2023年11月9日木曜日

時代遅れのメデイアが米国の一般大衆にウクライナの敗北について心の準備を促す中、ゼレンスキーは目標を変更

 

昨年の2月以降、メデイアの関心事はウクライナにおけるロシアとNATOによる代理戦争であった。だが、その主役は、今や、ハマス・イスラエル紛争に取って代わられた。

ハマス・イスラエル紛争が激化し、ガザ地区では無辜の市民が10,000人も殺害されたと報じられ、国際世論はイスラエルの虐殺行為に対して反対運動を繰り広げている。その結果、イスラエル軍は、人道支援物資をガザ地区に届けるために48時間の「戦術的休憩」を実施することにした。たとえ彼らの理由付けが何であろうとも、これはイスラエル(ならびに、米国)にとっては戦略的な敗北だ。つまり、イスラエルの独善的な正義は国際世論によって批判され、彼らは軌道修正をせざるを得なくなった。

ウクライナにおいては、最近、ワレリー・ザルジニー最高司令官がロシア軍に対する大攻勢は失敗したことを認める発言をした。それに追い打ちをかけるように、新たに勃発したハマス・イスラエル紛争はウクライナ側に暗い影を投じている。西側からの支援が細まりそうな気配だ。過去2年近く遂行して来たウクライナにおける対ロ代理戦争について西側が支援を継続し続けることに疲労感が濃くなり、多くの観察者らはウクライナが勝利するという目標には懐疑の念を強めているという。

ここに、「時代遅れのメデイアが米国の一般大衆にウクライナの敗北について心の準備を促す中、ゼレンスキーは目標を変更」と題された最近の記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

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Photo-1: © AFP 2023 / JUAN MEDINA

ガザ危機、ならびに、ウクライナ軍最高司令官のワレリー・ザルジニーがキエフの反攻は失敗し、"膠着状態"になったという爆弾発言を認めたことで、欧米の政策決定者やマスコミの間には悲観の波が押し寄せ、ウクライナ大統領は迅速な「勝利」の見通しに関する今までの文言を変えることを余儀なくされた。

目に見えて動揺したウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、日曜日(115日)、ウクライナにおけるNATOとロシアの代理戦争が「膠着状態」に入ったことを反抗的に否定し、米マスコミとの広範なインタビューで、モスクワがキエフに「王手」をかけたわけではなく、ウクライナは主導権を維持するための多くの「異なる計画」をまだ持っていることを保証した。

ゼレンスキー大統領は、「わが軍は、より速く前進し、ロシア連邦を不意に攻撃するためにさまざまな異なった計画や異なった作戦を打ち出している」と述べ、これはウクライナの反攻がロシアの防衛線を突破できなかったというザルジニーのコメントとは完全に矛盾する。

「前線の状況に関する限り、すべての詳細を皆さんにお伝えすることは、もちろん、できない。それでも、我々は主導権を握っている。2年以上にわたる全面戦争がどんなものかは想像できるだろう。誰だって疲れてしまう。鉄でさえも疲労する」とゼレンスキーは述べた。「私はこれが膠着状態だとは思わない・・・ われわれは多くのことを成し遂げた」ことを彼は確認した。

ゼレンスキーはウクライナは「素手」で、「適切な武器なし」で作戦を進めることはできないと強調し、さらなる支援を求め、ウクライナに送られてきた資金は「ウクライナへの援助ではなく」、キエフが「われわれの共通の価値観を守っている」のであって、米国とEU自身への支援であると保証した。

ウクライナ大統領はロシアとの交渉の可能性を破棄し、「テロリストとの対話はしたくない」と述べ、紛争を「24時間」で終わらせると言ったドナルド・トランプ前大統領の選挙公約を否定した。それどころか、ウクライナの指導者は「トランプ大統領に、この戦争をやり遂げることはできないと説明するのには24分かかる」と示唆した。

西側メディアはゼレンスキーの文言の変化に注目しており、ある報道機関はウクライナの指導者はかつて西側に迅速な勝利を保証して来たが、今や、彼のメッセージはモスクワとの紛争が長引くという西側が抱く恐怖を利用して、紛争が無期限に長引くのを防ぐためにもさらなる支援を求める方向へと向けられているようだと指摘。

疑惑の種を植え付ける:

しかし、ゼレンスキーに先んじて、西側諸国の国民に敗北を覚悟させるか、少なくともウクライナでの「勝利」がどのようなものであるかを「再考」するためにも、入念に練り上げられたキャンペーンのように見えるものを開始した観察者もいる。

「今日のウクライナは昨年11月よりも状況が悪化している。軍隊は疲弊し、枯渇し、兵器の在庫は底をつき、欧米諸国の国民はウクライナに対するさらなる支援をめぐって今まで以上に二極化している」と、ある評論家が米国の主要新聞に書いている。

「ウクライナの反攻はキエフが失った領土を奪還できることを証明することによってキエフ政府に対する政治的支持を維持する筈であった。ウクライナは相当な領土を失ったが、それらを再征服してはおらず、壊滅的な敗北を未然に防ぐためには無期限に支援を継続することが必要だ。

ワシントンは「勝利を夢見ることから、膠着状態を覚悟することへと方向転換する必要があるかも知れない。なぜならば、米国にはロシアとの直接戦争を行う意欲は事実上皆無であるからだ。ウクライナにおけるロシアの勝利は米国の国益にとってひどい打撃となるだろうが、核戦争の危険を冒すほどにひどいものではない」と同観測者は強調している。

この悲観的で重苦しい態度は独特なものではないが、西側はロシアを潰す槌としてウクライナを活用する試みに首尾よく成功することはできないとの考えに目覚めつつあって、メディアや著名人の大合唱は日増しに強くなっている。

先週、ザルジニーの爆弾発言が公表される直前、米国の大手ニュース誌はゼレンスキーの側近らがゼレンスキーの「頑固さ」を批判し、ロシアとの和平交渉の可能性を受け入れることをゼレンスキーが拒否しているとの記事を掲載した。司令官たちさえもが十分な兵力や武器、または、砲撃による支援もないままにロシア軍を攻撃するよう強いられたことについて個人的に苦情を述べるほどであった。

ウクライナ問題で疲弊した西側:

『私の意見では、筋書きを「無条件の勝利」から曖昧なものに変えたからと言ってゼレンスキーが西側に対して行っている通常の軍事援助の要求を無効にするものではない』と、ローマに本拠を置く地政学問題を専門とするシンクタンク「ビジョン&グローバル・トレンド」のティベリオ・グラツィアーニ会長はスプートニクに語った。「実質的な事実は紛争が客観的に見て長期化し、終わりが見えないということにある。これもまた、西側の主要な指導者たちが行ったお粗末な取り組みがもたらしたものだ。」

「西側諸国の国民だけではなく、欧州や米国の指導者たちも現在の紛争にはうんざりしているという印象がある」と同観察者は強調し、全般的な疲弊とともに、諸々の態度の変化は来年の欧州連合(EU)や米国の選挙にも関係していると指摘した。

「欧州の政治家やバイデン大統領は自分から有権者に向かって戦争を提案することはできない。イスラエル・パレスチナ紛争も考慮すれば、ふたつの戦争を提案することなんて出来ない相談だ。ふたつの未解決の危機を抱え、しかも、何よりも確実な勝利の見込みがないままで潜在的な有権者に自分自身を売り込むことは困難だ」とグラツィアーニは述べている。

「イスラエル・パレスチナ紛争は、西側メディアではロシア・ウクライナ紛争に影を落としている。欧米の世論は、キエフ軍のせいにするよりも、むしろ西側の政府がこれらふたつの戦争をうまく管理することはできていないことに次第に気付くようになってきている」とグラツィアーニは強調した。

ゼレンスキーのメッセージや西側メディアの一部に見られる変化は独立した観測者らが変化を見せてから数カ月経ってから起こった。

9月の下旬、匿名の米情報当局者はベテランの米ジャーナリストであるシーモア・ハーシュにウクライナ戦争は「終わった」とし、「ロシアが勝利した」と語った。

 

Photo-4Israeli-Hamas Conflict Turns Into 'Perfect Storm' for Ukraine: Oct/17/2023

 ウクライナの攻勢はもうないが、ホワイト・ハウスや米マスコミは嘘をつき続けなければならない。実際には、ウクライナ軍が攻撃を続けるよう命じられれば、軍は反乱を起こすかも知れないという程だ。兵士たちはこれ以上死ぬつもりはない。だが、これはバイデンのホワイトハウスが書く戯言とは噛み合わない」と同諜報当局者は付け加えた。

わずか一ヶ月後、ザルジニーの爆弾発言やゼレンスキーの論調の変化、欧米マスコミの「勝利」の意味を再定義しようとする新しい言葉遣いはモスクワ政府がずっと言ってきたことを裏付けるのに役立った。つまり、キエフの欧米スポンサー各国とは違って、モスクワ政府は自分たちの死活的権益のために戦っているのであるから、ウクライナの戦場で欧米がロシアを打ち負かすことは「不可能」である。

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これで全文の仮訳が終了した。

著者の締めくくりの言葉、つまり、「キエフの欧米スポンサー各国とは違って、モスクワ政府は自分たちの死活的権益のために戦っているのであるから、ウクライナの戦場で欧米がロシアを打ち負かすことは不可能である」という見方は実に興味深い。つまり、ウクライナにとっては欧米のスポンサー国家から支援を引き出さなければならないのに対して、ロシアは自国の死活問題としてこの戦争を捉えており、これらふたつの国家の軍隊の精神面、あるいは、士気を比較している。ロシアの歴史を見ると、ナポレオン軍を破り、膨大な死者を出しながらもナチドイツを破ったロシアのことである。寄り合い所帯のNATO軍にはロシア軍が持っている精神面での強さには勝てる見込みはないと言っているのだ。そういった歴史的背景がありながらも、対ロ代理戦争をもたらしたNATOの戦争計画者たちの認識が問われることであろう。

おそらく、この記事は西側のメデイアにとっては大っぴらには受け入れがたい内容であろうと思う。だが、この引用記事が示唆しているように、大手メデイアといえども変わり始めた潮の流れに逆らうことはできないであろう。「西側諸国の国民だけではなく、欧州や米国の指導者たちも現在の紛争にはうんざりしているという印象がある」という理解は今後さらに広がり、一般化して行くに違いない。ウクライナの一般庶民が受ける被害を最小化するためにも、そして、対ロ経済制裁を通じてブーメラン現象によってすっかり疲弊したEU各国の一般庶民のためにも是非ともそうであって欲しいものである。

同様に、ガザ地区における悲惨な状況も一日も早く解決しなければならない。

 

参照:

1

Zelensky Shifts Goal Posts as Legacy Media Readies American Public for Ukraine’s Defeat: By

Ilya Tsukanov, Nov/06/2023

 

 


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