2023年6月6日火曜日

ウクライナの和平 ― 大人の仕事

 

「キエフ政府は最後の一兵を使いつくし、ロシア軍に抗戦する軍事的な余力はもはやない。」これはペンタゴンの元顧問であり、ウクライナ情勢の客観的分析によって定評のあるダグラス・マクレガー大佐の言葉だ。さらに、彼は次のように述べてもいる。「ウクライナ軍の攻撃に応じるロシア軍の反撃の結果、ハリコフとオデッサはロシアの支配下に置かれるだろう。」(原典:Ex-Pentagon adviser MacGregor: Kharkiv and Odessa will go to Russia after the counterattack of the Russian Armed Forces: By Alexey Rybin, RGRU, May/20/2023

ゼレンスキー大統領は自国が失いつつある領土を取り返すことがロシアとの和平の条件であると昨年の11月に述べた。つまり、クリミア半島やドネツク・ルガンスク両人民共和国、ヘルソン地域といった失地を回復することである。だが、これはロシアが進めている特別軍事作戦の基本理念とは真っ向から対立するものだ。最近、ウクライナ政府はウクライナの和平について米国と話し合ったそうだ。

ウクライナ大統領府のアンドリー・イェルマク長官は、土曜日(63日)、米国家安全保障補佐官のジェイク・サリバンと電話会談を行い、双方はウクライナ紛争を解決するためのキエフ政府の和平計画について話し合ったと述べた。「私は、バイデン米大統領の国家安全保障顧問であるジェイク・サリバンと電話で話をした。われわれは、ヨーロッパの平和の基礎としてウォロディミル・ゼレンスキー大統領の和平計画を実行したいというウクライナの願望について話し合った」とイェルマクはテレグラムで述べている。(原典:Head of Zelensky’s Office Says Discussed Ukraine’s Peace Plan With Sullivan: By Sputnik, Jun/03/2023

イェルマク長官とサリバン安全保障補佐官との会話の詳細は分からない。だが、両者はゼレンスキー大統領の和平計画を実行したいというウクライナの願望について話し合ったという。思うに、ゼレンスキーの和平計画が失地の回復を基本条件としている限り、ロシアとの和平交渉をウクライナ政府の願望通りに進展させることは極めて困難な仕事となろう。たとえば、歴史的に自国の領土でもあったクリミア半島をロシアが再びウクライナへ戻すとは考えられない。ゼレンスキーは当然そのことを知っている筈だ。したがって、彼の和平計画はあくまでも西側の支援、つまり、NATOの支援を引き留めておくための政治的選択でしかないと言えるのではないか。

ところで、ここに「ウクライナの和平 ― 大人の仕事」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。1ヵ月余り前の記事ではあるが、極めて難しいと判断される和平交渉の中身を少しでも多く理解しておきたいと思う次第だ。

***

米国はウクライナにおける対ロ代理戦争をまだ諦めようとはしない。ロシアはNATOや米国を隣国から遠ざけることによる正当な利益を確保せずにこの戦争を止めることはできない。この戦争での敗北はロシアにとっては国家損亡の危機を生み出すからだ。

ふたつの大国が戦争に関与していることから、この紛争を解決するには第三者が必要だ。

昨年の春、トルコとイスラエルは和平合意を見つけることに成功した。良い解決策が見つかり、ロシアとウクライナはそれに同意した。しかし、米国は戦争を続ける必要があった。和平の取引を妨害するために米国はボリス・ジョンソン英首相をキエフに送り込んだ。もしもロシアとの協定に署名すれば、「ウクライナは欧米からの支援の全てを失うだろう」とウクライナ大統領は告げられた。

やや中立的なミドルパワーが和平合意を推し進めることはできなかったため、取引を締結するにはより重量級の第三者が必要であることが明らかとなった。

取引に向けて動く時期も適切でなければならない。戦争が始まってちょうど1年後の今年の224日、中国はウクライナ危機の政治的解決に関して立場を表明した。それは和平計画ではなく、この危機を持続可能な解決に導くために理解し、実行しなければならない経路を設定することにあった。

数か月後、中国はその過程で必要とされる次の一歩を踏み出した。和平を進めるための潜在的な方法を見い出すためにウクライナとロシアにおいて高位の外交官が予備会談を開催することを提案した。この発表は習主席とゼレンスキー大統領との間の電話会談の後に行われた:

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は水曜日(426日)に中国の習近平国家主席と「長く意味のある電話」を行ったと述べ、14か月前のロシアの侵略以来、両首脳間の待望の接触としては最初のものとなった。

習主席はモスクワとキーウとの間の交渉を開始することを訴えた。中国政府の公式声明によると、これはゼレンスキーが要求したものであると北京政府は述べている。

習主席は「政治的解決」について話し合うためにウクライナに「特別代表」を派遣することを約束し、「核戦争に勝者はない」と警告した。

中国はこの紛争では中立的な和平ブローカーになることを望んでいるが、中国はモスクワに対して言葉の上や財政的な支援を提供してきたわけで、言わば「制限なし」の協力関係を考えると、米国や他の国々は中国の公平性には疑問を顕わにしている。

NBCニュースがここで主張しているような中国のロシアに対する「財政的支援」については私は知らない。米国の諜報機関でさえもがロシアは戦争を続けるためにより多くのお金を必要とはしていないと述べている程だ:

漏洩した米軍の文書によると、前例のない経済制裁によって増大する一方の重みの下であってさえもロシアは、少なくとも、もう一年間はウクライナでの戦争に資金を提供できると米国の諜報機関は見ている。

電話会議に関する中国の公式声明は以前の提案をほのめかし、それに基づいて和平を構築することを提案している:

合理的な思考や声が高まっている今、この危機の政治的解決のために機会をつかみ、有利な条件を構築することが重要である。すべての当事者がウクライナ危機を真剣に反省し、対話を通じてヨーロッパに永続的な平和と安全をもたらす方法を共同で模索することが期待されている。中国は引き続き和平交渉を促進し、早期停戦と平和回復に向けて努力する。中国は、ユーラシア問題に関する中国政府の特別代表をウクライナおよびその他の国々に派遣し、ウクライナ危機の政治的解決についてすべての当事者と緊密なコミュニケーションをとる。中国はウクライナに何回でも人道支援を送り込み、その能力の及ぶ限りの支援を提供し続ける。

ユーラシア問題担当の中国の特別代表はトップクラスの外交官であるLi Hui)だ。

Photo-1

彼はモスクワとアスタナにおける中国大使館、ならびに、中国外務省でいくつかの要職を歴任してきた:

2008年から2009年にかけて、氏は中国外務次官を務めた。

20098月から20198月まで、中華人民共和国の駐ロシア連邦特命全権大使を務めた。

ウクライナの公式声明は特命全権大使のことについては言及していない。特命全権大使の発表に対する米国の反応は中国の努力に対して疑問を投げかけるように設計されていた:

国家安全保障会議の戦略的コミュニケーション担当のコーディネーターであるジョン・カービーは米国はこの呼びかけを「良いこと」として歓迎したと述べている。

「われわれはかなり長い間、習主席と中国当局者がロシアによるこの違法で挑発されてはいない侵略に対するウクライナの見解を利用することが重要であると信じていると言ってきた」とカービーは記者団に語り、正式名称である中華人民共和国のイニシャルを使って中国を言及した。

それよりも前に、カービーはNBCニュースに向けて「これらのふたりの指導者に彼らの会話の詳細を話して貰う」と語っていた。

ある政府高官は、匿名を条件に、この公式声明が中国の和平計画について楽観的な見方を促すべきかどうかについて「推測するには、この会話の文言を受け取ったばかりであり、余りにも時期尚早だ」と述べている。

「これまでのところ、中国はロシアを支援することに関して公平であることを示してはいない」とこの当局者は述べた。

がウクライナとロシアとの交渉をある程度進展させるために最善を尽くすことについて私は何の疑いももってはいない。彼にとって最も困難な仕事は米国を潜在的な解決策に参画させる点にある。

しかし、前から発表されていた大攻勢を首尾よく開始するキエフの能力に関してはますます多くの疑問が毎日のように表明されていることから、ワシントンの雰囲気は変化している可能性がある。

この記事は2023427UTC1642分にbによって投稿された(訳注:この著者名は、通常、彼のイニシャルの「b」で表示されている)。固定リンク。

***

これで全文の仮訳が終了した。

この引用記事の著者は重要な出来事を伝えてくれた:

昨年の春、トルコとイスラエルは和平合意を見つけることに成功した。良い解決策が見つかり、ロシアとウクライナはそれに同意した。しかし、米国は戦争を続ける必要があった。和平の取引を妨害するために米国はボリス・ジョンソン英首相をキエフに送り込んだ。もしもロシアとの協定に署名すれば、「ウクライナは欧米からの支援の全てを失うだろう」とウクライナ大統領は告げられた。

この解説はロシア・ウクライナ戦争の本質を極めて正確に伝えていると思う。なぜならば、ロシア・ウクライナ戦争を継続するか、それとも、ここで戦争を止めて、核戦争への拡大を未然に防ぐかはまさに米国次第であるのだ。米国は2014年以降、ロシアを参戦させるために東部地区のロシア語を喋る地域に対してウクライナ軍が武力攻勢をかけて、無辜の市民を何万人も殺害し続けることを容認してきた。ところで、ロシアを経済的に疲弊させるという彼らの対ロ政策はランド研究所が提言した策そのものである(注:因みに、ウクライナにおける米国の対ロ代理戦争に関する戦略はランド研究所が2019521日に発行した「How to bring down Russia」(如何にしてロシアを降伏させるか)と題された文書に詳述されている)。

そして、米国の好戦派勢力はボリス・ジョンソン英首相をウクライナへ送り込み、トルコとイスラエルによる和平努力を台無しにした。ゼレンスキーに投げかけた彼の一言が功を奏した。彼らはウクライナにおける対ロ代理戦争を、教科書に沿って、つまり、彼らの軍産複合体が最大の利益を取り込むことができるようにこの戦争を継続することを決断したのである(注:現時点で、米国の軍産複合体は3,000億ドルもの大儲けをしているが、彼らはもっと儲けたいのだ!)。

西側が発動した対ロ経済制裁によってロシア経済を低迷させ、困窮に陥ったロシア国民がこぞってプーチン政権に反対するよう仕向けるというネオコンの野望ははたして成功するのだろうか。現時点で言えば、ロシアにおける世論調査からはそのような兆候は読み取れない。皮肉なことには、米国自身や欧州各国の経済はブーメラン現象によってより大きな打撃を受けているのが現状である。米国内の世論調査によればウクライナへの武力支援は半数以上が反対である。

米国の国内問題は日本の主流メディアでは報道されてはいない。新型コロナ禍によって引き起こされた国内経済の低迷や大統領選によって深まった分断の意識によって多くの有権者はウクライナに対する軍事支援や財政支援を恨み、政権に対して批判的だ。こういった国内問題から関心を逸らすためにも、バイデン政権はウクライナ戦争を都合よく使っている節がある。バイデン政権内の好戦派とペンタゴンは必ずしも一枚岩ではないとも報じられている。

どうして西側が現状のような状況に陥ったのかは一言で説明することはできないが、今までと同様に、西側の傲慢さや自己過信が基本的な理由なのではないか。

参照:

1Ukraine Peace Talks - A Grown Up Is Taking Charge: By Moon of Alabama, Apr/27/2023

 

 


0 件のコメント:

コメントを投稿