2015年10月18日日曜日

「空爆は人を殺す」 - 何ともショッキングな西側の認識



シリア政府からの公式の要請を受けて、ロシアは2週間程前の930日にシリア国内の反政府武装勢力(ISIL)に対する空爆を開始した。

その翌日、西側のメディアは何とも不可解な役割を演じることになった。もちろん、当人たちはこれが不可解であろうなどとはまったく気が付いてはいない風であった。彼らはこれが正業であり、何と言っても周りの人たちが羨むような高給を貰って詭弁を弄しているのだから何をかいわんやである。

ここに、そのような状況を皮肉たっぷりに批判した、短い記事 [1] がある。独断を恐れずにあえて言えば、この記事の著者は教養のある英国人らしさを存分に発揮しているのだとも言えそうだ。

今や、西側世界のメディアはこれ程に歪んでしまっているということだ。BBCは過去の2年間に手のひらを返すように大きく変化し、強力な洗脳装置に変身したと指摘する専門家がいる [2]。その論評の一部をご紹介すると、下記のような具合だ。

「…最初の兆候は2014年のソチで開催されたオリンピックの際だった。ちょうどウクライナ紛争の直前であった。BBCは、西側の他のほとんどのメディアと同調して一連の嘘を並べ立てて、執拗にプーチンやソチならびにロシア人を叩きのめそうとした。たとえば、ゲイに対する拷問、人を噛む野良犬、ロシアのマフィア、汚職まみれのオリンピック、イスラム武装勢力によるテロ行為の可能性、等々。まさに、恥ずかしい程に感じられる英国からのプロパガンダがオリンピックを待ち望んでいる世界に向けて吐き出されたのである。そして、それは止むことがなかった!」

こうしたジャーナリズムの衰退ぶりを読んでもっとも身につまされることは日本も決して例外ではないと言える点であろう。

本日は、立場によっては喜劇とも悲劇とも受け止められるこの現実を読者の皆さんと是非とも共有し、この記事の著者特有の英国流の皮肉を感じ取ってみたいと思う。



<引用開始>

米英の空爆は過去10年間にもわたって中東諸国に壊滅的な打撃を与えて来た。何万人、恐らくは、何十万人もの人命を奪ってしまった。その犠牲者には数多くの子供たちも含まれている。メディアは今朝、突然、空爆は数多くの人命を奪うんだということに改めて気が付いた。もちろん、ここで言う空爆とはロシアによる空爆のことである!英国機が投下する爆弾は陽気そのもので、幸せが一杯だ。英国軍の爆弾からはじき出されるシュラップネルは悪者の方向へだけ飛んで行く。そのような素晴らしい設計が施されているのだ!

リビアのスルトの街 [訳注: スルトはカダフィ大佐の故郷で、地中海に面している] で米英が行った空爆はこのロシアの昨日の空爆に比べたら500倍も激しい破壊力を持っていた。しかしながら、不思議なことには、米英がリビアで空爆を実施して、いくつもの街で引き起こした何千人もの一般市民の犠牲に関してはBBC は一言も報告をしなかったのである。

ここで、指摘をしておく価値のある事柄がある。昨日ロシアがシリアで行った空爆はISIL に対するものであったのか、それとも、CIA やサウジアラビアによって依然として支援されている反政府派武装勢力であったのかという議論は法的には意味がない。この空爆はシリア政府からの要請に基づいて実施された。したがって、合法的なものである。だからと言って、私はこの空爆を支持するものではなく、私は支持しない。空爆は決まったように一般市民の間に犠牲者を生み出す。その結果、さらなる憎しみが助長されることとなるからだ。 

私の仲間たちは誰もが英国軍の爆弾も同じ結果を招くのだという冷徹な現実を、たとえこれらのプロパガンダによって巧妙に煙幕が張られていたとしても、正確に把握することができるものと確信している。

私は、自分自身の楽天的な性分から、メディアがジェレミー・コービンに対して行った、まさに驚きに値するような攻撃についても言及しておきたい。彼を記述する際にメディアが顕わにした軽蔑の念や偏見は、我々は、実際には、民主的な社会に住んでいるのではないということを明白に示している。人々は違った意見を選挙民に提言し、公正にさまざまな声を聞く場を持つことができるという自由は、実は、与えられてはいないということを示している。

それでもなお、何らかの効果はあるのではないかと私は思いたい。生涯にわたって、放送局や新聞社の人たちは何億人もの市民を直接殺害するためのスイッチを押し、その結果、全人類を滅亡に追いやることには倫理的なジレンマが伴うのだという素振りを見せることさえもない。そんなことはしない人物が存在するという現実を知って興奮のあまり早口で喋りまくる支配者たちの姿は注目に値するほどの驚きでもある。 

しかし、その激高振りこそが倫理的なジレンマの存在を如実に示唆している。これは正当かつ真剣な討論をすべきテーマが人々の関心からは巧妙に覆い隠されて来たということだ。支配者層にとっては、ジェレミー・コービンはたいそう危険な存在であるとも言える。彼はパンドラの箱を開けてしまったのだ。

クレイグ・マレイは著者であり、アナウンサーを務め、人権活動にも従事している。2002年の8月から200410月までは駐ウズベキスタン英国大使を務めた。また、2007年から2010年にわたってダンディー大学の学長を務めた。

<引用完了>


ロシアのシリアにおけるISILに対する空爆に関して、主流メディアは「空爆は人を殺す」という認識をあたかもまったく新しい発見でもしたかのように報道した。その理由は、この空爆はロシアの空爆であるからだった… 著者のこの指摘は些細なことのように見えるが、実際には情報戦争の本質を明確に指摘していると私は思う。

「何億人もの市民を直接殺害するためのスイッチを押す」というのは、言うまでもなく、核戦争を始めるという意味だ。核戦争を開始するという行為は高度に政治的な行為であって、通常、その国の首相とか大統領が最終決定をする。英国では、キャメロン首相である。したがって、「そんなことはしない人物が存在するという現実を知って興奮のあまり早口で喋りまくる支配者」とはキャメロン首相のことだ。

また、「そんなことはしない人物」とは労働党の新党首となったジェレミー・コービンを指している。コービン党首は最近こう言った。「核兵器は米国の911同時多発テロの際には何の役にもたたなかった。」 また、2020年に彼が英国の首相になった暁には「原潜トライデントに装備されている核兵器の使用は認めない」とも述べている [3]

コービン党首の言動を見ていると、その内容は非常に興味深い。西側の支配者ならびに政府に追従する主流メディアが東西の冷戦という政治・軍事的構造の中で今まで営々として築き上げて来た価値観について、彼は真っ向から挑戦する。

たとえば、冷戦構造の申し子であり、西側の相手であったワルシャワ条約機構軍はとうの昔に解散しているにもかかわらず、西側のNATO軍は今もなお維持されている。このNATO軍に関して彼は非常に批判的である。党首候補4人の間で行われた討論では、コービンは英国はNATOから脱退すべきだと述べたが、他の3人の猛反対にあって、英国の撤退という考えそのものは結局取り下げた。しかし、NATOに関しては彼は依然としてさまざまな批判的見解を持っていることは確かだ [4]

コービンの最大の価値は彼が議論を深める先導役を果たしており、英国の政策に関して国民的な議論が展開されるようになったという点にあるようだ。
彼の批判精神は野党としては最高の資質であると言えるのではないか。こういう人物を輩出することができる英国の政界は何と奥が深いのだろうか。奇しくもそれを見せつけられたような気がする。

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我々一般庶民にとっては日本での基本的な問題は、そのような情報戦争を仕掛けて来るメディアの意図をいち早く察知し、一般大衆にたいして「実は、これこれこういう問題があるんだ」と指摘してくれる機能が何らかの形で存在しているのかどうかだ。

本来は、一義的にはそれはプロとしてのメディアの責任である。ところが、日本のメディアも劣化してしまった。あるメールマガジンは時事問題を毎日のように解説してくれている。その著者はこう言う。「…全国紙はふたつもあれば十分だ。」 何紙もありながら、判で押したような報道しかしない日本の全国紙を見限っているのだ。 

批判精神を失ってしまったメディアに加えて、日本では野党の力が四散してしまっていることから、最近の与党政府にはやりたい放題の観がある。少なくとも、私にはそう思える。

そして、最後に残るのは我々一般庶民の一人一人がどれだけの批判精神を持っているのかだ。もちろん、この点こそが上記の議論のすべてを左右する。

そのことを肝に銘じて、今後も英語圏で入手可能であって、日本ではそれ程紹介されてはいないと思われるような情報を読者の皆さんと共有して行きたいと思う。このプロセスにおいては私自身がどのような情報を選択するかは私の一存で決まることから、このブログの性格や方向性が決定されるけれども、私自身の客観性はこのブログによって何らかの報酬を得ることはないという事実が少しは代弁してくれるものと思う。


参照:

1Bombs Kill Shock: By Craig Murray, Oct/01/2015, www.craigmurray.org.uk/archives/.../bombs-kill-shock/

2 On BBC’s Credibility Seppuku: By Phil Butler, Sep/22/2015, journal-neo.org/2015/09/22/on-bbc-s-credibility-seppuku/

3‘Nukes didn’t help USA on 9/11’: Corbyn rules out ever firing Trident: By RT, Sep/30/2015, http:on.rt.co,/6smw

4Jeremy Corbyn backtracks on calls for Britain to leave Nato: By Laura Hughes, Aug/27/2015, www.telegraph.co.uk > … > Jeremy Corbyn






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