2021年2月11日木曜日

米中戦争に関する専門家の解析

 

最近米国の大統領執務室の新たな住人となったジョー・バイデンは好戦派に属するようだ。トランプ前大統領とは異なり、少なくとも、戦争を回避するような姿勢は見えない。とすると、世界の覇権国を巡って起こるかも知れない米中戦争はどのような結果を招くのかという設問は専門家にとっても、素人であるわれわれ一般庶民にとっても極めて現実味を帯びたテーマとなる。

今後の世界はどう展開するのか?世界秩序の大リセットが起こると方々で言われているが、もっとも興味をそそられる具体的な側面のひとつは米国が有する世界最強の軍事力が台頭する中国に対してどのように使用されるのかという点であろう。米国以外の世界にとっては非常に不幸なことではあるが、今や、「ツキジデスの罠」にすっかり陥っている米政府を始めとした好戦派は中国に対して武力を行使することを当然のことのように考えているようである。

ここに「米中戦争に関する専門家の解析」と題された記事がある(注1)。昨年12月の記事であるから、これはまだトランプ政権がホワイトハウスにいた頃の議論である。しかしながら、その賞味期限は決して過ぎてはいない。

本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有してみたいと思う。

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軍事力の相関性:物資やサービスに関する米国の対中貿易は2019年には6348億ドルに達したと推測される。輸出が1630億ドルで、輸入は4718憶ドル。物資やサービスに関する米国の対中貿易赤字は差し引きで2019年に3088憶ドルに達した。サービスに関する中国との貿易(輸出入合計)は2019年に767憶ドルを記録した。サービスの輸出は565憶ドルで、サービスの輸入は201憶ドルであった。サービスに関する対中輸出超過は2019年に364憶ドルとなった。

ワシントン子の間では対中戦争の可能性に関する話がもちきりである。スティーブ・バノンは子供の頃に転倒して頭を打ったのではないかということがほぼ間違いないようであるのだが、実際に彼はそういった話には好感を抱いているようだ。中国人が如何に驚異的なことを行っているか、そして、われわれは気持ちを引き締めて米国の価値観を守り、ワンと吠えるのは何のためなのかを彼らに示してやらなければならないと言う。こうして、女どもを追いかけ回す時のようなお決まりの警告を耳にするのである。アジアの海域において臆病心に駆られ、いったいどちら側が早く瞬きをするかといった軍事ゲームを続けるのは危険極まりないことだ。実際に撃ち合いを誘発しかねないからだ。次のような状況に関してはあなた方もよくご存知であろう。つまり、戦艦が他国の戦艦の航路から逸れようとはしない。まさに正面衝突のコースである。棄権証書に署名している筈ではあるが、頭の回転が鈍い少佐が発砲を命じ、そして、われわれはその場にはおらず、急いで現場に駆けつけることになるだろう。子供たちに火遊びを許すのは決していい考えではない。

この戦争については馬鹿者たちの間では感情的な言葉がやり取りされ、そういった物事に精通している筈の連中の間では純粋に海軍用語を用いた議論がされたりするので、われわれは「第一列島線」とか「第二列島線」と言った言葉を耳にし、誰のミサイルに対して誰のミサイルが云々といった議論を聞くことになる。この種の議論はわれわれが再び第二次世界大戦を戦うとするならばまことに妥当であるのかも知れない。だが、現代の戦争はそんな戦いにはならない。ここで、上述の戦争がどのようなものとなるかに関して手短に推測をしてみよう。

戦争を開始するに当たっては、米国は自分たちの軍事力を過大評価し、中国の軍事力を過小評価する。これはペンタゴンの基本的な姿勢である。恐らく、マニュアルが存在するのであろう。とりとめのないワシントンDCの空想においては、インテリアとして緑をあしらったバーにたむろす将軍たちはこの戦争は短期戦で終わるとわれわれに言う。この戦争は容易く、数日あるいは数週間で終わると言う。だが、ベトナムやラオス、カンボジア、アフガニスタン、イラク、シリアといった事例がある。彼らの考えには降伏することなんてまったく存在せず、何ヵ月にも長引き、中国人はまったく違った考えを持っていることがやがて判明する。きっと、さまざまな奇抜な出来事が起こるに違いない。

シンクタンクのランド研究所は少なくとも心情的にはペンタゴンの所有であると言えようが、彼らは台湾海峡と南シナ海のふたつの仮想戦域に関してシミュレーションを行い、どちらのケースにおいても戦争は長びき、米国は敗北するとの結論に至った。われわれはもはや1960年代に生きているわけではないのである。

さて、戦争についてだ。第一日目、中国全土に広がっている米国のさまざまな工場が閉鎖される。たとえば、アップルは自社の工場や製品、ならびに、14億人もの消費者を有する中国市場を失う。店舗が閉鎖される。(アップルの最高経営責任者である)ティム・クックは自分の感謝の気持ちには何の限界もないことを知るであろう(訳注:補足の文言がないので理解しにくいかも知れませんが、私の理解では、これはこのようにネガティブなことさえもが起こり得るという最大級の皮肉を込めた言い回しではないかと推測します)。米国の自動車メーカーは何百万台もの車を中国で販売しているが、ほとんどは中国で生産したものだ。一晩のうちに彼らは工場や生産した自動車、中国の顧客を失う。全体として見ると、中国は米国が買うよりも遥かに多くの自動車を買っている。これ程に明白な物事を整理して考えることが解析と称されるならば、この種の解析は他のさまざまな産業に関しても次々と行うことが出来よう。産業界からの投票は「おさらば」となる。

数週間の内にウオールマートの商品棚は空っぽになる。店内の通路を歩いて、「生産国」の表示ラベルを読んでみたまえ。われわれはプラスチック製のバケツやモップについて話をしているだけではなく、この状況はチェーンソーや医薬品、オートバイ、血圧計にまで至る。こうして、ほとんどの労働者の票が影響を被る。米国は中国から年間4720億ドルもの物品を輸入し、これらにはハイテック品やローテック品、消費者物資、産業用部品、等が含まれる。しかし、もう輸入はできない。

中国は年間1630億ドルにもなる米国製品を購入する。原油、半導体、航空機エンジン、大豆、航空機、等々。今後はもう買ってはくれない。このような状況が指導的な企業の重役会に与えるであろう影響は決して過小評価することができない。そして、もちろん、中国のためにこれらの製品を製造する筈であった米国の労働者は解雇される。選挙区に対する政策としては、対中戦争はどう見ても最適とは言えない。

中国は電子部品、たとえば、半導体を製造する上では不可欠となる希土類のほとんどを生産している。速やかに代替策を見つけることはできそうにはない。米国では何から何まで希土類が使用されている。たとえば、自動車の電気系統を統御するコンピュータもそうだ。私は詳細に調べたわけではないが、コンピュータ自体が中国で製造されていることはあり得ることだ。「敵国の」という言葉に関して新たな理解やもっと深い意味を見い出したいならば、半導体が無くなってから二日目を迎えた指導的企業のCEOの思いをじっくりと推測してみたまえ。

実際の戦争においては、先に述べた事柄を考えた後に中国は(賢明にも)台湾の半導体工場を破壊することだろう。TSMCの工場や他のメーカーの電子部品工場が破壊目標となる。台湾海峡は約100マイルばかりであることから、この破壊作戦は決して難しいわけではない。米国が輸入する高品質の半導体は台湾から輸入されることから、これらの工場を失うことは米国にとっては大きな痛手となろう。米国が国内でこれらを補う能力を確保するには何年もかかる。必要となる設備のいくつかは米国内で製造されてはいない。たとえば、紫外線リソグラフィー装置は国内で製造されてはおらず、どう見ても、ビール缶のように簡単に製造することはできそうもない。

米国は誰かが考えるよりも遥かに多くを中国に依存していることは容易に分かる。一例を挙げると、自動車産業においては彼らが使うスパークプラグは中国から輸入されている。米国はスパークプラグを製造することができることは確かであるが、10年ほど以前に米産業界は中国で製造すれば40%も低価格で製造することが可能であることを発見した。 協力体制に順応していたトランプ政権以前の当時のビジネス世界においてはこれは難題ではなかった。しかし、今は違う。国内での自動車の販売が重要であり、自動車を生産する労働者のために職場を確保することが重要なのである。

もしもあなたが、たとえば、ボーイングの航空機の部品供給企業のリストを詳しく調べてみさえすれば、多くの部品は中国で製造されていることに気がつくであろう。私はそのことに南アフリカにあるダイアモンド鉱山やアルゼンチンにある牛の大牧場を賭けてもいい程だ。間違いなく、ほとんどの部品はいつの日にか米国で製造することが可能だ。だが、ボーイング社はいつの日にかではなく、今直ぐにでもこれらの部品を必要としているのである。

中国との大規模な戦争が引き起こす他の国々に対する影響はことさらに酷いというわけではないとしても、その状況は壊滅的なものとなろう。他の国々も中国や台湾から半導体など数多くの物品を輸入している。「X国の最大の貿易相手国」をグーグル検索していただきたい。非常に強力なパターンが直ぐに浮かび上がって来るであろう。実際問題として、どの国にとっても中国が最大の貿易相手国なのである。まさにすべての国々がそうであって、ドイツや日本、オーストラリア、ロシア、南米全域がこの範疇に含まれる。世界経済は全域にわたって崩壊することであろう。

何とまあスマートな考えであろうか?通貨価値の急速な下落、中産階級の没落、新型コロナによるビジネスの倒産、仕事場の海外への移転、その日暮らしの庶民、社会的な不幸による暴動騒ぎの急増、等々によって米国はすでに全米規模の深刻な問題を抱えている。あなたは深刻で殺人的な経済恐慌を引き起こし、捉えどころがない程に愚かな戦争を一般大衆が支持するとでもお考えだろうか?もしそうお考えならば、あなたはその仲立ちとなるような何かを数多くお持ちだからではないのか。

これは無用の長物となった議会からの制約を何も受けないホワイトハウスの内外にいる何人かの愚か者たちによって全世界に対して引き起こされかねないのである。6人の愚か者たち。私が知っている限りでは、トランプについては、たとえそれが宣伝行為でしかないとしても、第三次世界大戦を引き起こす気配は感じられない。また、ペンタゴンの将軍たちも根っきりの愚か者であるというわけではない(戦争を開始するには議会の宣言が必要であると言って、彼らは戦争を拒否するであろう)。問題は、すでに何年間にもわたってそうであったように、米国が戦争を引き起こしたいならば、他の国々にその戦争を開始させようとすることにある。たとえば、イランの高官を暗殺し、軍縮条約からは脱退し、NATO軍をロシア国境の近くへ張り付け、貿易戦争の枠から大きく逸脱した経済制裁を他国に課し、南シナ海では中国を相手に軍事的脅しの外交を行っている。このような状況においては、あえて戦争を見い出そうとしなくても、新たな戦争を巧妙に引き起こすことは可能なのである。

著者のプロフィール:フレッド・リードに対するメールは jet.possum@gmail.comに宛てて書いてください。自動的な消去の対象にならないためには、題名にPDQ(大至急の意)の文字を挿入してください。新型コロナを予防し、ハゲを治療し、異性の前でもっと魅力的になるためにも、フレッドの素晴らしい著書を購入してください!

原典:The Unz Review, Dec/13/2020

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これで全文の仮訳が終了した。

台湾海峡を挟んで米中戦争が開始された場合のシミュレーションによると、台湾のコンピュータ生産工場や半導体工場が真っ先に破壊される。台湾経済の中枢に打撃を与えるという観点からは実に的を射たシミュレーションであると思う。

このことを尖閣諸島をめぐる日中戦争に当てはめてみたら果たしてどうなるのだろうかとふと思った。日本においても日中戦争のシミュレーションは自衛隊によって実施されているのかも知れないが、素人の私には知る術はない。

私が考える日中戦争は次のように始まる。

日本経済の中枢は東京に集まっている。素人考えではあるが、最悪のシナリオは日中戦争の初日に次のような出来事が展開するのではないか。中国は東京上空の高高度で原爆を炸裂させる。強烈な電磁波エネルギーに曝されて、関東圏のコンピュータは一瞬のうちに全てが破壊され、使い物にならなくなる。インフラを制御するコンピュータシステムが破壊され、交通機関はすべてが停止する。銀行システムは稼働せず、送電系統がダウンし、全停電となる。通信システムはマヒ状態となり、電話は通じず、インターネット接続もできない。しかも、このような全面的なマヒ状態を短期間のうちに回復させる可能性はほとんどない。原発は電源を失い、10年前にメルトダウンを起した福島第一原発事故の二の舞を演じるのではないだろうか?最大規模の悪夢が現実となる。それでもなお、仮に中国に対して日本が反撃することができたとしても、あの広大で奥が深い中国を攻撃し、経済活動を破壊するという報復行為は日本側にとっては至難の技だ。要するに、日中戦争という選択肢は日本にとってはあり得ないシナリオであることは明白だ。

軍事力の議論においては日本の優れた軍事的能力のひとつに潜水艦の戦闘能力があると言われている。しかしながら、日本の潜水艦はあくまでも日本周辺での防衛のための戦力であって、補給もなしに何ヵ月にもわたって長期作戦を展開するような代物ではない。私は楽観的にはなれない。

上記のような状況は、日本が主張する尖閣諸島の帰属とは関係無しに、台湾の軍事力と台湾を支える米軍だけでは足りずに、日米軍事同盟を根拠として日本が台湾を巡る米中戦争のために駆り出され、米国・台湾のためにその第一線に立たされた場合にも、最悪の場合は、そっくりそのまま当てはまるのではないか。


参照:

1An Expert Military Analysis of War with China: By Fred Reed, Information Clearing House, Dec/21/2020






2 件のコメント:

  1.  台湾が中国国内にたくさん投資していることが論じられていません。表面上は独立派と親中国大陸派が争っていますが,実態はどうなのでしょうか。はずみで戦争ということが起こるかもしれませんが,台湾財界が本土との戦争を望んでいない,と思います。
     ダボス会議に参加しなかった5ヶ国があります。米英加豪NZです。日韓は参加しました。先日,中印国境紛争は両軍とも軍を引き上げたようです。インドは伝統的な中立主義をとっているのでしょう。英米留学派と中露留学派の官僚がせめぎ合ったいるのだと思います。
     米英は香港や新疆ウィグル自治区で面倒を起こして戦争を仕掛けてくるように仕向けているようですが,中国はその術に乗らないと思います。私は親中国派ではありませんが,習近平氏の貧困撲滅に取り組む姿-地方行脚-には感心しています。2020年11月,貧困撲滅に成功しました。そういう中国が台湾を(先制)攻撃するとはとても思えません。したがって米英は領事館閉鎖とかインド洋太平洋自由航行作戦を仕掛けてくるのでしょう。しかし戦争以外では中国も反撃に出たようです。豪州の記者をスパイ容疑で逮捕しました。BBCを放映禁止にしました。まだあるかもしれませんが,今までに見られなかった反撃です。「キリスト教は左の頬出したら右の頬を出すが,中国人はやられたらやり返す」と言ったのは習近平氏です。
     しかしやり返すのであって先制攻撃はしないと思います。特に米国は議会を動かして戦争の承認を取り付けるためにいろいろ挑発しています。つまり中露善隣条約があったと思います。中国がやられたらロシアが援護する。逆も真なり。それを分かっているから米英はチョッカイを出すわけです。また欧州連合に対して「関係を断つ準備ができている」とラブロフ外相は先日言いました。
     ドイツ外相は冷静さを失ったようです。しかし戦争が近づいて来ている証拠に見えますが,米英が台湾に有力議員を送り込んでも中国にとってはチョッカイにしか映らないでしょう。それで気になるのがベネスエラです。バイデン政権はベネスエラに侵攻しそうです。トランプ大統領の時はイラン攻撃と同じように10分前に攻撃命令を引っ込めたようですが,バイデン大統領はやるかもしれません。ロシアに加えて中国も投資していますのでベネスエラは危険です。面倒なことに米英は直接手を下さず傭兵やアルカイダを使うのでさらに厄介だと思います。
     
     

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    1. 箒側兵庫助様
      コメントをお寄せいただき有難うございます。
      第二次世界大戦で起こったような焦土作戦はもう起こらないで欲しいですし、そのような武力対決は何が何でも避ける努力を各国がすべきであると考えます。
      しかしながら、何処を見ても道徳的観念が極端に弱まっている現在、ある特定のイデオロギーに固まったプロパガンダが喧伝されますと、非常に近視眼的な思考が唯一の政治の方向性であるかのような妄信状態を社会にもたらします。中国における紅衛兵運動や最近の米国政治で見たロシア疑惑や大統領選での選挙不正に絡んだ大手メデイアの情報操作、等はその最たる事例ではないかと思えます。今までに見た=てきた状況はこれから起こるもっと大きな出来事の予行演習であるかのように思えます。つまり、戦争の理由付けはさまざまな人たちによってさまざまな方向から行われ、思想統制が行われ、反対意見は完全に排除され、独裁的な政治の舞台が現出します。大多数の市民を洗脳するためにハイテック機器を用いたプロパガンダ・マシーンが巧妙に駆使されることになります。社会は、まさに、ジョージ・オーウェルが描いた「1984年」の状況に陥ります。今、改めてこの映画を観ますと、今の世界は「1984年」そのものではないかとさえ思えますよね。そして、今後の状況はさらに悪化の一途を辿るのかも知れません。「将兵の命を軽々しく捨てるような将軍は一人もおらず、米中間あるいは米ロ間では熱い戦争は起こり得ない」という楽観論も巷には多数存在します。そうあって欲しいと願うばかりです。しかしながら、そういった良識的な将軍にとっても答えられない難問が存在します。最後に残される不確定要素は何らかの偶然や事故が発端となって、大きな武力抗争あるいは核戦争に発展することでしょうね。これは運の問題でもありましょう。
      正直言いますと、こんな話は続けたくはないですね!気が滅入ってしまいます。

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