2020年1月14日火曜日

トランプ政権がソレイマニを罠にかけた

イランのソレイマニ将軍は外交官パスポートを携えてイラクを訪問し、バグダッドの国際空港を車で出る際に無人機によるミサイル攻撃を受けて殺害された。周到に準備された暗殺である。13日のことであった。

米国のトランプ大統領は、201858日、2015年に米英独仏中ロとイランとの間で合意されたイラン核合意から脱退すると宣言した。それ以降、米・イラン関係は悪化する一方であった。

ソレイマニ将軍の暗殺を受けて、イラン革命防衛隊は8日の午前1時半頃にイラクにある米軍基地に向けてミサイル攻撃を行った。イラン軍による報復攻撃を受けたふたつの基地はアル・アサド基地とアルビル基地。前者の駐屯基地では約1500人の米軍と多国籍軍とが宿泊していた。また、後者の基地ではイラク軍部隊の訓練が行われており、13カ国の軍関係者と民間人の合計3600人が宿泊していたとのこと。しかし、米国側の発表によると、この攻撃で死者は出なかった。

8日のミサイル攻撃によって、米国の狙い通りに戦争が始まると大部分の人たちは思った。しかしながら、幸いなことにはそうは展開しなかった。世界で最強の軍隊を持つと豪語するトランプ米大統領は「死者はひとりも出なかった」と言って、イランを深追いすることを控えた。

米議会の下院では、ソレイマニ将軍の暗殺後、9日、大統領による対イラン軍事攻撃実施に制約を加える決議案が賛成多数で可決されたばかりである。この下院の新たな動きを反映して、トランプ政権としては対イラン戦争の拡大を抑える必要があったのかも知れない。あるいは、今年11月の大統領選での再選を狙って、厭戦気分が高まる有権者からの賛成を確保するための動きであるのかも知れない。それとも、まったく別の理由からかも。今後さまざまな分析や説明がなされることだろう。

ここに、「トランプ政権がソレイマニに罠をかけた」と題された記事がある(注1)。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

<引用開始>

ソレイマニ将軍はイラン・サウジアラビア間の和平について話し合うために外交使節の身分でイラクを訪問したところであった。この話し合いはトランプ政権が求めていたものである。

 
Photo-1

当面は中東地域における緊張が急拡大することは回避できたとして、われわれは誰もが溜息をもらしていることであろうが、イランのガセム・ソレイマニ将軍の暗殺に関してはいくつかの事柄について簡単な問いかけをしてみることがすこぶる重要であろう

ぺぺ・エスコバーは地政学的な出来事に関して執筆し、広く名声を博している。彼は下記のように述べている(16日):

「バグダッドの特別国会で、この日曜日(15日)、イラクのアディル・アブドル・マハディ暫定首相は驚くべき事実を明らかにした。ガセム・ソレイマニ将軍は外交官旅券を携行して、ごく普通の定期便でバグダッド入りした。彼はテヘラン政府によってバグダッドへ派遣され、中東地域の和平に関するリヤドからのメッセージに対するイラン側の回答を携えていた。これらの交渉はトランプ政権によって求められていたものである。」[1]

エスコバーはさらに説明を続けた。

「つまり、バグダッド政府はトランプからの依頼を受けて、テヘラン政府とリヤド政府との間を公式に仲介していたのだ。そして、ソレイマニはメッセンジャーであった。アディル・アブドル・マハディは先週金曜日(13日)の午前8時半にソレイマニと会見する予定であった。しかし、約束の会見時間の23時間前にソレイマニはバグダッド空港の近辺で暗殺の対象として狙われ、殺害された。このことは21世紀の外交史に明確に刻んでおこうではないか。」[2]

ソレイマニはイランとサウジアラビアとの和平を話し合うための外交使節としてイラクを訪れていた。この話し合いはトランプ政権から求められていたものであった。彼は、イラク民兵団の指揮官を勤めるアブ・マハディ・アル・ムハンディス共々、13日、夜明け前の米国による空爆によって殺害された。

エスコバーは下記の点を強調している。

「事実関係を整理すると、米国政府は他国の地で、そこではお客さんの身分でありながらも、米国政府自身が求めていた話し合いのためにやって来たイランからの外交使節を暗殺したのである。」[3]

「ワールド・ソーシャリスト・ウェッブ・サイト」のアンドレ・デーモンとデイビッド・ノースによると(17日)、イラクのアブドル・マハディ首相はイラク議会で次のように述べている。

「トランプは彼の外交手腕について個人的に彼に謝意を表明し、ソレイマニは危害に見舞われることはないという印象を与えていた。ところが、数時間の内にもイランの将軍は殺害された。アブドル・マハディ首相はこれはイラクの主権をひどく脅かすものであるとして強く非難した。 [4]

イラクでソレイマニを暗殺するためにトランプ政権は彼を罠にかけたとする結論に到達せざるを得ない。事実、サウス・フロントというニュースサイトが「米国は予定されていた和平会議を機会にイランの軍事司令官に罠をかけ、彼を暗殺した」と15日にあからさまに報じたが、これは実に厳しい現実である。デモ参加者がバグダッドの米国大使館を襲った後、「1231日、トランプは差し迫った和平の話し合いに関してイラクの首相に謝意を伝える電話をした。」[5]

金融上の核兵器的な選択肢がトランプの原油戦争に決着をつけるだろう:

(訳注:ぺぺ・エスコバーはイランが追い詰められた時に最後の手段として実施するかも知れないホルムズ海峡の封鎖を「核兵器に匹敵する選択肢」と呼んでいる - 原典Financial N-option will settle Trump’s oil war: By Pepe Escobar, ASIA TIMES, Jan/06/2020.  ホルムズ海峡が封鎖された暁には世界の原油供給量の22パーセントが市場から消えてしまう。その結果、世界経済は大打撃を受け、1933年のドイツにおける景気の悪化よりもさらに酷い状況が現出するだろう。覚めた頭脳を持った将軍らは米海軍はホルムズ海峡を開いておく能力を持ってはいないと述べている。)

この課題に取り組むよりも、トランプ政権はむしろさまざまな手法を使ってこの課題を避けようとした。たとえば、米国防長官のマーク・エスパーはCNNにこう言った(17日)。「ソレイマニは現場を押さえられている・・・ テロリスト組織の指導者がもうひとりのテロリスト指導者と会って、米国人の外交官や軍人または施設に対する攻撃を同期させ、更なる攻撃を加えようと計画している。」[6]

奇しくも、ソレイマニをイラクへ送り込んだ会合は和平に焦点を当てようとするものであったが、このような偏った解釈は特に悪意に満ちていると言わざるを得ない。しかし、エスパーはさらにCNNに次のように述べて、自分自身が喋った偏った解釈よりもさらに上を行った。

「われわれが期待しているのは状況が落ち着きを取り戻し、テヘラン政府がわれわれと同じ席に着いて将来のより良好な方向について議論を開始することだ。」[7]

18日、「Truthout」がノーム・チョムスキー、リチャード・フォーク、ダニエル・エルスバーグの3人による論説カラムを掲載した。その論説で彼らはソレイマニの暗殺は「非合法的で、挑発的である」と批判した。[8]

しかしながら、彼らの論説は次のような文章も含んでいた。

「われわれが現在知っている限りでは、ソレイマニ将軍は隠密行動ではなく定期便でイラクへやって来た。彼はバグダッド政府の招待で和平を話し合う外交使節としてイラクへ到着し、翌日には首相との会談を行うことも予定されていたが、これらの行動はイランとサウジアラビアとの間の緊張を和らげるためのものであった。イラクの主権を侵されたことに反発して、イラク議会は米軍を同国から撤退させることを決議した。地域的なイニシアチブを取り付ける代わりに、ソレイマニ将軍の暗殺は地域紛争の悪化をもたらした・・・」[9]

何故チョムスキーとフォークおよびエルスバーグは米国によって罠が仕掛けられたという報道済みの事柄に言及しなかったのだろうか?もしもイラク首相が既報の如くイラク議会で述べたことが彼らには信じられないと言うのであれば、彼らはそのことを述べ、どうして信じられないのかを説明するべきであった。

そうする代わりに、たとえ彼らがその合法性に疑問を示し、この出来事が巻き起こす反響を遺憾に思ったとしても、彼らはこの暗殺に関してトランプ政権が抱く偏った見方に同意しているかのように受け取られるのが落ちだ。

議論の余地はあるだろうが、誰もが一発触発を警戒している中、今はより徹底した正直さが求められる時であり、決してそれを疎かにしてはならない。結局のところ、トランプ政権によって敵国と名指しされた国の間ではいったい何処の国が、暗殺のために狙い撃ちされるかも知れないということが分かっていながらも交渉団を何処かの国へ派遣しようと思うのだろうか? 

脚注:

[1] Pepe Escobar, “The Economic Risks of Trump’s Reckless Assassination,” Asia Times, January 6, 2020; republished in Consortium News, January 6, 2020.

[2] Ibid.

[3] Ibid.

[4] Andre Damon and David North, “The US propaganda machine justifies the assassination of Qassem Suleimani,” World Socialist Web Site, January 7, 2020.

[5] “Was Soleimani Framed by Trump? In Baghdad to Receive US Supported ‘De-escalation Proposal’ from Saudi Arabia,” South Front, January 5, 2020; republished in Global Research, January 6, 2020.

[6] Quoted in Zachary Cohan, “Esper says US isn’t looking ‘to start a war with Iran, but we are prepared to finish one’,” CNN, January 7, 2020.

[7] Quoted in Julian Borger and Patrick Wintour, “Iran crisis: missiles launched against US airbases in Iraq,” The Guardian, January 8, 2020.

[8] Noam Chomsky, Richard Falk and Daniel Ellsberg, “Congress Must Forcibly Limit Trump’s Power to Attack Iran,” Truthout, January 8, 2020.

[9] Ibid.
初出: Global Research
Copyright © Joyce Nelson, Global Research, 2020

<引用終了>

これで全文の仮訳が終了した。

ソレイマニ将軍の暗殺は米・イラン関係を決定的に悪化させたように思う。何処の国でも、どんな文化や歴史をもった国であっても、個人の尊厳や国家の主権を脅かされると強烈に反発する。そのような反応が今イランとイラクで起こっている。

その一方で、この暗殺の直後にあからさまに米国に拍手を送ったのはイスラエルであった。多くの国の一般庶民は第三次世界大戦が迫っているという懸念を大きくした。今数多くの解説記事が氾濫しているが、その中には米国はイスラエルからの要求に応じてこの暗殺を遂行したという報道がある(原典:Trump, at Israel’s Request, Assassinated the General Most Responsible for Destroying ISISBy Eric Zuesse, Jan/08/2020。当初のイスラエルの反応を見ると「さもありなん」という感じがする。


参照:

1Trump Administration had Set a Trap for Soleimani: By Joyce Nelson, Global Research, Jan/10/2020

 

 
 

0 件のコメント:

コメントを投稿