これから米中戦争は起こるのだろうか?
答えは誰にも分からない。米中戦争がやって来るという人もいれば、米中戦争は決して起こらないと予測する人もいる。
120年前に中国は欧米列強を相手に非常に屈辱的な国際条約を呑まされ、当時の清王朝だけではなく、その後を継いだ中華民国にも甚大な重荷となった。特に、義和団の乱に関する賠償金の支払いや外国軍隊の駐留権を認めたことは長い間中国を植民地状態に置くことになった。
その後120年、今の中国は経済大国と化し、国際舞台での影響力は拡大するばかりである。その中国を評して、習近平政権は崩壊する寸前であるという見方もある。しかし、それは中国共産党が何らかの理由で国内の統率力を失ってしまった場合に限られるだろう。たとえば、経済運営で大失敗して、大多数の国民からの信頼感を完全に喪失した場合などが考えられる。
その一方で、中国は着々と軍事力の増強を図って来た。もちろん、米軍と中国軍との総力を比較すれば、中国は遥かに劣勢である。しかしながら、南シナ海とか台湾、あるいは、尖閣諸島、等を米中戦争の最前線として捉えた場合、中国軍はそういった局地戦に自分たちが持っている地の利を最大限に活用することが可能である。この地の利については米国はどう考えているのだろうか。間違いなく、われわれ日本人にとっては深入りして考えたくはない領域の話になって来る。米国はあくまでも自国からは何千キロも離れた地域での両軍の戦闘を考えるのが常だ。つまり、日本は米中戦争では米国のための代理戦争に巻き込まれるという可能性が急浮上してくる。
また、中国の先端技術の進歩は目を瞠るばかりである。最近の記事(原題:China Is Winning The Great 21st Century Tech War: By Tyler Durden, Mar/11/2021)によると、中国は今年が初年度となる第14次5ヵ年計画において先端技術に対して多額の研究費を注ぎ込む計画である。たとえば、人口知能、クアンタム情報、半導体、脳科学、ゲノム解析、バイオテクノロジー、臨床医学、健康・保健、深海、宇宙、地下探査、等である。中国政権がこれらの領域で成果を収めた暁には全世界の地図は赤い色で覆われるであろうと彼らは大胆に予測している。中国の強みは政府主導によるトップダウン型式の意思決定にあり動きが速く、多額の資金が注入され、総力を結集し易い点に特徴がある。その一方、米国においてはこの種の動きは苦手であって、あくまでも個々の民間企業の自由意志による対応となり、実行は遅く、資金を集中させることは決して易しくはない。
さまざまな見解や想定があり得るが、ここに、「シミュレーション:米国は対中戦争においてあらゆる局面で敗退し続ける」と題された記事がある。
日本人にとっては直接・間接に気になる米中戦争はいったいどのような展開をするのであろうか?前提の上にさらなる前提を置くシミュレーションであるとは言え、極めて重要な要素であることには間違いはない。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。
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2020年の秋、米空軍は約10年後を想定し、米中戦争のシミュレーションを行った。
その戦争は生物兵器を用いて始まった。米軍の軍事基地やインド・太平洋に散開する米戦艦は速やかに駆逐された。
それから、中国は侵攻する軍隊の大規模な展開を隠蔽する目的で巨大な軍事演習を行った。
戦況は中国軍のミサイルがその地域にある米軍基地や戦艦に向けて雨あられの如く発射され、台湾は航空機や強襲揚陸艦による攻撃に曝された。
実に短期間のうちに中国が勝利した。
以上が既報のごとく極秘のシミュレーション結果ではあるが、その詳細は今や公開されている。
ちょうどその頃、実生活に関して言えば、2020年の9月、本物の中国軍の戦闘機が稀にしか越境することがない台湾海峡の中間ラインを超して、台北に向かって侵入して来た。「まったく前例のない出来事で、何と40回にもわたって越境し、台湾に対する模擬攻撃を行った。」 台湾総統はこれを「実に不穏な動きだ」と評した。
中国空軍は核爆弾を搭載することができる爆撃機が太平洋のグアム島にあるアンダーソン空軍基地に対して模擬攻撃を行っている様子を示す動画を公開した。
あたかもハリウッド映画のようなこのプロパガンダ用動画の表題は「戦の神H-6K(爆撃機)が攻撃に向かう」である。
中国はさらに前進し、その一方で米国は後退するという趨勢が新型コロナの大流行の間にさらに加速された。
今月、外交問題評議会は「米国、中国および台湾 - 戦争を防止する戦略」と題して、報告書を公開した。
同報告書は台湾は米中間に「起こり得る戦争ではもっとも危険な紛争の火種になろうとしている」と結論付けた。
上院における証言でアメリカインド太平洋軍のトップであるフィル・デイビッドソン総督は中国は「今後の10年間に、実際には6年以内に台湾を併合しようとするであろう」との警告を発した。
それとは別に、中国のシンクタンクは、最近、米中間の緊張は1989年の天安門事件以来最悪のものになったと述べて、共産党指導者に対米戦争に準備を怠らないよう進言した。
何年にもわたって行われてきた極秘のシミュレーションによると米軍はこの戦争に敗北するという結論が得られてはいるのだが、明らかに、大多数の米国人はこのことについては何の認識もない。
「10年以上も前、われわれのシミュレーションによると中国は軍事力の増強においては立派な仕事を成し遂げ、その結果、われわれが軍隊を派遣して戦いを行うという好みのモデルを実行することはますます難しくなって来ることを示していた。われわれの好みのモデルでは軍隊を前線へ送り込み、比較的安全な基地から、あるいは、戦闘からは離れた場所から戦争の指揮をとるのが普通だ」と、米空軍の幕僚副長を務め、戦略・統合・要件を担当するS・クリントン・ハイノート中将が独占インタビューでヤフーニュースに語った。
「あの時点でわれわれの戦争シミュレーションの大まかな方向性はわれわれが戦争に負けるだろうということだけではなく、急速に負けてしまうということを示していた」とハイノート中将は言った。2018年に行ったシミュレーションの後、私は空軍の参謀長官の前に立っているわれわれのシミュレーションの大御所のひとりが言ったことをはっきりと覚えている。彼は皆に向かって「われわれは中国が台湾を攻撃するというこの種のシミュレーションは二度と行うべきではない。何故かと言うと、何が起こるのかをわれわれは良く知っているからだ」と言った。米軍がその方針を変えない限り、決定的な答えはわれわれは非常に速やかに負けるということに尽きる。このような事態の場合、米国大統領としてはほとんど既成事実となっている現状を率直に提言して貰いたいことであろう。
バイデン政権は最近ペンタゴンに新たなタスクフォースを設置すると発表した。これは対中国の国防政策を吟味するためであって、ロイド・オースチン国防長官がこのタスクフォースを指揮する。
劣化しつつある台湾の安全保障こそがこの新たに設置されたタスクフォースの主要な仕事である。
「ところで、中国には戦争計画が三つ存在するが、何れも台湾を巡るものである」とハイノート中将が述べている。
「彼らは台湾について計画を練っている。台湾については年がら年中考え続けているのだ。」
何れの案件であっても、台湾を巡る戦争シミュレーションでは米国は決まって負けてしまう。
「台湾に関してのシミュレーションを過去の何年間か行ってきたが、あのシナリオでは時間がもっとも貴重な要素となり、戦場からの近さや彼らが持つ戦闘能力は中国側の勝利に味方することから、どのシミュレーションをとってもわれわれの青組は何時も完全にやっつけられてしまう」とランド研究所の上級分析専門家であり、国防省の前次官補代理で戦力開発を担当したデイビッド・オチマネックが言った。「あの種の一方的な敗北は青組側の米軍将校にとっては本能的なレベルでの経験であって、これらの戦争シミュレーションは意識の向上を促す格好の場を与えてくれた。しかしながら、米軍は依然として中国の進歩のペースに歩調を合わせてはいない。それが故に、10年前に本件をより真剣に捉え始めた頃に比較して、状況がずっと良くなっているなんて私には決して考えられない。」
問題の一部はペンタゴンが過去20年間にもわたってイラクやアフガニスタンで対テロ戦争や暴動に対する戦いに従事し、米国は中国からは遠ざかっていた間に中国が接近阻止・領域阻止の面で大いに飛躍したことにある。
また、北京政府は台湾や地域の覇権には十分な注意を集中しているが、米軍は世界中でさまざまな潜在的紛争に軍事力を投影し、準備をし続けなければならない。このような状況はペンタゴンにオチマネックが言うところの「注意欠陥不全症」をもたらすのである。
最終的には、永久の勝者という独りよがりな考えに陥って、米軍の上級将校らは他の国が自分たちを脅かすなんてことはとても考えられないのである。
「私の答ええはこうだ。中国がますます軍事的に自信を深めている事実は隣国に対して今まで以上に好戦的な態度を見せていることに現れており、人民解放軍は台湾や日本の領空をますます頻繁に侵犯し、南シナ海地域の隣国に対する力の誇示にも見てとれる」とオチマネックが述べた。「習近平の下、そういった挑発行為は10年前に比較して劇的に増加した。これは中国は軍事的に十分に強力であって、われわれに挑戦することが可能であるとの考えに基づいているものだろうと私は思う。」
もっとも最近行われた戦争シミュレーションにおいてはペンタゴンは潜在的な軍事力や多くの場合依然として製図版上でしか存在しない軍事的概念がもたらすと考えられる影響力についても吟味した。
中国を表わす赤組との紛争においては、米軍を代表する青組はより防御的で、大規模ではあるが、広域に散開する脆弱な基地や港湾、空母への依存をより少なくする態勢を採用した。
この新戦略は、対艦ミサイルや移動式ロケット砲、無人ミニ潜水艦、魚雷、対空ミサイル、等の諸々の部隊を含め、長距離用の移動型攻撃システムの多くにとっては強い味方となった。 そして、米国の政策決定者による意思決定を速めることを可能にする早期警戒や正確な情報の両面を増強し、指揮・コントロールシステムが散開した軍の行動を調整する能力を高めるという最高のおまけさえもが付いてきた。
「われわれはその中核に柔軟性を持った軍隊を編成し、赤組はその軍隊を吟味し、われわれをやっつけるには膨大な火力を必要とすることが彼らには分かっていた」とハイノート中将が言った。この新たに行われたシミュレーションで得た最大の洞察は彼が人民解放軍のトップの役割を演じた赤組のリーダーと後に話をした際に表面化して来たのである。
「赤組のリーダーは国防総省が行う戦争シミュレーションにおいてはもっとも経験があって、もっとも攻撃的な将校であり、台湾とその領域に展開したわれわれの防御態勢の柔軟性を始めて目にした時、俺は攻撃なんてしないと言った」ことをハイノートは思い起した。「もしもわれわれがあれだけのレベルの不確実性を作り出し、中国のリーダーに自分たちは果たして軍事的目標を達成することができるのだろうかと危ぶませることができるとすれば、これは将来の戦争抑止はどのようなものでなければならないかを如実に示すものとなるだろう。」
真面目な注釈を付け加えるとすれば、ハイノートは最近のシミュレーションで試験された青組の軍隊の布陣は国防総省の現行の計画には未だ何も反映されてはいないと指摘している。
「国家防衛戦略の目標を達成するに当たってわれわれにはどのような種類の軍隊が必要であるのかが分かり始めた」と彼は述べた。「しかし、それはわれわれが今日計画を練り、構築しようとしているような代物ではない。」
多分、何時の日にか対中戦争のシミュレーションで米国が勝利を収める日が来るであろう。
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これで全文の仮訳が終了した。
ここに報じれらている内容は、米国が今までの戦争形態に頼っている限りは、台湾を巡る米中戦争では米軍は速やかに敗退することになるだろうと言っている。つまり、これは従来の空母を中心とした攻撃艦隊を中国の近海へ派遣するという米国の戦法は中国側の技術革新、たとえば、極超音速対艦ミサイルの配備によって軍事的にはすっかり陳腐化してしまったという事実を反映しているのだと思われる。
しかしながら、今までの軍事的経験には頼らない準備をすればいつの日にか戦争シミュレーションでの連敗記録にストップをかけることになるかも知れないと言う。要は、中国政府が台湾を軍事的に併合する時期(6年後?)と米軍が万全の準備を完了することができる時期(極超音速ミサイルの開発や極超音速ミサイルに対する防衛体制の配備は何時になるのか?)との間の競争になるが、いったいどちらがより早くやって来るのかという問題だ。
さて、どんな結末となるのであろうか?私にとっては戦争を経ないで米中が仲直りしをすることしかないのだが・・・。
参照:
注1: The US Keeps Losing In Every Simulated War-Game Against China: BY Tyler Durden, Mar/14/2021
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