日本人の多くの人の意識は2011年3月11日を境に大きく分断された
太平洋戦争では無条件降伏を味わった後、日本人の意識は1945年の8月を境に全ての面で一変した。時間は通常連綿と流れている筈だが、意識の中の時間はそこでプツンと切れ、完全に不連続となった。今回の福島第一原発事故はあの敗戦時のそれに勝るとも劣らないような意識の不連続をもたらしたと言える。
この不連続は、毎日の安心が不連続となったばかりではなく、政府や産業界に対する安全性の信頼感も不連続となった。
咋年の3月11日に東日本大震災が起こった。三陸沖のマグニチュード9の地震で東日本は大きく揺れた。そして、大津波に見舞われた。海に面した地域ではこの津波の犠牲になった人たちが非常に多い。今でも多数の行方不明者の方々がいる。
そして、東京電力の福島第一原発では外部電源の喪失後、津波に襲われた非常用ディーゼル発電機が稼動せず、緊急炉心冷却システムを動かすことができなかった。原子炉は空焚き状態となり、炉心が溶融。何ヶ月も経ってから東京電力の発表によると、溶融した核燃料は炉底を突き破って、格納容器の底部に落下したものと推察されている。この事故からすでに1年半も過ぎたが、炉心溶融の全貌は推測の域を出ないままだ。
原子炉内部の詳細が判明するまでこれから先何年も待たなければならないと言われている。
放射能漏れや原発周囲の放射能汚染については、東電と政府の対応は「国民の間にパニックを起こさせない」という大前提の下で、情報操作が行われたのではないかとの指摘が多い。何のための情報操作かというと、それは反原発、脱原発の動きを抑えたいとする東電の、そして、産業界の思惑が最大の理由のようだ。産業界を後押しする政府もそれに加わった。
そこには、政治的に最も重要な「地域住民の健康被害を最小限に抑える」といった姿勢や策ははっきりとは見えない。恐ろしい話である。
情報隠しによって最も大きな被害を被った、あるいは、これから被害の実態が分かるにつれて被害者となるかも知れない人たちがいる。実にたくさんの人たちが影響を受けることになる。先ず第一に、放射能汚染を受けた地域に住む数多くの住民だ。特に、小学生、幼児、乳児、胎児の多くが将来の健康な生活を奪われてしまったかも知れないのだ。非常に深刻な問題だ。
本日(2012年10月16日)の時点で「福島」、「乳幼児」および「尿にセシウム」の三つの言葉を「&」でつないでインターネットで同時に検索すると、21万7千件もヒットする。これは予想以上に大きな数値だ。この21万7千という数値は今年の6月30日に掲載された「141人の尿からセシウム 福島の乳幼児2千人測定」という情報[注1]が発端である。この記事の内容が如何に衝撃的であったかを物語っている。そして、この数値の大きさは放射能汚染に対する住民の恐怖と不安感を示していると言えよう。
また、福島県の地元の方々ばかりではなく、例えば、東京の都心に住んでいる方々の間においてさえも、乳幼児を抱えたご家庭の不安感や恐怖について無視できないような状況が存在している。不安感の源泉は乳幼児に飲ませる飲料水から始まって、ミルクや野菜、米、肉類、魚類、等、食品全体の放射能汚染に関する不安感や不透明性にある。乳幼児を持つ母親が止むに止まれず東京を離れ、実家へ引っ越して、夫は仕事の都合上東京にとどまっている、そして、この離れ離れになった家族が何時また合流することができるのかについては誰も明確な答えを持ち合わせてはいない、といった厳しい状況が数多くあるように聞く。当事者の皆さんは大変な苦労を強いられている。その一方で、そういった対応策を個人的にとれる方々はどちらかと言うと恵まれている方々であって、対策をとりたくても経済的にも引越し先についても対応できない人たちもたくさんいるのではないか。実態は誰にも分からない。果たして、地方自治体はこの実態をつかもうとしているのだろうか?そして、何らかの対策を立案しているのだろうか?
今後何十年も継続すると考えられる放射能被害の悪夢がひとつの新聞記事を通じて、あの日(6月30日)、始まったのだ。
放射能被害に関する新しい事実は今後繰り返して報告されることになるだろう。しかし、たとえひとつひとつの情報を手にすることが出来ても、地理的な広がりや時間軸を採用した全体像を予測することは素人である一般市民にとっては非常に困難だと思う。こういう問題こそ政府や地方自治体が率先して取り組み、一日でも早くその結果を住民に提供することを最優先にしなければならない。
ひとつの目安としては、チェルノブイリ事故がどのように地域住民に健康被害をもたらしたかを参考にするしかないのではないか。たとえば、筆者自身も今年6月3日に「チェルノブイリ原発事故での犠牲者数の推定」というブログを掲載した。そこで紹介した「Chernobyl:
Consequences of the Catastrophe for People and the Environment」という書籍[注2]には膨大な量のデータが含まれている。
情報が隠蔽され情報が操作されている日本では、限られたデータに基づいて予測を行うよりも、むしろ、この本のデータから外挿した方が多分手っ取り早いのではないか。健康被害の実態が明確になって来るのは十年も二十年も先のことだ。それを待っている訳にはいかない。放射能汚染の分布図から、政府や地方自治体は今そして近い将来のために地域住民が必要とする政策を立案しなければならない。そのために大いに参考になるのではないか、あるいは、ひとつの大きな方向性を確立するのに役立つのではないか、と素人ながら思う次第だ。この本の日本語への翻訳が進められていると聞く。早く刊行して欲しいと思う。
ちなみに、10月17日には上述の書籍の著者のひとりであるアレクセイ・ネステレンコ氏が福島で講演を行う予定[注3]だそうだ。テーマは「今、ベラルーシから伝えたい放射能から身を守る方法」とのことだ。多くの人たちの参加を期待したい。
また、同氏は10月19日にFMラジオ番組にも出演するとのことだ。サイトは下記。19:00〜20:00までの生放送。
http://www.fm-iwaki.co.jp/cgi-bin/WebObjects/1201dac04a1.woa/wa/read/1341c932d0d/
こういった日本の原子力村以外からの情報源を活用し、さまざまな機会を通じて幅広く正確な情報を入手し、放射能の脅威について客観的な理解を深めて、生活の不安を取り除くことが重要だ。そのに少しでも役立たせて貰いたいものだ。
こういった日本の原子力村以外からの情報源を活用し、さまざまな機会を通じて幅広く正確な情報を入手し、放射能の脅威について客観的な理解を深めて、生活の不安を取り除くことが重要だ。そのに少しでも役立たせて貰いたいものだ。
参照:
注1:141人の尿からセシウム、福島の乳幼児2千人測定:共同通信、2012年6月30日
注2:Chernobyl – Consequences of the Catastrophe for People and
Environment: By Alexey V. Yabloko, Vassily B. Nesterenko and Alexey V.
Nestrenko; New York Academy of Sciences (2009)
注3:ベルラド研究所所長福島講演会のお知らせ:ベラルーシの部屋ブログ、2012年10月5日、blog.goo.ne.jp/nbjc/e/65c4e2f86a739ade3fc8d3f2688b3a39 …
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