2012年11月18日日曜日

二期目に入るオバマ大統領


200945日、就任早々のオバマ大統領はチェコ共和国の首都、プラハで演説を行った。それは核兵器を撤廃しようと言う画期的な演説であった。この演説を聞いて、驚きや賞賛あるいは平和への期待はプラハの広場に集まる聴衆をとらえて離さず、あの心地よい新鮮な驚きと期待感は世界中に広がった。

しかし、現実には、核兵器の撤廃は、オバマ大統領自身がその演説の中でも述べているように、我々の世代中には実現できないのかも知れない。

オバマ大統領の一期目は国際政治の面で大きな成果があったのかというと、必ずしも無条件には肯定できないのではないか。殆どが前任の大統領の政策や方向性を受け継いだものだったような気がする。オバマ大統領がプラハで見せた国際関係の将来への期待はどこへ行ってしまったのか。

イスラエルとイランやパレスチナとの間の緊張は高まりこそすれ、和らぐことはなかった。


今、ガザ地区でのイスラエルの侵攻はその極に達しようとさえしている有様だ。事実、最近開始されたガザ地区に対するイスラエルの攻撃(「ピラー・オブ・クラウド」作戦)による死者や負傷者の報告がBBCRTCNN、その他のメデアのトップを飾っている。現地入りしたジャーナリストからの報告は悲惨を極めている。

この11月の米国の大統領選でオバマ大統領は共和党のロムニー候補を破って、二期目の大統領として選ばれた。

今日のブログではこの大統領選で表面化した米国選挙民の新しい動きについておさらいをしておきたい。

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イスラエルの英字新聞[1]によると、今回の米国の大統領選を次のように総括している。

米国の大統領選挙を通じて判明した最も懸念すべき点は米国のユダヤ系選挙民がイスラエルに対して興味を失ってしまったことだ。親イスラエル・親和平を標榜するイスラエル・ロビーの「Jストリート」が実施した最近の出口調査によると、米国のユダヤ系選挙民の10%はイスラエルの優先度が最も高いと答えている。しかし、残りの10人中の9人にとっては雇用率や厚生、健康保険といった内政問題が最大の関心事だ。

ここに引用したイスラエルのハアレツ紙の記事は、上記の冒頭の部分以外は有料会員向けにのみオンラインで公開されており、私はアクセスすることができなかった。しかし、その2日後、他の情報源[2]からこの続きを入手することができた。続きはこうだ。

共和党員やユダヤ系の活動家の多くがベンジャミン・ネタニヤフ首相を支持してはいるのだが、彼らが何度もバラク・オバマはイスラエルをイランの狼どものもとへ投げやるだろうとの恐ろしい予測を正面に掲げてキャンペーンを行って来たにもかかわらず、これが実際に得た結果だった。

この統計はニューヨーク市立大学准教授であり政治評論家でもあるピーター・ベイナートの分析結果とも一致する。彼は、イスラエルによる占領の継続や人種差別の実態こそが米国のユダヤ系選挙民をイスラエルから遠ざけ、ユダヤ主義者の狙いからも遠ざけてしまったと論じている。

この二番目の情報源は今回の米大統領選での選挙民の行動についてさらに次のように記述している。

さらには、こういう統計もある。カリフォルニア州立大学とヒーブルー・ユニオン・カレッジとが最近行った共同調査によると、「イスラエルが破壊された場合、個人的には悲惨だと受け止めるか」との質問に対して、50%は「そうは思わない」と回答した。(訳注:一方、65歳以上のユダヤ系米国人、つまり、若い世代の親たちあるいは祖父母たちの80%は「そう思う」と回答。)

ジューイッシュ・レジャー紙のコネチカット版ではこの調査結果について解説を掲載しているが、それによると、エリック・マンデル(「イスラエルは正か悪か」の支持者)が「米国の若いユダヤ人はどうしてイスラエルとのつながりを感じないのだろうか」との質問に対して次のように述べている。

ひとつの説明としては、米国の若いユダヤ人はユダヤ主義は自分たちの自由主義的な価値観とは相容れないと感じている。普遍性を理想として育ち、大学ではポスト・ナショナリストの思想にさらされて来た若い世代は特定の人たちによる特定の人たちのための国家が如何に定義上は人種差別的ではないと言っても、それをそのまま受け入れることはできない。

さらに大事な点としては、多くの若い人たちはパレスチナ人の被害や犠牲に心を痛めている。罪の無い市民が常に弱者の立場に追い込まれるという現実を彼らは学んでおり、それを大切な教訓としてとらえ、迫害者には忠誠を誓うことはできないのだ。数多くの学校で、特に中東を研究する学科では反イスラエル的な偏見がこの否定的な見方をさらに強めており、これはBDS(訳注:Bは「ボイコット」、Dは「投資の撤収」、Sは「制裁」を意味する)のような反イスラエル的な大学の動きとも符合する。イスラエルに対する米国のユダヤ系市民からの支援は当然であるとする考え方はもはやあり得ないとの懸念が高まっているが、それ相当の理由がある。

これが示唆する方向は米国のユダヤ系市民は自分たちの関心事を守りぬくにはユダヤ主義の怪物から遠ざかることだと理解し始めており、その数が増えつつあるというのが現実だ。

今回のオバマ再選の原動力は女性、黒人層や中南米系の少数派、若者の三つの集団の支持によるものだったと言われている。これらの支持者に対して二期目のオバマ大統領はどう応えてくれるのだろうか。この点についても、二番目の情報源が面白い見方を示している。

ギデオン・レヴィが最近の著書の中で記述しているように、イスラエル自身にとっても徹底的に厳しく、かつ、断固とした米国大統領の出現が必要だ。それは何故か?そのような大統領の出現こそがイスラエルが占領地の呪いから自国を解放する最後のチャンスとなり得るからだ。レヴィは二期目のオバマは自信をより深めるだろうし、一期目のオバマとは違って大統領として如何に生き残るかといった配慮は二期目になると必要ないからだ、との注意深い楽観論を表明した。

米国の大統領選では三選は法的に許されていない。だから、二期目は次回の選挙に対する思惑とかが政策に入ってくる余地は殆ど無い。二期目の方が断固たる政策を取りやすい環境にあるのは事実だ。

他にも兆候がある。米国内の動き次第では、二期目のオバマ大統領は米国自身の関心事を前面に押し出し、イスラエルに対しては和平に専念するよう要求して影響力を行使するようになるかも知れないといった方向性をトーマス・フリードマンがニューヨーク・タイムズの最近の記事で論じている。彼の中心的な論点は、大統領は国内問題で多忙を極め、イスラエルを巡る外交問題にさく時間はまったくないだろうというものだ。つまり、「我々はもはやあなた方のお爺さんのアメリカではない」という現実をイスラエル人は理解するべきだと。その理由に関する彼の説明には次のような内容も含まれている。

まず、今米国内に現れつつある政治勢力はビビ(訳注:ネタニヤフ首相のこと)がイスラエルのために示した方向性とは異なっている。イスラエルのコラム執筆者であるアリ・シャヴィトが先週のハアレツ紙で論じたように、過去においては、ユダヤ主義者やイスラエル政府は世界の進歩的な勢力と歩調を合わせることに注意を払っていたものだ。しかし、最近の20年、30年は米国社会の反動勢力に寄り添って来た。彼らに寄り添うのが実に好都合だったからだ。福音伝道者たちは占領地に関して難問を突きつけることはなかったし、テー・パーテーは女性や少数派を除外することについて、イスラエルの入植者による攻撃について、あるいは、パレスチナ人や平和活動家に対する破壊行為については一言も口をはさむことがなかった。共和党の「白人・宗教団体・保守」系の人たちはイスラエルの最高裁が攻撃を受けた際であっても動揺することはなく、イスラエルの法至上主義は踏みにじられた。「我々は米国の過激な右派勢力の擁護の下に、その代価を支払うこともなく、過激右派の政策をとることが出来る」と、イスラエルは想定し続けてきた。しかし、それはもはや許されない。

どうやら、今や「イスラエルは重荷だ!」と見なすユダヤ系米国人が増えているようだ。それだけではなく、まだ少数派であるとは言え、すべての米国人が同じ事を考え始め、その数が増えているようだ。

私が最も興味深く思ったのは、この記事の投稿者は二期目のオバマ大統領がイスラエルの影響力から脱却して、米国にとって一番大切な政治的判断をすることになるだろうと期待している点だ。つまり、中東和平の方向へ進むことを期待しているのだ。

イスラエルでは来春総選挙が行われる。ネタニヤフ首相はその選挙後にイランの濃縮ウラン施設を攻撃すると公言している。ある政府高官は戦術核を使うとも言っている。

このような過激な右派的行為を最終的にオバマ大統領の手で阻止することができるのかどうかが見ものだ。
 

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日本国内に目を向けると、イスラエルの日本への影響はどんなだろうか。

最近の「天木直人メールマガジン」[3]によると、

外務省は11月14日次のような発表をしたという。

内戦状態が続くシリアへの制裁措置について協議する国際会議を11月30日に都内で開催すると。

会議には60を超す国や地域の代表が出席する予定であると。

シリア制裁に消極的な国が多いアジア諸国にも参加を呼びかけると。

この会議をシリアの警告を無視してまで何故日本が引き受けなければいけないのか。なぜ日本は他のアジア諸国に参加を働きかけなければならないのか。それはすべて米国の肩代わりだ。

まず、シリア制裁はその延長線上にイスラエルが最も恐れているイランに対する制裁が存在する。

中東では、我々の世代が世界のニュースに関心を持ち出した頃にはすでにイスラエルの軍事的優位性が明白になっていた。

湾岸戦争の際には、日本は自衛隊を参画させる代わりに多国籍軍に対して莫大な額の戦費を拠出した(135億ドル)。この日本の行為については多国籍軍の参加国から非難の声があがった。イラク戦争では航空自衛隊がバグダット空港を拠点として米軍の輸送業務の一部を代行した。この航空自衛隊による輸送業務は延べ28,000人にのぼり、その内7割が米軍兵士だったとのことだ。また陸自は給水、医療、学校の復旧、等に従事した。これらに費やされた金額はどれほどになったのだろうか。アフガン戦争では海上自衛隊による給油活動が行われた。また、戦後復興のために莫大な資金を拠出するとしている。

これらの戦争はすべてがイスラエルの対外戦略に乗った米国の戦争だった。もっとはっきり言うと、一連の戦争は米国・イスラエルの軍産複合体のための戦争だったとも言える。これらの戦争の非合法性が暴かれ、当時の政治的決断の不条理さが今や明白になっている。

湾岸戦争、イラク戦争そしてアフガン戦争を通じて日本が行ってきた協力行為は戦費の拠出から戦闘行為の無い場所でとは言え具体的な自衛隊の派遣へと変わった。米国が関与する紛争地域への自衛隊の派遣は今後どこまで深入りして行くのだろうか。

日本政府は日米安保条約を深化させるとしている。でも、深化させることにどれだけの国益があるのだろうか、私にはまだ分からない。
 

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シリア制裁の国際会議を日本で開催することは、今や全世界にとって悪の枢軸とでも言えそうなイスラエル・米国のために日本がその代理行為をさせられているかのように見える。これが日米安保条約の深化の現実なのである。そして、それはまだ始まったばかりだ。

これらを考えると、二期目に入るオバマ大統領が本気でイスラエルとの縁を切ることができるかどうかが嫌でも今後の最大の関心事となってくる。オバマ大統領にそれが出来た暁には、日本の国際協力も真の意味での国際貢献になってくるのではないだろうか。真の意味での国際貢献こそが日本の国益と一致する。政治的に健全な政策こそが求められているのだ。そんな日が早く来て欲しい。
 

参照:

1American Jews are giving up on Israel: HARRETZ, Nov/12/2012

2Obama: “The Best is Yet to Come.” Really?By Alan Hart, Information Clearing House, Nov/14/2012

3こっそり発表された対シリア制裁国際会議の日本開催:天木直人のメールマガジン、第856号、20121115

 


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