2022年4月8日金曜日

ゴールドマン・サックスはどのようにしてウクライナ紛争に関する経済制裁の抜け穴から利益を上げているのか

 

政府には余分な金は残らないのが普通だ。税金として集めた金は公共福祉やさまざまな国策事業によって毎年消費されてしまう。戦争を遂行するには多額の臨時資金を必要とする。多くの場合、国は戦時国債を発行して資金を集める。

古い話となるが、日本が勝ったとして内外に日本の存在を知らしめることになった日露戦争については外債の発行が有名な話だ。日本政府が戦時国債の発行をうまく進めることができたのはニューヨークのユダヤ人金融業者であるジェイコブ・シフからの協力があったからだと言われている。軍事費の総額は約20億円に達し、当時の日本政府の一般会計予算の8.9年分に相当したという。その内の7億円を外債に依存した。詳しい経緯については多くの情報が得られるからここでは言及しないが、私が個人的に「オヤッ!」と思ったのはこの外債の償還には意外と長い年月を要したという点だ。

一部の国際金融業者にとって戦争は金儲けの絶好の機会でもあった。そして、今もその構図は変わってはいないようだ。今日では、金融業者だけではなく、たとえば、NATO軍が関与する戦争の場合、砲弾やミサイル、その他諸々の武器を製造する西側の軍産複合体は、好むと好まざるとにかかわらず、紛れもない戦争の受益者である。

それでは、ウクライナ紛争の場合はどうであろうか?

この問いかけに対する答えのひとつとして「ゴールドマン・サックスはどのようにしてウクライナ紛争に関する経済制裁の抜け穴から利益を上げているのか」と題された1か月程前の記事が見つかった(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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ールストリートのこの企業はロシアにおけるビジネス活動を段階的に縮小すると公に宣言し、ロシア大統領のウラジミール・プーチンを阻止しようとする米政府の経済制裁の動きに賛同する自社の行動を印象付けようとしている。

Photo-1202238日、ウクライナのブロヴァルィ近郊で侵攻して来るロシア軍と戦う前線の手前にあるチェックポイントのひとつに補強兵力が到着。写真提供:Marcus Yam / Los Angeles Times via Getty Images

ゴールドマン・サックスはニューヨークに本拠を置く巨大な投資銀行であり、ロシアの債務証書を米国のヘッジファンドに売り捌くことによってウクライナにおける戦時においてさえも利益を上げている。バイデン政権がロシアに対して経済制裁を課している中、彼らは巧妙に法的な抜け穴を活用しているのである。

西側諸国がロシアの通貨をロシア国内だけに封じ込めることによってウクライナ防衛の支援策とする中で、この方面の戦略に詳しい四つの国際金融の情報源によれば、本企業は今ロシアの債券を安く買い込み、後に高値で売ることによってロシアが戦時経済という困難な状況を顧客にとっては絶好の投資機会であるとして捉え、彼らを市場に参加させて、モスクワの債権者と米国の投資家との間で仲介役を演じている。

ヘッジファンドのポートフォリオに組み入れてはどうかとのゴールドマンからの提案を拒んだある投資家は、戦争を理由に、根掘り葉掘り行われる追及を避けるためには「個人アカウントへ放り込むだけでいい」とゴールドマンに勧められたとのことだ。

そうすること自体は米国が課した経済制裁に違反することにはならない。だが、これはロシアとの関係についてゴールドマンが公に見せたい顔とは大きく異なっている。電子メールに記された声明では、ゴールドマンはロシアにおけるビジネスを「段階的に縮小している」と説明し、このゴールドマンの姿勢はロシアのウラジミール・プーチン大統領を阻止しようとしている米国政府の動きを支援するものであると言う。

ロシアの債務証券を仲介することは非合法的な行為ではない。事実、バイデン政権はロシアの債券を取引することに青信号を出している。

ゴールドマン・サックスの広報担当者は木曜日に電子メールで次のように述べた。「ロシアにおけるわれわれのビジネスを縮小することとわれわれの顧客を世界中で支援し、彼らの市場での義務をあれこれと調整し、始末をつけることのふたつの事柄は決して相互排他的ではない。われわれは全社的に堅牢なシステムとコントロール体制を維持しており、制裁を受けている相手とは取引を行わないようにしている。」

米政府高官らが今月ロシアの銀行に対して制裁を課したことによって、米企業がロシアの主要金融機関と直接ビジネスを行うことは不法行為となった。しかし、米財務省の外国資産管理局(OFAC)はロシアの債券を「二次市場」で商うことは法的に許されるとする肯定的なメモを発信した。つまり、許容される状況とは制裁の対象となっているロシアの銀行が取引に直接関与してはいない場合である。それが故に、ゴールドマンは仲介業者としてビジネスを行うことができるのである。

それらの金融機関が商いの当事者ではなく、かつ、債務証書が31日以前に発行されたものである限り、われわれの経済制裁はロシア中央銀行やロシア政府系ウェルスファンドまたはロシア財務省の債務証書や証券を二次市場で商うことを禁じるものではない、とOFACは記してる。

十数人の投資家および現在の米国政府の高官や元高官ならびに金融関係の分析専門家たちとのインタビューで繰り返して現れるテーマが表面化してきた。つまり、ドルのために商いを行う大手企業を含めて、米投資家に対するバイデン政権の懸念がロシアに対して厳重に取り締まりを行うことを躊躇せしめ、制裁の対象ではないプーチンの取り巻き連中がゴールドマン・サックスを通じて借金証書を売って現金にありつくことができるという可能性を残したのである。

「たとえそうしても、あるいは、そうしなくても、彼らは呪われる状況にある」と米国の経済制裁に関与した元高官は言う。「もしも彼らが商いを完全にストップしたならば、巻き添え被害が出ることだろう。目標は非常に大きく、イランの小さな銀行を閉鎖するのとはまったくわけが違う。しかし、もしも十分に吟味されたアプローチを推進しようとするならば、抜け道については彼らを怒鳴り散らすことであろう。」

戦争から利益を挙げようとするゴールドマンの努力はバイデン政権がウールストリートならびに米国や同盟国の経済に損害を与えずにロシアを罰すことに直面せざるを得ないという複雑な状況を浮かび上がらせた。その気十分な買い手や売り手がおり、さらに仲介業者が存在する限り、商いをすることが余りにも有害であると言える債券なんて何処にも存在しないのである。

「ロシアの債券はわれわれの経済ではそこいらじゅうに蔓延している」と匿名を希望する政府高官は述べ、ロシアの債務証書の商いを禁止することに乗り気ではないことを説明してくれた。「ロシアの債務証書はわれわれの経済に完璧に注入されている。まさに蔓延しているのだ。」

問題となっている債券のほとんどは、ロシア中央銀行を含め、ロシアの政府機関によって発行された債務証書である。国債は国家にとっては投資家から資金を集める道具である。崩壊しつつあるロシア経済はロシアの債務証書を安値にしているが、ある投資家らはこれは将来のある時点には反転し、彼らに利益をもたらすと信じて疑わない。

ロシアのすべての債券の取引を中止すると、米国やその他の国々の金融市場に予期しない形で混乱をもたらすであろうと(この高官は何時もとは異なる卑猥な言葉を使って)述べた。

「われわれは新たに発行される公的債務に制裁を課すことができる」と、31日以降に発行される債券の商いを禁止することを指して、同高官は述べた。「市場にすでに出回っている債務証書にどのように制裁を課すかについてはわれわれはゲームを始めたわけではない。政治専門紙であるザ・ヒルはこの問題に首を突っ込んでいる。」

カリフォルニア州選出のブラッド・シャーマン民主党下院議員は金融サービス委員会の古参メンバーであるが、彼は31日以降に発行されるロシアの債券を米国企業の海外における子会社が商いすることを禁止する法案を準備していると述べた。しかし、古い債務証書についても禁止にする制裁シナリオがあると彼は言う。

「当面の目標はこの2月に、あるいは、前年に債務証書に投資をした人々に損害をもたらさないことだ」と、シャーマンは電話インタビューで答えた。「主たる目標はプーチンが新たに国債を発行することをより困難にすることだ。もしもそれが将来発行される債務証書の価値を低下させるのに役立つならば、31日以前の債券も禁止するべきだという意見に私は傾くであろう。」

ロシアに対する制裁はトランプ政権がベネズエラに課した制裁よりも大目に見られている。ベネズエラに対する制裁では国債の商いについては、この政策に詳しい投資家や元米国高官らによると、売却することは例外として許容したが、幅広い禁止を求めた。

つまり、ロシアに関しては米国は今後さらに締め付ける余裕を持っているということを意味する。

「もしも経済制裁を万力にたとえてみるならば、締め付けを継続することが可能であり、これから課す制裁には依然として何段階かの締め付けが残されている」とダン・タンネバウムが述べている。彼は元OFACの高官であり、今はマネジメント・コンサルテイング企業のオリバー・ワイマンのパートナーだ。

制裁が課されているロシア人が関与する取引に米企業が参画することは非合法である。だが、ロシア側の投資ファンドの源を洗い出すことは、経済制裁の専門家に言わせると、モグラ叩きゲームみたいなものである。ロシアに対する経済制裁に存在する逃げ道は現金に窮しているロシアの投資家らが自分たちの国債を現金化する道を開くことにつながる、とこれらの事情通は言う。

ゴールドマン・サックスの広報担当者は当社は「新しい国債についてはロシア国内の企業とは商いをしない」と言った。

ゴールドマン・サックスのような仲介人を介して国債を売り買いすることについては制裁を課されてはいないロシア人は何の制約も受けない。米国政府が個人に制裁を課す際に直面する難しさのひとつは彼らが金融取引を行うのに代理人を使っているのかどうかという点にあり、これは常にはっきりと判明しているわけではないのが現状である、と制裁の専門家は述べている。

ゴールドマン・サックスの広報担当者は、たとえ相手が制裁を課されてはいないにせよ、当社はプーチンの取り巻きと商いをすることは避けるし、そのための準備は万全であると述べた。

「われわれは自分たちが使用している金融犯罪順守プログラムには十分な自信を抱いている。このプログラムは制裁を課されている当事者との接触、ならびに、たとえそれが直接的、あるいは、間接的なものであっても、その他の非合法的な行為との関連性を検知し、そういった接触の機会を効果的に避けるよう設計されている」と、広報担当者は言う。

制裁対象である企業が取り扱う古い国債の商い(これは合法的であるが)に関しては、広報担当者は「我々の取引のすべては米国政府ならびに他国政府が発表した制裁に基づいており、今後もその通り継続して行く」と言った。

しかし、現行の米政府高官や元高官はすべての国債の取引を禁止することはウクライナへの侵攻以前に国債を購入した米国の投資家(大手年金基金を含む)に損害を与えることになると危惧している。

ほとんどの投資家はロシアの戦争から利益を得るという広報的には明らかにリスクを伴う行為に尻込みをしているが、ゴールドマン・サックスやJPモルガン・チェースならびに数多くのヘッジファンドはこの領域に踏み込んで行った。多くの場合、買い手は売り手の素性を知らず、仲介業者が売り手の素性を公開しなければならないという規制は存在しないのである。

これはロシアがキャッシュ不足に陥っている中でプーチンの取り巻き連中のポケットへ金を放り込むことが投資家に利益をもたらすのかどうかについて一般大衆が知る術はまったくないことを意味している。換言すると、米国の投資家(ならびにゴールドマン・サックスのような仲介業者)はロシア国債が低コストであることから利益を挙げていることは明らかであるが、ロシア国債の販売からいったい誰がどれだけの利益を挙げているのかは必ずしも明確には分からないのである。

ゴールドマンはほとんどの場合ロシア国債を商いしているが、JPモルガン・チェースはロシアの民間企業の社債を「経済回復のため」に仲介してきたとブルームバーグ・ニュースは報じている。

JPモルガンはロシアに関わる商いで顧客を支援してきたことを認めた上で、木曜日遅く、ロシアにおけるビジネスは段階的に縮小すると宣言した。34日、ロシアがウクライナを攻撃したことから、この投資会社の研究チームは顧客がロシアの社債を購入するよう推奨する報告書を提出した。

著者のプロフィール:ジョナサン・アレンはNBCニュースの国内政治に関する上級リポーターを務め、ワシントン州に在住。

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これで全文の仮訳が終了した。

戦争を金儲けの道具として使うこと自体は洋の東西を問わず共通した現象である。この引用記事からはロシアのウクライナ侵攻に対して米国や西側各国が発動した経済制裁の中でさえも、ゴールドマン・サックスという投資銀行がとっている行動について詳しく学ぶことができた。これ以外にも同様の事例が数多くあるだろうと思うのだが、私のような素人にとっては第二、第三の事例を挙げられないのが残念である。

ところで、ここで古い投稿を思い出した。それは「ふたりの大統領」と題したもので、20121011日の掲載。そこにブッシュ(ジュニア―)米元大統領とアルゼンチンのキルチネル元大統領との会話の内容が次のように紹介されている:

オリバー・ストーン:「当日の晩はブッシュ大統領とわだかまりを捨てて話をすることができたんですか?」

ネストール・キルチネル:「覇権国家の前にひざまづく必要なんてまったくない。自分たちの行為に反対を唱える人たちに向かっては自分が言わなければならないことを伝えるまでだ。それが故に非礼になるようなこともない。あれはモンテレイ(注:カリフォルニア州中部のリゾート都市。近くには伝説的とも言えるペブルビーチ・ゴルフコースがあり、映画好きの人は近くのカーメル市でクリント・イーストウッドが市長を務めたことを覚えていることだろう)での会話だった。今直ぐにでも実施できるアルゼンチンの財政問題に対する解決策はマーシャル・プランだ、と私はブッシュ大統領に自分の考えを述べたが、彼は怒り出した。マーシャル・プランなんて民主党特有の馬鹿げた考えだ、と彼は言った。経済を活性化させる最善の方法は戦争、米国は戦争をすることによって経済を成長させて来たんだ、と。」

オリバー・ストーン:「戦争ですって?」

ネストール・キルチネル:「そう、彼はそう言った。今話した内容は彼がしゃべったままだ。」

オリバー・ストーン:「南米は戦争をするべきだと示唆した?」

ネストール・キルチネル:「まあ、彼の話はあくまでも米国についてだったが...。民主党はいつも間違っている。米国の経済成長は様々な戦争によってもたらされてきた。彼ははっきりとそう言っていた。ありていに言って、ブッシュ大統領はあの時点では大統領として残された日数は6日だけだったからね。そういうことだろう?」

オリバー・ストーン:「その通りです。」

ネストール・キルチネル:「神様に感謝!」

上記の引用は戦争を金儲けの場であるとして考える一部の米国人を描写する格好の事例になるのではないだろうか。

一国の大統領が「経済を活性化させる最善の方法は戦争、米国は戦争をすることによって経済を成長させて来たんだ」との認識を持っていたとするならば、現在のウクライナ紛争でウクライナ政府に向かって「最後の一兵になるまで戦え、武器は俺たちが補充する」と言っている米政府の姿勢はまさに米国の本音であることをあからさまに示すものであると言えそうだ。ウクライナの一般庶民については何の懸念さえも示さないこの傲慢さはいったいどこから来るのであろうか。答えはひとつしかない。金儲けだ!


参照:

1How Goldman Sachs profits from war in Ukraine loophole in sanctions: By Jonathan Allen, Stephanie Ruhle and Charlie Herman, NBC News, Mar/11/2022

 

 

2022年4月1日金曜日

ウクライナ紛争は最終的にどのような国境線で収束するのか

 

巷にはウクライナ紛争についてさまざまな議論が成されている。そのひとつはウクライナがロシアに敗れた場合、ウクライナの最終的な国境線はどうなるのかという点だ。最近ロシア政府によって独立が承認されたドネツクとルガンスク両共和国では住民投票を行ってロシアへの編入を決めたいと言っている。こうして、ウクライナは最終的にどのような国境線を持つのかという疑問は現実的なものとなっている。

最近の投稿では、ウクライナ西部に住むハンガリー系少数民族が隣国のハンガリーのオルバン首相に同国への編入を求めたという内容をご紹介した。このハンガリー系少数民族の動きはクリミアの住民が8年前にウクライナから独立し、ロシアへの帰属を住民投票で決定したことと同じ動きであると言える。しかも、ハンガリーはEUおよびNATOの加盟国であることから、この動きが現実のものとなった場合、その政治的波紋は決して小さくはないだろうと推測される。

ここに「ウクライナ紛争は最終的にどのような国境線で収束するのか」という記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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ウクライナの国家安全保障担当補佐官はホワイトハウスとCIAに宛てて手紙を送付し、ロシアの占領地域において対ロ騒乱を引き起こすための資金を要請した。36日付けの文書によると、「ウクライナ全土においてロシアに対する抵抗活動を行い、有志組織を支援するために必要となる資金を米国に求めた」のである。

ホワイトハウスとウクライナ大使館はこの手紙が実在することについてはキッパリと否定した。だが、この手紙がフェークであるとは私には思えない。ただ、この手紙が公然の事実となることは避けたまでのことだ。CIA2015年以降ウクライナにおいて民兵団に対して抵抗活動に関する訓練を行ってきた。その活動に関してさらなる資金を要請することは実に自然な成り行きである。

米国はCIA を通じてウクライナにおける抵抗活動に資金を提供することであろう。それはまさに1949年以降1950年代の前半にかけて米国がシリアに対して資金を提供したことやウクライナにおける反ソビエトの武装蜂起に対して資金提供を行った事例とよく似ている。ただ、それらは惨めな失敗に終わった。

ところで、いったい誰に対する抵抗なのか?

この議論の前提は「ロシア政府はウクライナを占領したい」のだという点にある。

この前提はトルコ国立テレビ局のTRTがキエフ市長のヴィタリ・クリチコに行ったインタビューに見て取ることができる。クリチコはロシアが旧ソ連邦を再建しようとしていると述べて、ロシアを非難した。彼は和平交渉を拒否し、ウクライナが戦いを続けることを望んでいるのだ。

このインタビュー後、歴史家のギルバート・ドクトローは旧ソ連邦から離脱した最初の国はロシアであったという事実を指摘した。ロシアは中央国家が周辺国家に対して資金の提供を続けることを止めたのである。あのような状況を再現することはどこの国も望まないであろう。

かってプーチンはこう言った:旧ソ連邦を懐かしく思わない者にはハートがない。旧ソ連邦を再建しようと思う者には脳味噌がない。

ウクライナについてはロシアは極めて限定された目標の下で軍事活動を終わらせ、交渉によって、あるいは、他の手段によって目標が達成されたならばウクライナからは軍を撤退させるであろう。そのコストを負わなければならないのはウクライナである。

しかし、ゼレンスキーやクリチコおよび米国の権力者はウクライナ紛争をそのように見てはいない。米国はロシア軍をウクライナに留め、ウクライナが最後の一兵になるまで戦わせたいのだ。そうすることによってロシアを消耗させたいのである。

ワシントンポストによると、ウクライナには交渉をしたいと思う者は誰もいない:

近い将来に何らかの取引を行う見込みは低いと外交官らは言う。だが、近い内になんらかの合意をするかどうかに関してゼレンスキーはあれこれと違った信号を発信しており、これは交渉の行方についての心配を強める結果となっている。
...
「私は対話の準備ができている。われわれは降伏する積りはない」と今週(319日の週)の始めにゼレンスキーがABCニュースで述べた。また、この間ロシアとは必要となるだけ戦い続けるとも彼は述べている。

ポーランドとチェコ共和国およびスロヴェニアの首相らが戦時にあってリスクが高まっているキエフを訪れた際、火曜日に、ゼレンスキーはこのメッセージをことさらに強調して繰り返した。「交渉を妥結させることには興味をほとんど示さず、彼はプーチンが要求を変更するまでウクライナは戦い続ける必要があると言った」と、対話内容に詳しい外交官が述べた。彼は、皆と同じように、秘密が多い対話に関して公に話をするに当たっては匿名にすることを条件として話をした。

米国は現状に満足しているらしく、国務省は戦争をさらに拡大したいようだ:

「我々の側には和平を訴えるウクライナ人はいない。誰もが戦いたいと言っている」と、米高官が述べている。
...
ゼレンスキーは国民に何らかの和平を売り込まなければならないであろう。もしも彼が余りにも多くのことを譲歩するならば、それは極めて危険な仕事となる。彼は戦時の大統領としては酷く人気が高かったが、平和時には極めて人気が低い大統領となるであろう。ウクライナの西側に傾倒した野心はロシアが侵攻したことによってより強固になったからだ。
...
何らかの成果を得るには西側の同意を必要とするが、ロシア軍の撤退と引き換えに西側はモスクワ政府に対する制裁を撤回する必要がある。

しかし、アントニー・ブリンケン国務長官は、水曜日、ただ単にロシア軍を撤退させるだけでは米国の制裁撤回基準を満たすことにはならないと述べた。「今まで起こったことは元へ戻すことはできず、このようなことは二度と起こってはならない。つまり、米国としてはロシアが今やっていることを1年後、2年後、あるいは、3年後にもう一度試みることがないようにしたい。」

そのような状況に至る唯一の方法はロシアを全面的に解体することである。これこそがブリンケンの念頭にあったのかも知れない。このことを実現するために彼はどんな計画を持っているのだろうか?

ウクライナを武装解除する戦争が始まったことに私は驚いたが、ロシアはこの戦争を収束させるに当たって地理学的にはいったいどのような終結を望むのであろうかとふと思った:

この作戦の収束に当たってどのような計画を持っているのかを見定めることは容易でない。いったいどこでどのように終結させるのだろうか?

下記の地図を見ると、ロシアにとって最も利益が大きい収束は新たに独立国を作ることであろうと思う。「ノヴォロシア」と呼ぼう。ドニエプル川の東側に位置し、南側には海岸線に沿った地域を含み、ロシア語を喋る住民が大多数を占める。これらの地域は1922年にレーニンによってウクライナへ編入された。この新国家はロシアとは政治的にも、文化的にも、そして、軍事的にもうまく同調する。

Photo-1

これによってウクライナは黒海への出口を失い、モルドバからの分離を標榜し目下ロシアの保護下にあるトランスニストリアとも陸続きになる。

残りのウクライナは陸封国家となり、ほとんどは農業地帯であって、武力が解除され、貧しく、近い将来ロシアに対して脅威をもたらすことはないであろう。政治的には、この地域はEUにとっては大問題となり得るガリシア地域からのファシストによって牛耳られることとなろう。

ノヴォロシアについては2014417日のロシアTVでの長いQ&A セッションでプーチンが喋っていた。あれはキエフにおける2014年のクーデターの直後だった。ノヴォロシアは赤い区域と黄色の区域から成る。これらの地域は衰退の途上にあったオットマントルコから18世紀にロシア帝国が勝ち取ったものだ。ノヴォロシアにはソビエト時代に開発された貴重な鉄鉱石の鉱山やドニエプル川の西側にあるクルィヴィーイ・リーフの工場群が含まれる。

ふたりのロシアの専門家は上記に関して私とはほぼ同意見であるが、私が元々提示した国境線とは僅かに違った案を持っている:

パトリック・アームストロングは彼の最終案の中でこう書いている:

ロシアがウクライナを取り込むとは私には思えない。モスクワ政府はロシアとNATOとの間で緩衝地帯となる中立で非ナチ化されたウクライナを望んでいる。また、私はカテリーナ女帝がオットマントルコから回収した地域の国境線を持ったノヴォロシアが独立することを期待している。この地域がウクライナの一部として残るチャンスは、恐らく、過ぎ去ってしまった。2014年に私が書いたように、「結局、西側はウクライナを破壊し、今ウクライナを所有している。もっと正確に言うならば、ロシアが所有したいとは思わない地域を西側が所有している。そして、それが何処から何処までなのかはひとえにロシア側の選択次第なのである。モスクワ政府は今選択をしているところだ。

やがてやって来るウクライナの分割に関する新しい記事の中でギルバート・ドクトロウは次の事項について同意している:

ウクライナにおける騒乱は戦争に続いて起こり得る事象であることは私としては否定しない。特に、クリチコのインタビュウにあるように「妥協」を巡る理不尽な立ち位置を見せつけられたばかりである。しかしながら、クレムリンが彼らに対するリスクを排除するための対応方法は極めて明白である。先ず、彼らは戦争前にプーチンが明記していた(敵側にとっての)脅威を実現することができる。つまり、ウクライナの国家としての地位を剥奪することだ。完全に剥奪するわけではないにしても、1991年以降存続してきた国家としての形を崩すのだ。つまり、ウクライナの分割である。キエフやドニエプル川の西側を分離し、陸で囲まれた国家とし、その首都はポーランドとの国境に近いリヴィウに置く。

銀行業界の用語を使うと、そうすることによってロシアは「バッドバンク [訳注:バッドバンク(bad bank)とは、金融危機に際して設立され、公的資金を使って金融機関の不良債権を買い取る資産管理会社を指す。20072010年の金融危機にはいくつかの国でバッドバンクが設立された]を設立することとなり、ウクライナの急進主義者や少数の産業界や大企業の資産を封じ込め、ロシアに対する影響を遠く離れた地に追いやることとなる。「グッドバンク[訳注:グッドバンク(good bank)とは中核的な事業を継続する銀行を指す]はウクライナの中央部、ドニエプル川の東側の地域に位置する。つまり、住民の大多数がロシア語を喋る地域である。彼らは自分たちの国家における公的な生活ではロシアからの呼びかけに応じ、過去8年間にもわたって国粋主義者たちから受けてきた虐待や暴力からは脱却する。このウクライナ中央部は目下ロシア軍によって占拠されている黒海沿岸部、ならびに、ウクライナの繁栄を定義してきた他の経済的に重要な資産を受け継ぐことになろう。

アームストロングやドクトロウならびに私が言及している地域は大部分の住民がロシア語を喋り、親ロ的な地域である。昨日(318日)、3万人程の住人が(ネオナチや急進的な国粋主義者らによって)占拠されていたマリウポールから脱出し、何人かがインタビューに応じた。依然として市の一部を占拠しているアゾフ・ナチスについて彼らは批判的な話をした。ロシアを毛嫌いするキエフ政府やその他の国家には決して屈服しようとはせず、新たに建設されるノヴォロシアの市民となることについては何の問題もないようである。

しかし、そのような国家を作り上げるに当たって、ロシアはまずそれを手に入れなければならない。果たしてこの戦争は今後どのような展開を見せるのであろうか?

ロシアはウクライナの防衛軍をゆっくりと消耗させ、その後ウクライナの奥へと進軍し、ロシアが念頭に置く新たな国境線に到達する。(ロシアがキエフを取り込むのかどうか私には分からない。)ロシアはこれらの地域に駐留し、個々の地域が住民投票を行ってウクライナからの独立を勝ち取ることに尽力するであろう。新国家を防衛するために民警団が新たに組織される。ロシアは新国家を承認し、共同防衛条約に署名する。

その後、ロシア軍はロシアへ撤退することができる。

これらの地域は大多数が親ロ派であることから、彼らの間から反政府暴動を引き起こす可能性は低い。

2022319日、協定世界時で16:31に投稿。

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これで全文の仮訳が終了した。

この記事の中で私が非常に面白いと思ったのは下記の部分だ:

「・・・この議論の前提はロシアがウクライナを占領するという点にある。

これはトルコ国立テレビ局のTRTがキエフ市長のヴィタリ・クリチコに行ったインタビューに見て取ることができる。クリチコはロシアが旧ソ連邦を再建しようとしていると述べて、ロシアを非難した。彼は和平交渉を拒否し、ウクライナが戦いを続けることを望んでいる。

このインタビュー後、歴史家のギルバート・ドクトローは旧ソ連邦から離脱した最初の国はロシアであったという事実を指摘した。ロシアは中央国家が周辺国家に対して資金の提供を続けることを止めたのだ。あのような状況を再現することはどこの国も望まないであろう。

かってプーチンはこう言った:旧ソ連邦を懐かしく思わない者にはハートがない。旧ソ連邦を再建しようと思う者には脳味噌がない。・・・」

歴史家に言わせると、旧ソ連邦から最初に脱出したのはロシアだったと言う。これは周辺諸国に対して中央政府であるロシアが経済的に支援し続けることはできないと判断した結果であった。そして、ソ連邦の崩壊に関してプーチンが述べた歴史観がまた秀逸である。

果たして、この引用記事の著者が描いているようなウクライナの分割が実際に起こるのだろうか。厳密にはそれは分からない。

しかしながら、分割を引き起こす内部要因は、321日の投稿でもご紹介したように、存在することも事実である。そして、外部要因としてはNATOとの間に緩衝地帯を設けたいとするロシア側の安全保障上のニーズだ。

最後に西側の軍事専門家の意見を付け加えておこう。他にもさまざまな意見があろうが、英国の元司令官の意見に注目しておこう。

英国陸軍の元司令官で今は退役しているニック・パーカー将軍は「NATO軍のはったりだと言うプーチンにNATOは敗れた。もっと攻撃的な少数の国だけで構成された軍に置き換えるべきだ・・・」と述べている。(原典:NATO has been 'DEFEATED by Putin’ calling the alliance’s bluff and should be replaced with a smaller coalition of nations prepared to be more offensive, says Britain's former army commander: By MAILONLINE, Mar/31/2022)要するに、ウクライナへのロシア軍の侵攻を防げなかったことはパーカー将軍にとってはNATO側の負けなのである。NATOは加盟国数が30か国と膨張しただけに各国の国益は必ずしも同一とは言えず、意見集約が難しくなっていた。平和時にはNATO組織を拡大することは容易ではあったが、実際に軍事行動を起こすことになると美辞麗句を並べた掛け声程には統制できないのが現状のようだ。今回はそれがNATOの弱点として表面化した。そして、意見の集約が難しいのはNATOの中心的存在である筈の米国が国際舞台における存在感に陰りを見せ始めているからでもあろう。

参照:

1What Will Be The Geographic End State Of The War In Ukraine: By Moon of Alabama, Mar/19/2022