2017年4月8日土曜日

マイケル・ハドソン: 資金調達はまさに戦争モードだ



マイケル・ハドソン教授はこのブログの読者の皆さんの間ではすでにお馴染みの論客だ。

何と言っても、2014423日に掲載した「ウクライナのキエフで死者を出した発砲事件には反政府派が関与 - ドイツの公共テレビ放送」と題した投稿は多くの皆さんの関心を呼んだ。キエフで起こったマイダン革命の直後の頃にあれだけしっかりとした洞察を公表できる人は稀だと思う。3年後の今読み返してみても矛盾はこれっぽっちも見当たらない。

また、同年の105日の投稿「IMF融資とウクライナ」においてもIMF融資に関してマイケル・ハドソン教授による詳しい解説には目を見張らせるものがあった。米国がゴリ押しするウクライナに対するIMF融資は、結局のところ、ウクライナ東部のロシア語住民に対してウクライナ政府が遂行している内戦の継続を維持するためのものであった。IMFの内規によれば、内戦が続いているキエフ政権に対しては融資はできないことは明らかであるのだが、ロシアの経済基盤を弱めるためならば対ロ政策として何でもしてやろうという米国の姿勢が色濃く読み取れる。この点を明確に論じるハドソン教授の切れ味は実に見事である。

英語圏でもっともよく読まれているブロガーのひとり、経済分野に強いポール・クレイグ・ロバーツはマイケル・ハドソンを次のように評価している

「マイケル・ハドソンは世界で最高の経済学者である。実際に、彼は世界でただ一人の経済学者だ。残りの連中は皆がネオリベラル派であって、経済学者ではなく、金融機関のサクラに過ぎない。・・・彼は経済学においてノーベル賞を受けて然るべきであるのだが、彼は決してノーベル賞を授与されることはないだろう。 ・・・どのようにしたら経済を学ぶことができるのかと私は多くの人たちに質問される。私の答えはこうだ。ハドソン教授の本を読むこと。まず、その本が何について書いているのかを把握するために1回か2回通読する。次に、各章毎に精読する。その本を理解することができたならば、あなたはノーベル賞を授与された経済学者よりも経済をよく理解しているのだ。」 (出典: The West Is Traveling The Road To Economic Ruin - Paul Craig Roberts, Feb/01/2016

ポール・クレイグ・ロバーツの言葉はかなりパンチが効いているが、当ブログが扱ってきたマイケル・ハドソン教授の記事を読んだ時の衝撃を思い起こすと、ハドソン教授の業績を語る言葉としては実に妥当であると思う。

この2月に「資金調達はまさに戦争モードだ」と題するギリシャ経済に関する記事 [1] が現れた。ハドソン教授の再登場である。

本日のブログではこのハドソン教授の見解を取り上げて、読者の皆さんと共有してみよう。

ハドソン教授はサラ金地獄のような状況に陥っているギリシャは今どのような問題に直面しているのか、IMFの融資の背後ではどのような筋書きが用意されているのか、他のEU加盟国に対する影響はどうか、といった問題について示唆に富んだ解説をしている。


<引用開始>

シャ―ミニ・ペリーズ: こちらはリアル・ニュース・ネットワークです。私はシャ―ミニ・ペリーズです。バルチモアからお送りしています。

最近の経済指標によりますと、2016年の最後の3ヶ月間にギリシャ経済は0.4パーセント縮小しました。これはギリシャに現実的な問題を提起することになります。何故ならば、ギリシャに対する貸し手側は救済融資の返済を可能にするためには年間で3.5パーセントの成長を期待しているからです。ギリシャは借金の返済で今夏105憶ユーロを捻出する予定でいますが、860憶ドルの救済融資からの分割払いを受けない限り、この支払いを実行することは出来そうにはありません。

ギリシャに対するふたつの大きな貸し手、つまり、IMFと欧州中央銀行の行き詰まりは高まるばかりであって、ギリシャを債務不履行に押しやり、ユーロからの脱退を脅かしています。その一方、ギリシャ政府は貸し手側に対してはこう伝えています。『我々は今「トロイカ」を招集し、ギリシャはこれ以上の緊縮政策には同意しないことを表明します。』 ここに、木曜日にギリシャ政府の広報担当者が記者団に伝えた言葉があります。

ギリシャ政府の広報担当者: (ギリシャ語)


シャ―ミニ・ペリーズ: ギリシャの現状を詳しく検証するために本日お越しいただいているのはマイケル・ハドソンさんです。ハドソン教授はキャンサス・シティーにあるミズーリ大学で経済学の教授を務めていらっしゃいます。数多くの本を著作しており、最近の著書は「J is for Junk Economics: A Guide to Reality in the Age of Deception」と題されています。

マイケル、本日はこの番組にお越しいただき、有難うございます。

マイケル・ハドソン: こちらの番組に参加できて嬉しいです。あなたが言ったことについて1点だけ反論しておきます。貸し手側はギリシャ経済が成長することを期待しているとあなたは言いましたよね。それはそうではないんです。ギリシャ経済が成長すると貸し手側が期待するなんてあり得ません。主たる貸し手はIMFでした。IMFはこの状況の下ではギリシャが成長することは不可能だと言ったのです。

ある国に対して融資を行うに際して、その国は借金を返済することはできないと全職員が言っているとしたらあなたはどうしますか?それこそが2015年にIMFの職員が言った言葉です。 

IMFは結局のところ融資に踏み切りました。でも、あれはギリシャに対するものではなく、フランスの銀行やドイツの銀行、ならびに、いくつかの公債保有者に対する支払いでした。実際、ギリシャには1ペンスたりとも渡りませんでした。彼らが用いたジャンク経済学では「あるプログラムを通じて、IMFはギリシャ経済が返済をすることを間違いなく可能にさせる」と主張しました。しかし、不幸なことには彼らの秘密兵器は緊縮経済であったのです。

シャ―ミニ、過去50年間、IMFが採用した緊縮経済プログラムはどれを取っても当事国の経済を縮小させています。緊縮経済プログラムは経済成長を実現したことはないのです。財政黒字が経済成長をもたらしたことはありません。何故ならば、財政黒字はその国の経済から金を吸い取ってしまうからです。融資条件、いわゆる改革路線に関しては、年金を減額し、過去半世紀の間に労働運動が勝ち取って来た成果を元へ戻すといった内容であって、反改革のためのオーウェル的なものです。つまり、貸し手側はギリシャは成長せず、ギリシャ経済は縮小することを十分に予期していました。

問題は、10年経っても20年経ってもどうしてこのようなジャンク経済学が続いているのかという点です。その理由はギリシャが返済できなかったからこそ、ギリシャに対して融資が行われているのです。当事国が返済することができない場合、IMFEUおよびその背後に居るドイツの銀行家らの規則はこう言わせるでしょう。「心配しなさんな。われわれの側は公共資本財を売却するようにと主張するだけ。」 国有地を売り、輸送システムや港湾、配電網を売りに出す。これが10年も20年も繰り返して実行されて来たプログラムなのです。

さて、驚くに値することですが、テッド・マロック駐EU米国大使はブルームバーグやギリシャのテレビ番組に登場して、ギリシャはユーロから脱退して自国通貨に戻るべきだと言っています。トランプが指名した駐EU米国大使にEU圏は死に体だと言わせているのです。EU圏は縮小するでしょう。ギリシャが返済を続け、ギリシャがユーロから脱退しないでいると、同国は永遠に不況に見舞われることになります。まさに生きている限り続きます。

ギリシャは焦げ付いた債務に苦しんでいます。同国はすでに長い間不況の状態にあり、1930年代の大恐慌時のそれよりも厳しい状況となっています。

シャ―ミニ・ペリーズ: はい、これはとても重要です。本日は冒頭でこの非常に重要な論点についてお話をいただきましたが、最初の救済融資を行うに当たってユーロ圏の貸し手側はギリシャには融資条件として3.5パーセントの財政黒字の目標を課しました。IMFは「これはそう簡単ではない。1.5パーセントを目標とするべきだ」と言っています。

しかし、あなたがおっしゃるには、どちらにしてもこれらの数値は現実的でもなければ、達成可能でもない。あるいは、その課題のためには望ましいものでもない。実際には、彼らはギリシャが借金を返せなくなることを望んでいるとあなたはおっしゃる。でも、どうしてそうおっしゃるんですか?

マイケル・ハドソン: ギリシャがこけるとすれば、ギリシャの鉄道網を買い取りたい外国の投資家にとってはそれは大成功なのです。彼らは港湾を乗っ取りたいのです。土地を買い取りたいのです。彼らは観光地を手に入れたがっています。しかし、何よりも、ギリシャの前例を確立して、ユーロから脱退し、貧困化するのではなくさらに成長したいと思っているフランスやオランダに対してIMFEUはギリシャについて行っていることとまったく同じことをするぞということを示したいのです。

彼らはギリシャの前例を確立しようとしているのです。彼らはそういった融資のルールを示そうとしています。事実、それこそがトランプとテッド・マロックの両者がフランス国内の分離の動きを支持する理由なんです。彼らはマリーヌ・ルペンを支持しています。ちょうど、プーチンがマリーヌ・ルペンを支持しているようにです。融資はまさに戦争状態であるとする見方が世界中に広がっています。

これらの国々がどうにかジャンク経済学を採用し、彼ら自身を破滅させる政策を実行するように彼らが説得することができるとするならば、これらの国々は外国の投資家や他国の経済を乗っ取ろうとするグロ―バル経済の信奉者にとっては願ってもない程のいいカモです。事態は一種の戦争のようなものです。

シャ―ミニ・ぺリーズ: その通りですね。マイケル、トランプ政権が新たに指名した駐EU大使のテッド・マロックはギリシャはEUから、特に、ユーロ圏から脱退することを推奨しているとおっしゃいましたよね。

これについてはどうお考えですか?これはギリシャが提案している内容と一致するのですか?今や、ギリシャは緊縮政策にはこれ以上応じられないと言っています。われわれは彼らには同意しない、と言っています。これでは解決のしようがない袋小路になってしまいます。ギリシャはユーロから脱退するべきでしょうか? 

マイケル・ハドソン: はい、脱退するべきです。ですが、問題はどのように脱退をするのか、どのような条件で脱退をするのかです。この問題は単にユーロから脱退するだけでは済みません。実際の問題点は不良債権となっている、ユーロ圏から背負わされた外国からの借金です。ギリシャがユーロから脱退し、外国からの借金に対して返済し続けますと、ギリシャは出口のない永続的な経済不況に見舞われたままとなります。

ここには大きな倫理的原則がからんで来ます。つまり、あなたが統計的には返済が出来ないような国へ融資を行った場合、その借金について返済する倫理的義務はあるんでしょうか?ギリシャは2年前に委員会を設置し、その委員会はこの融資は不当債務であると言いました。しかし、「これは不当債務だ」と言うだけでは不十分でした。もっと積極的に何かを提言しなければなりません。 

いったい何が必要か?必要なのは「権利宣言」です。そのことについて私はギリシャの政治家や急進左派連合の指導者たちと話をして来ました。これは、それぞれの国家は戦争によって攻撃を受けてはならない、それぞれの国家は他国によって倒されてはならないという世界宣言となった1648年の「ウェストファーリア条約」のようにです。私が思うには、「国際法の宣言」を採択し、外国の債権者に対する支払いを行うために如何なる国家も自国民に貧困化を課す義務を負うことはない、さらには、公共財を売却する義務もないということを認めなければならないと考えます。

この宣言はこう述べるべきです。つまり、返済を実行することができないような融資を債権者が設定した場合は、この融資は不当債務と見なされ、このような債務は返済の要はない。如何なる国家もその当事国が破産し、その結果公共財を外国へ売りに出す以外には返済することができないような融資に関しては返済をしない権利を有する。これはまさに国家主権そのものの定義です。

私はこの種の「債務国の権利宣言」を起草するために数多くの国々の政治家と共に作業を進めることを希望している次第です。これこそが今までは欠けていたことなのです。もしもユーロ圏から脱退すれば、その国の通貨は安くなり、労働賃金もさらに低下し、年金は廃止し、債務を返済するのに十分なお金を何とか絞り出すことができるという考え方があります。

この問題はユーロ圏だけの問題ではありません。本当です。ユーロ圏への参画は何を意味するのかと言うと、米国が実際に行って来たように、通貨を増刷して財政赤字に対処することは許されないということです。しかし、迫りつつある問題は債務を返済しなければなりません。その債務は支払いを実行するには余りにも巨額であって、その結果はフランス革命後に反乱を起こしたハイチの例のようになり兼ねないのです。

フランスはこう言ったのです。間違いなく、独立させてあげよう。けれども、あんた方を奴隷としては扱わないことに対してあんた方はわれわれに支払いをしなければならない。あんた方は自分たちの自由を買い取らなければならない。奴隷制度は間違っているとは言えない。あんた方はわれわれ奴隷所有者を全体として扱わなければならない・・・ こうして、ハイチは独立を勝ち取った後にフランスに対する巨額の債務を受け入れ、その結果発展することは出来ない状態に陥ったのです。

数年後の1824年、ギリシャでは革命が起こり、まったく同じ問題に遭遇しました。同国はリカルド兄弟から借金をしました。ロンドンで銀行に対してエコノミストやロビイストとして活躍していたデイビッド・リカルドの兄弟です。IMFのように、彼は、如何なる国家も自動安定化によって債務を返済することができると言いました。リカルドはジャンク経済の理論を持ち出したのですが、それは現在でもIMFによって引き継がれ、債務を有する国家は自動的に返済することができるんだと言っています。

ところで、ギリシャは返済をすることにしました。結局、巨額の借金を受け入れ、利息を支払いましたが、それでも、何度となく債務不履行となったのです。その都度、ギリシャは主権を放棄しなければなりませんでした。その結末は慢性的な経済不振です。遅々とした経済発展がギリシャや多くのヨーロッパ南部諸国の実態です。

つまり、借金問題に取り組まない限り、ユーロ圏やEUへの参加は実際には二次的な意味しかないのです。

シャ―ミニ・ぺリーズ: 良く分かりました。詳細を論じたい事柄がまだたくさんあります。たとえば、借金をやりくりするためにギリシャは焼け残り商品の特売で今までにどれだけ売り出したのでしょうか?その件については別途の機会にお話しましょう。

マイケル、この番組にお越しいただき、どうも有難うございました。

マイケル・ハドソン: こちらへ参加することができてとても良かったです、シャ―ミニ。

シャ―ミニ・ぺリーズ: それから、リアル・ニュース・ネットワークの視聴者の皆さん、有難うございました。

Michael Hudsonのプロフィール: The Institute for the Study of Long-Term Economic Trends (ISLET)の理事長、ウオールストリートの金融アナリスト、キャンサスシティーのミズーリ大学での著名な教授であり、著作家でもあります。最近の著書としてはKilling the Host (2015)The Bubble and Beyond (2012) Super-Imperialism: The Economic Strategy of American Empire (1968 & 2003)Trade, Development and Foreign Debt (1992 & 2009)、および、The Myth of Aid (1971)他にも多数。

マイケルは世界各国で政府に対する顧問の役割も担っています。たとえば、アイスランド、ラトヴィア、中国では金融や税法に関して。彼は会議でさまざまな論文発表を行っていますが、こちらから予約が可能です。グローバル経済の地政学的な陰謀に関して彼は超特急の分析を行っています。それらをお聞きしたい方はこちらでラジオでのインタビュウをお聞きください。http://michael-hudson.com

注: この記事に表明されている見解は全面的に著者のものであって、必ずしもInformation Clearing Houseの意見を反映するものではありません。

<引用終了>


これで仮訳は終了した。

マイケル・ハドソン教授はひとつの国家が、たとえば、IMFや欧州中央銀行を相手にサラ金地獄に陥ったとしたらその結果はどうなるのかに関してギリシャの事例を引き合いに出して、詳しく説明してくれている。われわれ素人にも分かりやすい解説で、大助かりだ。

「債務国の権利宣言」を起草しようと呼び掛けているハドソン教授の考え方はネオリベラル派やグロ―バル経済の信奉者、あるいは、巨大な多国籍企業にとってはさぞ煙たい存在だろうと思う。

最大の皮肉はハドソン教授の解説によって一般大衆がIMFによって引き起こされるサラ金地獄の真相(あるいは、深層)を知れば知る程、同教授は主要メディアからは冷たくあしらわれるという現実がある。冒頭に示したポール・クレイグ・ロバーツの言葉がそのことをよく物語っている。

政治の世界には表面には現れては来ない事柄が非常に多い。最近のジャーナリズムは短期的な成果を目指して企業としての商業主義にどっぷりと浸り、扇動的な報道に終始し、真実を伝えようとする気概がまったく感じられない場面が多い。余りにも多い。

日本の社会もまさに同様の問題を抱えている。

日本では、6年前に福島第一原発が炉心溶融事故を起こした際に明るみに出て、「原発の安全神話」は崩壊することになった。そして、現在は森友学園を巡ってさまざまな事柄が次々と白日の下に曝され始めた。真実の究明は続けなければならない。

ジャーナリズムが真実の追求を止めてしまった、あるいは、事実に基づいた報道をしなくなった今、「幸か不幸か、われわれはそういう世の中に住んでいるんだ」という現実を良く認識しておかなければならないと思う。

必要な情報は自分で探し求める時代となってすでに久しい。



参照:

注1: Michael Hudson: Finance Really is a Mode of Warfare: By Michael Hudson, "Information Clearing House" - "Real News", Feb/19/2017









2017年4月2日日曜日

アンナ・トウフの物語(続編)



2015105日、「アンナ・トフの物語」と題した投稿を当ブログに掲載した。

ウクライナの東部の街、ゴルロフカ [訳注:これはロシア語表記での発音の場合。ウクライナ語表記では「ホウリウカ」となる] に住んでいたアンナ・トフはウクライナ政府軍の砲撃にあって、夫と11歳の娘を失い、彼女自身も左腕を失った。二人の幼児は奇跡的にも助かった。家屋は大破。爆撃された場所は軍事的には攻撃目標となるようなものは何もない純然たる居住地域であるのだが・・・

ウクライナ政府軍から爆撃を受けたのは2015526日のこと。疑いようもなく、アンナの生活は完全に破壊されてしまった。あれから、2年になろうとしている。彼女は今どのような生活をしているのだろうか。

今年の2月、彼女のその後の生活を伝える記事が現れた [1]。本日は同記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>

ウクライナの爆弾が彼女の家族を奪ってしまったが、ロシアとイタリア両国が彼女に再び希望をもたらしてくれた。



Photo-1: ミラノでのアンナ・ト

2015526日、若い母親であるアンナ・トフの生活は完全に破壊されてしまった。ウクライナ東部のゴルロフカに向けて放たれたウクライナ政府軍の爆弾が彼女の夫と11歳の娘を奪い、彼女は家と左腕を失った。ウクライナ政府は彼女に背を向けたが、彼女に支援の手を差し伸べてくれたのはイタリアだった。

ドネツク地方のゴルロフカに対するウクライナ軍の砲撃はアンナ・トフの夫と11歳の娘の命を奪ってしまった。彼女の左腕はひどい損傷を受け、切断しなければならなかった。
ウクライナ当局は彼女が助けを必要としている時にアンナに背を向けた。しかしながら、支援の手は思いがけなくもイタリアから差しのべられた。この若い母親が生体工学的な筋電義手を入手するためにイタリアへやって来た際に、彼女はスプートニク・イタリアに自分の話をしてくれた。彼女のスト-リーは下記のような具合だ。

「イタリアへ来ることができてすごく幸せだわ。1年間の苦悩の後に私の一番大きな夢がかなったんですもの!」と彼女は言った。



Photo-2: アンナ・トフ、 © Photo: fornita da Eliseo Bertolasi

書類の準備が困難を極めていたのでウクライナから出国することができなかったとアンナはスプートニク・ニュースに説明した。 彼女は政治的動機に翻弄されて、ウクライナへの帰還のための書類を入手することができなかった。旅行のための種類を準備するためにストラスブールにある「欧州人権裁判所」へ申請をするしかなかった。ウクライナ政府は非合法な行為を行っており、禁止された武器を使用し、彼女の家族を殺害し、彼女をも殺害しようとしていると訴えた。殺害された娘に加えて、政府軍の爆撃のせいで他の二人の幼児も傷を負った。

彼女はイタリアに本拠を置く団体、「子供たちに支援を」(Aiutateci a salvare i bambini)の理事長を務めるエンニオ・ボルダトからの支援を得た。彼は何度も国際団体宛てに申請をしたが、成果は得らえなかった。結局、在ローマ・ロシア大使館がアンナに亡命者の身分を与え、新たな旅行書類を準備してくれた。

ウクライナ当局は彼女に一本の電話もしなかったし、弔意さえも表明しなかった。彼女の義手に関してはウクライナ政府は何もしなかったのである。

義手を調達するためのお金は全額がイタリアの篤志家によって賄われ、アンナはイタリアのボドリオの町にあるボドリオ人工装具センター(Centro Protesi Vigorso di BudrioINAIL)へ旅行することが可能となった。



Photo-3: 義手を装着したアンナ・トフ。ブドリオのINAILセンターにて。© Photo: fornita da Anna Tuv

「母とふたりの子供たちと一緒に私はイタリアへやって来ました」とアンナはスプートニクに話した。 

「私たちは今とっても幸せです。私の生活は間もなく改善し、ようやく両手で子供たちを抱きしめてあげることができるわ。再び仕事に就き、自分の家族を養うことができるでしょう」と彼女は言う。 

彼女の家族を支えるのは彼女ひとりだけであることから、生体工学的な筋電義手を入手することは彼女にとってはこの上なく重要なことだったと彼女は説明する。彼女はイタリアでの滞在費、病院での治療代、義手の装着、等のために支援をしてくれた市民たち全員に心から感謝の気持ちを表明した。




また、彼女は自分の悲劇について啓蒙してくれた人たちや彼女の苦労話を聞いて支援の手をを差し伸べてくれた個人に対しても感謝の気持ちを伝えた。

しかしながら、自分の夫と娘を失ったことは決して埋め合わせることは出来ない、と彼女は苦々しく指摘する。彼女が常に感じている苦痛について記述する言葉を見つけるなんてまったく不可能なことだ。そうとは言え、彼女の魂が完全に打ちのめされてしまったわけではない。自分と同じような経験をした人たちを元気づけるために彼女は全力を尽くしているのだ。 

互いに絆を保つことによって、皆が戦争の恐怖に打ち勝ち、平和を模索することが可能となるのだ。ドンバスの住民は誰だって戦争なんか望んではいないし、誰もが平和を夢見ていると彼女は言う。

ウクライナ政府の側には平和を望む人が一人もいないっいぇ認めることは大変な苦痛だわ、と彼女は付け加えた。ドンバス地方の住民は停戦を待ち望んでいるけれども、ウクライナ側は「私たち皆を排除しよう」としている。

彼女の夫、娘、家屋、左腕を失った後、ソーシャル・メディア上では自分に対する支援の声を見い出すことができなかったことを彼女は今も思い起こす。彼女や死亡した娘に対する侮辱の言葉が何度も繰り返して現れた。

売国奴となり、自国の住民に対して破壊命令を出すことによって自国民を裏切ったウクライナ政府の意のままにゾンビ―と化したり、操り人形として振舞うことはもう止めよう、皆は政府に利用されてしまっているのだという事実を理解し始めようではないか、とアンナは人々に呼びかけている。

「われわれは皆が平和に、互いに調和しながら生活をしていたものです。お互いを殺し合うなんてことはなかったわ」と、平和だった頃のことを思い出しながら彼女は言う。




彼女の家はすっかり破壊されてしまって、修理もおぼつかなかったので、アンナは今ロシアに住んでいると彼女は言った。昨年中は彼女は二人の子供たちと一緒にドネツクに住んでいたが、彼らは砲撃に曝されていた。

それでもなお、彼女はゴルロフカからの最新のニュースを追っかけている。ゴルロフカに住む人たちは四六時中パニック状態の中で生活している。銃撃は日夜を問わずに起こる。普通の生活や仕事をすること自体が大きな恐怖となるのだ。多くの人たちは地下室や地下の貯蔵室で時間を過ごす。彼らの日常は地獄の生活と化してしまった。

彼女が今イタリアにいることを知って、ヨーロッパ中の人たちにドネツクで起こっていることを伝えて欲しい、と人々は彼女に伝えてくる。ドネツクでは家屋は毎日のように砲撃に曝され、ウクライナ軍の戦車がアブディーイフカの町に陣取っている。炭鉱夫たちは地上に戻ることができなくて、地下に潜ったままだ。 

アンナは34人を個人的に知っている。その中には11人の6歳以下の子供たちも含まれており、マリンカの町では人々は地下生活を続けている。猫や犬を連れて皆が自宅を離れた。戦禍の下ではもう生活ができないからだ、と彼女は最後に言った。

<引用終了>


これで仮訳が終了した。

アンナ・トフの続編には彼女が待ち望んでいた筋電義手を手に入れることができたいきさつが余すところなく伝えられている。「ようやく両手で子供たちを抱きしめてあげることができるわ」という彼女の言葉には残された二人の幼児を持つ母親の率直な気持ちが十二分に込められている。

しかしながら、夫と11歳の娘を失ったことは彼女にとってこれ程大きな苦痛はない。言うまでもなく、それはもう言葉では言い表すことができないことなのだ。

計り知れない苦痛を乗り越えて一歩前へ踏み出そうとしている彼女には励ましの言葉を送りたいと思う。


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戦争の恐ろしさや悲惨さについて云々する時われわれ日本人がどうしても反芻しなければならない歴史的事実がある。それは日露戦争のことであり、太平洋戦争のことだ。

広島・長崎における原爆の悲惨さだけではなく、焼夷弾を雨あられのように浴びせられた東京大空襲、沖縄での米軍による焦土作戦、等、太平洋戦争では非戦闘員である一般市民はまさに地獄のような経験をした。太平洋戦争は何処から始まったのかと言うと、日本の軍国主義や植民地主義に辿りつく。そして、その源流は日露戦争にまで遡る。

その詳細に関しては、「【借金に追われて】日本が太平洋戦争に突入した理由が悲しすぎた【原発・靖国まで】」と題されたウェブサイトを是非とも覗いてみていただきたい。参考のために、一部を下記に転載してみよう。

・・・日露戦争を美談に仕立てたい日本人が多いのは分かりますが、それが後の世代に膨大な負債と太平洋戦争という膨大な損失を残したことも、紛れもない事実です。

日露戦争当時の日本経済は、名目GNP約30億円、国の一般会計予算約3億円、日銀券発行残高約3億円、全国預金残高7億6千万円というサイズでしかなかった。日本は当時のGNP2.5倍、国家予算の60年分の負債を積み上げて日露戦争に挑んだ。

・・・日露戦争は、そもそもイギリスによる清の植民地政策の失敗によって許してしまったロシアの南下に対して日英同盟を名目に日本が動いた戦争でした。

日本は膨大な借金を負わされ、戦争にけしかけられ、最終的に賠償金さえ得ませんでした。その原因は日本政府の無策にもあるかもしれません。しかし、世界経済はもっとずっと大きく動いていたのです。

そして、「戦争がマネーゲームになっていた」という指摘がある。この指摘は実に興味深い。日露戦争当時は一銀行家が大舞台でその主役を演じていたが、今は周知の通り軍産複合体である。

・・・30年戦争は、ボヘミアにおけるプロテスタントの反乱をきっかけに勃発し、神聖ローマ帝国を舞台として、1618年から1648年に戦われた国際戦争でした。

この戦争ではオーストリア・ハプスブルク家の宮廷ユダヤ人ヤコブ・ハセヴィが、資金を動かしていたことが知られています。

・・・30年戦争以後のすべての戦争の資金はユダヤ人が供給したとも言われています。戦争資金の供給源となっていたため、ドイツだけでなくヨーロッパ全域で「ユダヤ人問題」として議論されていたという一面もあるのです。日本の歴史の教科書から、「なぜユダヤ人問題が議論されていたのか」という点が完全に欠落していることは興味深いことです。

30年戦争(1618-1648年)以降、太平洋戦争まで全ての国際戦争はユダヤ系資金によって行われた。

もちろん、日露戦争や太平洋戦争へと進んで行った当時の日本を理解しようとすると、他にもさまざまな国内・国外の要因を論じなければならない。しかしながら、ここに引用するウェブサイトが取り上げているユダヤ人銀行家(ジェイコブ・シフ)が如何にして日露戦争のために日本への融資を行ったかという歴史的背景は誰もが知っておかなければならないことだと思う。

そもそも、同ウェブサイトの表題は「【借金に追われて】日本が太平洋戦争に突入した理由が悲しすぎた【原発・靖国まで】」 としているが、これをもっと正確に言い直すとすれば、「【日露戦争で借金に追われて】日本が太平洋戦争に突入した理由が悲しすぎた【原発・靖国まで】」とするべきだろう。「日露戦争では日本が勝ったが、太平洋戦争では日本が完敗した」との通説はあまりにも単純すぎることは明らかである。日本が関与したふたつの戦争の間には密接な関係があったのだ。それは日露戦争のための借金の返済だった。1904年当時の国家予算の60年分にも相当する借金を返済するのに80年もかかった。つまり、子供や孫の世代に至るまで尾を引いたのである。そして、中でももっとも大きな負担は太平洋戦争であった。



Photo-6: ポンド建て日本国債の金利の推移

アンナ・トフの物語から大きく脱線してしまったが、彼女が21世紀の今味わってる戦争の悲惨さ、あるいは、日本人が経験した太平洋戦争での大敗とその後に続いている米国への隷属状態の不条理を考える時、それらの根源的理由がはっきりと見えてきたような気がする。それはマネーゲームであり、マネーゲームによって戦争で得をする連中が常に存在するのだ。

そのマネーゲームは現在に至るまで300年以上も続いていることを思うと、小生のブログが何回も取り上げているシリア紛争やウクライナ内戦の背景にあるもっともっと大きな構図は実はマネーゲームにあることに気付かされる。こうして、自国民を相手にテロリスト作戦と称して、東部のロシア語住民を殲滅しようとして住宅地域に砲弾を撃ち込んでいるウクライナ政府に対して融資を続けるIMFの姿がダブって見えて来る。

・・・日露戦争は、そもそもイギリスによる清の植民地政策の失敗によって許してしまったロシアの南下に対して日英同盟を名目に日本が動いた戦争でしたという日露戦争の描写は、日米同盟を名目に今の日本政府が米国の対中包囲網の一環として向かおうとしている(むしろ、「そうさせられている」と言った方がより正確かも・・・)軍国化と重なって見えてしまう。

愚かな判断の結果、不条理な歴史を繰り返してはならない。




参照:

1Ukraine’s Bombs Took Away Her Family, Russia and Italy Gave Her Hope Again: By Sputnik, Feb/12/2017, http://sptnkne.ws/d6tH