2019年4月15日月曜日

危険なプラスチックがわれわれの世代だけではなく次世代にも脅威を与える

プラスチックによる大洋の汚染が急速に進んでいる。そして、大洋だけではなく、河川や湖もまた同様である。

昨年10月の報道によると、ミクロン単位の微小なプラスチックの破片はすでに人の体内に到達していることが確認されている(注1)。その報告は次のような内容だ。

【ウィーン発、20181023日】 ポリプロピレン(PP)やポリエチレンテレフタレート(PET)、その他のプラスチックがマイクロプラスチックの形で人の食物の中に観察されている。これらのプラスチックは人の便の中に確認されたとウィーンで開催された「第26回欧州消化器病週間」(26th UEG Week)で研究結果が発表された。

ウィーン医科大学およびオーストリア環境局からの研究者らは世界各国からの参加者から成るグループについて調査を行った。これらの人たちはフィンランド、イタリア、日本、オランダ、ポーランド、英国およびオーストリアからの参加だ。その結果、便のサンプルは何れもがマイクロプラスチックを含んでおり、もっとも多く含むサンプルは9種類ものプラスチックを含んでいた。

大きなプラスチック材料から風化作用や品質の劣化、摩耗、破れ、等によって非意図的に小片が生成される。これらの破片も含めて、マイクロプラスチックとは大きさが5ミリ以下のプラスチックの小片を指す。本来、これらのプラスチックはさまざまな具体的な用途に用いられて来た。マイクロプラスチックは消化管を介して人の健康に影響を与える。つまり、消化管内で生物濃縮され、有毒な化学物質や病原性物質が移入されるので、消化管の許容性や免疫反応に影響を与えかねない。

この予備研究の実施に当たっては世界中から8人の参加者を募った。各参加者は、便のサンプルの採取に先立つ一週間、摂取した食物について毎日記録した。これらの日誌が示すところによれば、参加者は全員がプラスチックで包装された食品を食べ、プラスチック容器に入った飲み物を飲むことによってプラスチックに暴露されたことが明白であった。参加者たちは全員が菜食主義者ではなく、彼らの内で6人は海洋産の魚を消費した。

便のサンプルはオーストリア環境局が新たに開発された分析手法を用いて10種類のプラスチックに関して試験を行った。その結果、9種類のプラスチックが確認され、プラスチック片の大きさは50ミクロンから500ミクロンであった。もっとも頻繁に観察されたのはPPPETである。平均的に言うと、10グラムの便に20個ものマイクロプラスチック片が確認された。

これらの研究者たちを指導するフィリップ・シュワブル博士は第26回欧州消化器病週間で発表し、次のようにコメントした。「これはこの種の研究分野では初めての試みであって、長い間そうではないかと疑って来たことを確認することが可能となった。特に懸念されることはわれわれにとってこれがいったい何を意味するのかという点である。特に、消化器病の患者にとってはいったい何を意味するのかだ。動物の研究によるとプラスチックの濃度がもっとも高いのは消化管であり、もっとも微小なマイクロプラスチックは血流やリンパ液系に入り込み、肝臓に達する可能性がある。マイクロプラスチックが人の体内で発見されたという最初の証拠を手にした今、人の健康にとってこれがいったい何を意味するのかについて詳細に研究する必要がある。」

世界中で行われているプラスチックの製造は1950年代から急増し、今も毎年増え続けている。プラスチックにはさまざまな実用的な特性が与えられ、プラスチックは日常生活の中に広がり、人々はさまざまな形でプラスチックに暴露されている。推算によると、製造されたプラスチックの25パーセントは汚染源となって、最終的に海に到達する。大洋に達したプラスチックは海洋の動物によって消費され、食物連鎖に組み込まれる。そして、最終的に人によって消費される。たとえば、マグロやイセエビ、エビでは著しい量のマイクロプラスチックが検知されている。さらに先へ行くと、食品を加工するさまざまな過程で包装が施される結果、これらの食品はさらにプラスチックで汚染される。

上記の報道によって、プラスチックによる汚染はこれほどまでに深刻なのかと今さらながら思い知らされる。海岸に押し寄せる汚染物の写真は大きなプラスチックごみの実態を具体的に伝えてくれるが、マイクロプラスチックについては容易に見落としてしまう。要注意である。

ここに、「危険なプラスチックがわれわれの世代だけではなく次世代にも脅威を与える」と題された最新の記事がある(注2)。

本日はこの記事(注2)を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。

<引用開始>

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誰もが毎日何を食べるのかを決める。ある時は緑黄色野菜や果物を選択し、また、ある時にはベーコンの香りが無性に欲しくなる。結局は、誰もが自分の健康を管理しようとする。いったい何が注目に値するのかと言うと、それは今日食べた何かが将来生まれてくる子孫、つまり、子供や孫、ひ孫に至るまで影響を与えるかも知れないという懸念だ。新たな研究によると、ある種の特定の化学物質は世代を超えてわれわれに影響を及ぼす。われわれが今回心配する対象はベイコンではなく、プラスチックについてであり、プラスチックに含まれる毒物についてである。 

20年前、ワシントン州立大学の研究者らが今やすっかり悪者と化したビスフェノールABPA)がプラスチック製の籠から溶出し、その中で飼育されているマイスに害を与えていることを偶然にも発見した。この汚染はマイスの卵に異常を引き起こし、繁殖に影響を与えることが判明した。その後、数多くの研究が実施され、BPAへの暴露は、サルや魚類ならびに人間を含めて、横断的に数多くの生物種の繁殖や健康に影響を与えることが分かった。ラットでは精子の減少をもたらし、女性には乳癌を引き起こすことが明らかとなり、2012年に乳児用のボトルや蓋付きカップにおけるBPAの使用はFDAによって禁止された。しかしながら、BPAは数多くの製品で依然として用いられている。たとえば、缶詰の内表面のコーティングに用いられるエポキシ樹脂。2,517人を対象にして2004年に実施された研究によると、93パーセントもの人たちの尿が検出可能な量のBPA代謝物質を含んでいた。

BPAの毒性が判明してから、それに代わって使用する何種類かの代替ビスフェノールが化学会社によって市場に供給され、それらが今広く用いられている。BPAの毒性が発見された時点から20年後、上述のワシントン州立大学の研究室が、またもや、マウスに何か不思議なことが起こっていることに気付いた。マウスは籠の中で飼育されるが、今回はその籠は代替ビスフェノールで製造されたものであって、BPAに関してはより安全であると広く受け止められていた。その後、研究者らは、BPAも含めて、代替用として広く使用されている代替ビスフェノールについて数種類を選び出して、比較研究を行った。

その結果、新しいビスフェノールはBPAと同様な挙動を示し、健康問題を引き起こすことが判明した。雄についても、雌についても有害な影響をもたらすのである。これらの研究結果は2018年の9月に「Cell Biology誌で発表された。科学者のセイラ―・ハントは次のように説明している。「本稿はわれわれの研究室で起こった、不思議ではあるが既に見たことがある出来事についての報告だ。」 かってBPAについて発見されたことがそのままこれらの代替物質でも起こることが確認されたのである。恐らく、もっとも心配を呼ぶ側面は毒性物質が長期間にわたって影響を及ぼすという点であろう。たとえ全種類のビスフェノールを今日奇跡的に排除することができたとしても、依然として、すでに暴露された人の生殖細胞系を介して将来の3世代にわたってこの毒性は継続する。これは今日体内に取り込まれたビスフェノールはひ孫の世代の生殖能力にさえも影響を与えるということを意味する。

このビスフェノールのケースはFDAによる禁止は必ずしも根本的な問題解決にはならないことを示している。化学会社は禁止された化学品と同様な代替化学品を市場に送り出すことが多い。何故かと言うと、この手法は市場へ少しでも早く製品を送り出すにはもっとも容易な近道であるからだ。しかし、化学品を市場に送り出す前にもっと多くの試験を実施する必要がある。数世代にまたがって引き起こされる不妊症や癌のリスクといった長期間に及ぶ影響は、多くの場合、臨床試験ではそう簡単に見極めることはできず、上市の前に環境影響を徹底的に検証することはほとんど不可能である。

また、ワシントン州立大学の研究では、損傷を受けた籠からはより多くの毒性物質が放出されたことから、損傷を受けた、あるいは、加熱されたプラスチックはより以上に有害であることが分かった。この情報は家族のためにプラスチック製の容器に食品を入れてマイクロウェーブで加熱する人たちに対する警告として提供するべきであろう。さらには、捨てられたプラスチック製ボトルは大洋や河川で劣化し、元へ戻すことはできない不妊症を引き起こすことを念頭に置かなければならない。

大洋に廃棄されたプラスチックの量を推算すると、約1億5千万トンとなる。スタンフォード大学の「Center for Ocean Solutions」にて共同ディレクターを務めるジム・リープによると、2050年までにその量は「魚類の全重量」を上回るであろうと言う。最近の研究はマイクロプラスチックが英国の川や湖のすべてにおいて観察されることを突き止めた。ワシントンDCの環境保護庁からニューヨークのトランプ・グリルに至るまでマイクロプラスチックは何処ででも飲料水中で検出される。五大陸から集めた159個の飲料水サンプルについて実施された調査によると、全サンプルの83パーセントが汚染されていた。プラスチックは至る場所で検出されるのである。地球上でもっとも高い山の頂上から深海や極地に至るまで・・・ 長さが50ナノメートル(訳注:1ナノメートルは1ミクロンの千分の一の長さ)未満のナノプラスチックがプランクトンの体内で発見されている。プランクトンは魚に捕食され、人は魚を食べる。


プラスチックは海洋性哺乳類の生殖機能を損なうことが確認されている。PCBやビスフェノールABPA)を含めて、プラスチックの多くは内分泌をかく乱する。つまり、哺乳類のホルモン系に影響を与えるのだ。「ルル」と名付けられている大人のシャチは、研究者らが最近発見したことによると、あたかも未成年のままであって、子供を産めない。分析の結果、彼女の脂質組織には高レベルのPCBが蓄積されていることが分かった。スコットランド沿岸に生息するシャチの小グループは25年間一頭の子供さえも産んだことがない。

PCB30年前に使用が禁止となったにもかかわらず、毒性物質はシャチの母親のミルクに含有され、母親から子供へと引き継がれる。サイエンス誌に発表された最近の研究によると、シャチの全世界における頭数はPCBの毒性によって数十年内に半減すると予測されている。ヨーロッパではPCBの使用が禁止されたにもかかわらず、PCBの汚染レベルは低下してはいないと研究者らが報告している。これは廃棄物の埋設場所からの漏出によるものであるかも知れないとの指摘がある。ホルモンかく乱物質は雄の蛙の生殖能力を損なうことが分かっており、オタマジャクシは睾丸よりもむしろ卵巣をより頻繁に発達させる。同様の問題が魚においても観察されている。内分泌かく乱作用を有する化学品がもたらす生殖能力のリスクは生物種の種類を超えて広範囲で見られる。ビスフェノールAは精子数を減少せしめ、多くの生物種に癌を引き起こすことが知られている。研究者らが最近発見した事実によると、代替プラスチック(いくつかの例を挙げると、BPS, BPF, BPAF, BPZ, BPP, BHPF、等)がより安全であるというわけではない。これらの汚染物質がすでに人に影響を与えているのかどうかについてはまだ推測の域を出ないが、プラスチックが大量に使用され始めた1960年代以降の統計数値を調べ、時間の経過と共に何らかの趨勢が顕著に現れているかどうかを確認することが賢明であろう。

事実、何かがあったと判断される。特に、2017年の研究によると、1973年から2011年の間にミリリッター当たりの精子数が50パーセント以上も減少し、総精子数は約60パーセントも低下している。他のふたつの研究によると、米国やヨーロッパにおいてはこの2030年間に精子数と運動性が明らかに低下している。

国連環境総会(UNEA)はプラスチック汚染に注意を向けるために法的な拘束について 最近提案した。提案された条約の目的は2025年までに単独目的で使用されるプラスチックの使用を2025年までに段階的に禁止するとしている。ノルウェーも海洋のプラスチック汚染に対処する世界的合意を提案した。悲しいことには、米国はこの提案された条約や廃棄物処理に関する国際計画にもっとも頑固に反論している。

当面、法的な拘束力を伴わない合意が成され、米国は「実質的な低減」という文言を緩め、2030年までとして、今から11年も先に延ばした。トランプ政権の代表はあらゆる目標や実施期限を排除しようとしていると国連への代表のひとりが述べている

ところで、米国は何年にもわたって大量のプラスチックを輸出しており、歴史的には中国向けがほとんどである。前年には70パーセントが中国と香港向けに輸出されたものであるが、2018年に中国はプラスチック廃棄物の輸入を禁じた。この禁輸以降、米国は海外でプラスチックを廃棄するために貧困国家を物色し始めている。 グリーンピースの調査グループによると、2018年の上半期には米国のプラスチック廃棄物の半分がタイとかマレーシア、ベトナムといった発展途上国に向けて送り出された。タイ向けの米国のプラスチック廃棄物の輸出は今年約2,000パーセントも増加した。

発展途上国のほとんどはプラスチック廃棄物を適切にリサイクルするのに十分なインフラ設備を所有しているわけではない。2018年の地球の日に、海洋への不適切なプラスチック投棄が廃棄物のトン数でランク付けされた。トップの中国を先頭にして、インドネシア、フィリピン、ベトナム、スリランカ、タイと続く。フィリピンの一地域がそうであるように、ある場合にはリサイクリングは人手で行われる。大量の廃棄物の中からボトルを拾い上げるのである。この作業は困難であって、時間がかかることから、大量のボトルは海洋や河川へと向かう。驚くには値しないかも知れないが、悲しいことには、フィリピンのパシグ川は約72,000トンものプラスチックを下流に向けて流し、この川は1990年以降「生物学的には死の川」と称されている。これらの国々に対してリサイクリング用インフラの整備について支援を行うのではなく、われわれはより多くの有害な廃棄物を送り届けているのである。

プラスチック廃棄物を海外に輸出することによって難題の解決を先送りすることができると考えるのかも知れないが、プラスチック廃棄物はハワイやカリフォルニアの海岸に打ち上げられる。海岸を散策する人たちは海岸に打ち上げられたプラスチックのゴミの山を目撃することができる。あるいは、死んだクジラの胃からもそれらを発見することだろう。でも、汚染の全貌については誰も気付かないかも知れない。次回食べるツナサンドイッチに含まれているマイクロプラスチックにはまったく気付かないであろう。東海岸では、ある者はニューヨークのトランプ・グリルのコップ一杯の水の中に存在するマイクロプラスチックに遭遇する。結局のところ、世界にはひとつの「流し」しかないのだ。流しの反対側に投棄された有害物質はしばらくの間その用を果たすかも知れないが、時間の経過と共に、やがては自分たちの海岸に打ち上げられる。そして、われわれの中の誰かが癌を発症した時、われわれはその原因を本当に理解することが果たしてできるのであろうか?

われわれと同じ哺乳類であるが、もはや卵を生成することができなくなった「ルル」という名のシャチのことを覚えておくことは極めて教訓的である。もしも精子数が今の割合で減少し続けると、これらのシャチは子供を持つことが非常に難しいレベルに到達する。その時点までには世界中の水の供給源は不可逆的に汚染されてしまい、拘束力のある条約の実践は余りにも遅すぎたという事態を招くことであろう。

法的に拘束力を持った条約を先送りすることはわれわれ人間もその半数の絶滅が避けられないような状況に直面している世界中のシャチが歩んで来た道をそのまま辿ることを意味する。さらには、「ターレクアー」という名前のシャチの悲劇を忘れることはできない。彼女は、昨年の夏、死んだシャチの子供17日間も連れ添っていた。記録的な日数である。実に、1000マイルもの移動距離を喪に服していたのだ。

11年も待つなんて、遅きに失するかも知れない。

著者のプロフィール: ミーナ・ミリアム・ヤストはイリノイ州シカゴに本拠を置く弁護士。ヴァッサル・カレッジおよびケース・ウェスターン・リザーブ大学法学部にて教育を受け、彼女はMigratory Insect Treaty」の草案ならびにコメントをケース・ウェスターン・リザーブの国際法ジャーナル上で発表した。

この記事の原典は「Common Dreams」。
Copyright © Meena Miriam Yust, Common Dreams, 2019

<引用終了>

これで全文の仮訳が終了した。

衝撃的な記事である。

願わくば、読者の皆さんの一人一人が周囲の人たちに向けて本情報を積極的に拡散して欲しいと思う。われわれは無知のまま長い時間を無為に過ごしてしまったようだ。ルルやターレクアーのことを思うと、万全を期す価値は十二分にあると言えるだろう。この間違いを挽回することができるのかどうかは必ずしも分からないが、挽回することが可能だと考えたい。

参照: 

1Microplastics discovered in human stools across the globe in 'first study of its kind': By EUREKA ALART – AAAS (American Association for the Advancement of Science), Oct/22/2018

2Dangerous Plastics Are a Threat to Us and Future Generations - Why a legally binding treaty cannot be postponed: By Meena Miriam Yust, Global Research, Apr/05/2019; Common Dreams, Apr/04/2019



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