2019年10月3日木曜日

アフガニスタンとCIAのヘロイン搬出用縄ばしご


この表題にある「縄ばしご」とは障壁をよじ登る手段としてはもっとも古くから使われてきたもののひとつであって、安価で、手っ取り早く準備をすることが可能だ。海賊映画でお馴染みのように、帆船時代に多用された。

アフガニスタン戦争についてはさまざまな事柄が報じられてはいるが、「アフガニスタンとCIAのヘロイン搬出用縄ばしご」と題された、この1ヶ月余り前の記事(注1)によって、われわれ素人にはまったく考えも及ばなかった側面が突然姿を現した。

たとえどんな美辞麗句を用いて説明しようとしても、あるいは、「民主主義」とか「人権」といった言葉を持ち出して如何に入念に化粧を施したとしても、米国の戦争のほとんどはその深層に金儲けの意図がありありと見える。その多くはエネルギー源や他の天然資源の確保である。

この記事は米軍の隠された伝統を改めて明確に伝えてくれている。それが故に、好むと好まざるとにかかわらず、極めて重要な価値を持っているとも言えよう。米政府にとっては不都合な真実を公衆の目に曝すことになるが、現実にはアフガニスタンでCIAが用意し、過去19年間使用して来た縄ばしごはヘロインを入手し、米市場へ向けてヘロインを搬出するためのものであったのだ。さらには、誰かの金儲けのために・・・

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。

<引用開始>
ペルシャ湾岸には極めて複雑な秘密が数多く並んでいる。そのトップクラスにはアフガニスタン産出のヘロインによる金儲けがある。国際的に広く行われ、何兆ドルにもなるヘロインによる不正資金洗浄の中心にはアラブ首長国連合(UAE)が位置している。

この21世紀のアヘン戦争ではアフガニスタンで集荷された収穫物はロシアやイラン国内のヘロイン市場だけではなく、特に、米国市場に供給される。世界市場のアヘン93%はアフガニスタンから供給されている。

西側でもっとも広く喧伝されている内容とは異なって、これはアフガニスタンのタリバンによる取り組みではないのである。大西洋同盟の連中は決して尋ねようとはしないけれども、もっとも重要な疑問点はいったい誰がアヘンの収穫物を買い取っているのか、誰がヘロインを精製しているのか、誰が輸出ルートをコントロールしているのか、誰が売り捌き、そして、いったい誰がタリバンが国内で課している税金とは比べ物にはならない莫大な利益を挙げているのか、といった点だ。

Photo-1:  AFP 2019 / BAY ISMOYO
アヘン以外にも、米国は「アフガニスタンからウランを持ち出している」のかも

9/11同時多発テロの後、覇権国としての筋書き通りに、2001年、ワシントン政府は「自衛」のためにアフガニスタンを爆撃、「民主的な」政府を擁立し、その後16年が経過しても米軍は、事実上、アルカエダやタリバンに対する対テロ戦争(GWOT)の要となるこの地域から撤退をしてはいない。

ワシントン政府はアフガニスタンの再建のために1千億ドル以上を費やした。そして、麻薬の取り締まりのために84憶ドルを費やしたと言う。イラクの「解放」と並んで、「エンデュアリング・フリーダム作戦」には何兆ドルもの大金が投入された。それでも、占領下にあるアフガニスタンにおけるヘロイン用の縄ばしごは依然として健在である いったい誰が利益を享受しているのだろうか?

SIGAR報告書:
念入りに行われたアフガニスタンのアヘンに関する調査(訳注:「国連薬物犯罪事務所」がこの調査を行った。20161023日に報告書を発行)はアフガニスタンでのアヘンの生産が着実に拡大され、生産地域は不規則に広がって行ったことを詳細に報告している。つまり、「2016年には2001年の規模に比べて生産量は約25倍にも達し、2001年の185トンから2016年には4,800トンにもなった。」 

米国の「アフガニスタン復興特別監察総監」(Special Inspector General for Afghanistan Reconstruction)の短縮名称は愉快な響きを持つSIGAR (訳注:葉巻を意味するCIGARを連想させる)とされているが、この特別監察総監はエンデュアリング・フリーダム作戦が米国内におけるヘロインの大流行に関連を持っていることを控え目ながらも示唆している:

たくさんの契約業者がアフガニスタンに群がっており、その数は1万とも数万とも言われている。ヘロイン搬出用縄ばしごの一角には軍人や元軍人の姿をいとも簡単に見つけることが可能であるが、多くの場合、それは個人的な利益のための行動だ。しかし、決め手となる証拠によると、何とこれは米議会による調査の対象にするべきではない米諜報界の秘密作戦のための資金源にも関係しているのである。 

Photo-2: FLICKER / RESOLUTESUPPORTMEDIA
終わることのない戦争: 米国はアフガニスタンへ派遣されている兵士の数を何千人ものレベルで不正確に報告している

ペンタゴンが指定した「不安定な弧」と称される地帯では多くの諜報活動経験を有し、中東を拠点としている諜報界のある人物はアフガニスタンで活動していたオーストラリア人の諜報工作員との関わり合いについて話をしてくれた。「これは2011年の頃の話だ。彼はアフガニスタンにおけるヘロインの売買に関する報告、つまり、パキスタンの軍港から出発する米軍の車両集団はヘロインをアフガニスタンから運び出すために活用されているという報告を米軍の諜報部門とCIAに提供したと言った。そのほとんどは未精製のアヘンであって、帰路の荷物として輸送され、流通に供されていた。」 

誰も返事をしなかった:
彼はある会合で陸軍の重要な諜報作戦やCIAの活動に関して彼らをを追い詰めて、どうして何の行動も起こさなかったのかとその理由を問うた。その答えは米国の目標は住民の心をつかむことにあり、彼らにポピーを与えることによって彼らの心をつかむことができるのだということであった。もしも彼が再度この件を持ち上げて来たら、「ボディー・バッグに入れられてオーストラリアへ帰国することになるぞ」との脅しを彼は受けたのである。

この人物は断固として譲らなかった。「CIAの海外における作戦はこれらの作戦が稼ぎ出す利益から財源を得ていた。タリバンが自分たちの作戦行動を起こすための財源としてヘロインの売買に課税しているいうのは作り話であって、現状を誤導するためのものであった。」

そのことはトランプ大統領が自分の本能に逆らって、アフガニスタンへの軍隊の増派を決めた背景に存在する重要な動機に向けてわれわれを導いてくれる。つまり、それは「19世紀の不誠実な英国のアヘン戦争の伝統に見られた動機である。あの戦争では、アヘンはインドから輸入するお茶や絹のための支払いに充当され、これらの絹やお茶に課せられた税金は英国に強力な英国海軍の構築のための資金をもたらした。こうして、英国海軍は海洋を支配した。一方、CIAは何兆ドルにも達するヘロインの売買によって最強の政府機関となったのである。自ら選ぶことができるような同盟の相手を持たないトランプにとってはCIAを乗り越えることは不可能だ。軍部はCIAと一緒に行動しているので、トランプの側近は何の役にも立たない。


Photo-3: CC0  
トランプの「米国人の雇用」という訴えはヘロイン禍に直面

 
これはCIAの仕事のやり方からは何ら逸脱してはいない:

過去の事例は豊富にある。もっとも悪評が高い事例はベトナム戦争時の「ゴールデントライアングル」であって、CIAはラオスのモン族に食料とアヘンとの交換を強要した。ラオス北部にあるCIAの本拠でヘロインの精製が行われ、精製はそこで完了した。アヘンの輸出については悪評の高いエア・アメリカ社が手はずを整えた。
この話の全貌はアルフレッド・マッコイ教授の「東南アジアにおけるヘロインに関わる政治」と題されたセミナーにて暴露された。これは(CIAの本部がある)ラングレーをすっかり動顚させた。

近世におけるこれと同様の事例はイタリア人ジャーナリストのエンリコ・ピオヴェサナが最近発刊した書籍に見られる。この本は「アフガニスタンにおける新たなアヘン戦争」の詳細を報告している。

エア・アメリカの復帰:
広大なパシュトーンや他の部族が支配する地域との接触を維持しているパキスタンの諜報組織はもっと火の手が上がりやすい領域について詳しく調査を行っている:つまり、「われわれが持っている諜報情報の中でも最高と目される情報によると、CIAは代理戦争のためにアフガニスタンに子飼いのアルカエダやISISISIL)の将兵を送り込み、米軍の増派を正当化しようとした。」 これは自分の配下の将軍たちによって追い込まれているトランプの考えにもうまく繋がることだ。 

そして、モスクワ政府が登場する。先週、ロシア外務省は「国籍不明のヘリ」によって移送された「外国人戦闘員」をアフガニスタン北部の州に住むシーア派ハザーラ人を虐殺した犯人であるとして非難した。さらには、「アフガニスタンの領空を支配しているNATO軍の司令部はこれらの出来事を頑なに否定している」とも述べた。

Photo-4: US ARMY /SPC GUL A ALISAN
ウィキリークスによるCIA文書: 米国はアフガニスタン・パキスタンに関する戦略に欠けている

その非難はそれ以上には深刻にならない。しかし、モスクワ政府は米国が訓練をしたアフガニスタンの武装勢力がNATOと行動を共にし、過激派勢力を支えるための秘密作戦にも従事していることを非難した。米諜報部門が秘密裏にアフガニスタンのISIS、つまり、「ISISホラサン」を支援していることをロシアの諜報部門が控えめ目ながらも示唆してからすでに久しい。

「新グレートゲーム」におけるアフガニスタンの章に関しては、ロシア諜報部門は明確な理解をしている。ロシア市民は、米国市民と並んで、アフガニスタンのヘロイン搬出用縄ばしごの「巻き添え被害者」でもある。ロシア外務省は何トンもの化学品が如何にして「イタリアやフランスおよびオランダ」ならびに他の国々からアフガニスタンへ非合法に運び込まれるのか、そして、米国とNATOがヘロイン搬出用の縄ばしご、つまり、輸送ルートを摘発しようとはしない様を突き止めようとしている。
結局のところ、エア・アメリカは消え去ることがなかった。同社は東南アジアのジャングル地帯から乾燥した中央アジアと南アジアの十字路地帯へと居を移しただけだ。

注: この記事に表明されている見解は全面的に著者のものであって、必ずしもスプートニクの公的な立場を反映するものではありません。

<引用終了>

これで引用記事全文の仮訳は終了した。
アフガニスタン戦争は米国のアヘン市場へのヘロインの供給には欠かせない側面を担って来たことは明白だ。2016年の国連のSIGAR報告書によると、アフガニスタンにおけるアヘン生産は2001年から2016年の間に急拡大した。つまり、「2016年には2001年の規模に比べて約25倍にも達し、生産量は2001年の185トンから2016年には4,800トンにもなった。」 これほど雄弁な証拠は類を見ない。 

さらには、戦争時の麻薬の密売によるぼろ儲け作戦はベトナム戦争にまで遡る。そして、さらに歴史を紐解くと、中国における英国による悪名高いアヘン戦争がある。
不幸なことには、アフガニスタン戦争の収束を期待することはできそうにない。米国の巨大なアヘン需要は現状を維持することに最大の動機を見い出し続けるからだ。ましてや、それをビジネスとする集団はこのぼろ儲けの舞台を手放すことはないだろう。何と言っても、議会におけるロビー活動をさらに活発に進め、議員を買収する費用なんて安いものだ。

ベトナム戦争では多数の若い兵士を失い、米国内では反戦運動が活発化し、米政府は政治的決断を迫られた。結局、米軍はベトナムから撤退することになった。米国大使館関係者や在越アメリカ人、南ベトナム人をサイゴン(現ホーチミン市)から脱出させるために一刻を争って飛び立つヘリの姿は今でも記憶に生々しい。
しかしながら、今の米国には当時のような反戦運動の動きは見られない。何故かと言うと、代理戦争が推進され、高い給料に跳びつく外人部隊(たとえば、ISIS)や軍隊に近い働きをする民間軍事企業(たとえば、米国の民間会社「アカデミ」)の存在があるから、米軍兵士の損害はベトナム戦争当時に比べると目立たなくなっているのだ。

アフガニスタン戦争は米政府が破産し、米経済が破綻するまで続くのであろうか?それとも、トランプ大統領の英断によって終息するのだろうか?私には分からない。


参照:

1Afghanistan and the CIA Heroin Ratline: By Pepe Escobar, Sputnik, Aug/25/2019, https://sptnkne.ws/fqEb

 

 

 

 

4 件のコメント:

  1. NATO輸送機がアフガニスタンから欧州への麻薬輸送を行っているとの内部告発があったのが2010年だった。当時駐留NATO軍に勤務していた現地通訳者によるものだったが、その時までに常に自分の念頭にあったのは、日本の満州におけるアヘン専売制の構造だった。それを学んだことがこれ程までに役立つとはと、恐れ入っていたからだ。戦後アメリカの国家機関の関わった麻薬犯罪の雛形はまさに日本の満州「経営」にこそあった。

    「戦争時の麻薬の密売によるぼろ儲け作戦はベトナム戦争にまで遡る。そして、さらに歴史を紐解くと、中国における英国による悪名高いアヘン戦争がある。」こういう認識の問題は、最重要な自国への認識が欠落していることだ。

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  2. 鷹尾さま、

    コメントを有難うございます。

    最後尾に記された「こういう認識の問題は、最重要な自国への認識が欠落していることだ」というご指摘を謙虚に受け止めたいと思います。

    さっそくインターネットで情報検索をしてみたところ、日本が戦前中国でアヘンを悪用し、中国の富を吸い上げた構図は日本語のサイトだけではなく英語のサイトにおいても膨大な量の情報が見つかることが分かりました。これらの情報を読むと、日本が「アヘン帝国」と呼ばれた理由が容易に納得できます。

    私としては大感謝です。間違いなく、いまひとつ別の観点から日本の歴史を詳しく理解するきっかけとなります。

    他の読者の皆さんのご参考のためにも、「アヘン帝国 --- 汚れた歴史」と題されたサイト(asait.world.coocan.jp/kuiper_belt/.../kuiper_section4E.htm、ページの最終校正年月日 : 01/30/2018)からその冒頭の部分を下記に転載し、鷹尾さまにご指摘いただいた要点をここに共有したいと思います:

    「アヘン」というと、一般的には「アヘン戦争」の「英国」を思い浮かべる人が多いと思います。 しかし「アヘン帝国」と呼ばれる国があるとすれば、これは戦前の日本です。 一時期、日本のアヘンの生産量はほぼ世界のアヘン生産量に匹敵しました (1937 年には全世界の 90%)。 例えば、次の本で「アヘン帝国」の呼称を使用しています。(これは本の紹介ページです、 本の題目も訳してみました。1997 年に出版されたかなり有名な本のようです。)
    Opium Empire: Japanese Imperialism and Drug Trafficking in Asia, 1895-1945
    (アヘン帝国:アジアにおける日本の帝国主義と麻薬の取引、1895-1945)
    ・・・

    この新たな情報を先日投稿した小生の拙文とを統合しますと、戦前の中国で日本が行っていたアヘン取引と今日アフガニスタンで米国が行っているアヘン取引とを比べてみますと、両者の相似性は目を見張るばかりです。植民地主義がもたらす人間性に対する犯罪が明白に見て取れます。




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    1. 鷹尾さま、読者の皆さま

      正直に言って、私の記憶には「アヘン帝国」という言葉は見当たらなかった。そこで、この歴史的事実が高校の教科書で何時ごろから記述されるようになったのかが気になってきた。その疑問を解くきっかけを与える記事が見つかったので、ここにご紹介しておきたい。

      フリージャーナリストの木村愛二がインターネット上に掲載している『戦後秘史 ー 伏せられ続けた日本帝国軍の中国「阿片戦略」』(www.jca.apc.org/~altmedka/ahen-1.html)によると、日本がアヘン帝国であったという事実が、戦後、高校「日本史」の教科書で始めて文部省の検定を通ったのは1988年であると報告している。これは私自身が高校を卒業してから20数年も経ってからのことだ。しかも、国外で長期にわたって勤務をしていた頃のことだ。

      長い記事であるので、関連する部分だけを下記に抽出してみよう。



      いまの日本は、極度に大衆社会化が進み、支配層から一方的に流される情報が氾濫している。教科書と新聞、テレビ、大手の雑誌・週刊誌が取上げなければ、それは社会的な「抹殺」といって差支えない。
      「阿片戦略」は、この典型である。
       筆者がいま、友人知人に是非一読をと勧めている本は、『日中アヘン戦争』(岩波新書、1988年)である。最近入手された当時の「極秘」当局文書による画期的な真相解明の研究の、普及版である。
       著者の江口圭一は愛知大教授で、日本近現代史を専門としている。この新書版の前に出た大労作『資料/日中戦争期阿片政策』(岩波書店、1985年)の編著者でもある。
       著者は教科書の執筆もする。そこには「文部省の検定」が待ち構えている。そして、以下のような簡単な「脚注」を高校用の『日本史』教科書に書き加えるまでに、4回もの書き直しをさせられたというのである。
      「日本軍は中国戦線で化学兵器(毒ガス)を使用したこともあった。またハルビンなどに細菌部隊を配置したり、内蒙古などでアヘンを生産し、中国占領地へ販売したりした」
       著者はこう続けている。
      「意をつくさない表現であるが、高校用日本史教科書(現行は19~20種ある)で、日中戦争下のアヘン政策に触れたのはこれが最初である」[注2]
       この教科書、『日本史/三訂版』(実教出版)が文部省の検定を通ったのは、つい昨年の一九八八年のことである。



      しかも、数多くの高校用教科書の中のひとつでしかなかった。その後、他の出版社にも影響を及ぼしたのだろうか?1988年の当時から30年以上を過ぎた2019年の現状はどんなであろうか?今は大部分の教科書が「日本がかってはアヘン帝国であった」ことについて記述しているのだろうか?調査を行うことは大きな困難を伴うであろうと思われるが、実に気になる話である。

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  3. 日本帝国軍の中国「阿片戦略」勉強になりました。ありがとうございます。

    なお、「縄ばしご」ですが、

    >「バチカン経由の逃げ道」を俗に「ラットライン」と呼ぶ。
    http://bcndoujimaru.web.fc2.com/archive/Holy_Mafia_Opus_Dei-03.html

    のだそうです。ご参考まで。

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