「ツキジデスの罠」として歴史上繰り返して観察されてきたことは覇権国は新たに台頭する強国との間で戦争を引き起こすことが少なくないという点だ。覇権国が勝つこともあるし、新興の強国に敗退することもある。
今世界中が注目している米中関係は今後どうなるのであろうか?米中関係の行方は、場合によっては、日本にとってはまさに死活的な問題となり得る。
2021年、米軍とNATO軍はアフガニスタンから撤退した。今や、中ロ両国がアフガニスタンを支援する動きを強めていると報じられている。それだけではなく、米国はイランを攻撃しないと決断したとも見られている。イランが上海協力機構の新メンバーとして最近迎え入れられたことがそのことを端的に示しているというわけだ。つまり、米国がイランを攻撃しないことが分かったからこそ、米国との核戦争の可能性を心配することもなく中ロ両国はイランを新しい仲間として上海協力機構に迎え入れることにしたのだ。こうして、2021年の地政学上での最大の出来事はアフガニスタンやイランが米国の影響圏から離脱し、中ロの影響圏に移行したという点だ。
とは言え、軍事的にも経済的にも、そして、国際政治の場においても依然として世界をリードしているのは米国である。一方、中国は経済的な力をつけて、米国に迫っている。中国経済は購買力ベースでは米国の経済規模をすでに追い越したという見方も少なくはない。さらには、中国における個人消費は今後どんどん増えて行くであろうと予測され、中国経済はさらに拡大する。中国経済が米ドルベースでも米国のそれを追い抜くことはもはや時間の問題であろう。また、最近の外交面では米中間の駆け引きの力はどうも中国の方が優勢に見える。その典型的な事例は今年の3月にアラスカのアンカレッジや10月にスイスのチューリッヒで行われた米中政府高官の会談に見られる。報道によると、米国は中国に対して譲歩に次ぐ譲歩を余儀なくされたようである。
ここに、「なぜ米国は台湾を守るために戦争をしなければならないのか ― ヤフーニュースが大バカ者の百姓を相手に解説」と題された記事がある(注1)。
本日はこの記事を仮訳し、読者の皆さんと共有しようと思う。
台湾を巡る米中戦争の議論は「米国の国益」という抽象的な言葉で語られているだけであって、実質的な議論をしていないではないかという指摘である。
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ヤフーニュースは、木曜日(10月14日)の朝、次のような見出しの記事を掲載した:
この記事をクリックすると、違った見出しが現れて来る:
この記事については実際的にもっと適切だと思える見出しがある。それは次のようなものとなるであろう:「中国統一を妨げるために米国はなぜ世界戦争を始めなければならないのかに関して赤ん坊向けの指針」
この記事は手短で、偏っているだけではなく、大偽に満ちた概要を示している。台湾に関する中国側の立場については説明をしようともせず、「米国の国益」にとってなぜ台湾が重要であるのかを説こうともしていない。
それから、この記事の内容は本来ならばジョー・バイデンが言及するべき事柄であるのだが、その筋の専門家の言葉を引用している。
台湾を防衛するという断固たる決意の表明は武力侵攻を防ぐ最高の策だ:
「米国は台湾の防衛に駆けつけるのかに関しては曖昧さを排除しておく必要がある。米国の意図に関する不確実性は戦争のリスクを高めるだけだ。・・・バイデン大統領はそのことを宣言するべきである。われわれは台湾が中国から独立することを支援するのではなく、もしも台湾が中国の攻撃を受けるならばわれわれは台湾を防衛をすると」 ― ワシントンポスト紙のマックス・ブート、
台湾を防衛することによって米国は何の利益も得ないということを受けとめなければならない。「率直に言って、勝利が見込めない北京との戦争に引っ張り込まれることは米国は拒否すべきだ。そのことは前もってはっきりと告げるべきであろう。つまり、もしも台湾を武力で取り返すという何十年来の脅かしをついに中国が遂行するならば、ワシントン政府にとって許容できる選択肢は何もないであろう」 ― ガーディアン紙の防衛問題に関する上級記者、ダニエル・L・デイビス、
米国はできるだけ長い間曖昧な態度を取り続けるべきだ:
「超大国としての米国は世界規模の安全保障案件に関しては柔軟性を保っておくべきだ。台湾の国民が米国による安全保障を確保することについて明確に歓迎するかどうかは必ずしも明らかではない」 ― ナショナル・リビュー紙のテレーズ・シャヒーン、
中国が台湾を取り戻すことを放置することは米国の国益にとっては余りにも重要であり、放置しておくことはできない:
「中国の武力侵攻を目にしながら台湾を諦めることは類を見ない大失策となるであろう。・・・米国は大西洋西部に戦略的なスペースを持った国家が中国に征服されるのをただ眺めていることはできない」 ― ブルームバーグのハル・ブランズ、
中国との戦争は米国の存続を左右するような脅威となるだろう:
「台湾を巡って撃ち合いに巻き込まれることはまさにパンドラの箱を開けるようなものだ。20年間にも及んだ中東における紛争さえもが特に何も起こらない平和維持活動と比べても大差がないものとして見えて来るに違いない。ワシントン政府と北京政府との間の戦いは核戦争にまで発展するかも。特に中国共産党が核兵器の使用は屈辱的な敗退の前に立ち塞がる唯一の策であると断じるならば、まさにそのような展開が起こる可能性は高い」 ― NBCニュースのダニエル・R・デぺトリス、
米国は自由世界を独裁主義から守る義務がある:
「米国とその同盟国は過去の75年間というもの規範に則った国際システムを構築し、それを防御してきた。そうすることによって前例を見ないような平和や繁栄、そして、自由を世界的な規模で実現してきた。私は米国人が中国のような修正主義的な独裁主義国家の脇に立ち、中国が武力によって隣国を呑み尽くす様子をただ眺めているような世界になって欲しくはない」 ― フォーリンポリシーのマシュー・クレーニッヒ、
また、米国には中国が侵略することを回避させる外交力がある:
「米国の決意をはっきりと示すには、台湾のデモクラシー・サミットへの参加に対して中国がさらに武力を誇示するならばバイデンは台湾を独立国家として直ちに承認し、「ワン・チャイナ、ワン・タイワン」の政策を新たに採用することを公式に表明することになると北京政府にはっきりと告げるべきだ。北京政府には戦争の開始は即座に台湾の独立を意味することを理解させなければならない」 ―
ザ・ヒルのジョセフ・ボスコ、
台湾を防衛する最良の策は投資であって、武力行使ではない:
「中国が台湾に見せつけている脅威をさらに高めることは北京政府が自国のためにやりたいと思っていることを成し遂げてくれる。台湾の人々は自分たちが曝されている危険性をただ単に思い起こすだけではなく、自分たちの将来に自信を抱くことができる明確な理由を必要としている。もしも米国の政策決定者が台湾を支援したいと言うのであれば、武力による脅かしを超してその先へと進む必要があろう。米国・台湾の経済関係を近代化し、台湾が貿易を多様化するのを支援し、台湾が国際的な舞台において尊厳を実感し、尊敬の念を勝ち取れるような場を設けてやる必要がある」 ― NPRのボニー・グレイザーおよびライアン・ハス、
ある引用は他の引用よりも秀逸である。国民に対してワクチン接種を強制する国家はそうしない国家よりも独裁性が弱いとする捉え方は実際にはたいそう馬鹿げている。そのような国家はまさに精神錯乱または狂気に次ぐような存在であると言えよう。
しかし、この記事は実際問題としては皆が主要メディアで通常目にするものよりも反戦的な内容であることから、ヤフーは実にいい仕事をしてくれたと私は評価したい。
でも、誰もが「多分、われわれは核戦争を望んでいるのかどうかについては良く考えてみるべきだ」と言っていることを彼らはこの記事に含めている。その事実からも、この記事に欠けているのはより冷静な将来展望である。
なぜ台湾が問題なのか?
なぜわれわれはこのことばかりを議論しているのか?
メディア全体を見ても誰一人として次のことに取り組もうとはしていない:
つまり、台湾の占領が「米国の国益」に適うという考え方を具体的な言葉で解説すること。そして、 誰もその概要を明示しようとはしていないことをはっきりと言うこと。
つまり、われわれが実際に議論している状況に関しては誰も何の考えも抱いてはいないという現実にあなたは遭遇するのである。
こんなことが起こり得るのであろうか?実に曖昧な「戦略的な国益」に則って核戦争を議論していながら、国益については誰も具体的に説明することができないままでいる。
さらには、私がこのことを指摘しなければならないことは私自身は嫌うところではあるのだが、何処の国であっても状況は実に厳しい。
米国や西側の他の国々は何処も問題を数多く抱えている。問題が山積しているのだ。我々は経済や政治の分野で、そして、社会においても非常に現実的な問題を抱えているが、それについて誰も解決策を提示してはいない。地球上の反対側に位置している何とかという国家を防衛するために戦争をすることについて議論するという現状は率直に言って説明がつかない。
もしあのヤフーニュースの記事について私が200語程度のキャッチフレーズを提言することが許されるとするならば、それは下記のようなものとなる:
台湾は中国の一部であって、米国が元々台湾を占領した理由は今や何の関係性もない。台湾の国家意識という伝説の下で民主的中国といった幻想を引き続き支援することではなくて、米国は中国の再統一についての話し合いを開始すべきだ。再統一という機会を与えられることの代償として中国側は平和的な譲歩をすることに吝かではないのではないか。そうすると、これを弾みにして、国際貿易に関わる事柄も含めて、西側は中国とは無関係ないくつかの紛争の解決にも繋がって行くことであろう ― ホークスワッチのアンドリュー・アングリン。
メディアにおいてはここで話している内容は核戦争に関することであると誰かがついに喋っていることを私は嬉しく思う。この状況は2-3年前にわれわれが居た場所から見ると長い道のりとなった。あの頃、国務省はドナルド・トランプの下で初めて武力を誇示した。だが、アフガニスタンにおける屈辱の経験は人々を冷静にさせたようだ。
しかしながら、この議論は依然として現実からは大きくかけ離れており、酷い誤解を生み出しかねないような抽象的な領域に残されたままである。この事実は米国人の精神が如何に愚かなものであるかを物語っている。これらの人たちは、このコーラスを唱和する人たちは誰一人として上記の概念のどちらに関しても何を意味しているのかについては何の説明もすることがきないままでいるにもかかわらず、西側世界の人たちは一人残らず「独立した、民主的な台湾」は「米国とその同盟国にとって戦略的に重要である」とあなた方が信じ込んでくれることを願っているのである。
基本的な事実は歴史を知っている者ならば誰でもが分かっていることではあるのだが、米国のメディアにおいては誰もそのことを喋ろうとはしない。それは台湾は中国共産党政権の代替政権として設立されたという事実だ。米国の目標は台湾に「民主的な」政府を作り、それが何時の日にか中国全体を統治するようになることであった。今日に至るまで、台湾政府は中国全土を網羅する正当な政府であると公に主張して来た。これは秘密でも何でもないのだが、なぜか今やそのようには取り上げられなくなってしまった。それに代わって、「台湾」は独立国家であり、「中国」は台湾に侵攻し、征服を試みるだろうという話になっている。
台湾は国家ではなく、米国に占領された中国の一部地域であるという事実は台湾を単に中国に返還するべきだということを必ずしも意味するものではない。しかしながら、台湾を返還しなければならない、あるいは、返還すべきではないという議論をわれわれが真面目に議論するに当っては、「台湾とは何か」をもっと正確に定義することから始めなければならない。それが正確に定義されたならば、それは多くの人たちに中国人の物の見方を把握させ、中国はそんなに悪党ではないとする見方も出て来るのではないか。現状はメディアにおいては台湾を正しく定義することを、どちらかと言えば、やんわりと禁じてきた傾向にあることの所以である。
単純に台湾を中国へ返還することは倫理的にもいいことだと私は思う。しかし、地政学的な判断は必ずしも倫理的良心に根差すわけではなく、米国は現在台湾をその支配下に置いていることからもその点は理解できる。それに代わって米国は再統一のプロセスの一部として中国側の譲歩を求めるべきなのではないか。だが、幻想の世界に安住するわれわれはそのような議論を行うことができないままであり、「台湾の独立を防衛するためには中国と戦争をするべきではないか」といった提言をしている。実に馬鹿げた、不条理極まりない呼びかけである。
米国は真面目な国家ではない。国家的な検閲への執着はそれがどんな議論であってさえも真摯な態度をまったく見せることはない。現実について議論を展開する代わりに、メディアや政治的エリートは物理的な現実に対して抽象的な結びつきだけで捉えようとし、幻想を論じているだけである。
まさに「死に瀕した帝国」そのものだ。
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これで全文の仮訳が終了した。
私の第一印象では、この引用記事の著者は厳しい意見を持っている。政治的信条によって米国社会が分断され、政治的正しさが舞台の正面に据えられ、伝統的な価値観が破壊され、言論の自由が抑圧され、新型コロナの流行によって職を失ったりとさまざまな理由から不満を抱く市民が増加している昨今、米国ではそういった姿勢や意見は今まで以上に共感を呼ぶのかも知れない。どこの国もさまざまな問題を抱えているが、ここで議論されている物理的な現実とはいったいどのようなものであろうか?多種多様な問題が何層にも積み重なっているに違いないと想像する。数え上げ始めたならば、恐らく、切りがないのではないかとさえ思える。結局のところ、「台湾は国家ではなく、米国に占領された中国の一部地域である」という見解は歴史的には、多分、正しいのかも。
中国との戦争も辞さないとするえらく強気な意見が飛び交う中、米軍は、今、非常に基本的な問題を抱えているという。そのことに関してここで再確認をしておきたいと思う。「米陸軍の悲劇」と題された6月5日の記事(注2)によると、米軍は、今、下記のような窮状に陥っている:
今日現在、米軍の訓練を受けた予備役は約1400万人に達するが、そのほとんどは1990年から2010年にかけて実際に兵役を経験してきた者たちである。しかしながら、この「黄金の予備役たち」は確実に齢を重ねて、「Xデイ」が実際に起こった際には突然「期限切れ」という状況になるかも知れない(訳注:たとえば、Xデイが10年後に起こったとしたら、黄金の予備役たちの年齢は40歳から60歳となる?)。ワシントンの政策は具体的に予期することが非常に困難であって、ホワイトハウスの対ロ恐怖症や対中恐怖症に基づいた報復主義的な考え方が強まっていることからも、問題の「Xデイ」は何時やって来ても不思議ではない。陸軍の人員補充に最適な年齢層であるとして常に受け入れられて来た17歳から24歳の若者たちは、今日、彼らがもっとも重要な任務に就くことには適してはいない。ペンタゴンは男性の志願者の71%および女性の84%が軍による試験には合格しないと言う。主に三つの理由が挙げられる。肥満、高校を卒業してはいないこと、あるいは、恩赦の対象にならない刑事犯罪の履歴。他の政府組織や民間企業が直面しているのと同様に、米軍もまた最近の若者が採用基準を満たさないという社会横断的な問題に直面しているのである。
何と言うことだ!
米国では肥満が蔓延していることは良く知られている事実であるけれども、その肥満が米軍にこのような窮状を引き起こしているとは!
これもまた、まさに誰も解決策を提言できそうにもない「さまざまな問題」のひとつであろうかと思う。
ところで、米国の現状について米国民は、今、どんな受け止め方をしているのであろうか?米国人と具体的に話をしたわけではないけれども、多くの一般庶民は、恐らく、毎日の生活に追われており、この引用記事に書かれている内容については何の関心もないのかも知れない。米中間で核戦争が起こるかも知れないという可能性に関して大多数が何らかの関心を抱いているならば、それは遅かれ早かれ社会的な動きとなって表面化して来る筈であると私は思うからだ。常識的に言って、核戦争は誰にとっても受け入れられない。
不幸なことには、台湾を巡る米国の対中戦争は米軍基地を抱えている日本にとってもまさに死活問題である。米中戦争の可能性から目を離せなくなってきた。
参照:
注1:Yahoo!
News Informs the Stupid Peasants Why the US Needs to Go to War to Protect
Taiwan: By Andrew Anglin, Oct/14/2021
注2:The Tragedy of the US Army: By Vladimir Danilov, NEO,
Jun/05/2021
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