2014年3月7日金曜日

ロシアは本当にウクライナへ侵攻したのか


34日早朝のNHK解説委員室による時論公論 「ウクライナ危機の行方・ロシア軍クリミア掌握」www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/182261.html)は、「プーチン大統領はロシア系住民の保護のためとして、ウクライナ領クリミアでの軍事行動を命じ、事実上クリミアをロシア軍が掌握しました」と解説した。
同日、日本とは6時間の時差を持つモスクワではプーチン大統領がメデアを前にインタビューに答えていた。その際に、「ロシアはウクライナの国民と戦争を始めるようなことはしない。しかし、もしキエフの過激派勢力がウクライナの市民に対して、特に、少数派のロシア人に対して暴力を振るうようなことがあれば、市民を守るためにはロシア軍を派遣する」とメデアに向かって表明した。(注: 小生の36日のブログ『プーチンがインタビューで表明 「武力行使は最後の手段。その権利は保留」』を参照ください)
このプーチンの説明にはロシア軍を派兵したと読める文言はない。武力行使をする用意はあるが、武力行使はあくまでも将来そういった必要に迫られた時の話だとプーチンは言っている。
上記のふたつの情報の間には雲泥の差がある。不思議なことだ。
さらには、「現在ウクライナにいる制服を着て武装をしている連中はバッジを付けてはいないが、彼らはロシア兵ではないのか」との質問を受けたが、プーチン大統領はそれを否定した。彼らはクリミアの自警団のメンバーであると述べた。
この「彼らはクリミアの自警団のメンバーである」とするプーチンの説明は非常に重要だ。
クリミア半島には通常でもロシア兵が駐留している。これはウクライナとロシアとの間の協定に基づいた駐留であって何年も継続されている。ロシアは最大で25千の兵力を常時駐留させることができるとのことだ。
西側のプロパガンダ・マシーンによるセンセーショナルな言い回しを見ていると、この常時駐留するロシア兵力、ならびに、制服を着て武装した自警団のことをプーチンが今回新たにウクライナへロシア軍を投入したかのように報道している。これは小生の単なる思い違いだろうか。
34日夜のRTの記事(http://on.rt.com/kgpba3)によるとこんな具合だ。
国連でウクライナ代表がクリミア半島全域で16,000人の兵力が配置されていたと述べた。これを聞くや、携帯メール通信が一挙に膨らんだ。
そして、それは事実として何を意味しているのかには関係なく、この情報は一人歩きを開始したようである。英語国民がこのような誤解をするとは私には想像もできない。ウクライナ代表は文法的には過去完了の様式を用いており、「16,000人の兵力が配置されていた」 と言った。文脈からは、今回のウクライナ騒動よりも前から16,000人がすでに配置されていたと言っているのだ。最近、新たに配置されたという意味ではない。ところが、この過去完了の表現が現在完了様式の表現に読み間違われ、あるいは、意図的に歪めらて、「16,000人の兵力が配置された」と伝えられたらしい。前出のRTの記事はさらに次のように伝えている。
この所謂「ロシア軍の侵略部隊」がすでに15年間も駐留しているという事実は特に歓迎されるということはなかった模様だ…
と述べ、RTは皮肉たっぷりな文言を挿入することを忘れなかった。
多くの人たちが信頼している筈のメデアがクリミア自治共和国が大規模なロシア軍によって侵略されたとヒステリックな調子で状況を描写した。それらの見出しを例に挙げると、「ロシアが16,000人の兵力をクリミアに派兵」、「ロシアがクリミアへ兵力を増派、ウクライナの危機さらに深まる」、さらには「クリミアへのロシアの侵入に関してオバマは如何なる対抗措置をとれるのか」といった調子だ。
さまざまな事実ならびにロシア側の首席外交官による熱心な説明があったが、それらは西側の「戦争を挑発したいメデア」によってすっかり無視されてしまった。
ロシアのヴィタリ・チュルキン駐国連大使はずっと昔から継続されている協定によって兵力を25,000人まで増強できるという点を指摘した。また、ラブロフ外相は「ロシア軍はロシア海軍がウクライナに駐留することを規定している協定にしたがって厳密に行動していること、ならびに、ウクライナの合法的な政府からの立場や主張に従い、今回のケースではクリミア自治政府の立場や主張についても従っていること」を強調した。
同記事には歴史的な経緯を含めてさまざまな事実が説明されている。そして、兵力に関しては下記のように詳述している。
ロシア海軍はクリミア半島内で兵力を下記に示す上限まで増強することができる:
― 兵隊の数は25,000人まで
― 口径100ミリまでの火器システムは24基まで
― 装甲車両は132台まで
― 軍用機は22機まで。
最近の報道(31日、http://on.rt.com/0d4e3m)によると、ウクライナ海軍の旗艦はソマリア沖でのNATO軍との対海賊作戦を終えて、黒海のセヴァストーポリ港へ帰還したが、帰還後早々に「キエフ政府の命令は受けない」と宣言したとのことだ。つまり、親ロシア派のクリミア自治政府を支持すると宣言したのだ。クリミア半島内のウクライナ軍基地では辞任の手紙が数多く寄せられているとも報道されている。32日の報道(http://on.rt.com/bvb2ya)によると、クリミアに配置されているウクライナ軍の大多数がクリミア自治政府側へ投降した。この投降は平和裏に行われ、ロシア軍や自警団からは一発の弾丸も発射されることもなく実行された。ウクライナ軍内の将校にはロシア人が少なからずおり、今後も部隊丸ごとの投降が起きるかもしれないと報道されている。
このような状況を見ると、クリミアにおける自警団の規模は今急速に拡大しているのではないかと推測される。
また、上記に引用した小生のブログ『プーチンがインタビューで表明 「武力行使は最後の手段。その権利は保留」』でもご紹介したが、キエフの中央広部で反政府デモが最高潮に盛り上がっていた頃、狙撃者による銃撃によってデモの参加者だけではなく警察官側にも多数の死者がでた。この銃撃の背後で一体誰が指揮をとっていたのかというと、エストニアのウルマス・パエト外相によると、「背後から狙撃者を操っていたのは誰だったかと言うと、それはヤヌコヴィッチではなく、反政府派連合の誰かだったという疑いがより濃厚になってきた」と述べている。この情報はEU外務・安全保障政策上級代表のキャサリン・アシュトンとエストニアのウルマス・パエト外相との間で225日に電話で交わされた会話が暴露されたことから表面化したものだ。
ウクライナ西部やキエフで起こった暴力はかねてからネオナチや極右翼等による暴力沙汰として報道されている。そして、選挙で選ばれたヤヌコヴィッチ大統領がその座から追われ、ロシアへ亡命してからはヤヌコヴィッチ大統領に忠誠を誓っていた内務省特殊部隊「ベルクト」は解散された。ベルクトのメンバーは反政府デモの参加者からは敵視されていたことから、彼らはクリミア半島へ潜入したと報道されている。クリミア自治共和国とウクライナとの境にはバリケードが築かれ、武装した兵士によって警備されている。ウクライナ本土からのネオナチ等の過激派の侵入を食い止めるためだと言われている。
空港や幹線道路に配備されているこうした武装した兵士たちは何処の国に所属するのかを示すバッジは付けてはいないそうだ。プーチンの説明によると、彼らはクリミアの自警団のメンバーであって、ロシア兵ではない。
しかし、戦争が今にも起こりそうだとセンセーショナルな報道をし、売上部数や視聴者の数を伸ばしたいメデアにとっては真実は必ずしも歓迎されているわけではない。
この状況は、あたかも昨年8月のシリア情勢が再現されたかのような印象を受ける。化学兵器によって多数の市民が殺害された際に、米国を始めとする西側諸国はシリア政府軍側が化学兵器を使ったとしてシリアを非難し、米国は「シリアを空爆する」と脅迫した。シリア政府側は、あれは反政府ゲリラが行ったものであって自分たちは関与していないと宣言した。その後さまざまな情報が集まり、それらを総合してみると、あの化学兵器の使用は反政府ゲリラの仕業であると言えるようだ。つまり、反政府側の自作自演だった。
このような状況の誤認はどうして生じるのか。メデイアの責任を論じないままではこの疑問には答えられそうもない。
ここに、最近の記事の中にこの疑問に答えるものがある [1]。それを仮訳して、クリミア半島で起こっている状況について理解を深めたいと思う。

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<引用開始>
ジェラルド・セレンテは西側諸国の大手メデアを「プレステチュート」と名付けた。著者もこの言葉を頻繁に使わせてもらっている。プレステチュートは自分の身をワシントン政府に売り込み、政府やさまざまな情報源へのアクセスを確保し、自分たちの職場を維持している。腐敗しきったクリントン政権が米国のメデアが企業集中することを許可した時点以降、いくつかのインターネット・サイトを除いては、米国ではジャーナリズムの独立性は無くなってしまった。
グレン・グリーンワルドはロシアのメデア組織であるRTでアビー・マーテ [訳注:米国人のジャーナリストであって、RTアメリカ・ネットワークのワシントンDC支局に勤務] がロシアのウクライナへの侵攻を非難したが、RTはそうすることを許容したとしてRTの独立性を賞賛している。これはフィル・ドナヒュー(MSNBC)やピーター・アーネット(NBC)がたどった運命とは大違いである。これらふたりのジャーナリストはブッシュ政権による非合法なイラクへの侵攻に反対の意を唱え、その結果解雇された。ドナヒューはNBCのもっとも高い視聴率を誇る番組を持っていた。しかひ、そのような事実も彼にジャーナリズムの独立性を与えることにはならなかった。米国の新聞やテレビあるいはNPR [訳注:公共ラジオ放送] で真実を報道すると即刻首になるのが落ちだ。
ロシアのRTは米国人がそうしろと言いながらも、そのことを決して賞賛しようとはしない価値観を信じ、実際に順守しているようだ。
著者もグリーンワルドに賛成だ。お望みならば、彼の記事は下記のサイトで読むことが可能だ: http://www.informationclearinghouse.info/article37842.htm グリーンワルドは実に素晴らしい。彼には知性があり、高潔さを備えており、勇気もある。彼はもっとも勇敢なジャーナリストの一人であり、私の著書How America Was Lostは彼に捧げている。RTのアビー・マーテンについては彼女を賞賛している。何度か彼女の番組に招待されたことがある。
グリーンワルドやマーテンに関する私の批判は二人の高潔さや人柄とはまったく関係がない。アビー・マーテンはもっと高収入の「主流メデア」への移籍を可能にするために派手な行為をしたとの指摘については、私は多いに疑っている。私の視点はそれとはまったく異なるのだ。我々に光をもたらしてくれるアビー・マーテンやグレン・グリーンワルドであってさえも西側のプロパガンダから完全に独立し続けることが可能であるとは言えないのだ。
たとえば、マーテンがウクライナへのロシアの侵略について批判をしたが、彼女の批判はロシアがクリミアを占領するために16,000人の兵力を送り込んだとする西側のプロパガンダに基づいたものだった。しかし、事実はどうかというと、その16,000人の兵力は1990年代からずっとクリミアに駐留しているのである。ロシアとウクライナとの間で交わされた協定によると、ロシアはクリミアに駐留するロシア軍を25,000人にまで引き上げる権利を持っている。
知性が豊かで物事に詳しい二人ではあるが、アビー・マーテンやグレン・グリーンワルドはどちらもこの事実を知らなかったに違いない。これは明白だ。ワシントンのプロパガンダは至る所に蔓延しているので、われわれの世代ではもっとも有能なこれらのリポーターであってさえもその犠牲になってしまったと言える。
私が自分のコラムで何回かすでに書いているように、ウクライナを手中に収めNATOに参加させ、米国の覇権を推進させ、ロシアの核抑止力を台無しにするべくロシアとの国境に米国のミサイル基地を建設し、ワシントンの覇権をロシアに認めさせるためにワシントンがウクライナでのクーデターを組織したのだ。
ロシアはワシントンが画策したこの大規模で戦略的な脅威に対してはえらく控えめに対応をしただけだった。
ワシントンのプロパガンダの犠牲になったのはマーテンやグリーンワルドだけではない。パトリック・J・ブキャナンもそうだ。クリミアでの戦争を挑発する連中には抵抗するようにと読者に呼びかけたブキャナンのコラムはワシントンのプロパガンダめいた主張である「クリミアへのウラジーミル・プーチンの派兵について」(http://www.informationclearinghouse.info/article37847.htm)で始まった。しかし、そのような派兵は実際にはなかったのだ。プーチン大統領はロシア議会によってウクライナへ派兵する権限を与えられた。しかし、プーチンは公に宣言している。ロシア兵の派兵は、ワシントン主導のクーデターを乗っ取りキエフや西部ウクライナでその地位を築いた極端な国粋主義者であるネオナチによる侵攻からクリミアのロシア系住民を守る時に採用する最後の手段だと。
ここにはわれわれの世代ではもっとも有能であり、もっとも独立精神に富んだ3人のジャーナリストがいる。そして、3人が3人ともロシアがウクライナに侵攻したという西側のプロパガンダの犠牲となったのである。
ワシントンのプロパガンダ能力はあまりにも強大であるので、もっとも有能かつ独立心に旺盛なジャーナリストでさえもその影響を受けないままでいることは困難であると言えよう。
実際にはなかった軍事的侵攻に関してロシアを非難したことによってアビー・マーテンがグレン・グリーンワルドから賞賛される時、あるいは、独立心旺盛なパット・ブキャナンが武力侵攻があったと認めることからコラムを書き始め、ロシアの民衆を非難することとは違った意見を述べる時、物事の真実にはどのような可能性が残されているのだろうか。

例のプレステチュートがウクライナに関して述べたすべての筋書きはプロパガンダが作り出したものだ。プレステチュートは退陣させられたヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領がデモの参加者に向けて狙撃するように命じたと報道していた。これらの間違った報道に基づいて、キエフの現政府を構成するワシントンのボケ役たちはヤヌコヴィッチに対して逮捕状を準備し、国際裁判所で彼を裁く積りでいる。EUの外務大臣であるキャサリン・アシュトンとエストニアの外務大臣ウルマス・パエトとの間の電話が盗聴された。ちょうどキエフへの旅行から帰ってきたばかりのパエトは「背後から狙撃者を操っていたのは誰だったかと言うと、それはヤヌコヴィッチではなく、反政府派連合の誰かだったという疑いがより濃厚になってきた」と報告した。パエトはさらに「すべての証拠を総合すると、狙撃者によって撃たれた人たちはデモ参加者だけではなく警察官の方にも見られる。同一の狙撃者らが両派に向かって狙撃したものだ。その上非常に悩ましいことには、反政府派連合は実際に何が起こったのかに関して調査は行いたくはないようだ」と、報告を続けた。ウクライナには改革を指導し、その経済政策についてのコントロール機能を得たいがためにIMFに向けた筋道を確立しようとするEU側の計画で頭がいっぱいになっていたアシュトンには、キエフの中央広場で起こった殺戮は筋書き通りの挑発行為だったとするパエトの詳しい報告を聞くのは特に嬉しいというものではなかった。もしお望みならば、パエトとアシュトンの電話の内容は次のサイトで確認が可能である:http://rt.com/news/ashton-maidan-snipers-estonia-946/
ウクライナで起こったことは合法的に選出された政府を崩壊させるためにワシントンが画策したものであったが、ネオナチにそのコントロールをすっかり横取りされてしまった。彼らはウクライナの東部や南部のかってはロシアの一部であった地域に住むロシア系住民を脅かそうとしている。脅威を受けたロシア系住民はロシアの助けを求めた。彼らはちょうど南オセチアのロシア系住民たちのようにロシアの助けを受けることになりそうだ。
オバマ政権とそれを取り囲むプレステチュートは何事についても嘘を言い続けることだろう。
ポール・クレイグ・ロバーツは米財務省の経済政策財政委員会の副議長やウオール・ストリート・ジャーナル紙の副編集者を務めた。ビジネス・ウィークやスクリップス・ハワード・ニュース・サービスならびにクリエーターズ・シンジケートのコラムニストであった。数多くの大学の職にも就いた。インターネットでの彼のコラムは世界中の読者の関心を呼んでいる。最近の著書としてはThe Failure of Laissez Faire CapitalismおよびHow America Was Lostがある。http://www.paulcraigroberts.org/

さらには、下記を参照されたい。
クリミアにいる連中はロシア兵ではない、とプーチンが言明: ロシア兵はクリミア半島で政府の建物を占拠したり、ウクライナの軍事基地を取り囲んだりといった行為はしていない、とモスクワの近郊で行われたニュース・コンファレンスでウラジミール・プーチンが主張した。その場で、彼は最近の出来事をリポーターたちに説明した。武装した男たちはロシア兵ではなく、その地域の「自警団」であると。
<引用終了> 

キエフの中央広場で起こった銃撃事件はデモ参加者ならびに警察官の両方に死者を出した。負傷者の治療に当たった大学教授の判断によると同一の狙撃者によるものだという。この状況は政府と反政府派との間の緊張をさらに拡大するために銃が使われたことを示唆している。
また、クリミア半島の空港では制服をまとい武装した男たちがパトロールし、幹線道路ではバリケードが築かれ武装した男たちが監視をしている。さらにはクリミアの地方議会もそういった男たちで占拠されていると伝えられている。これらの武装兵は所属を示すバッジをつけてはいないそうだ。彼らは西側が主張するようなロシア兵ではなく、クリミアの自警団である、とプーチンが言明している。この内容は西側のメデアが喧伝してきた筋書きとはまったく違うのだ。
総じて、ウクライナでの騒乱や暴力沙汰は西側が意図した全体的な筋書きとは大きくかけ離れた状況になっていると言えようか。いずれ、さらに多くの真相が時間と共に表面化してくることだろう。やがて、歴史が教えてくれることになる。
しかしながら、ここで最大の問題は、イランの核開発疑惑のように、明確な根拠もなしに、声の大きな側によって声の小さな側が30年もの間経済制裁をされたらたまったものではない。当事者の政治家は別にして、巻き込まれた一般市民は甚大な影響を受けることになってしまう。あまりにも理不尽だ。 

参照:
1Has Russia Invaded Ukraine?:  By Paul Craig Roberts, Information Clearing House, Mar/05/2014

 

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