2012年9月3日月曜日

関電の嘘 – 原発を再稼動しなくても電力は足りていた



残暑に見舞われることはまだまだあるかも知れないが、この夏の電力需要がピークとなる時期はほぼ終わったと言ってもいいだろう。

63日の毎日新聞の世論調査によると、政府が週内にも最終決定する関西電力大飯原発34号機の再稼働について「急ぐ必要はない」と答えた人は71%に達し、「急ぐべきだ」の23%を大きく上回った[1]。(なお、この世論調査には福島第1原発事故で警戒区域などに指定されている福島県の一部地域は調査対象に含まれてはいないとのことだ。)

世論調査はその手法によって結果が左右されると言われている。しかし、それを差し引いたとしても調査対象となった人々の過半数は「脱原発」と答えたと言えそうだ。

それにも拘らず、政府は大飯原発の34号機を再稼動させた。野田首相は68日に再稼動方針を表明した。「国民生活を守るため、再稼働すべきだというのが私の判断だ」と述べ、「今原発を止めてしまっては日本の社会は立ち行かない」とも述べた。産業界の言い分や懸念に肩を持った政府の決断だった。

この大飯原発34号機の定格出力は合計で236万キロワットである(ウィキペデイアから収録)。

そして、関電の7月および8月の需給データが出揃った。下記に示すグラフは関電の「でんき予報」から収録したもの。毎日のピーク時の最大使用電力と関電側の供給電力のデータである。


 
 

これらのグラフを見ると余裕を持ってこの夏の需要期を通過したことが分かる。今夏の最大需要は83日にあった。

問題は、関電が本当に大飯原発の再稼動を必要としていたのかどうかだ。

47ニュース」は91日、83日の最大ピーク時の需給データに基づいて鋭い指摘をしている[2]。その内容の一部を下記に引用してみる。

関電によると、最大需要は8月3日(筆者注:この日、大阪市の日中最高気温が36.7Cに達し)の2682万キロワット。この日の供給力は、大飯原発3、4号機の計237万キロワットを含む計2991万キロワットだった。供給が需要を309万キロワット上回っていたが、関電は「大飯原発がなければ、火力発電所のトラブルや気温の急な上昇があった場合に需給が非常に厳しくなっただろう。不測の事態が重なることもあり、安定供給のために再稼働は必要不可欠だった」とする。だが周波数が関電と同じ60ヘルツで電力を融通しやすい中部電力以西の電力5社への取材で、この日の供給余力が計約670万キロワットあったことが判明。2基が稼働していなくても、供給力に問題ない状況だった。関電も需給が安定しているとして38万キロワットの火力発電所を止めていた。

 

上記に指摘されている中部電力以西の電力会社による83日当日の関電への供給余力は5社合計で669万キロワットだったとのことだ[2]。因みに、この669万キロワットという電力量は大飯原発クラスの5.7基分に相当する。

政府や電力会社が喧伝してきた大飯原発34号機の再稼動の必要性は、その根拠が見事に崩れた。この現状を829日の東京新聞朝刊は下記のように評している[3]

世論の反対を押し切り、政府や関西電力が進めた大飯原発3、4号機の再稼働の根拠が揺らいできた。関電は、今夏のこれまでの電力需給実績を基に「原発がなくても供給力は維持できた」と認めた。専門家は昨年三月の福島第一原発事故で広がった「節電の社会的な動きを見誤った」と指摘、過大な需要見通しを批判している。関電は五月、原発ゼロで今夏を迎えた場合、15%の電力不足に陥ると試算、「計画停電は避けられない」とした。これを受け、野田佳彦首相は「国民生活を守るため」として、大飯3、4号機の再稼働を容認した。ところが電力需要のピークは、猛暑だった2010年夏のピークに比べ10%も低下。計算上、原発なしでも供給力の方が上回った....

....大阪府と大阪市でつくるエネルギー戦略会議座長の植田和弘京都大大学院教授(環境経済学)は「大飯の再稼働がなければ、市民の危機意識が高まり、節電効果はもっと上がったはず。他社からの電力融通を含めれば、原発なしでこの夏を乗り切れた可能性はかなり高い」と指摘。「政府は夏場の電力不足を理由に再稼働させたのなら、夏が終わったらすぐに原発を停止させるべきだ」と話す。

 

今夏は様々な教訓を得た。

(1)  関電や政府が喧伝してきた大飯原発34号機の再稼動の必要性は、その根拠が見事に崩れた。関電や政府が主張していた電力の需給には嘘があった。政府はまたも産業界の言いなりに終わった。政治的に興味深い点は、夏の節電要請期間が終了する97日以降に政府が大飯原発の稼動を停止すると言明するかどうかだ。

(2)  節電努力が大きな成果を収めた。823日に発表された関電のデータによると、最も暑かった2010年に比べて、817日の時点で家庭用、業務用、産業用の3分野の合計で約310万キロワット(大飯原発クラスの2.6基分に相当)の節減をしたとのことだ[4]。来年以降も節電努力によってさらなる成果を積み増すことが可能だろうか。あるいは、個人の生活や産業界にとっては二度と繰り返したくないような実情だったのだろうか。今夏の成果を来年以降も再現できるかどうかについての詳しい検証が待たれる。

(3)  電力会社間で余剰電力を融通し合うことによって各電力会社はかなりの余力を入手することが可能だ。しかも、これはどの電力会社も原発を稼動してはいない条件下での話しである。

(4)  エネルギー源を輸入原油や天然ガスに依存する体質を大幅に改善しなければならない。そのために総力を挙げて代替エネルギーの開発を行うべきではないだろうか。ドイツ政府は、2011年、福島第一原発事故を眼にして脱原発の方針を明らかにした。ドイツでは既に代替エネルギーが新しい産業として育ちつつあった。この背景が政府決定を後押ししたひとつの要因だったのではないか。本年3月のドイツからの報告によると、代替エネルギー産業は過去10年間で37万人もの新規雇用を生み出し、代替エネルギーに関する技術輸出も急速に伸びて、その輸出額は2006年から2008年の期間だけでも300億ユーロの規模に達したという[5]。政治の決断次第ではこういう状況も作り出し得るということを付け加えておきたい。

 

これらの事柄を考慮に入れると、脱原発への具体的な一歩を踏み出せるような気がする。今夏の経験は非常に心強い。脱原発に向けてさらに自信を深めることができたと言えるのではないか。東電福島第一原発事故の過を転じて福と成すべきだろう。

人口の減少に伴って、日本では今後電力需要がさらに増加するとは考えにくい。むしろ、余剰設備をスクラップ化することが必要になってくる。将来のエネルギー計画を策定する場合、原発を廃炉にすることを最優先とするべきだ。

日本の社会が政治的弱者である声を出さない/出せない一般人や子供たち、ならびに、経済的に恵まれない地域社会を犠牲にするような社会であってはならない。放射能被爆の脅威がない地域社会を作り上げて、安心して住める美しい日本を次世代のために残さなければならない。これこそが今日幸いにも生きている大人たちの使命であると自覚したい。

 

参照:

1毎日世論調査、大飯再稼働「急ぐな」71%:毎日新聞(210263日)

2【関電、ピーク時も原発不要】今夏、大飯再稼働に疑問/専門家「需給検証を」:47ニュース(201291日)

3節電8週間 関電「原発なしでも余力」:東京新聞朝刊(2012829日)

4関電、節電効果11パーセントで目標達成、家庭が後押し 中間報告:産経新聞 2012823日)

5 No nuclear please, we're GermanJurgen Trittin,ABC Environment201238日)

 

 
 
 
 

 
 

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