2016年6月17日金曜日

世界的に著名なピアニスト、ワレンティーナ・リシツアが脅迫にもめげずに、ドネツクでコンサートを開催



ワレンティーナ・リシツというウクライナ出身のピアニストをご存知だろうか?

インターネットでは彼女が演奏するクラシックのピアノ曲は非常に多く、個々の動画へのアクセス数に注目すると百万を超すものがたくさんある。ベートーベンのピアノ・ソナタ「月光」第3楽章(https://youtu.be/zucBfXpCA6s)はそのアクセス数が1400万を昨日(616日)突破した。端的に言って、これは彼女が世界中の聴衆から強い関心を集めているという動かぬ証拠でもある。

昨年の春、カナダではクラシック音楽界に異常事態が発生した。

トロント交響楽団が迫っていたワレンティーナ・レシツとの演奏を解約したのである。理由はウクライナの内戦に関して彼女がツイッターでウクライナ東部の分離派の住民に肩を持った発言をしたからというものであった。この仕打ちを受けて、彼女が政治的な発言を控えるようになったのかというと、決してそうではない。彼女は一歩も後へ引かなかったのである。

トロント交響楽団側については、交響楽団へ寄付をしている大物の間にはウクライナ政府に肩入れするウクライナ系のカナダ人たちがいて、彼らが交響楽団に対してワレンティーナ・レシツとの共演をやめるようにと圧力を掛けて来たものだと言われている。

このピアニストは個人的な政治的見解を巡ってトロント交響楽団との共演を破棄されると言う憂き目に遭遇した。本来ならばカナダの一地方のニュースではあったのだが、これが「ウクライナ紛争」という政治的な絡みから国際メディアに乗っかり、この報道はあっという間に世界中を駆け巡った。皮肉にも、すでにインターネット上では素晴らしい知名度を上げていた彼女は、新たに、世界中でそれにも勝るような注目を受けることになったのである。あれから1年以上が経過した今、さまざまな報道がインターネット上には見受けられる。しかし、どちらかと言うと、ワレンティーナを支持する声なき声が優勢となっているようだ。

彼女はこう言った。「私はラフマニノフを演奏する予定だったのよ。演奏会場で政治について説教する積りなんて毛頭ないわ!」 [1]

ロシアの「コムソモルスカヤ・プラウダ」紙の特派員、アレクサンダー・コッツ(AK)とドミトリー・ステシン(DS)がこの著名なコンサート・ピアニストがドネツクでコンサートを開催する前に彼女とのインタビューを行った [2]

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。

彼女のピアニストとしての才能については、ベートーベンのソナタ「月光」であるにせよ、ショパンのノクターン変ホ長調であるにせよ、あるいは、他の数多くの曲目であるにせよ、YouTubeの動画サイトで存分に堪能していただきたいと思う。この投稿では、彼女の市民としてのスタンスやウクライナ東部の住民たちに対する彼女の思い入れに関してより具体的に、より多くご理解いただけるのではないかと期待している。


<引用開始>



Photo-1: クラシック・ピア二ストのワレンティーナ・リシツ

原典はコムソモルスカヤ・プラウダ紙にて出版された。ロシア語からの英訳:アレクサンダー・フェドトフによる。

クラシック・ピア二ストのワレンティーナ・リシツはドンバスの人々から単に好まれているばかりではなく、敬愛されてさえもいる。それは彼女のピアニストとしての職業的な名声ばかりではない。それはドンバスの人たちに対する彼女の立ち位置のせいである。彼女は西側の反対にも面と向かって自分の立場を貫き通して来た。ドンバスの住民たちに対して彼女が支援を惜しまなかったことから、彼女はさまざまなスキャンダルに見舞われた。それは出身国であるウクライナにおいてばかりではなく、ヨーロッパ中で友人や同僚たちとの関係を壊してしまったのである。「受け入れがたい人物」として見られる危険を犯しながらも、彼女はコンサートを開催するために内戦に打ちひしがれたドンバスの地へ繰り返して足を運んでいる。彼女のコンサートの入場券は数時間の内に売り切れてしまう。彼女のドンバスでの演奏会の前に、我々(AKおよびDS)は彼女のリハーサルに立ち寄ってみた。

AK & DS – 我々は2014年の3月以降、最初の時期からこちらで演奏会をして来ました。この地へやって来て、ドンバスの人々を支援しようとする音楽家や俳優は決して多くはなく、この現状は悲しいことです。片手で数えられるほどしかいません。しかし、あなたはこちらではもう二回目ですよね。

ワレンティーナ・リシツ(VL) – 私はドンバスの状況を最初の頃から詳細に観察して来ました。私のハートは出血しているままで、止まりそうにもありません。マイダン革命については、私は皆さんとは違った見方をしています。私はソ連邦の崩壊を自分の目で見て来た世代です。私はウクライナ語を喋っていましたし、伝統的な刺繍を施したブラウスを着て走り回っていたものです。私たちは独立していました・・・ そして、私たちの世代は完全に騙されていたことに気付き、皆がこの国を去って行きました。私自身は、結局、米国に落ち着くことになりました。最近のマイダン革命に参加した若者たちは本当に気の毒だと思います。彼らは素晴らしい将来を夢見ていたんです。私もそういう経験をして来ていますから、すべてが分かります。オデッサは私にとっては大打撃でした。何故かと言いますと、オデッサは私の祖先の地だからです。彼の地で起こったことに私は恐怖に襲われ、目を背けることはできませんでした。そして、過去へ戻ることはもうないんだということも悟りました。ドンバスで起こった事は幸運にもクリミアでは起こりませんでした・・・ 私は人々を助けてあげたいと思ったのです。私はピアニストです。私の武器は自分の音楽だけです。そして、音楽は非常に強力な武器であることが判ったのです。私がこの地で初めて演奏をした時に私は気付いたんです。音楽はただ単に気を紛らわせるためのものではないし、すべてを所有しているエリートたちの専有物でもないのです。そういうものではなくて、人々は音楽を必要としています。それは酸素が必要であるのと同じです。ドネツクではこの地で生まれたプロコフィエフを演奏します。ここには私たちのルーツがあります。それは私の音楽を聴きにここに集まって来る人たちが帰属する我々みんなのための文明です。この地域の人たちからすべてを剥奪しようとして、流血沙汰を含めて、さまざまな試みが成されて来ました。皆さんが如何に音楽を渇望しているのかを私は感じ取っています。ここに居ることが如何に危険であるか、あるいは、西側が私の事をどのように見るのかについては考えないことにしています。仮に何かが起こったとしても、私の家はここにありますし、わたしは何時でもここへ戻って来ることができます。私はベルリンからドネツクへやって来ました。これからカナダへ飛ぶ予定ですが、私の家族や私の親戚はこの地、この場所に残ります。

AK & DS – 90年代に戻りましょう。「言論の自由」のすべてを手にしたにもかかわらず、西側には秘密のスイッチがあります。そのスイッチを切ると、たとえ有名であって、非常にタレントに恵まれていようとも、その人物は消されてしまうということが判っています。永久にです。あなたが自分の聴衆を失うといった事態が心配にはなりませんか?

VL – エリートたちは私に対しては決まって障害物を作って来ました。それこそが私がYouTubeを通じて私自身が独力で自分の居場所を築いてきた理由です。一億人を超す聴衆が私を見守ってくれています。誰かがこの聴衆を私から剥ぎ取ってしまうとはとても考えられませんし、私は私が言っているような人間ではないとして誰かが私の聴衆を騙すようなことをするとはとても思えません。昨年、私はカナダでの演奏から締め出されました。しかし、最近、私はトロントで演奏をしました。入場券は売り切れて、私が壇上に立った時には皆さんが立ち上がって私を迎えてくれました。実際には、考え深い人たちが実にたくさんいるのです。まさに想像以上にです。テレビで観たことを誰もが自動的に受け入れるわけではありません。そういう人たちに対して私は訴えたいのです。私はもう何度も脅かしを受けましたが、私はそのような脅かしを恐れてはいません。私を殺すと脅されたことさえもあります。私の家族や私は侮辱されました。しかし、そういったことは何でもありません。子供が涙を流す価値さえもありません。2日前にゴルロフカで日中にコンサートを催しました。その会場には子供たちがたくさん来ていまして・・・ 子供たちは私を取り囲んで、私のために演奏しようとしました。でも、もう遅くなったので、帰宅する時刻だと注意されたのです・・・ 私は、愚かにも、「でも、子供たちに演奏させてあげたら」との思いに駆られていました。子供たちは帰っていきました。子供たちが帰宅の途上にあった710分頃、ゴルロフカは砲撃を受けたのです。私は子供たちのためにプロコフィエフやバッハならびにショパンを演奏しましたが、私を見つめている姿を良く覚えています。あれは私にとっては最高の報酬でした。

AK & DS – ドンバスで起こっていることは西側でも議論されていますか?新聞やテレビに登場して来ますか?

VL – いくらか現れるようになて来ました。しかし、大多数の議論は「代替」メディアで行われています。ツイッターとかフェースブックです。私は世界中で数多くの一般の人たちと会っています。私たちは「クレムリンの回し者」と呼ばれる始末で、無残な行為のすべてについて責任を負わされます。しかしながら、ここの人たちは全世界に本当の事を伝えてくれている人たちです。私たちは石造りの壁にフォークで穴を開けようとしているのです。その穴を通して太陽の光が輝くことでしょう。情報のやり取りから判断しますと、ドンバスやウクライナで一体何が起こっているのかを理解する人たちはますます多くなっています。

AK & DS – ドンバスでは何が一番衝撃的ですか?ハートを揺り動かすようなものは何ですか?
 
VL – 私たちがデバルツヴォを訪れた時のことです。私はアパートのビルを見せて貰いましたが、そのビルは壁が残っているだけでした。周りのすべては何もかもひどく陰鬱で、灰色ばかり・・・ 突然、その中に光るようなスポットがありました。赤ちゃん用のピンクの毛布です。女の子用のものでした。流血や死体を示す写真なんて必要ありません。この焼けた家屋で何とかそのまま残ったのがこの赤ちゃん用の毛布だけであったとしても、それはすべてを物語ってくれています。

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AK & DS – ドネツクでは昨年と現時点とを比べて何らかの違いがありますか?

VL – 何処へ行ってもそうなんですが、土曜日になると人々が出て来て、通りを掃除し、ドアや窓あるいは壁にペンキを塗っている姿を見かけます。誰もがこの地は自分たちのものなんだということを自覚しており、どこかへ逃れることなんてできません。ウクライナでは人々はビザ無しの体制を夢見ています。国全体が逃げ出す用意をしているのです。しかし、ドンバスの人たちには逃げ出す行き先はありません。こちらの人たちは自分の土地や自分の理想、歴史、文明、等を守ろうとしています。彼らは純粋な気持ちから自分たちの土地の面倒をみています。コンサートで行った先のシュトットガルトでの写真とドネツクでの写真をごちゃ混ぜにして、私は実験をしてみました。これらの街の写真の中でどれがヨーロッパの写真かを問うてみたのです。私はシュトットガルトは必ずしも好きではありません。ゴミが散らばっていたり、あらゆる場所が落書きだらけ、主要な通りには雑草が生えていたりします。ドンバスとはまったく対照的です。そのようなことを認識し、これは誰にとっても衝撃的でした。通りを掃除する人たちは自分たちが行っていることに誇りを持っています。これらの人たちは宇宙船を発明するようなことはないでしょうが、自分たちの市のために非常に重要なことを行っています。私は皆を抱きしめて、キスしたいと思いました。皆さんが行っていることは他のビジネスと同様にドンバスが存続するためには非常に重要なことなんです。

AK & DS – これは地域住民が信念を失ってはいない、くじけてはいないという確かな兆候です。我々はこれと同様の状況をシリアでも観察しています。シリアではもっとも残虐なテロリズムの影響でさえもが消え去ろうとしています。そのような様子を我々は目撃しています・・・ 

VL – と同時に、ドンバスの人たちは、たとえば、屋根の修理をしていますが、合板は使ってはいません。真新しいきれいなスレートを使って屋根を修理しているのです。つまり、やがて平和がやって来ることを皆さんは信じ切っており、今まさに自分たちの将来を築こうとしているのです。



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AK & DS – 意見の相違から家族が分断された事例をこの地ではいくつも見ています。あなたは何らかの理由で影響を受けていますか?ウクライナの友人たちはあなたに背を向けましたか?
 
VL – ウクライナばかりではありません。西側での友人や同僚たちの挙動を理解することの方が遥かに困難でした。赤ちゃんを食べることにさえも等しいようなあらゆる邪悪なことについて私は非難をされましたが、あれはもっとも困難な瞬間のひとつでした。ドンバスから最初に戻って来た時、オランダの新聞で誰かが「マレーシア航空のボーイング機が墜落したことに私が喜んでいると私がツイートした」という作り話を流したのです。それまでに何年にもわたって一緒に仕事をしてきた私の同僚たちの反応はどんなだったと思いますか?その内のひとりが手紙を書いて、こう言って来ました。「ワレンティーナ、あんたがこんなことを言うことはないことを私は承知している。でも、私の友人の中には親戚を失った人たちがいるんだ。だから、私はあんたと一緒に仕事を続けることはできない。」 たとえ何が起ころうとも、私はこの人物の側には立ち続けるだろうと思っていました。しかし、かの善良で、正当でもあるヨーロッパ人はテレビで何かを聴き、私との付き合いを止めてしまったのです。彼と私とはお互いに非常に近しくしていました。彼の好みの作曲家はショスタコービッチでした。ショスタコービッチは弾圧や友人の裏切りに耐え抜いた人物です・・・ そして、このオランダ人は私の市民としての立ち位置を知って、ショスタコービッチの「友人たち」と同じように私に背を向けたのです。この困難な年月が過ぎ去った後に、彼がショスタコービッチの音楽をより深く学ぶことができたのかどうかを私は彼に訊ねてみたいと思っています。あれこそが西欧スタイルなのです。何かに関与することは避けて、脇から傍観するだけ。あの出来事で私は最大級の失望を体験しました。

AK & DS – 音楽で戦争に勝つ。これは至るところで観察されて来た人類の伝統です。包囲されたレニングラードにおけるショスタコービッチを思い出してください。「サラエヴォへようこそ」という映画を思い出してください。チェロ奏者が町を見下ろす丘へ登って、演奏を始める。廃墟と化した町の人たちは彼の演奏に引き寄せられる。ところで、あなたはドネツクへやって来ました。戦争は続くのですか?戦争についてはどう思いますか? 

VL – 向こう側にいる人たちは皆が戦争にはもう飽き飽きしているものと思いたいです。彼らがこの戦争で達成することなんて何もないでしょう。ここの人たちは最後の一兵になるまで戦うことでしょう。何故かと言うと、正当な理由のために戦っているからです。そして、ここの人たちは降伏のような恥ずべき平和なんてまったく望んではいません。皆が公正、かつ、正当な平和を望んでいるのです。ウクライナがドンバスと和平を実現する前にはさまざまな事が起こるに違いありません。すでに、余りにも多くの流血沙汰が起こっています。ごく平均的な西側の市民はウクライナにおける「ロシアの侵略」について知っています。でも、実際にはいったい誰が侵略者か?侵略者はキエフ政府です。過激なイデオロギーを持ったネオ・ナチがキエフから当地へ送り込まれて来ました。彼らはタンクの前に立ちはだかったおばあちゃんたちを銃撃したのです。「確かに、我々が悪かった」と彼らが認め、加害者らが扇動者らと共に裁判所へ連行されるまでは、和解をするという意識はあり得ないでしょう。明らかに、多くのごく普通の市民が兵役に取られ、彼らは上官の命令には従わなければなりません。しかし、イデオロギーに流された殺害も非常に多く、金を稼ぐためにこの地へやって来た連中もたくさんいます・・・ すべての事柄を整理し、加害者たちに対しては適切な判決を下さなければなりません。それが出来て始めて、和平や和解のプロセスを開始することが可能となります。

AK & DS – 暇な時には、どんな音楽を聴きますか?

VL – () 私は毎日の時間の99パーセントはクラシック音楽に没頭しています。趣味は何かというと、民族音楽です。ロシアとか、ウクライナの民族音楽、あるいはエキゾチックなもの。音楽も無しに毎日を過ごすことは非常に難しいです。言わば、音楽が私と一緒に同居しているようなものです。夏休みも休暇もありません。何時も、仕事、仕事、仕事です。

AK & DS – ところで、あなたのプレイヤーや携帯にはどんな音楽が入っているんですか?

VL – クラシック音楽です。(笑) 



Photo-4: ピンクの赤ちゃん用の毛布。ワレンティーナ・リシツが前回ドンバスへやって来た際に彼女が撮影したもの。 


・・・彼女のドンバスのファンたちの間ではもっとも若年層である子供たちと一緒に撮った写真。

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<引用終了>



頑張れ、ワレンティーナ!

ウクライナの内戦が一日でも早く収束し、誰にとっても平和な日々が戻って来て欲しいものである。

現実には、これは夢のまた夢かも知れない。人間が持つ業が経済的あるいは軍事的派遣と結びつくと、とんでもない状況が現出する。このことは歴史がつぶさに教えている。それでもなお、現実は変わろうともしないし、現実を変えようともしない。不思議な世界である。




参照:

1‘I was to play Rachmaninoff, not preach politics - fired pianist Valentina Lisitsa to RT: By RT. Apr/07/2015, http://on.rt.com/54f0qa

2World-Renowned Concert Pianist Continues to Play in Donetsk Despite Threats: By Alexander Kots and Dmitry Steshin, Komsomolskaya Pravda, Jun/07/2016






2016年6月13日月曜日

米軍にとって本当の脅威はロシアではなく、平和だ



米国の国家予算の半分は軍事費に注ぎ込まれる。

これは誰が見ても異常だ。何故かと言うと、米国の貧困者層は拡大するばかりであり、まともな医療を受けることや高等教育を受けることが出来ないまま放置されているからだ。米国の失業率は粉飾され、意図的に見かけを良くしている。実際の失業率は遥かに高いと言われて久しい。これが「民主国家」を唱導して来た米国の現状である。米国は、今や、「軍事至上国家」と呼ぶにふさわしい程だ。

肥大した軍産複合体に関しては多くの識者がさまざまな意見を述べている。

それらの中で、「米軍にとって本当の脅威はロシアではなく、平和だ」と題する記事 [1] が目についた。辛辣極まりない表題ではあるが、軍産複合体の実態を適切に伝えるものだと言えよう。

また、別の記事の著者はこの米国の軍産複合体を「宿主を食い殺す寄生者」と称しているが、これも軍産複合体の実態を別の言葉で表現したものである。

本日のブログでは上記の記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。米ロ間の緊張を高めることによって自分たちの利益を最大化しようとする米国の軍産複合体とそれに引き回されている国際関係について少しでも多く理解しておきたい。


<引用開始>

まさに怪物のように膨れ上がった米国の軍事予算は「木を見て、森を見ず」という昔から使われている格言が非常にうまく当てはまる。米国の軍事費は過剰なまでに肥大化し、多くの場合間違った考えに基づいている。

最近の数年間、ワシントン政府の年間軍事予算は平均で約6000憶ドルに達する。この金額は米国政府の裁量支出の半分を超す。教育や医療および社会保障のための予算を優に越している。そして、この金額は世界各国の年間軍事支出の総額となる1.7兆ドルの三分の一強を占める。

1961年にアイゼンハワー大統領が辞任の際に行った演説で初めて警告を発した軍産複合体の台頭は疑いようもなく米国の社会ならびに経済の中心的、かつ、決定的な性格を持つようになってしまった。米国経済の非常に大きな部分が政府によって支出される軍事費に依存していることから、「米国の自由市場に基づく資本主義」について喋る際には決まってとんでもない矛盾語法に陥ることになる。

言い方を変えてみよう。もしも米国の軍事予算を何らかの方法によって他国並みのレベルに大幅に低減することができるとするならば、我々が知っているように全ての領域でパワーを誇っている軍産複合体や米国という国家は完全に消滅してしまうことだろう。もっと好ましい状況が何れは現れるだろうことには何の疑いの余地もないが、大企業にとってはその衝撃は計り知れないものとなる。それ故、軍事費の大幅削減は強烈な抵抗に遭遇するに違いない。

これがルーマニアへ米国のミサイル防衛システムを設置し、ロシアとの「冷戦」の緊張関係が今週一挙に深刻化したことの前後関係である。8憶ドルもするいわゆるミサイル防衛システムは今後2年間のうちにポーランドにも設置され、グリーンランドから南スペインに至るヨーロッパ全域を網羅する計画である。

ワシントン政府とNATOの高官らはイージス・ミサイル防衛網はロシアを目標にしたものではないと言う。説得力はまったくないが、米主導の軍事同盟はこのシステムはイランや他の不特定の「ならず者国家」から発射される弾道ミサイルに対して防衛をするものだと主張する。ヨーロッパはイランの弾道ミサイルの射程の遥かに先に位置することや、テヘラン政府とP5+1 の国々との間で昨年国際的な核に関する合意が署名され、成立している事実を考えると、「イランからのロケットに対する防衛」という説明はその信頼性を失う。

この新しいミサイル防衛システムはロシアを狙うものではないとして執拗に否定する米国やNATOの主張をロシアは信じない。クレムリン政府はこの最近実施された配備はロシアの安全保障にとっては脅威となるとして非難した。それに加えて、クレムリンは適切な対応策をとって、戦略核のバランスを維持する用意があるとも述べた。この米国のイージス・システムは、どう見ても、ロシアに対して「第1撃を加える選択肢」をNATO軍に付与することにあると考えられるからである。

ここでは主要な点を議論する前に幾つかの事柄を明確化しておかなければならない。第1に、ヨーロッパ各国は昨年の7月に署名された画期的なP5+1 による合意を受けて、目下、イランのビジネスへの投資やイラン市場を追っかけている。ドイツやフランス、イタリア、英国およびオーストリアはイランが持つ巨大な経済力の潜在性を取り込もうとして互いに競い合っている。ロシアの高官が指摘しているように、イランがそのような将来性のあるパートナーに対して軍事的脅威を与えるなどという考えは如何にも滑稽である。

2に、米国がとった試みはロシアにとっては無害だとする米国の強い主張は常識を蔑視する卑劣な行為である。彼らのこの主張は、オバマ大統領やペンタゴンのトップの将軍らを含めて、ワシントン政府が今までに述べて来た数多くの表明とは矛盾するのである。それらの表明によると、ロシアはヨーロッパにとっては脅威となる存在であるのだ。ワシントン政府はヨーロッパにおける軍事支出を4倍に増加し、兵員やタンク、戦闘機ならびに戦艦を増派し、「ロシアの侵攻を阻止する」という極めて明確な理由をもってロシアとの国境付近で大規模な軍事演習を行っている。

換言すると、ロシアは世界でもトップクラスの敵国であって、ワシントン政府によればヨーロッパの存続の脅威になると見なされているのだ。つまり、米国が今週イージス・ミサイル・システムを東欧に配備したことはロシアに対するワシントン政府の好戦的な主張と見事に辻褄が合っている。彼らの主張を無理やりに別様に推論して、米国と米主導のNATO加盟国はロシアに向かって攻勢を掛けているわけではないと結論付けることは非論理的であり、ばかばかしい程に幼稚でさえもある。

ロシアを世界的な安全保障の脅威であると描くことは、もちろん、ばかばかしいことだ。米国のこの種の主張は中国やイランおよび北朝鮮についても当てはまる。米国が主張するこれらの「敵国」はすべてがひどく誇張されている。 

ロシアによるクリミアの「併合」とかウクライナ東部への「侵攻」といった西側の主張は西側のニュース・メディアによって執拗に増幅されているが、これらの主張は事実によって容易に反論することが可能であり、ワシントン政府がキエフで秘密裏に行った政権交代が偽りであることを示すことによってもっと正確なバランス感覚を与えることも可能である。

それでもなお、西側が扇動する恐怖は絶え間のないメディアによるプロパガンダによって支えられ、これらの怪しげな主張を一纏めにしてロシアはハイブリッド戦争によってヨーロッパ全土に害を及ぼすというもっと大きな、恐怖に満ちたロシア像に仕上げることにある程度成功している。確かに、これはロシア人を人さらいとして見るばかげた恐怖物語であるに過ぎないのだが、その底流には人種差別やスラブ人を野蛮人として悪魔視したナチの思想が見え隠れする。

しかし、このようにロシア人を悪魔視することは、それ以外でもロシアを世界の敵として見ることと共に、米国の軍産複合体にとってはどうしても必要な強力な支えであり、米国経済を機能させ続けるためには不可欠なのである。

ワシントン政府によって費やされる6000憶ドルはロシアが費やす軍事費のほぼ10倍に相当する。それにもかかわらず、現実を反転させて、ロシアは脅威であると彼らは主張する! 

米国の軍事予算は米国に次いで多額の軍事予算を計上する9か国の合計よりも大きい。つまり、「ストックホルム国際平和研究所」(SIPRI)によると、これらの9か国とは中国、サウジアラビア、ロシア、英国、フランス、ドイツ、インド、日本および韓国である。

米国経済は我々が理解しているごとくペンタゴンや大企業、ウールストリートの大銀行、ならびに、議会における利害関係者によって支配されており、政府による膨大な軍事支出が無かったとしたら存続し続けることは出来ないだろう。これはほぼ間違いない。

構造的には、米経済はすっかり白骨化し、戦争経済となっている。米国の経済を維持するには、たとえそれが冷戦であろうと熱い戦争であろうと、米国は引き続きその基盤を戦争に置くことしか他にはないのである。歴史家たちは米国が近代国家として存続してきた240年間で、米国の歴史の95パーセントもが戦争や海外での紛争に関与してきたと指摘することだろう。

ソ連邦との冷戦の最中、ワシントンにおいて何度となく再燃したテーマはいわゆる「ミサイル・ギャップ」だった。これは米国が優勢な軍事力を失う事を意味していた。そして、これは膨大な軍事支出や執拗な軍拡競争をもたらし、ついにはソ連邦の崩壊を招いた。

ドルの優位性に基づいて無限に借金を続けているワシントン政府(現時点で20兆ドルに近い)は自身に特権を与え、米国はこの破滅的な軍事費の浪費振りを自ら検証する機会を活用することはなかった。

この無鉄砲な状況は今も健在である。冷戦が公式に終了して既に4分の1世紀が経過しているが、米国の軍事費の浪費は相も変わらず浪費家らしい、非持続的なペースで続いているのである。

この失態をワシントン政府が継続するには、全世界を恐怖と憎しみの狂乱状態に追い込むしかない。これこそがロシアや中国との冷戦を近年再燃させなければならなかった理由である。刀を鋤に変換させることはできない。米経済を指揮する米国の支配者層やその利害関係者らにとっては鋤はもはや何の利用価値もないからである。

ロシアのウラジミール・プーチン大統領は何回かにわたって安全保障に関する世界的な協力を、特に、米国に向けて呼びかけて来た。モスクワ政府は、最近、新たな軍拡競争に入りたいとは思わないと述べている。軍事費の暴走によって旧ソ連邦が壊滅的な経験をしたことを考えると、これはロシアの観察者にとっては容易に理解可能である。

しかしながら、それこそがまさに米国が望んでいることであり、引き起こしたいことなのである。つまり、それは世界規模の軍拡競争である。これによって、米国は自分たちの怪物じみた軍備を正当化することができるからだ。

SIPRIによると、中国とロシアの両国は2015年にはそれぞれが7.5パーセント増と軍事予算を引き上げた

ロシアの国家的資源や国を挙げての発展に余分な重荷を負わせて、歪を与えかねないことを考えると、ロシアは軍拡競争に関わりたくはないだろう。

しかし、米国がロシアの玄関先へ新たにミサイル防衛システムを設置したとなると、ロシアも軍事的関与を拡大することに余儀なくされるだろう。この刺激ははなはだ厄介である。

そして、それこそがワシントン政府がまさに意図していることだ。客観的に言って、ロシアがワシントンやその同盟国にとって安全保障上の脅威であるということではない。ワシントンにとっての本当の脅威は、実は、軍産複合体の存在がこの上なく冗長なものとして感じられる平和に満ちた国際関係なのである。 

世界の平和が米国の大企業の資本主義的なパワーの拠り所とはまったく対極の位置にあるという現実は実に悩ましいことだ。

恥ずべきことではあるが、世界は戦争のリスクにさらされている。米国のエリートたちの特権を維持するためには他のすべてを破滅に導いても構わないとするリスクにさらされているのだ。米国市民のほとんどはこの悪魔的な不条理に苦しむことになろう。彼らは貧困や窮乏に耐えなければならないが、その一方で大企業のエリートたちは常識に欠けた軍事的浪費のために年間6000憶ドルもの予算を吸い上げているのである。

著者のプロフィール: フィニアン・カニンガムは大手のニュース・メディアにて編集者や物書きを務めてきた。彼は国際関係に関して幅広く執筆しており、彼の記事は多言語で出版されている。

<引用終了>


これで仮訳は終了した。

この著者が述べている内容は実に説得力がある。日頃あれこれと断片的に感じている事柄を著者は見事に纏め上げ、解説してくれている。この記事の表題が意味するところは非常に奥深い。新資本主義やネオリベラリズムあるいはグローバリズムが内蔵する決定的な矛盾を簡潔に描写している点が素晴らしいと思う。非常に啓蒙的である。

客観的に言って、ロシアがワシントンやその同盟国にとって安全保障上の脅威であるということではない。ワシントンにとっての本当の脅威は、実は、軍産複合体の存在がこの上なく冗長なものとして感じられる平和に満ちた国際関係なのであるというくだりは実に秀逸だ。

この記事を読んで、「米国は軌道修正をすることが出来るのだろうか」という疑問に誰もが襲われることだろう。このことについては、残念ながら私は悲観的だ。米国の人口の99パーセント占める大衆は実際には政治に対する発言権を持ってはいないからだ。大衆の対極にあるエリートたちに軌道修正を望むことは不可能だ。ふたつのグループの間には共有する価値観がない。この疑問に答えられる人が果たしているのか?今進行中の米大統領選の結果によっては、ある程度の答えが出て来るのかも知れない。

今、米国政府や軍産複合体が進めようとしている方向は軍拡である。その行き着くところは最終的には第3次世界大戦、あるいは、米ロ間ならびに米中間の核戦争である。今から70年前までのツキジデスの罠には「核」という文字はなかった。当時のツキジデスの罠は、核戦争のリスクに晒された今日の国際環境から見れば、牧歌的にさえ見える。しかしながら、今や、米ロ両国が保有する核弾頭の総量は地球上の生命を何回でも抹殺することが可能だ。

他にもっと有力な、持続性のある筋書きがあって欲しいものだが、果たしてどうだろうか?

ついに、人類の英知が試される時が到来した・・・



参照:

1Peace, Not Russia, Is Real Threat to US Power: By Finian Cunningham, Information Clearing House / SCF, May/17/2016