世界人口白書2021によると、2021年の世界の人口は78億7500万人で、2020年に比べて8000万人の増加。年率で1.0%の増加である。2030年は85億人となり、さらに2050年には97億人、2100年には109億人へと増えることが予測されている。
2021年の日本の人口は1億2610万人で、昨年度同様世界で11番目。前年に比べて、40万人の減少。2015年以降毎年0.2%ずつ減少している。この傾向がさらに50年間継続すれば、2071年の人口は1億1412万人となる。
急増する世界人口と食料の確保に関しては、国際稲研究所(IRRI)の野口明徳理事が著した「世界の人口動態とコメの需給そして国際稲研究所の新戦略」によると、その記事は下記のように述べている:
「世界における農村部と都市部の人口を年齢性別でみれば、15〜19歳からは全年齢帯において、男女とも都市部の人口が農村部を上回っている。この総人口に対する都市人口比率は1950年に30%であったが、2014年に54%、そして2050年には66%に上昇すると予測され、なかでもアフリカとアジアでは各56%と64%に到達すると予測されている。いずれの地域でも、その人口移動が気がかりであるが、アジアにおける人口およびコメ生産の大国である中国、インド、インドネシアの年齢性別人口分布をみると、とりわけ中国の農村人口が各年齢で都市人口よりも少なくなりつつあり、農産物生産能力を将来どのように維持できるかが懸念される。」
「日本に目を転じると、近い将来に農村人口は危機的状況を迎えるといえよう。食料自給率は2016年度のカロリーベースで38%と記録的な冷夏でコメが不作だった1993年度に次ぐ低水準であった。食料自給率は、どこまで下がるのか懸念される。」
「IRRIの設立時の世界のコメ生産量は約1億5000万トンであったが、近年では約4億7000万〜4億8000トンに増加し、その90%前後はアジアで生産・消費されている。なお、このアジアには、1日1.25ドル以下で生活する極度な貧困層の世界の70%に相当する約7億の人々が暮らしている。」
ここで、国際稲研究所(IRRI)の概要についても簡単に触れておこう。同研究所はフィリピンのマニラから南東65kmのロスバニョスに所在する国際農業研究協議グループ(CGIAR)傘下の農業研究機関である。1960年に設立され、国際非営利研究および研修のためのセンターであって、イネに関する研究調査を行うことを目的としている。その貢献地域は世界全体である。
さて、植物生理学に関わる側面についても確認をしておきたい。植物の葉に含まれているベータカロテンはクロロフィルと共に光合成に必要な光を捕捉する機能を有しており、葉緑体で発生する活性酸素を消去し、葉緑体が太陽光によって日焼けをしないように保護するという重要な役割を担っている。光合成を行うイネの葉にはベータカロテンが含まれるが、コメの大半を占める胚乳は光合成を行わないのでベータカロテンは産生されない。つまり、通常のコメにはベータカロテンは含まれてはいないのだ。
健康の観点から言えば、食品から摂取されるベータカロテンはヒトの体内でビタミンAに転換されることから、非常に重要な物質である。ビタミン
A の欠乏は、直接視覚・色覚に作用する物質の欠乏につながり、夜盲症、まぶしさの視覚障害から始ま り、さらには眼球乾燥症から角膜軟化症へと進行し、最終的には失明する。ビタミン
A 欠乏症はアフリカや東南アジアを中心に世界 118 カ国において公衆衛生的問題とされてお
り、特に発症のリスクが高いのは途上国の乳幼児と妊婦である。およそ1~1億4千万人の子どもがビタ ミン A の欠乏状態にあり、うち例年 25 ~ 50 万人が視力を失い、更にその半数は失明後 1 年内に命を落と
していると推定される。また、毎年約60万人の女性が出産に関連した原因で死亡していると報告されて いる。その大部分は妊娠合併症によるもので、ビタミンAを含む母体の栄養状態改善によって改善が可 能である。
コメは世界の半数以上の人々の主食であり、アジア諸国では摂取するエネルギーの30–72%を占めるため、ビタミンA不足を解消する媒体としては効果的な作物である。
通常のコメからベータカロテンを含むゴールデンライスが開発されたのは1999年のことであった。研究者ら(チューリッヒ工科大学の植物生物工学者であるIngo
Potrykusとフライブルク大学の生化学者であるPeter Beyer)はベータカロテンを生合成する遺伝子を導入し、胚乳でもベータカロテンが生産されるように通常のコメを改変した。その翌年、この研究成果はサイエンス誌に発表された。その後、より多くのベータカロテンを含む「ゴールデンライス2」が開発された。既存のゴールデンライスのベータカロテン含有量の23倍(最大で37μg/g)も多く含むゴールデンライス2は、2005年、シンジェンタ社の研究者チームによって作り出された(原典:Improving the nutritional value of
Golden Rice through increased pro-vitamin A content: By Jacqueline A Paine et al, Nature
Biotechnology volume 23, pages 482–487, 01 April 2005)。
ここに、「フィリピンが世界で初めて遺伝子組み換えのゴールデンライスを認可」と題された記事がある(注1)。
食料を増産し、すべての人たちに十分に食料を届けることは国際社会にとって長年の重要課題である。それと並んで、食品を通じて健康問題と闘うことも非常に重要なテーマであり、ビタミンA欠乏症との闘いもそのひとつだ。
本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。
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コメは子供たちに栄養を補給することができると思われている。本当にそうだろうか?
遺伝子組み換え作物は米国等においてはごく普通のことではあるが、一般的に言って、これらの作物は二つの目的のために遺伝子組み換えが行われている。効率性と利益性である。
ゴールデンライスは1999年にスイスで遺伝子組み換え技術によって短粒米にベータカロテンを含む形質を付与することによって作り出された。しかし、連邦政府の認可を得るためのこのコメの旅は遅々として進まず、反対意見も多かった。今週、フィリピン政府はゴールデンライスを認可したと発表し、認可を公表する国家の第1号となった。
ゴールデンライスはビタミンA欠乏症と闘うためにベータカロテンを含有させる遺伝子組み換え技術の恩恵を受けて作り出されたコメの品種である。この色素は赤っぽいオレンジ色を呈し、数多くの植物に見出され、中でもニンジンが良く知られている(この色素の名称はニンジンから由来)。ヒトの体はベータカロテンをビタミンAに変換し、ビタミンAは免疫システム、視覚、消化作用にとって重要な栄養素である。ビタミンA欠乏症は世界でもさまざまな地域において重大な健康問題を引き起こし、WHOの推定によると、全世界の就学前の子供たちの3分の1が影響を受けている。
フィリピンはゴールデンライスの推進に指導的な役割を担って来た。その開発やさまざまな試験はフィリピンで行われた。しかし、このコメが辿った道程は決して楽なものではなく、ある意味で過去数十年間にわたって観察されてきた遺伝子組み換え作物に関する議論と同一の状況に陥ってしまった。
賛同者はゴールデンライスの開発は命を救う行為であって、コップ一杯のコメによって毎日必要とするビタミンAの約50%を供給してくれる。支援者にはメリンダ&ビル・ゲイツ財団が含まれ、遺伝子組み換え品種の研究に資金を提供してきた。
反対者としてはグリーンピースといった団体が含まれている。中には遺伝子組み換え食品については原則的に反対しており、その食品が何であっても遺伝子組み換え食品には反対する者がいる。彼らの多くは、過去の歴史を見ると、農民や消費者に対してではなく、モンサントやシンジェンタといった大企業に莫大な利益をもたらすだけであって、開発のために必要となった何百万ドルもの資金はもっと費用効率が高い、栄養に関する他のプログラムへ投入するべきだったのではないかと指摘する。また、コメは典型的に白いものであると理解している地域において果たして黄色いコメが実際問題として人気を博するかどうかについては不確実性が存在する。
フィリピン・スター紙によると、このコメは最近「規制当局の段階」を通過した。つまり、これは他の通常のコメと同様に安全が確認されたことを意味し、栽培に供する準備は整ったのである。
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これで全文の仮訳が終了した。
人間社会における食料の供給問題は永遠絶えることがない課題であると言えよう。日本では古くから治水を制御する者が天下を取った。稲作には水が不可欠であるからだ。そして、現代では砂漠の緑化においては灌漑設備が不可欠である。
惜しくもゲリラ兵の凶弾によって倒れた中村哲医師はアフガニスタンで地方の恵まれない人たちに医療行為を行うたたわら、非常に基本的な疑問を抱いていたという。「この国ではどうして毎日患者が増えるのだろう」と。答えは水だった。地域社会のために農業を復興させるためのインフラとして用水路を作った。2008年に完成した25キロにも及ぶ用水路の周辺では1万6千ヘクタールが緑化され、約65万人の自給自足が可能になったという。
食料を巡る課題は多岐に及ぶ。この引用記事が伝えるゴールデンライスはその一つに見事な解決策を提供しようとしている。完全な解決策になったと断言することは現時点では時期尚早かも知れないが、成功の可能性は高いのではないだろうか。高くあって欲しい。
参照:
注1:Philippines Becomes First Country to Approve GMO
‚Golden Rice’: By Dan Nosowitz, Modern Farmer, Jul/28/2021
デビル・ゲイツ財団と言われている財団から研究費が出ているとすれば黄色い米であろうと紫色の米であろうと疑ってかかる必要があると思います。
返信削除ところで中村医師の真意は食料増産ではなくて,患者が絶え間なくやってくるのでどうしたら患者数を減らすことができるかが出発点であったと思います。つまりきれいな水と十分な食料があればそれは医師100人以上に匹敵すると考えたのだと思います。ゆえに井戸掘りに協力的でない人々を説得するためにタリバンにお願いし井戸を掘らせ,病原菌の少ない水を飲むように説得したわけです。そしてご指摘のように食料増産ができるようにするために,あるいは,安定した食料を確保しようとして水路の建設を思い立ったと聞いております。つまり、それは遺伝子組み換えとは全く関係ない話で,農業ができるようになれば村人は傭兵(兵隊や出稼ぎ労働者)になる必要もなく地元に戻ってきて家族とともに生活をすることができる。その結果治安も回復し病気にかかる村人も少なくなり,医者もたくさん要らないということになると、中村医師は考えたのだと思います。
他方中国政府は昨年11月,貧困家庭がなくなったことを宣言しました。子ども食堂や大人食堂がある米日とは決別したようです。また家の1階で牛や豚を飼っていた家屋から飼育を別にするアパート住いに移ってもらったようです。非衛生的な生活から衛生的な生活へ。まだ占い師やお祓い師が患者の首に動物を巻き付けて病気を無くすといった非医学的な療法がのこっている地方があります。伝統的な習慣ですからこれを一気に止めることはできませんが,近代的な病院や建物がいいとは限らないと思います。近くの日赤では夜、ネズミが散歩しています。近所のスーパー食料品店では昼間からネズミが運動 会を開いています。少数民族の伝統,習慣や家屋,民俗言語など残すべきは残すべしと考えます。
2019年秋,小生は40年ぶりに新疆ウィグル地区のカシュガルを訪れました。今から思えばコロナ禍前でしたので行けたことを神に感謝しております。訪れて一番印象に残ったのは沢山の食料があったことです。しかもメロンなどは品種改良されていて忘れられない味でした。またザクロのジュースなども冷たくて美味しかったと思います(たくさんあるのにも関わらず値段が高すぎるのが難点)。こちらの方は卵が好きらしくバザールでもたくさん食べられていました。人口は増えすぎ。どこへ行っても人,人。電気自動車に電気スクータ。幼稚園や小学校は子どもでいっぱい。テロがあったので自由に中は見れませんが隙間から覗くことはできました。
それはともかく40年前と比べて日常品や食料品がたくさんあり,町全体が活気にあふれていました。もちろんテロと厳しい取り締まりがあってちょっと暗い印象も人々から受けましたが,貧困からは遠い状況だったと思います。ホテルのトイレもかなりきれいで,ハエがたかっていた昔とは大いに異なったカシュガルでした。そのカシュガルからアフガニスタンは直線距離にすればそれほど遠くはないと思います。良い衛生状態と食料がない国家は国家でないような気がしました。
箒側兵庫助様
削除コメントをお寄せいただき有難うございます。
「デビル・ゲイツ」とは秀逸な表現ですよね。見事です!彼が資金を提供するプロジェクトはどれを取り上げても周到に隠された政治的意図が背後に隠されています。そのことを見事に突いていますね。
中村哲医師は不幸な死を遂げてしまいました。ご冥福をお祈り致します。
箒側様はカシュガルを訪問されたとのこと。幸か不幸か今や地政学的にも世界中の注目を浴びている地域ですね。地図で見ると、カシュガルの西側はキルギスタンと接し、南へ下るとアフガニスタンとの国境地帯となります。米軍が撤退したとは言え、国政が安定しないアフガニスタンがすぐそば。地政学的綱引きは何時でも隣接する地域へ飛び火しそう・・・ 新疆ウイグルの人権問題に関しては大手メデイアが報道するニュースがどこからどこまでが本当のことか全く予断を許さない昨今、自分自身の目で見て、新疆ウィグル地方の実態を肌で感じ取ることは非常に有益なことだと思います。それはジャーナリストだけの話ではなく、われわれ一般庶民にとっても同様に非常に重要なことではないかと感じています。最近は静かになって来ましたが、シリア紛争がたけなわだった頃、シリアに関するニュースはまさにフェークニュースばかりでした。フリーランスのジャーナリストからの現地報告だけがまともであったことを今思い起こしています。
登録読者のИ.Симомуораです.箒側さんと全く同感です.デビルゲイツ(実に言い得て妙)の支援目的は別の処にあるではないでしょうか.「(遺伝子改変食物への反対者)の多くは、過去の歴史を見ると、(この食品が)農民や消費者に対してではなく、モンサントやシンジェンタといった大企業に莫大な利益をもたらすだけであって、開発のために必要となった何百万ドルもの資金はもっと費用効率が高い、栄養に関する他のプログラムへ投入するべきだったのではないかと指摘する」は正論.ビタミン不足を補ないたいならば,もっと安上がりの方法はいくつも考えられます.かぼちゃを食べるのも効果的でしょう.昭和二十年代のあの食糧難のとき,村民の昼飯は「いも,かぼちゃ,トウキビ」のゆでたものでした.かぼちゃはカロテンが豊富に含み,食べ過ぎると小鼻の縁が黄色くなるほどです.村は「鰊場」ですが,常時鱒類が獲れました.蒸かしイモの上には,バター代わりの鱒筋子が載せられていましたね.箒側さんの「まだ占い師やお祓い師が患者の首に動物を巻き付けて病気を無くすといった非医学的な療法がのこっている地方があります」の文章,大変刺激的です.私が拙稿「シベリアとロシア極東の語源不明の楽器名の解読」を公表したとき,有名な若手のシャーマニズム研究者の猛烈な批判を被りました.小生はkobzaという弦楽器の紀元前一世紀の始発形は*qonbursukie qon 'sheep' +bur 'tendon'+sukie 'string'であると,証拠を明記して論じたのですが,彼は「kobzaはシャーマンの神具であり,そこに畜肉提供獣の羊風情が語根として存在するわけがない」と書いてきたのです.彼は四十半ば,言語学や民族学では青二才の年齢です.私は大変厳しい指導者だったので「あなたはアルタイ言語学と民族学の基本文献に目を通していない.誰々の何年の何々論文の何頁のスケッチを見よ」と書き送りました.絵に添えられた説明にはこうあります:カザフ(コサックではありません)人のフェルト小屋には病者が背の低い寝台に横たわり,その枕元と足本には羊が一頭づつ配されている.脇にはシャーマンが座り,kobzaを弾きその音色で病者の身体内部から悪霊を誘い出し,この楽器の響胴に閉じ込める.その後シャーマンは息でもって,補足された悪霊を吸い出し,両羊の耳孔に強く吹き込みます.哀れにもこの動物は動転し,幕舎の外へ駆け出す.こうして治療の一セアーンスが終了.逃亡羊は勿論シャーマンへの謝礼.シャーマニズムやシャーマンという言葉は,ツングース語の sam 'quake'から来ていると考えられております.アメリカのクエイカ―教徒の quaker も「身体を激しく震わせる者」から来たものでしょうか.
返信削除シモムラさま
削除コメントをお寄せいただき、有難うございます。民俗学における興味深い情報を拝見させていただきました。われわれ素人にとりましてはアクセスすることがなかなか難しく、非常に貴重な情報です。