2019年6月3日月曜日

グリフォサートはわれわれが想像する以上に悪い


バイオテクノロジーは大きな期待を集めて来た。事実、バイオテクノロジー技術の進歩によって社会が享受することができる恩恵には限界がないかのようでさえある。
しかしながら、特に、最近は負の側面が明らかになってきていることももうひとつの現実である。除草剤や殺虫剤に由来する受粉昆虫の減少、それらに暴露された人たちに癌が発症、これらの化学物質が地下水系に到達し、雨水に洗い流され、河川や湖に流れこんで環境を汚染、等々、例を挙げれば切りがない。これらの負の側面を放置しておくと、遅かれ早かれ人類全体に対する脅威として跳ね返ってくるかも知れない。
ここに、「グリフォサートはわれわれが想像する以上に悪い」と題された最新の記事がある(注1)。グリフォサートは世界中で使用されている除草剤「ラウンドアップ」の主成分であるだけに、ひとたび負の影響が認識されると、それは世界規模の問題となる。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。
<引用開始>

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新たな研究結果が報告された。世界中で使用されているグリフォサート系除草剤とさまざまな癌の発症との間の関連性が次々と指摘される中、アグリビジネスのために議員に陳情する団体は人や動物に引き起こされる損傷を無視し、そればかりではなく、躍起になってそれらを主張する者の信用を失墜させようとしている。米裁判所におけるふたつ目の訴訟では、ドイツのバイエル社に買収されたモンサント社は控訴したエドウィン・ハーディマンに対して8千百万ドルの損害賠償を支払うよう命じられた。ハーディマンは非ホジキンリンパ腫を患っている。この裁定ならびにグリフォサートのせいで損害を被ったとして米裁判所で裁定待ちとなっている11,000件もの損害賠償訴訟がバイエル社を襲い、株式が暴落したことを受けて、同社は数千人を解雇するところまで追い込まれている。

サンフランシスコの裁判所において陪審員は全会一致でモンサント社のグリフォサートを主成分とするラウンドアップ除草剤がハーディマンに癌を引き起こしたとの結論に達した。彼の弁護士らは「モンサントの行動を見ると、ラウンドアップ除草剤が癌を引き起こすかどうかなんてまったく念頭にはなく、彼らは公衆の意見を操作し、ラウンドアップに関して真面目な、正当な疑念を持つ人たちについては誰に対してでも卑劣な手段で攻撃しようとする」と述べている。モンサントの弁護士が敗退したのはこれが二回目である。2018年の別の訴訟では陪審員らはグリフォサートを主成分とするラウンドアップ除草剤が保護具も身につけずに何年間にもわたって毎日のように除草剤を散布し続けた校庭管理者に癌を発症させたと裁定した。モンサント社は「悪意と抑圧によって」罪を犯した、とその裁判は結論した。社内で交わされた電子メールによると、同社の経営陣は自分たちのグリフォサート製品が癌を引き起こすことを知っていたが、彼らはこの情報を公衆からは隠蔽してしまったのである。

利害関係者からは独立した新たな研究が行われた。その結果によると、グリフォサートに過剰に曝された人たちは非ホジキンリンパ腫に侵される危険性が41パーセントも上昇する。著者らは合計で65,000人近くの参加者を擁する六つの研究成果を統合し、より高い見地から分析を行い、グリフォサートを主成分とする除草剤と免疫抑制や内分泌撹乱ならびに遺伝子改変との関連性を検討した。著者らは「グリフォサートを主成分とする除草剤は非ホジキンリンパ腫の危険性を増加させる」との共通の知見に到達した。さらに、著者らはグリフォサートは「腸内微生物叢を改変し、免疫システムに衝撃を与え、慢性的な炎症を引き起こし、侵入してくる病原体の影響を受けやすくなる」と述べている。また、グリフォサートは内分泌撹乱物質として作用する可能性もある。と言うのは、雄と雌のラットにおいて性ホルモンの生成を改変することが最近確認されたからだ。

ギレス・エリック・セリーニならびにマイケル・アントニオが率いるフランスの科学者たちが行った長期の動物実験によると、極めて低濃度のグリフォサート除草剤であっても非アルコール性の肝臓疾患を引き起こすことが実証された。ラットが暴露された濃度は、体重1キログラム当たりに換算すると、われわれが摂取する食料に許容される濃度よりも遥かに低いレベルであった。メイヨー・クリニックによると、過去40年以上にわたってグリフォサートの使用が蔓延し、今や1億人の米国人が肝臓疾患に見舞われている。これは3人にひとりの割合である。この種の診断結果は8歳児にさえも見られる。

しかし、グリフォサートは人間の健康に悪さをするだけではない。土壌の専門家らはグリフォサートの散布に由来する残留物質が土壌の健全性や養分に対して劇的な影響を与えていることに気付き始めた。この影響を修復するには何年もの歳月を必要とするであろう。

土壌をも殺してしまう:

最大の関心事は今や世界でもっとも広範に使用されている農薬としてのグリフォサートがその暴露によって人に与える健康影響にあることは十分に理解できるのだが、その一方で、独立した科学者らはこの農薬がもたらす憂慮すべき影響に注目し始めた。それは土壌に欠かせない養分に対する影響である。EUにおける土壌の健全性に関する研究で、オンライン誌の「Politico.eu」はヨーロッパ農業の主要作物に対するグリフォサートの散布の影響は雑草を退治するだけではなく、土壌の健全性に破壊的な結果をもたらしている事を伝えている。

ウィーンの「天然資源・ライフサイエンス大学」(University of Natural Resources and Life Sciences)の科学者らはグリフォサートの散布から3週間以内に農地の表土部分ではミミズの排出活動がほとんど消えてしまうことを報告した。ミミズからの排出はミミズが地中に潜って、栄養分に富んだ土壌を表層部分にもたらす重要なプロセスであって、健全な土壌や植物の養分を維持するには必要不可欠な要素である。オランダのワーヘニンゲン大学がEU全土から集めた300個以上の表土サンプルについて行った研究によると、これらの土壌の83パーセントに1種類またはそれ以上の殺虫剤の残留物質が含まれていた。驚くほどのことではないが、「グリフォサートやその代謝産物であるAMPADDTやその代謝産物、ならびに、広範囲におよぶ殺菌剤、等がこれらの土壌サンプルからはもっとも頻繁に検出され、それらの濃度はもっとも高かった。」

さまざまな殺虫剤の使用、特に、グリフォサート系除草薬の使用は、米国全土と同様に、EU全土でも過去40年以上にわたって爆発的に広がった。アグリビジネス業界はこれが農作物の生産性を飛躍的に高めた要因であると主張する。しかしながら、関連データを詳細に見ると、コメや小麦およびトウモロコシといった主要な穀類の平均収量は1960年以降2倍以上になったが、この間に、たとえば、グリフォサート系除草薬の使用は1520倍も増加した。奇妙なことには、EUは多くの事柄を監視するのが普通であるのだが、土壌中の殺虫剤残留物の監視はEUレベルでは要求してはいないのだ。つい最近まで、ラウンドアップのような除草剤の使用がもたらす影響に関する科学的研究は無視され続けてきた。

土壌専門家が示す証拠はグリフォサートのような除草剤と健全な土壌には欠かせない土壌の肥沃度の劇的な低下や微生物叢の崩壊との間に関連性があることを暴露した。ミミズは基本的にもっとも重要な要素のひとつである。

土壌の養分を健全に維持する上でミミズが重要な役割を持っていることはよく知られている。ミミズがいない土壌はわれわれにとって健康的な食物が必要とする必須養分を欠乏させる。この土壌の枯渇という問題は過去40年間世界中で起こった。これは殺虫剤の使用が世界中で爆発的に広がった時期と呼応している。ミミズは土壌の養分をリサイクルし、土壌の微生物叢を強化し、植物が容易に吸収することが可能な養分を大量に濃縮することから、ミミズは非常に有用である。

ミミズに対する影響に加えて、グリフォサートは植物が養分を吸い上げるのに必要な特定の菌類やバクテリアさえをも殺してしまうことが特定されている。それにもかかわらず、EUは作物へのグリフォサートの散布許容量を決めてはいない。これは非常に大きな盲点である。

今は何処に?

今いったい何が明白になって来たのかと言うと、それは明らかにEUや米国だけではなく中国においても当局はグリフォサート系除草剤の潜在的な危険性については意図的に目をつぶっているという点だ。中国は今やモンサントよりも大量のグリフォサートを生産している。モンサント社のラウンドアップに関する特許が期限切れとなってから、中国企業は、シンジェンタや浙江新安化工集団(Zhejiang Xinan Chemical Industrial Group Company)、中豐有限公司(SinoHarvest)、および、安徽星化工有限公司(Anhui Huaxing Chemical Industry Company)を含めて、この化学品の生産では世界でも指折りの企業となった。それだけではなく、これらの中国企業は大規模な消費企業でもある。これは伝説的とも言える中華料理の将来にとっては良くない前兆だ。

モンサント/バイエルのラウンドアップに加えて、グリフォサートは世界中で750種にも昇る製品ブランドで主要成分として使われている。グリフォサートの残留物質は飲料水、オレンジジュース、子供の尿、母乳、ポテトチップ、スナック、ビール、ワイン、シリアル、卵、オートミール、小麦粉製品、ならびに、試験を実施した伝統的な食品のほとんどから検出されている。要するに、あらゆる食品で検出されているのだ。

しかしながら、圧倒的な証拠があるにもかかわらず、欧州委員会の官僚たちや米環境庁は長い期間にわたって詳細な調査を棚上げにしたままで、毒性のある化学品を禁止せず、慎重な姿勢をとることは無視し続けて来た。もしもここで皮肉な態度を取るとすれば、私は次のように言わざるを得ない。官僚たちによってかくも長い間支援されてきたグリフォサート系除草剤は単なる官僚たちの馬鹿らしさ、あるいは、無知だけでは説明できない。それ以上の何かを示している。汚職は何らかの役割を持っていることは確かではあるのだが、そこには単なる汚職以上の何かがある。われわれの食物連鎖の栄養学的な品質は組織的に破壊されつつあり、この問題は一企業のアグリビジネスにおける利益以上に重要であり、深刻である。

著者のプロフィール: F. William Engdahlは戦略的リスクに関してコンサルタント業を営み、講師として活動。プリンストン大学で政治学の学位を得た。原油や地政学に関する彼の著書はベストセラーであって、彼はオンライン誌の「New Eastern Outlook」にて健筆を振るっている。https://journal-neo.org/2019/04/14/glyphosate-worse-than-we-could-imagine/

<引用終了>

 
これで全文の仮訳が終了した。

ラウンドアップ除草剤の主成分であるグリフォサートは発癌性がマスコミ(もっと正確に言えば、代替メディア)で追求され、騒がれているが、この引用記事によれば、他にもさまざまな健康被害が懸念され始めていることがよく分かる。発癌性に加えて、グリフォサートは免疫機能を低下させ、内分泌撹乱作用が懸念されている。また、著名なメイヨー・クリニックの報告によれば、米国では肝臓への影響が蔓延している。その広がりは驚くべき規模である。「過去40年以上にわたってグリフォサートの使用が蔓延し、今や1億人の米国人が肝臓疾患に見舞われている。これは3人にひとりの割合である。この種の診断結果は8歳児にさえも見られる」とのことだ。

なぜそのような大規模な肝臓疾患が米国で起こっているのだろうか?

思うに、三つの可能性が考えられる。ラットの動物試験で確認されているように、非常に微量のレベルの残留物質であっても、内分泌撹乱作用を引き起こす他の化学物質と同様に、健康影響は濃度に比例するのではなく、極低濃度の方がより大きな作用を起こすのかも知れない。あるいは、米国における食品中の残留許容値は業界と政府機関とがお手盛りで作った代物であることから、まったく不完全で、消費者の安全性は担保することができない。三つ目は、セラリーニ教授が主張しているように(詳細は下記に示す)、主要成分のグリフォサートの毒性だけを云々することはナンセンスであって、グリフォサートに界面活性剤のPOE-15を加えたラウンドアップ製剤全体の毒性を再検討しなければ何の意味もないのかも。

経済優先で環境汚染が取り残されてしまう日本でも3人にひとりの割合で肝臓の異常を訴える時代が、遅かれ早かれ、やって来るのではないかと懸念される。食料自給率が極端に低い日本の置かれた立場は非常に弱く、選択肢には限度がある。それだけに、日本の消費者の健康を守ることは至難の技を要するであろう。

グリフォサートの健康に対するリスクを議論する際には、私の理解するところでは、最大の課題は除草剤ラウンドアップの主成分としてグリフォサートだけを議論することは不十分であるという点にある。ラウンドアップ・メーカーの技術情報によると、ラウンドアップ製剤にとってグリフォサートと並んで重要視されているのは界面活性剤である。実際に使用されているのは製剤としてのラウンドアップであり、人が暴露されるのはラウンドアップ製剤である。グリフォサートだけに暴露される訳ではない。グリフォサートだけの毒性を議論しても問題の本質は見えて来ない。

そして、もうひとつの大問題は健全な土壌の枯渇である。ラウンドアップ除草剤の使用は世界規模であるだけに、問題が起こると、それは世界規模の問題となる。今や、世界中の耕地が土壌の健全性や生産性を失いつつあるという現実は、除草剤に耐性を持った作物を提供し、特定の除草剤を使うことによって作物の生産性を上げることを目指してきたこのアグリビジネス・モデルが破綻したことを示している。バイオテクノロジーの巨大な皮肉である。


ここに「ラウンドアップの毒性は公表されている毒性よりも強い - セラリーニの新たな研究結果」と題されたプレスリリースがある(注2)。参考のためにその要旨を下記に掲載してみよう。

著名な「トクシコロジー」誌に最近掲載された研究論文において、フランスのカーン大学のロビン・メスナージとベノア・ベルネイおよびギレス・エリック・セラリーニ教授は9種類のラウンドアップ様の除草剤を調査し、もっとも毒性のある物質は規制当局の評価を受けているグリフォサートではなく、実際には、POE-15と称され製品ラベルには必ずしも記載されてはいない化合物であることを指摘した。(訳注:この研究論文は「Ethoxylated adjuvants of glyphosate-based herbicides are active principles of human cell toxicity」と題されており、ラウンドアップ製剤の毒性を示す主役を演じているのはグリフォサートではなく補助剤であることを指摘した。)

グリフォサートはラウンドアップの主成分である。この化学品はラウンドアップ様の数多くの除草剤で広く用いられている。哺乳類を対象にした規制当局による安全性の評価ではグリフォサートが用いられている。しかし、市場で販売され、実際に使用されている除草剤はグリフォサートに補助剤を加えたラウンドアップ製剤である。これらの補助剤は多くの場合企業秘密とされ、「不活性」であるとされている。これらの補助剤はグリフォサートを安定にし、植物の内部へ侵入するのを助ける。(ラウンドアップを含めて)これらの製剤は生体細胞に、特に、人の細胞に影響を与える。しかしながら、製造メーカーや規制当局が行う長期安全性の評価ではグリフォサートのみを使い、グリフォサートを製剤全体としてのラウンドアップと同義的に扱っていることから、ラウンドアップ製剤の危険性は過小評価されている。
本研究はグリフォサートを主成分とする除草剤の毒性はグリフォサート単独の毒性よりも強いことを実証した。したがって、規制当局が行った安全性評価ならびに環境や食品および飼料に含まれる残留物質の許容値は間違いである。(ラウンドアップの残留物質で汚染された)水道水やラウンドアップに耐性を有する遺伝子組み換え作物から作られた食品の毒性はセラリーニ教授が率いる研究チームが最近ラットについて行った給餌試験で証明されている(文献:Séralini G. E., et al. (2012). Long term toxicity of a Roundup herbicide and a Roundup-tolerant genetically modified maize. Food and Chemical Toxicology 50 (11): 4221-4231)。著者らは本研究に関する批判に対しても回答を出版した(文献:Séralini G. E., et al. (2013). Answers to critics: Why there is a long term toxicity due to NK603 Roundup-tolerant genetically modified maize and to a Roundup herbicide. Food and Chemical Toxicology)。

総括としては、本件は公衆の健康にとっては非常に大きな懸念をもたらす。第一に、ラウンドアップ様の除草剤についてはすべての認可を迅速に見直さなければならない。第二に、規制当局の認可に関する規定は全面的に修正しなければならない。除草剤は科学者たちの手によって透明性のある、活発な議論を行って、評価を実施すべきである。政府に対して意見を具申する関係省庁は一般に除草剤メーカーと一緒になって安全性を設定している。関係省庁の意見は間違っている。何故ならば、彼らの意見は緊張感のない評価やメーカーからのデータに基づいているからだ。このような現状ではすべてをカバーし、透明性のある評価を行うことは不可能であることを示している。したがって、これらの評価は中立性もなければ、独立性もない。業界の毒性データは法的に公開しなければならない。
上記に示すように、セラリーニ教授が率いる研究チームはラウンドアップ製剤の毒性を示す主役はグリフォサートではなく、補助剤であることを指摘した。画期的な知見である。これらのセラリーニ教授の意見は20122013年に報告された。

今は2019年、あれから何年も経っている。私の印象では、除草剤ラウンドアップや遺伝子組み換え作物の毒性に関する議論は最近ようやく始まったばかりである。この機会に、より広範囲の情報を吟味して、中立性と独立性のある、透明性の高い毒性評価をやり直さなければならない。端的に言って、ラウンドアップ残留物質の影響で3人にひとりが肝臓に異常を訴えるような社会の到来は是が非でも許すべきではない。

 

参照:

1Glyphosate Worse Than We Could Imagine: By F. William Engdahl, NEO, Apr/14/2019
2Roundup is more toxic than declared proves new Séralini study: CRIIGEN press release, Feb/21/2013

 

 
 

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