2024年7月10日水曜日

先制攻撃が可能:ロシアが地上レーダー施設への損害に無関心な理由

 

523日に撮影された衛星画像にはロシアのレーダー基地「アルマビル」の損傷が写っている。

523日にロシア南西部のクラスノダール地方でウクライナによる無人機攻撃が行われた直後に撮影された衛星画像である。この画像はウクライナの占領地域クリミア半島やバルカン半島、東地中海、ペルシャ湾に防空網を提供する主要なレーダー施設が大きな損傷を被ったことを示している。「RFE/RLロシア通信」が報じたところによると、射程約6,000キロをカバーするヴォロネジ-DMレーダーを2基保有するアルマヴィル・レーダー基地はレーダーを収容する建物に深刻な被害を受けたようだ。The War Zoneのブログによると、この基地はロシアの核弾道ミサイル早期警戒システムの一部である。(原典:Satellite Photos Show Ukrainian Drone Strike Damaged Russian Radar Station: By RadioFreeEurope/RadioLiberty’s Russian Service, May/25/2024

ここに「先制攻撃が可能:ロシアが地上レーダー施設への損害に無関心な理由」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

***

ご列席の皆様、先週(520日の週)、ロシア南西部の早期警戒レーダー施設のひとつが破壊され、もうひとつの別の施設も未確定な損害を被ったことについて、ロシアがどうしてあんなにのんびりしているように見えるのかに関して既成概念にとらわれずに、この議論の冒頭で、説明をしておこう。西側の主流メディアはこの状況はロシアの防衛にとっては深刻な障害になると語り、米国の一部の軍事専門家はロシアの完璧とは言えない衛星警報システムが何を告げているかを再確認するための適切な地上レーダーがないために、想定される攻撃の最後の数分間の段階に発生する監視装置の誤検知によって引き起こされかねないロシアからの核攻撃にわが国を曝してしまっているとして、バイデン政権を非難する記事を掲載した。

思うに、根本的な問題はプーチン大統領がロシアは米国と同盟国軍が提示するいかなる挑戦に対しても非対称的な対応をとると発言した点にあって、これはずっと前に指摘されていたものだ。ワシントン政府はジョージ・W・ブッシュの下でABM条約から離脱し、それによって核抑止力の基盤を弱体化させ、ロシアは壊滅的な対抗措置を見つけ、それを実施するために独自の方向に向かったことだ(訳注:ここで言う「ロシアの独自の方向」とは、ロシアが極超音速ミサイルや他の最新式兵器を開発し、実戦配備したことを指している)。

結局のところ、エリツィン時代に海外に出て、主に消費者部門にサービスを提供するシリコンバレーでグーグルやその他の素晴らしく強力な企業を設立したロシアのIT部門の天才たちはロシアの頭脳を枯渇させるには至らなかった。 実際、プーチン氏と国全体のために、22年後に世界最高峰のロシアの防衛システムとして認識されている最新鋭の武器を設計・生産するための十分な人材プールを提供するのに十分とも言える愛国的なIT部門の天才たちがまだ国内に残っていた。

西側諸国の誰も、ロシアが開発を続けてきたことの意味について、特に、可哀そうにも盲目になってしまったロシアは核攻撃の早期警戒警報を受けとれなくなった現在、極めて大きな懸念の文脈においてそれがいったい何を意味するのかについては語ろうともしない。ロシアは、より小型で迎撃することができない極超音速ミサイルを弾頭として搭載するサルマト・ミサイルを新たに導入した(訳注:サルマトは、射程18,000km、発射重量208.1トンの3段式液体燃料ミサイル。ミサイル全長35.3メートル、直径3メートル。「重量級」ICBMに分類されるこのサルマト・ミサイルはさまざまな弾頭を搭載できる。ロシアのメディアによると、サルマトは10トンの弾頭、10基の750キロトン、1516基の軽量MIRV弾頭、3基のアヴァンガルド極超音速滑空体(HGV)を搭載することができる。特に、アヴァンガルド超音速滑空体に対して米国は有効な迎撃能力を持ってはいない。202392日のアルジャジーラの報道によると、すでに実戦配備されている)。そのおかげで、ロシアは先制核攻撃能力を持っている。満載のサルマト・ミサイルは一発で英国の大きさの国土を真っ平に叩きのめすことが可能。サルマトを何発か使うだけで、米国を地図上から抹消することができる。さらに、ロシアは米国沖400kmのフリゲート艦から発射することが可能な短・中距離の極超音速ミサイルを保有している。さらには、彼らは核魚雷(ポセイドン)にも取り組んでおり、核魚雷が作り出す津波によって沿岸都市全体を破壊することができる。

これらが何を意味するのかと言うと、いざとなれば、例えば、アラビア湾に核弾頭巡航ミサイルや弾道ミサイルを搭載した米国の潜水艦が集結しているとの諜報機関の報告が成された場合、彼らの衛星が不吉なメッセージを持つ西ヨーロッパや中欧、東欧においてミサイルが終結していることについて報告を受けとった場合、彼らは米国に対して壊滅的な先制攻撃をちらつかせ、恐らく実行するであろうという可能性は十分にあるということだ。米国は、連中が公然と言っているように、ウクライナにおいてだけではなく、西ヨーロッパ全域においても決して油断のならない傀儡師なのである。

米国のような世界的な規模でのミサイル発射探知能力を持ってはいないロシアを米国が蔑視しない第二の論拠は主要都市やおそらくは主要な軍事インフラについては米国の核攻撃から防護するためにロシアは独自のアイアンドームの建設に投資をして来たことだ。

2日前、「グレート・ゲーム」の司会者ヴィヤチェスラフ・ニコノフが、前日(529日)にウクライナから発射された米国のATACMMS長距離ミサイルが、ケルチ大橋の地域やロシアの奥深くにある他の標的に向けられた攻撃について話しているのを聞いて、それが何を意味するのかを私は理解した。

この46分間の番組の冒頭の数分間をご視聴ください:https://rutube.ru/video/ef8865c657153655c76030b72c5ae5ac/

[ドイツ語訳に続いて、この部分の書き起こしを以下に参照していただきたい]

これらの攻撃は、バイデン大統領がキエフのロシア国内攻撃の意図を米国が黙認すると公式に発表する前日に行われたことに留意されたい。バイデン陣営は、これらの兵器は軍事的に価値のある標的に対してのみ使用されると保証した。クリミア半島とロシアを結ぶケルチ大橋は、もちろん、前線へのロシア軍の全ての輸送がロシアが過去1年間に支配海域を拡張したアゾフ海と平行に走る陸上鉄道に振り向けられていることを考えると、今や純粋な民間インフラである。

ニコノフが指摘した論点はこれらのミサイルは全てがロシアの防空システムによって撃墜されたということだ。この招待された専門家は米国のミサイルには弱点があり、ロシアはそれを探り、空中で破壊するために利用していると聴衆に伝えた。

これはロシアの防空システムが100%信頼できるということを意味するものではない。しかし、それはあらゆる種類のミサイルに対して同システムが素晴らしい仕事をしていることを意味する。 もちろん、これは、ロシアのレーダー施設に対するウクライナの攻撃のために選択された兵器であって、より小型で、機動性の高い攻撃ドローンを発見することがはるかに困難な防御とは好対照である。しかし、ドローンは都市を破壊したり、何百万人とは言わないまでも、何十万人もの人々を殺害したりはしない。だが、ミサイルはそういった攻撃を行うことができる。

同日、ロシアの黒海艦艇に対して送り込まれた46隻の英国の無人カッター(それぞれが600万ドル相当)はロシア側によって破壊された。

こうした最近の米国と英国の誘導攻撃は米国が率いる西側諸国がウクライナで敗北に直面しており、そのことを完全に理解し、利害関係を高めるためにできる限りのことをしている証拠であると言われている。間もなくこの紛争に投入されるF16戦闘機は西側諸国によるもうひとつの大きなエスカレーションとなるだろう。それらの戦闘機はロシアを封じ込めるためのNATOの核武装タスクフォースとしてロシア側は対応するであろう。ウクライナの現場に教官を提供する国々をまとめるというフランス主導の取り組みは目下進行中の非常に危険なもうひとつのエスカレーションである。

注:ニコノフと彼のパネリストたちはこれらの実存的脅威について冷静かつ慎重な議論をした。名目上はウクライナが行った攻撃の成功にクレムリンがどのように対応するかは定かではないが、事実上、西側の主導によるものであった。恐らく、キエフ市に対してロシアは大規模な攻撃を行うだろう。

                                                                  *****

100%確実であるように、自動的な「デッドハンド」によるミサイル発射がすでに台本化されているのに、ミサイル攻撃の飛来を15分前に警告することにいったい何の利益があるのかと私は疑問に思う。しかも、ワシントンに向けて赤電話の受話器を持ち上げるという感覚はいったい何なのであろうか。いったい誰と話すというのか?バイデン、サリバン、あるいは、連邦政府の上層部に居座る嘘つきやカード詐欺師と話すのか?彼らの中には国家の命運を危険にさらしてもいいような信頼できる人物はいない。(訳注:冷戦中、たとえすべての指揮命令系統が破壊されてしまったとしても、第二撃能力を確保するために、ロシアは核兵器備蓄のフェイルセーフ装置を構築した。これはコードネームで「デッドハンド」と称される。このシステムは地震、光、放射能、圧力センサーを活用して、迫り来る核攻撃を探知し、必要に応じて報復する。一番いいところは何か?このシステムはほぼ確実に今も稼働しているという点だ。)

私が伝えたい最も重要なメッセージは米国人は「猫の皮を剥ぐにはさまざまな方法がある」という古い民族の教えをすっかり忘れてしまったということだ。米国の反体制派地下組織の専門家たちは、米国の将軍やマスコミの手下連中がロシアが特別軍事作戦でそのような場合に米国がやること、つまり、衝撃と畏怖のキャンペーンによって皆を殺害し、行く手を阻むあらゆるものを破壊する作戦をとらなかったと非難したが、その際、ロシア人は弱くもなければ、愚かでもないことについて理解しようとはしなかった可能性がある。

©Gilbert Doctorow, 2024

***

これで全文の仮訳を終了した。

クラスノダールに設置されていた弾道ミサイル早期警戒システムが破壊されたとのニュースが世界を駆け巡った時、これは自国の安全保障に脅威を受けた場合にはロシアは核兵器で報復するとかねてから言っていた核ドクトリンの定義に合致するのではないかと私は懸念した。とすれば、最悪の核戦争に発展しかねない。なにしろ、ウクライナ軍によって破壊されたこの早期警戒システムは全ロシアで56か所に設置されている同種の設備のひとつであるからだ。

しかしながら、不思議な事態が展開した。西側のメデイアが述べていたように、これはロシアにとっては致命的な出来事だとするならば、「ロシアはどうしてあんなにのんびりしているのか」という感覚は専門家たちにとっては大きな問題であったに違いない。

著者のギルバート・ドクトローがその謎を解いてくれた。ロシアですでに実戦配備されている極超音速ミサイル「アヴァンガルド」や大陸間弾道ミサイル「サルマト」の存在は米国がロシアに対して先制核攻撃を仕掛けることを思いとどまらせるのに十分だ。それに加えて、ロシア側には報復核攻撃を実行する「デッドハンド」ミサイル発射システムが今も生きているという。

最後に残る議論は、おそらく、米ロ両国の核弾頭搭載の潜水艦の能力であろう。これについては専門家の意見や解説をお待ちするしかない。

米ロ両国の核戦争能力に大きな不均衡が見られると、そのような状況は抑止力として働くのかも知れない。近い将来の状況に関しては、少なくともそうであって欲しい。また、核戦争能力がお互いに均衡すると、核戦争の開始はお互いに高い確率で自殺行為となる。米ロ両国のエリートたちの良識、ならびに、核戦争は絶対に引き起こしてはならないという固い決意に期待したいと思う。

参照:

注1:First strike capable: why Russia is indifferent to damage to one or another ground based radar installation: By Gilbert Doctorow, Armaggedon Newsletter, Jun/01/2024 

 

 


0 件のコメント:

コメントを投稿