紛争へ引きずり込もうとしている」と題された記事がある(注1)。

日本にとっては極めて重要なテーマだ。おそらくは、戦後最大級のテーマであると言えよう。ロシア・ウクライナ戦争における現時点までの経緯を振り返ってみると、2022224日以前の8年間の動きを含めて、米国の動きを俯瞰して見ると、米国による戦争の進め方が手に取るように分かる。日本が米中戦争に引きずり込まれるということは、米国による対ロ代理戦争におけるウクライナの場合と同様に、日本は、最悪の場合、米国による対中代理戦争の戦場になることを意味する。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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Photo-1: © AP Photo / Eugene Hoshiko

伝えられるところによると、ウクライナ軍を武装しているワシントン政府の努力の中、バイデン政権は米国製155mm砲弾のために日本からのTNT火薬の供給を確保するよう努めている。この動きの背後にあるものはいったい何だろうか?

「権力を握って以来、バイデン政権はヨーロッパやアジアの同盟国を動員し、団結を呼びかけるといった非常に集中的な政策を追求してきた」と、「モスクワ国際関係大学」(MGIMO)の「高等アメリカ研究センター」の主任研究員であるイーゴル・イストミンはスプートニク通信社に語った。「そして、この点において彼らはロシアに圧力をかけ、ウクライナへの武器の供与を支援する戦略にアジアの同盟国を積極的に関与させようとしている。したがって、日本がこの活動に関与しているという事実は決っして驚くべきことではない。」

日本の平和憲法にもかかわらず、今週の初め(62日)、ロイターは「米国が日本から爆発物を購入する動きをしている」と述べ、匿名の情報筋を引用した。問題の爆発物はTNT火薬、言い換えると、トリニトロトルエンであって、これは軍用砲弾や爆弾、手榴弾、工業用、水中爆破、等に使用される。伝えられるところによると、日本から調達した火薬は155mm砲弾の薬莢に詰める米軍所有の軍需工場に送られることになっている。

日本の産業通商経済省と防衛省の買収・技術・物流庁はこの件についてのコメントを控えた。

それでも、イストミンはこの傾向は明白であると思っている。彼は、特に、米国の冒険主義が韓国への関与を高まらせた点についても言及した。国防総省のファイルであると見られる文書は、米国の備蓄を補充することを支援するために韓国が砲弾を売ることに同意した後、韓国はそれを説明するのに困難を覚えたという事実を明らかにしていた。問題はワシントン政府がその弾薬をキエフ政権に供給する点にあることから、ソウル側はそのことを憂慮していた。

「ウクライナには武器を供給しないという以前からの声明にもかかわらず、韓国はNATOを支援し、NATO諸国に武器を供給することが増えていることはすでに分かっている」とイストミンは言う。「そして、日本もまさに同じ論理に組み込まれている。さらに、日本は、近年、多くの点で米国と遥かに近しい立場をとっている。したがって、これはかなり長期的な傾向を示すものだ。」

実際、過去10年間、日本は平和主義の戦略を徐々に修正してきた202212月、岸田文雄首相が率いる日本政府は国家安全保障戦略(NSS)、国防戦略、防衛増強計画に関するみっつの政策文書を承認した。これらの文書は今後5年以内に日本の国防費を2倍にすることを想定している。

さらには、日本はNATOとの和解を強化しており、岸田首相は20226月のNATO首脳会議に日本の指導者として初めて出席した。510日、林義正外務大臣は東京がアジア初のNATO連絡事務所を開設することについて協議を進めていると述べた。

「近年、日本の指導層は以前は制限を加えていた物事を放棄し始めている」とイストミンは言う。「したがって、この場合は砲弾用のTNT火薬であるが、いくらかの量の砲弾の移転によって米国との同盟を深めるという日本側のより広範な政策を具体的に示すものであり、アジア太平洋とヨーロッパの戦場を世界戦略でリンクするという米国側の政策にもうまく適合するのである。」

それと同時に、日本の関与は現時点ではヨーロッパとアジアの両方で確立された勢力均衡を混乱させるには至らなかったと米陸軍本部の元スタッフであるデビッド・T・パインが述べている。

パインはスプートニクに、ワシントン政府がどれだけ多くの武器を送り込もうとも、ウクライナ軍が勝つチャンスはないと言った。なぜならば、「ロシアはウクライナよりも軍事的に遥かに強力であり、欧米はロシア連邦に最近編入されたウクライナの領土からロシア軍を追い出すために新たに軍隊を送り込もうなんて望んではいないからだ。」

NATOの指導層は誰も望んではおらず、誰も利益を得ることがない不必要な核戦争につながりかねないことからも、ロシアとの直接の軍事的対立は決して望んではいないと思う」と彼は強調した。「誰もがロシアとの戦争を避けたいと切望してはいるものの、彼らはウクライナの武装を続け、ウクライナの人々に夥しい数の死者や破壊をもたらす紛争を、愚かにも、不必要に長引かせようと思っている。」

同時に、元国防総省将校は東京も中国と直接衝突する意思はないものと思っている。

「日本は、遥かに強力な中国に対してこの地域を軍事化する積りはない。日本が中国と台湾の紛争に軍事的に介入すると、広島と長崎の悲劇が再び繰り返される可能性があることを彼らは知っている」とパインは結論付けている。

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これで全文の仮訳が終了した。

「誰もがロシアとの戦争を避けたいと切望してはいるものの、彼らはウクライナの武装を続け、ウクライナの人々に夥しい数の死者や破壊をもたらす紛争を、愚かにも、不必要に長引かせようと思っている」という指摘はもっともだ。

最近では最大級の変化が報じられた。昨日(69日)、プーチン大統領はかねてから宣言されてきたウクライナによる大攻勢がついに始まったと記者団に述べた。

米国の好戦派は、今、このウクライナ軍による大攻勢がはたして戦果を挙げるかどうかに注目している。ある専門家は、もしも成功を収めたならば、F-16戦闘機の供与が具体化するだろうと言う。もしも何の戦果も挙げなければ、西側の支援は中断される。つまり、その時はゼレンスキー政権は崩壊する。

さて、どのような結果が待っているのか・・・

参照:

1Is US Dragging Japan Into Conflict With Russia and China?: By Ekaterina Blinova, The Intel Drop, Jun/03/2023