2020年4月9日木曜日

もっと大きな物事が新型コロナウィルスの背後に潜んでいる

ここに「もっと大きな物事が新型コロナウィルスの背後に潜んでいる」と題された記事がある(注1)。

今や朝から晩まで新型コロナウィルスに関するニュースや情報に明け暮れ、政府が発表する最新のデータについて一喜一憂するようになってすでに久しいが、皮肉なことには、この表題はニュースの上っ面しか見ていないわれわれ一般庶民にとっては日常性をひっくり返すような感じの表題である。果たして何が潜んでいると言うのだろうか?

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。

<引用開始>


Photo-1: Photograph by Nathaniel St. Clair

物事の多くは当局がそう言っているからそのように見えるのだと誰かが言っている。その言い方が余りにも皮肉っぽく聞こえるならば、しばらく休息してから、一年前に、いや、たった数週間前にもっとも重要であったことはいったい何であったのかを反芻してみて欲しい。

すると、西側に対するロシアの介入が当事のもっとも重要な問題であって、それに対抗するためにはわれわれの感情的ならびに政治的なエネルギーのほとんどを投入しなければならない課題であると当事は考えていたのではないだろうか。あるいは、数週間前にはドナルド・トランプをホワイトハウスから追い出しさえすればすべてが解決するとあなたは思っていたかも知れない。

または、ブレグジット(英国のEUからの脱退)こそが英国の問題を解決する万能薬である、あるいは、それとはなったく逆に、英国の凋落をもたらすことになるとあなたは考えていたのではないだろうか。

あなたは果たして今でもそのようにお考えだろうか? 

結局のところ、たとえそうしたいとは思っても(疑いもなく、ある者は実際にそうしようとするが)、われわれはコロナウィルスの大流行に関してウラジミール・プーチン、あるいは、フェースブックでの宣伝のために数千ドルを費やし、挑発的なメッセージをインターネット上に掲載するロシア人を実際に非難することはできそうもない。

たとえそうしたいとは思っても 、民営化され、設備がまったく貧弱で全米規模で起こる医療危機に対しては何の準備もできてはいない、見るも無残な米国の医療システムの現状に関してトランプを非難することはできそうもない。

われわれの中の何人かにとってはひどく関心をそそられることではあろうが、英国での死者の急増に関して欧州圏の甘い国境や移民を実際に非難することはできそうもにもない。英国へウィルスをもたらしたのはグローバル化された経済と格安の航空運賃によって支えられている人の移動のせいであって、大流行が根を下ろした際に躊躇したのはブレグジットを推進していたボリス・ジョンソン英首相自身であった。

もっと大きな構図:

たった数週間前にわれわれが優先事項だと思っていた物事はもっと大きな現実の課題からはかけ離れていたのだと言えよう。大きな構図であると思っていたが、実はそれは十分に大きな構図ではなかったのかも。恐らく、もっともっと重要で急を要する事柄についてわれわれは考えてみるべきであった。つまり、それは現在われわれが耐え抜こうとしている大流行の脅威に見られるようなシステム上の脅威についてだ。

なぜならばわれわれ皆がロシアゲートやトランプあるいはブレグジットのことでうつつを抜かしていた頃、ペンタゴンを含めて、数多くの専門家らはそういった悲惨な出来事を予測し、事前に警告を発し、それを回避するために準備を整えるよう呼び掛けていたのである。

それらの警告を無視したからこそ、あるいは、警告に関心を示さなかったからこそ、今、われわれは現行の出来事に見舞われているのであって、それは科学を信用しなかったからではなく、その脅威を回避するために何らかの措置を取ろうとする意志が働かなかったからである。

われわれがじっくりと考えるとするならば、ふたつの事柄に達することができる。第一に、われわれの関心事はわれわれのものであることは実に稀である。多くの場合、他人様の事柄を弄んでいるのだ。二番目に、われわれに提示される「現実の世界」が名実ともに客観的現実と呼べるものを反映していることは実に稀なことだ。それはわれわれのために作り出された政治的、経済的ならびに社会的な優先事項の組み合わせである。

われわれのコントロール外にあって、既得権を持っている勢力、つまり、政治家やメディア、業界、等はまさに映画製作者が映画の筋書を書くように、現実を作り出してしまう。彼らはわれわれが注目すべき方向をある特定の方向に仕向け、他の方向へ導こうとはしない。

決定的に重要な視点:

他の物事のすべてを覆い隠してしまうような、今回われわれが直面している本物の危機においては、それが単なるひとつの機会であるとは言え、われわれは真実を認識し、われわれ自身にとって決定的に重要な視点を見い出す絶好の機会が与えられる。これは真の意味でわれわれ自身に属する視点であって、他の何人にも属するものではない。

かっての自分を、つまり、コロナウィルス以前の自分を思い起していただきたい。あの頃の優先事項は今の自分が感じている優先事項と同じであっただろうか?

この問いかけはこの危機においてあなたが現時点で優先している物事は必ずしも以前思っていた優先事項よりもあなたにとってより重要であると言っているわけではない。

もしもあなたがテレビを視聴し、新聞を読んでいるならば(ところで、テレビも観なければ新聞も読まない人っているのだろうか?)、自分自身のことや愛する家族のことを思って、多分、あなたは今脅威を感じていることであろう。考えを巡らすことができる事柄はコロナウィルスのことだけとなった。何かと比べてみたところで、それ以上に重要なことなんて何もありはしない。あなたが考えることは現行の都市封鎖がいったい何時になったら終わるのか、何時になったら通常の生活に復帰できるのかという点だけだ。

しかしながら、それさえもが客観的に言って「現実の世界」ではない。たとえコロナウィルスが恐ろしくても、コロナウィルスがもたらす脅威に誰もが恐れを抱こうとも、例の「当局のエージェント」はまたしてもわれわれが注目したい方向を特定の方向に仕向け、コントロール下に置こうとする。ただし、今回は医師や科学者が当局の一員なのである。そして、結果として良くても悪くても、彼らは自分たちの既得権に都合の良い方向へとわれわれの関心を誘導する。

感染者や死者の数は増え続け、それを示すグラフ、若者たちや年配者たちの話、生き残るための壮絶な闘いのすべてが唯一の目的に資するのである。つまり、われわれ皆が都市封鎖に固執し、人との接触においては一定の距離を保ち、楽観的になり過ぎて感染症を広めることはないようにすることだ。

ここで、われわれの関心事について考えてみよう。それは過剰に病院を満杯にすることなく、生き延びることだ。そして、それは指導者たち、つまり、「当局のエージェント」の関心事と一致させることによってだ。われわれは生き延びて、繁栄したい。彼らは秩序を保ち、不満感が沸騰して怒りや反乱に発展することを回避して、自分たちが有能であることを実証したいのだ。

細かい事柄によって締め出されてしまう: 

しかしながら、われわれの関心の対象はわれわれが思っているほど十分にわれわれ自身が所有しているわけではない。われわれがグラフに注目している時に、カーテンをぐいと開けて隣人たちが二回目の走りに出かけたかどうか、あるいは、家族全員が裏庭に集まって、年老いた両親からは遠い人の誕生日を祝っているのかどうかを確認しようとさえする。この危機がいかにうまく取り扱われているのかについて考える時間はほんの僅かの時間でしかないのである。ここでも、細かい事柄やごく平凡な事柄が基本的に重要で、もっと大きな視点を与えてくれる物事を脇へ押しやってしまう。

現時点でわれわれがもっとも恐れるのはわれわれが基本的に重要な視点を見い出し、それを維持することには反対しようとする敵の存在である。グラフや死者数によって恐怖を覚えれば覚えるほど、われわれはたとえそれが何であろうとも、とにかく安全だと教えられた方向へと動いてしまう。

一般大衆が恐れていること、つまり、経済状況の悪化、将来の職場探しに関する懸念、等に関して実施された秘密の調査によれば、米国のような国々では巨額の公的資金が大企業に流れている。大企業や主流メディアのコントロール下にある政治家は、何の調査を受けることもなく、一目瞭然の理由から大企業によるこの現金強盗を後押しするのである。

われわれの関心事はコロナウィルスによって完全にハイジャックされてしまっているので、想定される経済的恩典、あるいは、あたかも本物のように見えるトリックルダウン説に関する不可解な議論をわれわれが意図的に分析することはできないだろうと彼らは予測しているのだ。

導入されつつある劇的な変化は他にもたくさんあり、それらはあまりにも多く、かつ、あまりにも急速過ぎるので、われわれはそれらの変化をまともに追跡することさえもできないでいる。移動の禁止。監視の強化。検閲。

苛酷な権力が警察に移譲され、軍隊を街の通りへ配備することさえもが準備中である。裁判なしの拘留。戒厳令。 かってトランプあるいはブレグジット、ロシアがわれわれの中心的な心配事であった頃われわれを心配させるには十分であった諸々の対策が、今や、「正常な生活への復帰」を果たすには正当な対価であるかも知れないと考えるようにさえなっている。

以前は誰もが享受していた正常な生活を切望することは、逆説的に言うと、かっての正常な生活へ戻る機会を永遠に奪ってしまうような新常態を受け入れなければならないことを意味しているのかも知れない。

要は、物事は単にわれわれの多くが容易に受け入れられる以上に暫定的であるというわけではなく、「現実の世界」を眺める、あるいは、「正常さ」を観察するわれわれの窓はほとんどすべてが作り物であるということだ。

ウィルスによって気を逸らされて: 

この時点ではまったく不可思議に聞こえるかも知れないが、われわれが感じる恐れや心痛の最中、この大流行は実際には大きな構図であるとは言えない。われわれの関心はウィルスによって消費されてしまい、実に恐ろしい意味合いにおいてはそれは気晴らしでさえもあるかのようだ。

多分、われわれが想像するよりももっと早い時期になるかも知れないが、23年後にはわれわれはこのウィルスの大流行を振り返って、その距離と後知恵との恩恵を受けて、われわれが今プーチンやトランプあるいはブレグジットに関して思っているのと同様に感じ取るのではないだろうか。

それは昔のわれわれ自身の一部を感じさせ、古い優先事項や遥かに大きな構図の中の小さな部分、われわれが何処へ向かっていたのかに関するひとつの手がかり、あるいは、それがもっとも重要であった時にさえもわれわれが関心を払おうともしなかった前兆、等をはっきりと示してくれることであろう。

このコロナウィルスはひとつの小さな警告である。数多くの警告のひとつである。つまり、われわれは自分たちが他の生命と共有している自然界との同期を破って生活をしてきたのだ。われわれはそれをコントロールし、統治する必要がある。われわれはそれを取得する必要がある。治安が必要だ。死を征服することが必要だ。これらはどれもが他の全ての必要性を押しのけてしまったのだ。

われわれは迅速で容易な解決策を約束した連中に従い、妥協することを拒む連中や権力者の意向を伝える連中、恐怖心を広める連中、あるいは、周囲を憎む連中に従った。

もしもわれわれ自身が注目したい関心事に方向を切り変えることができるならば、もしも暫くの間われわれの関心事を自分たちのコントロール下に取り戻すことができるならば、われわれはコロナウィルスによって蝕まれていただけではなく、われわれが抱いた恐怖心や憎悪、飢餓感、利己心によって蝕まれていたことをはっきりと理解することであろう。

その証拠は火事や洪水、疾病、絶滅してしまった昆虫、汚染しきった海洋、この地球上で古来から肺の役割を担ってきた森林、融け去りつつある氷冠、等に見られる。

大きな構図はごく普通の視野の中に隠されている。もはや、ロシアやブレグジットのような課題によって視野を遮られているわけではなく、今やそれは生と死との間の細い境界線を示している。

著者のプロフィール:ジョナサン・クックは「マーサ・ゲルホーン・ジャーナリズム特別賞」を受賞。彼の最近の著作は「Israel and the Clash of Civilisations: Iraq, Iran and the Plan to Remake the Middle East(Pluto Press)および、「Disappearing Palestine: Israel’s Experiments in Human Despair(Zed Books)。彼のウェブサイトは http://www.jonathan-cook.net/

<引用終了>

これで全文の仮訳が終了した。

著者が言いたかったことはこうだ。

「苛酷な権力が警察に移譲され、軍隊を街の通りへ配備することさえもが準備中である。裁判なしの拘留。戒厳令。 かってトランプあるいはブレグジット、ロシアがわれわれの中心的な心配事であった頃われわれを心配させるには十分であった諸々の対策が、今や、正常な生活への復帰を果たすには正当な対価であるかも知れないと考えるようにさえなっている。

以前は誰もが享受していた正常な生活を切望することは、逆説的に言うと、かっての正常な生活へ戻る機会を永遠に奪ってしまうような新常態を受け入れなければならないことを意味しているのかも知れない。

要は、物事は単にわれわれの多くが容易に受け入れられる以上に暫定的であるというわけではなく、現実の世界を眺める、あるいは、正常さを観察するわれわれの窓はほとんどすべてが作り物であるということだ。」

彼が指摘している内容は大災害が起こった時の政府の対応に共通して見られるとも言えよう。

政府としてはパニックに陥ることを是が非でも回避するためにさまざまな対応策を取る。米政府の場合は対応策のひとつとして軍の派遣も含まれる。また、正当化することができる策だけとは限らない。中には一般大衆を恣意的に誤導することさえもある。

日本について言えば、今考えつく好例は福島原発の事故の際に日本政府がとった行動だ。「放射能は健康に害を与えるようなレベルではありません」と当時の内閣官房長官はテレビで繰り返した。今になって言えることはあれは真っ赤な嘘だった。当時18歳未満の子供たちにその後甲状腺がんが多数発見されたことは今では誰もが知っている。しかも、事故直後に放射能がどのように広がったのかを示すコンピュータによるシミュレーションの結果はついに公表されなかった。政府にとってはさぞや不都合なデータが含まれていたのであろうと容易に想像することができる。他にどんな理由があったと言うのか!

一般大衆の立場から言えば、行動制限がなく、友人たちと自由に集まることが可能であった以前の快適な生活に戻りたいと思うならば、もっとも重要なことは恐怖心や不確実性といった背景の中であっても事実に基づいて常識的に、そして、論理的に物事を分析し、考える姿勢は絶対に放棄してはならないという点だ。さもなければ、理性的な理解力は失われ、とんでもない陰謀論または偽情報に振り回されて、そこから抜け出すだけの冷静さはまったく期待できないであろう。

「われわれ皆がロシアゲートやトランプあるいはブレグジットのことでうつつを抜かしていた頃、ペンタゴンを含めて、数多くの専門家らはそういった悲惨な出来事を予測し、事前に警告を発し、それを回避するために準備を整えるよう呼び掛けていたのである」
と著者が指摘しているが、コロナウィルスの大流行に関しては米政府は専門家から事前に知らされていたという事実を支える関連情報として、私が知る限りでは、下記のような事例がある:

  1. Exclusive: The Military Knew Years Ago That a Coronavirus Was Coming: By Ken KlippensteinTwitter, The Nation, Apr/01/2020
  2. Two years before coronavirus, CDC warned of a coming pandemic: By Alexander Nazaryan, National Correspondent, Yahoo News, Apr/02/2020
  3. What did they know, exactly? US intel warned of ‘cataclysmic’ coronavirus pandemic in NOVEMBER 2019, report claims: By RT, https://on.rt.com/aehl, Apr/08/2020 

ところで、今回の投稿では何時もとは明らかに違うことがあった。引用記事を意訳することによって読み易くしてはいるのだが、それでもところどころにやや難解な部分が残っているような気がする。ご容赦ください。誤解を恐れずに率直に言うと、この著者には他の書き手では遭遇しなかったような難解さを私は感じた。逆に、それはとりもなおさず私自身の力不足を証明することに他ならないので、これを機会に気分を引き締めて、さらに精進したいと思う次第だ。

参照:

1The Bigger Picture is Hiding Behind a Virus: By Jonathan Cook, Apr/03/2020








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