2020年1月10日金曜日
人気ブランドのビールやワインにも除草剤のグリホサートが含有されている
(注:この投稿の初出は2019年12月20日に発行された長野高校生物班OB会誌「うばたまむし」12号。誤字の訂正や表現の修正を加えて、このブログにも掲載しようと思う。なお、この原稿の作成日は約3ヶ月前の2019年10月13日。ご了承ください。)
21世紀の消費者を取り巻く環境は決してバラ色ではない。
毎日口にする食品が農薬による汚染を受けており、長期的には人の健康に害を及ぼすことがすでに判明している。しかし、そのことが報告されていながらも、農薬業界の圧力に負けて、行政側は遅れをとり、理に適った対策が間に合っていないとしたらどうであろうか?
米国の大規模農業では遺伝子組み換え作物が多用され、それと抱き合わせに雑草管理には除草剤が用いられる。もっとも多用されているモンサント社(現在は企業買収を経て、ドイツのバイエル社の傘下)の遺伝子組み換え作物には除草剤として「ラウンドアップ」が用いられる。ラウンドアップの主成分は「グリホサート」と称される化学物質。それに加えて、最近は遺伝子組み換え作物だけではなく、一般作物にもラウンドアップが用いられるようになって来た。収穫の直前にラウンドアップを散布し、作物を枯らして、収穫作業に移行する。この手法は農家にとっては作業管理上都合のいい機能であるようだ。その反面、収穫された作物に含まれるグリホサートの残留物は増加する。
ところで、日米貿易協定については日本政府がその条文を知らされないまま、国会での審議を得ないままに日米政府間ですでに署名したという。10月8日のことだった。今後(10月13日現在)閣議決定を経て、国会の承認を得るのだそうだ。つまり、国会の承認は事後承認でしかない。好むと好まざるとにかかわらず、ここには主権を失った日本の姿がありありと見える。米国側としては日本に米国産農産物を大量に輸入してもらうことが、いや、もっと有り体に言えば、日本に大量に消費させることが最大の関心事である。こうして、日本政府に圧力をかける。このプロセスを政府やマスコミは「日米貿易交渉」と名付けている。
不幸なことには、日本の消費者は大量に輸入された農薬漬けの米国産農産物を消費する。大分以前から問題視されていた日本の食糧自給率はさらに低下し、ほぼ全面的に輸入食品に頼ることになる。つまり、日本で毎日食卓に上がる食品に含まれる農薬残留物の脅威は増大するばかりとなる。
こうして、日本の消費者が食品の農薬汚染から自分の健康を守るには、まずは米国における汚染の実態を理解することから始めなければならない。これは毎日の生活を左右する課題である。それと並んでもっと重要な点は、後述するように、われわれは次世代の健康も併せて守らなければならない。
ここに「人気ブランドのビールやワインにも除草剤のグリホサートが含有されている」と題された記事がある(注1)。今年の2月26日の記事であって、米国市場で多くの消費者によって愛飲されているビールやワインを調査した結果だ。この記事の全文を仮訳して、下記に引用する。グリホサートに汚染されている米国の食品の実態を少しでも理解しておきたいと思う次第だ。
<引用開始>
「CALPIRG教育ファンド」による最近の報告によると、米国で販売されている数多くのビールやワインにはラウンドアップ除草剤の主要成分であるグリホサートが残留している。この「Glyphosate Pesticide in Beer and Wine」と題された報告書によると、有機栽培原料を使ったブランドも含めて、20種のビールやワインおよびサイダーについてグリホサートの分析が実施され、1例を除いて、すべてのブランドで有害物質であるグリホサートが検出された。
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この報告は、奇しくも、モンサント製のラウンドアップ除草剤が癌をひき起こすのかどうかに関して連邦裁判所で始めて争われている訴訟を巡っての公判がサンフランシスコの裁判所で開始される日と重なった。
地ビールやワインを楽しんでいる際、最後の最後に考えておきたいことはこのビールやワインには潜在的に危険な除草剤が含まれている」という点だ、とCALPIRG教育ファンドのローラ・ディーハンが述べている。「ビール会社やワイン生産業者が如何なる努力をしたとしても、問題を引き起こす現実を完全に回避することは実に難しい。消費者は友人たちと楽しみを分かち合う度に、あるいは、裏庭でバーベキュー・パーティ―を開く度にグリホサートも飲み込むことになる。これは米国の何処ででも起こり得ることだ。」
この引用記事を掲載しているウェブサイトの「Sustainable Pulse」からの注釈: この調査ではCALPIRGは分析手法としてELISA法を用いた。このELISA法は必ずしも「究極の判断基準」を提供するものではない。したがって、ここに報告された残留物の含有レベルについては取り扱いに注意を要する。しかしながら、残留物が検出されたという事実そのものは変わりようがなく、疑う余地はない。グリホサートの試験方法に関してさらに知りたい方は当サイトで情報検索されたい。
CALPIRGはこの調査でワインについては5個のブランド、ビーでは14個のブランド、そして、サイダーでは1個のブランドを分析した。ワインのブランドにはベアーフット、ベリンジャー、フレイ(オーガニック)、インカリ・エステーツ(オーガニック)、ならびに、サッター・ホームが含まれる。ビールについては、バドワイザー、クアーズ、コロナ、ギネス、ハイネッケン、ミラー、ピーク(オーガニック)、サム・アダムス、サミュエル・スミス(オーガニック)、シエラ・ネヴァダ、ステラ・アートワー、チンタオ、および、ニュー・ベルジウムが含まれ、サイダーとしてはエース・ペリー・ハード・サイダーが分析に供された。
特筆しておきたい点がある。この調査では意外なことが判明した。有機農法で栽培されるビールやワイン用の原料作物にはラウンドアップのような除草剤は用いてはならないことになっている。しかしながら、オーガニックと称されている四つのブランドの内三つでグリホサートが検出された。
小規模の独立した地ビールの製造業者について認証を行う「醸造者協会」は声明文でこう述べている。「われわれ醸造業者は大麦やその他の醸造用原料の栽培にグリホサートを使用して貰いたくはない。大麦の生産者組合はグリホサートには強力に反対すべきである。」
これらのサンプルから検出されたグリホサートの量は、最大値がサッター・ホームのワインで51ppbを示し、バドワイザーやクアーズ、コロナ、ミラーおよびチンタオの非オーガニック系ビールでは25ppb以上を示した。オーガニック製品では最高で5.2ppbを示した。これらの数値はEPAの飲料に関する許容値よりも低いが、少なくとも、新たに公表されている科学的研究によると、たとえグリホサートの量が1ppt (pptはppbの千分の一)と極めて低い場合であっても、乳がん細胞の成長を刺激し、内分泌系をかく乱することが分かっている。
「われわれ地ビールの生産者は顧客のために最高品質の製品を生産していることを誇りに思っている。そういった製品を生産するには最高の品質で、もっとも安全な原料を使う必要がある」と、オレゴン州のポートランド市に本拠を置くコアリション・ブリュアーズ社の共同経営者であるエラン・ワルスキーは言う。「卓越した水準を維持することはわれわれのビールやわれわれ自身の健康のために重要である。また、そればかりではなく、われわれのためにホップや大麦を生産する農家から始まって、われわれのビールを楽しんで貰う顧客に至るまで、当地の地域共同体にとっては非常に重要なことだ。」
店頭で販売されているビールやワインがグリホサートによって広く汚染されていることを伝え、本報告書は、数多くの健康に対する脅威が存在し、その上に食品や水、アルコール類にグリホサートが広く検出されている事実から、この報告とは異なる知見が実証されることがない限り、米国市場では本除草剤の販売を禁止するよう推奨している。
「連邦裁判所がラウンドアップと癌との関連性に注意を払っている折からも、今はグリホサートに光を当てるいい機会であると思う」とディーハンは言う。「この化学品が非常に多くの米国人にとって健康に対する大きな脅威となり、この化学品がいたる所で検出され、自分たちが愛好する飲料からも検出されていることを米市民は率直に認識するべきだ。」
<引用終了>
これで引用記事の仮訳が終わった。
ところで、ビールやワインばかりではなく、米国市場に出回っている食品は、加工食品を含めて、ほとんどがグリホサートで汚染されていると考えた方が無難だ。その上、この汚染の趨勢は衰えることがなく、さらに悪化する一方である。
この記事が伝えているように、グリホサートの含有量が1pptと非常に微量であっても、ヒトの細胞に影響を与えることが最近分かって来た。1ppbの千分の一のレベルであっても、グリホサートは卵胞ホルモン受容体を介して卵胞ホルモン様の作用を引き起こし、乳癌細胞の成長を促すという。グリホサートはまさに内分泌かく乱物質である。
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さて、ここからはグリホサートによる農薬汚染と深く関わっているいくつかの重要な話題を俯瞰し、われわれ自身の脳細胞にも刺激を与えてみようかと思う。さまざまな角度から農薬汚染について考えてみたい。
◆グリホサートには「おそらく発癌性がある」:
このことを指摘したのはWHOの国際がん研究機関(IARC)だ。2015年3月のことであった。これは実に興味深い指摘で、この情報は一気に世界中に広がった。
国立癌研究所の名誉研究員であり本調査結果に関する主要な著者でもあるアーロン・ブレア―はロイターに対して次のように言った:「動物試験では十分な証拠をつかみ、人の臨床試験でも限定的な証拠をつかんでいる。また、DNAの突然変異や染色体の損傷を示す強力な証拠も揃っている。」 WHOの国際がん研究機関(IARC)は世界中で広く使用されているこの除草薬が非ホジキンリンパ腫を誘発することを見い出し、グリフォサートに関する研究成果を2015年3月20日に公表した。
このIARCからの報告は専門誌「ランセット腫瘍学」に発表され、有機リン酸系の除草剤や殺虫剤の評価結果を詳細に論じている。この報告書は「人に非ホジキンリンパ腫を引き起こす発がん性について限られた証拠が見つかっている」と結論付けた。この結論は2001年以降米国やカナダおよびスウェーデンで当該化学物質への暴露について行われた研究から導かれたもの。 (さらなる情報については、「芳ちゃんのブログ」への2015年6月15日の投稿「モンサントの除草剤と発がん性との関連性 - WHOは公表した調査結果を撤回しそうもない」 をご覧ください。)
これを受けて、米国では多数の損害賠償訴訟が提起され、さまざまな議論が沸き起こっている。不幸にも健康を損なった被害者を始めとして、関連企業や業界、学者・研究者、関連官庁、国家、国家集団が自分たちの利益やメンツを保つために喧々諤々の論争を演じている。
◆環境汚染の悪化:
グリホサート汚染がさらに悪化する理由は次のような背景に見られる。
米国ではラウンドアップに耐性を有する遺伝子組み換え作物が開発され、市場に投入されてから、ラウンドアップの使用は最近の20年間に急速に拡大した。その後、一般作物(小麦、大麦、ライ麦、大豆)の収穫前にこの除草剤を散布し、作物を一様に枯らして収穫を早期に行うという手法が新たに加わり、ラウンドアップの使用は拡大するばかりとなった。
カリフォルニア大学が行ったバイオモニタリングの調査によると、南カリフォルニア在住の1000人超の高年齢の成人の場合、2014年から2017年にかけて、参加者の少なくとも70%の体内に検出可能な量のグリホサートが確認された。20数年前の1993年および1996年の調査では参加者の12%に検出されていただけであった。非営利団体の「環境作業部会」(Environment Working Group)は以上の知見を米疾病対策センター(CDC)宛ての書簡(2019年6月26日付け)で述べている。(原典:Environmental Working Group Calls on US CDC to Monitor Americans’ Exposure to Glyphosate: By Sustainable Pulse, Jun/26/2019)
さらに、同書簡は特に若い子供たちのグリホサートへの暴露に関するバイオモニタリングが欠如している現状についてCDCはもっと注意を払うべきだと述べて、環境作業部会は厳しい指摘を行っている。
◆世代を超えて、第三・第四世代に影響が現れる:
研究者らはグリホサートが世代を越して健康被害をもたらすことを発見した。今までに聞いたことがないような報告だ。この最近の研究論文についても触れておきたい。
この論文は2019年4月23日にMichael K. Skinner他によってオンライン誌の「Scientific Reports」にて「Assessment of Glyphosate Induced Epigenetic Transgenerational Inheritance of Pathologies and Sperm Epimutations: Generational Toxicology」と題して発表された。同誌の9巻、文献番号 6372(2019)。 これは何世代か後に非遺伝的に作用するグリホサートの毒性について論じたものである。
その要旨だけを仮訳し、下記に示そう。
<引用開始>
祖先が幾種類かの要因や毒物の環境に暴露された場合、成人発症疾患の後成的(エピジェネティック)で継代的な遺伝を促進することが示されている。世界でもっとも多用されている農業用除草剤のひとつであるグリホサート(N-(phosphonomethyl) glycine)は、通常、ラウンドアップと称される。グリホサートに直接暴露した場合の毒性(リスク)に関してはますます多くの矛盾する報告が成されているが、多世代に対する毒性に関しては徹底した調査は行われてはいなかった。本研究によると、F0世代の妊娠している雌のラットに対する暴露はF0世代自身およびその子供であるF1世代に対する影響は無視できる程度であることが分かった。ところが、それとは対照的に、孫(F2世代)やひ孫(F3世代)では病変が飛躍的に増加することが観察された。観察された継代的な病変には前立腺疾患や肥満、腎臓病、卵巣疾患、先天異常が含まれる。F1、F2、F3世代の精子の後成的分析を行ったところ、DNAメチル化領域(DMR)の変化が認められた。数多くのDMRに関連する遺伝子が特定され、すでに病変に関与していることを示していた。したがって、グリホサートは世代を超えた病変の遺伝や生殖細胞系列(精子)のエピ変異を引き起こすことをわれわれはここに報告する。われわれの観察によると、グリホサートの世代間の毒性は将来世代の病気を原因論的に説明しなければならないことを示唆している。
<引用終了>
要旨の仮訳はこれで終了した。
ついでに、この研究で用いられた動物試験における給餌方法についても簡単に仮訳をし、この投稿に収めておきたいと思う。グリホサートの投与量に注目したい。
<引用開始>
既に報告されているように、70~100日齢の非近交系血統の雌雄のHsdスプラーグドーリー®™SD®™ (Harlan)系ラットに標準的なラット用餌と水道水を不断給餌した。タイミングを合わせて妊娠させ、妊娠後8日から14日の雌に毎日注射針を用いて腹腔内にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(ペンシルバニア州ウェストチェスターに所在するChem Service社製)、または、ジメチル・スルホキシド(DMSO)で希釈したグリホサートを、毎日、体重当たりで25mg/kgを注入した。25mg/kgのグリホサートは経口投与によるラットの50%致死量(LD50)の0.4%、もしくは、無毒性量(NOAEL)の50%に相当し、グリホサートの速い代謝作用を考慮すると、一日当たり3~5mg/kg/の職場環境での暴露の約2倍に相当する。
<引用終了>
これで給餌方法についての仮訳が終了した。
非常に興味深い内容である。この報告によると、たとえグリホサートが毒性を示さないとされている無毒性量の半分のレベルの投与量であっても、孫やひ孫の代に継代的な病変として前立腺疾患や肥満、腎臓病、卵巣疾患、先天異常が観察されたと報告している。
この動物試験では、毎日、体重当たり25mg/kgのグリホサートがラットの腹腔内に投与された。この投与量は、後述するように、日本の食品安全委員会が報告した「各試験で得られた無毒性量のうち最小値は、ウサギを用いた発生毒性試験の75mg/kg 体重/日であった」という無毒性量の33%に相当する。ところで、これらの数値によると、日本の無毒性量は米国のそれよりも50%も高い。このような違いがどうして起こったのかは私には分からない。
食品の安全性は、通常、動物試験によって確認される。催奇形性試験では実験動物の妊娠中の母体に食品を与え、胎児の発生や生育におよぼす影響を調べる。繁殖試験では二世代にわたって食品を与え、生殖機能や新生児の生育におよぼす影響を調べる。これらふたつの動物試験では二世代にまたがって、子供の代の健康被害も含めて安全性を確認する。発癌性試験では実験動物の全生涯にわたって食品を与え、一世代だけの病変を調査する。これらが従来の動物試験の手法である。
ここに引用した研究成果によると、第一世代や第二世代の病変に注目するだけではグリホサートの健康影響を論じるには無意味であり、第三・第四世代に至るまで健康影響を調べなければならない。これは実に貴重な知見である。
◆米国における市民団体「アメリカ中の母親たち」(Moms Across America):
「私たちが望むのは健康的な食品と正直なラベル表示だ。今すぐに!グリホサート/ラウンドアップを今すぐにでも禁止して欲しい。私たちは有害な除草剤や殺虫剤が使用されてはいない生活環境を望んでいる」とこの団体は言う。「グリホサートの影響でアレルギーや自閉症、注意欠陥多動性障害、等、子供の体に異変が起きている」と感じる母親は決して少なくはない。子どもの食事から遺伝子組み換え食品やグリホサートによる汚染を排除するために、この団体は市場には数多くの選択肢があることからグリホサートの代替品を使用することを勧め、有機食材を選ぼうと呼びかけている。
ラウンドアップ除草剤に不用意にも暴露し、非ホジキンリンパ腫を発症し、法廷でモンサント社に対して損害賠償訴訟を求めている被害者にとっては、ラウンドアップ除草剤には発癌性の危険性を示すラベル表示がなかったという事実は非常に重要な争点である。正直なラベル表示を訴えているアメリカ中の母親たちには説得力があると言えよう。
◆米国における損害賠償訴訟:
米国ではラウンドアップ除草剤への暴露が癌を引き起こしたとして製造者のモンサント社に損害賠償を求める訴訟が始まっている。すでに3件について賠償金額が言い渡された。モンサントは上告すると言うが、その後の進展は今後耳にすることになる。同社に対するラウンドアップ除草剤に関わる訴訟の数は2019年8月中旬現在で18,400件。
モンサントを相手にした訴訟では新たな事実が判明している。たとえば、モンサント社内の電子メールが公開されたのである。「機密の裁判所文書においてモンサント社は安全性試験が未完了のラウンドアップ除草剤には発癌性があることを認めている」(原題:Monsanto Admits Untested Roundup Herbicide Could Cause Cancer in Secret Cout Documents)と題された2017年8月9日のSustainable Pulseの記事はその冒頭で次のように述べている:
「米国の法律事務所によって先週開示されたモンサントの機密文書によると、モンサントの科学者らは同社一番の製品であるグリホサートを主成分とするラウンドアップ除草剤には、恐らく、発癌性や遺伝毒性があることに気付いていたことが判明した。」
◆各国の対応:
ヨーロッパではラウンドアップ除草剤を禁止するべきだとの政治的な動きが活発化している。130万人もの市民が反対の陳情書に署名をした。フランスのマクロン大統領は代替品を開発し、3年後にはラウンドアップを使用禁止にすると公言し、イタリアのマウリツィオ・マルティナ農相も3年以内にこの除草剤を禁止すると述べている。
ところが、多くのEU参加国がラウンドアップ除草剤の使用を廃止すべきだと訴えているEUで2年前に椿事が起こった。2017年11月、欧州委員会は、投票の結果、議論が絶えないこの除草剤の使用期限をさらに5年間延長すると決めた。この会議でフランスやイタリア、オーストリア、ベルギーが反対する中、ドイツのクリスチャン・シュミット農相はドイツ本国政府の反対を押し切って一存で賛成票を投じた。こうして、EU圏では最大の人口を誇るドイツの賛成票によって、EU圏でのラウンドアップ除草剤の使用期限は5年間延長されることになった。
何処でどのような駆け引きがあったのかは知る由もないが、非常に異例なことが起こったことは確かである。クリスチャン・シュミット農相は買収されていたのだろうか?EU圏で5年間の使用延長を認められた場合、誰が一番得をするのか?明らかに、それはモンサントだ。
◆逆行する日本:
日本では、2016年7月12日、食品安全委員会が「食品健康影響評価の結果の通知について」と題した報告書を当時の塩崎農林水産大臣宛てに提出した。この文書を見ると、「グリホサートの一日摂取許容量を1㎎/㎏体重/日と設定する」と報告している。
そして、さらにこの文書の添付書類を覗いてみると、次のような詳細な内容が報告されている:
<引用開始>
2.グリホサート①の評価の要約
「グリホサート」(CAS No. 1071-83-6)[グリホサートアンモニウム塩(CAS No. 40465-66-5)、グリホサートイソプロピルアミン塩(CAS No. 38641-94-0)及びグリホサートカリウム塩(CAS No. 70901-12-1)]について、各種資料を用いて食品健康影響評価を実施した。評価に用いた試験成績は、動物体内運命(ラット及びウサギ)、植物体内運命(だいず、ぶどう等)、作物残留、亜急性毒性(ラット、マウス及びイヌ)、慢性毒性(イヌ)、慢性毒性/発がん性併合(ラット)、発がん性(マウス)、2 世代繁殖(ラット)、発生毒性(ラット及びウサギ)、遺伝毒性等の試験成績である。
各種毒性試験結果から、グリホサート投与による影響は、主に消化管(下痢、軟便等)及び体重(増加抑制)に認められた。発がん性、繁殖能に対する影響、催奇形性及び遺伝毒性は認められなかった。
各種試験結果から、農産物中の暴露評価対象物質をグリホサート(親化合物のみ)と設定した。
各試験で得られた無毒性量のうち最小値は、ウサギを用いた発生毒性試験の75mg/kg 体重/日であったことから、これを根拠として、安全係数100 で除した0.75mg/kg 体重/日を一日摂取許容量(ADI)と設定した。
また、グリホサートの単回経口投与等により生ずる可能性のある毒性影響に対する無毒性量のうち最小値は、マウスを用いた急性毒性試験で得られた1,000 mg/kg体重であり、カットオフ値(500 mg/kg 体重)以上であったことから、急性参照用量(ARfD)は設定する必要がないと判断した。
<引用終了>
この食品安全委員会の文書には「オヤッ」と思わせることがひとつある。報告書の表書きでは「グリホサートの一日摂取許容量を1㎎/㎏体重/日と設定する」と大臣宛に報告している。しかし、技術的な内容を伝える添付文書には「一日摂取許容量を0.75㎎/㎏体重/日と設定した」と記述されている。大臣宛の報告では無毒性量を安全係数の100で除して一日摂取許容量を決めるという技術面でのルールから逸脱して、一日摂取許容量を1㎎/㎏体重/日と報告している。0.75を1に丸めることは食品の安全性を設定する際に許していいのだろうか?
ここに挙げられている動物試験でもっとも長期間にわたって行われる試験は2 世代繁殖(ラット)と発生毒性(ラット及びウサギ)および遺伝毒性の3種であろうと推測される。もちろん、4世代にまたがる後成的(エピジェネティック)な動物試験は含まれていない。
グリホサートの発癌性や毒性については新たな科学的知見が次々と公表されている。他の多くの国々は中期・長期的にはグリホサートを規制する動きにある。それにもかかわらず、日本政府は驚くほどに独断的だ。厚労省はグリホサートの残留基準値を大幅に緩和したのである(2017年12月5日)。
これは業界の一部から依頼があったことがきっかけであったと言われている。つまり、米国の農産物を輸入する日本は米国内の残留基準値を踏襲して、農薬漬けの食料を大量に輸入するための準備をしてあげたということになる。
生食発1225第5号(2017年12月25日):大臣官房生活衛生・食品安全審議官発、各検疫所長宛ての「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について」と題された文書から一部を抜粋すると、主だった食品の緩和前後のグリホサートの残留基準値は下表の如くである:
Photo-2
この緩和の程度は並ではない。小麦の場合、改正前の残留基準値5ppmに対して、改正後は30ppmに、つまり、6倍も緩和された。最大級の緩和はヒマワリの種子に見られ、0.1ppmから40ppmへと400倍に緩和されている。
「先ずは商売ありき」という感じで、消費者の安全性に関する配慮は二の次だ。政府の政策にはそういった取り組み方が色濃く反映されていると私には思えてならない。
◆ラウンドアップ製剤の毒性は主要成分であるグリホサートの毒性よりも強い:
ここまでの議論のほとんどは除草剤ラウンドアップの主成分であるグリホサートだけの毒性に関するものである。しかしながら、ラウンドアップ製剤には主要成分のグリホサートと並んで補助剤としてPOE-15と称される界面活性剤が配合されており、実際には製剤が農作物に散布され、農薬を使う農家が暴露されるのはこの製剤の方である。フランスのカーン大学のギレス・エリック・セラリーニ教授他は、補助財を含んでいるラウンドアップ製剤の毒性は主要成分のグリホサート単独の毒性よりも強いと報告した。私の知る限りでは、この種の指摘を行ったのはギレス・エリック・セラリーニ教授他が始めてであった(2013年2月)。画期的な研究成果だ。(出典:Roundup is more toxic than declared proves new Séralini study: By CRIIGEN press release, Feb/21/2013)
その1年後、同教授らは3種類のヒトの細胞に対する毒性を調査した。「特に重要な点は、調査に供した9種類の製剤のうちで8種類の製剤はその毒性が主要成分の毒性よりも千倍も高いことだ。われわれが得た結果は当農薬の一日あたりの許容摂取量の妥当性に挑戦するものとなる。なぜならば、現行の許容値は主要成分だけの毒性値に基づいているからだ」と報告した。(出典:Major Pesticides Are More Toxic to Human Cells Than Their Declared Active Principles: By Gilles-Eric Séralini et al., Biomed Res Int. Published online Feb/26/2014)
もちろん、モンサントから研究資金を入手している学者らからはセラリーニ教授の研究に対して反論の声があがった。
その後、2018年5月、米政府の動きを伝える報道があった。それによると、「米政府の研究者はいくつかの人気の高い除草剤、たとえば、ラウンドアップはヒトの細胞に対して主要成分そのものの毒性よりも強い可能性があるという証拠を公開した。この試験は「米国家毒性学プログラム」(NTP)の一環として行なわれたもので、グリホサートを主成分とする除草剤製剤を始めて調査するものだ。規制当局は今まではグリホサート単独での毒性を調査することばかりに注力し、政府の学者らは消費者や農家、その他に販売される製剤としての毒性については全面的な吟味を行ってきたとは言えない。」 (出典:After more than 40 years of widespread use, new scientific tests show formulated weedkillers have higher rates of toxicity to human cells: By Carey Gillam, May/08/2018)
この米政府の研究機関の動きは2013年に発表されたセラリーニ教授の研究成果を追認するものとなるのか、それとも、反論するものとなるのかはこの段階では分からない。政府の研究者らは当面は研究の最初のステップを公開しただけだと述べているからだ。
◆結論:
日本においてはグリホサートがもたらす発癌性、内分泌かく乱作用、世代を越して第3・第4世代に出現する健康影響、等は農薬を巡る政策にはまったく反映されていない。不幸なことには、現状のままでは最近の科学的な知見やヨーロッパ各国の取り組みに比べて大きく逆行していると言っても過言ではない。何時の日にかそのとばっちりを食うのはわれわれ消費者だ。
あなたや私の孫・ひ孫の健康を確保するためには、誰もがグリホサートの毒性やグリホサートと関連する病変、食品や飲み物の汚染、環境汚染、等にもっと真剣な関心を寄せることが求められる。
水道水から検出される環境汚染は内分泌かく乱作用をひきおこすのに十分なのではないか。あるいは、すでに「遅きに失した」と言えるのかも知れない。ミネソタ州の事例では、1993年以降、公共飲料水がグリホサートによって汚染された事例は4件あって、1.1ųg/l (ppb)から39ųg/l (ppb)を示した。
1ppbの千分の一である1pptのレベルのグリホサートであってさえも第三・第四世代に内分泌かく乱作用を引き起こすことが動物試験で確認されたという事実は画期的である。超微量の汚染であっても将来世代に悪影響を及ぼす。内分泌かく乱作用以外の病変については、食卓からグリホサート汚染を排除することによってグリホサートが引き起こすかもしれない病変は見違えるように軽減できるのではないか。子供たちをアレルギー症や自閉症、注意欠陥多動性障害、等から守ってあげなければならない。
また、ラウンドアップ製剤の毒性は主要成分であるグリホサート単独での毒性よりも高いことが今後の長期にわたる動物試験によって確定されるのかも知れない。明らかに、これは今までの数十年間にモンサントによって都合よく醸成された常識や安全神話、あるいは、洗脳情報を覆すものとなるだろう。
皆が地動説を受け入れるようになる日は遠いのか、それとも、近いのか、今後の動きに注目して行きたい。
参照:
注1:Popular Brands of Beer and Wine Found to Contain Glyphosate Weedkiller: By Sustainable Pulse, Feb/26/2019
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