2015年7月7日火曜日

またもや、プーチンに技あり! - ドイツへの天然ガス供給能力を二倍に



最近、ロシアはドイツへ天然ガスを供給するパイプラインの増設を発表した。

EUとロシアとの間では経済戦争が進行する中、EUは対ロ経済制裁をさらに半年延長することを決めたばかりである。そんな折も折、EUの中心的な勢力であるドイツに向けて天然ガスの供給量を倍増する計画がドイツとロシアの間で合意したのである。驚きである。

ノルド・ストリームはロシア西部からバルト海を横切ってドイツ北部へと接続するパイプラインであって、ウクライナは通過しない。このパイプラインはウクライナで今進行中の内戦の影響を直接受けることはないことから、ドイツやヨーロッパ西部の国々にとってはエネルギーを安定的に確保する意味では戦略的に非常に重要である。

増設される新しいパイプラインが持つ意味は何か?

誰もが抱く疑問について解説する恰好のブログが最近現れた [1]。今日はこの記事を仮訳して、それが国際政治に与える影響について皆さんと共に理解を深めたいと思う。


<引用開始>

Photo-1: プーチンは間抜けな連中とチェスをすることに飽き飽きしている!

この寄稿は最初に [訳注:629日に] CounterPunch に掲載された。
 



ここにスクープ情報がある。米国の国防長官が得点をあげようとして肩をそびやかしてドイツを訪問する二日前、ロシアのガスプロム社は巨大な商談が大詰めを迎えているこを公表した。それはロシアの天然ガスをドイツへ送り込む2本目のノルドストリーム・パイプラインのことだ。

この衝撃的な情報によって、何の手掛かりをも持ち合わせてはいないカーター国防長官は何が起こっているのか、あるいは、ロシアを孤立させる努力が大失敗に終わってしまったことについてまったく何も知らないかのようだった。ここで誤解をしないで欲しい。この商談は巨大だ。この地域全体の地政学的な計算をすっかり書き換えてしまうほどにどでかいのだ。いったい今何が起こっているのかについて、ロバート・モーリイがTheTrumpet.com上の記事で次のように説明している。

「このパイプラインが完成した暁には、ほとんどの東欧諸国は天然ガスの地勢図から抹消されてしまうだろう。もはや、ウクライナ、ポーランド、ルーマニア、ベラルーシ、ハンガリーあるいはスロヴァキアを通過して天然ガスを供給する必要はなくなるからだ。」 (TheTranpet.comGazprom’s Dangerous New Nord Stream Gas Pipeline to Germanyから引用) 

その通り!ウクライナははじき出され、それに代わってドイツが登場する。これはワシントン政府がロシアとヨーロッパとの間に楔を打ち込むことによって米国の覇権を拡大し、確固たるものにするするという計画が完全におじゃんになったことを意味する。 

柔道の達人であるプーチンに、またもや、「技あり!」だ。つまり、彼は11時になるまでじっと待って、威嚇するかのようにうるさく話をするカーターの足の下にあるカーペットをグイッと引っ張り、自分は椅子にゆったりと座り込んで展開しつつあるショウを楽しんでいるという格好だ。カーターが自分の髪の毛に火の粉がかかっているにもかかわらず、ヨーロッパ中を駆け回っているのは何とも滑稽ではないか?上述の記事からもう少し引用してみよう。

「この商談がロシアに如何に大きな影響力をもたらすかについて考えてみよう。ドイツは天然資源には恵まれてはいないが、ロシアからの支援によってヨーロッパのエネルギー・ハブになることができるのだ!

オランダやベルギー、フランスおよび英国といった国々へガスが供給される前に、天然ガスはまずはドイツを経由する。その量が2倍にも増加される。こうして、ドイツはロシアの影響力をさじ加減することができるようになる。また、西欧諸国は天然ガスの供給をドイツに依存することにもなる。

今起こりつつあることを現行のウクライナ紛争の陰に隠してはならない。大見出しに示される紛争がまったく別の姿を示している時でさえもドイツとロシアとの間には秘密協定の歴史がある。ウクライナにおけるロシアの行為に抗議して西側が対ロ経済制裁を課している最中にドイツとロシアがこのような商談を取り纏めようとしていたこと自体が多くを物語っているとも言える。(TheTranpet.comGazprom’s Dangerous New Nord Stream Gas Pipeline to Germanyから引用) 

これは負け惜しみだ!この記事の著者はあなた方にはヨーロッパにおける米国の動機は雪のように純粋であると思って欲しいかのようであるが、果たして本当にそうだろうか?ワシントン政府は「ロシアの侵攻」を頻繁に口にするが、本当にロシアの侵攻を恐れているのだろうか?彼らはドイツとロシアとを互いに引き離すことによって米国による単極支配を何としてでも維持したいのではないか?それこそが対ロ経済制裁の真の目的ではないのか?ストラトフォーのCEOであるジョージ・フリードマンはシカゴ外交問題評議会で行った演説で下記のように述べている。 

「第一次、第二次世界大戦ならびに冷戦等の戦争を通じて闘ってきた米国の基本的な関心事はドイツとロシアとの間の関係であった。何故かと言うと、これらふたつの国が連携すると、我々に脅威を与えることができる唯一の集団となるからだ。そのようなことは起らないようにしなければならない。」

その通り!一言で言えば、これこそがワシントンの戦略である。ドイツの産業がロシアの無尽蔵の天然資源と結びつくことを阻止することだ。そのような結びつきは致命的となる。米国のGDPを凌駕するようなユーラシアを統合した一大自由貿易連合が出現し、帝国の終焉をもたらすだろう。「ロシアの侵略」などというたわ言は信じないで貰いたい。ワシントンが本当に懸念するのは米国を追い抜くことができるような経済大国の出現である。ドイツがロシアの最大級のガス・ステーションの役割を持った時、まさにそのような事態が到来する。 

ガスプロムに関するニュースは自然な成り行きとしてカーター国務長官をいささか気難しくさせたことだろうが、彼はEU各国を次々と訪問し、プーチンに向けては簡潔に警告の言葉を吐いた。その一方で、NATO諸国に対してはもっと多くの武器や兵員を送ると約束し、もっと多くの合同演習を実施し、もっと多くのミサイルを設置すると約束した。で、これはいったい何のためか?コサック兵が草原を横切り、バルト諸国へ侵入するのを防ぐためか?真面目になって貰いたい!プーチンはヨーロッパへ侵入する気なんてさらさらない。彼は自分たちの商売が欲しいだけだ。それだけだ。我々が最初の段階から言っていたように、プーチンは金をいくらか稼ぎたいだけだ。彼は自国の経済を不景気から回復させたいのだ。その通りだ。ガスプロムの利益を拡大したいのだ。このことについて何か問題があるとでも思うのかい? 

問題なんて何もない!実際には、そういったやり方こそが今までの米国の振舞い方だった。ところが、最近は米国は物事を台無しにし、略奪できる物は何でも略奪しようとする。

ところで、プーチンについてことごとく愚痴を言うのは馬鹿らしいとは思わないかい?彼はヨーロッパに向けて天然ガスを売る。だからって、何だと言うんだ?それを乗り越えて行こうじゃないか。愚痴る奴なんて皆から嫌われるだけだ。

サウス・ストリームを阻止しようとして米国は手の内にある策は何でも採用し、ついにはあのプロジェクトを葬ってしまった。米国チームが1点を獲得!しかし、米国チームはその得点のままで試合が終わるとでも思ったのだろうか?プーチンがただ単に自分のテントをたたんで、家へ帰てから思いっきり泣くとでも思ったのだろうか?彼は自分の最大の顧客を諦めて、その代わりに中国へ乗り移るとでも思ったのだろうか? 

もちろん、そうではない。誰もがこのような状況がいずれはやって来ることを見通していた筈だ。ペンタゴンはどうして不意をつかれたのだろうか?この種の問題を見通すことができる専門家はいないとでも言うのか?それとも、連中は戦争ゲームに熱中していて、そんな暇はなかったとでも?米国の通商代表部が契約を結ぶための筋道を模索しなければならない時に、どうしてカーター国防長官はタンクやミサイル防衛システムの話をしていたのだろうか? 資本主義はまさにそういう風に機能する筈ではなかったのか?それとも、米国は競争が出来なくなった相手は誰彼かまわずに焼き殺してしまおうと考えるまでに堕落してしまったのだろうか?惨めな話だ!ヨーロッパ訪問中のカーター国防長官の言葉を下記に引用してみよう。

「プーチンが述べる世界観のひとつは過去への憧れであって、それに関しては我々は違った世界観を持っている。ましてやロシアの将来に関しても然りだ」とカーター国防長官は言った。「我々は自分たちが前進する姿を見たいし、ヨーロッパも同じことだ。しかし、彼の見方には前進するという考えは見当たらない。」 

冗談じゃないよ、カーター長官。男として毅然とした態度をとることができないのかい?米国はもう競争することはできない。その代わり、戦争に訴えると決心したと認める積りかい?そう言い切ることがそんなに難しいのかい? 

もちろん、カーター国防長官はガスプロムの話はすべてをカーペットの下へ掃きこみ、何事も起こらなかったかのように振るまうべく、あらゆる努力をした。しかし、これらのことに関心を抱く人たちは誰だって真相を見つけ出すことができる。事実、彼はプーチンに自分の時計をきれいにして貰っている。しかも、一度だけではないのだ。この水曜日には寝耳に水の話が新たに舞い込んで来たが、これは美味しいケーキにちょっぴり氷を添えたかのようだった。OilPrice.comは下記のように報じている。

「ロシアの国営企業であるガスプロムはターキッシュ・ストリーム・パイプラインの建設に向けて一歩踏み出した。つまり、このプロジェクトの黒海を通過する部分について関連海域の調査を開始する許可をアンカラ政府に求めた」と、ロシア・エネルギー省のアレクサンダー・ノヴァク大臣が述べた。同大臣はアンカラとモスクワの両政府が6月末までにはターキッシュ・ストリームの建設に合意する見込みであると言った。(Controversial Gazprom Pipeline Clears Hurdle, OilPrice.Comを参照)

二重の大失敗だ!これで、プーチンはヨーロッパに向けて二方向から天然ガスを供給することになり、米国は寒い屋外に締め出された形だ。これらのロシアからの挟み撃ち攻撃がヨーロッパを締め付け始めるとあなた方自身も感じるのではないか?これで、何故にカーター国防長官が必要以上に取り乱してヨーロッパを駆け巡っていたかを理解することができよう。栄光の分割統治政策が彼の面前ではじけてしまったからだ。彼に残された選択肢は当初の計画を諦めて、製図版のもとへ戻ることだけである。忌々しい程の大失敗だ!

カーター国防長官のヨーロッパ旅行中にもうひとつのストーリーが現れた。これはブルームバーグからの報告である。

「ウクライナは7月の国債の支払いが出来そうにはない。ゴールドマン・サックスによると、債権者との対立から債務の帳消しの兆しは見えない。したがって、190億ドルの債務で不履行に陥ることになりそうだ。 

619日に債権者と行われた話し合いの内容に詳しい消息筋によると、ウクライナは債権者に数週間の猶予を与え、債務の支払い停止を宣言する前に元本の40%を帳消しにする案を示し、債権者側がこれを呑むよう要求している。

「ウクライナは724日の国債の支払いを履行することはできず、その結果、その時点で債務不履行となる」と、あり得そうな成り行きのひとつとしてアナリストのマセニーは報告書の中で述べている。「ウクライナが最近示した提案を特別委員会が認めるとは我々は思ってはいない。」 (ブルームバーグのGoldman Sees Ukraine Default in July as Debt Standoff Holdsから引用)

ウクライナは破産した。この私をからかう積りかい? プーチンをベトナム戦争のような泥沼へ誘い込もうとしていた米国にとってはウクライナはべらぼうに重要であった筈だ、しかし、今や、破産しようとしている?政府を転覆し、ナチに武器を供与し、内戦を助長し、オデッサでは市民を建物ごと焼き殺し、民間旅客機を撃墜し、ウクライナ国家をソマリアのような無秩序のどん底に突き落とした。でも、これらはすべてが何のためにもならなかったのか?すべてが巨大な誤算、あるいは大間違いであったとでも?

米国は「世界的な安全保障の守護神」としてはまったく信用できないんだということを理解できるかい?ワシントンは手に触れる物は次から次と、建物を打ち壊す鉄球のように、外交政策によって破壊してしまう。アフガニスタン、イラク、リビア、シリアを見たかい?そして、今はウクライナだ。次はいったい何処だろう? 

プーチンはワシントンの計画を妨害することによって拡大し過ぎた帝国が寛大にも速やかに終焉することに力を貸しており、我々に膨大な恩恵を与えている。我々は誰もが彼に感謝の念を示さなければならない。

その方向だ。どんどんと先へ進んでくれ、ウラジーミル。

<引用終了>


西側の主流メデイアだけを読んでいるとまったく見えては来ない風景がこのブログによって霧の中に隠されていた全景が見事に見え始めてくる。これが私の印象だ!

フランスで製作が完了していたミストラル級ヘリ空母のロシアへの引き渡しは対ロ経済制裁のあおりを食って頓挫した。今回のノルド・ストリームの増設は軍事の範ちゅうには入らないだろうが、「帝国」が進めている対ロ政策への政治的影響を考えると、これは上述の軍艦の引き渡しと同じくらいのインパクトを持っているのではないかと思われる。今後の展開はどうなるのか予断を許さない。

現行のウクライナ危機をめぐる対ロ経済制裁を展望するに当たっては、Saker [注:ウェブサイトとしてはthesaker.is/latest-articles/ にアクセスしてみて下さい。数多くの記事が掲載されています…] というブロガーが示した興味深い見方を念頭に置きたいと思う。同ブロガーは情報戦争が80%、経済戦争が15%、最後の5%が武力による戦争だと言う。米ロ間は、今、情報戦争+経済戦争の真っ只中にある。しかし、最大の懸念は、ロシア国境で行っているNATOの武力誇示が誤算や偶発的な接触によって武力衝突に発展する危険性がいや増しに高まっていることにある。

歴史を見ると、多くの戦争は自作自演によって始まった。一握りの戦争屋が戦争を望んでいるからだ。まさにイラク戦争が始まった時のように!何と愚かなことであろうか!


参照:

1Putin’s Nord Stream Move Gobsmacks Uncle Sam – Again: By Mile Whitney, CounterPunch, Jul/03/2015, www.counterpunch.org/.../putin-gobsmacks-uncle-sam-again/


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