2021年4月10日土曜日

中国は今後アジアをどのように変えて行くのか

中国とイランは古くから文明が栄えて来た大国としてアジア圏では異彩を放って来た。これらふたつの国が、今、貿易や経済、政治、文化、安全保障の面で協力を深めつつある。両国は、最近、今後の25年間にわたって戦略的な協力関係を推進することに合意した。

米国から経済制裁を受けているイランにとっては現地通貨で決済が可能な対中貿易を拡大し、国内経済を支えることは最優先の政策であるし、一帯一路政策を推進する中国にとってはイランはその先にあるエネルギー供給源である中東への進出に必要な足掛かりを提供することになる。この動きは両国にとって戦略的にはもっとも重要な課題のひとつであろう。これは中国が得意とするウィン・ウィン・ゲームの好例とも言えよう。

日本国内では、45日に公開された読売新聞の世論調査によると、菅首相が訪米し、バイデン大統領との首脳会談において日米関係が強化されることついて世論の83パーセントが「望ましい」と考え、中国に対して圧力を強める米国に日本の世論の67パーセントが同調すべきだと答えているという。

私の個人的な見方では、この世論調査は非常に短期的な視点からの調査に終わっていると言うしかない。なぜなら中国とイランは古くから文明が栄えて来た大国としてアジア圏では異彩を放って来た。これらふたつの国が、今、貿易や経済、政治、文化、安全保障の面で協力を深めつつある。両国は、最近、今後の25年間にわたって戦略的な協力関係を推進することに合意した。

米国から経済制裁を受けているイランにとっては現地通貨で決済が可能な対中貿易を拡大し、国内経済を支えることは最優先の政策であるし、一帯一路政策を推進する中国にとってはイランはその先にあるエネルギー供給源である中東への進出に必要な足掛かりを提供することになる。この動きは両国にとって戦略的にはもっとも重要な課題のひとつであろう。これは中国が得意とするウィン・ウィン・ゲームの好例とも言えよう。

日本国内では、45日に公開された読売新聞の世論調査によると、菅首相が訪米し、バイデン大統領との首脳会談ば、衰退の一途を辿っている米国と台頭しつつある中国との二国間関係は今後時が経つにつれて時の利を得るのはますます中国であろうと推察されるからだ。したがって、日本について言えば、長期的ならびに大局的な観点からすると米国にべったり追従しようとする菅政権の判断は政権の存続を第一にした短期的な見方しかしないと思えるのだ。こんなことが起こって欲しくはないのだが、長期的な国益は無視され、日本の亡国を加速することになるのではないかと危惧される。

ここに「中国は今後アジアをどのように変えて行くのか」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有したいと思う。

著者はロンドン大学の東洋アフリカ研究学院に籍を置く政治学者で、パキスタン出身のようだ。西側の学者とは違った意見を拝聴することができるのではないかと期待する次第だ。

***

イランは今後の25年間のために中国と数兆ドルにも達する契約を結んだ。中国が今まで採用して来た経済政策、ならびに、西アジアは西側との結びつきが余りにも堅固であったことから新参者が参入することは非常に困難であったという理由も含めて、中国は、今や、かっては考えも及ばなかったようなやり方で西アジア・中東における足跡をより多く記そうとしている事実を否定する余地はほとんどない。中国が始めている経済革新の力はイランにとっては膨大な発展をもたらすばかりではなく、イランは自国の競争相手であるサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)といった国々を含む中東地域に向けて中国がその活動をさらに広げる際の貴重な足掛かりとなることであろう。中国にとっては、中東における自国の存在や展開を通じて経済的な利得を期待することができよう。また、それだけではなく、中国の存在は現出しつつある米中間の世界規模での競争に勝って、第二次世界大戦以降の米国の覇権や中東地域に見られて来た圧倒的な支配を押し戻したいとする欲求によっても駆動されている。

こうして、中国外相が先週中東を訪問した時彼は単にイランとの契約書に同意の署名をしただけではなく、彼がもっと興味を示し、注力したのは新しいゲームのルールを導入することであった。つまり、順序としては何よりもまず、経済への関与や結びつきに焦点を当てることであった。それは、要するに、伝統的な湾岸諸国間の緊張といった話ではない。王毅外相がサウジのMBS王子と会い、サウジの立場を支持し、外部勢力がサウジの国内問題に干渉することに異議を唱えた際、王外相はジョー・バイデン政権とは現在必ずしも良好な関係を持ってはいないMBSに中国との関与を「模索し、サウジ自身の状況に合致した開発の道を見い出す」絶好の機会を与えたのである。この道は、王外相がサウジの公的なニュース・チャンネルとのインタビューで強調したように、「超大国による地政学的な競争からサウジを解き放ち、同国の地域的現実によく合った開発の道を独立した形で推進することを可能とすることであろう。」

現状では、中国はサウジアラビアに対してもイランとの間で合意したものと同様の開発の道を提案した。こうして、中国はペルシャ湾における地政学的な競争のゴタゴタには巻き込まれないよう望んでおり、新たな航路を進もうとしているのだ。つまり、同地域における国々は、スンニ派とシーア派あるいはムスリム同胞団といった宗教勢力の間に存在するライバル観を含め、地理経済や地政学あるいはイデオロギー上の競争意識を完全に断ち切ろうとしている。

したがって、さまざまな開発プロジェクトや原油生産の増強、物品の供給を含めて、中国はイランと数兆ドルにも達する契約に署名する一方で、中国はサウジアラビアとの連携をも拡大している。それらの連携活動にはサウジの希望に沿って中国への原油輸出量を拡大し、石油化学や核エネルギーならびにその他のエネルギーの分野を含めて、中国からの資本投下を確保することが含まれる。さらには、新分野として5Gや通信、デジタル技術での活動を拡大することも含まれる。サウジアラビアは中国と湾岸諸国との間の自由貿易交渉を推進するために中国との合弁事業を行いたいとMBSは付け加えた。

こうして、ライバル関係にある両国へ地政学的な緊張やライバル意識を避け、どちらかと言うと互いに似通った経済開発の枠組みを提言することによって、中国は米国のような外部勢力には最小の余地だけを残すような経済環境を確立し、湾岸地域が過去数十年間にわたってそうであったように今後も同国にとって有利な状況を継続することができるように操ろうとしている。

サウジアラビアのために米国がイランに対して課した経済制裁の軛をぶち壊す機会を与える一方で、イランにおける中国の投資は、ジョー・バイデン政権にとってはMBSを次期国王に押すことは気が進まない中、米国との関係を組み直すひとつの機会をもたらすことになろう。

湾岸諸国に外部の地理経済との連携を多様化させ、米国に対する依存性を減少させることができる機会を提供することによって、中国は西アジアにおける米国の地位に深刻な挑戦を挑んでいる。米国の地位はどのように保たれるかと言うと、不安定な地政学的シナリオを駆使し、自国のために軍事的に強固な守りを敷き、米国の軍産複合体をまず第一に維持することに依存しようとする。その一方で、中東諸国にとっては、中国経済が提供しようとする新たな道は国庫収入の第一の収入源である原油に何十年となく依存して来た今までの道とは大きく異なるものとなろう。 

中国自身にとってはどうかと言うと、ジョー・バイデンが米国や日本、インド、オーストラリアといった国々で構成された4ヵ国を通して反中同盟を組織しようとしている中、中国は中東に関心を向けている。サウジアラビアやイランおよびUAEといったお互いに競争相手である国々へ接近することによって、中国は米国の野心に挑戦する姿勢を示し、米国が中国を国際的なレベルで包囲することをますます困難なものとしている。

何兆ドルにも達する中国との契約が暖かな歓迎の意を持って迎えられたという事実は湾岸地域は自分たちが現在置かれている地理経済的な景色をいかに変えたいと願っているのかを物語っている。この意味においては、中国と湾岸地域との結びつきは、米国と湾岸地域との結びつきとは異なって、それぞれの将来の道が互いに交差し、さまざまな国益に資するようになるであろう。

中国が署名したイランとの連携および深まりつつある他の湾岸諸国との繋がりは現行の地理経済を根底から覆す潜在力を持っている。湾岸諸国は自分たちの提携相手を多様化し、米国に対する依存性の度合いを低下させることによって、この地域の地政学的なシナリオもまた劇的な変化を遂げることになるだろう。

したがって、中国とイランとの間の連携をただ単に孤立した出来事として捉えることは間違いとなる。事実、王外相によるイラン訪問はイランやサウジアラビア、トルコ、オマーンそしてUAEに対して中国は経済開発に主眼を置いた共通の政策を適用しており、この地域全体を如何にひとつの領域として捉えているのかをよく示している。中国にとっては並々ならぬ歓喜となったことであろうが、中国が行ったと報じれらているウイグルでの「大量虐殺」についてサウジアラビアは米国のキャンペーンを支持することは拒んだという事実は中国がますます受け入れられて来たことを示すものであり、これは米国にとっては大きな失望である。

著者のプロフィール:サルマン・ラフィ・シェイクは国際関係やパキスタンの内政・外交を専門とする研究者であり、分析の専門家である。主としてオンライン誌の「New Eastern Outlook」にて執筆している。

***

これで全文の仮訳が終了した。

この引用記事には西側の主要メディアが報じたくはない事実が述べられているようだ。たとえば、サウジアラビアのMBS王子は中国が行ったと報じれらているウイグルでの「大量虐殺」について米国のキャンペーンを支持することを拒んだという。サウジは米国一辺倒の姿勢から中国との連携へと大きな方向転換を行ったように思える。歴史的な動きである。換言すると、中国の影響力が如何に大きいのかを物語っているとも言えよう。このような新たな趨勢が今後何十年も続くとしたら、現在米国を中心として動いている世界は間違いなく大きく変って行く。

このような歴史を変えるような出来事についての報道が代替メディアにしか期待できないとすれば、彼らの存在感は今後ますます確固としたものとなるであろう。このことは既存の主要メディアが全体としてその読者や視聴者を失っている趨勢を説明する中心的な要素なのではないかと思われる。われわれ一般庶民にとっては主流メデイアだけに依存していると、偏った情報だけにアクセスすることになる。つまり、1%にとって好都合な情報だけに接することになる。こうして、洗脳されるがままとなる。今、われわれは情報社会にますます深く入り込んで行こうとしている。洗脳されることを避けたいならば、われわれ一般庶民は代替メディアを根気よく検索し、自らの見識を磨き、築き上げて行くことが必須となる。

時代はすっかり変わったという感覚を持ち、あくまでも事実や真実を求めながら、現行のポストモダーン社会を乗り切って行きたいものである。

参照:

1How China is Going to Reshape Asia: By Salman Rafi Sheikh, NEO, Apr/01/2021





0 件のコメント:

コメントを投稿