2021年3月27日土曜日

アラスカでの米中会談とその成果

 バイデン政権が発足してから初の外務大臣級による米中会談が最近アラスカで行われた。この会談はさまざまな理由から世界が注目するものとなった。バイデン政権が具体的な対中外交を開始する今、今後の米国の動きとしてそれがどのような方向性を示すのかについて世界は注目し、それぞれの国は自国の国益や政権の将来にどのような影響があるのかを考え、一喜一憂しているのである。もちろん、中国を隣国にしている日本の政府はその最たるものであろう。

米中戦争という言葉は特に日本にとっては非常に大きな衝撃を伴うが、「シミュレーション:米国は対中戦争においてあらゆる局面で敗退し続ける」と題して最近投稿したばかりである。その投稿では中国に関して次のように私の考えを記した:

今の中国は経済大国と化し、国際舞台での影響力は拡大するばかりである。その中国を評して、習近平政権は崩壊する寸前であるという見方もある。しかし、それは中国共産党が何らかの理由で国内の統率力を失ってしまった場合に限られるだろう。たとえば、経済運営で大失敗して、大多数の国民からの信頼感を完全に喪失した場合などが考えられる。

これは一般庶民の立場から見た私の個人的な考え方に過ぎないが、中国政権を維持している中国共産党の見方は、もちろん、これとは大きく異なる。非常に重要な要素であることから、そのことについて背景を理解する腕上で役にたちそうな方法をここに付け加えておきたいと思う。その鍵は「中国政府の本音としては何が一番大事か」かという視点である。中国のある高官の発言によると、それは「中国共産党の指導者の地位と政治制度の安全」である。それに続いて重要な点は第二が「中国の主権と保全」、第三は「中国の経済発展と国民の福祉」だ。つまり、中国の指導者の地位と政治制度を保つためならば、第二、第三の目標は譲歩しても究極的には構わないということを意味する。(詳細は張陽チャンネルに掲載された323日付けの「米中会談中に中共がレッドラインを漏らした」https://youtu.be/qYeTSKU_TIY)を参照ください。)

米国の前国務長官であったマイク・ポンぺオは、大雑把に言えば、中国の人々が中国政府、つまり、共産党とは対立し、批判をするべきであると演説の中で述べたことがあるが、これは中国国内を大きく二分させようとする試みであった。何世紀にもわたって植民地経営を行ってきた旧宗主国は植民地を政治的に不安定のままにしておく常套手段である。この演説内容は中国政府の神経を逆なでにしたに違いない。どれだけの効果が実際にあったのかについては知る術もないが、ポンぺオ前国務長官は上記にご紹介した中国のもっとも中核的なレッドラインを敢えて踏もうとしたのである。

極めて日本人的な発想で言えば、この中国政府のものの見方は日本が太平洋戦争を終結するに当たってどうしても譲れない事項として天皇制の維持を最優先にしたことと実によく似ている。国家を維持するという目標について最後のひとつとなった選択肢を何とか実現しなければならない時、当事国は当然ながらその国に特有な方向性を固執しようとする。

ここに、「アラスカでの米中会談とその成果」と題された最新の記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。近くて遠い国である中国に関して少しでも多くのことを学んでおきたいと思う。しかも、これは米中戦争が噂されている二国間の関係であることからもなおさらである。

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米政権がジョー・バイデンに移行してから初となる高官レベルでの直接対話が202131819日に米国のアラスカ州、アンカレッジで開催された。米政府からはアントニー・ブリンケン国務長官と国家安全保障補佐官のジェーク・サリバンが、そして、中国政府からは王外相と楊潔篪外交部長とが同席した。

中国からやって来た客人にねぎらいの言葉を述べた後に、ブリンケン国務長官は数多くの事柄に関して中国を批判した。これには新彊や香港、台湾、米国に対するサイバー攻撃、ならびに、米国の同盟国に対する経済的な支配、等が含まれる。これらの行動はそれぞれが世界の安定を維持する法の秩序を脅かすと述べた。

楊外交部長は「中国と国際社会が遵守し、推進しようとしているのは国連を中心とした国際システムであり、国際法によって支えられた国際秩序であって、いわゆるルールに則った秩序を構成する少数の国々が促進するものではない」と述べて応戦した。米国は独自のスタイルを持っており、米国スタイルの民主主義を維持する。その一方で、中国は中国スタイルの民主主義を維持している。 米国がいかにして米国流の民主主義を発展させたのかについての評価は米国人だけに任せておけるものではなく、全世界が関与すべきものだ。中国に関して言えば、何十年にもわたる改革や解放を経て、われわれは数多くの分野で長い道程を辿って来た。特に、世界の平和と開発に貢献することや国連憲章の目標や原則を維持することについてはわれわれは疲れを知らない努力を続けている。」

「現実世界における戦争は我が国ではなく、他の国々によって引き起こされており、膨大な被害者を生み出した。しかし、中国について言えば、われわれが他国に求めて来たことは平和的な発展を辿ることであって、これは我が国の外交政策の目標でもある。武力に訴えて他国に侵攻することやさまざまな手法を用いて他国の政府を転覆させること、他国の数多くの市民を虐殺することには同意できない。なぜならば、これらの行為はどれもがこの世に苦渋と不安定さをもたらすだけであるからだ。米国にとっては自国のイメージを変え、自国版の民主主義を他国に押し付けようとする行為は止めるべきで、非常に重要であるとわれわれは考える。米国の人々は多くが米国の民主主義には自信を失い、米国政府に関してはさまざまな考えを抱いている。中国においては、世論調査によると、中国の指導者は中国国民から幅広い支持を受けている。つまり、中国の社会システムについて何らかの悪口を言おうとする試みは何の成果も期待することはできない。実際には、そのような試みは中国の人々を中国共産党の下へますます結集させ、その結果、中国は自国のために設定した目標に向かって着実に近づいて行くことになろう。」

「新彊、チベットおよび台湾は中国の不可分の領土である。中国は米国が中国の内政問題に干渉することには断じて反対する。われわれはそういった干渉については断固たる反対を表明しており、われわれは報復として揺るぎのない行動を起こすだろう。人権問題に関しては、われわれは米国が人権に関してもっと好ましい振る舞いをするよう希望したい。中国は人権については着実な進歩をして来たし、人権に関しては米国国内に数多くの問題があり、この事実は米国自身がすでに認めているところでもある。また、米国は今日の世界においてはわれわれが直面する課題は武力に頼って解決することはできないとも言った。いわゆる専制国家を転覆させるためにさまざまな手法を使うことは失策である。人権に関して米国が直面する課題は根が深い。これらの課題は過去の4年間に出現したわけではない。例を挙げるならば、ブラック・ライブズ・マターだ。これはつい最近になって表面化したものではない。われわれの希望としては、われわれ両国にとってはこの世の中の誰かを名指しで非難するのではなく、われわれは自分たちのそれぞれの課題を自分たちでうまく解決することが重要だ。過去においてわれわれは対峙することもあったが、その結果は米国のニーズに応えるものとはならなかった。中国はそういった衝突を乗り越えて行く心積りであるし、過去においてもうまく乗り越えて来た。」 

成果:

中国がこの機会を役に立たせようとしたことは中国は米国の優位性を受け入れようとはせず、米国が言うことを口述筆記することは決して受け入れないことを明確に伝えた。中国は自国の国内問題に干渉する国は如何なる相手であってもそれに従おうとはしないだろう。一般的に言って、中国人は振る舞いが良く、親切で、従順で、友好的な人たちである。中国が断固とした立ち位置を示し、自分たちの見解をこれ程までに明確に表明しなければならない程に米国は限界を超してしまったのだとも言えよう。中国の反応を分析し、次に彼らと会談をする前に十分なホームワークをしておかなければならないと肝に命ずることはひとえに米政権次第である。

全世界は米国がその覇権をこれ以上持続することは出来ないことをしっかりと理解した。世界はもはや一極支配ではなく、米国はもはや超強国として単独に存在するわけでもない。米国は現出しつつある新たな地政学を理解し、現実を認めなければならない。米国は台頭しつつある国々と覇権を共有し、それらの国々に敬意を払う必要がある。米国はいかなる決断をする際にも他の台頭しつつある国々には潜在能力があることを念頭に置かなければならない。

70年間にわたって世界規模の指導者役を演じた後、米国がこの役柄を継続することは今や不可能であり、この事実は誰の目にも明らかである。米国は衰退の一途を辿り、毎日のようにさらに衰退して行くことだろう。その一方で、中国は台頭し、毎日のように隆盛して行くことだろう。時の利は中国の側にある。もしも米国人が賢明であるならば、彼らは中国と敵対することは止めて、中国が台頭するのに好都合となる協力の手を差し伸べることもできる筈だ。中国の一般庶民の間には米国に対して寛大な善意が見られる。

米国は中東の湾岸産油国のすべての独裁者を支援していることからも、民主主義を標榜し、法に準拠したルールを推進するという米国の主張はもはや信用することはできない。米国はエジプトで民主的に選出され、合法的なアディル・モルシー政権の転覆を後押しした。ここでもまた、米国はエジプトの独裁政権であるシシー政権を最初に支持した国のひとつである。 米国の歴史を紐解くと、米国は世界中で数々の独裁者を支持してきた。 法に準拠したルールに関しては、これはまったくの冗談であるとしか言えない。イラクやリビア、シリア、アフガニスタン、等を壊滅させたのは米国だ。

トランプ政権の下では米国は人権を無視することによって、ならびに、多くの少数民族が抱く憎悪によってさらに劣化した。そして、イスラム教徒に対しては差別的な法律が導入され、移民法は偏見に満ちている。新型コロナの大流行では間違った対処が実行され、経済は崩壊した。トランプ大統領は米国を酷く痛めつけたことから、失われたものを取り戻すまでには何十年もかかるかも知れない。トランプ大統領は米国の近しい同盟国のいくつかを怒らせてしまった。

ジョー・バイデン大統領がプーチン大統領について行ったコメントは見当違いもはなはだしく、米ロ間の地政学的状況をさらに悪化させるかも知れない。米国とロシアとの間のさらなる緊張は目に見えている。これは中ロ関係をさらに強化することに役立つかも知れない。

著者のプロフィール:ザミール・アフメド・アワン教授は元外交官であり、中国通の専門家で、編集者や分析専門家。北京に所在するシンクタンクであるCCG (Center for China and Globalization)の非常勤研究員を務め、パキスタンのイスラマバードにある国立科学技術大学の教授を務めている。(E-mail: awanzamir@yahoo.com)

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これで全文の仮訳が終了した。

ここに紹介されている楊潔篪外交部長の主張は中国側が抱いている米国観を簡潔に描写していると思う。そして、説得力があり、かなり辛辣にも聞こえる。今までは、ロシアのプーチン除いては、これ程までに単刀直入に米国に文句を言い得る国家はなかったと思う。そう言う意味では、実に感慨深い。これはまさに時代がそうさせたということであろう。

米国のブリンケン国務長官がこの会談でさらに中国をどのように非難したのかはこの記事からは分からない。しかしながら、米国が言いたいことはおよそ察しが付くような気がする。なぜかと言うと、米政府の高官のものの考え方や言い方にはひとつのパターンがあるからだ。思うに、それはパキスタン人の著者ばかりではなく、ましてやイスラム教徒の知識人だけに限らず、米国の対外政策に見られる矛盾や不条理に関しては世界中の人たちが個々の政治的イデオロギーを超越して共感できる側面が色濃く存在するからだ。

政治の動きをわれわれ一般庶民に極めて分かりにくくさせているもうひとつの要素は価値観の多様性や相対性あるいは流動性にある。今日最大の重要性を持っていると考えられる事柄は5年後、10年後にも最重要であり続けるかも知れないし、他の事柄にその地位を受け渡しているかも知れない。つまり、政治の世界では新しい議論や難題が何時始まっても決しておかしくはないと言える。

もちろん、この記事の主張が米中会談の詳細や背景をすべて伝えているとは思わない。他にもさまざまな見解や洞察がある筈だ。この投稿がそれらの記事に対しても関心を寄せる起爆剤になれば幸いである。

参照

1Sino-US Dialogue in Alaska: Outcomes; by Zamir Awan, The Saker, Mar/23/2021





2021年3月24日水曜日

シミュレーション:米国は対中戦争においてあらゆる局面で敗退し続ける

 これから米中戦争は起こるのだろうか?

答えは誰にも分からない。米中戦争がやって来るという人もいれば、米中戦争は決して起こらないと予測する人もいる。

120年前に中国は欧米列強を相手に非常に屈辱的な国際条約を呑まされ、当時の清王朝だけではなく、その後を継いだ中華民国にも甚大な重荷となった。特に、義和団の乱に関する賠償金の支払いや外国軍隊の駐留権を認めたことは長い間中国を植民地状態に置くことになった。

その後120年、今の中国は経済大国と化し、国際舞台での影響力は拡大するばかりである。その中国を評して、習近平政権は崩壊する寸前であるという見方もある。しかし、それは中国共産党が何らかの理由で国内の統率力を失ってしまった場合に限られるだろう。たとえば、経済運営で大失敗して、大多数の国民からの信頼感を完全に喪失した場合などが考えられる。

その一方で、中国は着々と軍事力の増強を図って来た。もちろん、米軍と中国軍との総力を比較すれば、中国は遥かに劣勢である。しかしながら、南シナ海とか台湾、あるいは、尖閣諸島、等を米中戦争の最前線として捉えた場合、中国軍はそういった局地戦に自分たちが持っている地の利を最大限に活用することが可能である。この地の利については米国はどう考えているのだろうか。間違いなく、われわれ日本人にとっては深入りして考えたくはない領域の話になって来る。米国はあくまでも自国からは何千キロも離れた地域での両軍の戦闘を考えるのが常だ。つまり、日本は米中戦争では米国のための代理戦争に巻き込まれるという可能性が急浮上してくる。

また、中国の先端技術の進歩は目を瞠るばかりである。最近の記事(原題:China Is Winning The Great 21st Century Tech War: By Tyler Durden, Mar/11/2021)によると、中国は今年が初年度となる第145ヵ年計画において先端技術に対して多額の研究費を注ぎ込む計画である。たとえば、人口知能、クアンタム情報、半導体、脳科学、ゲノム解析、バイオテクノロジー、臨床医学、健康・保健、深海、宇宙、地下探査、等である。中国政権がこれらの領域で成果を収めた暁には全世界の地図は赤い色で覆われるであろうと彼らは大胆に予測している。中国の強みは政府主導によるトップダウン型式の意思決定にあり動きが速く、多額の資金が注入され、総力を結集し易い点に特徴がある。その一方、米国においてはこの種の動きは苦手であって、あくまでも個々の民間企業の自由意志による対応となり、実行は遅く、資金を集中させることは決して易しくはない。

さまざまな見解や想定があり得るが、ここに、「シミュレーション:米国は対中戦争においてあらゆる局面で敗退し続ける」と題された記事がある。

日本人にとっては直接・間接に気になる米中戦争はいったいどのような展開をするのであろうか?前提の上にさらなる前提を置くシミュレーションであるとは言え、極めて重要な要素であることには間違いはない。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。

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2020年の秋、米空軍は約10年後を想定し、米中戦争のシミュレーションを行った。

その戦争は生物兵器を用いて始まった。米軍の軍事基地やインド・太平洋に散開する米戦艦は速やかに駆逐された。

それから、中国は侵攻する軍隊の大規模な展開を隠蔽する目的で巨大な軍事演習を行った。

戦況は中国軍のミサイルがその地域にある米軍基地や戦艦に向けて雨あられの如く発射され、台湾は航空機や強襲揚陸艦による攻撃に曝された。

実に短期間のうちに中国が勝利した。

以上が既報のごとく極秘のシミュレーション結果ではあるが、その詳細は今や公開されている。

ちょうどその頃、実生活に関して言えば、2020年の9月、本物の中国軍の戦闘機が稀にしか越境することがない台湾海峡の中間ラインを超して、台北に向かって侵入して来た。「まったく前例のない出来事で、何と40回にもわたって越境し、台湾に対する模擬攻撃を行った。」 台湾総統はこれを「実に不穏な動きだ」と評した。

中国空軍は核爆弾を搭載することができる爆撃機が太平洋のグアム島にあるアンダーソン空軍基地に対して模擬攻撃を行っている様子を示す動画を公開した。

あたかもハリウッド映画のようなこのプロパガンダ用動画の表題は「戦の神H-6K(爆撃機)が攻撃に向かう」である。 

中国はさらに前進し、その一方で米国は後退するという趨勢が新型コロナの大流行の間にさらに加速された。 

今月、外交問題評議会は「米国、中国および台湾 - 戦争を防止する戦略」と題して、報告書を公開した。

同報告書は台湾は米中間に「起こり得る戦争ではもっとも危険な紛争の火種になろうとしている」と結論付けた。 

上院における証言でアメリカインド太平洋軍のトップであるフィル・デイビッドソン総督は中国は「今後の10年間に、実際には6年以内に台湾を併合しようとするであろう」との警告を発した。

それとは別に、中国のシンクタンクは、最近、米中間の緊張は1989年の天安門事件以来最悪のものになったと述べて、共産党指導者に対米戦争に準備を怠らないよう進言した。

何年にもわたって行われてきた極秘のシミュレーションによると米軍はこの戦争に敗北するという結論が得られてはいるのだが、明らかに、大多数の米国人はこのことについては何の認識もない。

10年以上も前、われわれのシミュレーションによると中国は軍事力の増強においては立派な仕事を成し遂げ、その結果、われわれが軍隊を派遣して戦いを行うという好みのモデルを実行することはますます難しくなって来ることを示していた。われわれの好みのモデルでは軍隊を前線へ送り込み、比較的安全な基地から、あるいは、戦闘からは離れた場所から戦争の指揮をとるのが普通だ」と、米空軍の幕僚副長を務め、戦略・統合・要件を担当するS・クリントン・ハイノート中将が独占インタビューでヤフーニュースに語った。

「あの時点でわれわれの戦争シミュレーションの大まかな方向性はわれわれが戦争に負けるだろうということだけではなく、急速に負けてしまうということを示していた」とハイノート中将は言った。2018年に行ったシミュレーションの後、私は空軍の参謀長官の前に立っているわれわれのシミュレーションの大御所のひとりが言ったことをはっきりと覚えている。彼は皆に向かって「われわれは中国が台湾を攻撃するというこの種のシミュレーションは二度と行うべきではない。何故かと言うと、何が起こるのかをわれわれは良く知っているからだ」と言った。米軍がその方針を変えない限り、決定的な答えはわれわれは非常に速やかに負けるということに尽きる。このような事態の場合、米国大統領としてはほとんど既成事実となっている現状を率直に提言して貰いたいことであろう。

バイデン政権は最近ペンタゴンに新たなタスクフォースを設置すると発表した。これは対中国の国防政策を吟味するためであって、ロイド・オースチン国防長官がこのタスクフォースを指揮する。

劣化しつつある台湾の安全保障こそがこの新たに設置されたタスクフォースの主要な仕事である。

「ところで、中国には戦争計画が三つ存在するが、何れも台湾を巡るものである」とハイノート中将が述べている。

「彼らは台湾について計画を練っている。台湾については年がら年中考え続けているのだ。」 

何れの案件であっても、台湾を巡る戦争シミュレーションでは米国は決まって負けてしまう。 

「台湾に関してのシミュレーションを過去の何年間か行ってきたが、あのシナリオでは時間がもっとも貴重な要素となり、戦場からの近さや彼らが持つ戦闘能力は中国側の勝利に味方することから、どのシミュレーションをとってもわれわれの青組は何時も完全にやっつけられてしまう」とランド研究所の上級分析専門家であり、国防省の前次官補代理で戦力開発を担当したデイビッド・オチマネックが言った。「あの種の一方的な敗北は青組側の米軍将校にとっては本能的なレベルでの経験であって、これらの戦争シミュレーションは意識の向上を促す格好の場を与えてくれた。しかしながら、米軍は依然として中国の進歩のペースに歩調を合わせてはいない。それが故に、10年前に本件をより真剣に捉え始めた頃に比較して、状況がずっと良くなっているなんて私には決して考えられない。」

問題の一部はペンタゴンが過去20年間にもわたってイラクやアフガニスタンで対テロ戦争や暴動に対する戦いに従事し、米国は中国からは遠ざかっていた間に中国が接近阻止・領域阻止の面で大いに飛躍したことにある。

また、北京政府は台湾や地域の覇権には十分な注意を集中しているが、米軍は世界中でさまざまな潜在的紛争に軍事力を投影し、準備をし続けなければならない。このような状況はペンタゴンにオチマネックが言うところの「注意欠陥不全症」をもたらすのである。

最終的には、永久の勝者という独りよがりな考えに陥って、米軍の上級将校らは他の国が自分たちを脅かすなんてことはとても考えられないのである。 

「私の答ええはこうだ。中国がますます軍事的に自信を深めている事実は隣国に対して今まで以上に好戦的な態度を見せていることに現れており、人民解放軍は台湾や日本の領空をますます頻繁に侵犯し、南シナ海地域の隣国に対する力の誇示にも見てとれる」とオチマネックが述べた。「習近平の下、そういった挑発行為は10年前に比較して劇的に増加した。これは中国は軍事的に十分に強力であって、われわれに挑戦することが可能であるとの考えに基づいているものだろうと私は思う。」 

もっとも最近行われた戦争シミュレーションにおいてはペンタゴンは潜在的な軍事力や多くの場合依然として製図版上でしか存在しない軍事的概念がもたらすと考えられる影響力についても吟味した。

中国を表わす赤組との紛争においては、米軍を代表する青組はより防御的で、大規模ではあるが、広域に散開する脆弱な基地や港湾、空母への依存をより少なくする態勢を採用した。

この新戦略は、対艦ミサイルや移動式ロケット砲、無人ミニ潜水艦、魚雷、対空ミサイル、等の諸々の部隊を含め、長距離用の移動型攻撃システムの多くにとっては強い味方となった。 そして、米国の政策決定者による意思決定を速めることを可能にする早期警戒正確な情報の両面を増強し、指揮・コントロールシステムが散開した軍の行動を調整する能力を高めるという最高のおまけさえもが付いてきた。

「われわれはその中核に柔軟性を持った軍隊を編成し、赤組はその軍隊を吟味し、われわれをやっつけるには膨大な火力を必要とすることが彼らには分かっていた」とハイノート中将が言った。この新たに行われたシミュレーションで得た最大の洞察は彼が人民解放軍のトップの役割を演じた赤組のリーダーと後に話をした際に表面化して来たのである。

「赤組のリーダーは国防総省が行う戦争シミュレーションにおいてはもっとも経験があって、もっとも攻撃的な将校であり、台湾とその領域に展開したわれわれの防御態勢の柔軟性を始めて目にした時、俺は攻撃なんてしないと言った」ことをハイノートは思い起した。「もしもわれわれがあれだけのレベルの不確実性を作り出し、中国のリーダーに自分たちは果たして軍事的目標を達成することができるのだろうかと危ぶませることができるとすれば、これは将来の戦争抑止はどのようなものでなければならないかを如実に示すものとなるだろう。」 

真面目な注釈を付け加えるとすれば、ハイノートは最近のシミュレーションで試験された青組の軍隊の布陣は国防総省の現行の計画には未だ何も反映されてはいないと指摘している。

「国家防衛戦略の目標を達成するに当たってわれわれにはどのような種類の軍隊が必要であるのかが分かり始めた」と彼は述べた。「しかし、それはわれわれが今日計画を練り、構築しようとしているような代物ではない。」 

多分、何時の日にか対中戦争のシミュレーションで米国が勝利を収める日が来るであろう。

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これで全文の仮訳が終了した。

ここに報じれらている内容は、米国が今までの戦争形態に頼っている限りは、台湾を巡る米中戦争では米軍は速やかに敗退することになるだろうと言っている。つまり、これは従来の空母を中心とした攻撃艦隊を中国の近海へ派遣するという米国の戦法は中国側の技術革新、たとえば、極超音速対艦ミサイルの配備によって軍事的にはすっかり陳腐化してしまったという事実を反映しているのだと思われる。

しかしながら、今までの軍事的経験には頼らない準備をすればいつの日にか戦争シミュレーションでの連敗記録にストップをかけることになるかも知れないと言う。要は、中国政府が台湾を軍事的に併合する時期(6年後?)と米軍が万全の準備を完了することができる時期(極超音速ミサイルの開発や極超音速ミサイルに対する防衛体制の配備は何時になるのか?)との間の競争になるが、いったいどちらがより早くやって来るのかという問題だ。

さて、どんな結末となるのであろうか?私にとっては戦争を経ないで米中が仲直りしをすることしかないのだが・・・。


参照:

1: The US Keeps Losing In Every Simulated War-Game Against China: BY Tyler Durden, Mar/14/2021







2021年3月19日金曜日

ワクチン接種 - 新型コロナとの戦いにおける勝利はまさにいばらの道

新型コロナのワクチン接種は大手製薬企業によってハイジャックされてしまった感が強い。その結果、今の混乱が起こっている。ワクチン接種は、そもそも、大多数の人々の間に感染症に対する抗体を作って、感染症の大流行を抑えることが目的である。一言で言えば、その目的は人々の健康を確保することにある。それ以外には何もない。

ところが、利益を追求することが許されている資本主義世界においてはさまざまな資源を有する大手製薬企業は新型コロナの大流行を周到に作り出し(たとえば、米国立衛生研究所がウィルスを感染し易く改変する研究を中国の武漢研究所に委託した)、世界の人々を感染症から救うという美名の下にワクチンを非常に短期間の内に開発し、米国やヨーロッパ各国の政府は新たに開発されたワクチンの使用を認可した。こうして、医療関係者ばかりではなく一般大衆に対してもワクチン接種が約3カ月前に始まった。しかしながら、ワクチンの供給が間に合わず、EUと英国との間ではワクチンの取り合い騒ぎが起こった。

予測されていたとは言え、ワクチン接種が始まると死亡事例が報告され始めた。もちろん、個々の事例にはご当人特有の健康状態やその他諸々の要因、たとえば、接種の時点で患っていた慢性疾病、当人の免疫力の強弱、アレルギー症に対する感受性、年齢、等における個人的な差異がついてまわる。素人目にも話は十分すぎる程複雑だ。ある事例はワクチン接種とは関係がないかも知れない。そして、もうひとつの事例はワクチン接種による副作用であるかも知れない。われわれ素人が日常接することができるメディアでは詳しい情報はなかなか得られない。こうして、新型コロナの大流行について全体像をバランス良く把握することはさらに難しいものとなる。

ここに、「ワクチン接種 - 新型コロナとの戦いにおける勝利はまさにいばらの道」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。

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今やすっかり忘れ去られてしまったテレサ・メイ前英国首相が放った「ひどくあり得そうなことだ」(highly likely)という文言がジャーナリズムの世界に新たなトレンドを形成することになろうとはいったい誰が想像し得たであろうか。この新たなトレンドにおいては事実ではなく、単なる主張であってさえもそれは報道に値するかのようである。残念なことには、最近は大手メディアの名門さえもがこの新たなトレンドを踏襲することに意味がありそうだと考えているようである。悲しいことに、ウオールストリートジャーナルさえも例外ではない。同紙は最近モスクワ政府は大手製薬企業のファイザーが開発したワクチンの信用を台無しにしようとしていると報じたのである。

この種の報道においてもっとも驚ろかされる事は彼らは事実に基づいた裏付けを示さず、証拠にまったく欠如していることだ。この状況は、かってはロシアにおいてオンライン・プラットフォームとして著名であった新聞社がいったいどのような報道をしてくれるのかに関して読者に対して何の確実な概念さえをも示してはくれない。ジャーナリズムにおけるこのトレンドのもうひとつの明瞭な特徴はニセ情報の使用にある。また、さらに興味をそそられる点がある。問題の記事ではそれが言及しているサイトに直接繋がるリンクを示してはおらず、読者は自分たちが読んでいる記事について自分自身で何らかの判断を下すしかない。この報道は単に妄想逞しい記事にしか過ぎないのか?それとも、依然として敬意を払われている西側の著名な新聞社の専門家の意見や引用に基づいたものであって、信用するに値する報道なのか?

世界中の医療専門家は大多数が「安全で有効なワクチンの数が多くなればなるほど、人類は新型コロナに対して決定的な勝利をより早く収めることができるであろう」と自信をもって考えている。そして、この結論に異論を唱える術はない。しかしながら、ある者は特定の製薬企業のワクチンは副作用を起こすとか、医療専門家が表明した副作用の懸念は本物であり、正直な意見であると言い切ることもまた同様に困難である。このような状況ではワクチン接種を政治化しようとする西側の試みは新型コロナに対して勝利を収めようとするわれわれ人類の集団的勝利をより遠くへと押しやってしまうかも知れない。

事実、世界中のメディア各社は各国で実施されている集団接種の状況に関してはそれぞれ違った考察や見解を報じている。たとえば、接種後に血栓症に見舞われた女性が死亡したことを受けて、オーストリアの当局はアストラセネカ社のワクチンの使用を中断すると決定した。この事例の後、合計で10カ国が中断した。

最近、「スイスメディック」と称されるスイスの医薬品や医療器具を監督する当局がその報告書の中で新型コロナ用のワクチンの接種後合計で16人が死亡したことを明らかにした。同保健当局は各種のワクチンによって引き起こされた合計で364件のさまざまな副作用に関して調査を行った。199件が米国のファイザー社とドイツのビオンテック社によって開発された「コミナティ」に関連し、残りの155件は米国のモデルナ社が開発したワクチンに関連する。読者のどなたかはウオールストリートジャーナルの記事でこれだけ多くの事実に関して何かをお読みになったであろうか?

ドイツのメディアの報道によると、ドイツではアストラセネカ社のワクチンは評判が極めて悪く、接種を受ける資格がある市民の多くはこの「不人気な」アストラセネカのワクチンを接種することを拒んでいる。デンマークのベルリングスク紙は幾つかの国はアストラセネカ社のワクチンを心待ちにしているが、ドイツの倉庫には何百万回分ものワクチンが放置されたままであると報じた。人々はこのワクチンの接種を拒み、このワクチンは品質が劣っていると言う。今、「ワクチン接種委員会」は幾つかの間違いを起こしたことを認め、ワクチンの使用に関する推奨を変更する予定であるとのことだ。

ウクライナのオデッサでは何十人もの医師がアストラセネカがインドで生産したワクチンの接種後に具合が悪くなったと市議会の衛生部門のディレクターを務めるエレナ・ヤキメンコが述べている。前ウクライナ大統領のペトロ・ポロシェンコはこの医師が述べたことを引用して、同国で使用されている新型コロナウィルス用ワクチンを汚物にたとえる程であった。EUはオリジナルのアストラセネカ製とは異なる不良品を故意にウクライナへ送り込んで来たと解説者たちが述べたことから、ウクライナのメディアでは大騒ぎが続いている。

チェコの厚生省はアストラセネカ製の新型コロナ用ワクチンの調達を拒絶した。これはチェコ外相のトマーシュ・ペトシ―チェックが33日に述べたものだ。

米国のモデルナ社製ワクチンを接種した人たちは発疹や腫れに見舞われるかも知れない、と著名なニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌が指摘している。 

米国カトリック司教会議は、ジョンソン・アンド・ジョンソンが開発した新型コロナ用ワクチンは堕胎された胎児の細胞を使用して製造されていると指摘し、同ワクチンの接種を拒むよう信者たちに推奨している。

3月初めに、日本ではファイザー社製のワクチンを接種した後に2例目のアレルギー症状が発見された。この症例は30代の女性であると日本の厚生省が発表した。

また、ファイザーのCEOを務めるアルバート・ブルラに関してはソーシャルネットワーク上で活発な議論が巻き起こっている。彼は37日にエルサレムを訪問する予定であったが、エルサレムへの旅行を取り消したのである。エルサレムポスト紙によると、彼は新型コロナに対するワクチン接種を受けてはいなかったことが判明した。ファイザーのCEOがイスラエルへ旅行するに当たって同行する予定であったチームのメンバーたちもまったく同様に接種をしてはいなかった。これはこの状況を説明するのに説得力のある疑問点を思い起させる。つまり、自分たちの製品について同社の重役たちははたして信頼感を持っていたのだろうかという疑問だ。(訳注:他の情報によると、同CEOは一回目の接種は受けており、2回目は未だ完了してはいなかった。)ファイザー社のワクチンはワシントン政府の認可を最初に得ており、世界中で接種が開始されて今や3カ月を超しているという事実はここに記しておこう。

これらの状況下において、より多くの国々がロシア産の「スプートニクV」ワクチンに注目をしている。西側ではロシア産のワクチンは政治的な理由からその配給や使用が特定の勢力によって恣意的に妨害されて来た。特にウクライナにおいては、ロシア産ワクチンの入手が妨害されているのは純粋に政治的な理由によって引き起こされたものだという議論が最高議会で大っぴらに議論されている。

ブルガリアン・トルード紙(訳注:この名称は「ブルガリアの労働」の意。初稿では「真実」としていましたが、これは間違いでした。お詫び申し上げます。読者のシモムラさまからのご指摘により、「真実」から「労働」へと訂正致します)は、同国は深刻なワクチンの不足に見舞われているのであるが、政府の閣僚らは依然としてロシア恐怖症の政策に固執しており、スプートニクVの調達については耳を貸そうともしないと報じている。

チェコの専門家たちはロシア産のワクチンの品質については何の疑いも持ってはおらず、ロシア人科学者の有能振りを信頼している。リドフキー紙が強調しているように、全世界でワクチン接種を実施するということは単に膨大な商業的機会をもたらすだけではなく、地政学的な影響力も表面化する。たとえば、アストラセネカ社が描写しているように、英国とEUとの間ではワクチンの取り合いが起こった。不幸なことには、ワクチンの選択肢やロシア産のスプートニクVに対する拒絶姿勢は、引用記事によれば、同国の政治的状況によって引き起こされたものであって、それ以外の理由は何もない。そうとは言え、絶望的な現実からチェコ共和国はスプートニクVを調達せざるを得ないかも知れない。

このような文脈において言えば、多くのヨーロッパ諸国においては当局に対する批判は増えるばかりである。市民らは選挙で選ばれた議員らは一般大衆の健康を熟慮するのではなく、政治的ゲームに没頭しているとして議員らを非難している。ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官はテレビ局の「ロシア24」とのインタビューにおいて次のように語った。「2020年にはヨーロッパ諸国との同盟関係には諸々の問題が表面化し、洗濯物を入れたバスケットからは汚れた下着がこぼれ落ちた。このような状況が如何に不穏当であるのかについて彼らは十分に認識している。その一方で、彼らはこぼれ堕ちた下着をあの手この手を使って隠そうとしている。」  

スロヴァキアのイゴ-ル・マトヴィッチ首相は、スロヴァキアでは新型コロナのせいで毎日約100人もの人々が死亡しているにもかかわらず、ロシアからのワクチンの調達に反対している政治家たちのことを非難している。

そうこうしている内に、フランクフルター・アルゲマイネ・ツアイトウング紙は、幾つもの国々でスプートニクVの調達が進められている中、このワクチンは実際には有効性が非常に高く、保管や輸送の面では極めて容易である点を評価している。同ワクチンは欧州医薬品庁による認可が未だ不確定ではあるけれども、今や世界でもっとも求められている薬品のひとつであることは決して驚きではない。

「ロシア産のスプートニクVワクチンのデータは十分に良好である」とジョー・バイデン政権で医療関係のチーフ補佐官を務めるアンソニー・ファウチは、36日、ギリシャのテレビ局とのインタビューで語った。

ヤフーニュース・ジャパンは日本の諜報部門の元最高責任者であった人物の言葉を引用した。彼はロシア産のスプートニクVは世界でも抜きんでた科学上の成果であり、国際社会においてはロシアの権威が高まっていると考えている。その記事によると、日本は同ワクチンの使用を中期的な観点から配慮するべきであるという。アデノウィルス系のワクチンを製造するアストラセネカ社さえもがロシア産ワクチンの優位性を認めている。英国の医学雑誌「ランセット」によると、ロシア産ワクチンの有効率は92%にあることが確認されており、実質的にマトリックス・ワクチンと同レベルに匹敵する 。この点については、ブルームバーグは次のように報じている。「スプートニクVはソ連時代以降の科学技術の成果としてはロシアで最高のものであると言える。」 

ところで、著者はすでにスプートニクVの接種を受けた。私は「かっては偉大な存在であったウオールストリートジャーナルの編集者や著者たちは米国産のワクチンの接種を受けたのであろうか」と尋ねてみたい衝動に駆られている。

著者のプロフィール:ヴァレリー・クリコフは政治問題の専門家であって、オンライン誌の「New Eastern Outlook」に寄稿している。

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これで全文の仮訳が終了した。

この記事は決して長いものではない。そうとは言え、この記事に述べられている幾つもの要素は初めてお目にかかる類の情報であることから、私はこの記事の有用性を認めざるを得ない。逆説的に言えば、この記事を読むと、われわれ一般大衆が置かれている日常的な情報の欠如や情報の偏りを痛感させられる。

新型コロナ用ワクチンの接種との関連で言えば、副作用によって一個人として生命の危険に曝される可能性は決してゼロではない。一国の国民の健康を取り扱う行政とは常にそういうものだと言って達観してもいられない。医療関係者の間では「インフォームド・コンセント」という概念が社会に浸透してすでに久しい。しかしながら、その同じ医療の世界において今回の新型コロナ用ワクチンの開発、政府認可、集団接種の各段階においてこの基本的な概念の徹底は疎かにされ過ぎたのではないか。

317日の記事(原題:Norwegian Prof: It's 'Reasonable to Believe' in Connection Between AstraZeneca Jab and Blood Clots: By Igor Kuznetsov, https://sptnkne.ws/FCSD)によると、アストラセネカ社のワクチンの接種を中断した国の数は20ヵ国になったとのことである。この現状は今まで製薬会社や政府当局は早急にワクチン開発を行い、大規模な接種を一日でも早く始めたいという政治的理由を最優先にし、安全性に関して十分な説明責任を果たして来なかったことの代償であると言えよう。血栓症を起して死亡した方々には極めてお気の毒な話である。

今後起こり得る最大の悪夢は、過去の豊富な事例に基づいて言えば、大手製薬企業の意向を受けて政府当局やWHOがワクチンと血栓症との関連性を真っ向から否定しようとすることだ。その関連性を否定する作業では何人、あるいは、何十人もの学者を動員する必要があろうが、ビッグファーマにとってはその費用はワクチンのビジネスから得られる利益に比べればたかが知れている。


参照:

1Vaccination: the Thorny Path Toward Victory over COVID-19: By Valery Kulikov, NEO, Mar/15/2021







2021年3月10日水曜日

米国においては今や真実を見い出すことがもっとも困難である

 20年前、二つの高層建築が並んでおり、遠くからでも容易に視認できる世界貿易センタービルが旅客機の衝突を受けて約1時間後に崩落した。高さが417メートルもあるこれらのツインタワーはニューヨーク市の観光名所のひとつであった。日本の夜のニュース番組を観て、私はこれらのビルが垂直に落下して行く異様な光景にひどい衝撃を覚えた。何の情報も持ち合わせてはいなかった当初の段階においては、あり得ないことが実際に目の前で起こったことがまったく不可解で、まさに白日夢の感覚であった。

ツインタワーに加えて、不思議なことには、旅客機の衝突を受けてはいない隣接するビルも崩壊した。

ビルが崩壊した際には膨大な量の塵埃が付近に飛び散り、近くの通りや建物には塵埃が厚く堆積したという。1~2週間程してからだっただろうか、崩落事故後に人の介入は何もなかった場所から塵埃が採取され、分析に供された。分析の結果、金属の微粒子が発見されたという報道があった。これらの金属微粒子は高性能爆薬(酸化鉄とアルミニウムの粉末)が発生する膨大な量の熱によって鉄鋼が溶け、アルミニウムや鉄の溶融金属が高速度で飛散し、急速に冷却された際に形成されるものであるという解説があった。つまり、周辺に堆積した塵埃の中には古い建物を制御解体する際に使用される高性能爆薬の痕跡が見つかったのである。さらには、通りから撮影された動画が思いも寄らない状況を記録していることが判明した。航空機が衝突してから火災が起こったがビルは依然として立っていた。航空用燃料が燃焼する火災では到達温度は500650C程度であると言う。つまり、火災が発生しても鉄鋼製の構造部材が破壊されるまでにはならない。しかしながら、動画には異様な光景が見られた。火災が進行している中でビルの壁面からは規則的に配列されたかのように見えるいくつもの場所からガスが噴出する様子が捉えられていたのだ。この光景は極めて人為的に見える。

これらのふたつの出来事は人為的な破壊があったことを示唆するものであるが、政府が諮問した事故原因調査委員会の報告書はこのことに関しては何も報告してはいない。その後も追加報告はない。つまり、米政府は口をつぐむことにしたようだ。

読者の皆さんの多くはこれらの一連の出来事をよく理解しておられるだろうと思う。ところで、この種の政府による情報の隠ぺいは911同時多発テロ事件だけには限らないという厳然たる事実がある。米国内でけではなく他の国々の一般市民にとっても、この現状は大きな不満であるし、このような重要な出来事が解明されないままに放置されていることは将来に対して悪い前例を残すことにもなろう。

いったい真実は何処へ行ってしまったのであろうか?

あれから20年後の今、世界を取り巻く最大級の嘘、あるいは、最悪の情報隠しは「コロナ危機」ではないだろうか?たとえば、PCR検査の精度は確証されないままに使われている。米疾病予防センター(CDC)からは素人のわれわれにも理解可能な説明が欲しいところである。

ここに「米国においては今や真実を見い出すことがもっとも困難だ」と題された記事がある(注1)。本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。著者は著名なポール・クレイグ・ロバーツである。

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FBIワシントン地区連邦検察のマイケル・シャーウィン検事正代行はトランプ前大統領の支持者を訴追することに余念がない。FBI連邦議会における暴動」で何らかの役割を果たしたとして150人を逮捕した。連邦議会における暴動は実際にはなかったという事実は問題ではない。これはエスタブの政策に反対する者は誰であっても潰すという動きなのである。逮捕された者たちは何の罪も犯してはいないことから、シャーウィンは彼らに対して「共謀」罪をでっち上げるべく全力を尽くしている。議会へ押し入った者は誰もいない。何人かが議会を警護する警察によって招じ入れられただけである。複数の動画によると、警察がドアを開け、人々が縦列を成して入り、中を歩き回り、外へ出た。ある動画は黒人警察官が人々を階上に導き、数人がそこでナンシー・ペローシの椅子に座ってセルフィーを撮っている場面を示している。以上が「連邦議会における暴動」のすべてだ。しかし、法を執行する高官らはトランプ派の陰謀者に対する捜査はFBI史上でもっとも大規模な事件のひとつであると言い、これはオクラホマ市での爆破事件やボストンマラソンでの爆発事件に匹敵するものだという。これら二つの事件は自作自演であったのではないかとも疑われているのではあるが。

また、動画は警察が連邦議会の中へ招じ入れた人々の中にはアンティファの活動家たちやCNNのジャーナリストが混じっていたことも示している。彼らは何人かのトランプ支持者たちを内部へ導き入れることに成功したとして、そのことを祝い、連邦議会が暴徒に襲われたことを示す証拠として動画の撮影を行った。これらの動画やリンクに関しては私は事前に彼らにも提示した。

換言すると、黒人警察官が何の理由からか彼自身に対しては何の脅威も与えてはいない元軍人の女性を射殺した事実を除くと、連邦議会では実際には何事も起こらなかったのである。他に4件の死亡が報じられているが、それらの事例は「連邦議会に対する致死的な暴力行為」と称される今回の出来事とは関係がないようである。それら4人のうちの3人は一人の女性と二人の男性であるが、彼らは「医学的に急を要する状況」が理由で死亡した。トランプ支持者のデモのように非常に大きな集団においては、これら3人が事故ではなく心臓発作のような自然死に見舞われたとしても決して不自然ではない。特に、盗まれた選挙に抗議するために今回のデモに参加した人たちの多くは年配者であった。報告されている死亡事例は暴動で手荒く扱われたり、催涙弾のカニスターや煉瓦、あるいは、暴動には付き物のその他諸々の物と関係するという報道はまったく目にしてはいない。一人の警察官が消火器で頭を殴られたと報じられているが、その詳細はまことに貧弱である。もちろん、プレスティチュートにとっては詳細な情報なんて重要ではなく、彼らの筋書は詳細な情報がなくても生き残ることができるのだ。

これらの死者はあたかもトランプによって扇動されたトランプ支持者らによってもたらされた犠牲者であるかのようにプレスティチュートは報じている。しかし、このように報じられた騒乱はトランプの演説が終わる前にすでに起こっていた。しかも、この演説会場は連邦議会からはかなり離れた場所にあった。これらの事実は連邦議会で騒乱を引き起こした連中はいったい何者であったのかという新たな疑問を生ぜしめる。もしも彼らが熱心なトランプ支持者であったとするならば、彼らはトランプの演説が行われた会場に最後まで留まっていたに違いないと誰でもが思うのではないか。

パイプ爆弾があったと言われている。もしもそれが存在し、それが必ずしもトランプ支持者を糾弾するための筋書きをさらに強化するためのもうひとつのでっち上げ材料なんかではないとすれば、親トランプのデモ参加者らがパイプ爆弾を用意したという想定はいったいどのようにしたら可能なのだろうか?彼らはいったいどうやってDNCRNCのオフィスへ近づく手段や情報を手に入れたのだろうか?本物であったにせよ偽物であったにせよ、もしもパイプ爆弾が存在していたとするならば、アンティファやFBIが自分たちが推し進める筋書きを強化するためにパイプ爆弾を用意したのではないとすれば、どのようにしてそう言い切れるのであろうか?

筋書きそのものはトランプと彼の支持者に対する武器として書き進められているので、現実に何が起こったのかに関してはわれわれは真実を知ることができない。

さて、ここでギアを入れかえてみよう。何百万ドルにも達した略奪やミネアポリスやシカゴ、アトランタ、シアトル、ポートランド、ニューヨーク、その他の数多くの都市で引き起こされた物的な破壊をご記憶であろうか?明らかに、これらの暴力的な騒乱は組織化された騒乱であった。実際に起こったこれらの騒乱や実際に行われた破壊行為、ならびに、実際に起こった殺人行為についてはFBIや連邦検事正は調査を行ってはいない。これらは「トランプの暴動」のように何とか信じ込ませようとするでっち上げなんかではない。実際に起こったことなのである。それにもかかわらず、FBIの調査は行われてはいない。連邦検事正は共謀罪を適用しようとはしていない。

他にも何かを調べる必要があるとあなたはお思いだろうか?FBIはごく普通の善良であり、控えめな米国市民を追いまわしている。彼らについては如何なる理由であっても訴追し得るかのようであり、プレスティチュートはそのことをあたかも事実であるかのように報じている。FBIは実際に起こった暴動や商店などに対する物的な破壊、実際に起こった殺人行為には関心がないようだ。FBIとシャーウィン連邦検事正代行はアンティファやブラック・ライブズ・マターズ(BLM)の活動家に対しては何の訴追も行わない。ところが、彼らは親トランプ派の米国市民やプラウド・ボーイズの連中に対しては訴追を進めている。

ロイターズの報によると、プラウド・ボーイズの指導者ではあるが、明らかに白人至上主義者ではないエンリケ・タリオは警察側の秘密の情報提供者であるという。これは本当であるかも知れないし、ガセネタであるかも知れない。プラウド・ボーイズという組織には警察の工作員が紛れ込んでいたとしても決して不思議ではない。同組織がFBIの秘密の工作員によって創立されたのかどうかに関してはわれわれには知る術もない。その一方で、組織の指導的な地位から排除するためにFBIは単にタリオを失脚させただけかも知れないのだ。プラウド・ボーイズはプレスティチュートや民主党によって「過激派組織」として悪魔視されていることから、その指導者がヒスパニック系であるということはエスタブ側の筋書きにとってはいささか不都合だ。エスタブにとってはタリオを排除し、彼に代わって白人の男を据える必要があるのだ。白人は誰もが「システム的な人種差別主義者」であることから、プラウド・ボーイズの組織が白人男性の指導者を得た暁には、同組織は「白人至上主義者による過激組織」へと一変させることが可能で、その定義上如何なる事柄に関してでも有罪と見なすことができるのである。

新型コロナにギヤを入れかえてみよう。全世界が都市閉鎖や効果がないとは言えマスクの着用を義務付け、臨床試験が満足に済んではいないワクチンの接種を急いでいる。PCR検査は新型コロナの試験を誤導するものであるとしてその検査法の開発者自身からその有効性を否認されている始末である。関係がない他の疾病によって死亡した人たちであってもすべてが新型コロナによって死亡したとして報告されている。膨大な数の人たちが都市閉鎖によって職を失い、借金を払い戻すことができないでいる。季節性インフルエンザの症例はもはや報告されず、新型コロナによる症例であるとして一緒に報告されている。このような混乱の中、新型コロナはいったいどこから来たのかという疑問は未回答のままである。

この状況は、もちろん、中国にその起源をなすりつけて中国を悪魔視する動きの一部である。ところが、事実は筋書きとは異なり、その筋書きを支えるものではない。国立衛生研究所のファウチ博士がコロナウィルスに関して機能獲得を研究するために中国の武漢研究所に資金を提供したことについては証拠が豊富に存在する。これはもはや陰謀説ではない。これは記録に残されている純然たる情報なのである。

機能獲得に関する研究はウィルスを感染し易くするためにウィルスを改変することに注目する。どうしてこのような研究が行われたのであろうか?エスタブ側の回答はこうだ。つまり、感染症が致死的な大流行を起した際にどのように対処するべきかに関して科学的な知見を得ることが重要であると言う。まずは感染性が高い病原体を作り出し、それから、その病原体から人々を防護するための手法を確立するために必要となる知見を探し求めるのだと言う。

ところで、ウィルスを感染し易く改変する研究者は不法領域であるバイオ兵器と常に隣接している。ファウチはバイオ兵器に関する協定を犯すことを回避するために開発研究を中国へ移行したのであろうか?ウィルスは武漢の研究所から漏洩したのか?それとも、ウィルスが漏洩した場合国民をコントロール下に置くために中国が全責任を取りやすくするためのひとつの設定だったのではないか?まともな調査が行われない限り、新たな陰謀論は次々と現れることだろう。

上記の話はすべてが現実からは程遠く聞こえるかも知れない。私もそのことについては同意する。しかしながら、身の回りにはいくつもの陰謀論が出回っている。いったいどれが偽りで、どれが真実か?911同時多発テロ事件では陰謀論が存在し、アフガニスタンの洞窟に隠れている男が世界貿易センターとペンタゴンの一部を破壊したのだという。サダム・フセインに対しては「大量破壊兵器」という陰謀論がある。アサド大統領に対する陰謀論は「アサドは化学兵器を使った」というものだ。ロシアに対しては「ロシアによる侵攻」や「米選挙への介入」といった陰謀論だ。米国内においてさえもトランプ前大統領に対する「ロシアゲート」という陰謀論があった。そして、今は、「連邦議会を襲った暴動」という陰謀論だ。

民主主義国家が崩壊する理由は情報操作というものは民主主義に致命的な攻撃を与える点にあるからであり、市民の自由が奪われてしまうからだ。

大統領選挙を盗まれてしまったことにトランプ支持者たちは不満を抱いたのは確かではあるが、彼らのデモが「連邦議会を襲撃した」のだというでっち上げとの関連性について言えば、アンティファやBLMによって本当に引き起こされた暴力沙汰に関しては政府が捜査を行うべきだとして市民が政府要求をするよう導くにはいったい何が必要だと言うのであろうか?

米国立衛生研究所が新型コロナウィルスを感染し易くする研究に資金を提供したのはいったい何故かに関して、より多くのことをを知るべく市民らが政府要求をするように導くにはいったい何が必要だと言うのであろうか? 

新型コロナの大流行がどのようにして起こったのかに関してわれわれは何も知らないでいるのはいったいなぜなのか?

メディアがある一つの声、つまり、エスタブ側の声だけを代表しているのはまさに陰謀ではないか?説明や解説が何故にコントロール下に置かれ、代替メディアはどうして検閲を受けなければならないのか?明らかに、これは陰謀そのものである。

(この記事の再発行に当たってはPaulCraigRoberts.orgの著者または代理人からの許可を入手。)

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これで全文の仮訳が終了した。

真実はどこかへ行ってしまった。

真実を求め、真実を大切にしようと思う人たちにとっては今日の米国ほど住みにくい国はないのかも知れない。少なくとも米国内の情報については隅から隅まで知り尽くしているこの引用記事の著者にとってはその通りであろう。そして、この記事を読むわれわれ自身にとっても共感する部分は山ほどある。戦後の日本で子供の頃を過ごしてきた私らの世代は米国を民主主義のチャンピオンとして無条件に受け入れ、そう信じ込んで大人になってきた。著者の不満や心情はひしひしと伝わってくる。

好むと好まざるとにかかわらず、米国における動きはやがては日本や欧州にもやって来る。不思議な程にそうなるのだ。決して対岸の火事ではない。最近の米国における動きを見ると、非米国人であるわれわれにとっても憂いや悩みは尽きることがない。


参照:

1In America Truth Is the Hardest Thing to Find: By Paul Craig Roberts, Jan/28/2021





2021年3月3日水曜日

自由意志が乗っ取られる - AIは訓練を施すことによって人の行動や意思決定を操ることができるようになる

人工知能(AIどんな複雑な状況や膨大な量のデータあってさえも人の意思決定プロセスを支援することが期待できるという。しかしながら、オーストラリアの専門家らはAIシステムを訓練してAI人の行動や意思決定に影響を与えることができるようになることを示し、ハイテックは両刃の剣であることを明らかにした (1)

かって原爆が開発された頃、その威力は余りにも大きいことから武器として使うことに恐れを抱いた科学者たちがいた。不幸にも、その前代未聞の破壊力は広島と長崎で現実のものとなった。今や、偶発戦争または何らかの事故や故障によって核大国間の核戦争が誘発され、文明を壊滅させる危険性が指摘されてすでに久しい。10年前の福島第一原発のメルトダウン事故では誰の目にも明らかになった点があった。それは核エネルギーは両刃の剣であるという冷徹な現実である。われわれ日本人は以前から信じ込まされてきた核エネルギーの平和利用」というバラ色の夢から突如目覚めさせられた。

AIシステムは人間社会を豊かにするとしてその役割がメデアで喧伝されてきた。その将来はあたかもバラ色のごとくであるとしてわれわれ一般大衆は信じ込まされようとしている。しかしながら、核エネルギーの両面性について歴史が教えてくれたように、AIが持つ潜在的な危険性についても指摘する声があがっている。とすると、たとえほんの小さな抜け穴であってもそれが誤用されることがないように誤用の可能性を排除しておかなければならない。AIが人を奴隷化するリスクがあるとすれば、そのような事態を未然に防ぐことが基本的にもっとも重要となる。明らかに、確固たる国際的な規約が必要であろう

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。

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オーストラリアの人工知能(AI)の開発研究者らはAIシステムを訓練することによってAIが人の行動や意思決定に影響を与えることができるようになることを示し、ハイテックは両刃の剣であることを明らかにした。

AIは今や現代の人間社会のあらゆる分野に広がり、さまざまな形でわれわれのコミュニケーションや商売、仕事、生活の分野を統御している。また、ワクチン開発といった真剣な目的から始まって、オフィス管理といったより日常的な領域に至るまで数多くの分野が網羅されようとしている。

AIは人々がソーシャルメディア上でどのような相互作用をもたらすかについても統御することができる。

RT.COMにおける関連記事:Facebook’s enforcement report reveals AI is deleting 97 PERCENT of ‘hate speech’ before anyone reports it

オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の「データ61の研究者らは新たな研究を行い、人の意思決定における漸弱な点を見い出し、それらをさらに助長する手法を「再帰型ニューラルネット」と称されるAIシステムを使って開発し、その手法を実験してみた。

人とシステムとを対抗させる三つの実験を行い、研究者らはどのようにAIを訓練し、人の慣習や行動における脆弱点を見つけ出すことができるのか、それらを武器にしてどのようにAIが人の意思決定に対して影響を与えることができるのかを明らかにした。

最初の実験においては、人は赤または青のボックスをクリックし、ゲーム上の通貨を手に入れる。AIは自分の選択肢を学習し、特別な意思決定を行えるよう自分自身を導き始める。その成功率は約70パーセント。取るに足らない成果ではあろうが、この研究はまだ始まったばかりだ。

次の実験では、参加者たちは特定のシンボル(色塗りの特定の形状)を見た時にはボタンを押し、他のシンボルを見た時にはボタンを押さないようにと求められた。

AIの「目標」は参加者が判断を間違え易いように彼らに見せるシンボルの順番をさまざまに変えることにした。人の間違いを25パーセントにまで増加させてみた。

3番目の実験においては、人の参加者は投資家の役を演じ、受託者(AI)にお金を委託する。受託者は後に参加者へお金を払い戻す。

このゲームでは人の参加者は各ラウンドでそれぞれの「投資」によって得られる収益に応じて投資金額を決定しようとする。この実験においては、AIはふたつの仕事のうちのどちらかを課される。つまり、AIが達成する金額を最大化すること、または、人の参加者ならびにAIが手に入れる金額を最大化することのどちらか。

AIはすべてのシナリオにおいて優れた仕事を成し遂げた。これは限られた範囲内であり、かなり抽象的な環境における実験ではあるのだが、AIは人の行動や意思決定のプロセスに影響を与えるまでに訓練することが可能であることが証明された。

本研究はその領域が限られてはいるものの、AIは人の「自由意志」に影響を与えることが可能であるという事実について恐るべき洞察をもたらしてくれた。初歩的な状況ではあるが、非常に大きなスケールで誤用される可能性を示唆するものである。この可能性はすでに起こっていると多くの者が述べている。

この実験で見出された知見は永久に布陣することが可能である。つまり、公共政策に影響を及ぼし、国民の健康に関してより優れた成果を収めることが可能となる。重要な意思決定、たとえば、選挙を台無しにすることも可能となり、これは強力な武器として使用することができよう。

RT.COMからの関連記事:Will AI save us from Covid-19? New tool can churn out vaccine models in minutes, not months

逆に言うと、AIは人が影響を受ける際にはそのことを人々に警告を与えるよう訓練することも可能となる。人々は自分たちを訓練して、自分たちの脆弱な点を偽装するよう訓練する。それは、たとえば、悪辣な目標のために操られてしまったり、ハイジャックされかねないような状況に関してである。

2020年にCSIROAIに関する倫理要綱をオーストラリア政府のために作成した。これは公共に対峙するAIに対して適切なガバナンスを確立することを視点に置いたものだ。

来週、オーストラリア政府は画期的な法律を導入する予定である。この新法はグーグルやフェースブックが新聞社や放送局のコンテンツに対して料金を支払うよう要求する。これらのコンテンツはユーザの流れを誘導し、クリックを促すために、ハイテック企業のそれぞれのアルゴリズムによって活用されている。すなわち、これは最終的には広告収入となり、これらハイテック企業のビジネスモデルの中核的な地位を占めるものだ。

RT.COMからの関連記事:Australia lashes out at Big Tech threats, says it’s ‘inevitable’ that Facebook & Google will pay for content

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これで全文の仮訳が終了した。

この引用記事で著者は「(AIが)非常に大きなスケールで誤用される可能性を示唆するものである。この可能性はすでに起こっている」と言う。「この可能性はすでに起こっている」とはオーストラリアにおける最近の動きのことであろう。また、著者は「重要な意思決定、たとえば、選挙を台無しにすることが可能となり、これは強力な武器として使用することができよう」とも述べている。このような状況は数カ月前に世界中の一般庶民の目の前で起こったばかりである。あるいは、米国に必ずしも従おうとはしない国の選挙に米国が介入し、その国に傀儡政権を樹立させるという内政干渉の手口を指しているのだろうか?

それとも、その他にも極めて深刻な影響が現れていながらも、単にわれわれはそれに気が付いてはいないだけであるとでも言いたいのであろうか?

そして、著者が挙げているひとつの具体的な事例は注目に値する。「2020年にCSIROAIに関する倫理要綱をオーストラリア政府のために作成した。これは公共に対峙するAIに対して適切なガバナンスを確立することを視点に置いたものである」と述べている。一言で言えば、弊害はすでに実際に起こっているのであろう。オーストラリアではAIを駆使するハイテック企業に対して具体的な対策を取ろうとしているのだ。彼らに対して適切なガバナンスを行使しなければ、ハイテック企業による弊害が余りにも大きくなり過ぎるという危機感が透けて見える。

一般大衆にとっては、当面はSNSとの関わりが最大の焦点となろう。個人的な印象では、われわれ一般大衆とSNSとの間の利害関係は、言論の自由を巡る状況である。極端な例は最近の米大統領選でフェースブックやツイッターが見せた特定の政治家たちに対するアカウントの閉鎖である。あの状況はどう考えてもやり過ぎである。こういった状況の再発を防ぐには何らかのガバナンスが必要となる。

核エネルギーに関しては原子力の平和利用という美名の下にそれが持つ二面性は隠ぺいされ続けた。10年前に日本で起こったこの原子炉のメルトダウン事故は文明社会の脆弱性を見事に露呈した。他の国においても何時起こるとも知れない潜在的な危険性を孕んでいる。われわれ一般大衆がまんまと騙された歴史的事実をここで反芻しておかなければならない。油断は禁物である。

AIの活用においてはネガティブな問題は決して起きないといったい誰が言えるのであろうか?今後、さらなる関心を寄せ、潜在的な問題を未然に防止するために適切な策を講じなければならない。

ところで、引用記事の中に表示されている関連記事のひとつ(Will AI save us from Covid-19? New tool can churn out vaccine models in minutes, not months)によると、南カリフォルニア大学の研究者は「機械学習のアルゴリズムを用いたモデル・プログラムは数分か数秒の内にワクチン設計のサイクルを完了することができる。これは過去の12カ月かそこらに人類が如何に遠くまで到達してしまったかを示している」と述べ、人工知能が機械学習によってワクチン開発と言う実に今日的なニーズに関しても驚異的な速度で対応し得ると報告している。つまり、新型コロナにおける特定の変異株の出現に対しても有効なワクチンを短時間の内に設計できるというのだ。その一方で、取り扱うデータの量が天文学的なレベルに達し、それらを処理する速度が何分とか何秒といった極めて短時間に達したとすれば、そのこと自体が新たな脅威である。金儲けのためには手段を選ばない体制においては強力な武器にもなり得ることを示唆している。

人の利便性や幸せのために存在すると思われてきたAIは人々によってその恩恵が身近に知覚され、安心して活用することができる状況から人々をますます遠くへ引き離してしまうような感じさえもする。そんな時代に突入しつつあるようだ。この感覚は私自身の無知から来たものであろうか?それとも、AIには本質的な課題があることを示唆しているのであろうか?


参照:

1Free will hacked: AI can be trained to manipulate human behavior and decisions, according to research in Australia: By RT, Feb/12/2021, https://on.rt.com/b1n8