2016年4月29日金曜日

NATOは単に「時代遅れ」になっただけではない。第三次世界大戦の導火線となるかも・・・



たとえば、ユーゴスラビア紛争におけるボスニア空爆(1995年)やコソボおよびセルビアに対する空爆(1999年)、シリア内戦(2011年―現在)、ウクライナ内戦(2014年ー現在)、等を見ると、さらには、すでに始まっている「新冷戦」を見ると、NATOの存在が世界の平和にとってはむしろ有害な存在となってしまったのではないかとの感がますます強まってくる。

米国では、今年は大統領選挙の年だ。民主党や共和党の大統領候補者の間で世界の平和に対する米国の役割がさまざまな形で議論されている。その中に「NATO不要論」がある。議論の中心は米軍を維持するための経済的な負担をどう考えるかといったものだ。そして、その議論がNATOにまで及んだ。米国は欧州諸国に対して軍事費をGDP2パーセントに引き上げるように要請しているが、欧州では英国を始めとして軍事費を引き下げる傾向にあり、歩調が合ってはいない。

本日はこの「NATO不要論」に触れてみる。最近の記事のひとつ [1] を仮訳して、皆さんと共有してみたい。


<引用開始>


Photo-1: [訳注:この写真には説明文が無いが、どこかの株式市場かも知れない。]

この記事は最初にAntiwar.comに掲載された。

多くのリバタリアンたち [訳注:自由主義者。この用語と下記に現れて来る「リベラル」とは異なることに注意されたい]とは違って、私は大統領選の季節が大好きだ。何故かと言うと、この時期がやって来ると、ワシントンの退屈な連中で構成された小さなグループの枠を越してしまうような一般的には無視されて来た政策課題が議論の対象となるからだ。そして、リバタリアンであれリベラル [訳注:進歩主義者] であれ、読者の皆さんにはご迷惑かも知れないが、それこそが私がドナルド・トランプのファンになってしまった理由でもある。この世界ではいったい誰が「米国の指導力」から最大の利益を得ているのか(そして、誰がそれを失うのか)に関して必要となる議論を彼が巻き起こしてくれている。彼が最近発した言葉の中でもっとも有用なのはNATOは「時代遅れだ」という言葉である。

その通りだ。ベルリンの壁が崩壊し、ソ連邦が解体した時、NATOの合目的性はそれらと共に崩れ去った。しかしながら、リバタリアンたちが十分に認識しているように、政府のプログラム(特に、産業界に利益をもたらすようなプログラム)は決して停止することがなく、徐々に消えて行くことなんてない。そういったプログラムは成長し続け、彼らの支持者は一大政治勢力となる。NATOの場合、この政治勢力は非常に大きい。

かってロナルド・リーガンがゴルバチョフに対して「ゴルバチョフさん、ベルリンの壁を取り壊したら?」と言っていたことをベルリンの市民が成し遂げた時、ソ連の指導者は西側と交渉する決意をした。そして、彼の考えでは、彼はワシントン政府と合意することに成功した。つまり、NATOが東方へ拡大しないことを条件にロシアはドイツが再統一することを容認したのである。

しかし、この約束は守られなかった。その代わり、外国ならびに国内のロビー団体はNATOをモスクワの玄関先にまで拡大するという一大キャンペーンに拍車をかけた。いみじくもウオールストリート・ジャーナルが文書で示しているように、これは儲けが非常に大きいビジネスなのである。これはロビー活動家にとっては割りのいい手数料となり、米国の企業にとっては影響力を拡大する好機であり、ジョージ・W・ブッシュ政権にとっては政治的な駆け引きの材料となるものだった。ブッシュ政権はワルシャワ条約機構の元メンバーであった東欧各国からイラク戦争に対する支援を取り付け、その代償としてこれらの国々がNATOへの加盟を要請する際には彼らを厚遇するというものであった。

NATO拡大委員会」は後に「NATOに関する米国委員会」と改名され、その中核にはイラクへの軍事的侵攻を扇動する上で有用な役割を担った「米国の新世紀を実現するためのビル・クリストルのプロジェクト」(PNAC)を創立したメンバーの多くが名を連ねていた。けれども、クリントンのような進歩主義者を除外するには失うものが余りにも大きく、ポール・ウルフリッツやロバート・ケイガン、スティーブン・ハドリーおよびリチャード・パールといったネオコンの連中を「進歩的政策研究所」のウィル・マーシャルやビル・クリントンの下で商務省の要職を務め、その後はロビー活動家になったサリー・ペインター、等と引き合わせた。これらの連中はNATOのメンバーになることに期待を寄せている国々や米国内の関連企業から何十万ドルにもなる契約をかき集めた。

NATO委員会の設立者であり、その会長を務めるのはブルース・ジャクソンであった。当時、彼はボブ・ドールの大統領選では資金調達を担当し、ドールが副大統領となってからは米国では最大の軍需企業であるロッキード社(今日のロッキード・マーチン社)で企画や戦略を担当していた。

このNATO拡大プロジェクトはジャクソンの日頃の仕事にはぴったりだった。つまり、統一標準を満足するには、NATOへの加盟を希望する国々はすべてが自国の軍備を最新のものにしなければならなかったのだ。そして、これは軍産複合体にとっては棚から落ちて来たぼた餅同然であった。その一番先頭にはロッキードが控えていた。ロッキードとの繋がりは「委員会」の一員であり、オライオン・ストラテジーの社長でもあるランディ・ショイネマンによって強化された。このオライオン・ストラテジー社の顧客にはロッキードが含まれている。

クリントン政権はNATOの拡大を全面的に支援し、「委員会」の活動が多数の会議や会食および個人的な会合を通じてホワイトハウスの職員、両党からの国会議員、ならびに、ワシントンのロビー活動家や海外からの顧客を互いに引き合わせた。膨大な量のプロパガンダがマスメディアに向けて発せられ、さらには、両党の全米会議では大いに目につく存在にすることを含めて、政治家たちに向けても発せられた。

手短かに言うと、NATOの拡大は輸出入銀行のような無駄な仕事には批判的な「リバタリアン」的な批評家たちから申し分のない関心を得ることができるようなテーマではないけれども、当時も今も、これは縁故資本主義者たちにとっては大きな夢である。輸出入銀行はボーイング社は同行にとっては最大級の顧客であると何時も言っており、そのことを我々に思い起こさせていたものだ。NATOに新たな加盟国が加わり、軍備を近代化する度にボーイング(あるいは、ロッキード・マーチン、ジェネラル・ダイナミックス、等)が何十憶ドル も手にするという事実は忘れられたり、回避されたりした。

NATO拡大派がこの闘いに勝ったこうして、ポーランド、ハンガリーおよびチェコ共和国が1999年に加盟した。ブルガリア、エストニア、ラトヴィア、リトアニア、ルーマニア、スロヴァキアおよびスロヴェニアは2004年に加盟。アルバニアとクロアチアは2006年に加盟した。もっとも最近の加盟申請国はユーゴスラヴィアの一員であった小国、モンテネグロだ。同国は多分この夏には加盟することだろう。さらには、ヨーロッパに位置しているわけではないが、ジョージアが依然として加盟に向けて奮闘している。しかし、ジョージアは同国からの分離を求める南オセチア共和国を巡って2008年にロシアとの戦争を引き起こしていることから、ジョージアの加盟はロシアに対して決闘を挑むようなものだと見なされよう。

NATOの拡大には本物の危険が横たわっている。事実、ソ連の崩壊の後30年間もこの軍事同盟は存続して来た。ロバート・A・タフト上院議員 [訳注: 1889年生まれ、1953年没] は米国がNATOの一員となることには反対していた。彼はこう述べた

「次の20年間、これら12カ国の何れかの国が武力侵攻を受けた場合、米国は何時でも参戦する義務がある。モンロー主義の下で我々は何時でも政策を変更することができよう。我々は何れかの国が攻撃を引き起こしたのかどうかを判断することができるだろう。モンロー主義にしたがって、議会だけが参戦を宣言することが可能だ。この新しい軍事同盟の下では、議会を抜きにして、大統領が戦争を開始することができる。しかし、結局のところ、この軍事同盟はロシアに対峙するこれらの加盟国のすべてに軍備を施すという実に壮大なプログラムの一部である・・・合同軍事プログラムがすでに作成されている・・・ したがって、この軍事同盟はロシアに対しては防衛的であると同時に攻撃的でもある。我々が持つべき対外政策はまず第一に安全保障と平和を目標としなければならないと私は信じている。しかし、この同盟は平和を築くよりもむしろ戦争を誘発することになると考える。三回目の世界大戦は世界がそれまでに経験する中ではもっとも悲惨な状況となろう。たとえ我々がその戦争で勝ったとしても、この戦いでは我々は恐らく甚大な被害を被るだろうし、経済は壊滅し、第二次世界大戦が欧州の自由主義システムを破壊したように我々は自分たちのさまざまな権利や自由主義システムを失うことだろう。第三次世界大戦は地球上の文明をいとも簡単に破壊してしまうかも知れない・・・

「また、別の考え方もある。ロシア周辺の国のすべてについて、北はノルウェーから南はトルコに至るまで、軍備を施すことを我々が約束し、ロシアが自分たちは北はノルウェーやデンマークから南はトルコやギリシャまでいわゆる自衛のための軍備で包囲されていると感じるとすれば、ロシアはまったく違う見解を持つかも知れない。たとえば、ロシアはこう結論するかも知れない。西ヨーロッパの軍備は、現時点での目的が何であったとしてもそれには関係なく、ロシアに対する攻撃であると見えることだろう。ロシアの見方は理に適ってはいないかも知れない。私も理に適ってはいないと思う。しかし、ロシア人の観点からは、その見方は理に適っているのかも知れない。もしも戦争が不可避であるならば、その戦争はヨーロッパの軍備が完了してからではなく、むしろ今その戦争が始まった方がいいと彼らはは考えるかも知れない・・・ 

「もしもロシアが我々の国境に接する国、たとえば、メキシコで軍備を整えることに着手した場合、我々はいったいどう感じるだろうか? 

「さらには、我々にはこの海外支援プロジェクトを遂行するだけの余裕があるだろうか?」 

以上の言葉は我々をトランプの持論に導いてくれる。彼はこう言っている。NATOは「悪い協定」だ。何故ならば、我々はそのコストを不当なまでに多く負担しているからだ。彼の根拠は実に正しいと思う。今日現在、NATO加盟国の中でGDP2パーセントに匹敵する国防費を払うという「要件」を満たしているのは米国とエストニアの2国だけだロバート・ゲイツ前国防長官は2011年のスピーチでこのことを指摘した。そのスピーチで彼はNATOの将来は「必ずしも惨憺たるものではないが、不鮮明極まりない」と予測した。我々の同盟国はやる気がなく、誰もが「欧州各国の国防予算の減少によって増えた負担分は米国の納税者が担ってくれることに期待している」と彼は言った。 

NATOの直接コストに加えて、ヨーロッパに6万人もの将兵を駐屯させるための費用、数多くの軍事基地のためのメンテナンス費用、ならびに、国内で建設的な用途に転用することが可能な機会費用、等もある。NATOを維持するためのコストは「計算不可能」となるに違いないというタフト上院議員は実に正しかったと言えよう。

さらには、もうひとつのコストが存在する。それは第三次世界大戦の危険に晒すことのコストである。

NATOの拡大はロシアに再軍備をもたらし、さらには、冷戦が終わる頃に交渉が行われていた戦力制限交渉は無になった 西側諸国はロシアにとっては戦争のリハーサルを行っているとしか見えないような挑発的な軍事訓練を開始した。これに対しては、ロシアは然るべく反応を示した。

この古臭いNATOを破棄して、ある種の多国的対テロ作戦に取って替えて、我々の「同盟国」にもその費用をちゃんと払って貰うとする計画あるいは意向を示して、トランプはかってボブ・タフト上院議員の時代以降はまったく陽の目を見ることがなかった課題を議論の正面に据えてくれたのである。共産主義者という悪党がいなくなった今、彼は大っぴらにウラジミール・プーチンとは仲良くやって行けると言い、筋金入りのネオコンたちからは厳しい非難を浴びた。

NATOがただ単に我々にはもはやその費用負担にはついて行けないような金のかかる贅沢品であるということではなく、NATOモルドバのような小国の国境紛争、カリーニングラード の地位 [訳注: カリー二ングラードは第二次世界大戦の終戦時、ポツダム宣言によって歴史的には何世紀もの間ドイツあるいはプロシア領であったが、ソ連に割譲された。面積は15,100平方キロ。現在の人口は94万人で、その0.8パーセントがドイツ人]、あるいは、もっとあり得そうな可能性としてはウクライナ紛争によって火がつく導火線となり得るのである。

我々はキエフの大金持ちを守ってやるために第三次世界大戦を開始するとでも言うのだろうか? 

私はそんなことはしたくはない。

大統領選におけるトランプの運命がどんな結果をもたらそうとも、これこそがこの死活問題を提言してくれたトランプに対して我々は全員が彼に借りを作ったのだと言える。そして、与党内においても決して借りが小さいわけではない。今まで、同党はNATO支持者やロシアに対する新冷戦の拠点でもあったのだから。 

<引用終了>


ウクライナがNATOに加盟した場合の最悪のシナリオを考えてみよう。

ヨーロッパ各国のロシアとの関係はこの2年間ロシアに対する経済制裁やヨーロッパ産農産物に対するロシアの輸入禁止措置によって大きく悪化した。経済的損失は非常に大きなものとなった。ロシアが被った損害よりもヨーロッパ各国が被った損害の方が深刻であるとも報道されている。そこへ、2015年の夏、中東からの大量の難民がヨーロッパを襲い、ヨーロッパの苦境は倍化した。この難民の流入は今年の夏も続くと予測されている。こうして、ヨーロッパは第二次世界大戦以降で最大級の難問に直面していると言われている。ロシアとの関係や難民問題ではEU諸国間で意見の食い違いが現れ、EUは内部から崩壊するのではないかという観測さえもが出ている。

ウクライナ国内の政治的対立がロシアとの直接的な軍事衝突に発展した場合、もしもウクライナがNATOのメンバーであった場合、NATOの集団防衛に関する第5条にしたがって他のヨーロッパ諸国もその戦争に参戦することになる。キエフ政府のためにだ。現状のキエフ政府の腐敗振りを考えると、このような状況を実際に自国が受け入れることができると考える国は恐らく皆無だ。それが現実である。 

米国も今までの考えを修正し始めた。ジョージアやウクライナのNATOへの加盟に関して、422日、ニューヨーク・タイムズは「NATOの拡大は今後何年もの間はあり得ない - 米国大使」という表題の記事を掲載した。EUの高官らも、ジョージアやウクライナの加盟は今後10~20年あり得ないと言い始めた。

こうして、ヨーロッパの防衛を目的として発足したNATOは、今や、その存在そのものが新たな国際問題を引き起こしているとして厳しい批判を受けている。NATOが絡んだロシアを相手にした武力抗争は第三次世界大戦となり、それだけではなく核戦争となる公算がすこぶる高い。そうなったら、好むと好まざるとにかかわらず、あなたも、私も、皆がこの世からはおさらばとなる。

米国の軍産複合体が後押しをするこのNATOの危険極まりない火遊びはもういい加減止めて欲しいものだ!

トランプ大統領候補は、427日、ワシントンDCのメ―フラワー・ホテルで広範な外交政策について演説を行った [2]。聴衆の中には最前列にセルゲイ・キスリャク駐米ロシア大使も座っていたという。彼は大統領になった時の外交政策は下記のようにしたいと述べた:

米国とロシアとの間には「深刻な相違点」が横たわっているが、もしもワシントン政府が「その強力な地位」に基づいて両国関係に取り組みさえすれば、モスクワ政府と共に現行の緊張関係を緩和することは「間違いなく可能だ。」

常識に照らして言えば、この敵意の悪循環は終わらせなければならない。理想としてはこの状況は直ぐにでも終わらせたい。

私が大統領に選出されたら、我々はNATOの古ぼけた目的や冷戦時代に増殖した機構を近代化し、難民問題やイスラム国のテロリズムといった共通の課題に取り組みたいと思う。 


上記の参照記事の著者が言っている通りだ。今、民主党候補の間ではクリントン候補がリードしている。彼女は軍産複合体やウールストリートを代表する。そして、共和党ではトランプがトップだ。トランプ共和党候補とクリントン民主党候補の競り合いは「米軍をどうするか」、「NATOをどうするか」という点では大きく異なる。そして、この相違点は人類の文明が生き延びるのか、それとも近い将来終焉するのかに関わって来るのである。

いよいよ、米大統領選の行方から目が離せなくなってきた!




参照:

1NATO Is Much More Than Just ‘Obsolete'. It’s also a tripwire that could set off World War III: By Justin Raimondo, Russia Insider, Apr/04/2016

2Trump Vows To Seek Better Relations With Russia If Elected: By Radio Free Europe, Apr/28/2016







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