2014年6月7日土曜日

まさに信じがたい - 遺伝子組み換え作物に反対する人を黙らせようとしたシンジェンタ社の対応


種子や農薬を主製品とするアグリビジネスではモンサントやデユポンに次いで世界でも第三位にある企業、シンジェンタがこのようなことをしていたとは言語道断である。信じられないことが行われていた。これはドイツでの話だ。
最近の報道 [1] によると、シンジェンタ社の遺伝子組み換え(GMO)トウモロコシが2000年にドイツのある酪農家に深刻な問題を引き起こした。乳牛に不妊や病気が起こり、死亡する例さえもあった。また、子牛には先天異常が発生したという。
そして、もっとも衝撃的なことは、この酪農家にGMO作物による問題が生じた後にシンジェンタ社が見せた対応の仕方だ。
日本でも、分野がまるっきり違うけれども、福島原発事故では「安全神話」が脆くも崩れた。当事者である東京電力の事故後の対応には多くの国民に不満を感じさせ、将来に対する不安を抱かせている。今でも、その不安は払拭されてはいない。
企業倫理の崩壊という範疇で見ると、これらふたつの事例はまったく同類だ。洋の東西を問わず、企業倫理はいったい何処へ行ってしまったのだろうか?

それでは、この報道を仮訳し、下記に示したいと思う。 

<引用開始>
GMO種子の企業がドイツのある酪農家を黙らせようとして如何なる対応をしたのかが当事者の酪農家によって公表された。このインタビュー記事はRT紙の社説の対向ページに掲載された。
ドイツの酪農家、ゴットフリート・グレックナーは自分が受けた脅迫や中傷について聞き手のウィリアム・エングダールに語った。挙げ句の果てには、英国・スイスの多国籍企業であるシンジェンタ社が供給したトウモロコシのGMO種子が彼所有の受賞したことのある一群の乳牛や農地を台無しにしてしまったことに関する訴訟を彼が取り下げることを断ったことから、彼は不当な留置さえも喰らう始末だったという。
2年間の刑務所暮らしの後、彼は世界中で自分の体験談を語って、GMO種子が如何に危険であるかを一般の人たちに伝えようとしている。
ウィリアム・エングダール(WE): グレックナーさん、私たちふたりはあなたが刑務所へぶち込まれる前から知り合いとなっていますが、あなたが合法的に自分の話を公衆の前で話せるようになったのはつい最近のことでよね。それでは、まず背景について簡単に話していただけませんか? 
ゴットフリート・グレックナー(GG): 「実質的に同等」という原則の下でEUでは遺伝子組み換えの「ラウンドアップ・レデー」大豆の販売が開始されましたが、その1995年以降、私は作物に関するGMO技術に深い関心を抱いていました。1997年にシンジェンタのGMOトウモロコシ(Syngenta Bt176)の商業的な販売がEUで認可された時、新しい技術に興味を抱いていた酪農家の私はシンジェンタのBt176を自分の農地で栽培してみようと決心したのです。
WE: シンジェンタのGMOトウモロコシの種子はどのように作付けしたのですか?
GG: Bt176のトウモロコシの作付面積を毎年少しずつ増やして行きました。自分の農地から収穫したサイレージ用トウモロコシやトウモロコシ穀粒を乳牛用として100%供給するまでには数年かかりました。
WE: それでは、シンジェンタ社のBt176 GMOトウモロコシだけを乳牛に給餌し始めてからどんなことが起こったのかを話してください。
GG: 2000年に私は不妊の事例を始めて観察しました。死亡した乳牛も何頭かありましたし、深刻な先天異常の子牛もありました。 
WE: そうした状況にはどんな対処をしたんですか?
GG:  私は土壌やGMOトウモロコシのサンプルを持ち込んで、公的な検査を行って貰うように手配しました。何回も検査を行いました。検査結果は致死的な影響の原因はGMOトウモロコシにあるということを示していました。シンジェンタがノースカロライナの研究所で行った検査では「Bt毒性物質」を発見しませんでしたが、同一のサンプルに関して同一の検査手法を用いてドイツの研究所で行った検査ではBt毒性物質が8300 ng/㎎も検出されたのです。
WE: ドイツで行われた検査では他に何か見つかりましたか? 
GG: ドイツの研究所で行った検査によると、必須アミノ酸の量がトウモロコシ穀粒では重量比で24%も低く、サイレージ用トウモロコシでは8.8%も低下していました。この低下は乳牛用の餌としては致命的な問題です。これらの結果から、EU委員会による認可の基礎となっていた従来の作物と「実質的に同等」あるいは等しいというのは嘘であることが判明したのです。 
 

Photo-1: AFP Photo / Lionel Bonaventure
 

WE: メデアは著名なロバート・コッホ研究所もあなたのサンプルを試験したという事実を重く見ていましたよね。どうだったのでしょうか?
GG: あの当時のドイツの監視・認可当局であるロバート・コッホ研究所は私のシンジェンタGMOトウモロコシの試験については何らの要請もしては来ませんでしたが、その代わり、私が乳牛の血液中にBt毒性物質を発見した方法に関して、彼らに詳しく説明するようにと言われました。
WE: あなたの乳牛や農地がシンジェンタのGMOトウモロコシによって受けた損害については査定が行われました。で、その結果は?
GG: シンジェンタ・ドイツのCEOであるハンス・テオ・ヤックマンと一緒に、2002年の4月に損害に関する報告書を作成することになりました。この作業には乳牛の損失額、必要となった代替用穀物の費用、分析や獣医に対する支払い、ミルク生産の損害額、等が含められました。シンジェンタは50万ユーロの損害総額に対して43千ユーロを払ってくれただけです。残りは現時点になっても私への支払いを行ってはいません。
WE: この話に終止符を打つために彼らはあなたに「ピーナッツ」を支払った、とドイツの銀行家のヒルマー・コッペルは言いたかったようですが、あなたの側としてはそれで終わりになったんでしょうか?
GG:  シンジェンタは私のサイレージにしたGMOトウモロコシ(Bt176)の措置に関しては実際に推奨文書を作成しましたが、「未収穫のトウモロコシについては何もしてはくれませんでした。」 彼らは私の気を引こうとしてあの手この手の約束を持ちかけてきました。新品のハーベスター機械、新築の家、新しい職場、あるいは、旅行プラン… 私はそういった申し出でをすべて断りました。正当な対応ではないからです。 
WE: 大企業であるシンジェンタやGMOのロビー団体に対してあなたは何年にもわたって厳しい闘いを続けましたよね。何故ですか? 
GG: 彼らのGMO技術には純粋に技術的な問題があったということを彼ら自身が認め、その後のGMO製品からは毒性物質の問題を排除するという決意を私は最終的にシンジェンタから聞きたかったのです。実際には、その代わりに、私が政府の高官や地方政府ならびに民間のグループに招かれ、ヨーロッパ中でシンジェンタBt176についての自分の体験談の話をした後に、私は法的な攻撃を受けました。
WE: シンジェンタはどんな反応をしたんですか?
GG: 問題の解決に関するわれわれの最後の交渉が決裂した後、そして、シンジェンタの代表者が「損害の総額を半々で持ち合おう」と私に提案した後に、私がそれを断った時私を呼び止めてこう言ったのです。「あんたの結婚はうまく行っているのかい?」 そこで、言い返してやりました。「シンジェンタと結婚しているわけじゃないよ!」と。 
WE: これは異様ですね。何故シンジェンタはあなたの個人的な生活についてまで踏み込もうとしたんでしょうか?
GG: 離婚手続きの最中に、元の妻が家(17歳、15歳と13歳の3人の子供は私と一緒に生活していました)を出ていってから突然新しい弁護士が彼女の代理人となりました。この弁護士は業界のロビー活動家が推薦したのです。この弁護士を通じて、彼女は私が婚姻内での強姦を犯したとして新たな訴えを起こしたのです。この訴えについては医師の報告書もなく、心理的評価も行われず、他の人からの信ぴょう性のある発言は何もありませんでした。単に彼女の訴えだけでした。それでも、あの訴えのせいで私は「庶民の名において」直接刑務所へ送られました。その後、私の刑務所入りのいきさつが州の検察官の目に留まり、私は早目に刑務所から釈放されたのです。
WE: 彼らは他の反対派の農家の人たちに対する見せしめとしてあなたを利用したかったんでしょうか?それとも、他の理由からでしょうか? 
GG: 私は顧客である農家のひとりとして喋らなければなりませんし、私はノヴァルテス・シンジェンタの被害者でもあるのです。この会社が用いた手法は信じられないほどひどいものでした。私が刑務所に入っていた時、債務不履行の命令が二回も出されたのです。私は一度所定の金額を支払いました。その後、もう一度、その金額が土地登記簿に記入されました。私自身の弁護士を通じてすでに解決済みであったにもかかわらず、先方の弁護士は法的強制力のあるコピー文書を入手したのです。
法的な権利を失った私の農地で彼らは新会社を設立しました。私の事務所や家は何回も侵入され、書類や機械類ならびに電子機器類は盗まれました。
さらには、ドイツの関税当局とは5年間にもわたって闘わなければなりまんでした。
彼らは私の銀行口座を差し押さえ、私はもはや「証明書を所持するミルク生産者」ではないとの議論の下で4年も遡ってミルクの代金を払えと私に要求してきました。これは「ミルクの供給量を保証する支払いの規定」によるものです。これらはすべてが私が「GMOは含まれてはいません」という表示ラベルが付いた原料中にもGMOの存在が認められるいう証拠を公表した時期のことでした。  

Photo-2: Reuters / Arnd Wiegmann
 

WE: ドイツの関税当局との法的な争いはどんな結果となりましたか?
GG: 2011年の911日にカッセルの特別商事法廷で勝訴しました。私は自分で弁護をしました。その結果、私は625128ユーロを勝ち取りました。 
WE: とは言え、ドイツでは多くの政治家たちがGMOの作付を増やせと言っています。このような発言は責任のある発言でしょうか? 
GG: 2004年にシンジェンタが自分たちのGMOは失敗だったと宣言をした後のことでしたが、メルケル首相がドイツ国内にGMO作物を導入する強力な支援者であることを知って、私は大変驚きました!ところが、もっと驚かされたことがあります。それはミュンヘン工業大学が行ったGMOの研究が(非常に不正直な話ですが、結果を肯定的に示すために)改ざんが行われていたことが判明したのです。公に発覚した結果、2009年の4月にはGMOトウモロコシである「モンサント810」はドイツの消費者保護大臣、イルゼ・アイグナーによって禁止となりました。
WE: 結局、ドイツ政府はあなたに何と言いましたか?
GG: 前は存在してはいなかった法人組織が私の農地に設立されましたが、この事実はドイツ最高裁によっても認定されました。でも、政府は依然としてこう言いました。「グレックナーさん、あなたに起こってしまったことは非常に極端なことです。政府はこの新技術を支援します。」 
考え得るすべての事や手続きを総動員することによって連中をその気にさせ、連中は法律を破りました。これらすべては私が被った損害に関して法的な訴えを起こさせないためのものでした。
WE: これらの出来事はすべてがドイツの遺伝子組み換え技術の賠償責任に関する法律に抵触するのでは?
GG: その通りです。「GenTG」法第32条の賠償責任の条項はGMO種子の製造業者に対して明確に賠償責任を規定しています。それによると、「遺伝子組み換えが行われた生物によって人命が失われ、人体や健康に損傷が与えられ、なんらかの損害が生じた場合はその製造者はいかなる損害をも償う責任がある。」 国家の法的命令も然りです! 
WE: あなたはGMOの危険性やご自身の恐ろしい経験を伝えるために世界中を旅してきました。こういった行為は今や世間ではほとんど見ることができませんが、これは純粋な意味で「市民としての勇気」だと言えます。
GG: はい。私は国際会議で話をするために世界中を歩き回っています。目にすることができる成果を体験できて今はとても幸せです。2005年に、「遺伝子組み換え技術のないスイス」を目指して市民が企画した住民投票が実施されてから、ヨーロッパではGMOの作付はほとんど行われてはいません!ロシアはGMO作物の輸入をすべて禁止しました。中国は無許可のGMO製品を積み込んだ穀物輸送船を米国へ送り返し、あるいは、焼却するよう命令を下しました。
WE: シンジェンタに彼らの側の言い分を喋って貰うためにも公開の場での討論を実施してはどうでしょうか?
GG: 壇上で私とシンジェンタのCEOが討論し合うことができるようにシンジェンタのCEOをお招きしたいと思います。私自身も話をする予定であった201310月の国際会議ではシンジェンタは予定していた参加を取りやめにしました。その後でもあるだけに、二人が登場することができれば、それは確かに興味深い会議になるだろうと思います。 
WE: GMOの危険性に絡んで家畜やわれわれ自身の生か死かにかかわる情報に関して、読者の皆さんはどうしたら最新の情報を入手できるのでしょうか。
GG: わたしのウェブサイトでは常に情報を更新していますが、ほとんどがドイツ語です。
WE: グレックナーさん、どうも有難うございました!
注: このコラムに収録されている意見や見解は著者自身のものであって、必ずしもRTの意見や見解ではありません。
<引用終了> 

当事者のグレックナー氏の話を辿って行くと、企業側が多くの金を注ぎ込んで、あの手この手を使ってグレックナー氏に脅しをかけた様子が窺える。言語道断だ。それにしても、不幸にして理不尽な対応を受けることになった当事者であるグレックナー氏の不屈の闘志には脱帽だ。彼は「善良な市民」であるばかりではなく、「闘う市民」でもある。見上げたものだ。
彼の体験談が大きく世論を動かしたと言えるのかどうかはまったく分からないが、今や、ドイツ、フランス、イタリア、等ではGMO作物は禁止されている。
ひとつだけお断りをしておきたい。引用した記事の中には「庶民の名において」という表現がある。「庶民の名において」一人の市民を刑務所に送り込むとはどういうことだろうか?西部劇に出てくる「リンチ」を連想してしまった。現代の法制度の下ではこのようなことはもちろん存在しない。正直言って、この意味は私にとっては十分に理解ができなかった。専門家のご意見をお聞きしたいと思う。
 

     

ヨーロッパでのGMO作物の認可・非認化はさまざまな経緯を経て、現在は、EUとしては認可の手続きのみを行い、実際に作付けを許可するかどうかは各国が独自に決めることになっている。その結果、EU圏内ではGMO作物の作付を認める国と認めない国とがモザイク模様を織り成している。
また、この引用記事でもお分かりのように、ドイツではメルケル首相はGMO支持派でありながらも、消費者保護大臣はGMO反対派である。同一政権内でこのように意見が分かれている理由はドイツ政府が1党独裁ではなく、連立内閣であることから来ているようである。
ドイツとならぶ農業大国であるフランスでは、GMO作物は冷遇されている。モンサントの昆虫耐性を有する「MON810」というGMOトウモロコシ はEUのレベルでは認可されてはいるが、本年55日のフランス上院の反対にあって、フランス国内では作付が出来なくなった。フランスが作付けを禁止した理由は環境への悪影響である。左派系のフランス政府は懐疑的な意見に支配された世論と環境保護派の動きを反映して、GMOには反対の立場である。
米国に比べると、EU圏では、総じて、GMO作物に対しては批判的だ。そんな状況を反映して、モンサントは既にEU圏で認定されているGMOトウモロコシである「MON810」を除いては、新規の認定申請は行わないと決定した。ヨーロッパ市場からの撤退である。これは昨年の717日に報道された。
また、EU圏内の各国間の対応はそれぞれの国情を反映して長い間意見の相違が残されており、分裂した状態であったが、この2月にはそれが再度表面化した。「パイオニア1507」と称されるデユポンのGMOトウモロコシを認可するか、認可しないかに関して各国間で統一的な結論を得るには至らなかったのだ。
GMO作物が家畜や人間の健康に悪い影響を与えるのかどうかについては今後も論争が続きそうである。本当に安全であると言い切れるまでは、活発な論争が必要だと私は思う。  

 
参照:
1Syngenta methods of silencing GMO opposition are unbelievable: By William Engdahl, RT, May/15/2014, http://on.rt.com/yfwt3v

 

 

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