2014年5月17日土曜日

米国のメデイアはプーチンの和解提案を無視


副題: プーチンは本当にKGB上がりの領土拡大を狙う悪党か?これは単に米国のメデアによるプロパガンダではないのか? 

米国の大手メデアによる情報操作には目に余るものがある。米国市民に対する情報の隠ぺいが大々的に進行しているのだ。これは2003年のイラクへの武力侵攻を開始する前の状況と非常に酷似していると言えよう。
非営利組織であるインフォメーション・クリアリング・ハウスは大手のメデアが取り上げないような情報を配信する。ウクライナ危機に関してそういった情報が毎日何本も配信されてくること自体、非常に異常である。もっと詳しく言えば、米国民にとってこれは非常に異常である。しかし、政府を操る勢力にとっては正常であるのだろう。軍事的な対決はまだないものの、米ロ間では情報戦争がすでに始まっていると言える。
米国のメデアはロシアのプーチン大統領を領土の拡張を狙う悪党として描いている。それは何故か?ロシアを蹴落とそうとする覇権国家である米国がメデアを総動員してそうしているからだ。つまり、米国の政治を背後から操っている巨大資本がそうさせているということになる。
以前のブログで「ツキジデスのわな」に関する興味深い論評をご紹介した(20121021日付けの「尖閣諸島問題に見る覇権の興亡 - ある政治学者の見方」)。
そこでは、『ツキジデスとは古代ギリシャの歴史家であって、新興都市国家アテナイと覇権都市国家スパルタとの間に起こったペロポンネソス戦争(紀元前431年―紀元前404年)を実証的に記述した「戦史」で知られている。ツキジデスは、新たに台頭してきたアテナイと当時の覇権都市国家スパルタとの間の戦争はふたつのキーワード、「台頭」と「脅威」によって説明できるとしている。台頭するアテナイは覇権国家スパルタにとっては大変な脅威であった。最終的には30年近くの戦争となった。覇権国家が新興国家の「台頭」を見て「脅威」の余り戦争に走る。この戦争という落とし穴に陥る様子を、後世、「ツキジデスのわな」と呼ぶようになったと言われている』と記した。
今、ウクライナでの政情不安は米ロ間に起こっている「台頭」と「脅威」であると要約できよう。目下のところ武力行使ではなく、経済制裁が台頭して来るロシアへの圧力の道具として使われている。しかし、その背後にある深層心理は2400年も前にツキジデスが指摘した構図と非常によく似ている。歴史は繰り返すとよく言われる。この構図はやがて米国と中国との間でも繰り返されるのかも知れない。好むと好まざるとにかかわらず、覇権国にとっては「目の前に現れる台頭勢力は潰せ」というのが歴史が教えてくれるもっとも多く採用されてきた選択肢なのだ。 

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日本のメデアがウクライナ紛争に関して米国寄りの視点から報道しているのか、それとも、ロシア寄りの視点から報道しているのか、あるいは、第三者的な視点から報道しているのかと考えてみた場合、日本の大手メデアは米国で喧伝されている見方に偏っていると断言してもまったく間違いないだろう。少なくとも、私にはそう思える。
この認識が、昨年の私のブログではシリア紛争に関する投稿が多くなった理由である。そして、昨今はウクライナ情勢についてのブログが圧倒的に多くなっている。(私の独断ではあるけれども、日本では必ずしも紹介されてはいないと思われる)英語で入手可能なインターネット情報を少しでも多くの皆さんと共有したいと思っている。入手できる情報の範囲を広げることが誰にとっても基本的にもっとも重要だと思うからだ。幅広く入手した情報を理解した上で、個人個人がご自分の意見を判断していただければいいと思う次第だ。 

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316日に実施されたクリミア自治共和国の住民投票では、ウクライナ政府から独立しロシアへ帰属したいという投票が大多数を占めた。クリミア自治共和国からの要請を受けて、ロシア政府はクリミア自治共和国をロシアへ含める手続きを速やかに完了した。
そして、先日の日曜日(511日)にはウクライナ東部のドネツクとルガンスクの両州で住民投票が実施された。ここでも、投票者の大多数がキエフ政府からの独立に賛成票を投じた。
この住民投票の結果を見て、ドネツクとルガンスクの両州も間もなくロシアに吸収されるかも知れないという現実的な恐れが出てきた。キエフはそうはさせない。軍事力を使った弾圧が続きそうだ。どこかの時点で、ロシア語住民の保護を目的にロシアがウクライナへ軍隊を導入するかも知れない。しかし、ロシアがそうしたら、それこそ米国側の思うツボだ。NATO軍が待ってましたとばかりに一気に動き出すだろう。
しかし、プーチンはこれより先に、57日、モスクワで開催された欧州安全保障協力機構の会議で次のように述べた。「キエフ政府とこれらの州との間では公開された形で、正直かつ平等な対話をしてこの危機を解決して欲しい」との姿勢を示した。要するに、ウクライナ危機はウクライナの内政問題だという位置づけだ。
米ロの報道には非常に大きな食い違いがある。まさに情報戦争そのものだ。すでに「新たな米ロ間の冷戦が始まっている」とする専門家の観測がインターネット上では毎日のように見られるようになった。
今日はこの米ロ間の新たな冷戦について理解を深めてみたいと思う。 

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第二次世界大戦以降半世紀にもわたって続いていた東西冷戦は20数年前に終わったと言われている。
19452月にソ連のクリミア半島南端の町、ヤルタに米英ソの首脳が集まり、第二次世界大戦後のお互いの勢力範囲を確認した。これ以降、イデオロギー的にも、軍事的にも、経済的にも新たな構造が世界を覆いつくした。冷戦構造だ。それから約半世紀後、1989年、地中海のマルタ島で米国のブッシュ(父)大統領とソ連のゴルバチョフ書記長が二日間の会談を行い、東西冷戦に終止符が打たれた。その年の夏、ベルリンでは東西を分断する「ベルリンの壁」が市民の手によって破壊され、東欧革命が急速に進行した。
今、私の手元にゴルバチョフの回想録 [1] がある。東西冷戦が終結に向けて大きく動いた1980年代後半は米国ではリーガン大統領からブッシュ(父)大統領へと政権が移り、ロシアではゴルバチョフ共産党書記長の時代だった。
ゴルバチョフはぺレストロイカを推進し、旧ソ連の近代化を急いだ。その中でもっとも大きな柱となっていたのは米ソ間の軍縮である。両国は核軍縮交渉を開始した。そして、東西ドイツの統合を推進した。これらの核軍縮や東西ドイツの統一は、当時、歴史の大きな転換点となったことは言うまでもない。
ゴルバチョフの回想録を読むと、東西ドイツ統一の頃の西ドイツのコール首相との話し合いや米国のブッシュ大統領との話し合いの様子が詳しく記述されているので、当時の政治家がどんな思いでこの歴史的転換点を通過して行ったのかが手に取るように分かる。ゴルバチョフは相手の言動を詳細に分析している。貴重な本だ。
冷戦の終結がどのようにして合意されたのかを教える興味深い記述がある。それを下記に引用してみよう。

<引用開始>
「もしドイツが中立化すれば」、とベーカーは私を説得しようとして言った。「かならず非軍国主義国になるとはかぎらない。反対に、アメリカの抑止力に頼るかわりに、独自の核潜在力を創り出す決定をすることも大いにあり得ることです。あなたに質問したいのですが、これはかならず答えていただかなければというのではありません。統一が成立すると予想して、あなたはどちらを選びます?NATO外の、完全に自主的な、アメリカ軍の駐留しない統一ドイツですか、それともNATOとの関係は保つが、管轄権あるいはNATOの軍は現在の線から東へは広がらないことを保証された統一ドイツですか?」
実際、ベーカー発言のこの最後の部分が、後に軍事的・政治的地位に関する妥協案の基礎となる公式の核となったのである。
<引用終了>

誰もが知っているように、実際には米国はこの約束を破った。NATO加盟国の領域は東へと拡張し続けた。具体的に言うと、1999年には旧東欧圏の3か国が、2004年には7か国が、そして、2009年には2か国がNATOに加盟した。
そして、その後はグルジアやウクライナへも触手を伸ばしてきた。
つまり、米国がソ連に対して保証するとまで言っていた「NATO軍は東側へは拡張させない」という約束はあっけなく破棄されてしまったのだ。ブッシュ(父)前大統領やジェームズ・ベーカー前国務長官はこの約束の破棄に関して倫理的な罪悪感を感じているのだろうか?恐らく、何の罪悪感も感じてはいないのではないか。旧東欧諸国がこぞってNATOへの加盟をしていった1990年代の終わりから2000年代は米国の資本主義がソ連の共産主義を凌駕したとして米国が自己陶酔に陥っていた頃のことだ。経済のグローバル化、新自由主義、アメリカ例外主義、等が喧伝されていった。そして、今も続いている。
 

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今日は、そうした米国政府にとっては非常に重要な(と言うことは、米国民にとっては非常に不幸なことではあるが…)プロパガンダ役を務めて来た米国のメデアの現状を学んでみたい。
512日にインフォメーション・クリアリング・ハウスに掲載された記事 [2] がある。それを仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。

<引用開始>
「もう一度繰り返しておこう。ロシアの見解としては、ウクライナ危機の責任は222日から23日にかけてキエフで起こったクーデターを画策した者たちにある。何れにせよ、今日皆の目の前にある状況を解決できる策を何とか見い出さなければならない。すでに言ったように、今必要なことはキエフ政府とウクライナ南東部の住民代表者との間で直接的な、全面的で対等な対話をすることだ。」 ジュネーブ2の話し合いが現実的であるかどうかは分からないが、公開された形で、正直かつ対等な対話が是非とも必要だ。これだけがわれわれに残された選択肢だ。」 
-     上記はロシア大統領のウラジミール・プーチンが201457日にOCSEの会議で語った内容だ。
非常に多くの者たちが永遠の御影石の下に横たわっている
でも、この石によって名誉を与えられる者は誰もいない
ひとり残らず忘れないでおこう
何ごとも忘れることがないようにしよう。
-     オルガ・ベルゴルツの「レニングラード」から
水曜日に、ロシア大統領のウラジミール・プーチンはモスクワで開催されたOCSE(全欧州安全保障協力機構)の席上でウクライナでの暴力は止めようではないかと提案した。しかし、不幸なことには、ほとんどの米国人はプーチン大統領が何を言いたかったのかを知ることができなかった。何故かと言うと、メデアは彼の声明を公表しなかったからである。どうして公表しなかったかと言うと、その理由はとても明白だ。メデアは、プーチンは決しておぞましい存在ではないこと、専制君主として描かれているような人物ではないこと、それどころか、彼は冷静な実務家であり、このウクライナ危機に関して速やかに平和的な解決を望んでいること、等が米国の人々に知られたくはなかったからである。
彼はこう言ったのだ。
「今もっとも重要なことはキエフ政府とウクライナ南東部の代表者との間で直接的な対話をし、純粋かつ全面的な対話を始めることだとわれわれは思う。この対話はウクライナ南東部の住民にウクライナにおける彼らの合法的な権利が保証されることを知る絶好の機会を与えることになるだろう。」
この文言は領土拡張や帝国樹立の夢に基づいて行動するKGB上がりの血に飢えた悪党どもの言葉に聞こえるだろうか?それとも、この文言は冷静な頭脳の持ち主が現れるまでは停戦を実現したいとする責任のある指導者の言葉として聞こえるだろうか?
あなた方はプーチンが「キエフ政府とウクライナ南東部の代表者との間で直接的な対話をし、純粋かつ全面的な対話を始めること…」と聞きましたか? 米国民がプーチンに関してどう判断するかを可能にするためにも、このような重要な情報はメデアが公表するべきだとは思いませんか? それとも、あなた方はメデア企業のボスたちにとって利益になる限りにおいては、メデアはどんな情報でも公表を差し控える権限をあたえられているとでも思っているのですか?
プーチンはスピーチの中で数多くの譲歩をしており、それらは特筆に値する。たとえば、彼はウクライナの国境から軍隊を撤退させることに同意した。これは2週間以上も前にキエフ政府による弾圧が開始された時点以降オバマ政権が主張していた中核的な論点であった。このプロセスにおいてロシア側の防衛を弱めることになるかも知れないが、プーチンは軍を撤退させることに同意した。これは決して些細なことではない。事実、大統領の主要な管轄事項である国としての安全保障上の問題でもあり、プーチンにとっては軽々しくこれを扱うことはできない。増してや、今、ネオナチの狂気じみた連中が完全武装をして地方をうろつきまわり、ロシア系住民と見れば殺害する恐れさえある時である。しかし、自分の善意に満ちた行動が暴力を終結させることに役立つかも知れないとの思いから、プーチンは譲歩した。
彼はこう言った。
「われわれは軍を撤退させた。軍は今ウクライナとの国境線には集結しておらず、自分たちの演習場で通常の演習を行っている。このことは、たとえば、何でも観察することができる宇宙からの査察技術を使えば容易に検証できる。われわれはOSCEの軍事視察メンバーの釈放を確かなものにしたし、緊張を和らげる上でも大きく貢献したと信じている。」 
これらの言葉は嘘つきの言葉に聞こえるだろうか?
もちろん、決してそうは聞こえない。だからこそ、米国のメデアはプーチンが言いたかった内容をあなた方には聞かせたくなかったのだ。何故かと言うと、これは「プーチンは悪魔だ」とする彼らの言葉の綾にはぜんぜん一致しないからだ。
プーチンは率直に物を言うタイプだ。彼はよく反応するタイプでもあり、自分が思っていることを喋る。彼は決してでたらめを言う人ではない。だからこそメデアは彼が言ったことを公表したくはなかったのだということを一般大衆は悟ることだろう。一般大衆は彼が言っていることを信じるかも知れない、とメデアは恐れている。彼らの主戦論者的で好戦的なプロパガンダがまったく無駄骨に終わることを彼らは恐れているのだ。現実には、一般大衆は真実がどのように聞こえるのかを察知する直観力を持っている。それは本能と言ってもいいだろう。自分のお好きな言葉を使って貰って結構だ。一般大衆はプーチンのような人物とケリーのようなごまかしの多いペテン師との違いを良く心得ている。在るがままの違いとでも言おうか。
プーチンは511日に予定されている住民投票を延期するようにウクライナ南東部の代表者に要請した。
彼はどうしてそうしようとしたのだろうか? 結局のところ、もし彼が何が何でもロシア帝国を樹立したいと思っていたならば、彼の批評家たちが言っているように、彼は住民投票の実施を望み、東部の住民たちが暫定政府を拒否し、キエフ政府に対してより大きな自治権を要求している事実を全世界に示すことができた筈だ。しかし、プーチンが望んでいたことはそういうことではなかった。彼が望んでいることは虐殺に終止符を打つことだ。だからこそ、彼は住民投票を延期し、政府に新たな血なまぐさい弾圧を行う口実を与えないようにと地域住民に頼んだのだ。プーチンはウクライナを地政学的な野心のための足場として使おうとする外部勢力によってウクライナがずたずたに切り裂かれ、イラクのような無政府状態になってしまうのを見たくはないのだ。彼は安定性とセキュリテイーとを再構築したいのだ。彼は敵意を終結させたいのだ。
彼が言ったことをここに記してみよう。
「われわれは南東部の代表者たちや連邦化の支持者たちに511日に予定されている住民投票を延期するよう要請したい。」 
つまり、彼は国境から軍を撤退させ、より大きな政治的自治を求めている親ロシア派の活動家たちに住民投票を延期するよう求めた。ふたつの大きな譲歩をしたのだ。でも、どうして彼はこのような動きをしたのだろうか? 
彼は何かを密かに準備しているのだろうか?彼はキエフに対して電撃戦を仕掛ける前に敵を油断させようとしているのだろうか?
真面目に考えて欲しい。プーチンはウクライナを入手しようとは思ってはいない。それはネオコンのくだらないナンセンス以外の何物でもない。彼は自分自身の問題で手がいっぱいだ。彼は大恐慌に急速に陥りかねない、破産した、無力で崩壊してしまった国を自国へ吸収しようとはしない。彼は何故そういったことを望まないのだろうか?
何故彼は譲歩をすることに熱心だったのだろうか?彼は恐怖にかられたのだろうか?多分、彼はNATOや米国と対立することに恐れをなして、ロシアの西部で戦争が勃発するまえに降参したとでも言うのだろうか? 
その通りだとでも?プーチンは弱虫だとでも?
西側のメデアによると、彼はその通りなのだが、それは彼らの報道内容がプーチンが軍を撤退させたことだけに焦点を当てているからであって、それが故にあたかもワシントンの強硬派の政策(制裁、脅し、サーベルをガチャガチャさせること、等)が状況を悪化させずに、実際に効を奏したと見えるように報道したからだ。それ自体はその通りだ。しかしながら、報道から漏れたもうひとつの事実がある。それは暴力に終止符を打とうとしたプーチンの意図そのものだ。これは決して報道されることはないだろう。メデアにとってはプーチンが和平推進論者として見えてしまっては困るのだ。彼らの利益にはならないからだ。
プーチンは恐れてはいない。彼はカダフィやサダムのような結末を迎えることはないだろう。しかし、彼は心配をしている。それはロシアがEUの市場へアクセスすることを米国が遮ろうとしている点だ。ロシアとしては、多くの批評家たちが考えているように、天然ガスを西(EU)から東(中国)へとそう簡単に振り向けることはできない。ナンセンスだ。ヨーロッパがロシアを必要としているように、ロシアにとってはヨーロッパが必要だ。両者の間には自然に発生した通商関係がある。米国は、ロシアを単に中央アジアの大物にとどまるだけの存在にするべく、意図的に妨害工作を実施したいのだ。これがすべてだ。お分かりかな?アジアへの回帰だ。
そう、プーチンの和平への考えは完全に利他的ということではない。これは金にまつわる問題でもある。巨大な金額だ。だから、どうだって言うのか?どんな違いが出てくるのだろうか?つまり、プーチンだって処女雪のごとく純粋というわけではない。とにかく、大きな商いだ。事実、彼は依然として和平を推進している。これはモスクワにとって利益となるだけではなく、ヨーロッパやウクライナにとっても利益となる。和平によって利益を得ることがないのはワシントンだけであり、このことが何故メデアが危機的な状況を緩和するような情報を歪曲しているのかの理由である。何故かと言うと、ワシントンは戦争を引き起こしたいのだ。戦争はロシアを小さな国々に分割させるひとつの手段であり、そうすればアジア地域の米国の軍事基地にとっては何らの脅威にもなり得ないと思われるからだ。戦争はワシントンがその関心をアジアへ向け、中国を包囲し、中国の成長を自分の制御下に置くための手段である。戦争はウクライナに米国の橋頭保を築くためのお膳立てであり、ロシアとヨーロッパがより大きな経済関係を築くことを妨げるためのものである。戦争は米国の利益をさらに前進させることから、戦争は米国の政策である。これが全てだ。
対立を抜きにしてはワシントンはその戦略的な、または、経済的な目的を達成することはできない。ホワイトハウスや米国務省ならびに大手メデアのすべてから発表される火傷を引き起こしそうな程に激烈な言葉の綾から判断すると、オバマは自分たちが望む反応が得られるまではモスクワを怒らせようとし続けると思われる。これこそが現在の状況がとてつもなく心配となる理由である。オデッサでの40人の死者がこの企みを引き起こすのに不十分であるとするならば、次回の企みは400人、4,000人、あるいは、400,000人となるかも知れない。どれだけの犠牲を見ようとも、どうでもいいのだ。しばらく前にマデレーン・オールブライト国務長官がイラクへの経済制裁が50万人の生命を奪ったとしても制裁を実施する価値があるのかと質問された時、彼女は何のためらいもなくこう言った。「それだけの犠牲が出たとしても価値があるとわれわれは思っている。」
如何なる犠牲が出てもだ。一言で言えば、これが米国の外交政策なのだ。
プーチンの言葉を続けよう。
「ウクライナで起こっていることに関する責任は今や憲法違反の政権奪取を行った人たち、ならびに、これらの行為を財政的、政治的に支援し、情報やその他の支援を彼らに提供し、現状をオデッサでの悲劇的な出来事にまで発展させた人たちにある。これらの出来事に関する映像を見ると、一言で言えば血が凍るような思いがする。」 
上記と同じことを喋っているオバマを想像してみて欲しい。オデッサで殺害された市民のことを気にかけているオバマを想像してみて欲しい。この想像は結構大きな拡大解釈であることに気付くのではないだろうか。この時点までに、オバマはプーチンと同じ映像を見ている。火事を避けようとして窓の外へ突進する人たちを彼は見た。通りでネオナチのならず者に殴り殺される犠牲者を彼は見た。火事で焼け焦げた人たちの遺体を彼は見た。しかしながら、彼は一言も述べようとはしなかった。最愛の家族を失った人たちに対して彼は悔やみの言葉さえもかけなかった。この出来事以来、彼は石のように押し黙っている。あたかも、この虐殺について何らかの言葉を発すると米国の政策を蝕むことになると信じているかのようだ。彼の無神経さはすべてが政治的計算から来ている。市民のことなどはどうでもいい。問題は政策だ。この点に関しては、オバマはオールブライトや米国政界の規制勢力の他の高官たちと何ら異なる点はない。彼らは皆同じだ。人の命は彼らにとっては何でもないのだ。問題となるのは彼らの選挙母体が抱いている目的だけなのだ。
プーチンは一体何を望んでいるのだろうか?
彼はこう言っている。「ロシアはキエフ政権に対してウクライナ南東部での軍事的な弾圧作戦を即刻中止するよう訴えたい。これは国内の政治的対立を解決するのに有効な手段ではない。むしろ、国内をさらに分断するだけだ。」 
「すべての軍事的ならびに懲罰的な作戦を中止する」って?言い換えれば、彼は和平を望んでいるのだ。
不幸なことには、オバマの取り巻きはプーチンの和平提案が提示される前に同提案を窒息させた。丁度、昨日のことだが、米国が支援するキエフ政権はウクライナ東部の異議を申したてる住民に対して弾圧を強化することを約束した。
国防大臣のアンドレイ・パルビーによるとこうだ。
「ドネツク地域にはテロリストや暴徒のグループが存在するが、テロリストに対する作戦は妨げられることもなく継続する。」
プーチンの和平提案に関して、操り人形のアルセニー・ヤツニュック首相は、「たわ言」と言って、それを素早く退けた。
そう、そんなわけだ。和平をするぞという危険な兆候をまんまと交わした。オバマのファシストの友人たちにはウクライナを分断する彼らの戦略に青信号を与え、何千人もの市民を殺害し、NATO軍をロシアの西側国境に配置させようということだ。
これが何故プーチンのスピーチがメデアによって隠ぺいされたのかの理由だ。あのスピーチは戦争を誘発させようとするワシントンの企みにはそぐわないのだ。

マイク・ウィトニーはワシントン州に在住。彼はHopeless: Barack Obama and the Politics of Illusion (AK Press)への寄稿者. Hopelessはキンドル版でも入手可能(Kindle edition)。彼へのメールはfergiewhitney@msn.comへどうぞ。

<引用終了> 

まさにおどろおどろしい内容だ。新たに冷戦が始まったとする論評は多数あるが、米国の戦略、あるいは、米国政府の深層心理をここまで詳細に記述した論評は稀だ。したがって、ここに掲載した引用記事は今ウクライナで起こっていることが何を意味するのかを理解する上で計り知れない価値を持っていると言えるのではないだろうか。
20121011日に「ふたりの大統領」というブログを掲載した。そこでは、米国のブッシュ(子)前大統領とアルゼンチンの故キルチネル大統領との間で交わされた会話をご紹介した。ブッシュ大統領は「経済を活性化させる最善の方法は戦争、米国は戦争をすることによって経済を成長させて来たんだ」と臆面もなく言ったのだそうだ。この言葉には米国トップの考え方が見事に凝縮されているような気がする。つまり、この言葉に米国の正体が見えてくるのだ。対テロ戦争のためにアフガニスタンに投入されている米国・NATOの軍は今年中には引き上げることになっている。この文脈で見ると、その後の軍産複合体の狙いは目下順調にウクライナで進行しているということになる。
また、米国の大手メデアが上記のようなていたらくでは、日本の大手メデアに多くを望むことは到底できそうにもない。それが日本のメデアの現実であると言えようか。 


参照:
1: ゴルバチョフ回想録下巻: ミハイル・ゴルバチョフ著、工藤精一郎・鈴木康雄訳、新潮社刊、1996
2U.S. Media Ignores Putin’s Peace Plan: By Mike Whitney, Information Clearing House, May/12/2014

 

 

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