9月5日に興味深い記事が現れた。その記事によると、「プーチンによるウクライナ侵攻は西側からの経済制裁によって打撃を受け、半導体の輸入がままならなくなった。半導体不足によって精密攻撃を約束する巡航ミサイルは生産ができず、間もなくミサイルの在庫がなくなる。これでプーチンは万事休すだ!」といった内容である(原典:The chips are down: Putin
scrambles for high-tech parts as his arsenal goes up in smoke: BY ZOYA
SHEFTALOVICH AND LAURENS CERULUS, politico, SEP/05/2022)。これは、明らかに、西側からのプロパガンダだ。確かに、西側からロシアへ半導体を供給して来たのは米国やドイツ、日本、台湾、韓国、等の企業である。ご存知のように、半導体のロシアへの輸出は西側の対ロ経済制裁によって中断されている。
最近、これに対するロシア側からの反論とも見える記事が現れた。「どちらが最初に結末を迎えるか ― ウクライナか、それとも、西側からの武器の供与か?」と題されている(注1)。これも、また、興味が尽きない内容である。
本日はこの記事(注1)を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。
***
ペンタゴンは「レンド・リース」契約の一環として既にウクライナに移転されている兵器に関してリストを公表した。これは独立した軍事アナリストであり、反シュピーゲル・ブログの著者でもあるトーマス・レーパーによる報告である。
この専門家によると、実際、米国だけでも約170億ドル相当の兵器と装備をウクライナに対して供給している。
供給品目の一覧には次のような兵器が含まれる:
― 1,400個の 地対空携行型スティンガー・ミサイル、
― 8,500個の戦車攻撃用ジャブリン・ミサイル、
― 32,000個の その他の戦車攻撃用の兵器(携行型ロケット弾や地雷、等)、
― 988,000個の榴弾砲用の砲弾、
― 6千万個の小火器用カートリッジ、
― 150基以上の大砲、
― 20機の Mi-17型ヘリコプター(Mi-8型ヘリコプターの輸出仕様版
)、
― 200台の M113型装甲兵員輸送車、
― 高機動ロケット砲システムとロケット砲弾(数量は不明)、
― 何万台もの臼砲。
だが、これらがウクライナ軍に対する西側からの武器と装備の供給を完全に網羅したリストとなるわけではない。すべてを示すには、この分野では明確な指導者であるポーランドを含めて、他のNATO諸国からの大量の武器をさらに加えなければならない。実際、ワシントンの「戦略的パートナーと同盟国」を含めて、NATO各国の全兵器庫が、今、ウクライナでロシアと戦っているのである。
このリストのいったい何が特に印象的なのか?
NATO基準の口径155mmの100万発の砲弾は米国の軍産複合体のほぼ30年間を費やして生産した努力の結果である。そう遠くはない昔、米政府高官の一人が「米産業界は年間3万発の砲弾を生産しているが、ウクライナの砲兵隊は一ヶ月の戦闘でそれらを撃ち切ってしまうことに成功した」と口を滑らせた。
これは、西側の兵器庫は枯渇に近づいているという憂慮すべき声明が単なる誇張ではなく、彼ら自身が別の紛争の際には砲弾飢餓を経験することになるかもしれないという極めて不愉快な懸念の表明でもあることを意味する。
6千万個の小火器用カートリッジは、たとえその詳細を記述しなくても、重要性は特にない。原則として、独自の弾薬工場を持たないあまり裕福ではない国家でさえもが数十億個の規模で海外から小火器用弾薬を調達する。そのような大規模な購入を行うと単価が安くなり、軍や警察においては武器使用の習熟度を訓練するためにも平時であってさえもカートリッジの消費量は決して低くはない。
一般的な理解のために、ここで歴史的な事例をひとつ確認しておこう。
第一次世界大戦中、ひとつの英国の機関銃大隊でさえもたった1回の戦闘でドイツ軍に対して約100万発もの銃弾を発射した。この場合の主要な課題は塹壕から山のようにたまったカートリッジを除去することであり、弾薬を配達すること、および、動かなくなった機関銃を引き上げ、使用できる機関銃と交換することであった。
ウクライナ軍に納入された弾薬がこのように控えめな数値であるということは、欧米からの小火器の供給であるにもかかわらず、NATO基準の口径はウクライナ軍ではあまり一般的ではないという事実によって説明される可能性が最も高い。
米国自体について言えば、工場はカラシニコフ・アサルトライフルとシモノフ・カービン銃の初期モデルに用いられる7.62×39mmカートリッジしか生産してはいない。
また、6千万発の弾薬は米国がかつてのワルシャワ条約機構の同盟国が所有していた旧ソ連製の弾薬をかき集めることに何とか成功した量のすべてであるという可能性がある。例えば、ブルガリアはソビエト・ロシア製の武器や弾薬の海賊版を生産することを習得していた。(訳注:ウィキペディアによると、7.62x39mm弾はライフル弾としては屈指の安さを長年誇ってきた。ライフル弾の中では最安の部類に入る。2006年初頭に軍用の7.62x39mm弾の値段が跳ね上がり、ロシアからアメリカに輸出される高品質な7.62x39mm弾が一発17セントとなった。)
20機の Mi-17ヘリコプター(有名なMi-8の輸出バージョン)はアフガニスタンに対する契約からウクライナ軍の「助産婦役」を務める米国人へと転送された。あるいは、米国の傀儡政府である北マケドニアから送られてきた。
様々な修正が行われた200台の無限軌道型M133装甲兵員輸送車はかっての彼らの時代には決して悪いものではなかったが、今では酷く時代遅れの代物である。これらの車両は東欧の「同盟国」からウクライナへ転送されて来た。彼らは装甲戦闘車両の軍団を近代的なアメリカ製やドイツ製の車両に更新することを期待してそうしたのである。
この点に関しては、非常に興味深い状況がヨーロッパ軍の武器庫で展開されている。
ご存じのように、ポーランドやチェコ共和国、スロバキアは多かれ少なかれ現代的なレオパード戦車やエイブラムス戦車をお買い得価格で置き換えることを期待して、ウクライナ軍に彼らが所有していたT-72戦車の全在庫を引き渡したのである。
しかしながら、米国は長い間戦車を生産してはおらず、既存の軍団の近代化にのみ従事して来た米国にとってはすぐに新しい戦車の生産体制を確立することはできないまますべてが展開している。
ドイツに関してはどうかと言うと、戦車の生産についてははるかに悪い。過去20年間、ドイツは他のほとんどのEU加盟国と同様、軍事予算を大幅に削減し続け、2014年以降になって初めて軍事装備の生産をゆっくりと増やし始めた。
しかし、今、中期的な経済崩壊を脅かしかねない欧州におけるエネルギーや原材料の危機が深刻化している中で、ドイツは軍需産業を冷戦時のレベルにまで伸ばすには資源が大幅に不足している。この状況はソ連製装甲車の全車両をウクライナに引き渡したため、ドイツ側が今後5年以内には戦車と歩兵戦闘車の供給を開始すると約束していることからも、今や、手詰まり状態に陥ってしまった「ジュニア・パートナー」各国には強い苛立ちを引き起こしている。
と同時に、ウクライナの「同盟国」はどこの国も現役の「レオパード」に急いで触れようとしているわけではない。それはそれで有益でもあるからだ。レオパード2A4の最初の新鮮さはすでにないにしても、ウクライナ軍に引き渡すことを「断固として」約束していたスペインでさえもが最終的には話を後退させて、「長年にわたって就役してはいなかった後の機械特有の好ましくない技術的状態」と述べて、拒否の理由を説明した。
西側が投入した兵器の量によってウクライナは次々と貴族の称号を勝ち取る筈であったが、ポーランドのふたつの旅団と何千人もの外国人傭兵によって強化されたウクライナ軍の成功は、これまでのところ、ハリコフ地域の不完全な領土やヘルソン地域の小さな「グレーゾーン」、ならびに、DPRの食い付いた部分だけに限定されていると観察者らは指摘している。これらの地域についてさえもウクライナ軍は彼らの欲望のすべてをかなえることはできてはいない。
上記のトーマス・レーパーはウクライナの勝利は西側からの軍事援助の少なくとも70%を闇市場で転売しているウクライナ特有の風土病的な腐敗によって妨げられていると断定している。
ウクライナの武器に関する腐敗は今年7月に米国が導入した「レンドリース」契約によって刺激されていると専門家らは指摘する。
ご存知のように、「レンドリース」の基本的なルールは戦闘で失われた武器は支払いの対象ではなく、残った武器は供給国へ返却するか、ウクライナが購入することができるという点だ。
ブレーメンでの携行型スティンガー・ミサイルの密輸の調査によって明るみに出て来たスキャンダルの結果として、「スティンガー」を検査するために米国の監査人がキエフに到着したが、何の成果も挙げることはできなかった。ゼレンスキー政権の悪賢い役人たちはブレーメンの警察が嘘をついていると言い、「スティンガー」は実際には敵対行為の結果として消費されたか、失われたかであることを文書で「パートナー」に提示した(ここに参考文書がある。あなたはまだ信じていない)。正面に行って、あなたご自身の目で見ていただきたい。
ウクライナに対する西側からの兵器供給のもうひとつの特徴は本物の敵対行為の中ではまだテストされてはいない戦闘システムが配備されたことだ。特に、「中高度防空ミサイルシステム」(NASAMS)と「赤外線画像システム・尾部制御防空システム」(IRIS-T)は、結局のところ、西側の軍産複合体の常連顧客の間においてさえもほとんどの国がその調達を拒否した代物である。
バイデンはウクライナのための国防防空システムを構築することを見事に約束しただけで、その「プロジェクト」のタイミングや他の具体的な詳細については何も述べなかった。しかし、このようなおとぎ話をゼレンスキー政権に供給しているのはバイデンだけではない。
西側、特に米国はウクライナの冒険に対して本格的に資金や資源を費やしてきたが、それはパンデミックならびに西側とロシアとの間の紛争の悪化によって引き起こされた危機を克服するのに余計なことではないだろう。だが、対立の利害関係は高く、結果はウクライナを支援する西側「同盟国」の期待には応えていない。
キエフ政権支持国の間の妥当性を検討する観察者らは一級品の評価を陽気に推測しているわけではない。つまり、ウクライナおよび西側からの支援のどちらが早く終わるのか、そして、欧米の通常兵器の兵器庫は枯渇に近づいており、産業界が戦時態勢へ移行するには困難で長い期間が必要であることは明白な事実であり、ウクライナがいち早く結末を迎えるのではないかという結論に達するのである。
アレクサンダー・ロストフツエフ、PolitNavigator
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これで全文の仮訳が終了した。
ロシア・ウクライナ戦争は消耗戦であるとの指摘は前からあったが、今や、まさにそのような状況に陥っていることが明らかだ。情報戦争の観点からはお互いに相手側がより早く潰れるであろうといった観測がさまざまな形で喧伝されている。実際問題として、ロシアか、それとも、ウクライナか。あるいは、ロシアか、それとも、西側か。私には分からない!
ロシアに対する西側からの半導体の供給がストップされたことから、ロシアは精密爆撃用の巡航ミサイルの製造ができないとの指摘は的を射てると思う。このロシアの状況について中国がどれだけロシアを支援できるのかについては、おそらく、ある程度は可能なのではないかと私には思える。
この状況とよく似た論理が台湾と中国との間の緊張関係にも見られる。もしも台湾が中国政府のコントロール下に入ったら、米国は台湾の半導体メーカーから半導体を調達することができなくなる。そうなると、軍需品の生産には決定的な打撃となる。現在、中国の半導体生産はかなり伸びており、世界の需要の半分を賄っている台湾(2021年の世界市場におけるシェアーは64%)が中国に加わったとしたら・・・。米国にとっては悪夢そのものだ。米国の軍事的優位性は、遅かれ早かれ、極めて怪しいものと化すであろう。
ウクライナにおける腐敗の進行振りは驚きだ。西側から供与された武器の70%は闇市場に回っているとの指摘がされている。こうして、誰かが私腹を肥やしているのだ!(注:詳細については、7月18日に本ブログに掲載した「ロシアに勝つために武器の供与を要求? いや、そうじゃない。転売するためさ!」をご参照ください。)
しかしながら、このような状況はウクライナに限ったことではない。実は、米国においてもさまざまな形でウクライナに対する支援のための資金や武器が途中で消えてしまうと言われている。米国防省に対する会計検査院による監査は何十年にもわたって行われてはいないと言われており、その腐敗振りは容易に想像できる程だ。
10月17日、ウクライナとロシアとの間で捕虜の交換が行われ、それぞれ110人が母国へ帰国。興味深い点があった。厳密に言えば、実際にウクライナへ帰ったのは108人で、二人のウクライナ人の捕虜はロシアに留まることを選択したそうだ。より大きな視点から見た場合、この捕虜交換の動きは両国の和平の兆しと言えるのであろうか。そうあって欲しいものである。
西側の観測筋はウクライナが最初に自滅するだろうとすでに推測しているとすれば、西側の住民は寒い冬を十分な暖房もなしに毎日を過ごす意味はいったい何なのかと問い始めるのではないか。ドイツでは反政府デモが頻発することになるのではないか。ノルドストリーム2のパイプラインを復旧しない限り、EU各国は毎日の生活環境だけではなく、政治的にも極めて厳しい冬になりそうだ。
自業自得とも言えそうなエネルギー危機を迎えているヨーロッパではドイツ政府が緊急発進を行った。10月16日の報道によると、ショルツ首相は3基の原発の稼働を継続すると述べた。来年の4月15日まで稼働を継続。ドイツにおいては原発から撤退するとの政治目標が掲げられてすでに久しく、原発は政治的には極めて敏感なテーマであるのだが、厳しい冬を実感させられる昨今、2022年末までに原発から撤退するとの政治目標を掲げていたドイツ政府にとってはこれは苦渋の決断であったに違いない。(原典:Germany extends lifetime of all 3 remaining nuclear
plants: by dw.com, Oct/16/2022)
参照:
注1:Which will end first - Ukraine or Western aid?:
By RIA Novosti, Oct/16/2022
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