2022年7月27日水曜日

グローバリストがルビコン川を渡った時 ― 安倍晋三の暗殺

 

安倍晋三元首相の暗殺に関しては当局による情報公開が何故か遅れをとっている。その一方で、インターネット上では様々な情報が紹介されたり、疑問が提示されたりして、それがさらなる推測や憶測を誘っているのが今の日本の姿である。そもそも、暗殺という行為そのものが究極の脅かしであることを考えると、当局自身も関連情報を公開することに慎重にならざるを得ないという状況はよく分かる。しかしながら、当局は最低限の事実関係をタイミング良く明らかにして欲しいものだ。

ここに、「グローバリストがルビコン川を渡った時 ― 安倍晋三の暗殺」と題された記事がある(注1)。この記事は714日に公開されたもので、著者のエマヌエル・パストリッチは米国の政治家で、国際関係の専門家である。記事の表題が示す通り、これは日本国内で行われている安倍晋三の暗殺事件を巡る議論とはまったく異なる視点をわれわれに突きつけている。極めて貴重な材料となりそうだ。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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日本の古都では78日は蒸し暑い一日であった。日本の政治においては最も強力な人物である安倍晋三が奈良近鉄駅前で地元の自民党候補者のために街頭演説をしていた際、突然大きなバンという音が鳴り響き、これに続いて奇妙な煙の雲が沸き上がった。

周囲の反応は信じられない程であった。いつもとは違って数多くの聴衆が集まっていたが、群衆の間でどこかへ隠れるために走ったり、恐怖の余りに地面に伏せるような人は誰一人も見られなかったのである。

演説中に安倍首相からは異常な程遠くに立っていた彼のボディーガードたちは彼を遮蔽したり、安全な場所に引っ張ったりするといった努力をせずに、無関心に注視しているだけであった。

数秒後、安倍元首相は地面に崩れ落ち、彼の標準的な青い上着、血の斑点に染まった白いワイシャツ、北朝鮮の日本人拉致被害者との連帯を示すトレードマークの青いバッジを付けて、無表情でそこに横たわっていた。おそらく、即死だった。

その時になってようやく、ボディーガードは安倍の背後に立っていた山上徹也容疑者を逮捕した。山上との取っ組み合いはプロによる逮捕術には見えず、テレビの観客のために見せる振り付けのダンスの形をとった。

山上は安倍首相に個人的な不満を抱いていた41歳の元海上自衛隊員としてメディアによってすぐに特定された。

山上は躊躇なく警察にすべてを話した。彼は現場から逃げようともせず、ボディーガードに取り押さえられた際にも、まだ愚かにも手作りの銃を握っていた。

安倍首相が舗装路に横たわった後でさえ、群衆の中の誰も避難する場所を求めて走ったりはせず、銃声がどこから来たのかを見極めるために周りを見回すこともしなかった。誰もが、魔法のように、銃撃が終わったことを知っていたかのようであった。

それから、コメディーが始まった。安倍をリムジンに乗せて連れ去るのではなく、彼の周りに立っていた連中は通行人に呼び掛けて、医者はいないかと尋ねた。

メディアはすぐにこの攻撃について「孤独なガンマン」という結論を受け入れ、山上がカリスマ的なシャーマン川瀬佳代によって始められた新宗教である「統一教会」とどのように関係していたのか、そして、なぜ彼が自分の母親の問題をその宗教グループと交流していた安倍と結び付けたのかという面白い話を繰り返して報じた。

統一教会には文孫明牧師が設立したUnification Churchの信者がいることから、ジャーナリストのマイケル・ペンは安倍氏の死を招いた陰謀論として彼がムーニー夫妻と協力関係にあったという結論に跳び付いた。

主流メディアはこの幻想的な話を受け入れたが、日本の警察と治安機関は自分たちとは異なる解釈を潰すことには成功しなかった。ブロガーの北川隆史氏は、710日、安倍首相は山上容疑者が立っていた後ろ側からではなく、正面から撃たれたこと、そして、銃撃は駅広場の向かい側の交差点の両側にある高層ビルの一方または両方の屋上から斜めに撃たれたに違いないという資料を投稿した。

北川隆史氏の投稿:

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外科医がその夜2発の弾丸があったと発表するまでは、安倍首相は一度しか撃たれていないと主張したメディアによって提供されたものであったが、弾丸の経路に関する北川氏の分析はそれよりも科学的であった。

厄介な自家製銃を持った男が群衆に紛れて5メートル程離れたところに立っていて、安倍を2回撃つことができる可能性は低い。自分自身が銃の専門家でもあるテレビの常連出演者の小園浩己氏は彼自身のシヨウ番組「すっきり」(712)でそのような偉業はとても信じられないと述べている。

動画を注意深く見ると、隣の建物の上からサイレンサー付きのライフルによって複数のショットが発射されたことが示唆されている。

安倍晋三元総理大臣暗殺について 言明します。(ヴィメオ動画共有サイト上のエマニュエル・パストリッチから)

世界に向けたメッセージ:

日本で最も強力な政治家であり、現在の地政学的危機から生まれた前例のない不確実性に対応するために日本の政治家や官僚らが結集している安倍晋三のような人物が、身辺に深刻な安全性を懸念するような理由が何もないままに、射殺されるなんてまったく意味をなさない。

そのメッセージは、おそらく、自宅の視聴者にとっては消えてしまったかも知れないが、日本の政治家たちにとっては極めて明瞭であった。さらに言えば、安倍首相が撃たれたのとほぼ同じ時期に権力の座から追い出されたボリス・ジョンソンやユーバー・タクシーに対する影響力行使のスキャンダルで突然訴えられ、711日に大統領の解任要求に直面したエマニュエル・マクロンにとってはこのメッセージは実に明白だ。

このメッセージは安倍の白いシャツに真っ赤な血で書かれていた。つまり、グローバリスト制度に賛同し、新型コロナ体制を促進することはG7国家の指導者にとってさえも安全を保証するのには十分ではないのである。

安倍首相は世界中の国民国家の統治を食い尽くす隠された癌によって倒された、これまでのところでは、最高位の犠牲者となった。これは意思決定の場を各国政府からテルアビブやロンドン、レストンのスーパーコンピュータを駆使する民間銀行や未公開株式グループ、雇用契約を標榜する諜報関係企業、世界経済フォーラムやNATO、世界銀行、その他の素晴らしい機関で億万長者に雇われている戦略的思想家たちの間のネットワークに移動させようとする制度的な病である。

4次産業革命は効率性の美名の下で中央政府にとってはすべての情報の支配権をフェイスブックやアマゾン、オラクル、グーグル、SAPなどに移行するための口実であったのだ。JP・モルガンが述べているように、「すべての事柄にはふたつの理由がある。つまり、正当な理由と本当の理由だ。」

安倍首相の暗殺によって、これらのハイテック企業の暴君とその主人らはルビコン川を渡り、国家権力という罠に身を包んだ人々が命令に従わなければ、自分自身の行為については何ら罰せられることもなしに、彼らを刈り取ってしまうという可能性があることを宣言したのである。

日本の問題:

日本は「西側」に加わって、排他的なG7クラブのメンバーとなり、トップ間の情報共有プログラムである「ファイブアイズ」との協力関係に入る資格(さらには、加盟の可能性)を得るのに十分なほど進歩したアジア圏の唯一の国家として歓迎されている。それにもかかわらず、日本は世界の金融業者やワシントンの官僚たち、ウォール街で新世界秩序を画策する連中、等の期待や要求には逆らい続けてきた。

日本のレベルにまで達してはいない同盟国としてワシントンで絶えず非難されて来たのはアジア圏では韓国であったが、本当のことを言うと、ペンタゴンを乗っ取るのに忙しい超富裕層や世界経済全体は日本の信頼性に疑問を抱き始めていたのだ。

世界銀行やゴールドマン・サックス、ハーバード大学ベルファー科学国際問題センター、等で代表されるグローバリスト機関は「先進国」の最も優秀で聡明な人物たちのために明確な道筋を立てている。

オーストラリアやフランス、ドイツ、ノルウェー、イタリアのエリートらは流暢な英語を話すことを学び、ワシントンやロンドン、ジュネーブのシンクタンクや大学で時間を過ごし、銀行、政府機関、または彼らに良い収入を保証する研究機関で安全な閑職を確保し、エコノミスト誌が提供する常識的で、かつ、金融筋寄りの視点を福音として採用する。

しかしながら、日本は独自の高度な銀行システムを持ち、先進技術の統括、たとえば、工作機械の領域ではドイツの唯一の競争相手であって、多数のノーベル賞受賞者を輩出できる高度な教育システムを持っているにもかかわらず、「先進国」のためにこのモデルに従うようなリーダーを輩出してはいない。

日本のエリートは海外への留学をほとんど行わず、日本には海外の学術やジャーナリズムの情報源から持ち込まれた情報には頼らない洗練された知識人の集団がある。

他国とは異なり、日本人は日本人の専門家だけを引用して、完全に日本語だけで洗練された専門誌のために記事を書く。実際、植物学や細胞生物学などの分野においては日本には日本語だけで書かれた世界でもトップクラスの専門紙がある。

同様に、日本には洗練された国内経済があり、多国籍企業が容易く浸透することはできない。

過去10年間の富の大規模集中により、超富裕層は秘密のグローバル・ガバナンスのための目に見えないネットワークを作り出すことができた。このことを最も典型的に代表しているのは世界経済フォーラムの「ヤング・グローバル・リーダーズ・プログラム」とか「シュワルツマン・スカラーズ・プログラム」である。グローバリストの計画が妨げられることなく進行することを確実にするために政策分野において台頭するこれらの人物は各国の政府や産業界、研究機関に浸透して行く。

日本はこれらのずる賢い形のグローバル・ガバナンスの影響を受けている。しかしながら、英語を上手に操る日本人やハーバード大学で学んだ日本人は必ずしも日本社会でトップクラスの昇進をするとは限らない。

日本の外交や経済には頑固な独立性が存在しており、新型コロナ政策のキャンペーン中にはダボスの連中の間に懸念を引き起こした程だ。

安倍政権(および、その後の岸田政権)は世界経済フォーラムと世界保健機関(WHO)のワクチンと社会的距離に関する指令に同調をしたが、日本政府はほとんどの国に比べてより深く市民生活に侵入しようとはせず、さまざまな組織にワクチン接種を義務付けることについてもあまり成功してはいない。

ワクチン接種を受けてはいない人々に対してサービスの提供を阻止するためのQRコードの使用は他の「先進国」と比較しても日本での実施には限度があった。

さらには、日本政府は要求されたデジタル化政策を完全に実施することを拒否し、多国籍ハイテック企業大手が他国で実行している政策を日本で実行することを否定している。日本のデジタル化の遅れにより、ワシントンDCのウィルソンセンターは、日本のデジタル庁(20219月にグローバルファイナンスからの圧力を受けて発足)の牧島かれん大臣を招待し、なぜ日本がデジタル化がこれほど遅いのかについて彼女が説明する機会(713日)を設けた程だ。

日本人はデジタル化することや政府や大学の機能を多国籍ハイテック企業大手に全面的に外注すること、情報を民営化すること、等に抵抗することは必ずしも自分たちの利益にはならないことをますます認識するようになって来ている。

日本は、書面による記録の使用を含めて、古い習慣に従った日本語教育機関を運営し続けている。日本人は今でも本を読み、韓国人や中国人ほどAIに夢中になってはいない。

日本の抵抗は1867年の明治維新にまで遡ることができる。日本は西洋の思想を日本語に翻訳し、日本の概念と結びつけて、複雑な国内言説を創り出す政府制度の創設に着手した。明治維新で確立された統治体制は日本や中国の過去の前近代的な原則に基づく統治モデルを使用しており、19世紀のプロイセンや英国に由来する統治モデルを併用しているが、今でもかなりの程度残っている。

その結果、統治については封建主義的なアプローチが生まれ、大臣らは自分の予算を注意深く防護し、独自の内部指揮系統を維持する官僚の封土を監督する。

安倍の問題:

安倍晋三はわれわれの時代の最も洗練された政治家の一人であり、米国や他のグローバル機関と取引をすることに常にオープンであったが、日本をグローバリストからの命令の対象にすることについては常に用心深かった。

安倍首相は日本を帝国としての地位に復帰させるという夢を抱き、自らを明治天皇の生まれ変わりであるとさえ想像した。

彼はジョンソンやマクロンとは違っていた。テレビに出演することには興味がないけれども、日本国内の実際の意思決定プロセスをコントロールすることには興味を抱いていた。

安倍首相の治世を一部の人々がそうして来たように賛美する必要はない。彼は政府の危険な民営化や教育の空洞化を推し進め、中産階級から富裕層への資産の大規模な移動を支える腐敗したインサイダーであった。

彼は極右の日本会議のフォーラムを用いて超国家主義的な政策を推進し、日本の帝国主義的な過去の最も攻撃的な側面を賛美するために利用したことは、深く憂慮すべきものであった。安倍首相はどんなに愚かであってさえも、あらゆる軍事費を断固として支持し、米国からの無意味な計画はどんなものであっても喜んで支えた。

とは言え、岸信介首相の孫であり、安倍晋太郎外務大臣の息子であった安倍晋三は幼少期から鋭い政治家になることを示唆していた。彼は計画を進めるために幅広い政治的ツールを使用する点で創造的であり、アジア圏の他の政治家にはできないほど簡単に世界中の企業や政府の指導者らを呼び寄せることができた。

私は 安倍首相とは2回直接会ったことがあるが、その時の印象を鮮明に覚えている。彼がどんなに皮肉な政治を推し進めたとしても、彼は聴衆に純粋さと単純さを見せて、日本人が「素直」と呼ぶもので魅了したのである。彼の態度は受容性と開放性を示唆しており、それは彼の信者の間に忠誠心を鼓舞し、彼の政策に敵対的な人々を圧倒する可能性があった。

要するに、安倍首相は洗練された政治家であり、自民党内や国際社会で一方の側を率いて他方に対して戦うことができ、思いやりのある慈悲深い指導者に見えた。

このため、安倍首相の民族ナショナリズムには敵対する日本人であってさえも、安倍首相が日本にグローバルな政治的指導力を回復することができると彼らが考える唯一の政治家であったため、依然として彼を支持しようとした。

日本の外交官や軍の将校らは日本の将来像の欠如に関して際限なく心配している。日本は大国になる資格をすべて持ってはいるが、彼らは一連の決して印象的ではない東京大学の卒業生らによって日本が運営されていると推論する。テストを受けるのは得意だが、リスクを受け入れることは嫌う男たちだ。

日本はプーチンや習近平のような人物を輩出せず、マクロンやジョンソンさえも生み出さない。

安倍首相は指導者になりたかったし、グローバルな舞台でその役割を果たすために必要となる人脈や才能、冷酷さを持っていた。彼はすでに日本の歴史上最も長く首相を務めており、彼が打ち負かされた時点では首相として3回目の挑戦をする計画を抱いていた。

言うまでもなく、世界経済フォーラムの背後にいる大国は、たとえ彼らがグローバルな計画に合致したとしても、国民国家内で抵抗運動を組織化することができるので、安倍のような国家指導者を望んではいない。

いったい何がうまく行かなかったのか?

中国やロシアとの経済関係が深まるにつれて過去10年間に日本が直面した不可能とも見えるような難問を安倍首相は伝統的な国策の手段を使って処理することができた。だが、米国やイスラエル、NATOブロックとの政治的、安全保障的な統合は急速に進展した。

日本がロシアや中国との友好関係を維持しながら、米国やその同盟国にそんなに近くにいることは不可能であった。だが、安倍首相はほぼ成功した。

安倍首相は集中力と冷静さを保った。技量と人脈を活かし、日本独自の空間を切り拓こうとした。その過程で、安倍首相は戦略思想家である外務省の谷内正太郎の洗練された外交に目を向け、日本が太陽の下に居場所を見つけることを保証した。

安倍と谷内は東洋と西洋の両方を巻き込むには矛盾しているが効果的な地政学的戦略を使用し、秘密外交を十分に活用して、日本を大国間のゲームに戻す長期的な取引を確保した。

一方では、安倍首相はオバマやトランプに対して韓国やオーストラリア、他にはインドよりも先んじてワシントンの立場を支持する日本を提示した。安倍首相は東アジアに対する米国の計画に合致する再軍国化を推し進めたことで国内からは大きな批判を受けることさえも厭わなかった。

武器システムの購入にも匹敵するような強気で親米的な美辞麗句を駆使してワシントンの政治家に感銘を与えるのと同時に、安倍は最高レベルで中国とロシアとも渡り合った。それは決して小さな偉業ではなく、ワシントンの政界や北京とモスクワにおける洗練されたロビー活動が含まれていた。

ロシアの場合、安倍首相は2019年にロシアと複雑な平和条約の交渉に成功し、関係を正常化し、北方領土(ロシア語では千島列島)に関する紛争を解決した。彼は日本企業のエネルギー契約を確保し、ワシントンが東京に制裁を求める圧力を強めながらも、ロシアに対する投資機会を見出すことができた。

ジャーナリストの田中宇はロシア政府が日本政府の他のすべての代表者のロシアへの入国を禁止した後で、安倍首相についてだけは入国を禁止しなかったと指摘している。

安倍首相は中国にも真摯に関与し、長期的な制度的絆を固め、第15回協議(201949~12日)で突破口となった自由貿易協定交渉を推進した。安倍首相は中国の指導的政治家とすぐに接することができ、彼の文言は厳しく反中国的であったにもかかわらず、中国人の間では彼は信頼することができ、予測可能であると考えられていた。

安倍の暗殺に至るプロセスを招いた可能性が高いと思われる重要な出来事はマドリードでのNATO首脳会議(628-30日)だった。

NATO首脳会議は舞台裏に隠れている連中が新しい世界秩序のための法律を制定した瞬間だった。NATOはヨーロッパを防衛し、説明責任のない軍事大国になるための同盟を超えて、世界経済フォーラムや世界中の億万長者、銀行家、等と協力して、かっての時代に英国の東インド会社が行ったように機能する「世界軍」として進化する道を急速に歩んでいる。

NATO首脳会議に日本や韓国、オーストラリア、ニュージーランドの指導者を招待するという決定はこのNATO変革のための重要な要素であった。

これら4カ国は情報共有(大手ハイテック多国籍企業への外注)、高度な兵器システムの使用(ロッキード・マーティンのような多国籍企業の要員によって管理しなければならない)、共同演習(抑圧的な意思決定プロセスの先例となる)、国民国家内の指揮系統を弱体化させる他の「協力的」アプローチ、等、安全保障における前例のないレベルでの統合に参加するよう招待された。

岸田が7月の始めに東京へ戻った時、彼の最初の会談相手の一人が安倍であったことは間違いない。岸田は安倍に対しバイデン政権が日本に要求した不可能な条件を説明した。

ところで、ホワイトハウスは、今や、ビクトリア・ヌーランド(政治担当国務次官)やブッシュ一族によって訓練された他の連中から成るグローバリストの単なる道具でしかない。

日本に対する要求は本質的には自殺行為的なものであった。日本は対ロシア経済制裁を強化し、ロシアとの戦争の可能性に備え、中国との戦争にも備えることになっていた。日本の軍事、諜報、外交の機能はNATO周辺の祝宴のために集まった民間請負業者の新たな集団に移されることになっていた。

安倍首相が暗殺される前の週にいったい何をしたのかは分からない。おそらく、彼はワシントンDCや北京、モスクワ、そして、エルサレム、ベルリン、ロンドンの全拠点を使って、日本がずっとバイデンの後ろに控えているという印象を世界に伝える多層的な対応を取り、その一方で裏口から中国とロシアとの緊張緩和を模索していたに違いない。

この対応の問題点は、他の国々が閉鎖されて以来、日本によるこのような洗練された対処の仕方は日本を半機能的な行政府を持った唯一の主要国にしかねない点にある。

彼の死は彼の暗殺のちょうど2年前にあたる202079日に行方不明となったソウル市の市長の死と酷似している。朴氏はソウル市役所で中央政府が課していた新型コロナ対策の社会的距離政策を押し戻すための措置を講じていた。彼の遺体は翌日発見され、その死は同僚によって告発されたセクハラの容疑で苦しんだことから来た自殺として直ちに裁定された。

今何をするべきか?

現在の状況が孕む危険性を過小評価してはならない。ジャーナリストの田中宇が示唆しているように、日本における指導力に関して自分たちが持っている最善の希望を米国によって破壊されてしまったにもかかわらず、ワシントンDCや他の寄生虫階級の隠れた工作員に依存し切って、一連の弱腰の首相が果てしもなく続く日本に関しては日本人自身が何とかやりくりすることをグローバリスト達が望んでいるとして大多数の日本人が認識するようになったとしたら、そのような展開は日米間に完全な断絶をもたらす可能性がある。これは 政治的または軍事的な紛争を招きかねない。

これはワシントンDCの日本専門家のトップと目されるマイケル・グリーンが彼の故郷であるCSIS(戦略国際問題研究所)のホームページに掲載された安倍首相に対する最初の賛辞を書こうとはしなかった事実を物語っている。

グリーンは「ブッシュ国家安全保障会議」やCSISのアジア・プログラムのヘンリー・A・キッシンジャー議長団のベテラン参加者であり、「Line of Advantage: the Grand Strategy in the Era of Abe Shinzo」の著者でもある。グリーンは安倍首相の親しい仲間であり、アメリカ人の中では、おそらく、最も近い関係を持っていた。

結局、安倍への賛辞はクリストファー・ジョンストン(CSISの日本議長で元CIA将校)によって起草された。この奇妙な選択は暗殺が非常に敏感な事柄であることを示唆していた。だから、グリーンは本能的に最初の応答を書くのを避け、それをプロの工作員に任せたかったのだろう。

ワシントンや東京、その他の場所における責任ある知識人や市民にとっては、この怪しげな暗殺に関して実行することが可能な対応はただひとつだ。それは国際的な科学的調査を要求することだ。

そのプロセスは痛みを伴うかもしれないが、それは私たちの政府が目に見えない力によってどのようにしてハイジャックされたのかという現実にわれわれを直面させることだろう。

もしも舞台裏で重要な役割を演じた真の人物をわれわれが特定することができなければ、われわれは紛争に追い込まれる可能性がある。その紛争では国家元首に責任が投影され、グローバルな金融犯罪を隠すために各国が紛争に巻き込まれるであろう。

かって日本政府が軍に対する支配権を失ったという歴史的事実は1932515日におこった犬飼剛首相の暗殺や1936226日に起こった斉藤誠首相の暗殺に一部起因している。

だが、国際社会にとってより関連性が高い出来事は、ロスチャイルドやウォーブルク、その他の銀行権益のために統合世界経済を目指した操作によって1914628日に起こったオーストリア・ハンガリー帝国のフランツ・フェルディナント大公の暗殺によって生み出された緊張が世界大戦に向けて注ぎ込まれて行った環境をどのように作り出したのかという点である。

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著者のプロフィール:エマニュエル・パストリッチはワシントンDCやソウル、東京、ハノイに事務所を有する「アジアインスティチュート」と称するシンクタンクの理事長を務める。また、パストリッチは「未来都市環境研究所」の理事長も兼務。20202月、パストリッチは米大統領選で独立政党からの候補宣言をした。彼はグローバルリサーチに定常的に寄稿している。

掲載写真:安倍晋三‘元首相の像。これは202278日に暗殺される直前に奈良で街頭演説をしていた際の姿。(共同)

本記事の原典はグローバルリサーチ。

著作権© Emanuel Pastreich, Global Research, 2022

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これで全文の仮訳が終了した。

好むと好まざるとを問わず、この記事によって安倍元首相暗殺事件は山上容疑者が恨みを持つに至ったとされる統一教会との関係から一気に国際政治におけるグローバリストによる世界統治へとそのレベルは一気に高まり、裾野の広がりは一桁も二桁も大きく飛躍した。目が眩むようなとてつもなく壮大な仮説である。しかしながら、著者の説明や論理には捨てがたい説得力がある。

安倍元首相の検視の結果発表された、あるいは、発表されてはいない事柄、つまり、傷跡の数や見つからない弾丸、弾丸の経路、銃撃者の数、等がさまざまな推理を誘発する。現時点では真相に迫る直接的な物証が欠けているだけに、この事件の本当の姿は永久に判明しない可能性さえある。すべてが陰謀論として排除されてしまう可能性がある。

「世界銀行やゴールドマン・サックス、ハーバード大学ベルファー科学国際問題センター、等で代表されるグローバリスト機関は「先進国」の最も優秀で聡明な人物たちのために明確な道筋を立てている」との著者の見解は素人の私にとっては実に興味深い。グローバリストが世界に対して行っている機構がここに凝縮されている。

また、「安倍の暗殺に至るプロセスを招いた可能性が高いと思われる重要な出来事はマドリードでのNATO首脳会議(628-30日)だった。・・・日本に対する要求は本質的には自殺行為的なものであった。日本は対ロシア経済制裁を強化し、ロシアとの戦争の可能性に備え、中国との戦争にも備えることになっていた。日本の軍事、諜報、外交の機能はNATO周辺の祝宴のために集まった民間請負業者の新たな集団に移されることになっていた」という指摘は秀逸である。

今回の出来事を歴史的に俯瞰して、著者は本件の真の理由が適切に解明されないとオーストリア・ハンガリー帝国のフランツ・フェルディナント大公の暗殺が第一次世界大戦を招いたような深刻な事態をもたらしかねないと警鐘を鳴らしている。

この引用記事の論旨を踏襲すると、グローバリストは誤解を引き起こすことがない極めて明快なメッセージを、相手に銃口を向けながら、全世界の政治の世界に対して発信したことになる。「俺たちに服従するか、それとも、俺たちに逆らうのか?」と言わんばかりに・・・

参照:

1When the Globalists Crossed the Rubicon: The Assassination of Shinzo Abe: By Emanuel Pastreich, Global Research, Jul/14/2022

 



2022年7月23日土曜日

ユーラシアにおいて経済回廊戦争が今たけなわ

 

ロシア・ウクライナ戦争は実際には米ロ戦争であるという指摘が少なからずあり、その意味合いは素人目にさえも日が経つにつれてその信憑性が増している。そして、戦争というものはいつの日にか必ず終わる。勝者と敗者が明確となる。

最近の西側での発言の中で顕著になってきた事柄に「米国がいくら金と武器をウクライナへ注ぎ込んでも、ウクライナを勝たせることはできない」との見方がある。当初、西側にはロシアは間もなく弾薬が尽きるだろうといった楽観的な発言があったが、こういった発言は、5カ月になろうとする今、まったく聞こえてこない。むしろ、西側各国はウクライナへの武器の供給を継続することによって自国の装備が危険なレベルにまで低下してしまったとして危機感を抱き始めている程だ。ドイツのマイス将軍は「ロシアの軍事的資源はほとんど枯渇することがない」と述べ、最近、ロシアを評した。自国の状況については何も言ってはいないが、「ドイツと比べれば」という言葉が聞こえて来そうである。この種の指摘は超精密爆撃に使用されているロシア製ミサイルの在庫量のことであったり、人的資源のことであったりする。兵士の消耗ぶりについてはロシアもウクライナも自軍の死者数を公表してはいないが、メデイアによる報道から受ける印象ではウクライナ軍の消耗はロシア軍の何倍にもなっているようだ。

西側が慌てふためいている現状とは対照的に、プーチン大統領の最近の発言は実に意味深だ。特別軍事作戦が5カ月を過ぎようとする最近になって臆面もなく次のような発言をした。「彼らは戦場でわれわれを打ち負かしたいと言っているのが聞こえる。いったい何と言ったらいいだろうか?したいようにさせておこう。」そして、「ウクライナ兵が最後の一兵になるまで戦うと西側が言うのを何度も聞かされて来た。ウクライナの一般庶民にとっては大きな悲劇だ。だが、物事は今すべてがこの方向で進行している」と付け加えた。そして、ここで見逃してはならない重要な点がある。それは、タカ派的な発言をしながらも、プーチンは和平交渉の扉を常に大きく開けていることだ。(原典:Putin Warns Ukraine and Their Western Allies About Future of War: 'We Haven’t Even Yet Started': By Virginia Chamlee, Yahoo News, Jul/08/2022

ロシア・ウクライナ戦争の一面が上記のような状況を示す中、ロシアが中国と共に準備しつつある多極化世界は急ピッチで整備されつつあるようだ。最近の「ユーラシアにおいて経済回廊戦争が今たけなわ」と題されたペペ・エスコバーの記事はこのことを見事に伝えている(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。

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メガユーラシアを標榜する諸々の組織や個々の組織が進めようとするプロジェクトは、今、記録的な展開速度を見せており、ある世界規模の組織は他の組織よりも遥かに先を行く。

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今、経済回廊戦争(訳注:聞き慣れない言葉ではあるが、「経済回廊を巡る戦争」という意味でペペ・エスコバーが用いている。1か月程前に開催されたザンクトぺテルスブルグ国際経済フォーラムに関する報道で彼が使い始めたようだ)が、今、全速力で展開している。たとえば、それはロシアからインドへ向けた物流であって、国際南北輸送回廊(INSTC)を介して今までの常識を遥かに超える速度で物流が行われる。すでに運行されている

カスピ海を経由することによって(スエズ運河と比較して)より短距離で安価なユーラシア貿易ルートを運行するためのロシア・イラン・インド協定は9/11以前であった2000年に関係国によって初めて署名された。

完全な運用モードにおけるINSTCは一帯一路構想(BRI)や上海協力機構(SCO)、ユーラシア経済連合(EAEU)と並んでユーラシアの統合という極めて強力な特徴を示している。最後に敢えて何かを付け加えるならば、これは20年程前に「パイプラインニスタン」と私が呼んだものだ。

カスピ海が鍵だ:

これらのベクトルはいったいどのように作用し合っているのかをまず検証しておこう。

現在目にする加速の源はロシアのウラジミール・プーチン大統領が第6回カスピ海サミットのためにトルクメニスタンの首都アシガバートを最近(629日)訪問したことにある。この出来事は進化しつつあるロシア・イランの戦略的同盟関係をより深いレベルに引き上げただけではなく、決定的に重要な点としてカスピ海沿岸の5つの国すべてがNATOの軍艦や基地をこの地域には置かせないことに合意しことである。

これは本質的にカスピ海をロシアの湖として位置づけた。アゼルバイジャンやカザフスタン、トルクメニスタンの三つの「スタン」国家の利益を損なうことなしに、カスピ海をより小さな意味ではイランの湖とし、事実上はロシアの湖として位置付けている。つまり、モスクワ政府はあらゆる現実的な目標のために中央アジアに対する支配を一段と強化した。

カスピ海は旧ソ連が建設したヴォルガ川からの運河を介して黒海と接続するので、モスクワは必要ならば何時でも黒海に移送できる小型艦艇の予備海軍(強力なミサイルを常時装備している)を派遣することが可能だ(訳注:このカスピ海の予備海軍はシリア戦争中にカスピ海上の小型艦艇からクルーズミサイルを発射し、イラン上空を経て、シリア国内のテロリストの拠点を精密爆撃したことで世界をアッと言わせた。素人目にも実に圧巻であった)。

貿易と金融におけるイランとの強い繋がりは、今や、三つの「スタン」国家をロシアのマトリックスに結びつけることと並行して進んでいる。天然ガス資源が豊富なトルクメニスタン共和国は、その輸出のほとんどを中国に集中していることを除けば、歴史的には特異な存在だ。

より実際的な若い新指導者であるセルダル・ベルディムハメドフ大統領の下で、おそらく、アシガバート政府は最終的にSCOEAEUの参加国になることを選択するかも知れない。

一方、カスピ海沿岸国であるアゼルバイジャンは複雑な事例を示している。つまり、欧州連合(EU)がロシアに代わってエネルギー供給国になるよう目を付けられている石油・天然ガス生産国のひとつなのである。だが、これはすぐには起こりそうにもない・・・ (訳注:この引用記事が書かれた日の2日後、つまり、718日のユーロニュースによれば、EUとアゼルバイジャン政府は2027年までに天然ガスの輸出を倍増することで同意した。)

西アジアとの繋がり:

エブラヒム・ライシ大統領の下でイランの外交政策は、明らかに、ユーラシアとグローバル・サウスの軌道に乗っかっている。テヘラン政府は9月にサマルカンドで開催されるサミットで正式メンバーとしてSCOに正式に組み込まれる予定で、BRICS への加盟について正式な申請が提出されている。

BRICS国際フォーラムのプルニマ・アナンド代表はトルコやサウジアラビア、エジプトもBRICSへの参加に非常に熱心であると述べている。もしもこれが実現すれば、2024年までにわれわれは多極世界の主要組織のひとつとしてしっかりと設置された強力な西アジア・北アフリカのハブになることが可能となる。

プーチンは、来週、ロシア、イラン、トルコの三国会談のためにテヘランへ向かい、表向きはシリアに関して話し合うことになるであろうが、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領はBRICSの話題を持ち出すに違いない。

テヘラン政府はふたつの平行ベクトルで動いている。もしも包括的共同行動計画(JCPOA)が復活したならば、ウィーンとドーハの最近の悪ふざけを考えると、現状では極めて暗い可能性ではあるが、それは戦術的勝利を意味することになろう。しかしながら、ユーラシアへの移行はまったく新しい戦略レベルに位置する。

INSTCの枠組みを活用して、イランはアジアやアフリカ、インド亜大陸の交差点となるペルシャ湾とオマーン湾にまたがって、地球戦略的には重要となるバンダル・アッバス港を最大限活用するであろう。

しかしながら、それは外交上の大きな勝利として描かれるかもしれないが、西側、特に米国の制裁が完全に解除されなければ、テヘランはBRICS加盟を十分に活用することができないことは明らかだ。

パイプラインと「スタン」国家: 

ロシアと中国はイランの開発過程における欧米の技術の空白を最終的に埋めることになるかも知れないという説得力のある議論をすることが可能だ。しかし、INSTCEAEU、さらには、BRICSなどのプラットフォームが達成できることはもっとたくさんある。

「パイプラインニスタン」の全域における経済回廊戦争はさらに複雑になる。欧米のプロパガンダは必ずしもアゼルバイジャンやアルジェリア、リビア、OPECのロシア同盟諸国であるカザフスタンさえもがヨーロッパを助けるために石油生産を増やすことに熱心であると単純に認めることはできないのだ。

カザフスタンは扱いにくい事例である。同国は中央アジアでの最大の石油生産国であり、天然ガスの供給でもロシアとトルクメニスタンに次ぐ主要な生産国である。カザフスタンではシェブロンやトータル、エクソンモービル、ロイヤルダッチシェル、等の西側のエネルギー大手を含む104社が250カ所以上の油田やガス田を操業している。

石油や天然ガス、石油製品の輸出はカザフスタンの輸出総額の57%を占め、天然ガスはトルクメニスタンの予算の85%を占める(輸出の80%は中国向け)。興味深いことに、ガルキニシュのガス田は地球上で2番目に大きなガス田である。

他の「スタン」国家と比較して、アゼルバイジャンは(石油が総輸出額の86%を占めているにもかかわらず)比較的小規模な生産国であり、基本的にはトランジット国家である。バクーの超富裕国家願望は三つ以上のパイプラインを含む南部ガス回廊に集中している。三つのパイピラインとはバクー・トビリシ・エルズルム(BTE)、トルコ主導のアナトリア横断天然ガスパイプライン(TANAP)、そして、アドリア海横断パイプライン(TAP)を指す。

BTETANAPTAPといった頭文字の言葉が続くこのお祭り騒ぎには問題点がある。これらのパイプラインの容量を増やすには大規模な外国投資を必要とすることだ。だが、EUにはそんな余裕はない。ウクライナというブラックホールを「支援」するために、すべてのユーロは選挙で選ばれているわけではないブリュッセルのユーロエリートらによってその使途がすべて決められているからだ。この財政的苦境はTANAPTAPの両者にも当てはまり、さらには、リンクする可能性のあるカスピ海横断パイプラインにも同様に当てはまる。

経済回廊戦争 ― 「パイプラインイスタン」の章 ― における重要な側面のひとつはEUへのカザフスタンの石油輸出のほとんどはカスピ海パイプラインコンソーシアム(CPC)を介してロシアを経由する点にある。その代替案として、ヨーロッパ側は中央回廊(カザフスタン ― トルクメニスタ ― アゼルバイジャン ― グルジア ― トルコ)として知られるが、まだ曖昧なままのカスピ海横断国際輸送ルートを検討している。先月、彼らはブリュッセルで本件について積極的な議論を行った。

要するに、ロシアはユーラシア・パイプラインのチェス盤を完全に支配しているのだ(そして、ガスプロムが運営するパイプラインに関して言えば、中国につながる「シベリア1」と「シベリア2」の威力に関してはわれわれはまだ何も言及してはいないのである)。

ガスプロムの幹部らにはEUへのエネルギー輸出の急増は問題外であることは余りにもよく分かっている。また、彼らは汚染の防止と管理、カスピ海の環境保全の維持に役立つテヘラン条約も考慮に入れており、沿岸加盟5カ国のすべてが署名をしている。

ロシアにおけるBRI回廊を壊す:

中国は主要な戦略的悪夢のひとつが最終的には消えるかもしれないと確信している。悪名高い「マラッカからの脱出」は、ロシアとの協力による北極海航路を経由することで、東アジアと北ヨーロッパを結ぶ貿易と接続の回廊は11,200海里からわずか6,500海里に短縮することが実現される。これをINSTCの「極双生児」と呼ぶことにしよう。

また、これはロシアが一連の最先端砕氷船の建造に忙しくして来た理由をよく説明している。

こうして、新シルクロード(INSTCBRIEAEUと並行して進行する)、パイプライン、そして、西側の貿易支配を完全にひっくり返す途上にある北極海航路は相互に連結される。

もちろん、中国人はかなり前から計画を立てていた。20181月に発行された中国の北極政策に関する最初の白書において北京政府は「他の国々と共同で」(つまり、ロシアを意味する)北極圏の海上貿易ルートを極地シルクロードの枠組みの中で実施することをどのように目指すのかを示していた。

そして、時計仕掛けのように、その後プーチンは北極海航路は中国の海上シルクロードと相互に作用し合い、補完し合うべきであると確認した。

中ロ経済協力は非常に多くの複雑、かつ、収斂的なレベルでの進化をしており、そのすべてを追跡するだけでも目まぐるしい程だ。

より詳細に分析すると、例えば、BRISCOはどのように相互作用するか、そして、BRIプロジェクトはウクライナにおけるモスクワ政府のZ作戦の厄介な結果にどのように適応しなければならないか、中央アジアと西アジアの回廊の開発に重点を置くこと、等、より細かい点がいくつも明らかになるであろう。

ロシアに対する容赦のないハイブリッド戦争におけるワシントンの主要な戦略目標のひとつは、決まったように、ロシア領土を縦横に横断するBRI回廊を壊すことにあるとして考えてみることが極めて重要だ。

現状では、産業や投資、国境を越えた地域間協力における数十にものぼるBRIプロジェクトはEAEUSCOBRICSASEANなどの組織に属する幅広い国々との多国間協力の確立を中心に展開し、ロシアの大ユーラシア同盟関係の概念を統合することにも繋がることを認識することが基本的に重要である。

ユーラシアの新しい信念へようこそ!戦争をするのではなく、経済回廊を整備しようではないか。

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これで全文の仮訳が終了した。

今ユーラシア大陸で起こっていることの結果は10年後、20年後、あるいは、半世紀後に誰の目にも明白となるであろう。

私自身は半世紀後の世界には物理的に存在しない。だが、識者や専門家はどんな世界が待っているのかについてかなりの確度で予測することが可能だ。たとえば、ミズーリ大学のマイケル・ハドソン名誉教授は二カ月前に近未来の世界を描写している(Michael Hudson: Interview with RT – Transcript: By The Saker, May/21/2022)。

今回の引用記事をより深く掘り下げる上でハドソン教授の解説は大きな助けになると思うので、このインタビュー記事を抜粋して(全文は余りにも長くなってしまうので)、下記に収録しておこう:

ピーター・スコット(PS):中国のような大国との関係ではEUの立ち位置はどこにあるとお思いか?

マイケル・ハドソン(MH):ええ、その点は明らかにゲームからは外れてしまっている。自国の利益を第一に考えるのではなく、実際には彼らは米国の利益を第一に考えているのだ。EUは自らの運命に挑もうとするよりも、むしろ米国の衛星国家であるかのように振る舞っている。

・・・ウクライナ戦争は米国が主にヨーロッパを米国の軌道に引き込み、EUがロシアや中国と取引することを阻止するための戦争だ。

・・・ヨーロッパは単に取り残されようとしている。

MH:ヨーロッパを米国圏に統合することはまさに「新しいベルリンの壁」の創設である。これは米国を世界の他の国々から孤立させる。これは米国に勝利を導くものではなく、米国の戦略家たちが中国やロシア、さらには、新興諸国グループ全体との経済戦争で負けつつあることに気付いたので、米国は自らを孤立させようとしているのだ。

・・・米ドルは排除される。米国のドル外交、米ドルへの自由気ままな乗り合い、貨幣帝国主義といった考えは今やすべてが終わった。

・・・米国は孤立した。それはまさに自分の足を撃ったようなものだ。

・・・ロシアはこんなことをすることはできない、あるいは、ロシアは工業大国になれないといった理由は何ら存在しない。ロシアにとって欧米は必要ではないが、欧米にとってはロシアは依然として必要なのである。

・・・基本的にEUは米国のために自殺しているようなものだ。ヨーロッパの政治制度が自国の国益を追求せず、いつまで米国を代表する指導者たちと付き合っていけるのかは私には分からない。

・・・米国社会は憎悪に満ちた社会であり、米帝国は本当に憎しみや敵意に満ちた帝国だ。彼らが世界を見る見方は「我々対彼ら」であり、ロシアは新しい「彼ら」なのである。

・・・ロシアと中国は大勝利国家になると思う。

・・・「米国の敵になることは危険ではあるが、友人で居ることは致命的とさえなる。」さて、今本当に危険に曝されている米国の同盟国はヨーロッパだ。敵側は少なくともお互いに友達同士なので、お互いにうまく行くだろう。

ここで、われわれ素人も必然的に日本の国益について考えざるを得ない。EU各国と日本が置かれている共通項は米国に対する従属であると言える。要するに、日本の一般大衆にとっては「今日EUが置かれている窮状はまさに明日の日本の窮状を物語るものだ。ユーラシア大陸における近未来の姿を見誤ったり、過小評価してはならない」と認識することが基本的に極めて重要であると思う。

この夏、さまざまな出来事が起こった。この長い暑い夏は今前半が終わったばかりであり、今年の夏はむしろこれからが本番となる。さて、いったい何が待ち受けているのであろうか?

参照:

1In Eurasia, the War of Economic Corridors is in full swing: By Pepe Escobar, The Saker (初出:The Cradle), Jul/16/2022