2022年6月26日日曜日

ジュリアン・アサンジ、アリナ・リップおよびアンヌ=ローレ・ボネル ― 真実が犯罪になる時

 

西側の世界においてジャーナリズムは、今、まさに危機的な転換期を迎えようとしている。617日、英国政府はジュリアン・アサンジの身柄を米国へ引き渡すことを正式に決定した。これを受けて、被告側は14日以内に異議申し立てを行うと表明している。もしも米国で有罪になれば最長で懲役175年が言い渡されると被告側は推測している。だが、英BBCによれば、米国側は46年程度になりそうだと説明しているという。刑期が175年になるのか、それとも、46年程度で済むのかは小生にはまったく知る由もないが、今までの論争で観察されているように、米司法当局がジュリアン・アサンジを起訴した背景には民間ジャーナリストが政府を批判する自由を奪い取り、権力側の都合の悪い情報は徹底的に隠ぺいすることができるように調査報道ジャーナリストによる暴露を最大限抑止しようとする姿勢が浮かんでくる。

ここに、「ジュリアン・アサンジ、アリナ・リップおよびアンヌ=ローレ・ボネル ― 真実が犯罪になる時」と題された記事がある(注1)。

著者は「ドンバス・インサイダー」の創立者であって、ドンバス地域における武力紛争についてすでに数年間にわたって現地から報告している。つまり、西側メディアの嘘を非難している。アマゾンではこの著者は次のように紹介されている:1978年生まれ。15歳の頃から書き始めた。最初は詩から始まり、ウェブサイト用の記事へと移行。2008年には歴史の再現を試み、主としてヴィキングについて書いた。最初の小説「ウルファルサガ ― オオカミの時代」を2013年にフランス語で自費出版。3年後には戦場から報告する記者となった。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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ジュリアン・アサンジ、アリナ・リップ、アンヌ=ローレ・ボネルの三人は欧米で真実を語るのに高い代償を払わされているジャーナリストである。彼らを財政的に窒息させようとし、検閲や投獄の脅しを与え、アサンジの場合には肉体的・心理的拷問さえもが加えられた。これら三人のジャーナリストの事例は欧米における「民主主義」のおぞましい実態を完璧に暴露した。

英国当局によって身柄の引き渡しが承認されたばかりのジュリアン・アサンジの事件はもっとも頻繁に報道されており、あえて真実を語ろうとする欧米ジャーナリストに何が起こり得るかをもっとも端的に示してくれた。

2006年、ジュリアン・アサンジは内部告発者から提供された機密文書をウェブサイト上で公開する非政府系非営利組織のウィキリークスを設立した。それ以来、このサイトは人権侵害、汚職スキャンダル、そして何よりも戦争犯罪に関する何百万もの文書を公開している。

2010年、ウェブサイトがイラク戦争に関する文書を公表しようとしていた丁度その頃、ジュリアン・アサンジの労働許可と居住許可の要求はスウェーデンによって拒否された。彼がスウェーデンを選んだのはジャーナリズムの情報源の保護に関する厳格な法律がスウェーデンには存在していたからであった。しかし、イラクとアフガニスタンにおける米国の戦争犯罪を暴露することはワシントン政府と米軍産複合体の怒りを招いた。ここからジュリアン・アサンジの地獄への下り坂が始まった。

2011年、ウィキリークスのウェブサイトを財政的に窒息させる試みが始まった。マスターカード、ビザ、バンク・オブ・アメリカ、ペイパル、ウェスタンユニオン、等はウィキリークスの財政的封鎖を組織化し、ウィキリークスの収入を95%減少させた。ウィキリークスは、その後、財政的窒息から逃れるために暗号通貨に目を向けた。

2012年以降、このサイトに対するコンピュータ攻撃による大規模な検閲が開始された。その目的は人々がサイト上で公開されている何百万もの文書にアクセスするのを妨害することにあった。因みに、エドワード・スノーデンが香港から出てロシアで政治亡命を得るのを助けたのは当時のウィキリークスであった。

それと並行して、2010年から2012年にかけては、2010年にスウェーデンで性犯罪の告発を受けた後のジュリアン・アサンジは英国で保護観察下に置かれた。アサンジはこれを偽りの容疑として非難した。この告発の唯一の目的は彼をスウェーデンに送り、そこからさらに米国へ引き渡すことであった。英国最高裁判所がスウェーデンへの身柄引き渡し要求を拒否することを拒んだことから、ジュリアン・アサンジは2012619日にロンドンのエクアドル大使館に避難し、それ以降7年間にわたってスコットランドヤードとCIAの監視下で隔離状態に置かれた。

2017年、CIAはエクアドル大使館でジュリアン・アサンジに対して単純明快な暗殺を実行することを企てた。しかしながら、これが引き起こすであろう国際的なスキャンダルのリスクをおもんぱかり、CIAは結局この計画を諦めた。そして、より慎重で倒錯した計画を選ぶことにした。

2019411日、ジュリアン・アサンジは2年前に取得したエクアドル国籍とエクアドル大使館に亡命する権利を奪われ、英国警察官によって強制的にエクアドル大使館から排除された。その後、彼はベルマーシュ刑務所に送られ、「性犯罪」事件は彼の逮捕から数ヶ月後に証拠不十分を理由にスウェーデン政府によって幕が閉じられた。これはこの性犯罪事件が単なる口実であったことを証明するものである。

3年間にわたって、ジュリアン・アサンジと彼の弁護士たちは、彼が最大で175年の懲役刑に直面するであろう米国への引き渡しを阻止するために戦った!だが、何の役にも立たなかった。そして、その間ずっとジュリアン・アサンジは拷問に等しい拘禁状態に置かれた。すなわち、完全な隔離、冬季の不十分な暖房、身の周りの世話の欠如に曝されたのである。ジュリアン・アサンジの健康状態はこれらの状況下で急速に悪化し、何人かの専門家や医師らは憤慨して、彼がベルマーシュ刑務所で見舞われた状況は拷問であると言った。

もし米国に送られるならば、ジュリアン・アサンジはグアンタナモ刑務所、あるいは、他の刑務所に送り込まれ、他の多くの囚人のように拷問される可能性がある。彼の事件は欧米の他のジャーナリストが不都合な真実を暴露することを思いとどまらせるスケープゴートとして位置付けるべきだ。

そして、アサンジ事件は間もなく例外ではなくなるかも知れない。二人の独立系ジャーナリストであるドイツ人のアリナ・リップとフランス人のアンヌ=ローレ・ボネルはドンバスで起こっていることについて率直に報じてきたが、今や欧米の検閲機構による彼女らに対する攻撃が観察される。

2022年にドンバスで半年間を過ごし、マリウポリを含めて、ウクライナ軍の戦争犯罪について真実を報じたアリナ・リップは現在検閲に直面している。

テレグラム上での彼女の2部構成による英語でのインタビューを見てみよう:

2021年に初めて訪問した後、彼女はウクライナ軍がドンバスの民間人に対して犯した戦争犯罪に衝撃を受けた。彼女は2022年の初めにも同国へ戻り、6ヶ月間滞在。たとえば、マリウポリの民間人に対してウクライナ兵が犯した戦争犯罪について彼女は公然と語り、報告している。

ベルリン政府にとっては不都合な真実であった。こうして、アリナ・リップのペイパル・アカウントは停止された。その後、彼女の銀行口座と父親の銀行口座が閉鎖され、ドイツ国家は彼女の口座に残っていた約1,600ユーロを正当な理由もなく差し引いた。アサンジ事件の際と同様に、財政的窒息のテクニックが反体制派の声を沈黙させるために使われている。その後、検閲が行われ、彼女のユーチューブ・アカウントが閉鎖された。彼女はそこで報告を公開していたのだ。

そしてジュリアン・アサンジの場合のように、法律はすぐにアリナ・リップを脅かすようにさえなった。犯罪を助長したとしてジャーナリストに対する刑事訴訟が開始された。なぜならば、ウクライナがドンバスでやっていることは大量虐殺であり、彼女はロシアが介入した理由を理解し、なぜ特別軍事作戦を開始したのかについても理解しており、ドネツクで彼女が知り合った人々はモスクワが介入してくれたことを喜んでいると彼女は敢えて報じたからだった。こうして、自分の意見を述べ、真実を語ったアリナ・リップは最高3年の懲役刑に処せられるのである!

PDF形式のドキュメントはこちらからダウンロードが可能:

さらに狂乱的なのは、起訴状の末尾に「アリナ・リップは(自分を弁護するために)公聴会に招待されることはない」と書かれており、これは捜査プロセスを混乱させる(原文のまま!)。当然のことながら、ジュリアン・アサンジと同じ運命を辿らないように、アリナ・リップはドイツには帰国しないであろう。

もしもアリナ・リップに起きていることはフランスでは起こり得ないと信じている人がいるならば、そういう人たちはアンヌ=ローレ・ボネルの身に何が起こっているのかを知るべきである。このフランスのフリーランス・ジャーナリストは2015年と2022年にドンバスへやって来て、ドンバスにおけるウクライナ軍の戦争犯罪について公然と話をした。

驚くことではないかも知れないが、彼女は今やボロボロになったル・モンド紙の「危険極まりない親ロ的インフルエンサー」に関する記事でアリナ・リップや私と共に自分も引用されていることに気付いた。実際には、この記事はISDL'Institut Supérieur du Droit、高等法科大学院)による多くの組織的な攻撃のひとつに過ぎない。ISDはいくつかの西側諸国で偽情報と戦うと主張しているが、実際には、検閲を正当化するのに役立っているもうひとつの組織なのである。ISDによる「親ロ派インフルエンサー」に対する非難は、実際、フランスやドイツおよび米国の、さらには、それが如何なる場所であったとしても、いくつものメディアによって取り上げられている(私には全世界の報道機関をチェックする手段はない)。

彼女を単に侮辱し、中傷さえしてきたいくつかのフランスのメディアによって、アンヌ=ローレ・ボネルも直接的、かつ、個人的に攻撃されている。そして、ジュリアン・アサンジやアリナ・リップの場合のように、当局は彼女を沈黙させるために財政的窒息を活用している。

アリナ・リップの場合と同様に、アンヌ=ローレ・ボネルの銀行口座は彼女の銀行ソシエテ・ジェネラルによって一時的に停止され、ソルボンヌ大学との契約は更新されなかった。

まったく同じ理由から、これはパトレオン・アカウントやティピー・アカウントが(ティピーの支払いプロバイダを介して)停止されたドンバス・インサイダーに対しても使用された方法であって、私たちを沈黙させようとしたのである。

アリナ・リップとアンヌ=ローレ・ボネルはまだジュリアン・アサンジが置かれているような悲惨な状況には至ってはいないが、彼が主張してきたことは欧米諸国は名目上は民主的な姿勢を保っているが、もしも何らかの不都合な真実を語れば、今日このジャーナリストの身に起っていることがいつの日にか彼女らにも起こるかもしれないということを誰にでも気づかせる筈だ。だからこそ、アサンジが米国に引き渡されるのを防ぐためにわれわれは戦わなければならないのだ。真実を語ることが犯罪とみなされるのを防ぐためだ!

かって、マルティン・ニーメラーは極めて適切に下記のように表現した:

「連中はまず社会主義者を捕まえにやって来た。私は何も言わなかった。
なぜならば、私は社会主義者ではなかったからだ。
それから、連中は労働組合の指導者を捕まえにやって来た。私は何も言わなかった。
なぜならば、私は労働組合の指導者ではなかったからだ。
それから、連中はユダヤ人を掴まえにやって来た。私は何も言わなかった。
なぜならば、私はユダヤ人ではなかったからだ。
それから、連中は私を捕まえにやって来た。私を匿ってくれる者は一人もいなかった。」

今日、彼らはジュリアン・アサンジ、アリナ・リップ、アンヌ=ローレ・ボネル、あるいは、私を捕まえにやって来る。しかし、いつの日か彼らはあなたを捕まえるためにもやって来ることであろう。だから、今すぐにでも行動を起こして欲しい!ジュリアン・アサンジの米国への引き渡しを取り消すよう要求しよう!真実が犯罪となるような社会を望んではいないことを知らせてやろう!

クリステル・ネアン

***

これで全文の仮訳が終了した。

ロシア・ウクライナ戦争に関して調査報道を行ない、ウクライナ軍による戦争犯罪を報じると、当のジャーナリストは職業的生命を脅かされるという切羽詰まった状況に曝される。ジュリアン・アサンジを筆頭に3人ものジャーナリストが槍玉に挙げられている。これら3人の事例はどれも戦争に関わるものである。つまり、戦争遂行者にとっては隠されている真実が世間に広められることは最大級の敵なのである。そのような輩は何としてでも葬り去らねばならない。不幸なことには、それが動かしようもない今日の現実なのである。

2022年の今、われわれも第二次世界大戦前のマルティン・ニーメラーの轍を踏むことになるのであろうか?われわれはすでに、取り返しがつかない程、遥かに先へと進んでしまったのかも知れない。つまり、ここでも歴史は繰り返されているのだ。今日の私には楽観的な気分はまったくない。ゼロだ!

参照:

1JULIAN ASSANGE, ALINA LIPP, AND ANNE-LAURE BONNEL - WHEN TRUTH BECOMES A CRIME IN THE WEST: By Christelle Néant, DONBASS INSIDER, Jun/21/2022

 



2022年6月23日木曜日

米国やNATOは(WEFの助けを借りて)グローバル・サウスに飢餓を引き起こしているのではないか?

 

南側(グローバル・サウス)諸国における飢餓について議論を開始する前に、まずは世界人口の現状や人口爆発についてウィキペディアから情報を入手しておこう。

世界人口とは世界において生存している人の数。なお、統治している地域の人口を正確に把握できていない政府も多く、世界人口は国際機関や各国政府、大学などの研究者による推定による部分が大きいため、各資料を閲覧する際には注意を払う必要がある。国連2011年版『世界人口白書』によると、20111031に世界人口が70億人に到達したと推計されている。

世界人口の10億人マイルストーン (USCB推定)

人口 (億人)

10

20

30

40

50

60

70

80

90

達成年

1804

1927

1960

1974

1987

1999

2011

2024

2042

要した年数

123

33

14

13

12

12

13

18

注:USCBとは米国勢調査局を指す。

人類の進化史において、人類の総数は疫病や気候寒冷化による一時的減少はあったものの、21世紀初頭まで総じて増加してきた。国連や米国ワシントン大学の推定によると、西暦1年には3億人、1500年には5億人だったとされる。食料生産技術や医学、公衆衛生の発達が遅れていた時代は餓死や病死も多く、人口増加ペースは緩やかだった。

しかし世界の人口増加率は1965-1970年の2.06%をピークとして減少し続けており、人口の増加は続くものの人口爆発の危機は遠のいたとされ、今後は世界的な高齢化、人口ボーナスの活用、地域間の格差と移民が人口問題の焦点になってきている。

日本の人口は開国後に急増を始める。1872年(明治5年)の段階では3480万人だった日本の人口は1912年(明治45年)に5000万人を突破し、1936年(昭和11年)には6925万人に達していた。これは間引きが罰せられるようになったことで大家族の家庭が多くなったのに加え、明治以降の保健・医療など公衆衛生水準の向上、農業生産力の増大、工業化による経済発展に伴う国民の所得水準の向上と生活の安定などの要因により発生した人口爆発だった。

世界人口が10億人増加するのに要した年数と将来の趨勢を示す上表によると、世界人口は2024年に80億人になり、2042年には90億人になると予測される。70億人から80億人になるのに13年間を要したが、80億人から90億人になるのには18年間を要するとの推定である。この表から言えることは、人口増加の速度はこの頃から鈍化し始め、やがては世界人口は今まで観察されてきた増加から減少へと転じるものと見られている。

世界の人口過剰は西側のエリートにとっては極めて大きな懸念材料だ。今までもさまざまな形で国際的なレベルで議論されてきた。たとえば、民間シンクタンクであるローマクラブは1972年に第1回報告書で「成長の限界」を報告した。その中で有名になった言葉:「人は幾何学級数的(掛け算)に増加するが、食料は算術級数的(足し算)にしか増加しない。」

人口増加を抑制するという課題は西側のエリートの念頭には常にあるように見受けられる。1960年代からこのテーマに首を突っ込んでいるロックフェラー家や2015年にTEDトークショウで行ったスピーチや今回の新型コロナワクチンの集団接種で強力な推進役を担ったことで知られるビル・ゲイツはその代表的な例であると言えそうだ。

人口問題と直接・間接的に繋がっている事柄としては食料生産、エネルギー供給、医療、飢餓、戦争、等が挙げられる。

ところで、エリートの間では「ゴールデン・ビリオン」という言葉が囁かれているらしい。これが何を意味するのかと言うと、「人口10億人」が世界人口にとってのキーワードらしいのだ。どのようにしてその数値に到達したのかについては私には不明だ。

ここに、『米国やNATOは(WEFの助けを借りて)グローバル・サウスに飢餓を引き起こしているのではないか?』と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。

今回引用する記事は非常に深刻な事態を指摘しており、議論しようとしている。マイケル・ハドソン教授の意見や見解は何時もわれわれ一般庶民を啓蒙してくれる。巨大銀行や億万長者の味方をするのではなく、残りの99%の利益を重視する経済論を展開する点が際立っている。何時ものことながら、基本的に非常に真面目な内容であることが実に頼もしい。

***

ウクライナにおける代理戦争は何かもっと大きな事柄をもたらす前兆なのではないか?たとえば、世界的な飢餓を伴うような食糧や石油の不足に見舞われた国々では外国為替危機が誘発されるといった状況が想定される。

飢餓と経済の混乱で死ぬ人の数はウクライナの戦場で死ぬ人の数よりも遥かに多くなるだろう。したがって、ウクライナでの代理戦争とはいったい何なのかと問う場合、それは国際貿易とか支払いに関して米国の支配を固定化するために用意されたより大きな戦略の一部分ではないかと問う方がより適切だと言える。われわれはグローバル・サウスにおいてばかりではなく、西ヨーロッパにおいてさえも米ドル地域による融資枠として兵器化された権力の掌握を目の当たりにする。米国やその子会社であるIMFからの米ドル融資枠もなしに各国はいったいどうやって毎日を過ごすことができるのだろうか?これらの国々が標榜する脱ドル化や米経済圏からの離脱を阻止するために、米国はいったいどれほど懸命に行動することになるのだろうか?

飢餓や石油の高騰、国際収支における危機を引き起こすことからいったいどうやって利益を得るのかを考えるのは米国の冷戦戦略だけではない。クラウス・シュワブが率いる世界経済フォーラムは世界が過密であることを懸念している。少なくとも、「間違った種類の」人々の集団によって過密になることを懸念しているのである。マイクロソフトの創業者で慈善家(不労所得を独占したい輩は慣習的にこのような婉曲表現を用いる)でもあるビル・ゲイツが説明しているように、「アフリカの人口増加は挑戦すべき課題である」。彼がロビー活動をしている財団の2018年の「ゴールキーパー」報告書は「国連のデータによると、アフリカは2015年から2050年の間に世界の人口増加の半分以上を占めると予想されるとの警告をした。「アフリカの人口は2050年までに倍増すると予測されており、世界の極度の貧困層の40%以上がコンゴ民主共和国とナイジェリアのたった2カ国で占められる。」[1]

ゲイツ氏は、避妊へのアクセスを改善し、教育を普及させて「より多くの少女や女性が学校に長く滞在し、後で子供を産むことを可能にする」ことによって、この予測される人口増加を30%削減することを提唱している。しかしながら、この夏に迫り来る食糧や石油の危機が政府予算を圧迫する中、どうやってそれらを実現する余裕があるのだろうか?

南米各国やいくつかのアジア諸国はロシアを孤立させようとするNATOの要求の結果として起こった輸入価格の上昇から直接影響を受けている。JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン社長は、最近、ウォール街の投資家会議で、経済制裁が世界的な「経済ハリケーン」を引き起こすと述べて、出席者に警告した。[2] この4月、彼はIMFのクリスタリナ・ジョルジエヴァ専務理事が「簡単に言えば、われわれはひとつの危機の上にさらにもうひとつ別の危機に直面している」と警告したことに同調して言ったのである。ウクライナでの戦争が事態を「はるかに悪化させ、不平等をさらに拡大させる恐れがある」中で、新型コロナの大流行はインフレによる総仕上げが行われると指摘し、彼女は次のように結論付けた:「戦争による経済的影響は近隣諸国やさらにその先へと急速に広がり、世界で最も脆弱な人々に対して最も厳しい打撃を与える。何億もの家庭がすでに低所得とエネルギーや食料の価格上昇によって二重苦に見舞われている。[3]

バイデン政権はロシアは「挑発を受けなかったにもかかわらず侵略を行っている」として非難している。しかし、NATOや他のドル圏の衛星諸国に対するバイデン政権の圧力がロシアからの穀物や石油、ガスの輸出を妨げているのが現状である。こうして、多くの石油・食糧不足の国々は自国を米国/NATOの圧力によって引き起こされた「付随的損害」の犠牲者であるとして見ている。

世界規模の飢餓と国際収支の危機は米国/NATOによる意図的な政策なのだろうか?

63日、アフリカ連合のマッキー・サル議長(セネガル)はモスクワを訪問し、米国/NATOによる経済制裁の駒になることを拒否することによって、アフリカの食料と石油の貿易における混乱を回避する策を計画した。2022年のこれまでのところ、プーチン大統領は「我々の貿易は成長している。今年の最初の数ヶ月で34%成長した。」[4]と述べた。しかし、セネガルのサル大統領は「反ロ経済制裁は現状を悪化させており、今やロシアからの穀物、特に、小麦へのアクセスができない。そして、最も重要なのは肥料を入手することができないことだ」と懸念を述べている。

米外交官はジョージ・W・ブッシュの言葉を借りて、「あなた方はわれわれに賛成なのか、それとも、われわれに反対なのか」と言って、どちらかを選ぶよう各国に強要している。このリトマス試験が教えてくれるのは中国やロシア、インド、イランとその近隣諸国といったユーラシアの中核に位置する国々との貿易を止めることによって、食料と石油の不足によって国民を飢餓に追いやり、彼らは自国の経済を閉鎖するだけの決意があるのかどうかという点である。

欧米の主流マスコミはこうした経済制裁の背後にある論理はロシアにおける政権転覆を推進するためのものであると説明する。石油やガス、食糧やその他の物品を輸出するのを阻止することによってルーブルの為替レートを押し下げ、「ロシアに悲鳴を上げさせる」という目論見であった(まさに、ピノチェット軍事クーデターの舞台を作るために米国がアジェンデが支配するチリでやろうとしたようにだ)。SWIFT(銀行清算システム)からの排除はロシアの決済システムと販売を混乱させる筈であったし、欧米に保有されていたロシアの3000億ドルの外貨準備を押収したことはルーブルを崩壊させ、ロシアの消費者が慣れ親しんできた欧米製品の購入を妨げるものと予想されていた。その考えは(今振り返ってみると、とても馬鹿げているように思えるのだが)、欧米の贅沢品の輸入が今まで以上にどれだけ高くなったかについて抗議するためにロシアの市民は反乱を引き起こすであろうというものでもあった。しかし、ルーブルは沈むどころか急上昇し、ロシアはすぐにSWIFTを中国のシステムと連携する独自のシステムに置き換えた。そして、ロシア市民は西側の攻撃的な敵意に背を向け始めたのである。

明らかに、米国の国家安全保障シンクタンクのモデルにはいくつかの大きな側面が欠けている。しかしながら、世界的な飢餓に関しては、さらに大きな戦略が秘密裏に機能していたのではないか?今や、ウクライナにおける米国の戦争の主な狙いは単なる触媒として世界の食料とエネルギーの貿易を混乱させる経済制裁を課す口実としての役割を与え、米外交官を通じて「貴国は新自由主義への忠誠を誓い、依存するのか、それとも、貴方の命か」という選択を迫って、グローバル・サウス諸国に立ち向かう機会を与えるような方法でこの危機を管理することにあったと見て取れるのである。ダイモン氏とWEF(世界経済フォーラム)にとっては、その過程でかねてから心配してきた世界中の非白人系の人口を「間引く」ことが目標だったのではないか?

ロシアは世界の穀物貿易の40%、世界の肥料市場の25%(ベラルーシを含めると45%)を占めている。どんなシナリオであったとしても、これほど大量の穀物や肥料が市場から撤退すれば、石油やガスの場合のように、それらの価格は間違いなく高騰するという計算が含まれていたに違いない。

これらの商品を輸入しなければならない国々の国際収支の混乱に加えて、外国の債券保有者や銀行に支払うために米ドルを購入するための価格は上昇している。米連邦準備制度理事会(FRB)の金利引き締め策はユーロ、スターリングポンド、グローバル・サウスの通貨に対する米ドルのプレミアム金利に上昇を引き起こしている。

世界経済は相互に接続されたシステムであることから、欧州や米国以外の国々にもたらされる影響がまったく配慮されなかったという事実は想像の埒外である。ほとんどの混乱は25%の範囲にあるのだろうが、今日の米国/NATOによる制裁は歴史的な軌道からかけ離れているため、今回の価格上昇は歴史的な範囲を大幅に上回ることになるであろう。最近ではこのようなことはまったく起こったことがなかった。

この2月にウクライナとロシアとの間で起こった紛争は両国間の戦争であると見えたが、実際には世界経済を再構築し、グローバル・サウスに対する米国の支配を固定化することを意図した引き金であったことを示唆している。地政学的には、ウクライナでの代理戦争は一帯一路構想(BRI)に対抗するための米国側の便利な口実であった。

グローバル・サウス諸国が直面させられている選択:外国の債券保有者や銀行家に支払うことによって自国が飢えるか、あるいは、国際法の基本原則として次のように表明するかのどちらかである。つまり、こう表明するのだ。「主権国家として、われわれは、新冷戦を遂行することを彼らが選択した結果彼らが提供した債権が焦げ付いた。外国債権者を豊かにすることよりも、われわれは、むしろ、われわれ自身が生存することを優先したい。IMFと世界銀行がわれわれに与えた破壊的な新自由主義的助言に関しては、彼らが提案した緊縮政策はわれわれに役に立つどころか、破壊的でさえある。したがって、彼らからのローンは焦げ付いた。こうして、彼らは鼻持ちならない状況に陥ったのだ。」

NATO側の政策はグローバル・サウス諸国に対してはロシアとのいかなる競争をも阻止することであって、そうすることによって世界の穀物やエネルギー貿易を自分たちが独占し、グローバル・サウスに対して米国は食糧という首根っこを締め上げる手段を確立しようと試みている。これを拒否する以外に他には何の選択肢さえも与えてはいないのだ。主な穀物輸出者は多額の補助金を受ける米国の農業部門であり、ヨーロッパの高額補助金を受けた共通農業政策(CAP)がこれに続いている。これらはロシアが市場に入て来る前の主要な穀物輸出国であった。米国/NATOの要求はドル地域とそのユーロ圏の衛星国への依存を回復するために時計を巻き戻すことにあるのだ。

ロシアと中国の暗黙の対抗計画:

世界の非米/NATOの国家が生き残るために必要なのは新しい世界貿易と金融システムである。これを代替する案は世界の多くの人々にとっては世界的飢餓である。ウクライナの戦場で戦死する人の数よりも、経済制裁で死ぬ人の数の方が多いであろう。金融制裁や貿易制裁は軍事攻撃と同じくらいに破壊的なのだ。したがって、グローバル・サウス各国が国際金融・貿易という兵器を振り回す連中の利益よりも自国の利益を優先させることは道徳的にも正当化されるのである。

第一に経済制裁を拒否し、ロシアや中国、インド、イラン、ならびに、上海協力機構(SCO)のメンバー国との貿易に向けて方向転換をしよう。特に米国の外交官がそのような貿易に対して制裁を延長した場合、問題はこれらの国々からの輸入品に対してどのように支払うかである。

グローバル・サウス諸国がこれらの国々からの石油、肥料、食料の代金を支払うことは米国とユーロ圏の保護主義の対象となり、米国が支援する新自由主義の貿易政策の遺産であるドル債務についても支払うことができなくなる。したがって、第二の必要性はローンが焦げ付いたことを表明する「債務の支払い停止」(事実上の否認)を宣言することだ。この行為は1931年にドイツが賠償金の支払いを停止したことや米国に対する同盟国間の債務にも類似している。簡単に言えば、今日のグローバル・サウスの債務は債務国に飢餓や緊縮財政をもたらすことなしには返済は不可能なのである。

これらの経済的要請に続く第三の帰結は、世界銀行、ならびに、貿易や発展を未完のままに放置することに依存する彼らの親米政策とを純粋に「経済を加速させる銀行」に置き換えることだ。この機関と共に、新しい銀行の申し子の形で4番目の帰結が導かれる。つまり、それはIMFに取って代るものだ。これらの国々は緊縮財政というジャンク経済や米国の顧客優先寡頭政治の補助金から解放され、米国による民営化や金融化といった乗っ取りに抵抗する国々は通貨攻撃からも解放されることになる。

第五の要件は、NATOの代替として別の軍事同盟に参加することによって各国が自衛し、別のアフガニスタン、別のリビア、別のイラク、別のシリア、あるいは、別のウクライナに陥るのを避けることだ。

この戦略を抑止するのは米国の力ではない。なぜかと言うと、米国は紙でできた虎であることを自から示してしまったからである。問題は経済意識あるいは決意のどちらかである。

「ビル・ゲイツが人口増加について警告」、世界経済フォーラムにて/ロイター、2018919日。 https://www.weforum.org/agenda/2018/09/africas-rapid-population-growth-puts-poverty-progress-at-risk-says-gates

ラナン・グエン『「ハリケーンだ!」と銀行総裁らが経済の弱体化を警告』とニューヨークタイムズ、202261日。

クリスタリナ・ゲオルギエヴァIMF専務理事「危機に直面して:世界はどのように対応することができるか」2022414日。https://www.imf.org/en/News/Articles/2022/04/14/sp041422-curtain-raiser-sm2022. 

「プーチン大統領は、202263日、ソチでアフリカ連合議長と会談。サル大統領にはアフリカ連合委員会のムーサ・ファキ・マハマト委員長も同行。http://en.kremlin.ru/events/president/news/68564. 高揚した気分で行われた制裁に関する会談については、 https://www.nakedcapitalism.com/2022/06/sanctions-now-weapons-of-mass-starvation.htmlを参照されたい。

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これで全文の仮訳が終了した。

ハドソン教授の指摘の中でもっとも印象深い言葉は次の部分だ:「この2月にウクライナとロシアとの間で起こった紛争は両国間の戦争であると見えたが、実際には世界経済を再構築し、グローバル・サウスに対する米国の支配を固定化することを意図した引き金であったことを示唆している。地政学的には、ウクライナでの代理戦争は一帯一路構想(BRI)に対抗する米国にとっては極めて便利な口実であった。」

これは世界経済の動きに注目し、西側の大資本のためではなく、一般市民の利益に関心を寄せるハドソン教授ならではの言葉だ。私はマリウポリにおいてネオナチ・アゾフ連帯が降伏したことやドネツク・ルガンスク両共和国の民兵とロシア軍との連合軍がどこそこの町を支配下に収めたといったウクライナ東部の戦場に関するニュースに注目していた。だが、世界的に著名なこの経済学者はもっと大きな構図の中に浮かび上がってくる像を客観的に、そして、明確にわれわれに伝えようとしてくれている。このことに大感謝である!

また、「この戦略を抑止するのは米国の力ではない。何故かと言うと、米国は紙でできた虎であることを自から示してしまったからだ。問題は経済意識あるいは決意のどちらかである」という結語も強力な指摘である。

多くの国々ではすでに食糧価格が上昇している。たとえば、私が住んでいるルーマニアでの食糧品価格はこの4月に前年同月比で13.54%も上昇したと報じられている。この上昇は200412月以降では最高レベルだ。

現在観察されている政治的混乱がどれだけ長く続くのかがこの危機の深刻さを決定する重要な要素となりそうだ。天然ガスや石油の供給不足によってエネルギーコストが急騰し、原料の供給が減少し、市場では化学肥料が品薄となって肥料が高騰し、貧しい農家は必要な量を確保できない。収穫量が減少する。こうして、国全体が深刻な食糧不足に陥りかねない。もっとも深刻な状況はこれからやって来る。まずは今年の冬だ。暖房不足による寒さと食料品の高騰から来る空腹によるダブルパンチがわれわれを待ち構えている。

ロシアとウクライナの両国は小麦の輸出ではトップレベルを誇っていたことから、ロシア・ウクライナ戦争はアフリカ諸国を深刻な問題に直面させることになった。アフリカ諸国では流通量が減少して、小麦粉を思うように調達することができなくなったと報じられている。

ロシア産小麦の輸入に対するアフリカ諸国の依存は政治的、軍事的決定に重要な影響を与える。アフリカの一部の国がロシアからの小麦に依存していることを考えると、国連におけるロシアのウクライナ侵攻に関する最近のふたつの総会決議においてどのような投票をするのかに影響を与えた可能性がある。どちらの事例においても驚くほど多くの国がロシアを支持し、あるいは、中立を保ったのである。理由のひとつは彼らは小麦の供給国との関係を混乱させたくはなかったからである。何世紀にもわたって、小麦の調達は多くの国の政治的・戦略的な決定や安全保障政策に織り込まれてきたという経緯があり、今回の国連総会におけるアフリカ諸国の選択は伝統的な戦略を反映したものである。

ところで、ウクライナからの小麦の輸出は従来は黒海沿岸の港から輸出されていたが、今はロシア・ウクライナ戦争によって輸出港を使用することができない。ロシア側はウクライナから大量の小麦を輸出するには、ウクライナ側にとっては自分たちが港湾に設置した魚雷を撤去するしか選択肢はないとして、ラブロフ外相がウクライナ側に助言している。また、ラブロフ外相は「このことについてはプーチン大統領もすでに言及している。ロシアは輸出航路の安全を保障し、もしウクライナが魚雷の撤去を行い、港から船舶を出航させる場合、それらの行動を保証する。ロシアはそういった状況を現行の特別軍事作戦のために利用する積りは毛頭ない」と述べている。(原典:In the Russian Federation called the uncontested demining of the ports of Ukraine: By iz.ru, Jun/09/2022)。しかしながら、ウクライナからの報道によると、魚雷の撤去には何カ月もの時間がかかるという(原典:It May Take Several Months To Clear Mines In Ukrainian Ports – UN: By Роман Ваниян, Ukrainian News, Jun/09/2022)。さらには、黒海からの船による輸出の代替案として鉄道や運河を利用することも提案されている。だが、これらの方法は輸送能力が極めて小さい。

要は、グローバル・サウスの飢餓をタイミングよく回避するにはウクライナ側の政治的判断が迅速に行われるかどうかに掛かっているようだ。そして、もっと重要な点はウクライナの背後で糸を引いている米国の判断である。つまり、ボールはウクライナ・米国側のコートにあると言えよう。

食糧危機はアフリカ諸国だけの問題ではないことは明白だ。日本の食糧自給率は37%と非常に低い。世界が食糧危機に見舞われると、当然のことながらその余波は日本を直撃する。たとえば、「世界に食糧危機が。日本の家庭でもその影響が出始めている。今、知っておいて欲しい問題を古舘が提言」と題されたユーチューブ動画(2022620日、https://youtu.be/FnNtKc9-CbQ)が日本の食糧安保の問題を取り上げている。日本では何十年も前からあれこれと論じられてきた課題ではあるのだが・・・

 

参照:

1Is US/NATO (with WEF help) pushing for a Global South famine? By Michael Hudson, The Saker, Jun/06/2022