2018年12月10日月曜日

人身売買のために連れ出された子供を保護することはその子の人生を救ってやるようなものだ

インドでは幼い子供たちが「親切な叔父さん」に連れ出されて、大都市の工場で安い労働力として働かされたり、売春婦として売りとばされることが後を絶たない。子供たちの家庭が貧困から抜け出せず、一時的な報酬につられて子供たちを手放す親が少なくないからだ。

日本でも貧困は大きな試練であった。連続テレビ小説に登場する「おしん」は貧困の中でも逞しく生き、周囲から学び、成長して行った。そんなひとりの女性の姿が共感を呼んで、このテレビドラマは68ヵ国・地域で放映されたという。子供たちを襲う貧困は、時に、とんでもない結果をもたらし、その子が歩む人生を誤らせてしまうことが多い。

インドでは今日でも貧困が暗い影を落としている。ここに、「人身売買のために連れ出された子供を保護することはその子の人生を救ってやるようなものだ」と題された記事がある [注1]。子供の人身売買はインドにおける極めて今日的な社会問題のひとつである。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。

なお、人名の読み方については間違いがたくさんあるだろうと推測しています。ご容赦ください。


<引用開始>

人身売買のために連れ出され、オールドデリー駅を通過するおびただしい数の子供たちを識別し、保護してやれる機会は一瞬のうちに遠のいてしまう。けれども、インド政府がこの取り組みを強化するに連れて、本格的な成果が観察できるようになった。


Photo-1: オールドデリー鉄道駅に設置されたチャイルドライン・キオスク。鉄道の職員やポーターがここのメンバーだ。写真提供:Amrit Dylan 

毎日約50万人がこのオールドデリー駅を通過する。同駅のアーチ型の正面玄関から出て来る人々の中には子供たちがいる。彼らを率いる大人の付添人は彼らを劣悪な条件で働かせる工場や売春宿へと売り飛ばす。列車が到着すると、プラットホームでは毎日250人ものそういった類の子供たちが無数の一般乗降客に紛れて、この駅を通過する。アジシュにとっては、連れ出されてきた子供たちが駅を離れ、外部の雑踏の中に紛れ込んでしまう前の数分間が勝負どころだ。

驚いたことには、このほんの僅かな時間だけがチャイルドライン・インディア基金で全力を奮っている彼自身と彼のチームが活用できる唯一の機会なのである。毎月、90人から100人もの子供たちが人身売買業者の軛から解放されている。

この日、アジシュは11番線に入って来るカルカッタからの「カールカーメール」に狙いを定めた。その列車からひとりの乗客がチャイルドラインに電話し、彼の客室に同乗している4人の男の子たちは場違いな感じで、えらく不幸せな様子だと伝えてきた。到着駅に本拠を置くチャイルドラインのチームがその列車に乗り込んで、子供たちを見定め、彼らと一緒に旅行をしてきた「叔父さん」に近づくと、その「叔父さん」は人込みをかき分けて、逃げてしまった。

アジシュは子供たちを一番線のホームにあるチャイルドラインのオフィスに連れて行き、座らせ、ゆっくりとお茶やビスケットを与えた。 

「叔父さんは僕がいい仕事にありついて、ジーンズを無料で貰えるようになると両親に言っていた」と10歳のアニル・パスワンが言った。「そして、毎月両親に送金するのに十分な給料を稼げる。僕の両親はその金で弟や妹たちのために食糧を買えるんだ。」  

アジシュは、毎日、これと同じような話を聞いている。現実には、「叔父さん」は男の子を雇用主に売り飛ばし、この男の子は道路脇の食料品の露店または工場で、あるいは、低賃金で衣料品を製造する業者の汚らしい作業場で毎日12~14時間も奴隷のようにこき使われるのだ。

インド鉄道は毎日2千5百万人を輸送する。しかし、同鉄道は人身売買のために用いられている中核的な舞台でもある。

3年前に婦人・子供省の肝いりでチャイルドライン基金が設立され、同基金は移動中の子供たちを保護することを目的にインド鉄道と協力することになった。このプロジェクトは鉄道の職員を訓練することから始まった。彼らは誰よりも早く子供たちに関心を払い、何かおかしなことがないかどうかを見極めることができるのだ。

「われわれは全鉄道網を対象に訓練を行っている。(列車が停止してから列車に乗り込む)ポーター、検札係や食事を配給する係員、プラットホームの職員、プラットホーム上の売子、清掃員、等を含めて、皆を訓練した。誰もが警戒態勢を取り、何らかの予兆を見逃さないようにした。これこそが機を逸することなく、移動中の子供たちを保護する唯一の方法だ」と、同基金の理事長を務めるアンジャイアー・パンディリ博士は説明する。


Photo-2: フェースブック/ツイッター/ピンタレスト。オールドデリー駅に設置されたチャイルドライン・インディアのオフィスにおけるアジシュ。写真提供:Amrit Dhillon

鉄道職員は意気消沈し混乱しきった子供たちや彼らに付き添っている大人とは違ってえらくみすぼらしい衣服を身に着けた子供たち、あるいは、かなり違った方言を喋っている子供たち、何処へ行くのかという質問に対して非常に限定的な答えしかできず、それを繰り返したり、曖昧な返事しかできない子供たちを特定し、一行の大人と子供たちとの間に観察される不釣り合いな様子を報告するよう訓練を受ける。


Photo-3: ソサイエティ・ウィークリーをどうぞ。これは公共サービス担当職員のためのニューズレター。

ニーラジ・カポーアは1番線ホームでキオスクを運営し、本や新聞を売っている。彼が電話をしてきた。「いったん兆候を理解しさえすれば、人身売買のために連れ出された子供たちを見い出すことはそれ程難しいことじゃない。以前は関心を払っていなかっただけだ。前はこの問題がこんなにも深刻であるとはまったく考えもしなかった」と、彼は言う。 

国立刑事犯罪記録所によると、2016年にはインド国内で8,132件の人身売買が報告された。これは2015年の6,877件から18パーセントもの増加であった。

職員は別としても、一般大衆もこの問題に関心を示した。列車やプラットホームには20万枚ものポスターが掲載され、チャイルドライン・ヘルプラインの電話番号が示されている。さらに、鉄道当局は飲料水のボトルや使い捨てのお茶のカップにも電話番号を記載した。主要な列車内や駅では拡声装置を用いて誘拐された子供たちや連れ出された子供たちに気を配るよう呼び掛けている。

「反応は驚くほどであった。何か怪しいと感じた乗客から毎日のように何百回もの電話があった。また、人身売買のギャング組織のメンバーからで、報酬を払って貰えなかったことに対して恨みを抱くメンバーからの電話もあった。つまり、他のメンバーについてのたれ込みである」と、チャイルドラインの地方組織を率いるヒーヌ・シンは言う。

場所柄から見てリスクが高い83カ所の駅にチャイルドライン・キオスクが設置された。毎日24時間にわたって運営し、何人もの職員を配置した。発見されることを避けるために人身売買業者は夜行列車を多用し始めた。3月までには、さらに75の駅でチャイルドライン・キオスクが開設される予定だ。 

「われわれのプロジェクトはまだ先が長い。駅の総数は8,000もあって、その中で約1,000の駅が高リスクだ。つまり、それらは子供たちを送り込もうとする大都市に繋がる主要な接続駅だ。われわれにはどの駅が人身売買用の回廊となっているかほぼ分かっている」と、パンディリは言う。

当面の成果に彼は満足している。2015年以降、総勢で48,000人以上もの子供たちを保護したのである。カルカッタのハウラー駅だけでも、月に150人もの子供たちが保護されている。チャイルドラインの推測によると、これらの子供たちの約40パーセントは人身売買のために連れ出されたもので、残りは父親がアルコール中毒であるとか、関心を寄せてくれない継母といった家庭内の問題からの逃避が原因である。あるいは、子供たちのふざけた行為が悪い結果をもたらしたというケースもある。しかし、後者の場合であっても、すっかり途方に暮れ、迷子になっていると見なされると、彼らは鋭い顔つきのギャングや人身売買業者の餌食となって、家へ帰って来ることはなくなってしまうだろう。

アジシュの仕事のひとつは鉄道駅で子供たちをどのように扱うべきかについて鉄道会社の職員を訓練することである。決して焦らず、優しく、きめ細やかな扱いをすることが必要だ。本当の状況を把握するには探偵のような技を必要とする。そればかりではなく、子供自身が安心して本当のことを話してくれるまでじっと待ってやる辛抱強さも必要である、とアジシュは言う。

「子供たちが喋る嘘は丁寧により分けなければならない。叔父さんは自分自身に関しては子供たちや両親を助けてやることができる善良な人間だと子供たちに言い含めている。そこへわれわれが現れ、君たちの叔父さんは悪い人間だとわれわれが言う。子供たちにとってはわれわれを信じ始めるまでには何日もかかるのだ」と、彼は言う。 

2~3日前、立派な電気屋さんになれるように訓練を受けると言われていた6人の子供たちがチャイルドラインのオフィスで座っていた。彼らは放心したような表情で、ソフトドリンクを飲もうとはせず、ビスケットを食べようともしなかった。涙がこぼれるのをじっと堪えているかのようであった。アジシュがデリーから2,000キロも離れているグワハティからのアヴァド・アッサム急行に乗り込み、彼らを連れ出した人物を逮捕した。

子供たちのひとりが泣いているのをポーターが発見して、彼はアジシュへ電話をした。鉄道警備隊にはプラットホームで待機するように告げ、アジシュと彼のチームは大急ぎで列車に乗り込んだ。彼らはチャイルドラインによって訓練を受けているとは言え、彼らが身に着けている制服は子供たちを怖がらせることが多い。

アジシュは年齢が13歳前後の少女に手こずらされた思い出がある。その少女は職業紹介所で女中として働くか、場合によっては売春宿へ売られるところであった。彼女は3日間にもわたって自分の名前や年齢を偽っていた。人身売買屋はもしも彼女が誰かに本当のことを喋ったりしたら彼女の両親は拷問を受け、彼女自身も刑務所へ送り込まれるぞ、と脅しをかけていたのだ。

「中には連れ出されるまえに拷問を受けて、彼らを連れ出した人物は本当の叔父さんだと言い張る子供もいる。また、驚きのあまりすっかり混乱してしまう子供もいる。タジマハールはまったく別の都市にあることも知らずに、タジマハールを見学しに来たという子供もいれば、まったく季節外れであることも知らないで、ディーワリーのお祭りにやって来たと言う子供もいる」と、アジシュが現状を説明してくれた。

駅から出た後にたっぷりと食事を取り、安心していられる周囲の様子を眺めて、すでに保護された他の子供たちが丁寧に扱われているのを実際に見て、子供たちは警戒心を弱め始める。その後、子供たちは近くにある収容施設へ案内される。「通常、年長の子供がわれわれを信じ、われわれに本当の話をしようと決心すると、他の子供たちもそうしてもいいんだ、そうしても安心なんだと自分自身に言い聞かせるようになる」と、彼は言う。 


Photo-4:  フェースブック/ツイッター/ピンタレスト。 オールドデリー駅のプラットホームで子供たちを調べているアジシュ。写真提供:Amrit Dhillon

収容施設に到着すると、次の行動を決めるために政府の福祉委員会が子供を評価する。多くの場合、第一の目標は彼らを自分たちの家族と合流させることにある。両親が貧困のあまりに子供を人身売買業者に売り飛ばした場合には、その地域のNGOを介して子供をその家庭に送り届け、再会を果たした後も様子を観察し続ける。彼らがどうして悪い行いをしたのかについて両親の相談に乗り、再びこのような事態を引き起こした場合には罰せられることになると警告をする。

最近人身売買業者が始めた計略を予測して、チャイルドライン・チームは彼らの一歩先へ進まなければならない。たとえば、捕らえられるのを回避するために、彼らはオールドデリーの手前の小さな駅で列車を降り、そこからはバスを使い始めたのである。


Photo-5: インド鉄道の駅から拉致され、消息不明となった子供たち

「以前、彼らは自分の身分証明書を検札係に提示することが求められない一般客用の客室を使っていたものだ。明らかに、そこはわれわれにとっては見逃せない場所だ。しかし、今は、彼らは疑いをかけられないようにもっと高額の客室を使っている」と、検札係を務めるバグワト・プラサド・シャーマは言う。

アジシュにとっては、彼らの仕事がもたらす成果は数字になってはっきりと現れて来ている。2015年以前は、鉄道警備隊はオールドデリー駅で月に2~3人の子供を保護していた。今は、その数値は約100人にもなっている。

「彼らを保護してやれると、彼らの全生涯を救ってやったような気分になる。彼らの教育や健康、家庭生活、そして、もちろん、彼らの子供時代のすべてをだ」と彼は言う。 

<引用終了>


これで、全文の仮訳が終了した。

どこの社会にも暗黒部分はある。子供の人身売買は家庭の貧困に端を発しており、これを絶滅するには長期間の忍耐深い取り組みが必要であることは明らかだ。

大学の医学部に掲示されている人骨の標本は大人もあれば子供もある。ある国の話であるが、貧困のあまりに子供を人骨標本のために売ってしまった親のことを読んだことがある。しかも、結構最近の話だ。このようなとんでもないことをしてしまう親は決して許せるものではないが、この悲惨な出来事の背景には子供の人骨を密売するネットワークが存在している。これは上記のインド鉄道を使って大都市に子供を連れ出し、人身売買をする業者とまったく同じ構図である。悲しい現実である。

高リスクの駅が1,000カ所もあって、キオスクが設置された駅はまだ83カ所とのこと。このプロジェクトはまだ始まったばかりだと言える。子供たちを待ち受ける悲惨な現実を解決しようとして、チャイルドラインのプロジェクトを立ち上げたインド社会に賛意を送りたい。子供たちの人生そのものを救うためにも、より以上の成果を上げて貰いたいものだ。




参照:

注1: 'When you rescue a trafficked child, it’s like saving a life': By Amrit Dhillon in New Delhy, HUMANITY UNITED, Nov/26/2018  












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