2012年7月8日日曜日

ブカレスト植物園


(日本を取り巻く政治に関する議論はいささか疲れます。

時には寛いでみたいと思い、

今日の舞台はブカレスト植物園へと移動します。)


この春ブカレスト植物園を訪れた。513日のことだった。好天に恵まれ、多くの人たちが散策を楽しんでいた。

最初に目に飛び込んできたのは芍薬の花。ブカレストの植物園でこの東洋的な花に出迎えを受けるとは予想もしていなかった。むしろ、心地よい不意打ちだった。
中国原産の芍薬は近代に入って西洋にも紹介され、人気を博したと言われている。香りはいいし、花が豪華でもある。人気となったのは当然だろうと思う。因みに、香りについて言えば、ブカレストのショッピングモールのひとつでは芍薬の花の香りを原料にした香水やその香りを活かした石けんなどを専門に販売している店がある。



歩くコースは幾通りもある。始めて来たので何処を当てにするのでもなく、気の向くままに歩いてみることにした。
しばらくすると、花菖蒲が咲き乱れている一角へ出てきた。黄色や紫。この空間は良かった。人が多すぎることもなく、自然に近い形でこの季節を楽しませてくれる。この日の陽射しは予想以上に強く、木陰に誘われそうでもあった。


一匹の蟻が花の上を歩き回っていた。

既にバラの季節にもなっていた。白い花をつけたツルバラが歩道にまではみ出して広がり、風に揺らいでいた。ここでは大きく横へ広がるのをそのまま放任しているような感じだ。



かなり先に建物が見える。温室のようだ。

温室へは向かわず、反対方向へ向かって歩くことにした。
何とウツギの花に遭遇。日本では田植えの頃にお目にかかる馴染みの花だ。当地では植物園を飾る花のひとつ。白い花はあくまでも清楚ではある。それでもなお、かなり華やかでもある。別の場所には八重咲きのウツギもあった。それも白。



周囲を見ると、自然のままの雰囲気が濃い。二抱えもするような樫の大木がでーんと立っている。何本もだ。この植物園の古さを偲ばせてくれた。日本での楢とか橡の仲間であるが、その樹皮はより橡に近い。とにかく、存在感が圧倒的である。素晴らしいと思う。
鳥の囀りも真近に聞こえてくる。当地では蝉の鳴き声がまったく聞こえてこない。冬の寒さが厳し過ぎるということか。



さらに進むと、三角形のシルエットが何本か見えてきた。この特徴的な形はメタセコイアかヌマスギのもの。葉の付き方を観察してみると、個々の葉が互生である。遠くから見るとメタセコイアと区別がつかないが、これはメタセコイアではなくヌマスギだ。
近くには標識板があって、日本語で言うと「水杉」に相当する名称が記載されている。ただ、水杉というとメタセコイアの中国語名称に相当してしまう。正確ではないので、日本語としてはやはり「沼杉」と訳すべきか。そもそもルーマニア語でもヌマスギを指していたのかも知れない....

カレスト市内では、筆者の自宅から歩いて30分位の場所に結構大きな公園がある。その中心には広々とした人工池があって、池の周囲にヌマスギの大木が何本も聳え立っている。この植物園のヌマスギよりもかなり大きい。これらは落葉樹だ。冬の間は裸になっていたヌマスギが新緑に変わる頃、ヌマスギ独特の柔らかな緑色が目を楽しませてくれる。


ちょっと広々とした場所へ出た。草原のような一角に小さな黄色い草花が群落を作っていた。名前は分からない。しかし、その佇まいには何とも言えない愛らしさがあって、微風に吹かれて体をしなやかに躍らせている様子に思わず見とれてしまった。雪が融けると同時に芽を延ばし始め、5月はもう命の躍動の季節である。



そして、64日に再度この植物園へやって来た。
この日は何と言ってもバラの花が圧巻だった。赤、ピンク、白、黄色と色とりどりの花。そして、辺りを散策する人たちにはその香りが最高のご褒美。写真だけではこの香りをお届けすることができなくて非常に残念だと思う。

娘のお付き合いで香水の専門店へ立ち寄ることがよくある。「門前の小僧習わぬ経を読む」のと同じで、幾種類かの香水を嗅ぎ分けている内に、私なりの結論に達した。何と言っても、少なくとも私にとっては、バラ系の香りが最高だ。






鬱蒼とした木々に囲まれた小さな水溜りがあった。暗さばかりではなく、湿った冷気さえもが感じられる。そこに、睡蓮の花をひとつ見つけた。いや、ひとつだけではない。いくつも水面に浮かんでいるではないか。暗い水面の背景の中に浮かぶ白い睡蓮の花、夜空に輝く星のような印象だった。

そして、一本の広葉樹が折りしも初夏の陽光をいっぱいに受けて、既に濃くなってきた緑の葉の間に赤い実を幾つも輝やかせていた。何の木かまったく分からない。これは来シーズンまでの宿題ということのようだ....



夏や秋になるとどんな姿に変わるのだろうか。季節ごとに装いを新たにするこの植物園を頻繁に訪れてみたいものだ。雪の降った翌日に歩いてみるのもいいかも知れない。気分転換には最高の場所だと思う。騒音からはすっかり隔絶されており、つかの間とはいえ、そよ風や鳥の囀りの中に身を置くことができる。絶好の雰囲気と十分な空間が用意されている。

今年の春、ブラショフへ小旅行をする機会があった。山々が聳えている地域だ。そこで「蕗のとう」を眼にした時はただむしょうに嬉しく感じた。あれは、我が故郷と同じではないかという一種の親近感、あるいは、安堵感みたいなものだったかと思う。それに加えて、今回はこのブカレスト植物園でも大きく葉を広げた蕗に出会った。写真に収めておかなかったのは非常に残念だ。早春の味を代表するあの「ほろ苦い蕗味噌」にありつけるかも知れないという期待感が一気にふくらんだ。当地で蕗のとうが食材として用いられるかどうかについてはまったく分からない。しかし、蕗のとうの発見が私の気持ちを大いに和らげてくれたことだけは確かだ。

蕗は英語ではbutterburと呼ばれる。ヨーロッパ一帯に広く分布しており、ルーマニアではカルパチア山系の山麓地帯に広く分布しているようだ。ブラショフもカルパチア山系に位置しているので、蕗のとうが見つかったこと自体は当然である。





 


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