2001年の911テロ事件によって、米国を中心とした西側諸国は世界規模の対テロ戦争に入った。その最たる戦場はイラクを代表とする中東のイスラム国家である。この戦争の背景には宗教の存在が色濃く反映されている。
イエメンでは内戦が続いている。この内戦はイランを中心とするイスラム教シーア派に対するサウジアラビアが主導するスンニ派の抗争である。この内戦で漁夫の利を占めるのはイスラエルであろう。イスラエル周辺のイスラム諸国が宗派間で内紛を起こし、戦争を継続し、経済的に疲弊すればするほど、イスラエル自身の安全保障は相対的に強化されるのだ。イスラエルにとってはこういった隣国での内戦が長く続いてくれればそれほどいいことはない。イスラエルはイラク戦争においてもイラク内部が分断されることを期待していた。そして、ほぼ希望通りの結果となった。
中東における戦争にはイスラム教の影が濃厚である。政治闘争に宗教的派閥に根ざして国内の団結を促すことによって、戦争と宗教とは切っても切れない関係となっている。換言すると、宗教が戦争のために使われているのである。
日本でも、日清戦争や日露戦争では従軍僧が戦場に派遣された。仏教界はこれらの海外での戦争を布教の機会として捉えた。しかしながら、太平洋戦争での敗戦と共に、仏教の海外における拡大は中断され、従軍僧は帰国した。
ここに日本人として記憶に留めておきたい事実がある。日中戦争の当時、ある住職が「戦争は罪悪である」と発言した。これが理由で、この住職は陸軍の刑法に基づいて有罪と判決された。流言飛語罪で4か月の禁固刑となった。これは真宗大谷派住職の竹中彰元(岐阜県明泉寺)のことだ。法要の際の席に着く順序、つまり、彼の僧侶としての身分は最下位に降格された。結局、彼は「戦争は罪悪である」と言ったことで、国家からも、教団からも制裁を受けたのである。しかしながら、教団側は70年振りに竹中彰元の名誉回復を行ったそうだ。2008年のことだ。こうした反戦僧侶は何人もいる。
私はまったく知らなかったことではあるが、宗教各派ではかっての戦争協力に対する反省が今進められているという。宗教とは何かを問おうとする時、日本の宗教界が具体的にはどのような反省を行おうとしているのか、非常に興味深い。
話を元に戻そう。
イエメンでは飢餓が進行している。サウジの執拗な戦争行為によって、イエメンでは180万人の子供たちが飢餓に曝されている。国連の報道によると、緊急援助活動で持ち込まれる食料品に頼っている民間人の数は8百万人にもなっており、この数は近い内に1千4百万人に膨れ上がりそうだという。この惨状を伝える記事がニューヨークタイムズに掲載された。すっかり痩せ細った少女の写真は余りにも痛々しく、数多くの読者の心を揺さぶった。この子は7歳で亡くなった [注1]。
Photo-1: アマル・フサインは7歳で亡くなった。「悲しくてどうしようもない」と彼女の母親は言う。写真提供: ニューヨークタイムズのタイラー・ヒックス
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先月のことであるが、サウジアラビア人の著名なジャーナリストであって、米国に亡命し、米国での永久居住権を持つジャマル・カショーギは、10月2日、イスタンブールにあるサウジアラビアの領事館を訪れた。彼は再婚するために必要な書類を入手する目的があったという。しかし、その後彼の姿を見た者は誰もいない。明らかに、これは事件である。
この事件は広く報道されていることから、多くの方々はよくご存じだと思う。しかしながら、その背景や黒幕は誰かといったことになると、情報が錯綜し、極端に少ない。
ここに、「カショーギの殺害およびイエメンにおけるサウジの戦争犯罪は米国が手助けしたものだ」と題された記事がある
[注2]。現段階ではどこまでが真実で、何処からが推測となるのかについての判断が重要であるが、この記事はこの事件の深層を理解し、真実に迫る上では非常に有用であると思う。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。
<引用開始>
Photo-2
ジャマル・カショーギはイスタンブールのサウジアラビア大使館で拷問され、殺害された。死体はバラバラにされたと言われている。この事件は米国内では激怒を引き起こし、世界中に波紋が広がった。しかしながら、カショーギの殺害事件では大騒ぎをしていることとは対照的に、多くのメディアや著名人はサウジアラビアが米国の支援を受けてイエメンで犯している戦争犯罪について苦言を呈することは実に少ない。
ワシントンポスト紙のコラムニストを務めていたカショーギは以前サウジアラビア政府やモハメド・ビン・サルマン王子について批判的な記事を書いたことがある。ワシントンポストはモハメド王子が最近カショーギをおびき出して、サウジアラビアへ呼び戻そうとしていたと報告している。これは一個人がある国から連れ出され、尋問のために他の国へ強制的に移送されるもので、司法管轄外の「他国への引き渡し」に等しい。米国はサウジがカショーギを取り押さえるであろうことを予知していた、とブルームバーグが報じている。この計画を話し合っていることを米諜報機関が傍受していたのである。トルコの情報源によると、カショーギの殺害と死体をバラバラにしたのはサウジの工作員であるという。
カショーギが姿を消した時から6日後、ニューヨークタイムズのコラムニストであるトーマス・L・フリードマンは次のような驚くべき主張をした。
「もしもジャマルがサウジ政府の工作員によって拉致され、殺害されたとするならば、これは人類に求められる節度の規範を脅かすものであって、イエメンにおける戦争に比べると、数の上ではなく、その本質において非常に悪質だ。」
妥協をしないニュース:
イエメンではすでに3年間も続いている戦争の結果、民間人の被害者数が6000人にもなった。この大量殺戮の非道さ、ならびに、世界でも最悪の人道的危機が表面化して来た。この現状を過小評価しようとするフリードマンの試みはめったに見られないというわけではない。CIAの弁護士で、米海軍アカデミーで講師を務めたヴィッキ・ディヴォルは2009年にニューヨーカー誌のジェーン・メイヤーに次のように語っている。
「一般市民にとっては喉を掻き切って相手を殺すことよりもドローン機で数多くの市民を殺害することの方が遥かに受け入れやすいと感じられる。」
サウジはイエメンで戦争犯罪を犯し、米政府は実際に彼らを支援し、教唆さえしている。
イエメンで野放しとなっているサウジ・米の戦争犯罪:
イエメン政府からの抑圧に抵抗するフーシ派の反政府武装勢力を駆逐するために、サウジ主導のアラブ連合軍はイエメンを爆撃している。この内戦は政府に対して長い間抱き続けてきた怒りがその頂点に達した結果である。アラブの春がこの地域を席捲した頃、イエメン政府は弱体化した。イエメンはアデン湾と紅海を結ぶ狭い水路に面しており、戦略的な場所に位置している。
この8月、アラブ連合軍はサアダ県のダヒヤンの町の市場へレーザー誘導型MK82爆弾(重量225キロ)を投下し、40人の児童を含めて、51人の民間人を殺害した。この爆弾は米国の防衛産業においては主導的な地位にあるロッキード・マーチン社が製造したものだ。この爆弾の提供は昨年米国・サウジ間で締結された武器取引の一部であった。
米国製の爆弾を用いて行われた8月の爆撃はこの出来事だけで、他にはないというわけではない。2016年にはアラブ連合軍は同様の爆弾を使って、サナーアで葬式のために集まっていた155人もの民間人を殺害した。
米国の指導者らはイエメンでの戦争犯罪を支援し、教唆:
最近の10月13日、ホデイダに対する攻撃から避難して来た民間人のバスの一団がサウジ主導の空爆に曝されて、少なくとも19人が死亡し、30人が負傷した。アラブ同盟軍は2018年だけでも民間人の車両に対して50回以上の空爆を行っている。
民間人を攻撃することは第4ジュネーブ条約の下では戦争犯罪:
戦争犯罪を犯すことに使用されることを知っていながらも爆弾を提供したことによって、米国の指導者らは慣例法による国際法の下で戦争犯罪を支援し、教唆したとして裁きを受けることになるかも知れない。彼らは2018年8月のバス攻撃に使用された爆弾を供給した。彼らは2016年の葬式に対する空爆で同様の爆弾が使用されたことを知っていた。
トランプ政権は民間人の被害を最小限に抑制することについて議会で嘘をついた:
9月12日、マイク・ポンぺオ国務長官は議会に対して次のことを保証した。
「サウジアラビア政府とアラブ首長国連合政府は、(イエメンにおける)両政府の軍事行動によって民間人や民間のインフラに被害が生じるリスクを最小限に抑えるために、誰が見ても明白な行動をとっている。」
しかしながら、ニューヨーク大学教授のモハマド・バッズィは「ネイション」誌で次のように指摘している:
「国連の専門家グループやいくつかの人権擁護団体がサウジ連合は戦争犯罪に問われるかもしれないと報告した。これらの最近の調査を含めて、トランプ政権の保証は実質的に他のすべての独立した戦争監視団の報告とは矛盾するものだ。」
8月28日、国連の人権委員会によって指名された国際的に、あるいは、この地域で著名な専門家で構成されたグループがイエメンにおける戦争当事者によって引き起こされたと思われる戦争犯罪についてひとつの文書を纏めた。この専門家グループの結論によると、民間人の直接的な被害はその大部分がアラブ同盟軍の空爆によって引き起こされている。居住地域が爆撃され、結婚式や葬式、市場、拘置施設、医療施設、ならびに、民間船舶が攻撃された。
アラブ連合側が民間人の被害を最小限に抑えることに関しては、トランプ政権は議会に対して嘘をついている。「民間人の被害を最小限に抑えることについては進歩が見らない」ことから何人もの軍事専門家や国務省の地域専門家の間には反論があった。それにもかかわらず、ポンぺオはサウジと首長国連邦は被害の低減化に準拠することを保証した、とウオールストリートジャーナルは極秘メモを引用して伝えている。
新しい法律が制定され、米政権は6か月毎に議会に対してサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)の両国が民間人の被害を最小化することに取り組んでいることを保証しなければならない。もしも最小化を遂行していなければ、米国はイエメン戦争における給油作戦を中断する。極秘メモによれば、ポンぺオが述べた保証は近い将来のサウジとUAEに対する20億ドルの武器の売買をご破算にしたくはないという動機があったからに他ならない。
情報開示要求によってロイター通信社が入手した情報によると、米国の指導者らはイエメンにおける戦争犯罪を支援し、教唆したことの責任を問われる可能性を心に留めている。
サウジアラビアに対する米国の支援について議会がこれを押し戻そうとする動き:
この3月、給油活動や攻撃目標の特定作業を含めて、イエメンにおけるサウジの軍事行動に対する米国の支援活動を中断するという超党派の決議案が提出された。しかし、これは上院で55対44の投票結果によって否決された。これと同様の決議案が下院でも否決された。これらの決議案は戦争権限法を思い起こさせた。大統領がこの法律に基づいて敵地へ米軍を送り込むことができるのは議会が宣戦布告をした時、または、「米国に対する攻撃によって、つまり、その領土や所有物、または、その戦力に対する攻撃によって非常事態が発生した時」、あるいは、軍事力の使用が認証されるといった「具体的な法定上の認証が存在する時」だけに限られる。
上院法案の共同提案者であるバーニー・サンダース上院議員(無所属、バーモント州選出)は「今日、議会では、われわれは実際には敵対行動には関与してはいない、われわれ自身が交戦しているわけではないと議論する者がいる。このことをイエメンの人たちに伝えてみたらどうだ。米国製と明記された武器によってイエメンの民間人は住居を破壊され、命を落とし、米軍が再給油を行った爆撃機からの爆弾が投下され、米軍の支援に基づいて選定された目標が爆撃を受けているのである」と述べている。
その一方で、ドナルド・トランプはカショーギの死に関してサウジを責めることを回避するべく二段階の対応をとろうとしている。
しかし、議会はこれを押し戻している。
10月10日、22名の上院議員から成るグループがトランプに書簡を送り、これがグローバル・マグニツキー人権責任法の引き金を引いた。同法は大統領に「ある外国人が表現の自由を行使する個人に関して国際的に認められている人権を著しく侵害し、拷問を加え、超法規的な殺害行為を行ったかどうかを裁定し、120日以内にその裁定を議会に報告し、当該外国人に関して制裁を課すかどうかを決定する」よう求めている。
この書簡はカショーギは「国際的に認められている人権の侵害を被った犠牲者であると言えよう。これには拷問、凶悪で人らしからぬ、品位を落とすような扱いや罰、告訴や裁判も無く長期間に及ぶ拘束、人の拉致、秘密裡に行う人の拘束、人の生命や自由、または、安全を著しく損なうその他の行為が含まれる。」
これはトランプ大統領に制裁を課すよう求めている。つまり、「カショーギ氏に対する暴力に責任を有する外国人」に対して制裁を課すことであって、この外国人には「サウジアラビアの最高位の高官も含まれる。」
このスキャンダルは下院の民主党議員にとっては微妙なタイミングである。もしもサウジアラビアがカショーギの殺害に関与している場合には、米国は積極果敢な策をとるよう与党側の何人かの議員が求めているのだ。しかし、11月6日の中間選挙が3週間弱に迫っている今、彼らがトランプからの距離を大きくするならば、多くの議員は投票者からの跳ね返りに直面する可能性がある。
*
著作権: Truthoutからの許可の下で転載。
著者のプロフィール: マージョリー・コーンはトーマス・ジェファーソン法科大学院の名誉教授で、元全米法律家協会理事長、国際民主法律家協会副事務局長、「平和のための帰還兵」の顧問を務めた。「米国と拷問 - 法的、倫理的、および、地政学的な課題」の編集長や寄稿者でもある。コーンはブッシュ政権の尋問政策について議会で証言を行った。彼女はグローバルリサーチに頻繁に投稿をしている。
Copyright © Prof. Marjorie Cohn,
Global Research, 2018
<引用終了>
これで記事[注2]全文の仮訳が終了した。
ニューヨークタイムズの11月16日の報道
[注3] によると、米CIAはカショーギの殺害にはサウジ皇太子のモハメド・ビン・サルマンが命令を下したとの結論に至ったという。目下、トランプ大統領はCIAからの詳細な報告を待っている。
このCIAの判断が正しいとしてトランプ大統領がCIAの報告内容を受け入れた場合、サウジアラビアに対して何らかの制裁を課さざるを得なくなるであろう。その場合、サウジに対する軍事的な支援も影響を被るに違いない。米政府が何とか守ろうとしている大量の武器の売却がご破算となるのかも・・・。
しかしながら、米国の政治を眺めていると、事実に基づいて行動するよりも、政局を乗り切るためには真実を捨てて、事実を歪曲することが驚く程多い。今後、どのような展開になるのか、眼を離せなくなってきたことは確かだ。さらに二転三転する可能性が十分にある。
参照:
注1: Another
Proud Day For Western Civilization - Yemen Girl Who Turned World’s Eyes to Famine
Is Dead: By Declan Walsh, The 21st Century, Nov/03/2018
注2: Khashoggi’s Murder and Saudi War
Crimes in Yemen Were Facilitated by US: By Prof. Marjorie Cohn, Global
Research, Oct/22/2018
注3: CIA Concludes
That Saudi Crown Prince Ordered Khashoggi Killed: By Julian E. Barnes,
The New York Times, Nov/16/2018
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