2014年3月20日木曜日

クリミアでの国民投票は本当に非合法なのか


米国とEU316日にクリミア自治共和国で実施された国民投票は非合法であると喧伝している。
その一方、ロシアのプーチン大統領は国際法に準拠したものであって、合法的な行為だと主張している。
われわれ素人にとっては、どちらの主張が正しいのかはなかなか分からない。しかしながら、少なくとも今までの国際政治において米露の主張が分かれた場合どちらがより正しいかと言えば、それはロシアの言い分だと言えるのではないか。そして、たとえロシアの言い分が正しくても、国際政治の流れは、ほとんどの場合、良い悪いは別にして依然として米国の考えに沿うのが常だ。
米国の国際政治における主張の特徴は、自国の国益に合った筋書き以外はすべてが違法だと言い張る点にある。これを「例外主義」と自ら称している程だ。
今回のクリミアでの国民投票が合法か非合法かの議論では、米国やEUのメデアを読んでいるだけではその根拠が何も分からない。「非合法だ」、「非合法だ」と言うだけであって、何故非合法なのかを掘り下げて丁寧に説明した記事はほとんど見当たらないのが現状だ。少なくとも、私個人にはそのように見えるのだ。
そこへ、今日(319日)、格好の記事 [1] が目についた。過去の国際政治が示す所謂状況証拠だけで米国やEUの主張を退け、ロシアの主張に賛同してしまうことはいかにも簡単だ。しかし、21世紀の市民のひとりとしては、表面的に決めつけてしまうのではなく、専門家は果たしてどのような考えを持っているのかを自分の目で確かめておきたいと思う。その後で、クリミアの国民投票が合法なのか、それとも、非合法なのかを個人個人が決めればいいだけの話だ。

それでは、その記事の仮訳を下記に示し、読者の皆さんと情報を共有したいと思う。
 

<引用開始>
EUはクリミアの国民投票を非合法だと決めつけて、EU自身が「少数独裁的」であり「反民主主義的」であることを露呈した。これはInstitute of Democracy and Cooperation [訳注:文字通りに訳せば、「民主主義・協力研究所」とでも言おうか。これはロシアのシンクタンクのひとつ]のジョン・ラフランドがRTに語った言葉である。さらに、ロシアに対してさらに多くの制裁を行うと西側の経済が疲弊するだけだ、とも付け加えた。
RT: 西側諸国は国民投票ならびにクリミアのロシアへの再統合は非合法的だとして非難しました。彼らはいったい正しいのでしょうか?あなたは彼らの主張に賛成ですか、それとも、反対ですか?
ジョン・ラフランド(JL): 私はあの主張にはまったく反対です。彼らの偽善振りには息を呑むばかりです。多くのヨーロッパ人はあのような偽善の下で物事を判断しているのではないかと思います。本件に関してさまざまな新聞のインターネット・サイトでのコメントを覗いてみますと、ダブル・スタンダードが未解決のまま放置されているという事実を大多数のヨーロッパの人たちが理解しています。「私は反対だ」と強く主張する理由は、EUは昨日(318日)この日曜日に実施された国民投票を受けて、国民投票は非合法であるとして非難したからです。EUが非難したことによって、EUはEU自身が持つひどく反民主主義的な性格を露わにしました。何故かと言いますと、国民投票はまず第一に民主主義体制においては非常に合法的な行為です。二番目には、ウクライナ憲法の第138条はクリミア自治共和国が地域的な国民投票を実施することができると規定しています [訳注:ウクライナ憲法を調べてみると、第138条の第2項目にはっきりと規定されている] 。つまり、クリミアのウクライナからの分離についてではなく、EUが、むしろ、国民投票そのものを非難したという事実は、EUが少数独裁的で反民主主義的な素顔を露わにしたと言えます。分離は、もちろん、厳密に言いますと、非合法です。ひとつの州が国家から分離しますと、領土の一部の分離によってその国家の法的構造が破壊されます。そういった状況が分離の定義です。分離は非合法だと言うことは当たり前のことです。ウクライナの法律の観点からは、明らかに非合法です。しかし、このことは、まさに、世界の歴史上に見られる分離を振り返ってみますと、ほとんどすべての分離は非合法であったということを意味しています。1776年の大英帝国からの独立宣言も、同様に、その意味からは非合法だったのです。
RT: プーチン大統領は今日(319日)の演説で西側が作り出したコソボの事例に言及しました。あの比較は適切であると思いますか?
JL: まったく正当だと思います。これは前例があるとかないとかの問題ではなく、法理の原則としては、法の侵害は前例とはなり得ません。これはローマ法においては非常に重要な原則です。私自身も含めて、多くの専門家たちはコソボの2008年の独立宣言はそれ自体が国際法違反であると考えています。何故かと言いますと、それ以前に国連安保理の決議があって、それによるとコソボはユーゴスラビア連邦の一部であるからです。しかしながら、2008年の宣言以降、国際法の立場が国際司法裁判所が示した裁定によって明確化されました。このことをプーチン大統領は非常に正確に引用したのです。国際司法裁判所は国際法に関連する事項についての最終的な調停者です。セルビアは国際司法裁判所の意見を求めたのです。セルビアにとっては不幸にも、判事たちはセルビアの期待に反する裁定を下し、独立宣言は合法だとしました。そして、もっと一般論的に言いますと、歴史的に見て、さまざまな独立宣言がありますが、それらは決して国際法と矛盾するものではないと裁定したのです。そして、国際司法裁判所はさらに先へ踏み出しました。20世紀の独立宣言は民族自決の名において国際法と両立するものであって国際法によって支持もされている、と彼らは述べました。したがって、これは単に2008年にコソボが独立したという事実に止まるだけではなく、法律的な観点からもっと重要なことは、上述のように、2010年の国際司法裁判所の裁定をプーチン大統領が正当に引用したという点です。
RT: 西側諸国やロシアの人たちは誰もがクリミアの再統合を予期しているようですし、課された制裁はその範囲が限られているようです。後戻りはあり得ないとは思いますが、ロシアに対してさらに制裁を加えることに西側は何らかの論点を見出せるのでしょうか?何か利点はあるのでしょうか?
JL: 彼らは多くを失うでしょう。ロシアは応酬すると思います。その応酬がさらなる応酬を呼ぶことになるのかどうか、また、両者はどこまで突き進む用意があるのかを私たちは見極める必要があるでしょう。将来を予測することは非常に難しいと言わざるを得ません。ウクライナの国内状況は非常に流動的です。東部やオデッサではこれからどのように展開するのかはまったく分かりません。キエフの政権がどれだけ持ちこたえるかについてもまったく予測できません。つまり、何がこれから起こるのかは何とも言えない状況です。基本的には、二通りのシナリオが考えられます。報復のための制裁措置や高まるばかりの敵意、あるいは、ウクライナ国内における暴力行為や不安定さによって東西間の関係が極めて悪化することが考えられます。これは容易に起こり得るシナリオです。また、別の可能性もあります。それは西側が、それを認めることもなく、多かれ少なかれ既成事実を受け入れるというシナリオです。結局、多くの人たちが述べているように、制裁措置は極めて象徴的なものです。事実、冗談みたいなものだと言ってもいいでしょう。誰も真剣に受け取ってはいないのです。フランスは、たとえば、ロシアへの空母の納入は継続すると言っています。2015年中に、クリミアの軍港であるセバストーポリという名前を持った二艘目の空母を納入する予定になっているのです。当面、制裁措置は非常に小さなものばかりです。したがって、ふたつ目のシナリオとしては、1974年にトルコがキプロスの北半分を非公式に、しかしながら、実質的に吸収した時にトルコが受けた制裁措置と比べても、ロシアに対する制裁が極端に大きくなることはないでしょう。今クリミアで起こっていることと同じような理由である国が他国の領土を併合した、あるいは、実質的に統合した例はたくさんあるという事実を忘れないようにしましょう。
<引用終了> 

かなり専門的な説明だったと思う。国際司法裁判所の見解が詳しく説明されており、プーチン大統領の主張が法理的にも極めて合理的なものであるということが分かった。歴史を振り返ると、米国の大英帝国から独立したのも非合法的なものであったという指摘もまた秀逸だ。
ここに引用した記事の内容によって、私個人としてはクリミアの国民投票は合法的なものであると理解した。また、クリミアがウクライナから分離すること自体も近世の歴史を見ると、民族自決の原則に基づいて受け入れざるを得ないと言えよう。これらを認めないと言えば、それは民族自決を推奨し、民主主義を標榜する米国やEU諸国にとっては政治的には非常に不健全な立場をとることになると言える。
ひとときの熱気を冷まして、冷静な判断を行い、健全な国際関係に少しでも早く戻って欲しいと願うばかりだ。 

 
参照:

1'EU showed its oligarchic face by condemning the Crimean referendum': By RT, Mar/19/2014, http://on.rt.com/ddrp2w

 

 

 

 

4 件のコメント:

  1. 最近、こちらのサイトを知ったのですが、良い記事を翻訳してくださり、ありがとうございます。どうぞ、これからもよろしくお願いします。

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    1. 八ノ宮様、
      コメントを有難うございます。少しでもお役に立つことができれば、嬉しい限りです。励みになります。

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  2. 形式的にはクリミア共和国の分離独立を支持するロシアは正しいように見えるかもしれませんが、ウクライナ人からすると歴史的には受け入れがたいと思います。

    1932~33年にソ連の行った計画的飢餓「ホロドモール」によってウクライナ人で六百~七百万人の餓死者を出した後に、ロシア人が入植していた結果として今日の多くのロシア住民がウクライナに居住しれいるという経緯をウクライナ人は忘れることができないはずです。

    これを日本に当てはめてみると、例えば国後島・択捉島の住民投票でロシアへの編入を確定することになったと言われても、日本人が納得できないのは当然でしょう。

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    1. Mori Sobaさん、コメント有難うございます。

      「ホロドモール」での餓死者の数はいずれの歴史家あるいは研究者の説をとるかで大きく振れるようです。ホロコーストでの死者数でもそうですが、実際の数値は歴史の闇の中にあって、決して同定されることはないでしょう。インターネットで入手できる情報によりますと、ウクライナで4百万から5百万人、カザフスタンで百万人、北コーカサスとボルガ流域で百万人、それ以外の地域で2百万人というのが一般に受け入れられているようです。

      何故このような悲劇が起こったのか?

      1926年は豊作であったが、1927年には食糧不足に見舞われた。輸入代金に充当したり、革命後の政権を支える都市労働者への食糧の供給を満たすには2百万トンの穀類の不足だったという。5ヵ年計画を達成するためには、当時のソ連はさまざまな機械や設備を輸入しなければならなかった。穀物を輸出し、財政を支えなければならなかった。不作の原因の一つは政府の価格政策にあったようだ。増産に導くインセンテイブに欠けていたのだ。スターリンは1928年に農民が貯蔵している穀物を差し押さえる緊急措置をとった。農民の反感を買った。こうして、農業生産は負のスパイラルに陥って行った…

      1932年から1933年のソ連邦の農業地帯における大飢饉はスターリンに率いられたソ連政府による多分に人為的なものであったことは確かなようです。

      あるブロガーによりますと、「ウクライナ人は特にユダヤ人を憎んでいる訳ではない。むしろ、自分たちを統治し君臨しようとした者たちに対しては誰をも憎んだ。ウクライナ人はキエフ大公国を崩壊させたモンゴルを憎み、オットマントルコを憎み、ポーランド人を憎み、オーストリア人を憎み、ドイツ人を憎み、そして、ロシア人を憎んでいる。」

      ウクライナの歴史を見ますと、上に引用した記述は当を得たものだと思います。

      ところで、今回クリミアで実施された住民投票の結果は私にとっては意外でした。クリミア半島の住民の民族構成はロシア人が2/3を占めると言われています。しかしながら、ロシアへの編入に同意した人たちの割合は有権者の80%強にもなっていました。これは、ロシア系住民だけではなく、少なからずのウクライナ系およびタタール系の住民が賛成側に回ったことを示しています。私は、個人的には、クリミアの地域内ではロシア系と少数民族の間でははっきりとした利害関係があって政治的には割れているものとばかり思っていましたので、この投票結果は非常に意外でした。歴史的にはさまざまなことが起こっているわけですが、ロシア系と少数派民族との間ではお互いに対する寛容さが高まっているのではないかと思われます。

      また、「ホロドモール」との関係で言えば、ロシア系の住民にとってはキエフ政府を牛耳る極右派やネオナチの連中がすでにロシア語をウクライナの公用語から排除したことから、これはロシア人に対する宣戦布告だと受け取った人たちもたくさんいたのではないかと思います。暴力に対する恐怖感が色濃くあったのではないでしょうか。

      さまざまな要因が絡んでいるのは事実のようです。今後も、新しい事実が判明したり、新たな要素が加わって来ることでしょう。

      要は、流血沙汰にならずに、外交的な手段で当事国同士が活着をして欲しいと願うばかりです。 

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