2013年9月2日月曜日

シリア紛争と国際的な厭戦気分

<注:この投稿でもフォントコントロールがうまく行かず、文字の濃淡が不必要に生じてしまっています。読みにくいかも知れませんが、ご容赦願います。>


829日、英下院が英国軍のシリア空爆への参加を否決した。与党内の保守派議員の反対や野党の労働党からの強い反対にあって、票は285272と二分され、政府が出したシリア空爆参加の動議は否決された。その結果、キャメロン首相は英国はシリア空爆には参加しないと宣言した。
米国のオバマ大統領は、この英国の離脱を見て、弱気になったようだ。831日のCNNの報道[1]によると、オバマ大統領はシリア空爆に関して99日に再開する米議会で賛意を取り付けたい模様だ。米国は国連の決議案もなく、NATOからの権限の付与もなく、米議会からの承認もない現状にある。そして、最も頼りにしていた英国が戦列から離脱した。
一方、ドイツのシュピーゲル誌の言葉[2]を借りると、英議会による否決は米国政府に甚大な影響を与えた。この記事の冒頭部分を仮訳して下記に示そうと思う。引用部分は段下げして示す。
オバマ米大統領にとっては、これは最悪の事態だ。彼はワシントンが最も頼りにしている同盟国の英国のせいで窮地に陥った。木曜日(つまり、829日)にロンドンで起こったことはまさに歴史的な出来事だ。軍隊の配備という場面では、米英両国は、少なくとも過去20年間を見ると、非常に信頼感の高いパートナーであった。第一次および第二次イラク戦争やアフガニスタンでは両国は常にお互いのために戦ってきた。フランスと英国がリビアに対して空爆を開始した際には、ワシントンは当初迷っているようではあったが、オバマは最終的にこの作戦に参加した。
両国はお互いによく通じ合える兄弟のような間柄で、この瞬間がやって来るまでは何年間にもわたっていつもそうだった。突然、英下院の過半数がシリア空爆に関して反対票を投じた。
軍事行動に対する疑念:
英国の突然の、まったく予想もしなかった戦列からの離脱は軍事行動に対する疑念が非常に根強いことを示している。これは何年にもわたってヨーロッパ大陸では支配的ではあったのだが、今回英国では保守派と進歩派が同盟を結んだ。木曜日の夜の投票ではこの同盟を推進する多くの議員たちが政府の動議に関して反対票を投じた。
イラクとアフガニスタンでの戦争に深く関与して来た英国にとってはひとつの理由がある。英国は、これらの戦争に参画したヨーロッパのどの国と比べても、より大きな犠牲を払っていた。近年、英国では多くの政党でそうした軍事的冒険に対する疑念が高まっていた。
この英国議会によるシリア空爆に対する否決はシリア紛争をめぐる国際政治では劇的な転換点となるかも知れない。そんなふうに私には思えてくる。米国のオバマ大統領に同調していたタカ派的な言動をしていたフランスのフランソワ・ホランド大統領もその後は語気を弱め、最近の報道[3]によると、下記のような具合だ。
フランソワ・ホランド大統領は米国が提案した軍事行動を忠実に支援するという政治的意味合いにおいては今までのところ歴代の仏大統領と比べて異色の存在である。しかし、ホランド大統領は、本日、直ぐにでもシリアに対する空爆を行うべきだという論調から後退し、シリア紛争には「政治的解決」が重要だとの言い方に変わった。

西側が後押しをしてきたシリア国民連合の指導者、アフマド・アル・ジャルバ氏とのエリゼー宮での会合の後、ホランド大統領は、もし国際社会が先週ダマスカス郊外で市民に向けて使用された化学兵器に見られるような「暴力の拡大」に「終わりを告げる」ことに失敗するようなことになった場合、平和の実現は不可能になるだろうと警告した。

結局、ホランド大統領の発言は「フランスは罪もない市民を毒ガスで殺戮するという不道徳極まりない決定をした者たちを罰する用意がある」という木曜日の発言よりも遥かに慎重なものとなった。躊躇している米国や議会での手続きが始まった英国と歩調をそろえるために同大統領はブレーキを踏まざるを得なかったようだ。

....大統領の発言は、「シリア政府に対する懲罰的な攻撃」を求めていたジャルバ氏にとっては失望だったのではないか。

....IFOP(訳注:フランスの市場調査会社で、企業や政党向けの調査を行う)の世論調査によると、59%のフランスの選挙民はフランスがシリアへの空爆を行うことには反対である。仏軍が関与しない限り、国連の作戦にはフランス人の55%が賛成である。

ドイツのメルケル首相やカナダのハーパー首相ならびにイタリアのレッタ首相はシリア空爆には参加しないと述べた。それぞれが国連の決議案なしでの軍事行動には参加できないと述べている。つまり、国連の役割を期待している。
オーストラリアのラッド首相は、829日の報道によると、シリア空爆に賛成である。しかしながら、艦艇を振り向けることで対応することが可能なオーストラリアに対して、シリア空爆の参加要請はまだないとのことだ。
ロシアのプーチン大統領は、BBCの報道[4]によると、下記のような発言をしている。 

プーチン大統領は米国に対してシリアがダマスカスの近郊で一般市民に向けて化学兵器を使用したとする証拠を国連に提示するよう求めた。プーチン大統領は、シリア政府軍にとっては反政府軍に対してそのような攻撃を仕掛けたとする説は「まったくナンセンスだ」と述べた。 

国際社会に対して証拠を示さない米国の怠慢は「簡単に言うと、礼を失している」とも述べた。「もし証拠があるならば、それを示すべきだ。証拠を示さないならば、その証拠は存在しないのではないか。」 

....プーチン大統領は英国の下院が木曜日に軍事作戦への参加を否決したことについて率直な驚きを隠さなかった。「私は正直に言いたいと思う。これは私にとってはまったく予想外だった」と述べた。「英国では、同国が米国の主要な同盟国ではあっても、自国の国益や常識に沿って行動する人たち、ならびに、自国の主権に大きな価値を見出す人たちがいるということを示している。」 

 

♘    ♘    ♘ 

米国の議会は今後どのような動きをするのだろうか。 

99日から始まる米議会は大波乱となるかも知れない。831日の報道[5]によると、バージニア州選出、共和党のスコット・リゴール議員はオバマ大統領宛に手紙を送った。この手紙には共和党の140人の議員ならびに民主党の21人の議員が署名をしているという(訳注:米下院の議席数は435)。その内容を覗いてみよう。下記のイタリック体で示した部分が大統領宛の手紙の部分である。 

大統領、リビアに対する軍事作戦の際、われわれの軍隊は「戦闘」に関与しないので議会の承認を取り付ける必要はない、とあなたは言った。それに加えるに、201141日には、あなたの弁護士事務所からのあなた宛のメモには、「オバマ大統領は、リビアにおいて予見される軍事作戦をその性格や範囲ならびに期間を限定したものとすることによって、事前に議会の承認を取り付けることもなしに、国益を守るためには憲法で認められた大統領権限を頼りにすることが可能である」と記されている。

われわれは、「国益」 が明白でありさえすれば議会の承認もなしに戦闘に関与することが可能であるとする弁護士からの意見は違憲であると判断する。

われわれは、シリアにおいて米国の軍隊の使用を命令する前に議会に相談し、その承認を得るようあなたに強く要請する。そうしなければならないあなたの責任は憲法ならびに1973年に採択された戦争遂行権限に関する決議に明記されている。

創設者たちは賢明にも大統領府に緊急時には行動を起こす権限を与えているが、その一方で、彼らは米国の軍隊を派兵する前に国民的論議を確実にする必要性、ならびに、議会の積極的な関与が必要であることを先見していた。米国に対する直接の脅威が存在しないシリア紛争にわれわれの軍隊を関与させることは憲法で明記されている権力の分離を侵害することになろう。

多分、歴史にも残るかも知れないようなこれらの強い言葉によって、議会は憲法に明記されている戦争と平和に関する諸々の事柄を決定する権限を自分たちの手に取り戻そうとし始めたのだ。重要なことは、この手紙は共和党の議員からのものであり、特にロン・ポール、ジャステイン・エイマッシやランド・ポール、等の共和党内でも自由主義を標榜する議員たちの指導に対する賛辞でもある。

しかし、状況は十分に深刻であり、世界大戦へと発展する可能性を秘めているとして、民主党の21人の議員も大統領に対して挑戦状を叩きつけ、自分たちの党のボス議員たちに対しても声明文に署名をするよう迫っている。彼らの動きは、かってイラク戦争に突入しようとしたブッシュ大統領に異議を申し立てたロン・ポールのように、党派の垣根を越えている。

その手紙が言いたいことが上記のようなことだとするならば、極めて重要な状況にある。しかし、この声明文はさらに先へ進み、リビアに対するオバマの過酷な戦争は議会の賛同もなしに実行されたことから「違憲」であるとしている。結局、大統領の重大な行動が「違憲」であると議会が判断した場合、議会がこうすると決定した内容については弁護士や裁判所、あるいは、最高裁であってさえもそれを覆すことはできない。リビアに対する空爆では、オバマは議会の権限を侵害した。もし議会が次の一手を取り、そのような行動が「政府高官の罪」の域に達するならば、それは弾劾されても当然な違法行為である。

....下院議員たちがリビア問題を取り上げながら発した警告の意味するところを読み取ることはそれほど困難ではない。もしオバマ大統領が議会の承認もなしにシリアを攻撃するならば、それは二回目の罪となり、大統領罷免の訴えをさらに強めることになろう。

この共和党員が開始した行動、大統領に対する手紙はいったいどこまで波及するのだろうか。そこには大統領を罷免するような破壊力が秘められているという点に留意する必要がありそうだ。オバマ大統領およびその側近たち、ならびに、ネオコンで固められていると言われている安全保障補佐官たちにとっては今頭痛の種となっていることだろう。

 

参照:

1Obama urges military action against Syria, but will seek Congress’ OK: By Tom Watkins, CNN, August 31, 2013

2: War Weary Europe, The US Loses an Ally: by Severin Weiland, SPIEGEL ONLINE INTERNATIONAL, August 30, 2013

3Syria crisis: France is no longer shoulder-to-shoulder with US: By John Lichfield, THE INDEPENDENT, 29 August 2013

4Russia’s Vladimir Putin challenges US on Syria claims: BBC, 31 August 2013, www.bbc.co.uk/news/world-europe-23911461

5Impeachment: Congress Fires Opening Shot Across Obama’s Bow: By John Walsh, Information Clearing House, August 31, 2013

 

 

 

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