2012年6月3日日曜日

チェルノブイリ原発事故での犠牲者数の推定

福島第一原発事故から既に13ヶ月が過ぎようとしている。

福島原発事故で避難を余儀なくされた人たちや避難区域周辺の汚染が比較的低レベルにある地域で生活を続けざるを得ない人たちの健康は将来どうなるのだろうか。事故現場で放射線にさらされながら様々な事故処理作業に従事している人たちの将来の健康はどうなるのだろうか。事故直後の政府や地元自治体の対応に混乱があったことから、成長盛りの子供たちの健康は今後どうなるのだろうか。福島原発事故による将来の健康被害についての懸念は止まることがない。

これらの懸念や疑問についてある程度答えてくれる情報がある。それはチェルノブイリ事故で汚染地域から避難せざる得なかった人たちや過去26年間周辺地域に住み続けざるを得なかった人たちが経験した状況だ。そして、今も進行中だ。健康被害を受けた人たちの様子は様々な形で記録されている。特に公衆衛生学や疫学ならびに腫瘍学や小児科の専門家が記録した健康被害に関するデータは我々日本人にとっては貴重な資料となるに違いない。福島第一原発事故によって将来どのような健康被害がどのような規模で起こるのかを考える時、これらのデータはかけがえのない価値を持っている筈だ。
「チェルノブイリ原発事故における推定死亡数は4千人か、それとも百万人か(1)」という興味深い記事がある。この記事は今から2年前の記事であるから、福島原発事故以前のものだ。両極端なふたつの報告書の間には推定死亡数で250倍もの開きがあることから、この記事の著者はどちらの説を採用しても信頼性の観点からは大問題だと指摘している。その指摘から出発して、オバマ大統領が後押しする米国の「原発新時代」なるものに関して危惧の念を示した。原発テクノロジーに関して楽観的な推進派はIAEA(国際原子力機関)の外部に医師や公衆衛生の専門家で構成されたパネルを設置し、原発推進派も原発反対派も納得できるような客観的な評価を実施するべきだと提案している。

この率直な意見、大賛成だ。

 IAEA2005年に発表した推定死亡数は4,000(2)。これには急性放射線障害で事故の直後に亡くなった50人の事故処理作業員や甲状腺癌で無くなった9人の子供たち(合計で4,000人の子供たちが甲状腺癌を発症したといわれている)が含まれている。さらには、三つの典型的なグループの事故後90年間の推定死亡数、3,940人が含まれる。ここで言及されている三つの典型的なグループとは1986年から1987年にかけて事故処理に従事した20万人超の作業員(この集団の推定死亡数は2,200人、その原因は放射線被爆による癌や白血病など)116千人の避難を余儀なくされた人たち、ならびに、最も汚染がひどかった地域の住民27万人である。合計で60万人が対象だ。これらの人たちは原発事故で影響を受けた人たちの中でも最も高レベルの放射線被爆を受けた人たちである。
このIAEAのレポートとは対照的に、新たに出版された本によると推定死亡数は約百万になる。詳しく言うと、996千人と推定されている。ここに参照した新刊書とはChernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the Environment(3)を指している(これ以降「新刊書」と称する)。新刊書には膨大な数の報告書が収録されている。これが出版されるまでは、西側や日本では殆どの場合原文が英語で書かれた文献しかアクセスすることができなかった。新刊書にはロシア語から英語に抄録·翻訳された文献が多数収録されている。つまり、ウクライナやベラルーシおよびロシアの地元からの報告が多数収録されているということだ。

このような背景から、新刊書に収められている情報の質と量とは他の文献に比べて抜きん出ていると言えるのではないだろうか。
 
このブログではこの新刊書について理解を深めてみたいと思う。

新刊書の第2章、7.3項では事故処理作業員(通常、若い男性で平均年齢は33歳)の死亡数を推定している。さらに、7.7項ではチェルノブイリ原発事故の全犠牲者数を論じている。
何故996千人という数値に至ったのか、その内容を少しでも吟味してみたいと思う次第だ。内容を抄録して下記に示す。
 

(1)     事故処理作業員の健康状態はどんな経過をたどったか:

2章の7.3(Mortality among Liquidators)は事故処理作業員の死亡率を論じている。様々な報告がある。事故処理に当たった若者たちの多くはその後健康を害し、悲惨な生活を送ったことがうかがえる。個々の報告は下記のような内容だ。

(a) ウクライナでは、事故処理作業者の死亡率が1989年から2004年の間に5倍にまで上昇した(2005年の報告)

(b) ロシア国内登録によると、1991年から1998年までに52,714人のうち4,136人が死亡。しかし、24人の急性放射線障害による死亡者を除き、放射線被爆に起因すると公けに認められたのはたった216人だけとのこと(2004)

ここには、ロシア政府の公式記録と医療関係者の調査結果との間には大きなギャップが存在していることが明白だ。このギャップはロシア政府の意図によるものだったのか、それとも情報が不十分でそういう結果となったものか、あるいは緊急時特有の混乱からそうなったのかについては定かではない。

(c) ロシアのヴォロネッツ州では3,208人の事故処理作業員のうち1,113人が死亡。34.7%に相当する。カレリア共和国では、1,204人の事故処理作業員のうち644人が死亡。53%に相当(2008)。イルクーツク州アンガルスク市では、2007年までに1,300人の事故処理作業員のうち300人が死亡(2007)。カルガ州では事故後12年間に事故処理作業員のうち87%が死亡、年齢は30-39才。非政府組織であるチェルノブイリ·ユニオンによると、244,700人の事故処理作業員のうち31,700人が死亡した。これは13%に相当する。

(d) 1991年から1998年にかけて66,000人の事故処理作業員(放射線被爆量は約100ミリシーベルト)が癌により死亡。癌による死亡数が著しく増加した(2002)

ここに被爆線量の数値が出てきた。貴重な情報だと思う。

(e) 原子力産業(研究所も含む)の従業員で事故処理に従事した人たちの集団の平均余命が低下した。悪性新生物による余命低下が16.3%を占め、血液の疾病が25.9%、心的外傷や中毒が39.6%を占めた(2001)


他にも様々な報告がある。

上記に示す事例は、1990年以降、事故処理作業員の死亡率は同年齢の一般対照区の死亡率を上まわったことを示している。2005年までに112,000人から125,000人が死亡した。これは総数830,000人の15%に相当する。
これらの引用内容を見ると、心的外傷(トラウマ)や中毒が大きな割合を占めているとする報告がある。しかもその割合が想像以上に大きい。ここで報告されている中毒とは、多分、アルコール中毒とか麻薬中毒ではないかと想像する。これらの死亡理由を原発からの放射線被爆による死亡に含めても良いのかという疑問が出て来るかも知れない。放射能による健康被害の症状が現れ、その被害がさらに進行し、生まれ育った故郷から他の場所へ避難させられ、家畜や耕作地を失い、職を失い、日常の生活に支障が現れて来ると、将来の不安は際限なく大きくなって行くだろうと思う。うつ状態に陥る人も増えるだろう。不安やうつ状態から逃れようとして、多くの人たちが飲酒や麻薬に走ったのではないだろうか。
この心的外傷による犠牲者の問題は福島原発事故でもこれから大きく表面化して来るかも知れない。人々の反応は洋の東西を問わずそれ程大きな違いはないからだ。
社会経済的に同等で同年齢の一般対照区と比較して被爆地域での死亡率が有意に高い場合、その差異は統計的には放射線被爆のせいだと言えるのではないか。癌の発生だけに着目すると除外されてしまうかも知れないが、癌以外の病気や心的外傷や中毒に起因する死亡であっても、これらは公衆衛生学や疫学的には放射線被爆が一次的な要因であったと言えよう。原発事故が地域住民の生活に甚大な影響を与えたことは確かだ。
さらなる議論については専門家の解説やご意見をお待ちしたい。

(2)     総死亡率:

次に続く7.4(Overall Mortality)は総死亡率を論じている。放射能汚染地区では明らかに総死亡率が上昇した。 

(3)     癌発症のリスクに基づいた一般死亡率:

7.5(Calculations of General Mortality Based on the Carcinogenic Risks)では癌のリスクに基づいた一般死亡率の算出を論じている。チェルノブイリ事故による癌の発生によってどれだけ死亡数が増えたか、あるいは、増えるかを算出した報告書は数多くある。そして、結論もさまざまだ。新刊書の表を見ると11件が掲載されている。算出の対象とした期間は50年から90年、あるいは「For all time」という記述もある。「For all time」の場合は個別の報告書を読んでみない限り具体的な期間は分からない。しかし、それは50年とか90年とかの期間と同程度の、人の一生を網羅できるような長い期間ではないかと想像する。11件の報告書の中で最小の推定死亡数は4,000(ウクライナ、ベラルーシ、ロシアのヨーロッパ地域を対象)で、最大死亡数は899,310人から1,786,657(全世界を対象)である。 

ここには興味深い注釈が付されている。「この表に収録された様々なデータの間には二桁もの違いがある。このような非常に広いバラツキ範囲というのは科学の分野で通常見られる不確実性に起因するバラツキの範囲を大きく上まわっているので、取扱いには注意して欲しい」と。確かに、最小値を示す報告書はベラルーシ、ウクライナ、ロシアのヨーロッパ地域だけを対象としており、最大値を示す報告書は全世界を対象にしたもの。したがって、これらふたつの報告書を直接比較すると、オレンジとリンゴを比較するようなことになりかねない。


(4)     一般死亡率:

7.6(Calculations of General Mortality)は一般死亡率の計算について論じている。チェルノブイリ原発事故の影響を統計論的に論じるには対照区となる汚染されてはいない地域をどこに選定するかが問題となる。汚染地域と地理的にも社会経済的にも似通った地域を選定することが求められる。

ウクライナ(2002年の人口が2,290,000)、ベラルーシ(2001年の人口が1,571,000)およびロシア(1999年の人口が1,789,000)の汚染地域の総人口は5,650,000人。この集団の事故後15年間の原発事故による死亡数は212,000人と推計された。 

ここで、個人的な興味として、上記の値をIAEAレポートによる推定死亡数(4,000)と敢えて比較してみたい。 

対象地域はIAEAレポートも新刊書の7.6項も同じだ。つまり、ウクライナ、ベラルーシおよびヨーロッパ·ロシアが対象である。ところが、期間はまったく相違する。IAEAレポートでは事故後90年間の推定(つまり、事故時あるいは事故後に影響を受けた胎児が普通の寿命を全うするまでの90年間を対象とした推定)であって、その死亡数は4,000人と推定された。それに対して、7.6項は事故後15年間のみの犠牲者数であって、その死亡数は212,000人。この段階で既に53倍もの開きがある。もし、新刊書の死亡数をIAEAレポートの対象期間と同じ90年間にしたら、この「53倍」はさらに大きな数値になるだろう。100倍のオーダーを超すかも知れない。そうすると、冒頭で参照した記事のタイトル「チェルノブイリ原発事故における推定死亡数は4千人か、それとも百万人か」の答えが何かが明白となる。そして、その数値の違いが何処から来たものかが次の新たな問いとなろう。
(5) チェルノブイリ原発事故での犠牲者数:
7.7(What is the Total Number of Chernobyl Victims?)ではチェルノブイリ原発事故での犠牲者数を論じている。放射線被爆による健康問題に関してはIAEAにすっかりお株を奪われてしまっている世界保健機構(WHO)が独自の調査報告書を出した。WHOのチェルノブイリ·フォーラムはウクライナ、ベラルーシおよびヨーロッパ·ロシアの3カ国での事故後90年間の癌による推定死亡数を9,000人と発表した(2006)
一方、新刊書の著者は放射能被爆による健康被害は癌の発症だけではないことを繰り返して強調している。
非悪性の放射線障害による健康被害、つまり、癌以外の様々な疾病による健康被害は、放射線被爆に起因する癌の場合に比べて調査の手法はさまざまとなって、推算結果は研究者によって大きく分かれるだろう。したがって、健康被害の推定や算出は対照区の一般の死亡率からどれだけ増加したかという実際に観察することができた数値に基づいて推定することが望ましい、と新刊書の著者は主張している。
(6) 犠牲者数の推定:
7.6項に示したデータから新刊書の著者はチェルノブイリ原発事故による推定死亡数を下記のように纏めている。
 15年間(1990-2004)の死亡率の増加分として得られた1000人当たり34人という数値を非汚染地域に居住している事故処理作業員(40万人)、ならびに、避難場所へ移ったり汚染地区から脱出した人たち(35万人)の集団に適用すると、この期間に追加されるさらなる死亡数は25,500人となる。こうして、2004年までのウクライナ、ベラルーシおよびヨーロッパ·ロシアでのチェルノブイリ原発事故による総死亡数は237,500人と推定された。 
 旧ソ連以外のヨーロッパ圏に居住する一千万人がセシウム137による地上の汚染度が40キロベクレル/平米を越す地域に住んでいるものと想定し、上記の汚染地域での死亡率の増加分(1000人当たり34)の半分、つまり1000人当たり17人を適用したところ、2004年までのソ連圏以外のヨーロッパ圏での死亡数は170,000人となった。
 セシウム137による地上の汚染度が40キロベクレル/平米未満の地域に居住する15千万のヨーロッパ圏の住民に対して上記の1/10に相当する非常に少ない増加分、つまり1000人当たり1.7人を適用したところ、この地域での2004年までの死亡数は255,000人となった。
 また、ヨーロッパ以外の地域にも放射性核種が地上に降下した。被爆地域の人口19千万に上述の増加分1000人当たり1.7人を適用したところ、このユーロッパ以外の地域での2004年までの死亡数は323,000人となった。
したがって、19864月から2004年までのチェルノブイリ原発事故の世界規模での総犠牲者数は985,000人となる[筆者注:前出の996千人とはやや異なる数値だ]。この推算値は他の研究者ら、つまりGofman (1994)Bertell (2006)らの研究成果とほぼ一致する。今後の何世代もの将来について予測することは幾つかの理由から非常に困難だ。

(7) 結論:
7.8項は結論として次のように述べている。
汚染地域では胎児の死亡率や子供たちならびに一般の死亡率が顕著に増加した。この事実に関して多数の報告がある。これらは明らかにチェルノブイリ原発事故による影響である。癌による死亡率の増加はすべての被爆者グループにおいて観察されている。
ウクライナおよびロシアの汚染地域では、1990年から2004年の期間における全死亡者数の4%前後がチェルノブイリ事故の影響である。影響を受けた他の地域または国においては、死亡率の増加についての明確な証拠が見つからなかったいう理由だけで原発事故の影響が皆無だったと結論することは難しい。
本章の結論で述べたように、チェルノブイリ原発事故によって影響を受けた地域に不幸にも居住し続けなければならない数億人の人たちのうち既に数十万人が死亡した。チェルノブイリ原発事故の犠牲者の数は今後数世代にわたってさらに増加して行くことだろう。

      

新刊書の7.7項では、他の研究者のあいだではGofman (1994)Bertell (2006)の報告がほぼ同一レベルの推算結果を得たとして紹介されている。それらに関してもここで概観してみたい。
Gofmanについては、残念ながら、新刊書が参照している資料そのものを直接入手することは出来なかった。しかし、この研究者の報告については様々な報道記事があるので、そのうちのひとつで代用したいと思う。それによると、カリフォルニア大学バークレイ校のゴフマン名誉教授はチェルノブイリ原発事故の影響により今後40年間にソ連邦で424,300人、ソ連邦以外の地域では536,700人に癌が発症すると推算した(4)(1986)
Bertellについては、2006年の出版物を検索することができた(5)。全ヨーロッパ圏で905,016人から1,809,768人が癌で死亡するだろうと推算している。このうち253人は放射線被爆による直接死で、残りの大多数は癌による死亡である。百万人から二百万人の犠牲者が出ると推算し、それでもなおこの著者はこの数値は控えめであるとさえ付け加えている。なぜならば、幾つかの理由がある....と。
忘れてはならない重要な点がもうひとつある。「何故IAEAとこの新刊書あるいは他の研究者(Gofman Bertell)らの研究成果とのあいだに二桁にもなる違いが生じたのか」について少しでも理解しておきたいと思う。

Bertellは別の文献(6)IAEAレポートの問題点を論じている。それを参照してみよう。
Bertellが指摘する問題点はIAEAの設立時の歴史的背景にまで遡る。
当時のアイゼンハワー米国大統領は1953年に国連で「核エネルギーの平和利用」と題して演説を行った。内容を見ると、格調の高い演説である。この演説を受けて、1955年にUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)が国連によって設立され、1957年にはIAEAが設立された。このアイゼンハワー大統領の演説以降「核エネルギーの平和利用」という掛け声が始まった。これは軍事用の原爆や水爆の核実験が繰り返され、大気中の放射性降下物に対する全世界の人たちが抱いていた恐怖を「平和利用」という掛け声で政治的に緩和しようとする動きに他ならない。
·           国連から付託されたUNSCEARの仕事は電離放射線が人の健康や環境に与える影響を評価し、正式に報告することである。IAEAにはふたつの仕事が与えられた。それは核エネルギーの平和利用を推進すること、ならびに、原爆などへの軍事利用を予防することのふたつである。IAEAは放射線防護に関する推奨事項をWHO(世界保健機構)からではなくUNSCEARから直接受け取ることになった。そして、ここで何が起こったか。IAEAWHOとの間の1959年の協定により、原子力や放射線に関する研究や利用についてはIAEAが管轄することになった。この協定が存在することから、WHOの本来の業務である筈の放射線の健康影響についてWHOは口出しをすることができなくなった。返信するRTするふぁぼる

らには、IAEAに籍を置く人物がUNSCEARにも籍を置くといった異常な状況も現れることになった。こうして、原子力村が形成され始めたのだ。
IAEAでは国連から付託された核エネルギーの平和利用という業務がチェルノブイリで災害に遭った人たちの生存や健康の回復を支援するというもうひとつの責任を凌駕してしまったと思われる、と著者は現状を厳しく批判している。この現実からだけでも、原子力災害後にIAEAが被害調査を行い、報告をし、それと同時に原発関連技術の推進も行うという国連からの付託は法的に解除しなければならない十分な理由がある、とBertellは率直に指摘している。
上記の大きな差異は調査方法に起因している。IAEAの報告書は約60万人を対象に推算を行っているのみ。それに対して、この新刊書は上述のごとくウクライナやベラルーシならびにロシアの汚染地帯の住民565万人、旧ソ連邦以外の比較的低い汚染に晒されたヨーロッパ圏の住民1千万人、その他のヨーロッパ圏の住民15千万人、ならびに、ヨーロッパ以外の住民19千万人を推算の対象としている。合計で35千万人強を対象として推算を行っている。
また、調査の対象とする健康被害の種類についても大きな違いがある。IAEAレポートは癌を対象にしているが、この新刊書では癌だけでなく非悪性の疾病や心的外傷·中毒までもが含まれている。この後者の手法は社会経済的に同一であって汚染を受けなかった地域との比較を行い、チェルノブイリ原発事故の死亡率がどれだけ増加したかを調査し、その結果判明した増加分を原発事故による犠牲者として算出したものだ。
ふたつの報告に見られるこうした調査手法の違いが推定死亡数に大きな違いを招いたと言えよう。

筆者の結論
最大の問題点が何に由来するかが分かってきたと思う。原発推進派であるIAEAがチェルノブイリ原発事故の被害を意図的に過小評価しているのではないかという見方が当を得ている。そこには原発関連の産業界にとって都合の悪い情報は公表したくないという姿勢が見えてくる。
「原発の安全神話」の崩壊がグローバルな形でここでも一般大衆の目にとまることになった。
「放射線被爆には安全限界はない、わずかな被爆であっても健康には有害だ」と主張する専門家や科学者は多い。これはIAEAの考え方を基本的に否定するものだ。しかし、まだ少数派である。チェルノブイリ原発事故の犠牲者数の算出の仕方や推定結果を見る限り、少数派の見解が社会的にも政治的にも健全でかつ正論だと思う。
放射線被曝の安全限界や原発事故による健康影響に関する調査や報告については、IAEAが従来通りにその業務を継続するのではなく、今後は国連のWHOにすべての責任と権限を持たせるべきだ。エイズや鳥インフルエンザの場合と同様に、WHOが放射線被爆による健康影響に関しても全責任を持って調査を行い報告することが筋である。IAEAや国連に加盟する国々の良心的な対応が待たれる。
[筆者からのお願い:このブログの内容と原本との間に差異がありましたら、原本を正として扱っていただきたいと思います。本ブログは原本の一部(11ページ程)を抄録·翻訳したものです。また、原本(300頁余り)は目下日本語への翻訳が進められているようです。全文の和訳が書籍として一日も早く出版されることを願っています。]

出典:
1Chernobyl Death Toll 4000 or 1 Million?by Keith Goetzman, www.utne.com › Utne BlogsWild Green (201054)
 
2Chernobyl: The True Scale of the Accident - 20 Years Later a UN Report Provides Definitive Answers and Ways to Repair Lives: News Release by IAEA (Sep/05/2005)
 
3Chernobyl – Consequences of the Catastrophe for People and Environment: By Alexey V. Yabloko, Vassily B. Nesterenko and Alexey V. Nestrenko;  New York Academy of Sciences (2009)  

4Scientist Puts Ultimate Chernobyl Death Toll at 500,000: Los Angeles Times (Sep/10/1986),
articles.latimes.com/1986-09-10/.../me-13286_1_nuclear-accident  

5BEHIND THE COVER-UP: Assessing conservatively the full Chernobyl death toll: By Rosalie Bertell, PACIFIC ECOLOGIST (WINTER 2006), www.pacificecologist.org/archive/12/behind-the-cover-up.pdf

6Chernobyl: An Unbelievable Failure to Help: By Rosalie Bertell, International Journal of Health Services, March 2008, Vol. 38(3), pp. 543-60. 



 



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