TPP (環太平洋経済連携協定) への日本の早期参加は実現しなかった。結構なことだと思う。
しかし、何故そうなったのかと言うと、素人の私には想像もできない背景があった。それはアメリカ側のオバマ大統領の選挙がらみの事情だったという。
日本の参加については米国の自動車メーカーや全米自動車労連が反対しているのだそうだ[注1]。アメリカは大統領選挙を控えている。オバマ大統領にとっては、自動車メーカーと自動車労連は選挙資金の出所でもあり、大きな票田でもある。日本に参加して欲しくないのは何はともあれオバマ大統領自身だということになる。
今年の初めにはTPPへの参加・不参加について日本では喧々諤々であったが、日本政府が進めていた早期参加のもくろみは見事に崩れ、今ではすっかり鳴りを潜めてしまった。
その後のTPP交渉はどうなっているのだろうか。
メキシコとカナダとが最新のパートナーとして加わり、TPP交渉の参加国は米国、オーストラリア、ブルネオ、チリ、マレーシア、シンガポール、ニュージーランド、ペルー、ベトナムの11カ国となった。13回目の交渉ラウンドが7月2日から10日までカリフォルニア州のサンデイエゴ市で開催される。
今日のブログでは例のISD条項(投資家対国家間の紛争解決条項)について、周辺の状況を再度おさらいしておきたい。
このISD条項に関しては、「TPPのISD条項はどんな悪さをもたらすか?」と題して1月12日のブログで負の側面を検討している。最近になっての話であるが、興味深い状況が出てきた。
それはオーストラリア政府がTPPの一部であるISD条項には応じられないと明言していることだ[注2]。「国民の利益を保護するためにも、外国の投資家に「より大きな権利」を与えることはできない。外国企業と国内企業に対して差別をしない立法体系を維持したい」としている。
ここで指摘されている「国民の利益」とは、例えば、PTT参加国の医療制度とか環境保護規制などにかかわる国内政策や法規を指している。ISD条項を許すということは、外国からの投資企業(ありていに言えば、米国企業)の利益のために自国民の健康や自然環境を犠牲にするという構図を意味する。政治的には不健全極まりない。
また、TPP参加国の元裁判官や元検事、国会議員、弁護士あるいは大学教授とかさまざまな人たちが、自分たちの専門分野の立場から、この悪名高いISD条項が持つ負の側面を明らかにし、オーストラリア政府が表明した拒否にならって他のTPP参加国もISD条項を拒否するよう訴えた公開書簡[注3]を政府に送りつけている。100人の法律専門家が名を連ねており、米国も含めて殆どのTPP参加国から専門家が参画している。
このオーストラリア政府の「ISD条項には応じられない」というポリシーはオーストラリアと米国との間の二国間自由貿易協定(2004年に制定)においてオーストラリアが経験した事実に基づいたものであるそうだ。つまり、最近急増している米国企業の訴訟活動によるぼろ儲けを指している。国民はたまったものではない。
私はこれらの状況を知って驚きの感を禁じえなかった。
日本では今年の初めにTPPへの参加・不参加の議論が沸騰していた。その頃上記のオーストラリア政府の方針のような、国民の利益に目を向けた言葉を日本政府の要人から聞いただろうか。何も無かった。オーストラリア政府の方針には日本で見られるような米国追従の態度はない。このことが今日のブログで指摘しておきたい最も重要な点だ。
事の発端は秘密交渉の内容がリークしたことだ。オーストラリアはISD条項に反対していること、しかし、ニュージーランドはISD条項を受け入れたことが知れ渡った[注4]。その結果、ニュージーランドでは大手の新聞やテレビ局がTPP問題を真剣に取り上げ始めた。そもそも何故秘密交渉なのか、秘密にしておきたいことがあるのではないか、と大手メデイアは厳しい。
TPPに批判的なケルシー教授は「ざっと内容を検討したみた。各国の弁護士らが最近ISD条項の除外を求めていたが、懸念していた事が現実のものとなってしまった。タバコの巨大企業、フィリップモーリス社はニュージーランドの禁煙法にチャレンジすると言っている。今までは裏口からこっそりとチャレンジするしかなかったものだが、あらたにTPPが締結されると、これからはこの新条約に基づいて開け放たれた正面玄関から攻め込んでくるだろう。そればかりではない。わが国の国内法には彼らが嫌うような法律もある。これらについても大手米国企業に対してわが国の門戸を開放することになる」と、解説している。
「先週、政府は23箇所の陸上や海上での原油や天然ガスの開発に関して公開入札を開始した。目下、これらの開発に関してはわが国の規制は緩い方だ。もし今後わが国が環境保護のために規制を強化し、結果として石油会社の株価が下がったり利益が得られなかったとしら、彼らは間違いなくわが国に対して訴訟を起こすだろう。彼らはいとも簡単に何年間にもわたってにニュージーランド政府を莫大な費用がかかる状況に陥れることができる。そういった懸念の存在が我が国の立法府をすっかり機能不全にしてしまうだろう」とも付け加えた。
参照情報:
注1:Japan’s Bid to
Join Asian Trade Pact Faces a Leery U.S. (2012年2月7日) online.wsj.com/.../SB100014240529702033158045772064
注2:Australia to reject investor-state
dispute resolution in TPPA (2012年4月13日) www.iisd.org/itn/2012/04/13/news-in-brief-7/Cached
注3:AN
OPEN LETTER FROM LAWYERS TO THE NEGOTIATORS OF THE TRANS-PACIFIC PARTNERSHIP
URGING THE REJECTION OF INVESTOR-STATE DISPUTE SETTLEMENT(2012年5月8日)tpplegal.wordpress.com/open-letter/Cached
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