2023年6月22日木曜日

ロシアとの軍事衝突に関するNATO側の準備計画の詳細 ― Responsible Statecraftが報告

 

「ロシア・ウクライナ戦争」は「ロシア・NATO戦争」であると言われている。そして、NATOを牛耳る米国の存在を考えると、それは、言うまでもなく、「米国による対ロ代理戦争」である。

ところで、新聞やテレビで毎日のように報道されているウクライナにおける戦闘は実質的にはもう終わったも同然だと専門家は言う。それは、かねてから喧伝されていたウクライナ軍による対ロ巻き返し作戦がまったく功を奏さなかったからだ。さらに裏を返して言えば、それはNATOがウクライナに対して軍事支援を継続する(つまり、西側の軍産複合体が金儲けを継続する)にはウクライナ軍が猛反撃を行うという前提がどうしても必要であったのだ。

だが、退役空軍中佐で国防省の元分析専門家であるカレン・クワイアトコースキーによれば、キエフ政府はNATOからの圧力を受け、反撃の準備が不十分なままに、いわゆる大攻勢を開始し、大失敗に終わったというのが実情のようだ。(原典:Kiev 'Politically Pushed' by NATO to Launch Counteroffensive Despite Being Unprepared; By Andrei Dergalin, Sputnik, Jun/19/2023

それでも、西側による支援は続けられ、今もなお新たな支援プログラムが計画され、実施されようとしている。だが、この状況は軍事的な観点からよりも、むしろ、政治的な観点からの動きであると専門家は解説する。

事実、戦車や砲弾の供与に参画した国々では、自国の軍事的備蓄が損なわれており、それを補充するには今後510年も要するであろうと懸念をが表明されている程だ。これ以上武器の供与を続けることはできないという表明である。ウクライナが武器や弾薬を消耗してしまったならば、ウクライナの敗戦でこの戦争は終るしかない。

今月の2123日にはロンドンで「ウクライナ復興会議」が開催され、その会議には国際的な財政機関や民間企業、公共団体が集うそうだ。ウクライナに対する財政支援が議論されるという。

EUは過去16か月間にウクライナに対する財政、軍事、人道支援として500億ユーロ強を注ぎ込んでおり、ドイツのリンドナー蔵相はウクライナに対するこれ以上の財政支援には応じられないと悲鳴を挙げたばかりだ。EU指導者と各国の指導者との間には温度差が感じられる。

ここに、「ロシアとの軍事衝突に関するNATO側の準備計画の詳細 ― Responsible Statecraftが報告」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。

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NATOはロシアとの軍事衝突の際に北大西洋同盟がどのように行動すべきかを記した秘密計画を冷戦以来初めて準備しているとResponsible StatecraftRS)が書いている。これに先立って、この種の計画はロイターによって報告されていた。

RSによると、この「数千ページ」にも及ぶ計画書はブリュッセルのNATO本部の代表や他のブロックからの職員らが密室で作成したものだ。議会のメンバーや独立した専門家らはこの計画についてはこれまでまったく知らなかったと同記事は伝えている。

同出版物によると、これは「一連の」軍事計画についての話しである。これには抑止力や欧州・大西洋地域の防衛についての概念、戦略計画、軍隊構造に関する要件、等を網羅する文書が含まれている。

RSはワシントンDCにある「Quincy Institute for Responsible
Statecraft」の出版物である。その使命は「米国の外交政策に関する前向きで公平なビジョンを推進する 」ことにあり、「米国を非生産的で終わりのない戦争に引きずり込んだ 」思想や利害関係を批判することにある。同センターは2019年に設立され、億万長者のジョージ・ソロスの財団から資金提供を受けている

この計画書は711日から12日にかけてヴィリニュスで開催されるNATO首脳会議で発表されるとロイター通信は先に報じている。その際に、NATOの軍事委員会議長を務めるロブ・バウアー提督はNATOブロックはいつでもロシアとの戦争に備えておくべきだと強調した。
NATO加盟国はロシアとの武力衝突ではウクライナを支持するものの、モスクワとの武力対立を望んでいるわけではないと断言している。それと同時に、ペンタゴンは「NATOのひとつの同盟国への攻撃は他のすべての同盟国への攻撃を意味する 」という原則に従うと警告した。

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これで全文の仮訳が終了した。

NATOの具体的な姿勢を知るには711日~12日にヴィリニュスで開催される首脳会議での議論を待たなければならない。

だが、Quincy Institute for Responsible Statecraftというシンクタンクはジョージ・ソロスの財団から資金提供を受けて設立されたという事実を考慮すると、設立の趣旨をいかに美辞麗句で飾ろうとも、完全に中立の姿勢を維持することはなく、対ロ戦略では強硬派を示すのではないかと私は推測する。ロシアとは冷戦構造を維持し、最悪の場合、武力対決も辞さないとするのではないだろうか。

NATOが、あるいは、米国が目を覚ますのはいったい何時になるのだろうか?

昨日(621日)のニュースによると、北京を訪問し、習近平主席との会談をしたブリンケン米国務長官はそれ程の成果を得ずに帰国したと伝えられている。米国は台湾の独立を認めないという従来の公式路線が維持された。

つまり、昨年の8月、タカ派のナンシー・ペロシが訪台し、世界中に見せつけた対中強硬派の姿勢は今回否定されたことになる。これで台湾を巡る緊張の度合いは多少和らぐのかも知れない。

しかしながら、不測の核戦争を回避するための米中間のホットラインの設置は実現しなかったと伝えられている。ウクライナにおいては「NATO加盟国はロシアとの武力衝突ではウクライナを支持するものの、モスクワとの武力対立を望んでいるわけではないと断言している」とは言え、台湾においては核大国間の危機的な状況は続くということだ。

一夜明けて、今朝(622日)の記事によると、ウクライナの復興のための資金について米ロ間では舌戦が行われている。下記のような具合だ:

ウクライナで起きていることの責任は米国にある。ウクライナを再建しなければならないのは米国だ。これはアナトーリ・アントノフ駐ワシントン・ロシア大使の発言。ウクライナの復興は最終的にロシアが負担することになると述べたアントニー・ブリンケン米国務長官の発言に対するロシア外交団トップの反応である。ウクライナ紛争はロシアの国境近くに緊張の温床を作り、ウクライナを反ロに変えようとするアメリカの長期的、かつ、意図的な努力の結果である」とアントノフが説明している。(原典:The diplomat blamed the United States for prolonging the conflict in Ukraine: By Lenta,ru, Jun/22/2023

そして、西側の代表的な財政支援機関のひとつである世界銀行はワシントンで「ウクライナに175000万ドルの追加支援」を発表した。(原典:The World Bank will allocate $1.75 billion to Ukraine: By RIA Novosti, Jun/22/2023

これらふたつの今朝の記事は独立事象ではない。それらを繋いでみると、ふたつの記事の間にある空間と時間差が埋まって、もっと大きな全体像の中に落ち着く。ウクライナにおける戦争を米国が如何に継続しようとしているかを物語っていると言えよう。

総じて、ウクライナと台湾を巡る米ロ間、米中間の覇権争いは白黒がまだはっきりとはしない。少なくとも私にはそう見える。

参照:

1Responsible Statecraft reported the details of the preparation of the NATO plan for Russia: Jun/01/2023

 


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