こうして、ウクライナへのIMF融資は現実のものとなったが、あの時点からもうすでに5ヶ月になろうとしている。
IMF融資が決まった頃、ウクライナ政府はウクライナ東部の反政府派に対する「テロリスト殲滅作戦」を開始したばかりであった。あれから数カ月が経過した。9月8日の欧州安全保障協力機構の発表によると、MH17便撃墜による死者も含めて、全犠牲者数は3,000人を超すという。一時はかなり優勢であったものの、キエフ政権の軍事力による民族浄化作戦は失敗に終わり、9月5日、ノヴォロシアの代表者との間で停戦プロトコールが署名された。
この冬ロシアからの天然ガスの供給がストップするような事態が起こると、ウクライナでは産業界を始め一般消費者も非常に深刻な状況に追い込まれることは明らかだ。しかし、これはウクライナだけに限ったことではない。ウクライナを経由してロシア産天然ガスの供給を受けているEU各国も同様の可能性をはらんでいる。
EU政府のエネルギー担当コミッショナーの提案に基づいて、IMFからの融資を活用することによってウクライナ側は31億ドルをロシアへ支払い、ロシア側はウクライナへ50億立方メートルの天然ガスを供給するという草案が関係国のエネルギー担当大臣やガス会社の代表者の出席のもとで出来上がった。これは9月26日に行われたベルリンでの会議の結果である。ウクライナやロシアの代表はこの草案を持ち帰って自国のトップの承認を得なければならない。
こうして、ロシアとウクライナとの間での天然ガスの供給については、「代金を支払え」、「安くしろ」という終わりの見えないかけ引きは冬将軍の到来という現実の前で両当事国に何らかの譲歩を迫ることになったようである。
しかし、上記のようなウクライナ情勢についての描写は表面的なものに過ぎない。
最近のある記事
[注1] を読むと、このかけ引きの深層には米ロ間のおどろおどろしい地政学的な綱引きが見え隠れする。その背景を少しでも多く理解しない限り、ウクライナ情勢を正しく理解することは難しいのではないか。今日のブログでは読者の皆さんと一緒にその辺を探ってみたいと思う。
注:引用文書の中に施されている下線は小生が勝手に付け加えたもの。ご了承願いたい。
<引用開始>
2014年4月、独立広場での2月22日の大騒動後と言ってもまだ日が浅い頃、そして、5月2日のオデッサでの虐殺が起こる以前のことであったが、IMFはウクライナの暫定政権に対して170億ドルの融資を承認した。通常のIMFのやり方では当事国のIMFへの出資割当額の2倍を融資限度としているが、この融資は実に8倍にも相当する。
4ヶ月後の8月29日、ちょうどキエフ政府軍がウクライナ東部のドンバス地域で反政府派に対して旗色が悪化し始めた頃、内部資本逃避のまん延や国際収支の悪化はさておき、IMFはウクライナの内戦に関与する一方の当事者に対して最初の分割融資を行ったのである。返済能力に関しては何ら問題がないとするフィクションめいた見通しに根ざして、この融資はヘルニアの如きウクライナ通貨 [訳注:ウクライナ通貨の名称は「フリヴニャ」ですが、ここでは著者は音を合わせて「ヘルニア」と置き換えたものと判断されます。二度目の「ヘルニア」の使い方から著者の意図が推測できます] を長い間支え続け、新興財閥の銀行にとっては例のヘルニアがさらにそとへ飛び出してくる前に、すなわち、ユーロやドルでの価値が目減りする前に自分たちが抱えている金を速やかに西側の外貨口座へ移動させることができたのである。
今回の融資はIMFが米国の冷戦政策の道具としてどのように使われているかという現状を証明しているようなものだ。キエフ政府は東部の州を攻撃するための戦費としてこの融資を使った。融資条件は、あたかもそれがウクライナの財政を安定化させてくれるかのごとく、通常よく見られる緊縮予算を義務付けている。内戦で破壊された東部の州からはほとんど何の税収も受け取ることはできない。それらの東部の州では攻撃のほこ先となった電源や給水、病院などのインフラならびに民間住宅が破壊された。百万人近くの住民がロシアへ逃れた。それにもかかわらず、IMFの報道発表はこう述べている:「IMFは紛争が進行しているにもかかわらずキエフ政府が取り組んでいる経済改革を評価するものである。」[1] ウクライナの輸出の1/4は通常東部の州からのものであり、主としてロシアに向けて輸出される。しかし、キエフ政府はドンバスの工業地帯を砲・爆撃し、炭鉱は電源を喪失したままとなっている。
ギリシャに対して実施されたIMF史上で最大規模となった470億ドルの融資は大失敗に終わり、50頁にもなる内部文書がウオール・ストリート・ジャーナルにリークされた。それによると、「IMFが処方した緊縮財政がギリシャの経済に如何に悪さをするかという点には極めて過小評価されていた」のである。今回のウクライナへの融資はギリシャへの融資の際にIMFの経済専門家たちの間で起こった意見の衝突を上回るほどの状況を招くことは必至である。経済専門の職員たちはギリシャ国債を極めて多く抱えている自国の銀行を何とか防御したいとするEU各国からの圧力があったことを指摘し、非難した。IMFは、当初、2009年から2012年の経済生産は5.5%のマイナスになると推算した。しかし、ギリシャの実際の国内総生産はマイナス17%を記録した。IMFの計画書は2012年の失業率は15%になると推算した。実際には、これは25%となった。[2]
IMFの内部で規定されている合意に関する条項は、払い戻しができないことが明白な国に対してはIMFの融資を禁じている。この条項は昨年(2013年)の10月にワシントンで行われた年次総会において、「借金を払い戻すことができない国に対して」融資を行うことはIMFの規則を破るものであるとして、経済専門家たちはIMF上層部の指示を非難した。実際面では、当事国の政府が自国の銀行や国債保有者を救済するために如何に多くの融資を必要としていても、より厳しい緊縮財政を実行することによって返済は確実であると見なされ、悪化することはないと言わんばかりに、IMFは話を前へ進めるだけだ。こうして、ウクライナはギリシャでの状況の二の舞を演ずることになりそうだ。ある職員は、昨年、彼らが行った「債務の持続可能性に関する分析」は「冗談以外の何物でもない」と言い、欧州委員会の職員は「子供たちを寝かしつけるおとぎ話」のようだと評し、ギリシャ財務省の職員は「科学的にはまったく馬鹿げている」と言い切った。[3]
ジョン・ヘルマーのウェブサイト「Dances with Bears」によると、「IMFが5月始めにウクライナ財務省に支払った32億ドルのうち、31億ドルが8月の中旬までに海外への支払いで消えてしまった。」[4]
これは次のような疑問を提起する。つまり、このIMF融資は法的な意味では軍事政権のために準備され、政府内部の一部の者によって着服されていることから、これは「不当債務」に相当するのではないのかという懸念だ
[訳注:「odious
debt」をここでは「不当債務」と訳していますが、「汚い債務」という訳語もあるようです]。IMFは中央銀行が資金をコングロマリットの一部として国内の銀行を所有する泥棒政治家へ回している(さらには、革命広場でのクーデターを背後から操っていた政治家のためにウクライナ東部に対して実施されている政府の軍事行動への資金供給も行っている)ことを事実として認めた。「国債と銀行への貸付金の割合は2010年末にはウクライナ国立銀行の総資産の28%であったものが、2014年4月末には56%となった。」 財政の状況は悪化の一途を辿っており、支払い不能を避けるためにはウクライナの主要銀行はIMFの170億ドルの融資に加えてさらに50億ドルの追加融資が必要となるだろうと報じられている。
10月に予定されている選挙の準備に関しては、東部の州は投票を実施する条件下にはなく、暫定政府は共産党を禁止し、政府が嫌うようなことを報道するテレビ局やメデイア(主としてロシア語によるメデイア)を閉鎖した。内戦を主導してきた党はその地盤である西部の州においてさえも支持率は低く(9月始めの調査)、私設の武装兵力を擁するコロモイスキーを指導者として極右派やそれと同盟関係を保っているネオ・ナチによるクーデターが起こるのではないかとの懸念が浮上している。
戦争で敗れた場合は、政権の交替となることが多い。クーデターの亡霊がまたもやキエフの街頭や広場をうろつきまわっている。国家警備隊の生き残りの兵隊たちはポロシェンコに銃を向けると脅しをかけている。三回目のマイダン革命の動きが形成されつつあり、これは現在の政権を一掃しようとするものだ。これらのマイダン革命の扇動者はコロモイスキーの資金によって創設された私的懲罰部隊出身の過激派である。明らかに、この振興財閥(コロモイスキー)は反ポロシェンコ活動を展開している。彼(ポロシェンコ)の下に居るとは言え、コロモイスキーは強力な私兵を有しており、クーデターを引き起こすことが可能だ。[5]
IMFならびに米国主導のウクライナの民営化計画:
ウクライナの中心的な課題は同国の債務がドルまたはユーロ建てであることだ。IMFへの返済を行うに当たっては、ウクライナとしてはひとつの方法しか残されてはいない。それは天然ガスの採掘権を筆頭として天然資源や農地を売りに出すことによって為替レートを上昇させることだ。こうして、闇の人物であるコロモイスキーが再登場してくる。彼は米国の支援を受けてもいる。最近導入された上院の2277号法案は、ウクライナやモルドバならびにグルジアにおける原油・天然ガス開発に要する融資は米国国際開発庁が保証する旨を指示している。
ウクライナの中心的な課題は同国の債務がドルまたはユーロ建てであることだ。IMFへの返済を行うに当たっては、ウクライナとしてはひとつの方法しか残されてはいない。それは天然ガスの採掘権を筆頭として天然資源や農地を売りに出すことによって為替レートを上昇させることだ。こうして、闇の人物であるコロモイスキーが再登場してくる。彼は米国の支援を受けてもいる。最近導入された上院の2277号法案は、ウクライナやモルドバならびにグルジアにおける原油・天然ガス開発に要する融資は米国国際開発庁が保証する旨を指示している。
ジョー・バイデン副大統領の子息、R.ハンター・バイデンはキプロスに本拠を置くウクライナの石油・ガス会社「ブリスマ」の重役に最近就任した。同社はソビエト時代後のやり手として長く人気を保っている。また、この会社はフラッキング用地として見込まれている土地を軍事用に転換する上でもキエフ政府に対しては十分な影響力を持っている。「ウクライナ東部のスラビアンスクの町ではウクライナ軍兵士がシェール・ガス用生産設備の設置に協力をしている。地域住民の発言によると、この地域は彼らが3か月間も連続して爆撃したり、砲撃したりしてきた地域であるとノヴォロシア・ニュース社がそのウェブサイト上で報告している。ウクライナ軍による防護を受けながら、民間人が掘削リグを設置する準備をしている。さらなる装置が運び込まれてくると彼らは言っている。また、将来掘削が行われる地域はウクライナ軍が包囲をしているとのことだ。」[6]
ある報告書によると、「親ロ派」とは天然ガスを鷲掴みにすることに反対する立場を指すとまで言っている:
ユゾフカ・シェールガス鉱区の中心地に位置するスラビアンスクの住民は鉱区の開発に反対しており、何回も反対運動を行ってきた。この課題については、住民たちは住民投票の実施を要求している。この動きは国内のシェールガスの開発に反対するチェコ共和国やオランダあるいはフランスの地域住民と同様だ。これらの国だけではなく、ドイツにおいても然りだ。ドイツでは2週間前に地下水の汚染に対する懸念があることからシェールガスの開発は向こう7年間棚上げとした。[7]
米国とIMFによる支援はヨーロッパがロシアの天然ガスに依存することを軽減し、ロシアの国際収支を悪化させようとする意図を持っているようである。これは天然ガスからの収入が減少すると、ロシアの冷戦継続能力を低減することができるという考え方だ。しかし、この戦略は潜在的には米国にとっては破廉恥なコロモイスキーとの同盟関係を必要とすることになる。コロモイスキーはプリヴァト銀行を介してブリスマ社の大手所有者でもあると報告されており、彼はウクライナ東部での親露派に対する民族浄化に従事した残酷な民兵組織にも関与している。[8] 「ロシア人集団」という用語はウクライナ経済の富である天然資源を民営化しようとする泥棒政治家のフラッキング計画に反対する地域住民を指す言葉として用いられている。
ドネツクではキエフ政府軍によって電力や飲料水の設備が破壊されたが、それらの復旧には膨大な費用が必要となることだろう。ドネツク地域はこれから冬を迎える。キエフ政府はウクライナ東部では年金の支払いを中断したままであり、他の収入の道も閉ざされたままである。しかし、これは分離派の闘志をさらに強めるだけである。革命広場での出来事の前においてさえも、ドイツや他のヨーロッパ各国で反対が行われていたように、地域住民はフラッキングを阻止しようとしていた。
もうひとつ反対の対象となっているのはウクライナの泥棒政治家たちや特にモンサント社などの外国の私企業が行おうとしている土地や他の資産の私有化である。モンサントはウクライナでの遺伝子組み換え穀物(GMO)プロジェクトに投資をしており、ヨーロッパ諸国がGMOに抵抗を示した場合ウクライナをヨーロッパのアキレス腱に仕立てようとしている。オークランド・インステイチュートが公表した「西側に寄り添って歩む:ウクライナ紛争における世銀とIMF」(原題:“Walking on the West Side: the World Bank and the IMF in
the Ukraine Conflict”)と題された最近の報告によると、IMFと世銀はウクライナ政府に対して米国やその他の外国企業による農地の使用権や販売に関する規制を緩和するよう求めている。世銀の国際金融公社(IFC)はウクライナに対して「ウクライナ法や政府命令に見られる食品の証明に関する規定を破棄する」よう求めており、さらには、殺虫剤や添加剤等に関する規則による「ビジネスには不必要なコストを避ける」ようにすることを求めている。[9]
ロシアやヨーロッパ諸国は何れも遺伝子操作食品を承認してはいない。ウクライナがGMO作物を輸出しようとする場合、それが可能となるのは米国の外交官がヨーロッパに圧力を掛けて、GMO作物が含まれていることを示すラベル表示義務を排除した場合だけに限られるだろう。しかし、これは、米国がロシアに対して経済制裁を加えるように圧力を掛けた際とほとんど同じ程度に、米国とNATOに加盟しているヨーロッパ諸国との間には新たに別の楔が打ち込まれることになる。
ウクライナがロシアへの支払いをせずに済ませようとする米国の策略:
IMF融資おける「内部的矛盾」はロシア産天然ガスに対するウクライナ側の滞納金額と今冬必要となるガス代金は全面的にロシア側に負っているという点であり、それとならんで、ロシアが購入したウクライナ政府のユーロ債はウクライナの債務がGDPの60%を越した場合は「クロスデフォルト条項」が適用される点にある。これに対する米国の冷戦戦略的な対応策はIMFやNATOによる借り入れの「再編」によってロシアへの支払いを最小限に抑えるための法的な論拠を導き出そうというものだ。ピーターソン国際経済研究所はウクライナに対する債権をロシアからはく奪するという元財務省職員のアンナ・ゲルパーンの考えを提案した。「たったひとつの方策でウクライナを30億ドルの債務から解放することが可能だ」と彼女は言う。英国議会はロシアの政府系ファンドとの間で取り決められた30億ドルの国債は「対外援助」であって、実際には法的執行に値するような商業的な融資ではないとする法律を通過させることができる。「英国はロシアが貸し出した金に対して英国法を執行することを拒否することが可能であり」、そうすることによって、「この債務が不履行となった場合、債権者の救済をはく奪することができる。」[10]
IMF融資おける「内部的矛盾」はロシア産天然ガスに対するウクライナ側の滞納金額と今冬必要となるガス代金は全面的にロシア側に負っているという点であり、それとならんで、ロシアが購入したウクライナ政府のユーロ債はウクライナの債務がGDPの60%を越した場合は「クロスデフォルト条項」が適用される点にある。これに対する米国の冷戦戦略的な対応策はIMFやNATOによる借り入れの「再編」によってロシアへの支払いを最小限に抑えるための法的な論拠を導き出そうというものだ。ピーターソン国際経済研究所はウクライナに対する債権をロシアからはく奪するという元財務省職員のアンナ・ゲルパーンの考えを提案した。「たったひとつの方策でウクライナを30億ドルの債務から解放することが可能だ」と彼女は言う。英国議会はロシアの政府系ファンドとの間で取り決められた30億ドルの国債は「対外援助」であって、実際には法的執行に値するような商業的な融資ではないとする法律を通過させることができる。「英国はロシアが貸し出した金に対して英国法を執行することを拒否することが可能であり」、そうすることによって、「この債務が不履行となった場合、債権者の救済をはく奪することができる。」[10]
この策略の問題点は、ロシアの政府系ファンドから貸し出されたウクライナのユーロ債には厳格な金融上の保護策が講じられており、それによると、ウクライナの総債務はGDPの60%を上限とするとしていることだ。総債務がこの水準を超すと、ロシアは全額を直ちに返済するよう請求する権利が与えられる。これは、さらには、ウクライナの他の対外債務にクロス・デフォルトを引き起こす。
最近、2013年末のことではあるが、ウクライナの債務は40%の水準であると公表された。その額は730憶ドルで、これはまだまだ取り扱いが可能な水準である。しかし、ウクライナの格付けは「B+」であって、これは少なくとも「AA」の格付けを要求するロシアの政府系ファンドの条件を満たすことはできない。そこで、ロシアは慎重な貸し付けの方法を採用した。この投資が一般目的の援助からは明確に一線を画すように保護条項を組み込んだのである。対外援助とは違って、このロシアの融資はロシアに「他のウクライナ債権にも不履行の連鎖を引き起こすだけのパワーを与え、将来の債権の再編ではロシアは大きな投票権を得ることになる。これは、国債はそのすべてがお互いに連結しているからである。ある国債が不履行になると、他のすべての国債も不履行となる。」
米国政府が海外援助と見なすものであっても、典型的には、返済を要する融資の形態を採用し、その国の通貨によるファンドと合致することが求められる。例えば、食品輸出公法480号である。米議会は、ケネデイー政権の当時、すでに、米国の国際収支や特に米国からの農産物の輸出はそのような「援助」から恩恵を受けなければならないと主張している。[11]
内戦を継続するには大きな経費がかかり、ウクライナ通貨は崩壊しつつある。闇市場での為替相場はすでに3分の1に下落したと報告されている。(泥棒政治家たちがIMFが支えている為替レートで自分の金を国外へ持ち出した後になって)この現状が公に認められると、ウクライナのGDPに対する債務の比率は60%の閾値を超して、ロシアに対する債務は直ちに支払い要となる。
「政府は、通常、借金を取り立てるために他の政府を裁判所に訴えるようなことはしない」と、ゲルパーン教授は指摘する。しかし、万が一訴訟が起こった場合には(債務者は複数の債権者に同率で、平等に返済しなければならないという)「パリパス規定」が存在することから、特定の債務だけを選択的に取り出して、その返済義務を排除することは禁じられている。彼女は、IMFやNATOからの融資がロシアの債権保有者やガス代金の延滞金のために支払われることを防ぐ別の可能性を提案している。ウクライナはロシアの融資が「不当債務」であると主張できるというものだ。この考え方は「独裁的な支配者が政権から追われた後末永く将来の世代に負担をかけるような契約に署名をしたような場合」に適用される。「ヤヌコヴィッチ政権の下で発生した債務には責任を負わないという立場は腐敗した支配者への融資を思いとどまらせることになる」と彼女は付け加えている。
ここには、しかしながら、二重基準が見られる。ウクライナでは1991年以降歴代の政権が資源や財源を私物化する政治家によって運営されてきたが、彼女はヤヌコヴィッチだけを取り出して、彼を邪悪な政治家であるとしている。あたかも彼の前任者や後任者は皆が清廉潔癖であるかのように…
しかし、もっと大きな危険はウクライナの借金を「不当債務」とみなそうとしている点だ。これは、軍事的な独裁指導者や泥棒政治家に対して支援を続けている米国には裏目に出る可能性がある。
泥棒政治家の銀行を支援し、ロシアに接する東部の州において冷戦時の資産を鷲掴みにしようとする行為とはまったく対照的に、ロシアの政府系ファンドに対するウクライナ国債の売却やロシア産天然ガスの購入の契約は民主的に選出された政府によって署名されたものだ。また、天然ガスの価格は国内の産業や一般家庭の消費用には助成金を提供して、支援をするというものだ。ギリシャの事例とは異なって、融資を承認するか否かを決める住民投票を阻止するために国家指導者を排除したわけではない。もしもウクライナの債務を「不当である」、あるいは、「汚い」と見なすならば、アイルランドに対するEUからの融資や「コンドル作戦」の下で設置されたアルゼンチン政府の将軍たちに対する米国の融資はいったい何だったのか? ゲルパーンは、不当債務の原則を行使することによってウクライナ政府が国債の支払いを拒否した場合、法的、政治的、ならびに、市場における危険を招くかも知れないということを認めている。これらの危険はすべてがロシアの手中に握られてしまうことになろう。本当に、そうなるかも!
ロシアを痛みつけるのにもっとも効果があると見られる方策は英国議会が「ヤヌコヴィッチ融資」を無効にする法律を通過させることに尽きる。制裁をするためのこのような法律は、ただ単にロシアがウクライナの資産を鷲掴みにする権利を否定することによって、「市場において債権を売却するロシアの権利」を損なうことになる。しかしながら、こんなことをした場合、ロンドンが謳歌している国際金融センターの指導的な立場は大きく毀損されることにつながるのではないか。
ゲルパーンは論文の結論でこう提起している:普遍的な原則として、「軍事的ならびに政治的な目的を推進するために用いられた契約には裁判所による強制執行の要求を認めるべきではない。」
私はこの提案がとても気に入った!
「英国や米国は両者とも過去においては借金を取り立てるため、あるいは、弱小国に影響力を行使するためには武力を用いて来たという事実がある。その事実からすると、明らかに、これは厄介な問題を引き起こすことになる。彼らが同じことを実行して、ロシアを罰すること自体、筋が通っているとでも言えるのか?」 政府間の借金はそのほとんどが軍事的または政治的な性格を帯びていると言えるのではないか?この論理に基づくと、ほとんどの政府間の借金は帳消しにするべきではないのか?ロシアについてだけは支払いを行わないとするゲルパーンの主張は、逆に、ウクライナのIMFから得た借金ならびにその後成立したNATOからの借金を法的に無効にする恰好の根拠を与えることになるのではないか?何と言っても、これらの融資の条件を見ると、自国の天然資源や土地の権利は外国の投資家のために強制的に放棄するとしているのだから。
ゲルパーン教授の法的見解は表面的にはロシアを経済的に孤立化させるための根拠を見出そうとするものだ。今まで検証してきたように、それを実行しようとすると、法的にも政治的にも困難がつきまとうという極めて皮肉な効果を示すことになる。もしもウクライナがIMFまたはEUから借金をして、その後ウクライナ東部の州が分離した場合はいったい誰が借金を支払うのか?もちろん、それは武装集団を駆使してクーデターを起こし、その指導者たちから武力による攻撃を受けていた東部の分離州ではない。
われわれは、今月は、来月に開催が予定されているIMFの年次会合のための準備についてさまざまな金融ニュースに接することになる:ウクライナへの融資はIMFの信頼性をいったいどこへ位置付けることになるのだろうか?
脚注:
[1] Reuters, “IMF approves loan tranche for Ukraine, warns
of risks,” Aug/29/2014. http://www.reuters.com/article/2014/08/29/us-ukraine-crisis-imf-idUSKBN0GT23Z20140829
[4] John Helmer, “Ukraine Takes Another
$1.39 Billion from International Monetary Fund–$3 Billion in IMF Cash Already
Sent Offshore–Insiders Suspected in Heist,” Dances with Bears, Sep/03/2014.
[5] Marina Perevozkina and Artur Avakov, Moskovskiy
Komsomolets, Sep/04/2014, from Johnson’s Russia List – unlisted, Sep/06/2014 #14. They add
that Putin has ordered Kolomoyskyy’s property in Crimea and Moscow to be
sequestered.
[6] PEU report, July 27, 2014, “USAID to Help Young Biden: The Burisma File,” 「Economic Policy」誌の記事を引用。同記事は次のことを伝えている:「天然ガスを動機とした動きをさらに支えているのはジョー・バイデン米副大統領である。バイデン副大統領は、2月21日、ヤヌコヴィッチ大統領に警察官を撤退させるように要求した。この警察官の撤退がネオ・ナチ武装集団に道を開け、米国が支援するクーデターにまで発展したのである。あれから3か月後、ウクライナでは最大級の民間天然ガス企業であるブリスマ・ホールデイングはバイデンの息子、ハンター・バイデンをその重役に指名した。」
[7] Tyler Durden
“Biden’s son a director in shale gas firm set to drill in East
Ukraine,” Truthstream Media, Jul/27/2014, Zero Hedge.
[10] Anna Gelpern, “Debt Sanctions Can Help Ukraine and Fill a Gap in the
International Financial System,” Peterson Institute for International
Economics, Policy Brief PB14-20, August 2014.
[11] 私は次の2冊の書籍を通じて米国の自己本位振りを記録として残したい:「The
Myth of Aid」 (Orbis Books 1970)、ならびに、「Super
Imperialism」 (1972)。ゲルパーンはロシアがウクライナを支配しようとしていると非難している。それはあたかもIMFや金融投資家のほとんどはそのようなことはしないと言わんばかりだ。US/NATOの反ロシア政策はこういった二重基準で満たされており、ウクライナに対するIMF融資にも反映されている。
<引用終了>
この記事を読むことによって、米国の世界に対する覇権の維持は単に軍事的な優位性だけによって達成されているのではなく、経済戦争や情報戦争あるいはサイバー戦争も非常に大きな影響力を持っているという現実を理解することができる。著者は「今回のIMF融資はIMFが米国の冷戦政策の道具としてどのように使われているかという現状を証明しているようなものだ」と指摘している。
「不当債務」という考え方を採用することによってウクライナ国債に関するロシアへの支払いを無効にしたらどうかという提案が実際に存在するとのことだ。ところが、この不当債務を実際の対応策として取り上げようとすると、米国やEU自体の信頼性が大きく揺らぐことになるかも知れない…、いわゆる、ブーメラン現象的な状況が現出する可能性があると指摘している。要するに、「不当債務」という考え方を採用することは米国の対外政策に見られる典型的な二重基準の適用になるとして鋭い批判の目を向けている。西側は、まさに、ロシアをやり込めるためとあらばありとあらゆる手段を動員し、もうなり振りも構わないという感じである。
この記事の著者、マイケル・ハドソンは今年の4月23日に掲載した「ウクライナのキエフで死者を出した発砲事件には反政府派が関与 - ドイツの公共テレビ放送」と題するブログでも登場している。あのブログには非常に多くのアクセスがあった。今でさえもアクセスが続いていることから、この著者をご記憶の方も多いのではないかと思う。ミズーリ州のキャンサス・シテイー大学で経済学の分野での研究を専門としている教授である。
独断ではあるが、日本の主流メデイアを読んでいるだけではここまではなかなか情報を得ることは出来そうもないと感じた。日本では英語圏で入手可能な情報が決定的に不足しているのではないかという気がする。それとも、これは自分が通常踏み込むことがない分野の情報に接したことから非常に新鮮な印象を抱くことになったという単純な理由から来たものだろうか。はっきりとは言えないが、少なくとも、素人である私にはそう感じられた次第だ。
参照:
注1: Losing
Credibility: The IMF’s New Cold War Loan to Ukraine: By Michael Hudson, Sep/09/2014, www.counterpunch.org/.../the-imfs-new-cold-war-loan-to-ukr...
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